仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

評価ありがとうございます、励みになります!

今回は瑠璃があの格好になります。


第15話:コールドストリーク、垣間見える記憶

 港の大型クルーザーの中ではフランシス・エド・バーツの3人がラウンジでだれていた。原因は簡単だ、先日の戦闘で瑠璃とネイトにコテンパンにのされた事が未だに尾を引いているのである。

 特にバーツはかなり精神的に参っている様子だった。無理もない、切り札であったダブルトランスクリプションを用いて負けたのだ。自信を木端微塵に打ち砕かれて落ち込んでいた。

 

「おやぶ~ん、元気出してくださいよ~」

「エドワード兄貴も、ほらほら。良い男が台無しですぜ」

「バーソロミュー兄貴! これでも食って元気出してくだせぇ」

 

 子分達が必死に3人を元気づけようとしているが、状況は芳しくない。

 それでもフランシスとエドの2人は傷が浅いからか回復も早かった。だがバーツはどうにもよろしくない。今も子分により鼻先に突き付けられた、街で買ったと思しきフライドチキンを受け取りもせずチマチマと齧っている。見るからに重症だ。

 

「あ~ぁ~。コテンパンにやられちまったなぁ~」

「しかもこの間は少し派手に動きすぎた。警察やS.B.C.T.が警戒し始めてる」

「前に比べたら怪物騒動も大人しくなったからな」

「そうだっけっか? 最近行方不明になってる人がちらほら居るから、また街がピリピリしてきたって聞いたぞ?」

「あ、そうなの?」

 

 フランシスとエドの2人が今の街の状況などに関して話し合っている。先程に比べたら調子を取り戻してきたように見えた。ここら辺は集団の長に納まる立場として色々と弁えているのもあるのだろう。

 

 だがバーツは未だに落ち込んでいた。もうフライドチキンを齧る事も止め、何だか物理的にも溶けてきたのではと錯覚するほどソファーに沈み込んでいる。

 

 このままではいかん。子分にも示しがつかないし今後の活動にも差し障る。

 

 フランシスは自分を奮い立たせ、立ち上がると気持ちを切り替えて声を上げた。

 

「いかんいかん! こんな事ではお宝は勿論、仕事も儘ならねぇ。お前ら、今夜は飲みに行くぞ!」

「飲みに……まぁ悪くはないか」

 

「飲み放題っすか!」

「食い放題っすか!」

「お触りありっすか!」

 

 飲み会に行くと決まり、子分達が賑わい始めた。ここは賭博と酒の街、それだけに存在する居酒屋やBARのクオリティも高いものが多い。俄然期待も高まると言うものだ。

 そうでなくとも子分達は特に騒ぐことが3度の飯より好きと言う奴が多い。適度に飲み会を行う事は、彼らの士気高揚の意味でも効果的であった。

 

 そんな中でもバーツはまだ気落ちした様子だ。これはいけないと流石に見かねたフランシスが近付いていった。

 

「ほれバーツ! 何時までしょげてるんだ、お前も来い!」

「……俺も飲んでいいのか?」

「馬鹿言え、お前はまだ未成年だろうが。お前はソフトドリンクに決まってる」

 

 フランシスに声を掛けられて頭を上げたバーツだったが、飲酒は禁止されたとみて再び興味なさそうにソファーに頭を乗せた。こんな連中だが、フランシスは未成年飲酒には厳しくバーツは今まで酒を許された事はなかった。

 

 今回は流石に許されても良いのではと期待したバーツだったが、結局自分は酒を飲めないという事に落胆を隠せなかったらしい。

 

「腐るな腐るな。お前にはまだ早いってだけだ。それにな、これから行く酒場を聞けばそんな事も行っていられなくなるぞ」

「酒場? そう言えば兄貴、何処の酒場に行くつもりなんだ?」

 

 何やら意味ありげな言い方をするフランシスにエドが疑問の声を上げる。この街には数えるのも億劫になるくらいの酒場があり、正により取り見取り。その一方で、水準は五十歩百歩という店も少なくはなく特色のある酒場と言うのはそう多くない。

 

 フランシスは一体どこの酒場に連れていくつもりなのか?

 

「ふっふっふっ! それは着いてからのお楽しみだ。だがな、着けばお前らびっくらこくぞ!」

 

 意味ありげに笑うフランシスに、流石に気になったバーツが顔を上げエドと顔を見合わせた。

 

「よっしゃ行くぞ!!」

 

 バーツが興味を持ったのを察知し、有無を言わせずフランシスはバーツを立たせ他の連中も連れて船を出て行こうとする。

 その際、次いでだからと8号も誘った。

 

「お~い、嬢ちゃん! お前も一緒に……って、あれ?」

 

 8号が居る筈の部屋を覗き込むフランシスだが、室内には誰も居なかった。

 

「ん~? 嬢ちゃんは1人で出掛けてるのか? ふ~ん……ま、いっか」

 

 気を取り直し、弟分や子分達を連れて街へと繰り出す。色々な人が集まる街と言えど、彼らの様な荒くれ者然りとした人相・容貌の連中は珍しいのか、変に注目を浴びるし中には距離を取る人もいた。

 

 そんな視線など気にすることなく、フランシスは仲間をある酒場へと連れていく。

 

「お、ここだここだ」

「ここ…………って!?」

「兄貴……マジか?」

 

 目の前の店にエドとバーツが言葉を失う。何しろその店と言うのが、あろう事かBAR・FUJINOだったのだから。

 

「いや~、実は前々から気にはなってたんだがな。折角だから来ておきたくて……」

「いやいやいや!? 兄貴馬鹿か! ここの連中と今正にトラブってる真っ最中だって忘れたのか!!」

「ついこの間煮え湯を飲まされた連中なんだぞ!? どの面下げて店入れってんだよ!!」

 

 当然エドとバーツからはブーイングが飛んだ。特にバーツは気まずいなんてものではない。ついこの間、コテンパンにやられたばかりなのだ。顔を合わせづらいなんてものではない。

 

 だがフランシスは全く気にした様子が無い。それどころか、何故か不敵な笑みすら浮かべている。

 

「まぁ聞け。確かに俺達はこの店の連中と諍いがある。だがそれは店とは何も関係ないところでだ。逆を言えば、俺達は客としてこの店に来たことは一度もない」

「そ、それが?」

「つまり俺達が普通に店に入れば、アイツらは俺達を客として持て成すしかねえ! この意味が分かるか?」

 

 エドとバーツは頭を働かせた。気に入らない奴、争った奴が働いている店に、客と言う立場で入る。当然店の為に瑠璃達はフランシス達を持て成さねばならず、店の事を考えれば雑に扱う訳にもいかない。

 

 つまり、客として入っている間は立場は彼らの方が上になる訳だ。その事に気付きエドとバーツの顔にも笑みが浮かぶ。

 

「なるほど……そういう事か」

「そう言う事なら、精々しっかり持て成してもらおうじゃねえか」

「ふふふふふ! あの美人の姉ちゃんにしっとりばっちり接待してもらうぞ。酔った風を装ってお触りするのもアリかもな!」

 

 一見だから彼らは知らないが、この店でお触りなんてしようものなら最後、ルーレットで骨の髄まで絞られることになる。

 そんな事等露知らず、期待を胸にフランシス達は店へと入った。

 

「あ……いらっしゃい……」

「――――ん?」

 

 部屋に入るとドアベルが鳴り、店内にいた海羽が出迎えた。…………のだが、何だか様子がおかしい。接客と言うには覇気がなく、そもそもフランシス達の顔を知っている筈なのに彼らが来たことに全く動じていない。

 肝が据わっているから動じないと言うのとは明らかに違う。何と言うか、気にするのも億劫だと言う感じだった。

 

 しかもよくよく見ると、店の雰囲気も何だか暗い。他に客の姿はなく、異様な静けさが店全体を包んでいた。

 

 フランシスは首を傾げた。事前情報ではここは街の人に人気の、隠れた名店的な店だった筈だ。こんな場末の明日にも潰れそうな店ではなかったと聞いている。

 一体どういうことかと首を傾げていた時、彼らはある事に気付いた。

 

 瑠璃の姿が無いのだ。この店の看板娘である筈の瑠璃が見当たらず、店はマスターと海羽の2人で切り盛りしている状況だった。

 尤もフランシス達以外客が居ない状態だったので、切り盛りもへったくれもないが。

 

「何か……聞いてた話と随分違うな?」

「明日には無くなってもおかしくないぞ? ここで合ってるのか兄貴?」

「間違いない。だってあの子いるじゃん」

 

 困惑しつつ、とりあえず席に着く。子分達は早速酒や料理を注文しているが、どうにも店の状況が不可解でフランシス達3人は素直に注文したりする気になれなかった。

 

 そんな彼らの元にも、海羽は注文を取りにやって来る。が、その顔には覇気が感じられず、今にも消えてしまいそうな様子だった。

 

「……ご注文は?」

「なぁ、何でそんな普通にしていられるんだよ? 俺らが来たんだぞ? もうちょっと慌てたりしたらどうなんだ?」

「え? あ……や、いいや。別に、どうでも……」

「どうでもって――――?」

「なぁお嬢ちゃん? あの仮面ライダーの嬢ちゃんの姿が見えないが、何やってるんだ?」

「ッ!!」

 

 どうにも要領を得ない海羽の言葉に首を傾げていると、フランシスが思い切って瑠璃の所在を訊ねた。この状況、瑠璃が関わっているに違いないと踏んだのだ。

 どうやらそれは当たりの様で、瑠璃の名を聞いた瞬間海羽の表情が劇的に変化した。最初は電流が走ったかのように強張り、次第に目に涙を溜めたかと思うと次の瞬間には堪え切れなくなりバーツに抱き着き泣き始めた。

 

「う……あぁぁぁぁぁっ!? 瑠璃姉ぇが、瑠璃姉ぇがぁ!?」

「ちょ、ま!? 何でいきなり抱き着く!? とりあえず落ち着け、事情を話せ!」

 

 自分に泣きついてくる海羽を何とか宥め、近くの椅子に座らせ事情を聴いた。

 

 因みにバーツ達がこんな状況になっていると言うのに、子分達は楽しそうに酒を飲み交わし料理に舌鼓を打っていた。

 

 そんな気楽な子分達を一睨みしつつ、バーツは海羽に事情を話させた。

 

「それで? 一体何があったんだよ?」

「グスッ……それがね――――」

 

 

 

 

「――――何ぃっ!? アイツが身請けされた!?」

 

 話の内容を要約すると、瑠璃はこの街でも指折りの悪党と言われる弦二が経営するカジノ・ヘブンズゲートに引き抜かれたと言うのだ。

 

 何があったかと言うと、突然弦二が開店前の店に乗り込んでくると瑠璃と何やら話し、有無を言わさず彼女を連れて行ったと言うのだ。勿論鉄平と海羽、ネイトも抵抗したが聞く耳は持たず、また瑠璃も苦悩しつつ弦二について行くことにしたらしい。そして去り際に弦二は店に札束を置いて去っていった。

 

 この事が周囲に伝わり、看板娘を失ったFUJINOはその直後から客足が途絶え、こうして寂れた雰囲気になっていたという事らしい。

 

 一通り話を聞いたフランシスは首を傾げた。

 

「ん~? 変だな……この店、住民から愛されてたんだろ? それなのに、看板娘が居なくなった直後に客足が途絶えたりするか?」

「大方、その弦二って野郎が店の常連を脅したんだろ。この店にしてみれば看板娘を強引に取られたんだ。法的手段で取り返す体力を奪う為に、客足を途絶えさせたんだろうよ」

「最初に金握らせたのはただの時間稼ぎって事かよ」

 

 海羽を加えて、フランシス達は顔を突き合わせて考え込む。

 

 よくよく考えてみればここで彼らがこの店の事情をそこまで真剣に考えてやる必要もないのだが、その事に気付く者は誰も居ない。

 

 そこに今まで姿を見せなかったネイトがやって来た。店の扉を開き、何処か苛立った様子で入って来たネイトに海羽が飛びつく様に近付いた。

 

「ただいま……くそっ」

「ネイトさん! どうだった?」

「どうもクソもない、門前払いだ。挙句の果てに力尽くで追い出されたよ」

 

 よく見るとネイトの顔には殴られた後の様な痣がある。一向に退かない彼に、弦二の店の警備が暴行を振るったのだろう。

 

 痣を撫でながら、ネイトは賑わいを見せる店内を珍しそうに見渡した。

 

「それにしても、今日は随分賑わってるな? 瑠璃が居なくなってから閑古鳥が……って!?」

「「「よっ」」」

 

 物珍しそうに店内を見渡していたネイトだったが、フランシス達と目が合った瞬間目を見開いた。流石に彼は、海羽とは違って無気力ではいられなかったらしい。それどころか、この状況を彼らの差し金かと食って掛かった。

 

「そうか、お前らが原因か!? 卑怯な手を使いやがって!?」

「待て待て待て、そいつは誤解だ」

「俺らも今知ったばかりなんだ」

「大体俺らの目的はアイツの持ってるお宝だぞ? 店にまで手を出して何になる?」

「ネイトさん、こいつらの言ってる事は本当よ。瑠璃姉ぇの事にこいつらは関わってない」

 

 フランシス達を疑うネイトだったが、3人が全力で否定し更に海羽の口添えもあってネイトは怒りを引っ込めた。3人の言葉だけならまだしも、海羽までが弁護に回るなら証拠も無しに疑うのは良くない。

 

「……そうなのか?」

「信じちゃいないが、神に誓ってもいい」

「今日は普通に客として来ただけだ」

「つう訳で、いい加減そろそろ酒貰いたいんだけど――」

「「お前は駄目だ」」

「……チッ」

 

 とりあえず今回に限って言えば敵ではないことは分かった。よく店を見渡せば、こいつらの子分は普通に酒と料理を楽しんでいる様子なのだ。リールドライバーが目当てなら、手に入れた後でこんな事をするのは無駄に過ぎる。ネイトは自分を納得させると本格的に矛を収めた。

 

「――悪かった。一方的に疑ったりして……」

「まぁ派手にやり合った仲だしな」

「お人よしは真っ先に食われるのが世の常だ。疑うのは悪い事じゃない」

 

 頭を下げるネイトに、フランシスとエドが手を振って答える。敵対しかしていなかったが、こうして話してみると案外ちゃんと話せる奴らで少し驚いた。

 

 そうこうしていると海羽が2人分のビールとジュースを一つ持ってやって来た。

 

「お待たせ。取り合えず、お酒とジュースね」

「お! 待ってました!」

「んじゃ、とりあえず一杯」

「いいなぁ、兄貴達は酒が飲めて」

 

 飲み物を渡され、3人は軽く乾杯すると一気に飲み干しお代わりを要求した。海羽が3つのグラスを持って引っ込んでいき、ネイトはその場に残った。瑠璃を取り返す為の知恵を借りようとしたのだ。

 

「なぁ、恥を忍んで頼むが、手を貸してくれないか?」

「嬢ちゃんを取り返す為にか?」

「あぁ。大切な奴なんだ……頼む!」

 

 ネイトは彼らを瑠璃の故郷を襲った連中ではないかと疑っている。だがこうして直に話してみると、本当にそうなのかと疑問を抱かずにはいられなかった。こうして店で普通に飲み食いし、悩みも聞いてくれる彼らからは非道な雰囲気は感じられない。少なくとも島の住民を皆殺しにしてお宝を奪うような連中には思えなかった。

 

 だから、ここは彼らを見極める意味でもネイトは彼らに助力を求めたのだ。

 

「って言ってもなぁ……金になりそうにないし……」

「そのカジノ、この街でも有数の規模なんだろ? そこに仕掛けるとなるとこっちも相応のリスクを負う。それに見合うかって言われるとなぁ」

「大体、俺達はついこの間まで敵同士……いや今もだろ? そんな連中に助けを求めるとか、お前どうかしてるぞ」

 

 分かってはいたが、彼らからの反応は芳しくない。やはり元々敵同士で、しかも一度は任された相手と手を組むのは抵抗があるらしい。

 

 渋る彼らにネイトは落胆の溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

 そこに海羽がお代わりの飲み物と、手軽に摘まめる料理を持ってやって来た。ネイトの顔から、交渉が難航している事を海羽は察する。

 

 海羽は頭を働かせた。どうすれば彼らを動かす事が出来るか?

 

「…………あ」

 

 少しの間考え込み、そして海羽はある事に気付いた。こいつらを動かすなら、難しい事は何もなかった。

 

 海羽は彼らにとってのジョーカーを切った。

 

「そう言えば、瑠璃姉ぇが連れていかれる時、リールドライバーも一緒に持って行ってたわね。今頃向こうのカジノにあるんじゃない?」

 

「「「…………何ぃッ!?!?」」」

 

 

 海羽がリールドライバーの現在の所在を明らかにした瞬間、フランシス達は一瞬動きを止めた後先程までとは打って変わって必死な形相で海羽に注目した。

 やはりそうだ。こいつらはリールドライバー……に係わるお宝とやらが関係すると目の色を変える。前まではそれで瑠璃に付き纏っていたのが煩わしくて仕方なかったが、今回はその執着が役に立ってくれた。

 

 ある意味で単純な彼らに、海羽はこっそりとほくそ笑んだ。

 

「…………怖」

 

 ネイトは別の角度から海羽を見ていたので、彼女がしてやったりな悪い笑みを浮かべている様子をばっちりと目にしていた。その様子に彼は海羽の強かさを目の当たりにし、その恐ろしさに顔を引き攣らせた。

 

「こうしちゃいられねぇ! 兄貴達、行くぞ!」

「応よ! お宝は俺達の物だ、他の誰にも渡さねぇ!」

「ほれお前ら! 何時まで飲んでんだ、行くぞ!!」

 

 3人は手元の飲み物を一気に飲み干し立ち上がると、未だ騒いでいる子分達に喝を入れて早速瑠璃(と言うかリールドライバー)を奪還しようとした。だが既に子分達はすっかり出来上がっており、喝を入れられても尚その動きは鈍い。

 

 情けない子分達に焦れる3人だったが、急ぐフランシス達をネイトが引き留めた。

 

「待て待て。いきなり真正面から乗り込んでも摘まみ出されるのがオチだぞ」

「知るか! 俺らのお宝に手を出す奴は何だろうと許さねぇ」

「その通り! 邪魔するってんなら矢でも鉄砲でも持って来いってんだ!」

「だから落ち着け。下手に暴れると瑠璃の方が危ない」

 

 ネイトの言葉に、3人がむぅっと黙り込む。

 彼らが落ち着くと、ネイトは海羽を交えて一つのテーブルにつき話し合いを始めた。瑠璃を助け出す為の話し合いだ。

 

「さて、作戦会議だ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 海都にはいくつものカジノが集まっているが、その中でも指折りの規模を誇るカジノの一つが弦二の経営するカジノ・ヘブンズゲートだ。

 店内はこれでもかと煌びやかで広い店内には様々なゲームが並んでおり、内装と賑わいからはまさにこの世の楽園と言う言葉が浮かぶ。

 

 だがそれらは客から金を搾り取り、店に大きな利益を齎す為の餌でしかない。客の中には店のディーラーにカモにされ、限界まで絞られるどころか借金まで背負わされ何もかもを奪われる者も居た。それらは弦二の手下により秘密裏に店の裏へ連れ去られ、男は強制労働、女は娼館へと回される。

 

 悪評は街の人間ならその殆どが知るところなのだが、街を治める政府はこのカジノに対して大きな行動に出れていない。

 弦二はなかなかに強かな男であり、買収できる者は買収しつつあまり騒ぎになり過ぎることはないようにと時に慎重に立ち回っていた。それ故明確な証拠もなく、また街自体まだまだ問題が山積みでありそこまで手が回らないと言うのが現状であった。

 

 そんなカジノの中で瑠璃は働いていた。

 

 その装いは普段とは全く異なる。普段店で働く時は改造ディーラー服の上にエプロンを纏っており、ウェイトレス兼ディーラーとしてのスタンスを見せていた。

 だが今の彼女の服装は所謂バニースーツだった。肩と胸元は大胆に露出しており、豊満な胸元は大きな谷間を晒している。ただでさえその美貌で男の客の目を引くのに、その谷間と更にはストッキングで強調された脚線美は男性客の視線を完全に釘付けにしていた。

 

 ここでの瑠璃の役割は完全に客引きであり、手にはカクテルのグラスが乗った盆を持っている。瑠璃はそれを落とさないようにしながら、店の中を忙しなく動き回り客にカクテルを提供していた。

 

 その瑠璃の背後に、1人の男性客が近付いた。男性客は赤ら顔で明らかに酔っぱらっており、ややふら付きながら瑠璃の背後に近付くと抱き着く様にぶつかった。

 

「ッ!?」

「おおっとぉ、すまんねぇ……へへっ」

 

 口では謝罪するが、その手は胸と尻に触れている。態とぶつかったのだ。そしてぶつかってバランスを崩し倒れそうになる振りをして、瑠璃の豊満な胸と魅力的な尻に触れたのである。

 普段の服装とは違い、体のラインが出るくらいぴっちりしたバニースーツは触れてきた男の手の感触を瑠璃にダイレクトに伝えてくる。しかもただ触れるだけでなく、その感触を楽しむように手を蠢かせていた。

 

 男の厭らしい手つきに瑠璃は嫌悪に顔を顰めそうになるが、それを気合で堪え男性客を笑顔で優しく引き剥がした。

 

「いえいえ、お気になさらず。お怪我はありませんか?」

「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。それじゃ、へへへっ……」

 

 去り際にもう一度尻を揉み男性客は去っていった。

 男性客が居なくなると、流石に瑠璃も精神的に堪えたのか他の客の耳に入らない程度に溜め息を吐いた。

 

「はぁ……」

 

 何故こんな事になったのかと言えば、それは偏に秘密を握られたからだ。

 

 そう、弦二にテテュスとして戦っているところを偶然目撃されていたのだ。

 弦二は瑠璃が仮面ライダーである事を知ると、それをネタに彼女を脅迫したのである。

 

 曰く、自分の店に来ないとお前が仮面ライダーである事を街全体に公表するぞ……と。

 

 勿論仮面ライダーである事を明かされただけであれば、そこまで大きな問題はないのかもしれない。騒がれるかもしれないが、それだけなら次第に慣れる。

 問題なのは、弦二は瑠璃が仮面ライダーである事とディーパーによる事件を結び付けようとした事だ。つまり、仮面ライダーである瑠璃が居るからディーパーが出現し街の人々は襲われたと吹聴しようとしたのである。

 

 実際は因果関係が逆なのだが、何も知らない民衆にそれを理解しろと言うのは無理な話。そして民衆が瑠璃にここ最近の事件の原因があると印象付けられれば、待っているのは爪弾きである。

 自分が村八分に遭うだけならまだしも、もしかすると瑠璃と共に暮らしている海羽達にも何らかの被害が及ぶかもしれない。

 

 自分が原因で自分の大切な人達が謂れのない事で傷付けられる。それだけは絶対に許容できなかった。

 

 結果、瑠璃は弦二の要求を飲み渋々BAR・FUJINOを離れヘブンズゲートの従業員として働く事にしたのだ。

 今は客寄せのバニーガールとしてだけ、働かされている。だが弦二の事は噂などで良く知っている。きっといずれは、彼が裏で経営している娼館で働かされることになるだろう。

 弦二の店はオーナーの性格に引かれてか、下品な輩が比較的多い。先程の様に偶然を装って露骨に瑠璃の体に触れてくる客は多かった。それを考えれば、娼館にも相応の変態が集まるだろう。

 

 このままだと、瑠璃の体はそういう客に蹂躙されることになる。いや、もしかすると、店には回されず弦二の個人的な愛人にされるかもしれない。瑠璃の体にはそれだけの価値があった。

 

 いずれにしても、瑠璃の先行きは暗い。

 待ち受ける運命を想像して、瑠璃の顔には普段見ることのない影が差していた。

 

「よぉ、瑠璃。どうだ、店には慣れたか?」

「ッ!」

 

 瑠璃が暗い気持ちを隠して働いていると、店にやって来た弦二が声を掛けてきた。諸悪の根源である彼の姿を見た瞬間、瑠璃は険しい目で彼を睨み付けた。睨み付けずにはいられなかった。

 

 その視線を受けて、しかし弦二は怯む事無くむしろ逆に下卑た笑みを浮かべた。あの瑠璃を漸く手元に置けたのだ。嬉しくない訳もなく、この悔しそうな視線も彼にとっては瑠璃を手に入れた勲章の様な物であった。

 

 弦二は無遠慮に瑠璃に近付き、横から肩を組むと上から瑠璃の胸を掴んでも見ながら顔を近付けた。

 

「んん!?」

「ひひっ、いい顔だ。お前をこれからどう扱うか悩んじまうな。裏の店に回せば大金稼げるだろうが、他の奴に回さず俺だけで飼っちまうのも悪くねえ」

「くぅ――――!?」

 

 本人を前に娼館に回すか自分一人で独占するかを口にする弦二をもう一度瑠璃は睨んだ。その視線に弦二は笑みを深めると、空いた方の手で今掴んでいるのとは逆の乳房を揉み、その柔らかい感触を堪能してから離れた。

 

「まぁ、どうなるか楽しみに待ってな。今まで散々お預けを喰らったんだ。その分楽しませてもらうからよ」

 

 そう言って弦二はその場を離れていく。瑠璃は弦二に弄ばれた胸を守る様に隠し、再び溜め息を吐いた。

 

「はぁ……(最悪……何で”また”こんな事に…………ん?)」

 

 ふと瑠璃は今自分が考えた事に疑問を抱いた。これではまるで自分が一度こんな感じの目に遭った事がある様ではないか。

 

 そこまで考えた時、瑠璃の脳裏に怒涛の勢いで映像が流れた。

 

 拘束された自分……

 

 近付いてくる白衣を着た人物たち……

 

 完全装備を身に纏った兵士が銃口を突き付けて自分を何処かへ連れていく……

 

 拘束された自分に伸びる、男達の欲望の魔の手……

 

 情報の本流に瑠璃の頭が激しく痛み、立つだけで精一杯になる。痛む頭を両手で押さえた事で、カクテルを乗せた盆が落ちてグラスが割れるがそんな事を気にする余裕も彼女にはない。

 

「何……これ――――!?」

「大丈夫ですか?」

 

 明らかに様子がおかしい瑠璃を、別の従業員が心配して近付いてくる。あんな男の経営するカジノであっても、こういう普通に善良な者も居たのだ。

 

 自分を心配してくれる従業員に、瑠璃は顔に脂汗を浮かべながら精一杯の笑みを浮かべて答えた。

 

「だ、大丈夫……大丈夫よ。心配しないで……」

「いやどう見ても普通じゃないですよ。ここは俺らが何とかしておくんで、裏で休んでてください」

「そう? それじゃ、遠慮なく…………ゴメンね」

 

 後の始末を彼に任せ、瑠璃はふら付きながらスタッフルームへと引っ込んでいく。

 

 他に人の居ないスタッフルームのソファーに座った瑠璃は、崩れる様に倒れそのまま意識を手放すのだった。




という訳で第15話でした。

前回伝えそびれましたが、フランアイス達が明確にヒールをするのは恐らく前回までとなります。今後はこんな感じのスタンスになっていくことでしょう。

瑠璃、遂にバニーガールになりました。瑠璃はスタイル抜群だからきっと滅茶苦茶に合うでしょう。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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