「アリアおねーちゃん!!おかえりなさい!!」
「久しいな、キャサリン」
「アリアがいない間に何があったと思う!?ジャスパーの里親が決まったの!!」
「そうだったのか、ではジャスパーに挨拶しないとな。間に合ってよかった」
孤児院に帰ってきた途端、アリアは子供たちに取り囲まれる。子供たちは我先にと、アリアがホグワーツに行っている間の空白の時間を埋めるかのようにアリアに話しかけていた。
「学校はどう?アリア」
そう優しく問いかけてきたのは施設長のミセス・リードだ。
「楽しくやっている」
「そう、良くしてくれる方がいてよかったわ。えーっと……ダンブリー……ドームさん?」
「ダンブルドア校長」
「そうそう、その人」
ミセス・リードは安心したように笑い、数日後に迫ったクリスマスの準備をするために首をかしげながら出て行った。
「変ねぇ……私、人の名前を覚えるのは得意だったのに」
いうまでもなく記憶操作の魔法の影響である。アリアはその背中を少し見つめた後、ちびっ子を振り切って自分がかつて使っていた部屋へ入っていった。
アルカー孤児院でのクリスマスはいつにも増してにぎやかだった。アリアが久しぶりに帰ってきているし、もうすぐ里子として旅立つジャスパーの孤児院での最後のクリスマスである。
アリアは当日の朝、魔法界から届くクリスマスプレゼントを何とか子供たちから隠し通した。一度だけ、アルバスから送られてきた「魔法薬全集」の表紙の魔女が鍋をかき混ぜているのをミセス・リードに気づかれそうになったが、何とか「疲れているんだよ」で押し通した。
その日の夕食後、アリアは荷造りを始めた。目ざとく6歳のキャサリンがアリアにすがる。
「アリア、いつ出発するの??ずっとここにいてよ」
「すまないな、キャス。明日出発しなければならないんだ」
二人の会話を聞きつけた子供たちがアリアを取り囲んだ。口々にアリアを引き留める。ミセス・リードがとりなすまで、皆はベッドに行こうとしなかった。
皆が騒ぎ疲れてベッドに入る頃、アリアは12歳の少年の部屋を訪ねた。ジャスパーというその少年は、1月に養子としてエディンバラに行くことが決まっている。部屋に入ってきたアリアを、少年はじっと見つめた。
「明日出ていくの?学校が始まるのはまだ先でしょう?」
「少し用事があってな」
アリアはまるで愛息子を見るかのような慈愛に満ちた目でジャスパーを見つめた。彼はアリアより先に孤児院に入っていた子供の最後の一人だった。
「ジャスパー、ここは好きか?」
「うん。正直に言うとさ、エディンバラでうまくやっていけるか不安なんだ。そりゃ新しい両親は優しそうだったけど、新しい学校にだって行かなくちゃならないし……」
ジャスパーは声を詰まらせる。
「そうか……私は明日ここを発つが、遠く離れていても君の健康と幸せを願っていることを忘れないでくれ」
「うん、ありがとうアリア。……あのさ、俺」
ジャスパーが思い切ったようにアリアに呼びかけた次の瞬間、アリアはジャスパーに杖を突き付けていた。無言呪文が正しく発動し、ジャスパーはとろんとした瞳になる。
「ジャスパー、君は2年前にアルカー孤児院に来たアリアのことしか知らない」
錯乱状態のジャスパーに一字一句はっきりと告げた。
「二年前に……ここに……そうだ、初めて来たときから君はそんな顔をしていて……二年前に……一目ぼれしたんだ」
アリアは泣き出しそうな顔をジャスパーから隠し、就寝のあいさつをして部屋から出て行った。そして翌朝早く孤児院を発った。ジャスパーとアリアが会うことはもう二度となかった。
新学期の始まる一日前にホグワーツに戻ると、待ちきれなかったかのようにハンナが抱き着いてきた。
「アリア!プレゼントありがとう。私にしか見えない日記帳!可愛いし最高だわ。ふくろう便をあまり遅れなかったのが残念。あれ、あなた身長伸びたんじゃない?」
一気にまくしたてるが、アリアはどこか上の空だった。しかし、ハンナが夕食に行くわよ!というと、すぐに荷解きを終わらせて大広間へ向かっていった。
それ以降、アリアは図書館にいてもぼーっとすることが増えた。周りはいぶかしんだが、次のクィディッチ戦の日程が公示されると同級生の機嫌などすぐにどうでもよくなった。
次の試合は現在2位のグリフィンドールとの対戦で、勝てば優勝か準優勝は確定、負ければ最下位もありうるという大一番だ。ハッフルパフはその団結力でクィディッチ選手を全力でサポートしていた。
当然、アリアもそれに駆り出され、放課後は眠い目をこすりながら図書館に向かうこともしばしばだった。
寝不足が続けば、ケアレスミスが生じるのも当然だろう。
『魔法薬学』の授業の直前、アリアは羽ペンを図書館に置いてきたことに気が付いた。授業の合間に急いで図書館に取りに行くと、ちょうどハリーが図書館から出てくるところだった。
「アリア!君に聞きたいことがあったんだけど、君ったらいつもハッフルパフ生と一緒にいるんだもの」
確かにグリフィンドールのシーカーのハリーが次の対戦相手のハッフルパフの生徒が沢山周りにいるアリアには話しかけられないだろう。
「どうした?」
羽ペンを鞄にしまいながら聞くと、ハリーはゆっくりと口を開いた。
「えっと……僕、アリアがとっても物知りだって聞いて……それで、ニコラス・フラメルって人を知らないか聞きたいんだ……アリア?」
手が止まったアリアをハリーが不思議そうに伺う。そしてその表情に息をのんだ。
「ハリー……なぜそれを私に聞く?」
初めて見たときは人形のように美しい女の子だと思った。話してみると表情は豊かで、今度は妖精のようだと思った。
しかし今目の前にいる女の子のその剣呑な表情は11歳の子が見せていいものではなくて、ハリーは背中を汗がつたうのを感じた。
「どうしてって……だから君が図書館の本にも詳しいって聞くから」
アリアはゆっくりと表情を和らげる。
「そうか……その話はまた今度でもいいかな。次は『魔法薬学』でね」
スネイプ教授の恐ろしさを知っているハリーはもちろんそれを受け入れ、今度の木曜日の放課後に図書館で待ち合わせることを約束してその場を離れた。アリアが怖がっているように見えたのはそのせいだと自分に言い聞かせながら。
アリアはこうして何度も錯乱呪文や忘却呪文を駆使してきました。今回でそれも最後でした。