「ようこそ、アリア。紅茶はいかがかね」
「ああ、お招きありがとう。邪魔するぞ、アルバス」
土曜日のお昼前、階段を上ったアリアは勧められた通りに校長室のソファに腰かけた。
「しかしな、仮にも校長室の合言葉が“フィフィフィズビー”はどうなんだ」
ダンブルドアは笑った。
「おかしいかね?儂の好物じゃ」
「まあ、それなら止めはしないが……」
アリアは肩をすくめ、カバンから黄土色の表紙の冊子を取り出した。
「一週間分の報告書だ。ハッフルパフに入ったが故にアルバスのお気に入りの生徒とはお近づきになれないから、読みごたえはないと思うがな」
「アリア、儂は君に仕事をしに来てほしいわけではないのだ。もちろん儂の手助けをしてほしいとは思うが、それは十分に経験を積んでからじゃ……」
アリアは煩わしげに何かを追い払うような仕草をした。
「“経験”ならここの教授たちよりもあるだろうさ」
「君に加点できないことを多くの先生方が嘆いておったよ」
教授たちにアリアの素性を話せる訳ではないが、下手をすればダンブルドアと同年代(アリアは頑なに正確な年齢は言おうとしない)である。勉学面で優れているのは当然で、ダンブルドアはアリアを“秘蔵っ子”として入学させ、できるだけ授業内での加点はしないように指示していた。
「しかしじゃ、アリア」
いつの間にかダンブルドアはアリアの正面に座っている。そのきらきらとしたブルーの目に吸い込まれそうな感覚を覚える。
「儂の言う“経験”とはそういうことではないのだ……儂は君に若い魔法使いとしての経験、人と人とのつながりでしか得られない経験をしてほしいのじゃ」
「私がもう何年この姿でいると思っている」
「そういうことではない。君にこの魔法界で大切なもの……有り体に言えば愛を見つけてほしいのじゃ」
ダンブルドアのこの言葉にアリアは目をむいて、紅茶で噎せた。
「ばっ……げほっ、この私に一世紀年下の子と恋愛しろというのか!?別に恋をしたことが……ないわけではないが……」
顔を真っ赤にし、段々と小さくなる声でアリアは反論する。ダンブルドアはにっこりと微笑んだ。
「確かに11歳の子供に愛と言えば恋愛を思い浮かべるかもしれんが、そういうことではないよ。それに気づくことができるよう、ホグワーツで学んでほしいというのじゃ」
アリアはなんだかからかわれたような気がしてむくれたが、その仕草も子供らしく見えることには気づいていないようだった。
校長室を出たアリアは、連れ立って歩くハリーとロンにバッタリと出くわした。
「なあ、二人とも……愛とは何だろう」
軽いあいさつの後、突然安っぽいメロドラマのようなセリフを吐いたアリアに二人は驚いた。しどろもどろにロンが答える。
「アー……うちのママはお昼にやってるドラマとか、大好きだよ。ジニーはナントカっていう恋愛小説が大好きだし……図書館にもあるんじゃないかな、ウン……」
「ふむ。やはり恋愛のことだよな。そういえば、図書館に行ってみたことがなかった……」
アリアはブツブツと独り言をつぶやき、二人に礼を言って図書館の方へ駆けて行った。
「アリアったら、どうしちゃったんだろう」
ハリーがつぶやくと、ロンは肩をすくめた。
「さぁな。授業がきつくて現実逃避でもしたくなっちゃったんじゃないか」
ハリーもこの線が濃いことに同意した。それから二人はアリアのおかしな現実逃避よりも、どうやったらこっそりとマルフォイに教科書で読んだ“足縛りの呪文”をかけられるかを話すのに夢中になった。
一方、校長室に残ったアルバスは紅茶を淹れ直し、ため息をついた。
結局、あの少女がどこからやってきたのか全く手がかりはなかった。ニコラス・フラメルも彼女の生まれは知らないの一点張りだったし、なぜ弟子として受け入れることにしたのかも終ぞ教えてくれなかった。
ホグワーツに入学してからもしばらく動向を注視しているが、特に不審な動きもない。
彼女はどこの誰で、一体どこから来たのか。
そしてアルバスに協力する姿勢を取るのはなぜか。
疑問は尽きることがなかった。
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