仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、初めましての人は初めまして。黒井福です。

お待ちいただいていた方はお待たせしました。新作の仮面ライダーになります。

本作は前作「仮面ライダーデイナ」の続編にあたる為、そちらで出た用語や人物が出てきますが読んでいなくても楽しめる様にはするつもりです。


第1話:コール、ゲームの始まり

 海都……それは日本が主導で開発した完全海上都市。太平洋上に建設され、海上部分には商業施設や住居、学校などが存在し、生まれてから死ぬまでの生涯をここで過ごす事が出来るように、を目標に造られた都市であった。

 特色としては、外貨獲得を目的としてレジャー施設は勿論、日本で唯一認められた国営のカジノが存在する点だろう。その様子から海外からは「日本のラスベガス」と言う通称で呼ばれていた。

 

 そんな海都だが、海上部分はともかく海中部分は未だ建設途中である。海中には水力発電施設の他海水ろ過施設などがあるが、海中で最大の規模を誇ると言われているのは海洋研究施設だ。

 海都は増加した人口の新たなフロンティアとしての面の他に、大規模な海洋研究施設としての側面も持つのだ。

 

 ただその研究施設に関しては完成度が7割と言ったところで、稼働している部分もあるがまだ建設途中の部分はあった。故に、海中では今日も専用の作業ポッドに乗った作業員たちが建設作業に勤しんでいた。

 

 無数の海中作業用ポッドが建設作業をしている。現場監視をする人間がコーヒー片手に、その様子を施設内のモニタールームから見ていた。

 

 その彼の目に、異変が映った。突然レーダーからポッドの反応が一つ消えたのだ。一瞬見間違いかと思ったが、確認すると作業ポッドの一つの反応がロストしていた。

 

「緊急事態だ。6番機の反応が突然ロストした。何かトラブルがあったのかもしれない。最寄りの4番機、ちょっと見に行ってくれ」

『了解』

 

 モニタールームからの要請に従い、指定されたポッドが反応のロストした6番機の居たポイントに向かう。

 

 その様子を監視員がモニターで見つめていると、今度は別のポイントのポッドの反応が消失した。いや、それだけではない。それを皮切りにしたかのように次々と作業ポッドの反応が消えて行ったのだ。

 

「な、何が――!?」

 

 突然の出来事に監視員が絶句していると、作業ポッドから通信が入った。

 

『助けて! 助けてくれ!?』

「どうした? 何があったんだ?」

『怪物!? 怪物が襲ってきて、わぁぁっ!?』

 

 悲鳴を最後に通信が切れた。その間もポッドは反応が消失し、レーダー上では逃げ惑うようにポッドが動き回っているのが見て取れる。それらも次々と反応が消えていき、残るは一機だけとなった。

 

『嫌だ、嫌だ!? 来るな来るな来るなぁぁぁぁぁっ!?』

 

 海上に逃げようというのか急速浮上していたその機も、結局はその怪物とやらに追いつかれたのか反応が消えた。作業ポッドが全滅したことに、監視員は暫し唖然としていたが我に返ると慌てて上の都市開発庁舎に連絡を取った。

 

「庁舎、庁舎! 緊急事態だ! 海中で作業ポッドが何かに襲われたらしい。作業ポッドが全滅した!」

『何かとはなんだ?』

「分からない。だが現場からは怪物と言う言葉が出たから、事故の類ではない可能性が高い。至急調査を……」

 

 そこで彼は気付いた。部屋の中が変に磯臭い。

 

 恐る恐る後ろを振り向くと、そこには人型ではあるが明らかに人ではない異形がドアの前に立っていた。全身鱗に覆われ、魚の様な顔には鋭い牙が生えている。

 

「ッ!?」

『どうした? 応答しろ、おい!』

 

 通信機の向こうからの声に答える余裕もなく、彼はせめてもの抵抗に護身用の警棒に手を伸ばした。

 

 それと同時に怪人が彼に襲い掛かる。

 

 次の瞬間、モニターは夥しい血飛沫で赤く染まった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 とっぷり日が沈み、月が頼りない光で照らす太平洋の海の上。

 

 そこに一隻のゴムボートが浮いていた。ゴムボートの上には一組の男女。だが彼らは別に遭難した訳ではない。彼らの近くにはここに来るまで乗って来たプレジャーボートがあり、ゴムボートが流されないように紐で繋がれている。

 更に遠くを見れば、太平洋のど真ん中に近いというのに街の明かりが見える。

 あの明かりの正体は、世界初の完全海上都市・海都。巨大な海上浮遊物の上に都市を造り、多くの人が生活するメガフロート。そして日本で唯一国営での賭博が認められた、通称日本のラスベガス。

 

 彼らはあそこから、夜の海を満喫する為プレジャーボートに乗って海へ出たのだ。

 

 月と持ち込んだ小さなライトの明かりだけで過ごす、ロマンチックな空間を楽しむ2人。

 

 そんな2人に、海の中から近付くものがあった。それは海中から音もなく近づき、下からゴムボートを勢いよく突いてひっくり返した。

 

「うわぁっ!?」

「きゃぁぁっ!?」

 

 突然の事に訳も分からず暗い海に投げ出される2人。海に落ちる瞬間、男は何が自分達を海に叩き落したのかを一瞬だが見てしまった。

 

 鮫だ。大きな鮫が、一瞬2人の傍を泳ぎ去っていくのが見えた。

 

「船に戻れ!?」

 

 男は船に取り付けられたライトを頼りに乗って来た方の船に戻っていく。女の方も混乱しながらもそれに続こうとするが、混乱のあまり溺れないようにするだけで精一杯で思うように前に進まない。

 

 鮫はそんな女の方に狙いを定めた。海中を悠然と泳ぎながら女の周りを泳ぎ、口を開きながら一気に近付いていき――――

 

 寸でのところで、女と鮫の間に別の女性が割り込んできた。女性は女に襲い掛かろうとする鮫の鼻先に手を当てると、そのまま腕を固定して自分と鮫の距離が近付かないようにした。これで鮫は相手に食らいつくことが出来ない。

 

 突然の乱入者に鼻を押さえられ、鮫は進路を変え女から離れていく。その間も女性は鮫の鼻を押さえ続けていた。

 

 ある程度女から離れた所で、女性は鮫の鼻から手を放し自由にする。

 だがそれで鮫が諦める筈もない。寧ろ狩りの邪魔をしてくれた女性を喰らってやろうと狙いを変え女性に襲い掛かろうとした。

 

 それを女性は再び鼻を押さえる事で防ぐと、今度は鮫に押されながらその鼻先を殴った。すると鮫は突然戦意を削がれたように女性から離れると、明後日の方へと向けて泳ぎ去って行ってしまった。

 実は鮫の鼻先にはロレンチーニ器官と言う感覚器官があり、これで獲物を探すのだがこの部分にはゼラチン質の物質が詰まっており非常にデリケートだったのだ。野生の動物にとって、獲物や危険を察知する感覚器官の異常は文字通り死活問題。相手が意図的に感覚器官を狙ってきた以上、下手に襲い続ければ例え勝てても感覚器官が正常に機能しなくなるような傷を負えばそう遠くない内に今度は自分が食われる側になってしまう。

 

 そんなリスクを冒すくらいなら、この場は諦めて別の獲物を探そうというのだ。

 

 女性は泳ぎ去っていく鮫を手を振って見送ると、一度海上に顔を出して呼吸をして再び海の中に潜った。

 

 暗い海の中、光が一切ない夜の海中を女性は真っ直ぐ海底に向けて泳いでいく。

 女性の向かう先にあったのは、今正に海底に沈みつつあった先程のゴムボートから落ちた携帯だ。潜る速度を上げ沈みつつあった携帯を掴むと、今度は一気に浮上し海上に浮かぶプレジャーボートのすぐ傍に顔を出した。

 

「――――ぷはぁっ!」

「おわっ!?」

「きゃぁっ!?」

 

 四苦八苦しながらもプレジャーボートに辿り着いたらしき女性が男に引き上げられた直後だったのか、2人は海上に顔を出した女性に驚きボートの床の上に倒れ込む。

 

 慄く2人に構わず女性は梯子を使って船の上に上がった。

 

「よい、しょっと」

 

 船の上に上がってきた女性に、男も女も見惚れてしまっていた。

 

 豊満な胸を黒いビキニ水着で包み、海の水で濡れた体がライトに照らされた姿が言葉にできない美しさを放っている。

 そんな女性が自分達に微笑みかけているのだから、見惚れるなと言う方が無理な話だった。

 

「はいこれ」

「え?」

「あ、私の携帯」

 

 女は女性が差し出してきた携帯を受け取った。鮫が出たことですっかり忘れていた。

 

「……潜って拾ってくれたのか?」

「うん。泳ぐの得意だから」

 

 そうは言うが、女性が身に付けているものはビキニの水着のみでライトの類を付けているようには見えない。いやそれ以前に、鮫が近くを泳ぎ回っている中で更に光のない暗い海の中でどうやって沈み行く携帯を見つけられたというのか?

 

「さ、鮫は?」

「追い払ったわ」

「お、追い払った?」

 

 なんてことはない風に言う女性に2人が呆気に取られていると、女性は2人に背を向けて海へと歩いて行った。

 

「それじゃ、私はこれで」

「あ、ちょっと――――」

 

 女が思わず女性を引き留めようとするが、女性は構わず海へと飛び込みそのまま暗い海の中を海都に向けて泳ぎ去っていく。

 

 姿が見えなくなった女性の泳ぎ去る姿に、2人は互いに顔を見合わせるしかできなかった。

 

 一方、海都に向けて泳ぐ女性。”青い”海の中を優雅に泳ぐその姿は、それだけで絵になるような美しさだった。

 

――こっちよ、こっち――

 

「ッ!」

 

 その時不意に女性の耳に、海底から誰かが呼ぶような声が響いた。女性は泳ぐのを止め、どこまでも青い海の底を凝視する。しかし当然だが、そこには何も見えない。海の砂漠と言われる、底の見えない海中が広がるだけであった。

 

「…………」

 

 暫し海中を凝視していた女性だが、ふと息苦しさを感じ海の上に顔を出して大きく息を吸った。

 

「ぷはっ! はぁ……はぁ……」

 

 女性――名を大梅 瑠璃(おおめ るり)と言う――はそのまま体を海に浮かせ、流れに身を任せて海の上を漂っていた。

 

 瑠璃の視線の先では、満天の星空と空に浮かぶ満月だけが映る。

 

「……帰ろう」

 

 都会から離れた絶景を暫し堪能していた瑠璃だったが、何時までもそうしてはいられないと体の向きを変え、海都に向けて再び泳ぎ始めるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 海都は日本の都市ではあるが、その雰囲気は派手で煌びやかだ。特に日本唯一のカジノ街はアメリカ・ラスベガスのそれに勝るとも劣らない。

 

 故に昼夜を問わず街は賑やかなのだが、それはカジノ街に限った話。居住区や商業区はそこまで賑やかではない。

 

 そんな海都において、カジノ街から少し離れた所に一軒のBARがあった。看板には「FUJINO」と書かれている。

 

 観光に来た者は大きなカジノやBARに行くのだろうが、地元の人間や海都の事を良く知る者はここに来る。それはカジノ街の騒がしさから逃れる意味もあるのだろうが、それ以上に客が惹かれる要因があるからだ。

 

 一つは、このBARには店の奥にルーレット台が置かれている事。ここはBARだが、店の奥には一つだけルーレット台が置かれており気軽にルーレットを楽しむことが出来る。

 

 そして二つ目の理由。これは一つ目に関係してくるのだが、この店で働く人気の店員が居るからであった。

 

「いらっしゃいませ~! お好きな席へどうぞ~!」

 

 その店員こそ、大梅 瑠璃である。彼女は普段ここでウェイトレスとして接客しているのだが、彼女が人気を呼び地元住民に愛される店となっているのだ。

 

「ちょ、止めてください!?」

「ん?」

 

 瑠璃が店の中をお盆片手にあっちへこっちへ忙しなく動いていると、突然店内に少女の悲鳴のような声が響く。瑠璃含め店内の客が声のする方を見ると、そこには瑠璃と同じエプロンを身に付けた少女が1人の酔った客に絡まれているのが見えた。

 

「な~、いいじゃねえかよ~」

「ウチそう言う店じゃないんですってば!?」

 

 どうやら酔った客は少女――この店の主人の娘である海羽(みう)――に接待をせがんでいるらしい。海羽は拒否し続けているが、客は彼女の手を掴み無理やりにでも接待させようとしていた。

 

 その様子を見て瑠璃はチラリとカウンターの向こうにいる店の主人である藤野 鉄平(ふじの てっぺい)に目配せした。鉄平は瑠璃の視線を受けると、客を険しい目で睨んでから一つ頷いた。

 何らかの了承を得た瑠璃は、不敵な笑みを浮かべ海羽と客が揉めている現場へと向かった。

 

「失礼します、お客様」

「あん?」

 

 瑠璃が声を掛けると、客は酔いが回った胡乱な目で彼女の事を見る。一方客に手を掴まれていた海羽は、瑠璃が来てくれたことに安堵の表情を浮かべた。

 

「当店ではそのような事は行っておりません。ですが飲食だけでご満足いただけないというのであれば……」

 

 徐に瑠璃はエプロンと上着を脱ぎ、それを海羽に預けた。客はその瑠璃を見て生唾を飲んだ。

 

 まず目を引くのは豊満な胸だ。ノースリーブのYシャツとジャケットを押し上げる胸は見事な大きさで、エプロン姿の時も目立っていたが余分な装いを脱いだことでそれが強調される。

 下はタイトスカートからすらりと伸びるストッキングに包まれた足が目を引く。生足とは違った艶やかさだ。

 

 客は瑠璃に見惚れて海羽から手を放す。手が自由になった海羽は、素早い動きで瑠璃の後ろに隠れた。

 

「……あちらにルーレット台がございます。折角ですので一つ、勝負されていきませんか?」

「ルーレット?」

「はい。あちらのルーレットでお客様が勝てば、この子に代わって私がお客様を精一杯御持て成しさせていただきます」

 

 瑠璃はそう言って胸の下で腕を組み胸の谷間を強調させる。この美女との時間が過ごせるなら、勝負を受ける価値はあると客は鼻の下を伸ばしながら了承。頷く客に瑠璃は笑みを浮かべて彼をルーレット台へと案内していった。海羽もそれに自然と続く。

 

 いや、海羽だけではない。ギャンブルが始まると分かった瞬間、店内の客がルーレット台の周りに集まった。

 

 無数の見物客が居る中、瑠璃は相手の客を席に着かせ、自分はディーラー側へと回った。そう、彼女はウェイトレス兼ディーラーなのだ。

 

 ルーレット台の席に着いた男性客の前に、瑠璃は緑のチップを10枚置いた。

 

「ルールは簡単。お客様はこのチップを20枚に増やしてください。それでお客様の勝ち、約束通り私が御持て成しさせていただきます」

「……もし20枚以上に増やせたら?」

「ん~、ふふふっ! そうですね……その場合は、お客様が望むままに」

 

 妖艶な笑みを浮かべる瑠璃に、男性客は酔いが醒めていくのを感じた。大勝ちできれば、この美女を好きなようにできる。そう思うと酔っぱらってなどいられない。

 

Place your bets please(賭け金を置いてください).」

 

 客がやる気になったのを見て、瑠璃がそう宣言する。それを受けて男性客は賭けへと臨んだ。

 

 そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、男性客は残り少ないチップを一縷の望みを賭けて一点に賭けた。彼がチップを置いたのは配当2倍のアウトサイドベットのカラーマス。赤か黒かで賭ける確率”ほぼ”二分の一というある意味無難な賭け。配当は低いがその分当たる確率は高い。

 

 瑠璃がウィールを回し、ボールを放り込む。男性客が祈るように見つめる先で、ボールが入ったポケットは…………なんと0のポケット。アウトサイドベットのカラーにおいて唯一敗北が決定するポケットに入ってしまった。

 

「ぬあぁぁぁっ!?」

 

 その瞬間男性客の負けが確定し、チップを全て失った彼はその場に崩れ落ちた。

 敗北感に打ちのめされる男性客に対し、周囲の見物客達は拍手喝采を瑠璃に送った。

 

「今日も瑠璃ちゃんの勝ちだったな」

「相変わらず強いな彼女」

「くそぉ、俺あっちの男が勝つ方に賭けてたのに」

「それ大穴狙い過ぎだって」

 

 これがこの店の繁盛の秘密だった。凄腕のディーラーである瑠璃に、挑むも良し他人の勝負を眺めるも良しと、ただ酒と料理を楽しむ以外のエンターテインメントがあるのだ。何も知らない一見の客が勝負を挑む時もあれば、常連客が今日こそはと瑠璃に挑む事もある。その勝負は他の客達にとって、この上ない酒の肴になるのだ。

 

 今し方瑠璃にボロ負けしてチップを全て失った男性客。彼は暫し蹲っていたが、諦めきれないのか立ち上がると再戦を申し込んだ。

 

「もう一回だ! もう一回勝負しろ!」

「では追加のチップ10枚で千円頂きます」

「はっ!? 金取るのかよ!?」

「勿論です。先程のは初回サービス。ここからは別料金を頂きますが宜しいですか?」

 

 挑発するような瑠璃の言葉に、男性客は後先考えずチップを追加しようとした。所詮は運任せのルーレット、賭け続ければ何時か当たりが来る。

 

 だが問題はそこまで資金とメンタルが持つのかという事だった。今の勝負、彼は全ての賭けに負け続けた。無論ギャンブルなどそういうものだし、負け続ければ何時かは勝ちが転がり込んでくる。

 しかし言うほど資金に余裕がない男性客は、一歩踏み出しそうになるのを辛うじて堪えた。酔いが醒めたことが、彼に冷静な判断力を与えてくれたのだ。

 

「~~~~ッ、くそ!」

 

 男性客はそのまま踵を返し、カウンターに代金を置いて足早に出て行った。

 彼が出ていく直前、瑠璃はその背に声を掛ける。

 

「またの挑戦をお待ちしています」

 

 瑠璃の声に男性客は一度振り返り、悔しそうな顔で一瞥すると今度こそ店を出て行った。

 

 男性客が居なくなると、どうせだからと今度は別の客がテーブルの席に着いた。

 

「瑠璃ちゃん、次は俺に挑戦させてくれ! 今日こそはリベンジさせてもらう!」

「はい畏まりました。それじゃあチップ10枚千円になります」

 

 その後、客達は酒と料理を楽しみつつ瑠璃と客のルーレットによる勝負の観戦を堪能し、そして閉店前には店を後にするのだった。

 

 

 

 

 閉店後、静かになった店内のカウンターに瑠璃は座っていた。掃除も終わり、椅子は全てテーブルの上に逆さまの状態で乗っている中、カウンター席に座った瑠璃は誰も居ない店内で1人氷の入ったグラスにウィスキーを注いで仕事終わりの一杯を楽しんでいた。

 

「ふぅ~……」

 

 アルコールが体に回る心地よい感覚に身を委ねていると、先に自室に戻っていた筈の海羽がやってきた。

 

「あ、瑠璃姉ぇやっぱりお酒飲んでた」

「海羽ちゃん。そろそろ寝ないと、明日学校に遅刻するわよ」

 

 先程はウェイトレスをしていた海羽だが、彼女はまだ高校生。バイトを兼ねて店で働いているが、あまり夜遅くまで起きていては明日の学業に支障をきたす。

 瑠璃がその事を指摘するが、海羽は構わず瑠璃の隣に腰かけた。

 

「いいな~、瑠璃姉ぇはお酒飲めて」

「ふふ~ん、子供の海羽ちゃんにはまだまだ早いわよ?」

「分からないじゃん。瑠璃姉ぇだって、見た目大人びてるだけで本当は未成年かもよ?」

「それが証明できたら……いいね」

「あ……ごめん」

 

 瑠璃には2年以上前の記憶がない。

 

 彼女がここで働くようになったのは2年前の事。文字通りこの街に流れ着いた彼女を鉄平が拾ってからだった。

 辛うじて生きてはいた瑠璃だが、ここに流れ着く前の記憶を全て失っていた彼女は行くところがなかった。頼るものもなく、途方に暮れていた瑠璃を鉄平は連れて帰り自分の店で働かせることにしたのだ。

 

 それ以来、瑠璃はこの街で生きてきた。

 

 なので、瑠璃に昔の記憶はない。だからもしかすると、海羽の言う通り大人びているだけの未成年と言う可能性も否めなかった。それを思い若干顔に影を落とした瑠璃に、海羽は自分の失言を謝罪した。

 

「ううん、気にしないで。大丈夫、昔の事を思い出せなくても、今の私には海羽ちゃんや街の皆が居るから」

 

 そう言って瑠璃は再び酒を一口煽ると、懐から1枚のコインを取り出し眺めた。金の縁に青い宝石の様な素材で作られたコイン。片面には海と太陽を象った紋章、反対側には地図を象った紋章が刻まれている。

 瑠璃がこの街に流れ着いた時、唯一持っていたものだ。彼女は目を覚ますまで片時もこれを手放さなかった。

 

 言葉で言い表すのは難しい表情でコインを見つめる瑠璃を、隣に座る海羽が眺めていた。

 

「……いつか、瑠璃姉ぇの記憶が戻ると良いね」

「そうねぇ……」

 

 瑠璃はふっと笑うとコインを仕舞い、グラスに残った酒を一口で飲み干し次の一杯を注いだ。

 強い酒を一気に煽ったからか、アルコールでほんのり赤らんだ顔を海羽に向けた。

 

「さ、そろそろ寝なさい。このままだと本当に学校に遅刻しちゃうわよ」

「は~い」

 

 ここから先は本当に大人の時間。子供はとっくに寝ている時間だ。海都の学校は通学の便を考えられているのでここからでも時間を掛けず通えるが、それでも遅刻する時はしてしまう。それを分かっている海羽は、大人しく従い自室へと戻っていった。

 

 再び1人になった店内で、瑠璃は静かにグラスを傾け酒を煽る。まだグラスの中に残っている氷が、傾けられたことで動きカラリと音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の海の上に、人が1人仰向けで浮いている。水着姿の瑠璃だ。光源が月明りしかない暗い海の上だが、瑠璃は海の上を気持ち良さそうにぷかぷかと浮いていた。だだっ広い海の上に1人浮かんでいる状態なのに、慌てたり絶望したりしている様子が微塵もない。

 

――こっち、こっちよ――

 

 その時、海の中から声が聞こえた。男とも女とも取れる不思議な声。海の中から声が聞こえるなど本来はあり得ないことで、普通なら恐れたり警戒すべきことだった。

 だが瑠璃は全く恐れないどころか、海の中に顔を向けて底の見えない海中を注視した。だが当然、そこには人の姿もどころか魚の姿すら見えない。

 

 それでも耳を澄ますと、やはり先程の声が聞こえてくる。

 

――こっちこっち、早く来て――

 

 明らかに自分を呼ぶ声に、瑠璃は引き寄せられるように海の中に潜り海底に向けて泳ぐ。”青い”海の中を、瑠璃はどこまでもどこまでも潜っていった。

 もう海面も見えないくらい潜ったのに、そこは勿論声の主も見当たらない。

 

――ほらほらこっち、こっちだよ――

 

 なのに声だけは瑠璃の耳に入り、まるで彼女を急かす様に声を掛けてきた。次第に周囲は暗くなっていき、もう自分の手しか見えなくなった。それだけ潜っているのに、瑠璃は全く苦しさを感じない。

 

 むしろここまで来ると逆にどこまで潜れるのかを楽しむかのように、海底に向けて手を伸ばしさらに不覚へ潜っていった。

 

 すると――――

 

――ツカマエタ――

 

 出し抜けに海底から無数の手が伸びて瑠璃の体を掴んだ。手は瑠璃の体をあちこち掴み、一気に海底に向けて引きずり込んでいく。

 

 突然現れた手と海底に引きずり込まれることに、瑠璃も驚き恐怖に顔を歪め海面に向かおうとするが海底から伸びた手の力は強く、更に数も多いので抵抗のしようがない。

 

 手足に腹、腰、胸、顔まで掴まれ、唯一自由に動かせるのは掴まれることを逃れた右腕のみ。

 

 瑠璃は口から気泡を吐き出しながら海面に向け手を伸ばし、そのまま海底に向け引きずり込まれていく。

 

 そのまま瑠璃の姿は海底へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はっ!?」

 

 跳ねるように起きた瑠璃が周囲を見渡すと、そこは海の中ではなく見慣れた店内。どうやら酔いが回ってそのまま眠ってしまったらしい。時計を見れば時刻は深夜2時。

 

 時計を見て、視線を手元に戻す。グラスの中にはすっかり氷が解けて薄く温くなったウィスキーが入っている。

 

 ウィスキーを見ながら瑠璃は考える。あの夢は一体何なのか。自分の過去に関係があるとも思えないが、それにしては随分と鮮明でリアリティのある夢だった。

 

「……寝よう」

 

 暫し考えていたが、答えなど出る筈がない。気分も良くはないし、これ以上夜更かししすぎるのも体に悪いので寝る事にした。

 

 グラスの中身を一気に飲み干し、酒とグラスを片付けると瑠璃も自室に向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 明け方、水平線の彼方から太陽が昇る時間帯。

 

 海都に近付く一隻のクルーザーがあった。200フィートクラスの大型クルーザー。

 

 そのクルーザーの甲板に、3人に人影があった。筋骨隆々の眼帯をした男と背の高い男、そして2人ほどではないが逞しい肉体を持つ高校生くらいの少年の3人だ。

 

「あれが海都か?」

「そうだぜ、フランシス兄貴。羅針盤はあそこを指してる」

 

 フランシスと呼ばれた筋骨隆々の男に、少年が手に金色の羅針盤を持って答える。手の平に収まるサイズの大きさの羅針盤は、真っ直ぐ海都を指していた。

 

 それを見て背の高い男が不敵な笑みを浮かべる。

 

「海都と言えば、カジノが沢山あって金がたんまりあるそうだ。お宝ってのも案外、そのカジノの大金の事だったりしてな?」

「そいつは分からんぞ、エド。もしかすると、こいつに匹敵するとんでもない力を持ったお宝かもしれん」

「何だって良いよ。さっさと行こうぜ! 何があったって、こいつがあれば!」

 

 少年がそう言って掲げるのは、嘗て傘木社の幹部達も愛用していたベクターリーダー。少年がそれを取り出すと、2人の男も同じものを取り出した。

 

「それもそうだな。俺達の邪魔する奴は、容赦なく蹴散らしてやれ!」

「へへ、腕が鳴る」

「上手くいったら宴だ宴!」

 

 意気込む3人の男達。

 

 その3人を船室からじっと見つめている2人の女性がいた。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回はまだ導入部という事で、仮面ライダーはまだ登場しません。変身と初戦闘は次回をお待ちください。

尚前作から読まれていた方は気付かれたかもしれませんが、主人公の名前を最初に公開した時とは変えています。当初は翡翠でしたが今は瑠璃としています。理由はまぁ……恥ずかしながら、色を間違えていたと言いますか、まぁこっちの方が似合ってるなと思った次第です(前作で登場した部分も既に変更済みです)

執筆の糧となりますので、感想や評価その他諸々よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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