仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第13話:チーティング、バーツの悪知恵

 海羽が誘拐されると言う騒動から開けて次の日には、BAR・FUJINOは通常通りに営業していた。当日こそ海羽はショックも大きかったようだが、それも一晩経てば和らいだようで今日は学校にも行ったし店の手伝いもしていた。

 

 随分と復活が早いようにも思えるが、その秘訣に誘拐された日の晩は瑠璃のベッドで一緒に寝てもらった事が大きいのかもしれない。子供の様に一晩甘えて、次の日には精神的に持ち直したと言うところか。

 因みにこの日、学校で海羽は他の生徒達から質問攻めされたらしい。まぁ誘拐された、なんて非日常を経験したのだ。年頃の少年少女なら何があったのかと気になって仕方ないだろう。

 

 そんな海羽は、この日も瑠璃やネイトと共に店の手伝いをしていた。耳聡い客が時折元気づけて声を掛けたりしてくれるのに、海羽は笑顔で答えながら接客や配膳をしている。

 

 瑠璃は何時も通りな様子で働く海羽に、もう大丈夫と安心して自分も客への対応に奔走していた。

 

 その時、酔った客の1人が瑠璃の尻に手を伸ばした。身に覚えのない客だから外から来た一見さんだ。瑠璃は自分の尻に手を伸ばされていることに気付いていない。

 

「おっとぉ?」

 

 だがその手は瑠璃の尻を触る前に、ネイトにより掴まれ捩じり上げられた。手を捩じられた客は、突然の痛みに悲鳴を上げる。

 

「あいだだだだだだだっ?!」

「困るねぇお客さん? ウチそう言う店じゃないんだ。お触りしたいならそう言うのが許される店に行ってもらえませんか?」

 

 ネイトは暫し客の腕を捩じり上げた後に解放してやった。手を離された客は、今ので酔いが醒めたのかバツが悪そうな顔で席に縮こまる様にして酒をちびちびと飲んでいる。気性の荒い客だった場合そのままネイトに掴み掛ってきそうなものだが、この客は元来そんなに荒っぽい性格ではなかったらしい。ただ酒が入って気持ちが大らかになり、おふざけが過ぎてしまったようだ。

 

 大人しくするなら追い出すようなことはしない。ネイトはその客に「ごゆっくり」と告げると瑠璃に向け軽くウィンクする。対する瑠璃も、笑みと共にウィンクを返しそのまま次の客の方に向かう。

 

 微かに漂う2人だけの空間。桃色と言う程ではないがほんのり甘さを感じさせる雰囲気を目の当たりにして、海羽の表情が険しくなる。

 

「むぅ~~……」

「海羽ちゃん? 海羽ちゃ~ん?」

「んぉっ!? あ、はい!」

「海羽ちゃんどうしたの? なんかぼーっとしちゃって?」

 

 瑠璃とネイトの様子を海羽が険しい顔で見ていると、常連客の1人が声を掛けてきた。その声に反応して海羽は慌ててその客の元へ向かう。

 

「もしかしてまだ本調子じゃなかったりする? あんまり無理しない方が良いよ、なんか大変だったみたいだし」

「だ、大丈夫大丈夫! この通りピンピンですから! それより、えっとご注文ですか?」

 

 気を取り直して接客に臨む海羽だったが、その視線はやはり時折瑠璃とネイトの方へ向かった。特に2人の距離が近付いた時には、どうしても気になるのか2人の事を見てしまう。

 

 海羽がここまで2人の事を気にするのは、やはり先日瑠璃がネイトに縋りついて泣いていた事が原因だ。

 

 自分は攫われた後などに、瑠璃に甘えずにはいられなかった。だが逆に、瑠璃が海羽を頼るという事は全くない。少なくとも海羽は頼られた印象はなかった。

 

 暫定的とは言え、大人な瑠璃に対し海羽はまだ高校生。大の大人が高校生に甘えられるかと言う意見も分かるのだが、海羽としては瑠璃に何時までも子供扱いしてほしくはない。自分の事だって頼ってほしかった。

 

 そんな事を考えていると、視界の中で先程とは別の客が瑠璃の尻に手を伸ばそうとしているのが見えた。先程別の客が痛い目に遭ったのを見ている筈なのに、まだやろうとする輩が居るのかと憤り足早にそちらに向かうと、海羽はその客の腕を掴み容赦なく引っ張り上げた。

 

「こぉらぁ! さっきの見てなかったの? ウチはお触り禁止!」

「いででっ!? ちげぇよ、何見てんだ!? 財布落としたから拾おうとしただけだろうが!!」

「えっ!?」

 

 言われて足元を見れば、なるほど確かに財布が落ちている。それを取ろうとした近くに後ろを向けた瑠璃が居た為、尻を触ろうとしていたように見えてしまったのだ。

 

 海羽は自分が客に対してとんでもない勘違いをしてしまった事に顔を青褪めさせ、慌てて手を離すと物凄い勢いで頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!?」

「ったく、気を付けろ!」

「すみませんお客様。お詫びと言っては何ですが、こちら一杯如何ですか? 勿論お題は取りませんので」

 

 海羽が頭を下げ、客は財布を拾いながら悪態を吐く。

 瑠璃はそんな海羽をフォローすべく、店でも上等な方のウィスキーを一本開け氷を入れたグラスを客に手渡し酌をした。普段は絶対にやらない接待的な接客だが、この場を穏便に済ませる為ならこの程度安い物。特に今回は非は店側にあるのだから。

 

 瑠璃程の美人に酌をしてもらえると言うのなら、許そうと言う気にもなったのかその客は機嫌を直し酒を楽しんだ。

 

 満足した様子の客から離れる瑠璃と海羽。海羽は瑠璃に頼られるどころか、逆に彼女に負担を掛けてしまった事に目に見えて落ち込んでしまった。

 

「瑠璃姉ぇ、ゴメン。私……」

「大丈夫よ。私の事を守ろうとしてくれたんでしょ?」

「で、でも……」

「気にしない気にしない。失敗することくらい誰にだってあるわ。切り替えていきましょ」

 

 瑠璃はそう言ってくれるが、そう簡単に割り切れるものでもない。派手な失敗は人にもよるが、結構精神的に後を引く。

 

 結局その後も海羽は、ちょこちょこと小さな失敗を繰り返しその度に瑠璃によってフォローされていたのだった。

 

 そして閉店後。片付けと夕食も済み、後は寝るだけとなった時。

 

「う゛~あ゛~……」

 

 海羽は部屋に戻ると、ベッドに突っ伏し1人呻き声を上げている。理由など一つしかない。

 

「私、全然ダメじゃん。こんなんじゃ瑠璃姉ぇの足手まといでしかないよ」

 

 海羽にとって瑠璃は憧れの的だ。姉の様な存在であり、女性としての目標。将来は見た目的にも中身的にも、ああいう感じになりたいと願っている。

 

 しかし現状はそれとは程遠い。瑠璃程スタイルも良くは無いし、何をやっても失敗が目立つ。先日だって、自分に力が無かったが故に攫われ瑠璃の負担になってしまった。

 

 それに比べてネイトはどうだ? ぽっと出で瑠璃の過去を知っているからと言う理由でそれまで海羽の物だった瑠璃の隣と言う地位を物にし、瑠璃を完璧にサポートしている。今日だって、自分の仕事をしながら的確に瑠璃のサポートをし彼女が動きやすいように立ち回っていた。

 しかも彼は仮面ライダーにも変身できる。有事の際は逃げるか見守るしかできない海羽と違い、瑠璃の隣に立って彼女を守る為に戦えるのだ。

 

 海羽はその事に激しく嫉妬した。そして当然の様にこう願った。力が欲しい、と。

 

「私も、仮面ライダーになれたらなぁ……」

 

 力への渇望を抱きながら、徐々に眠りに落ちていく海羽。

 彼女の切実な願いは誰にも聞きとられる事無く、小さな室内に空しく響いて消えていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃、芳江が地下研究室の自室で1人パソコンのキーボードを叩いていた。

 掃討作戦後、地下は大分片付けられており本来の姿を取り戻しつつあった。それでも工事の再開の目途は立っていない。海中にはまだディーパーが居るかもしれないからだ。今ここで無理に工事を再開して、再びディーパーの侵入を許してしまったら元の木阿弥だ。

 

 まぁそもそもとして、作業用のポッドは最初のディーパーの襲撃により殆どが破壊されてしまったし、作業員もやられてしまったので再開しようがないのだが。

 

 そんな地下研究室だが、芳江が使えるだけのスペースは確保する事が出来たので機材などを運び込み研究室を整えた。

 芳江はここで日々ディーパーに関する研究を行っている。

 

 今彼女がしているのは、街中の監視カメラの映像の確認だ。これは彼女が個人的に行っている事で、映像はこのパソコンからハッキングして勝手に見ている。

 目的は瑠璃の動向の観察だ。

 

「今のところ何も変化はないわね。ラハブの影響を一度は強く受けた筈だから、何かしらの異変が起こるかと思ったのだけれど……。一度の影響だけじゃ特に変化はないのかしら?」

 

 何か理由を付けて、今度はここに呼ぼうか等と芳江はブツブツ呟きながら街中の監視カメラの映像を眺める。

 

 因みにこの場には8号はいない。ここはもう海都の運営する研究所。見た目完全に部外者な彼女を不用意に連れてくるのはリスクが高い。8号は今頃クルーザーの一室で待機している筈だ。

 

「――――ん?」

 

 変化が無い事に思考が半ば止まり、流し見る感じで監視カメラの映像を見ていた芳江。その視線の先、カメラの映像の中にある異変を捉えた。

 

 問題の映像は街の中のとある駐車場を映したものなのだが、そこで1人の男性が女性に襲い掛かっていた。

 それだけなら別に芳江が気にするようなことではないのだが、問題はその後だった。

 

 男性は車に女性を押し付けると無理矢理口を付けている。女性は必死に抵抗したが、男性の力は強いのか全く振りほどけない。

 と、その時突如女性の体がびくりと痙攣すると、嫌悪からの抵抗とは違う暴れ方を見せた。まるで苦痛か何かから逃れようとするかのように手足を知っちゃかめっちゃかに動かしている。

 

 どれほどそうしていたか、男性が解放すると女性は白目を剥いて糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。男性は倒れた女性を見下ろし、何事もなかったかのようにその場を離れていく。

 あとに残された女性は暫し動かなかったが、突然内側から突き動かされたかのように体が跳ねると次の瞬間女性の全身がドロップチップに包まれディーパーに変異した。女性がディーパーに変異すると、その際に数体の下級ディーパーが生れ落ちる。女性が変異したディーパーとその際に生まれた下級ディーパー達は、近くのマンホールから下水道へと入っていく。

 

 その様子を見て、芳江は口角を吊り上げ笑みを浮かべた。

 

「これはこれは……新しい個体が出た様ね。興味深いわ」

 

 芳江はそのまま笑みを浮かべ、携帯を取り出すと8号に連絡を取った。

 

「8号、聞こえてる?」

『はい』

「今から映像を送るから、それに映ってる男に攻撃を仕掛けなさい。その男、ディーパーよ」

『倒せばよろしいのですか?』

「いいえ、飽く迄もデータ収集よ。適当に戦ったら帰ってきなさい」

『分かりました』

 

 そこで通信を切ると、芳江はパソコンを操作しクルーザーに居る8号に今の監視カメラの映像を送る。

 

 映像を送られた8号は、映っている男の特徴を頭に叩き込むと部屋から出た。

 

「ん? おい何処に行く?」

 

 部屋を出て甲板に出ようとした8号の姿にバーツが気付いた。芳江と8号を信用していない彼は、今度は何をしでかすつもりなのかと8号を呼び止めた。

 

 しかし8号はバーツの声など無視して甲板に向かい、シーシェイブに血浸すると大きく跳躍して街へと入っていった。

 

「…………チッ」

 

 何も言わずに街へと入っていった、8号の後ろ姿にバーツは舌打ちして船の中へと戻る。この事に関してはフランシスに相談するつもりだ。

 あの2人の身勝手の所為で、自分達にまでとばっちりが来るなんて真っ平御免だ。

 

 しかし8号にはそんな事関係ない。バーツ達に被害が及ぼうが警戒されようが、彼女は芳江の指示に従うのみ。

 

 その8号の視線の先に、目的の男の姿が映った。シーシェイブのカメラでも映像と照らし合わせ、同一人物であることを確認すると男の目の前に着地した。

 

「?」

 

 シーシェイブが目の前に降り立ったと言うのに、男は全く動じた様子を見せない。それどころか、逆に興味を抱いた様子でシーシェイブの事をじっと見つめていた。

 

「……キャリア―の素質がある。お前は、連れて帰ろう」

 

 徐にそう呟くと、男は擬態を解いてシーラカンス・ディーパーとしての姿を晒した。戦闘モードになったのか、両手には蛇の様にうねる剣を持っている。

 

 対するシーシェイブも、両手の爪を伸ばし戦闘態勢を取るとシーラカンス・ディーパーに攻撃を開始した。

 

「ハァッ!」

 

 飛び掛かりながら右手の爪を振り下ろしたシーシェイブに対し、シーラカンス・ディーパーは両手の剣で受け止めると相手の攻撃の軸をずらして受け流した。攻撃を受け流され地面に倒れた8号に、シーラカンス・ディーパーは刺突で追撃する。

 

「くっ!?」

 

 放たれた刺突をシーシェイブは転がる事で回避するが、シーラカンス・ディーパーは立て続けに刺突を放ちシーシェイブに体勢を立て直す隙を与えてくれない。突き立てられる剣に追われるように転がるシーシェイブだったが、長く続くものではなく遂には壁際に追い詰められた。

 

「うっ!?」

『もらった』

 

 この時点でシーラカンス・ディーパーは勝利を確信したのか、一際力を込めて剣を突き立てようとした。

 

 しかしそれを大人しく行けるほどシーシェイブも大人しくはない。シーラカンス・ディーパーが刺突に力を籠めようと一瞬動きを止めた、その瞬間にガントレットを向けると搭載されていたマシンガンが火を噴いた。

 

『グッ!?』

 

 出し抜けに放たれた銃撃にシーラカンス・ディーパーは堪らず後ろに下がり、銃撃を防ぐ為両腕を顔と体の前に出して防御態勢を取る。

 十分に距離が開いたのを見て、シーシェイブは銃撃を止め立ち上がると体勢を整えた。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 少し戦っただけだが、それだけで分かる。このシーラカンス・ディーパーは今まで出てきたディーパーとは全く違う。そもそも人間に擬態するディーパーと言うのが今までになかったのだ。ただ特殊能力を持っていると言うだけでなく、根本的な部分でこのディーパーは今までの奴らとは違いすぎる。

 

『このディーパー、意思疎通が出来るのね? 目的を聞いてみて』

 

 唐突に通信機に芳江の声が響いた。この戦闘は監視カメラとシーシェイブのカメラの映像を通して芳江も見ている。そしてシーシェイブのカメラ映像には、マイクによる音声もついてくるのでシーラカンス・ディーパーが喋った事も芳江には伝わっていた。

 今までに確認された事のない、言葉を交わすディーパー。俄然芳江の興味を引き、8号にコンタクトを取るように指示を出した。

 

「……お前の目的は?」

 

 問い掛けはしたが、正直8号は返答について期待はしていなかった。8号は先程のシーラカンス・ディーパーの言葉を、ただ人間を真似ているだけだと思ったのだ。

 

 だがその予想に反して、シーラカンス・ディーパーは8号の問い掛けに対し明確な答えを返してきた。

 

『繁殖、そしてキャリアーの確保』

「キャリアーとは?」

『お前』

 

 返答は来たが、奴が何を言っているのか8号にはいまいち分からなかった。繁殖はまだしも、キャリアーとは一体何の事だ? 自分の何がキャリアーなのだ?

 

 疑問を抱く8号だったが、シーシェイブのカメラを通して彼女達の会話を聞いていた芳江は顔に喜悦を浮かべていた。

 

「なるほど……これはこれは。ラハブが動き出したという訳ね。いいわ、いい傾向よ――!」

 

 研究室の中で芳江が1人歓喜に震えている中、シーシェイブとシーラカンス・ディーパーの戦いは激しさを増していく。

 

「あぁぁぁぁぁっ!!」

 

 シーシェイブが縦横無尽に爪を振るい、攻撃の余波は周囲の建物や停めてある車を粉砕していく。その斬撃の嵐の中を、シーラカンス・ディーパーは剣2本で捌きながら突き進む。

 

 遂にシーラカンス・ディーパーがシーシェイブの目前まで迫った。攻撃の隙間を縫ってシーシェイブの懐まで入り込んだシーラカンス・ディーパーは、両手の剣を振るいシーシェイブの両手の爪を大きくかち上げて胴体をがら空きにさせる。

 

「ッ!?」

『もらった』

 

 無防備なシーシェイブの腹を前に、シーラカンス・ディーパーはそれまで閉じていた口を大きく開けると食らいつこうと迫る。口には鋭い牙が何本も生えていて、例え鎧を纏っていようがそれ毎食い千切られるのではないかと言う予感を感じさせた。

 

 迫るシーラカンス・ディーパーの口。だがシーシェイブはここで爪を収納すると、両手を組んでハンマーの様に振り下ろした。

 

「ふん!」

『ごっ?!』

 

 この一撃は予想外だったのか、シーラカンス・ディーパーは諸に攻撃を喰らい口を強制的に閉じられた上に地面に顔を埋める結果となる。シーシェイブは更に追撃として蹴り上げて空中に引っ張り上げると、1枚のプレートを取り出してベルトに装填してハンドルを回した。

 

〈Ignition〉

 

 ベルトがプレートを読み込むと、シーシェイブの右足にエネルギーが収束して赤熱化する。

 

 エネルギーを充填して地面を焦がすほどの熱を持った右足を、シーシェイブは空中のシーラカンス・ディーパーに叩き付けた。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

 放たれた必殺の一撃。しかしこの一撃は完全には決まりきらなかった。

 

 赤熱化した足が突き刺さる直前、シーラカンス・ディーパーは自分の体とシーシェイブの足の間に2本の剣を滑り込ませ盾としたのだ。その結果剣は砕かれ、そこで威力を大幅に削がれたシーシェイブの一撃はシーラカンス・ディーパーを蹴り飛ばしはしたが仕留めるまでには至らず大きく吹き飛ばすだけであった。

 

『ぐぅっ――――!?』

「チッ、仕留め損ねた。でも――!」

 

 シーラカンス・ディーパーはまだ体勢を立て直せていない。ならば今が好機と、シーシェイブは追撃しトドメを刺そうとした。

 

 しかしそれは、芳江により止められることになる。

 

『待ちなさい、8号』

「ッ!?」

『もう十分よ。そいつは放って、船に戻りなさい』

「……了解」

 

 命令は絶対だ。芳江が退けと言うのであれば、8号はそれに従うのみ。トドメを刺す事が出来なかったのは癪だが、今回は仕方がない。

 

 シーシェイブはその場から大きく跳躍して離れ船へと戻っていく。

 

 その姿を見送ったシーラカンス・ディーパーは、再び人間の男の姿に擬態すると首を軽くコキコキと鳴らしながら静かにその場を離れていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、海羽はこの日も悩みを抱えながら起床。洗面所で顔を洗い、リビングに向かうと席につき鉄平とネイトが作った朝食を食べて学校へ向かう。

 

 何時も通り、友達と登校し授業を受け、それが終われば部活はせずに帰宅すると言う代わり映えの無い日常を今日も過ごしていた。

 

 そう、代わり映えのしない日常だ。平和と言えば聞こえはいいが、変化に乏しいつまらない日常。

 それが悪いとは言わないが、今の海羽は明確な変化を求めていた。

 

 戦う力が得られる、そんな変化を…………

 

「な~んて……アニメや漫画じゃないんだから、そんな簡単に……」

「あっ!」

「え?」

 

 突然誰かが声を上げた。何だと海羽がそちらを見ると、そこには先日自分を攫った連中の1人であるバーツが手に買い物袋を持って立っていた。

 

「あ……あんた…………誰だっけ?」

「んが!? 忘れるな! 俺はバーソロミュー・ロバーツだ!」

「いやこの間名乗ってなかったじゃん」

「え? そうだっけ?」

「うん」

「あ、そっか。そうだった、悪い」

 

 バーツは軽く頭を下げるとその場を去ろうとした。改めて思うが、彼らが興味あるのは瑠璃だけであり他に興味はないらしい。普通瑠璃の関係者であれば、何かしら危害が加えられてもおかしくはないと言うのにである。

 

 しかしバーツの反応が変わっていれば、この後の海羽の反応も風変りだった。何と彼女は去ろうとするバーツの服の裾を掴んで引き留めたのだ。

 

「ちょっと待ってよ」

「ととっ!? 何だよ、もうお前をどうこうしたりしないって」

「そうじゃなくて、ちょっと付き合ってって言ってるの」

「はぁ? 何で俺が?」

「悪いと思ってるんでしょ? それならちょっと私の悩み聞いてよ」

 

 海羽はそう言って有無を言わさずバーツを近くの喫茶店に引き摺り込む。下手に暴れると買った物が傷付くかもしれないからか、バーツは大人しく喫茶店に連れていかれた。

 

 半ば無理矢理椅子に座らされ、目の前で1人コーヒーを注文する海羽をバーツはブスッと眺める。

 

「あれ? 何も頼まないの?」

「うるせぇ。要件さっさと言え」

 

 バーツは居心地が悪くて仕方なかった。ついこの間、間違いとは言え自分を攫った相手であるバーツに、こんな風に接してくる海羽が理解できなかったのだ。

 

 当時は確かに海羽も彼らの事を恐れていた。だが彼らの事を見て、話している様子を見て、そしてトドメにバーツと喧嘩をしたことで、何と言うか危機感が薄れた。ストレートに言ってしまえば、こいつら思ってたほど危ない連中じゃないなと分かってしまったのだ。

 

 そうと分かると、海羽の中では彼らは乱暴だが話の分かる連中の様な認識となり、こうして悩みを相談する事も遠慮なく行えるようになったのである。

 

「うん……実はね――――」

 

 

 

 

「――――って訳なの」

「ふ~ん……」

 

 海羽は最近感じている悩みをバーツに告白した。ネイトの登場により、瑠璃との距離が開いてしまったような気がする事。ネイトは瑠璃を守る為に戦えるのに、自分は見ていることしか出来ない歯痒さ。

 

 それらを話し終えた海羽が顔をバーツに向けると、彼はあまり興味なさそうな声を上げながら何時の間にか頼んでいたケーキを貪っていた。

 

 人が真剣に悩んでいるのに真面目に聞いていない姿を見て、海羽は額に青筋を浮かべ手を伸ばし彼の頬を引っ張った。

 

「あいででででっ!? 何しやがる!?」

「人が真剣に悩んで相談してるんだから、真面目に聞きなさいよね!」

「俺にどうしろって言うんだよ!? んな事相談されても俺には何も出来ねえよ!!」

 

 海羽の気が済むまで頬を引っ張られ、解放された時にはバーツの頬はすっかり赤くなってしまっていた。

 

「ってか、お前自身はマジでどうしたいんだよ?」

 

 抓られた頬を摩りながらバーツは海羽に問い掛けた。あまり雑に接していると自分が痛い目に遭う事を理解し、とりあえずパフォーマンスだけでも話を聞いてやる事にしたのだ。

 

 とりあえず愚痴でも聞いてやれば、満足して解放するだろう。そう思っていた。

 

「どう、って……」

「そのネイトって奴が出てきたとして、そいつを追い出したいのかどうなのかって事」

「別に……追い出したいって訳じゃ……」

 

 改めて言われて、海羽は自分がどうしたいのかを考えた。別にネイトを追い出したい訳ではない、これは間違いない。

 ネイトは瑠璃の過去を知ると思われる唯一の人物。瑠璃自身が過去を知る事を望んでいる以上、瑠璃にそれを邪魔する理由はない。

 

 では、自分は一体何がしたいと言うのか…………

 

「私……どうしたいんだろう……」

 

 一瞬「俺が知るか」……そんな言葉が喉元まで出掛かったが、それを言ったらまた海羽が怒るだろう事を理解していたのでギリギリで言葉を飲み込んだ。

 代わりにバーツは頭に浮かんだ事を口にした。

 

「お前も変身しちまえばいいじゃねえか。戦えないのが嫌だってんならよ」

「出来ればやってるわよ。前に一度瑠璃姉ぇに借りて変身しようとしたけど出来なかったの」

 

 溜め息と共に海羽が口にした言葉に、バーツがちょっと興味を抱いた。

 

「へぇ~……それって、もう片方も?」

「もう片方?」

「そのネイトって奴も仮面ライダーに変身するんだろ? アイツのベルト、瑠璃って奴のとは違ってたしもしかしてそっちなら変身できるんじゃね?」

 

 海羽は目をパチクリとさせた。言われてみれば、ネイトのオケアノスは瑠璃とは違う。僅かな違いかもしれないが、検証する価値はある。

 何よりスピンドライバーの方ではまだ試したことが無い。であれば、可能性はゼロではなかった。

 

 やる価値は……ある。

 

「そうか……そうよね。うん。もし私が変身出来れば、瑠璃姉ぇを――――!」

 

 自分の手で瑠璃を助け、彼女の隣に立ち続けることが出来る。その様子を夢想し、海羽は胸を躍らせた。

 

「話聞いてくれてありがと。それじゃ!」

 

 もう居ても立っても居られず、海羽は席を立つと自分の注文の料金をその場に置いて店を後にした。あっという間に店を出ていく、彼女の後ろ姿をバーツは不自然な程にこやかに手を振って見送った。

 

「頑張れよ~…………ニシシシシッ!」

 

 海羽の姿が見えなくなった瞬間、バーツは悪い笑みを浮かべそそくさと会計を済ませて喫茶店を後にした。

 そして急ぎ足で船に戻ると、買った物を子分に押し付け自分は船内のラウンジで寛いでいる兄貴分2人の元へ向かう。

 

「兄貴兄貴!」

「んご~……んご~……」

「ん? どうしたバーツ?」

 

 バーツがラウンジに入った時、フランシスはソファーの上でイビキをかいて昼寝をしてエドは雑誌を読んでいた。取り合えずイビキが五月蠅いのと急ぎの話があったので、バーツはフランシスをちょっと強めに殴って叩き起こした。

 

「フランシス兄貴! 寝てる場合じゃねぇ、起きろ!」

「んぐごっ?!」

 

 思いっきり顔面を殴り叩き起こすバーツ。流石に顔面をぶん殴られたら目も覚めるのか、フランシスは訳が分からないと困惑しながらも飛び起きた。

 

「何だ何だ!? サツが来たのか!?」

「そうじゃない、落ち着け兄貴。バーツ、流石に顔面はやり過ぎだ。せめて脳天にしておけ」

 

 まだちょっと寝惚けているのか、慌てるフランシスを宥めながらエドはバーツを軽く注意した。殴るなとは言わない辺り、フランシスの寝起きの悪さが伺える。

 

「それどころじゃねえよ兄貴達。大チャンス到来だ!」

「何のだ?」

「ちょっと待て。殴って起こす事はその程度で済ます事なのか?」

「あの女からお宝を取り返せるかもしれないぜ」

「マジか!」

「2人とも聞いてる?」

 

 やや興奮気味に話を進めようとするバーツに興味津々なエド。その2人に、フランシスが殴って叩き起こされた事への不満を口にしようとするが悉く無視されてちょっとしょんぼりしていた。

 だがそれもバーツの次の話を聞くまでであった。

 

「この間、男の方も仮面ライダーになってただろ? アイツを弱体化させられそうなんだ。狙うなら今だぜ!」

「そうなのか?」

「ん? どういう事だ?」

 

 興味を引かれバーツから話を聞く2人。そして、バーツの口車に乗った海羽がスピンドライバーを持ち出すだろう事を告げられると、フランシスとエドの顔に悪どい笑みが浮かんだ。

 

「なるほどなるほど……それは確かにチャンスだな」

「だろ?」

「よし、そうとくれば早速行くぞ! 善は急げだ!」

 

 もう殴って叩き起こされたことなど全く気にした様子の無いフランシスの声に、エドとバーツも頷き立ち上がると船の事を子分達に任せ自分達は瑠璃の店へと向かっていくのだった。




という訳で第13話でした。

敵同士の戦いが熱いと思う今日この頃。

海羽とバーツは大分仲良しです。海羽が結構図々しいと言うか、大丈夫認定した相手にはとことん気安く接する性質なので、彼女の中ではバーツはもう殆どお友達に近い感覚です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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