仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は海羽が遂にやらかします。


第14話:スティッフ、そんなに甘い話はない

 家に戻った海羽は、表向きは何時も通り過ごしていた。

 何時も通りに家に帰り、何時も通りに店を手伝い、何時も通りに夕食を食べ、何時も通りに就寝間近まで過ごした。

 

 だがその裏で、海羽はネイトの隙を絶えず伺っていた。目的は1つ、ネイトの持つスピンドライバーだ。

 

 その為にはネイトに警戒されないようにすることが重要。なので海羽は努めてネイトにも柔らかく接し、彼の警戒を解そうと画策していた。

 だがそれが逆に瑠璃に不信感を抱かせていた。昨日までネイトを警戒していた海羽が、突然人が変わった様にネイトと普通に接しようとしているのだ。違和感を持つなと言う方が無理である。

 

「ねぇ海羽ちゃん、今日学校で何かあった?」

「ぅえっ!? な、何が?」

「だって海羽ちゃん、今朝までネイトの事相変わらず嫌ってたじゃない。それが急に手の平ひっくり返したように仲良くするんだもの。変だと思わない方が無理よ」

 

 瑠璃の指摘に海羽は言葉を詰まらせる。流石は瑠璃と言ったところか。時にはイカサマでギャンブルに勝とうとしてくる相手とも渡り合う生粋のディーラー、腹の中で巡らせる策を見破る力は高い。海羽程度の小娘の悪巧みなどあっさりと気付かれてしまった。

 

 どうやってこの状況を誤魔化そうかと頭を働かせる海羽だが、彼女は策を巡らせるより体を動かす方が性に合っている性質。瑠璃とは真逆に近いと言っても良い。本気で疑われたら、逃げ切る自信は海羽にはなかった。

 

 まさか何もしていない内から瑠璃によって阻止されるのかと海羽が観念しかけた、その時。まさかの所から助け船が出された。

 

「まぁまぁ瑠璃。そんな疑うもんじゃない」

「ネイト?」

 

 海羽に助け舟を出したのはまさかのネイトであった。閉店後の片付けを終えたネイトは、掃除道具を片付け一服とばかりに紅茶を啜っている。

 

「海羽ちゃんも多感な高校生、ふとした事で意識と関わる事もあるんだろ。何が切っ掛けかは分からないが、俺と仲良くしてくれようと思ってくれたなら俺は素直に嬉しいよ」

「ん~、そんな感じじゃないような気がするけれど……」

「信じてやれよ。家族だろ?」

 

 その言葉がトドメとなった。瑠璃はまだ納得しかねているようだが、それでも理由もなく家族を疑うのは確かに良くないと思ったようだ。もしくは、瑠璃も心の奥では海羽の事を疑いたくないと思っていたのかもしれない。

 

 対照的に疑いをもたれていた海羽は心が痛んだ。自分がこれからやろうとしている事は、2人の信頼を裏切る行為に他ならない。

 その信頼に応えるつもりがあるなら、スピンドライバーを掠め盗るなんて事は止めた方が良いに決まっている。

 

 だが…………海羽は止まれなかった。一度頭に浮かんだ甘美な未来は、海羽の心にべったりとへばり付いて離れない。頭では悪い事・止めた方が良いと分かっているのに、心が体を突き動かす。

 

「そ、そうだよ瑠璃姉ぇ。私だって何時までも子供じゃないんだから。ネイトが瑠璃姉ぇに必要な人で、暫く一緒に暮らす事になるんだから、仲良くしようって思うよ」

「な?」

「……ふぅ」

 

 海羽の言葉にネイトが乗っかる。それでもまだ疑いの目を向けていた瑠璃だったが、根負けしたのかそれともやっぱり海羽の事を疑いたくはなかったのか溜め息を一つ吐くと次の瞬間には瑠璃の目から海羽に対する疑心は消えていた。

 

「分かった、私が悪かったわ。ゴメンね海羽ちゃん」

「う、うぅん! 気にしないで……ホント……」

 

 2人を騙して信頼を利用した事に、海羽は心が痛んだ。だがその心の痛みから目を逸らして、海羽は一度部屋へと戻った。

 

 何時もならこの後2人は仕事終わりの晩酌をする筈だ。スピンドライバーを盗み出すなら、その時がちょうどいい。

 

 果たして海羽が部屋に戻ってから暫くして、瑠璃とネイトは案の定晩酌を始めた。この日は瑠璃が簡単に摘まみを作るらしく、店のキッチンに立ち鼻歌を歌いながらフライパンを振っている。

 その間にネイトがグラスと氷を用意した。

 

「――――はいお待たせ」

「おぅ」

 

 適当に作った野菜とソーセージを炒めた物を皿に盛り、カウンターにいるネイトに差し出す。受け取ったそれをカウンターの上に置きネイトが氷を入れたグラスに酒を注いでいる間に、瑠璃はフライパンなどを洗いキッチンから出てくる。

 

「お待たせ。それじゃ、カンパーイ!」

「あぁ、乾杯」

 

 席に着くなり、瑠璃は酒――ウィスキーの入ったグラスを手に持ち軽く掲げた。ネイトもそれに続き、グラスを持ち上げ瑠璃の持つグラスに軽く当てて乾杯する。

 

「ん……ん……、ふぅ」

 

 乾杯するなり、瑠璃はグラスに口を付けウィスキーを喉に流し込む。氷で冷えた酒が口と喉を焼く心地良い感覚に酔いしれ、酒精の籠った息を吐いた。その隣では、ネイトもウィスキーを唇に沁み込ませるように飲み瑠璃が作った摘まみを突いた。

 

「……うん、美味いな」

「でしょ~? これ結構いい値段したのよ」

「そっちじゃなくて、こっち。酒も確かに美味いけど、瑠璃の料理も上手いって話」

 

 ネイトはもう一口、瑠璃の作った摘まみを口に含み満足そうな顔を浮かべ、それを酒で流し込んだ。心の底から瑠璃の手料理の味を楽しんでいる顔だ。

 

 普段彼が口にするのは、鉄平が作った料理ばかり。それらも決して不味い訳ではなくそれどころかそこらの料理屋でも十分通用するレベルの物。常日頃から客の為に鍋を振っているのだから当然だ。

 

 だが瑠璃の手料理はそれにも全く引けを取らない。簡単な料理だが、これだって店に出しても通用するレベルだとネイトは思う。ウェイトレスとディーラーだけをするなんて勿体ない。

 

「そ、そう?」

「あぁ」

「そ、そっか……ふふっ!」

 

 ネイトの手放しの称賛に、瑠璃も嬉しそうな顔をしながら自分も箸で摘まみを口に運んだ。我ながら上出来な味に、瑠璃は一つ頷いた。味を濃いめにしてあるので酒が進む。

 

 2人はそのまま肩を寄せ合う様に晩酌を続けた。

 その様子を2人からは見えない物陰から海羽が伺っている。仲良さそうに酒を飲み交わしている2人の姿に、海羽は表情を曇らせた。

 

「瑠璃姉ぇ……」

 

 海羽は一度目を伏せたが、次の瞬間には顔を上げ決意を胸に秘めるとその場を離れネイトの部屋へと向かった。

 

 物音を立てないようにネイトが使っている部屋に入ると、素早く室内を見渡した。瑠璃は晩酌にそれなりに時間を掛けるし、場合によっては酔い潰れてそのままカウンターで寝てしまう。時間的にはまだまだ余裕があるだろう。

 

 しかし意外と片付いている室内だ。と言うより私物に類する物があまり置かれていない。

 まぁそれも当然か。ネイトは冒険家として各地を転々としているそうだ。そんな生活をしているのに、移動に嵩張る私物なんて持たないだろう。

 ここら辺、彼が冒険家なのだという事が改めてよく分かり、また彼に対する認識が改まる瞬間だった。

 

「って、そんなこと考えてる場合じゃないっての」

 

 海羽は頭を振って気持ちを切り替えた。時間はあるとは言え有限だ。悠長な事をしている暇はないし、長々とごそごそ音を立てていたら偶然鉄平が部屋の前を通った時などに不審に思われる。出来るだけ手短に済ませなくては。

 

 だがあまり心配する必要もなかった。何しろこれだけしっかりと片付いた部屋だ。探すべき場所は限られる。私物が少なく、片付けも出来ている事が彼にとって災いした。

 

「――――あった」

 

 果たしてスピンドライバーはそう時間を掛けずに見つかった。ネイトが愛用しているバッグの中に、数枚のドロップチップと共に入っていたのだ。海羽はそれを纏めて取り出し、そして盗んだ事がバレないようにバッグを元通りにして部屋を出て自室に戻る。

 

 部屋に戻り扉を閉めると、突然心臓が激しく鼓動した。まるで全速力で走ったかのように息も荒くなり、変な汗が噴き出る。

 

「はぁ、はぁ……やっちゃった」

 

 今更ながら海羽は罪悪感を感じた。これで本当に良かったのか? 今からでも返すべきではないかと、不安が海羽の心に拡がった。

 

 だがそれでも、自分が瑠璃の助けになれるかもしれないと言う可能性を思い描くとその罪悪感と不安も薄れた。

 

「今度は……私が!」

 

 海羽は頭を振って不安を振り払うと、スピンドライバーを鞄に入れ寝巻に着替えるとベッドに入った。

 しかし先程の興奮が抜けないからかなかなか寝付く事が出来ず、結局海羽は夜が更けるまで眠れず翌朝は寝過ごす事になるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 そして翌朝、瑠璃は寝過ごした海羽をバイクで学校に送っていた。

 

「ゴメンね、瑠璃姉ぇ。私が寝坊しちゃった所為で……」

「気にしなくていいわ。にしてもどうしたの? 怖い夢でも見て眠れなかった?」

「そう言うんじゃないけど……」

 

 まぁ言える訳がない。ネイトの部屋からスピンドライバーを盗んだ興奮で寝付けなかったなど。

 

 何も語らない海羽に、瑠璃は何も言わずバイクを走らせた。彼女もまさか海羽がスピンドライバーを盗むなど考えもしない。

 

 そのまま徐々に人と車が増えてきた街を瑠璃と海羽の乗ったバイクが走っていく。そのバイクの進路上の道路が、突然銃撃を受けて弾ける。

 

「ッ!?」

「きゃっ!?」

 

 突然の銃撃に瑠璃が急ブレーキし、海羽が驚き悲鳴を上げる。驚いたのは2人だけではなく、道路を走っていた他の車や道行く人も何事かと足を止めていた。

 

 だが次は街の中にある監視カメラが片っ端から破壊されていく。響く銃撃とカメラの破壊音に、何も知らない人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 そんな中で、瑠璃はバイクを路肩に寄せると駐車している車の陰に海羽を引っ張り隠れて様子を伺った。銃撃の主が誰かは分からないが、姿が見えない以上下手に動き回ると流れ弾に当たる可能性が否めない。

 瑠璃は銃撃に怯える海羽を抱き寄せ、銃撃によるカメラの破壊が終わるまで待っていた。

 

 どれだけそうしていただろうか。気付けば銃撃は止み、人々は2人の近くからは居なくなっていた。

 しかし銃撃の主が分からない為、瑠璃は海羽をその場に残し自分は車の陰から少し顔を出し周囲の様子を伺った。

 

 そこに人がやって来る。言わずもがな、フランシス・エド・バーツの3人だ。彼らは手に硝煙を上げるベクターリーダーを持っている。

 

「よぉ、お嬢ちゃん。また会ったな?」

「今回は何時もと違うぞ?」

「俺達のお宝、返してもらうぜ!」

 

〈LEVIATHAN〉〈MOSASAUR〉〈MEGALODON〉

〈〈〈Transcription〉〉〉

 

 3人はベクターリーダーにカートリッジを装填し、それぞれインディゴサイクロン・ターコイズスウィール・コバルトウェーブに変身する。

 

 対する瑠璃は、海羽をその場に残して車の陰から出るとこちらも変身すべくリールドライバーを取り出して装着した。

 

「まったく……しつこい男は嫌われるわよ?」

〈Bet your life〉

「変身!」

〈Fever!〉

 

 瑠璃が変身したテテュスは、スカートの裾を翻しながら3人に飛び掛かる。迫る彼女の姿に、インディゴサイクロンとコバルトウェーブが接近戦で、ターコイズスウィールがベクターリーダーで迎え撃った。

 

「はぁぁぁっ!」

「何のぉ!」

 

 空中からのテテュスの回し蹴りをインディゴサイクロンがガントレットで受け止めた。テテュスはそれを踏み台にして飛び上がり踏み付ける様に踵落としをインディゴサイクロンに叩き落そうとしたが、それをターコイズスウィールが邪魔した。

 

「隙だらけだぜ」

「ぐぅっ!?」

 

 テテュスが空中に飛び落下する直前、動きが止まった所に銃撃をお見舞いして撃ち落とした。攻撃の邪魔をされて地面に落下するテテュス。

 そこに更にコバルトウェーブのホルスター剣による斬撃が襲い掛かる。

 

「貰ったぁっ!」

「あぁぁっ?!」

 

 見事な連係プレーを前に、遂にテテュスの対応が間に合わなくなりコバルトウェーブの斬撃を喰らってしまった。海羽の耳にもテテュスの悲鳴が届く。

 

「瑠璃姉ぇ!?」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから、心配しないで。それより――」

「おぉらぁっ!」

「早くネイトを、あぁぁっ?!」

 

 流石にこの3人を1人で相手にするのは厳しい。彼らは互いをよく分かっており、的確にお互いをカバーし合って戦っている。テテュスはレイズアップする暇もなく、一方的に攻撃されてばかりだった。

 

「うぐぅっ?! う、げぇ……ぐ、くぁっ!? はぁ、はぁ、うあぁぁっ?!」

 

 インディゴサイクロンの拳を腹に叩き付けられ、悶えながらも気力で立ち上がった瞬間ターコイズスウィールの銃撃により体勢を崩され、それでも何とか耐えていたところにダメ押しのコバルトウェーブの銃剣による強化斬撃が襲い掛かる。

 

 度重なる攻撃に遂にテテュスはその場に膝をつき動けなくなってしまった。

 

「う、ぐぁ……はぁ、はぁ……」

 

「そろそろ観念してお宝を返しな。そうすりゃこれ以上痛い目に遭わずに済むぜ?」

「ぜぇ、はぁ……ふふっ、お生憎様。これはもう私にとっても大事な物。そう簡単に……はぁ、はぁ……渡す訳にはいかなくなっちゃったのよ」

「それじゃ、仕方ないよなぁ?」

「後悔するなよ」

 

〈〈〈Full blast〉〉〉

 

 尚もリールドライバーを手放す気配を見せないテテュスに、3人はトドメとばかりにジェネリック・ブレイカーを発動させた。強化された銃撃と斬撃が一斉にテテュスに放たれ、度重なるダメージで満足に動けないテテュスは回避する事も出来ずなけなしの体力を振り絞って防ぐ以外に何も出来なかった。

 

「くぅっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 3人の必殺技をまともに喰らってしまい、テテュスは大きく吹き飛ばされ壁に背中を叩き付けられ受け身も取れず地面に落下して倒れる。

 

「がはっ!? ぐ、うぅ……ぁ」

 

 倒れた直後、限界に達したのか変身が勝手に解除される。傷だらけの姿で倒れた瑠璃に、3人は勝ち誇った様子で悠々と近付いていった。

 

 その彼らの前に、震えながらも海羽が立ち塞がる。

 

「あ?」

「退きなお嬢ちゃん」

「やる気か?」

 

「る、瑠璃姉ぇはこれ以上やらせない!」

「海羽ちゃん、ダメ……逃げて……」

 

 自分を守る為に3人の前に立ちはだかった海羽に、瑠璃は痛みを堪えながら逃げる様促した。何の戦う力も持たない海羽が前に出るなど無謀でしかない。火の中に飛び込むようなものだ。

 

 しかしこの日の海羽は違った。この時の海羽は、瑠璃を守る為に力を持っていた。

 

「私が……私が瑠璃姉ぇを守って見せる!!」

 

 鞄からスピンドライバーを取り出し腰に装着する。こちらはリールドライバーと違い、ネイトが先に使用していたにも関わらず海羽にも装着できた。

 

 海羽がスピンドライバーを持っていた事に瑠璃は驚き、インディゴサイクロンとターコイズスウィールはやや狼狽えた様子を見せた。

 

「海羽ちゃん、何でそれ!?」

 

「お、おいおい大丈夫か? あの嬢ちゃんも変身しちまうんじゃ?」

「おいバーツ?」

 

 警戒するインディゴサイクロン達だったが、コバルトウェーブは狼狽える事もなく海羽の行動を冷静に観察していた。

 

 その視線に気付く事もなく、海羽はドライバーを装着できた事に喜び笑みを浮かべるとドロップチップを一枚挿入した。

 

「よし、よし、よし! 次は、これを入れて……」

〈Catch your fate〉

 

 目の前に出現したスロットを見て、海羽がレバーを下ろす。3つのリールが高速で回転し、スイッチを押して絵柄を合わせれば変身できる。

 

 だがリールが回転し始めた途端、海羽の顔から希望が消えた。

 

「え? あ、え、えっ!?」

 

 リールの回転があまりにも速すぎるのだ。海羽には回転するリールの速度が速すぎて、絵柄も何も見えていない。

 

「えっと、えっとぉ……えいっ!」

 

 困惑しながらも、とりあえずスイッチを押して絵柄を止める。が、絵柄は全てバラバラで、これでは当然変身出来ない。

 

 絵柄が外れた瞬間、出現したスロットは水泡の様に空しく消えていった。

 

「あぁ、嘘ッ!? 待って、待ってぇ!?」

 

 消えるスロットを引き留める様に手を伸ばすが、手は空しく虚空を切り変身できないどころか何も掴めなかった。海羽はそれでも諦めず何度もスロットを回すが、絵柄は1つも合う事はなくドロップチップを無駄に浪費するだけであった。

 

 その様子にコバルトウェーブは勝ち誇ったように言った。

 

「やっぱりな。アイツらのドライバーは使うのにコツが要るんだ。あの女みたいに、ギャンブルに強くないと変身すらまともに出来ねえ」

「何て使い辛いんだ」

「だがなんだってそんな造りなんだ?」

「知らね? ギャンブルに強い奴だけが使える様にしたかったんじゃねえの?」

 

 何より今の彼らにはそんな事どうでもいい。重要なのはテテュスが倒れ、オケアノスが戦えないという事。今なら彼らはやりたい放題、お宝頂戴も思いのままだ。

 

「さ~て、それじゃお宝を返してもらおうか?」

「待ってました、と」

「やれやれ、やっとだぜ」

 

「あ、あぁ――――!?」

 

 変身できなかった海羽は、迫る3人に戦きその場に腰を抜かしてしまう。その様子に瑠璃は立ち上がって海羽を守ろうとした。

 

「み、海羽ちゃん……くっ!?」

 

 立ち上がろうとする瑠璃だったが、痛みで体に力が上手く入らず立てない。

 

 その間に海羽にインディゴサイクロンの手が伸び、彼女からスピンドライバーを取り上げようとした。

 

 だが突如飛んできた鞭が3人を引っ叩き海羽から引き剥がし、更にはターコイズスウィールの手からベクターリーダーを奪い取った。

 

「いてててっ!?」

「な、何だこれ!?」

「あっ!?」

 

 ターコイズスウィールから奪われたベクターリーダーは、引っ張られて鞭の持ち主の手に納まる。

 

 引っ張られていく鞭の先、そこに居たのはネイトであった。

 

「よっと!」

 

 ネイトはベクターリーダーを奪い取ると、それを3人に向け何度も引き金を引いた。放たれる銃弾に、3人も堪らず更に海羽から距離を取る。

 

 インディゴサイクロン達を引き剥がしながら、ネイトは海羽に近付き海羽と瑠璃を守りながら海羽に声を掛けた。

 

「海羽ちゃん、スピンドライバー返して!」

「え、あ……」

「早く!!」

「は、はい!?」

 

 慌てて腰からドライバーを外してネイトに手渡すと、ネイトはベクターリーダーを明後日の方に投げ捨てドライバーを装着しオケアノスに変身した。

 

「変身!」

〈Fever!〉

 

 海羽が出来なかった変身を苦も無く成功させ、インディゴサイクロン達と対峙するオケアノス。

 

 その様子に彼らも今度こそ焦りを感じずにはいられなかった。

 

「おいぃっ!? 結局アイツが変身しちまったじゃねえか!?」

「俺のベクターリーダーッ!?」

「くそぉ、もうちょっと後になってから仕掛けるべきだったか?」

 

 もし、海羽が学校に向かった後でなら、ネイトは変身できず瑠璃1人を3人で倒してドライバーを奪えたかもしれない。事を急いだのに加え、ちょっぴり欲をかいてスピンドライバーも頂戴できるかもと考えたのが敗因であった。

 

 だがまだ彼らのチャンスは失われていない。敵はオケアノス1人なのだ。ならば先程テテュスに行ったように、3人で攻撃を仕掛ければ――――

 

「多分これだろう!」

〈Bet〉

 

 一方オケアノスは、ケースからチップを3枚取り出しドライバーに入れレバーを下ろすと、果物マークを3つ揃えて止めた。ドライバーからはその瞬間にファンファーレが鳴り響く。

 

〈BINGO! Item drop. Cure ball.〉

 

 絵柄が変形し、淡い緑の光を放つ玉になった。オケアノスはそれを掴むと、倒れている瑠璃に向けて放り投げる。

 

「瑠璃!」

 

 玉は瑠璃に当たると弾けて光の粒子を浴びせた。すると瑠璃の体に合った傷が見る見るうちに癒えていったではないか。

 その光景に今度こそインディゴサイクロン達は度肝を抜かれた。

 

「「「何ぃぃぃっ!?」」」

 

「すご、テテュスと同じ事出来るんだ」

「これで大丈夫だろ? さっさとあいつら叩きのめすぞ!」

「うん!」

 

 傷が癒えればまた戦える。瑠璃はテテュスに変身し、オケアノスと並んでインディゴサイクロン達と対峙する。

 

「お、おいどうする? これヤバいんじゃないのか?」

「どうする、バーツ?」

 

 焦りのあまり、インディゴサイクロンとターコイズスウィールは一番の年下である筈のコバルトウェーブに意見を求めた。それはこの場に居る面子の中で、こと戦闘に関しては彼が一番優れているからだ。

 

 並び立って自分達の前に立ちはだかるテテュスとオケアノスを前に、コバルトウェーブは唸り声を上げるとインディゴサイクロン達に手を差し出した。

 

「こうなったら、”あれ”やるしかねえ! 兄貴、カートリッジ!」

「マジか、ぶっつけ本番でか!?」

「やるしかねえか。バーツ、俺の使え」

 

 ターコイズスウィールは徐に自分が使うモササウルスベクターカートリッジをコバルトウェーブに手渡した。コバルトウェーブはカートリッジを受け取ると、自分のメガロドンベクターカートリッジと続けてベクターリーダーに読み込ませた。

 

〈MEGALODON, leading. MOSASAUR, leading〉

 

「ッ! 二つ?」

 

「行けぇ!」

〈Double transcription〉

 

 ベクターカートリッジを二つ使用して変身するダブルトランスクリプションにより、コバルトウェーブにモササウルスの遺伝子情報が追加される。滑らかだったアンダースーツに鱗の様な細かい装甲が追加され、更に両足が鋭い突起のある装甲が装着された。鮫を模した仮面は両耳の部分に突起が追加され、厳つさを増す。

 

 新たな姿となったコバルトウェーブ……コバルトオーシャンは、自身の中に漲る力に体を震わせた。

 

「お、おぉぉ……すげぇ! やっぱ2個同時使用はキクぜ!」

「お、おい大丈夫かバーツ?」

 

 コバルトウェーブにカートリッジを使わせたからか、ターコイズスウィールは変身が解けエドの姿に戻っていた。エドに心配され、コバルトオーシャンは拳を握りガッツポーズをとる。

 

「あぁ、心配するなエド兄貴! フランシス兄貴、行くぜ!」

「応ッ!」

 

 溢れ出る力を放出する様に迫るコバルトオーシャンに、オケアノスはテンペストウィップを召喚し振り下ろす。鞭に水流を纏わせての一撃は、防御したにもかかわらずインディゴサイクロンを弾き飛ばした。

 

「どわぁぁぁぁっ!?」

「ぐっ!?」

 

 エドの近くまで吹き飛ばされたインディゴサイクロンだったが、コバルトオーシャンは違った。なんと彼は振るわれた鞭を受け止めて耐えてしまったのだ。

 

「何ッ!?」

「いつ……へへっ、この程度かよ!!」

「うぉっ!?」

 

 受け止めるだけでは飽き足らず、コバルトオーシャンは鞭を逆に引っ張りオケアノスから武器を取り上げた。そしてそれを今度は2人に向けて振り回す。

 

「オラオラァッ!!」

「イテッ!?」

「きゃあっ!?」

 

 振り回す鞭でテテュスとオケアノスをこれでもかと引っ叩き、満足したコバルトオーシャンは鞭を放り捨て今度はホルスター剣で斬りかかって来る。

 テテュスは振り下ろされたホルスター剣を両腕で受け止めるが、パワーも強化されたのかコバルトオーシャンは受け止めてテテュスを逆に押さえつけ地面に膝をつかせた。

 

「うぐっ!? く……くぅ、うぁ――?!」

「くそ、瑠璃!?」

〈BINGO! Skill activation. TEMPEST RUSH.〉

 

 このままだとテテュスが危険だと、オケアノスはチップを3枚ベットして3を揃えて技を発動。水流を纏った連続パンチを放つ『テンペストラッシュ』により、コバルトオーシャンを力技で引き剥がした。

 

「おぉぉぉぉっ!!」

「ぐぉぁっ?!」

 

 これには流石に踏ん張りが利かなかったのか、テテュスから引き剥がされるコバルトオーシャン。だがまだ倒れはしない。

 

 そこに今度はお返しとばかりにテテュスのウェーブスマッシュが放たれる。

 

〈BINGO! Skill activation. WAVE SMASH.〉

「イヤァァァッ!!」

「ぐぇっ?!」

 

 水流を纏った蹴りが防御も許さずコバルトオーシャンに突き刺さる。立て続けに強力な攻撃を喰らわせ、テテュスとオケアノスは勝利を確信した。流石にこれだけ食らわせれば倒れるだろうと……

 

「いっつつつ……ふぅ」

「えぇっ!?」

「嘘だろ?」

 

 だがコバルトオーシャンは倒れなかった。流石にダメージは受けたのか、攻撃を受けた部分を擦りはしたが倒れたりすることはなく埃を落とす様に体を払っただけで済ませてしまう。

 

 その光景に2人は絶句していた。

 

「へへっ! 流石2個同時使用だ、すげぇ力だぜ!」

 

「ヤバいな、ここまで変わるか」

「でも、倒せない訳じゃない。ネイト! 同時に行くよ!」

 

 僅かに慄くオケアノスに対し、テテュスはチップケースを手に彼を誘った。オケアノスはそれだけで彼女が何をしようとしているのかに気付いた。

 2人でバラバラに攻撃して倒せないなら、2人同時に、それも強力な必殺技を喰らわせてやろうと言うのだ。

 

 確かに現状それ以外にコバルトオーシャンに対抗する手段はない。このままやられるのを待つ位ならと、オケアノスもチップケースを手に答えた。

 

「よし、分かった!」

 

〈〈All in〉〉

 

 ケースをドライバーに装着し、同時にレバーを下ろしたテテュスとオケアノス。それぞれの眼前に出現したルーレットとスロットを、最高のタイミングで止めた。

 

「赤の1!」

〈SEVEN! SEVEN! SEVEN! Three of a Kind Seven!〉

 

〈〈Fever!〉〉

 

「やってみろ!!」

〈Full blast〉

 

 テテュスの必殺技ジャックポットフィニッシュと、オケアノスのビッグウィンフィニッシュがコバルトオーシャンに放たれる。対するコバルトオーシャンもジェネリック・ブレイカーで対抗し、2人の飛び蹴りと強烈な銃撃がぶつかり合った。

 

 激しい拮抗、収まりきらない余波が地面をひび割れさせていく。

 

「「くぅぅぅぅぅぅぅっ!?」」

「ぐぎ、ぎぎぎぎ――!?」

 

 互いに一歩も退かないテテュス達とコバルトオーシャン。その拮抗が唐突に破られた。

 

 僅かに前に進むテテュスとオケアノス。一瞬拮抗が崩れると、それを皮切りにして2人の蹴りがコバルトオーシャンの銃弾を押し退けて突き進んだ。

 

「なっ!?」

「「ハァァァァァァァッ!!」」

 

 強化された筈の必殺技を打ち破られ、一瞬思考が止まりかけるコバルトオーシャンだったが危機が目の前に迫っていると見て反射的に防御態勢を取った。直後に炸裂したテテュス達の必殺技に、彼は大きく吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。

 

「ぐあっ!? がはぁっ?!」

「バーツ!?」

「大丈夫か!?」

 

 コバルトオーシャンは倒れると同時に変身が解除され、後には傷だらけのバーツが残される。フランシスとエドは傷付いたバーツを抱え、大急ぎでその場を後にした。

 逃げる3人を、テテュスとオケアノスは見送り変身を解除した。

 

「ふぅ……ネイト、ありがとう」

「気にすんな。間に合って良かった」

「そう言えば、どうして気付いたの?」

「俺なりにこいつの事を調べててな。で、今日も調べようとしたら無くなってたんで、海羽ちゃん辺りが何か知らないかと思って追いかけてきたら案の定だったって訳だ」

 

 そこで2人は同時に海羽の事を見た。2人に視線を向けられ、海羽の方がびくりと震える。

 

「あ、えと……その、あの……」

 

 必死に何か言い訳を口にしようとする海羽だったが、何を言っても無駄な気がして何も言葉が出てこない。

 

 その間に瑠璃が海羽に近付くと、座り込んでいる彼女の腕を引っ張り上げて無理やり立たせた。海羽を立たせる際の瑠璃の顔には、驚くほど何の表情も浮かんでいない。

 

「え、と……る、瑠璃姉ぇ?」

 

 何も言わず立たされて恐る恐る瑠璃の顔を見る。

 

 次の瞬間、海羽の頬を瑠璃の手が引っ叩いた。

 

「ッ!?」

 

 突然の平手に驚き言葉を失った海羽の両肩を瑠璃が掴む。その顔には先程とは違う険しい表情が浮かんでいた。

 

「何でこんな事したの!? ネイトが来るのが遅れてたら、海羽ちゃんも大変だったかもしれないのよ!?」

「あ、あの!? わ、わた、私……る、瑠璃姉ぇの、助けになりたくて、それで……」

「だからって! ネイトからドライバーを盗んで、これで相手があの化け物だったらどうするの!!」

 

 今回の相手がバーツ達だったのはある意味で幸運だった。彼らなら最悪命を奪う様な事はしなかっただろう。だがディーパー達は違う。奴らに慈悲などはない。獲物と定めたら、相手が何であろうと絶対に容赦しない。

 

 もしネイトがスピンドライバーを盗まれた事に気付かずディーパーとの戦闘に突入していたら…………或いは海羽が1人でディーパーが出現した現場に向かい変身に失敗していたら…………その時、海羽やネイトの命が失われていたかもしれない。

 

 それは2人の命に係わるだけでなく、鉄平など海羽に関わる人を悲しませる結果にも繋がる。勿論瑠璃もだ。

 

 海羽の今回の行動はあまりにも軽率だった。故に、瑠璃は普段滅多に見せない怒りを海羽に向けたのだ。

 

 普段自分に対しては優しい瑠璃に怒られ、そして同時に心配をかけていた事も知らされ、衝撃と申し訳なさで海羽は子供の様に泣きじゃくりながら瑠璃に謝った。

 

「ごめ、ごめ――! ごめんなさいぃ!! ぐすっ、うあぁぁ……ごべんなざい!!」

 

 肩を震わせてボロボロと涙を流す海羽の姿に、瑠璃も流石に言い過ぎたかと頭が冷えた。彼女は泣きながら何度も謝罪を繰り返す海羽の体を優しく抱きしめ、頭を撫でて落ち着かせた。

 

「心配、凄くしたんだから」

「うん……うん!」

「でも、海羽ちゃんも私の事を心配してくれてたんだよね。ありがとう。だけど、こんな危ない事はしないで。私が頑張れるのは、海羽ちゃんが待っててくれてるからでもあるんだから」

 

 海羽が居て、鉄平が居て、今はネイトが居て。そんなFUJINOがあるから、瑠璃は恐れず戦う事が出来る。記憶の無い彼女にも、帰る場所があるという事はそれだけで大きな心の支えとなった。

 

 無理はしなくても良い。そこに居てくれるだけで瑠璃には大きな助けとなってくれるのだから。

 

 それから少しの間、海羽は瑠璃の胸の中で泣き続けた。彼女が落ち着いたのは、遠くから警察のサイレンが聞こえた頃だった。

 

「落ち着いた?」

「うん……ゴメン、瑠璃姉ぇ。ネイトさんも……ごめんなさい」

「気にしなくてもいいよ。それに、こいつが瑠璃のと違って使うだけなら誰でも出来るって分かったのは1つの収穫だ」

 

 現金な事を言うネイトだったが、それが彼なりの海羽への元気付けだという事に瑠璃は気付いた。悪い事ばかりではないと教えることで、海羽の心の負担を少しでも減らそうとしたのだ。

 

 彼の気遣いは海羽にも分かったのか、彼女は泣きはらした目でそれでも笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 

 その後、やって来た警察に事情を説明し慎司達にも事情を説明して3人は解放され取り合えず今回の件は丸く収まった。

 

 そして夜、店の手伝いも終わった海羽は1人自室でベッドに横になりながらこの日の事を深く反省した。

 

(私……瑠璃姉ぇに甘えすぎてた。頼ってばかりじゃダメなんだ。少しでも瑠璃姉ぇ離れしなくちゃ……)

 

 海羽の手には1枚のプリントが握られていた。今日学校で渡されたものだ。

 

 そのプリントには、本州長期合宿申し込みと言う文字が書かれていた。




という訳で第14話でした。

スピンドライバーは誰でも使えますが、扱いは非常に難しいです。ネイトだから使えてると言っても過言ではありませんね。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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