ふゆがきた。   作:特遅やくも

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紅魔館に、

人里にて真しやかに語られるその噂は、

 

曰く、かの館には、人の血肉を喰らう悪鬼が住まう。

曰く、かの館は、外観だけでなく内壁までもが鮮血を塗したような紅に染まる。

曰く、かの館の歩廊には、串刺し公の居城の名に違わず槍で貫かれた獲物達の生首が並んで祀り上げられている。

 

実際に来て見れば、成程、人の風評等というものの如何に頼りにならないのかがよく判る。塵屑一つ無い石造りの床の上、几帳面に整えたレッドカーペットの走る廊下は確かに仰々しくはあるがそれだけで、囁かれる処の悪趣味な紅の主張は外の屋根程にまでは見られない。普通より割増豪華な洋装建築と特段変わらないだろう、そもそも洋築自体此処では大層稀な代物ではあるが。

否、一つ、一般家屋にどうにも通じない点があるとするなら、其処には窓が無かった。視覚の助けとなるのは天井に下がる洋灯のみ、館の主が吸血鬼であるから、これも当然と言えば当然だろう。見通しは悪くない、風情が有って心地が良いくらいだ。

 

しかし、今現在この荘厳な廊下に立ち込める局所的な大寒波は、遮られた陽光と潜り込む外気のみの所業にはとても思われず。

屋敷の当主、レミリア・スカーレットは、廊下のど真ん中に泰然と佇むそれを、苦虫噛み潰す様相で見つめていた。

 

 

 

紅魔館に、冬が来た。

 

 

 

「そういう訳で、今日はこちらのお屋敷にお邪魔しております」

「可及的速やかにお帰り頂けないかな」

朗らかな笑みを作り、腹立たしい程緩慢な口調でそう言ってくれる迷惑極まりない台風の目。ちらと館内に見掛けない後ろ姿を目にしたと思い、捕まえてみればこれだ。表情と言葉に誤魔化し切れない辟易の念はきっと傍からも同情に足るものだろうと、永遠に紅い幼き月は自分事ながらにそう感じた。

 

「大体、なんでウチなんだ。そういう面白可笑しい戯れの付き合いは巫女のお得意とする処じゃないのか」

「いえ、其方にはもう伺いましたので」

「命知らずだな君も」

吸血鬼の台詞は全く的を射ている。巫女が弾幕遊戯に於ける最高峰とするなら、手心無しの殺し合いにてレミリア・スカーレットの右に並べる者は両手に数えられるかすらも怪しい。何せかの八雲紫ですら、彼女という外敵勢力を削ぎ切る事が敵わなかったのだから。

その目の前で、挙げ句取って付けた敬語で以て神経を的確に逆撫で出来る肝っ玉の持ち主。並外れた実力者か、或いは馬鹿のどちらかだろう。その判断を未だにレミリアは下しかねている。

 

「うぅ、さむ……へくちっ」

「あら可愛い」

「黙れ壁ごと吹き飛ばすぞ」

平時の館内の気温は、主に地下で養成されている自律機動型もやしの意向により移ろう四季の中でも一定に保たれている。故に、寒さに耐性の薄い吸血鬼は酷寒の中それでも気丈に振る舞っていたが、流石にボロが出始めていた。啜る洟が流れ落ちる前に、一刻も早く決着を付けねばなるまい。

先ずは、視界からこの忌々しい存在を消し去る処からだ。だが向かいの力量が測れぬ以上、力に訴えるのはクレバーじゃない。やろうと思えばゴリ押しも可能だろうが、それは彼女自身の流儀に反する。見栄と誇りの面倒な種族なのだ、吸血鬼は。

頼みのメイド長は買い出しで不在、妖精メイドは挙って暖炉の前に丸くなっている。手を施せるのは己だけ。如何に体よく、この妖怪を眼前から追い払うか。冷気に研がれた思考で吸血鬼は算段を捏ね繰り回した。

 

「そんな事言わずにー。もうちょっとだけ此処を見て回らせてよ。こういう建物、あんまり見掛けないから新鮮で。ほら、なんでしたら何かしら雑用でも致しましょうか」

「君みたいな通りすがりに頼らんでも既に手は二つで足りて……ふむ?」

神社での一件で味を占めたらしい冬の妖怪の提案を素気無く蹴ろうとした吸血鬼だったが、そこで一旦、言葉を止めた。

 

「……そうだな。雑用とは違うかも知らんが、ウチには妹が一人居てね」

「ほうほう、妹さん」

「訳有って幼少の頃からつい最近まで、まあ、引き篭っていたんだが、そのせいかどうも世俗に疎い」

「箱入りムスメってやつですね」

逐一茶々を入れてくる冬の妖怪に覚える苛立ちを潜めながら、淡々と吸血鬼は続ける。

 

「特に妹は冬場は外に出たがらないから、世間の冬の何たるかというのをよく知らない。そこでだ」

「はい」

「ここまで言えば分かるだろうが、君は冬の力を源流に汲む妖怪と聞いた。地下に居る妹を連れ出して、冬の娯楽だ、恐怖だとか、そう言ったものを手取り足取り教えてやってはくれないものかね」

言い切ってから、我ながら妙案を思い付いたものだと吸血鬼は内心でほくそ笑んだ。まず彼女は認識を力とする妖怪である以上、この都合の良い話をむざむざ断る事はすまい。

西欧仕様の石造の本館と違い、地下の空気は殆ど密閉されている。其処に送り込んだ時点で一先ずの我が身の安寧は約束されたも同然。地下には前述した脆弱なもやしが生育しておりその健康は心配されるが、何、七曜の魔女が凍死なぞ情けない死に様を晒すはずが無いのだから寧ろ時たまの良い薬だろう。

そして、妹だ。冬の妖怪が上手くやって目論見通りその知見を広められればそれで結構、仮に奴が気に障る事を宣ってその四肢を爆発四散させた処で吸血鬼には何ら関わりない話である。異常気象の黒幕が勝手にとっちめられるだけだ。労せず当面の目的は果たせ、更にその末路が如何様に転ぼうと好都合。

台詞の内容を暫時鑑みていた冬の妖怪も、

 

「なーんだ、そんな事なら御安い御用よ。どんと任せておいて~」

なんて間抜けに柔和な顔を更に綻ばせている。やはり運命は我が掌上に在り、吸血鬼の浮かべた不敵な笑みの正体を知る由も無く。

 

 

近場に居たのを引っ張り出した妖精メイドを付き添いに携え、軽やかな歩様で去っていく冬の妖怪。

当のメイドには心底恨めしげな面をされたが、主を放って我先に暖を取りに行く不忠者に文句を言われる筋合いは無い。

 

「__それにしても」

かのような存在に、館の敷地を易々と踏ませてしまうとは。

あの門番の怠慢ぶりは今に始まった事では無いが、こうなってはそろそろ減給も検討した方が良いかも知れない。

 

嵐過ぎた静寂の中、吸血鬼の溜め息は妙に深く反響した。

 

 

 

一変湿っぽくなった空気の中、不明瞭な視界を模索するように一段、一段と降る。

案内役のメイドは地下へと続くというこの階段を前にした時点でそそくさと逃げ去ってしまった。暗い所がダメなんだろうか。そう推して再確認する、この暗黒の中に、足音独り。

人並みに何となく物寂しさを覚え、冬の妖怪は鼻唄を口遊みつつ進む。四方の壁に何重にも跳ね返って、少し楽しかった。

 

そうして暫く、眼前を遮ったのは一際物騒な壁、否、扉だった。暗がりに分かり難かったが所々に意匠が施され、巨大さも相俟ってその佇まいから非常に重々しい。その先に閉じ込めているだろうものに、流石の冬の妖怪も思わず尻込みさせられた。開けるにも一苦労しそうである。

しかし握りに手を掛けると、扉は存外あっさりと異物を迎え入れた。拍子抜けして微妙につんのめる冬の妖怪。何とも不自然な感触、恐らく度々強引に開け放つなりしたせいで蝶番が弱っていたのだろう。此処の住人は随分と乱暴らしい。

 

 

体勢を直した冬の妖怪が見上げた先は、本館とも、先程の空間とも、明らかに趣を違えていた。

 

まず、広い。兎に角広い。通路が気持ち窮屈だった分殊更に広大に思える。天井なぞは遥かに上、落差に目眩すらしてくる程だ。何をすれば館の地下にかような施設を造れるのか。建築に造詣の無い冬の妖怪にはとんと検討が付かぬ。

しかしそこは地中、特有の湿気と生暖かさは中々誤魔化せない様である。人、例えば年中引き篭り読書と研究ばかりに没頭しロクに運動もしないもやしであればこれ位が寧ろ丁度良いのかも分からないが、少なくとも冬の妖怪にとっては居心地の悪い事この上無いらしく僅かに表情を歪めていた。彼女が立ち入った瞬間にその暖気はがらりと塗り替えられてしまったが。

 

及び腰で数歩歩み入った冬の妖怪は、重ねて圧倒される事になる。見渡せば、天井程で無いにしろ人の身長の及ぼう訳も無い巨大な棚を隙間無く埋め尽くす本、本、本本本本、本。本の虫なる種が実在するのなら定めし此処はその巣窟と化すだろう。この冊数を集めるのにお幾ら掛けたのだろうと、冬の妖怪の抱いた感心は何処かずれていた。

 

「…………ん?」

さながら迷路染みた本棚の群れの中を気圧されるまま彷徨っていると、小さな気配が肌を掠めた。

冬の妖怪が横を窺えば、一際広がったスペース、中心に置かれたご立派なマーブルの机の脇に人が崩れている。寝間着のような被服に、奇怪な帽子。積まれていたらしい本が周囲に散乱しており何とも物々しげだ。それを助け起こそうとする柘榴の髪の少女が悪魔かその類らしい事は、能天気な冬の妖怪でも流石に察せられた。

何事かは知らないが、多分どちらかが妹さんとやらだろう。勝手に合点した冬の妖怪が、暢気に二人に近寄る

 

「日符『ロイヤルフレ』__ッッ!」

「わひゃあ!?」

直前、唐突に唱えられた詞に不格好な形で飛び退いた。強かに尻を打った冬の妖怪だったがしかし、覚悟した攻撃は襲来せず。奇妙に思い目をやると、当の寝間着の少女__件のもやしである__が頻りに咳き込み縮込まっていた。

 

「あのー、大丈夫ですか」

「これが……だいッ、じょうぶに……見え……げほっうぇっ」

傍でおろおろするばかりで頼りになりそうも無い柘榴髪を無視して当人に尋ねたが、此方は此方でまともな受け答えは期待出来ないらしかった。冬の妖怪は中腰のまま立ち往生する。

 

「がはっ……こんなのを此処まで侵入させるなんて、門番はともかくメイドは何を……それにしたってレミィが気付かない、訳が……まさか、私に嫌がらせする気で……?」

「…………」

この地獄の瀬戸際に在る様な顔しながら良く回る口の持ち主には、七曜の魔女等という大層な二つ名が付いている。実際その本領は通り名に偽らざる域で、幻想郷に於ける属性魔術の権威と言っても良い。加えて、世界の遍く叡知の結集すると言うこの図書館の蔵書を読み明かす彼女に比肩し得る魔法使いともなれば、魔界に住まう様な文字通り別次元の存在を持ち出す事になるだろう。

しかし、その割に彼女は、楽園はおろかこの館に限ってもあまり実力者としての名は響いていない。それは年がら年中地中に篭ってばかりの出不精だから、というのみに非ず。と言っても理由は単純で、彼女は先天性の持病を抱えている為、どうしても全力を出す事が出来ないのである。それ故か肉体的にも非常に貧弱であり、魔法無しでは人の子供に殴り勝てるかすら怪しい。

そして、そんな虚弱なもやしは急激な住処の気候変動に耐え切れず、現在絶滅寸前という訳である。

 

「くっ……ここまでか……小悪魔、本の片付けは任せた……わ……」

妙に歌劇チックな断末魔と共に倒れ伏すもやし、しかし小悪魔とかいうのは律儀にも散らばり落ちる本を掻き集めて何処かへ走り去ってしまった。突拍子が無くとも彼女の命令である以上は絶対服従という事なのだろうか。何からツッコんで良いか理解しかね、冬の妖怪は呆れ果て閉口する。

結局、どちらが妹なのか聞きそびれた。使役されている様だし小悪魔とやらは違う気がする、じゃあこの紫か。しかしそれも何か違和感が……等と冬の妖怪が勘案していた矢先である。

 

「パチェー、何かすっごい寒いんだけど。また何かの魔法実験?」

 

本棚の陰から覗いたその姿を見た時、冬の妖怪は彼女が妹だと朧気に悟った。

根拠は無い、髪色から羽根の形状も姉とは欠片程似ないし、立ち振舞も圧や貫禄というものが感じられない。けれど、もやしは違う、小悪魔も違うとなれば、消去法的に彼女がそれだと言われた方が納得出来た。そう思えばその真紅の双眸や見目の乳臭さ、謎の帽子等似通う部分もちらほらと見受けられる。

 

「……あなた誰?」

と、流石の箱入り娘もこの場の異常な空気の発生源に気付いたらしい、怪訝な目を冬の妖怪にくれてきた。

 

「通りすがりの冬の妖怪です。妹様に冬のいろはを教えてやってほしい、とご主人に仰せつかり参上致しましたわ」

隠し立てする事も無かった冬の妖怪は態度をこれでもかと取り繕いつつ一礼する。悪魔の妹はそれを面白味も無さげに眺めてから、

 

「臨時のメイドってこと?」

「え?あぁ、まあ……」

等と自分で聞いておきながら「ふぅん」とつまらない相槌を打った。その視線はいつの間にか、冬の妖怪の後ろでくたばっているもやしへと向いている。

その意図を露と知らず、首を傾げていた冬の妖怪は、次の瞬間、凍り付いた。

 

「じゃあ、一緒に遊ばない?」

 

発言の微笑ましさとその語調が、まるで釣り合っていなかった。

気付けばその血塗れの瞳は、狂気を孕み爛々と蠢いている。

冬の妖怪は直感した。

あれは、捕食者の眼だ。

吸血鬼の妹に間違いは無かった。

 

「えぇー、と、何で」

「弾幕ごっこ」

さも当然とばかりに言ってくる妹の背には、明らかに殺気が立ち昇っている。大いに身の危険を感じ後退る冬の妖怪だったが、逃がさぬとばかりに足裏を何かに阻まれ泣き喚きそうになった。実際それはのびていたもやしだったのだが、それを確認する余裕は今の冬の妖怪には無い。

 

「なんで逃げるの?ねぇ」

「ちょ、待って、ストップ!弾幕ごっこは良い、良いけど、折角だしどうせなら冬らしい弾幕ごっこをしましょ!」

迫る足音がふと止まる。破れかぶれに足掻く冬の妖怪の叫びは、辛うじて眼前の彼女の耳朶を打つ事を叶えたようだ。されど細められた瞳からは、興味というより疑念が一際見て取れる。降って湧いた危機は未だ、過ぎ去るには至らないらしい。

 

「冬らしいって、何さ。弾幕に季節も何もあったもんじゃないでしょ」

全くだ。冬の妖怪は首肯しそうになった。

だがそれをすれば紛う事無く一巻の終わり、そんな予感が脳裏にひしひしと伝えてくる。出任せにしても延命の為、ハッタリでも何でも押し通さなければならない。賽はとうに投げられている。

 

「ええーと、ちょっと語弊があったって言うか。弾幕ごっこに似てるんだけど、でも弾幕は使わないみたいな」

「じゃあ結局弾幕ごっこじゃないんじゃないの」

「や、いや、や!でもこれだって楽しいんだよ!?何より物が壊れないし、服も破れない。当然怪我だってしない、正に安心安全杏仁豆腐」

「えー何それ、つまんなそう。そんなのどうだって良いから、さっさと始めましょうよ」

冬の妖怪の熱弁空しく、既に悪魔の妹は炎剣と思しき得物を抜き放っていた。まともに一太刀貰えば火傷じゃ済むまい、熱気に当てられているはずが背筋を寒気がどろりと這う。

 

「嬉しいわー、最近ちょっと鈍り気味だから。パチェを倒せるんなら退屈もさせないでくれるんでしょう?」

盛大な勘違いをなされながら見得を切る彼方に対し、言い訳どころか涙さえ、乾いた笑いしか出ない冬の妖怪。

年貢の納め時か。問答無用とばかりに終幕の火蓋を切ろうとする悪魔に、最早為せる術は無し。諦念剰って意識が何処かへと失せてゆく。

 

__否、もう宜しい。

向こうが聞く耳を持たぬなら、此方とて強引に行かせて貰おう___!

 

我に返っては覚悟一閃、手中に素早く妖力を展開し始める冬の妖怪に、悪魔の妹の口角は二度裂ける。狼狽えるな、勝負は刹那。押し寄せる得も言われぬ恐怖を噛み潰しながら、冬の妖怪は現出したそれを、

彼の者の顔面に力一杯投げ込んだ。

 

「えい」

「きゃっ!」

飛来する見慣れない物質に暫時当惑したその間隙を突かれた悪魔の妹は、モロにそれを喰らい、ぼしゅと芯の無い音と共にのけ反った。

起こした表情の程は窺い知れない。そこには、綿の様な白がぶち撒けられていたから。これで一層ヘソを曲げられたなら、いよいよ以て冬の妖怪の命は無いだろう。

 

 

「……何これ!冷たい!」

 

そう固唾を飲んで身構えていた為に、零れ落ちた白から覗いた無邪気な貌を認めた途端、冬の妖怪は酷く安堵し温い息を吐いたのだった。

 

 

 

「……しかしこれは、驚いたな」

即席のガーデン(屋内だが)テーブル、紅茶を片手にそう呟く吸血鬼の眼に写るは、深々と降り落ちる雪。

そしてその中を年甲斐も無く騒ぎ倒しながら駆けずり回る二人の少女の姿であった。

この趣有る広間に降り頻る白雪はそう見られる者は無いだろう幻想的な光景だったが、地に着いた雪は不都合を生む以上に積もる事なくその分は瞬きしない内に消滅していた。冬の妖怪の能力は何かと小回りが利くらしい、雪掻きの手間は省けそうだ。

 

「一体何を吹き込んだのでしょうね、あの妖怪は」

「それもあるけど……何より、フランのあんな姿を見られるとは思わなくてね」

横に侍っていたメイドは、遮蔽物に隠れ猛攻をやり過ごす妹の頭に放物線を描いてきた雪玉が直撃するのを見てから、成程と薄く笑った。

 

「お嬢様も混ざられては如何です?」

心做しか楽しげな主人の顔を暫し眺めていたメイドの唐突な提案に、吸血鬼はセカンドフラッシュをおべべに勢い良く噴出した。

しかし次瞬には染みさえ残さず拭い取られる。瀟洒なメイドの名は伊達ではない、それなら先ず主に恥を掻かせるなと吸血鬼は吐き出したくなったが。

 

「……いきなり何を言うんだ、第一歳を考えろ歳を」

「妹様と然して変わりませんでしょう?折角ですしお二人で楽しんで来られては。それに、歳だのは関わりありませんわ。季節というのは何物にも等しく訪れ、過ぎ行くものですから」

下らない冗談を口にするメイドを流し目に睨んでいた吸血鬼がしかし続く台詞を咀嚼すると、次に成程と漏らしたのは此方だった。仕様が無いと重い腰を、満更でも無さげに持ち上げる。

 

そうして、冬の妖怪の横っ面に新手の雪玉が鋭く突き刺さった。

奇襲に動転しながらも間を空けて反撃を謀るその背中を、別の雪玉が襲い掛かる。

 

疎らな白銀を背景に、幼子の如き少女が三人。

 

 

「…………図書館で暴れないで……本が濡れる……」

 

死に体のもやしの掠れた文句等、拾う者が在るはずも無く。




一応剛欲異聞より前の話になりますかね
プレイアブルの面子からして魅力的で興味だけはあります

間もなく3月ですね、リリーは未だ飛びそうにもありませんが
それで、冬の話を春になってだらだら続けるのもどうかと思うので、次話以降は来冬に持ち越そうかなと
形としては無期限休止になります。その間に別の作品と平行して何話か書き溜めておき、たいなぁ
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