仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回、彼が再び登場します。


第20話:ホールカード、瑠璃かセラか

 ネイトが1人夜にディーパーを倒した事を、瑠璃が知ったのは翌朝の事である。

 朝、気付けばベッドの上で寝ていた事に寝惚けた頭で疑問を抱きながら何気なく机の上を見ると、昨日確かに置いておいたはずのリールドライバーが無くなっていた。それを理解した瞬間一瞬で覚醒し、何処に行った盗まれたかと慌てて部屋を出た。

 すると、彼女が慌てふためく音を聞きつけたのか、ネイトが部屋から出てくると彼女にリールドライバーを差し出した。

 

「ほら、これだろ?」

「あ、え? 何でネイトが?」

「悪い、ちょっと借りてた」

 

 瑠璃はネイトから昨夜ディーパーが出現した事を聞いた。瑠璃が泣き疲れて眠ってしまった後、ネイトが彼女を寝室に連れて行った直後にディーパーが現れたので現場に向かう為にリールドライバーを借りたのである。

 本当は戻ってきたら返すつもりだったのだが、警察とS.B.S.T.への報告で思いの外時間を取られ戻ってきた時には疲労でヘロヘロ。流石に疲れたので返すのは翌日にして、その日は眠りについたと言うのだ。

 

「そ、そうだったんだ……ゴメン、私、気付かなくって」

「気にするな。俺がやりたくてやった事だし、昨日の瑠璃は大変だった。そんな状態で戦うなんて、流石に無茶ってもんだよ」

 

 事の次第を聞いた瑠璃は心底申し訳なさそうにするが、ネイトはまるで気にした様子も無く瑠璃にリールドライバーを返し顔を洗いに洗面所へ向かった。

 その場に残された瑠璃は、返されたリールドライバーを胸に抱きながら離れていくネイトの背を見送る。

 

「ネイト……」

 

 瑠璃はネイトの姿が洗面所に消えた後も彼が向かった先をポーッと見つめ、起きてきた海羽に声を掛けられるまでその場を動く事はなかった。

 

 その後、気を取り直した瑠璃は何時も通りに朝風呂を済ませて身形を整え、鉄平が作った朝食を食べて学校に行く海羽を見送った。

 

 何時も通りの平穏、何時も通りの日常。

 

 だがその日は何時もと違い、瑠璃が時々上の空となる事が多かった。気付けばネイトの姿を目で追っているのだ。

 

 この異変に、鉄平が気付かない筈がない。彼はタイミングを見計らって、ネイトが席を外したタイミングで瑠璃に何があったのかを聞いてみた。

 

「なぁ瑠璃? 今日は随分とネイトの奴を目で追ってるみたいだが、何かあったのか?」

「え……? 私、そんなにネイトの事見てた?」

「気付いてなかったのか?」

 

 言われるまで自分がネイトの事を目で追っていた事に気付いていなかったらしき瑠璃だが、言われて思い返せば今日は視界に常にネイトが居たような気がする。その事実に思い至り、瑠璃は思わず頬を赤く染めた。

 

 彼女の様子を見て、鉄平は好奇と微笑ましさが半々と言った笑みを浮かべた。

 

「ほほぉ、そうかそうか。瑠璃も遂に色を知る時が来たか、うんうん」

「そ、そう言うのじゃないって!?」

「じゃあどういう事だ?」

 

 改めて問い掛けられ、瑠璃はどう答えた物かと悩む。流石に全部話すのは気が引けるが、しかし悩みがあるのは事実。それを鉄平に聞いてもらい、何かしらのアドバイスが貰えるなら……

 

「ねぇ、マスター……」

「ん?」

「私……セラに戻った方が良いのかな?」

「どういう事だ?」

 

 ネイトはセラが戻ってきてくれることを望んでいる。彼がここで働く事を決めたのも、元をただせばそれが目的なのだから当然だ。

 だが瑠璃自身は、瑠璃である事を捨てセラに戻る事を躊躇っていた。

 

「詳しい事は省くけど、薄っすらと思い出した……と思うの」

「思い出したって、失ってた記憶をか?」

「全部じゃないけどね。ただ、思い出したのが、何と言うか……凄く嫌な、怖い記憶で。それを全部思い出して、セラに戻る事が…………怖くなっちゃったの」

 

 問題の記憶を思い起こし、再び体が震える。だが今度は昨夜ネイトに宥められた時の事を思い出す事で何とか抑える事が出来た。

 

 そして同時に思う。もしかしてセラは、その忌まわしい記憶を捨てる為にセラである事の全てを忘れ去ったのではないかと。瑠璃にとても都合の良い解釈でしかないが、そうであるなら無理に思い出す必要もないのではないかと思わないでもない。

 

「私……どうすればいいんだろう……」

 

 悩む瑠璃に、鉄平は直ぐに答えを出す事はしなかった。何も言わず席を立ち、無言でコーヒーを2人分淹れるとそっと瑠璃にマグカップを差し出し自分もコーヒーを一口飲んだ。何も答えてくれない鉄平を見ながら、瑠璃はとりあえず淹れてもらったコーヒーを彼に続く様に飲む。ずっと話していたからか、気付けば酷く喉が渇いていたらしい。コーヒーを飲むことで喉の渇きを自覚し、淹れたてだと言うのに一気に半分ほどを飲み干してしまった。

 

「んく、んく…………はぁ」

 

 コーヒーを飲んで瑠璃が一息ついた頃合いを見計らって、鉄平はマグカップを置くと静かに語り出した。

 

「一つ、気になるんだが……」

「うん?」

「知りたくなかった事を思い出すのを後悔する事と、ネイトの期待を裏切って失望される事。瑠璃はどっちの方が怖い?」

「ッ!? それ、は…………」

 

 改めて問われ、そして心の内を見透かされたような気がして、瑠璃は思わず息を飲む。そして考えた。自分は何が怖いのか?

 

 思い出したくない、何が待っているか分からない記憶を思い出し、正体不明な何かに押し潰される事が怖いのか。

 

 それとも思い出す事を止めて、ネイトに失望される事が怖いのか。

 

 これは端的に言えば、進む事と留まる事、どちらの方が怖いかと問われているのだ。瑠璃は改めて己に問い掛け、どちらの方が怖いかを考える。

 が、結論として出てくるのはどちらも怖いと言うものだった。どちらが怖いと言う話ではなく、どちらも怖いのだ。どちらかを決めろなど出来るものではない。

 

「……ゴメン、マスター。どっちも怖いや。記憶を思い出す事も、ネイトに失望される事も……」

「何でネイトに失望される事が怖いんだ?」

「え?」

「だってネイトとは記憶を思い出す為の協力者みたいな関係だろ? そのネイトに失望される事の何がそんなに怖いんだ?」

 

 言われて、瑠璃は自分が異様にネイトに固執していることに気付いた。鉄平の言う通り、ネイトとは最初はただの協力者のような関係であった筈だ。それが何故、ここまで恐怖するような事になったと言うのか?

 

 自分で自分が分からなくなり、考え込む瑠璃に鉄平は思い切って口にした。

 

「もしかして瑠璃、ネイトの事が好きになってるんじゃないのか?」

「!?!?」

 

 鉄平の言葉は瑠璃は凄まじい衝撃を与えた。

 

 思えば、ネイトはこれまで何度も瑠璃の事を気に掛けてくれた。決して長い期間ではないが、その中でも何度か瑠璃が危うくなった時必死に助けに来てくれた。瑠璃が弦二の店で無理矢理働かされた時も、警備員と揉めて殴られるほど必死に助けようとしてくれた。

 

 それは、瑠璃ではなく瑠璃の中で眠るセラの為だったのかもしれない。だが結果として瑠璃はネイトに必死に助けられることになった。

 それだけに留まらず、瑠璃が記憶がない事の心細さで誰かに甘えたくなった時は優しく彼女を包んで甘えさせてくれたりと、気付けば彼は瑠璃にとって心の拠り所となっていたのだ。

 

 そんな彼に失望され、離れられるかと思うと……途端に瑠璃は自分が暗くて何もない、寒い空間に放り込まれたような気になり恐ろしくなった。

 

 そして…………瑠璃は漸く自分の気持ちに気付いた。

 

「そっか……私、ネイトの事が……」

 

 自分のネイトへの好意を自覚し、瑠璃は頬を赤く染める。誰が見ても分かる、誰かを愛する人の顔に鉄平は満足そうにマグカップの中身を飲み干した。

 

「その事に気付けたんなら、ここから先は自分で考えろ。ここから先は、自分で決める事だ。恐怖を堪えてネイトの為に過去の自分と向き合うのか、過去を捨ててネイトに瑠璃として向き合うのか」

 

 それだけ告げると鉄平は席を立ちその場から立ち去ってしまった。今夜の営業の準備だろう。

 

 あとに残された瑠璃は、1人マグカップに残ったコーヒーを見つめながら考え込んだ。コーヒーはすっかり冷めて温くなってしまい、湯気を立てなくなった黒い水面に瑠璃の顔が映っている。

 

「ネイト……」

 

 考えるのはネイトの事ばかり。はたして彼は、セラではなく瑠璃を受け入れてくれるだろうか? 瑠璃がセラを忘れたいと言って、彼はそれを納得してくれるだろうか?

 正直、難しいと言うほかない。そもそもネイトがここに居るのは瑠璃がセラを思い出せるようにする為だ。過去を思い出したい瑠璃と、瑠璃に過去を思い出してほしいネイトの利害が一致したからネイトは瑠璃と共に過ごしているのだ。

 

 もしここで瑠璃が方針を変えた場合、最悪ネイトが出て行ってしまうのではないか? そう思うと恐ろしくならずにはいられなかった。

 

「どうし、よう……」

「何がだ?」

「ひゃぁぁっ!?」

 

 思わず悩みが口から零れた瞬間、ネイトが戻ってきて顔を出した。直前の瑠璃の悩みを知らなかったネイトが問い掛けると、瑠璃は思わずその場で飛び上がって悲鳴を上げてしまった。その様子に流石のネイトも面食らい目を丸くして再度問い掛ける。

 

「うぉ、ちょちょっ!? 何だどうした? 俺か? 俺が何かしたか?」

「え!? あ、いや!? そ、そう言う訳じゃないの、うん! 気にしないで?」

 

 そうは言うが、瑠璃の顔はネイトへの好意を自覚してしまった影響か、彼を前にして赤く染まってしまっていた。普段であれば多少の動揺があってもポーカーフェイスで隠し通せる自信があったのだが、今回の場合瑠璃の主観で初めての恋と言うのもあってかポーカーフェイスが上手く機能してくれない。

 必死に誤魔化そうとするが、顔の赤さが逆に不信感を煽り逆に彼を心配させてしまった。

 

「その割には何だか顔が赤いぞ? 風邪か何か引いたんじゃないのか?」

 

 そう言いながらネイトは瑠璃に近付くと彼女の額に手を当て自分の額の温度とを比較した。ネイトとの距離が近付いたことに加え、彼と直に触れ合っている状況に瑠璃の頭は軽いパニックを起こしてしまう。

 

「~~~~~~~~ッ!?」

「ん~? 別に熱は出てないみたいだけど……ならなんでこんな……」

 

 よもや瑠璃が自分に対して、今までとは異なる種類の好意を向けているとは思っていないネイトは瑠璃が顔を赤くしている理由に見当が付かず首を傾げた。鈍感な様に思えるかもしれないが、以前裸を見られても全く動じなかった事が未だに彼の中で尾を引いていたのだ。つまり彼は未だに瑠璃に男として見られていないと思い込んでいる。

 

 そう言うのもあって、現在ネイトは絶賛勘違いの真っ最中だった。それを知らない瑠璃は、どうすればいいのかと目を回してしまう。

 

(み、海羽ちゃん助けて――!?)

 

 思わず心の中で海羽に助けを求めると言う、普段であれば絶対逆であろう状況に瑠璃の内心が陥った。

 

 このままだと羞恥で精神が限界を迎え、ぶっ倒れる可能性すらある。

 

 その可能性を瑠璃が頭の片隅で危惧した瞬間、リールドライバーが回転を始めディーパーの出現を2人に知らせた。

 

「「ッ!?」」

 

 この事態にネイトだけでなく瑠璃も弾かれるようにリールドライバーを見た。昨日の今日で思わず顔を顰めるネイトであったが、この瞬間瑠璃は思わず神に感謝してしまった。少なくともこれでこの状況から脱する事が出来る。

 だが楽観もしてはいられない。何しろディーパーが出現したという事は、襲われた誰かが居るという事なのだから。それをいつまでも喜ぶのは不謹慎極まりないと、瑠璃は己を叱責しつつ立ち上がった。

 

「ネイト、行こう!」

「あぁ!」

 

 家を飛び出し、リールドライバーの導きに従って街の中を進む。途中大急ぎで街中を掛ける2人を、住人達は時折不思議そうに見ていた。

 

 しかしそれもディーパーの出現した現場に近付くにつれて様相が変わっていく。現場に近付くと、騒動から逃げようと慌てふためく人の数が多くなる。2人はその逃げようとする人の流れに逆らっていけば目的地には直ぐに辿り着いた。

 

 2人が現場に到着すると、そこでは2人の子供が数体の下級ディーパーに取り囲まれているのが見える。下級ディーパーの後ろには、そいつらを率いているのだろうフライングフィッシュ・ディーパーの姿も見える。

 

 まずは子供達を助け出す。2人はフライングフィッシュ・ディーパーを無視して下級ディーパーの群れに飛び込むようにして入り込む。押し退け殴り、蹴り飛ばして包囲を突破し子供達の元へと辿り着く。

 

「君達、大丈夫?」

「う、うん……」

「もう安心だ!」

「でも……」

 

 2人が開けた穴は直ぐに下級ディーパー達で埋められた。再び包囲の中に囚われ、子供達が恐怖と絶望に顔を青くし震える。

 その様子に瑠璃とネイトは頷き合い、ドライバーを取り出して装着した。

 

「大丈夫よ、安心して」

「俺達がこいつらを追っ払ってやる」

「その代わり、今日見た事はお友達とかには内緒ね?」

 

 瑠璃はそう言って子供達にウィンクすると、ブルーライフコインを取り出した。

 

Place your bets please(賭け金を置いてください).」

 

〈Bet your life〉

〈Catch your fate〉

 

 瑠璃がライフコイン、ネイトがドロップチップをドライバーに装填し、レバーを下ろす。その瞬間に下級ディーパー達は瑠璃達に襲い掛かろうと飛び掛かるが、出現したルーレットとスロットに吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた下級ディーパー達に、2人は不敵な笑みを浮かべながら変身する。

 

「「変身!」」

〈〈Fever!〉〉

 

 瑠璃とネイトがテテュスとオケアノスに変身したのを見ると、今正に襲われそうになっていた子供達は先程までの恐怖も忘れて目を輝かせた。

 

「わ、わぁっ!」

「仮面ライダーだ!」

 

 仮面ライダーは最早有名な都市伝説だ。子供ですら知っている。しかし実際に変身してからこうして騒がれると、何だかむず痒くて仕方がない。

 

 テテュスは子供達の方を見てもう一度、今度は無言で口元に指を当てて秘密に、というジェスチャーをして下級ディーパー達の方を見た。下級ディーパー達は今にもテテュス達に襲い掛かろうとしている。

 

「さって、こいつらさっさと倒しちゃお」

「あぁ。店の準備もあるしな」

 

 2人の会話内容が分かる筈もないが、ディーパーは2人の会話を合図に襲い掛かって来た。爪や牙を使って2人とその背後に居る子供を八つ裂きにしようと飛び掛かって来る。仮面ライダーの登場に希望を見出した子供達もこの光景に再び顔を恐怖に引き攣らせ、縮こまって目を瞑った。

 

「邪魔!」

〈BINGO! Skill activation! WAVE SMASH.〉

 

 群がって来た下級ディーパー達を、テテュスのウェーブスマッシュが迎え撃つ。波を放ちながらの回し蹴りは、見た目以上に攻撃の範囲が広く下級ディーパーの多くを一掃してしまった。攻撃の余波で他の下級ディーパーも吹き飛ばされ地面に倒れている。

 先程まで恐怖しかなかった怪物達を木端を払う様に倒す仮面ライダーの姿に、子供達は恐怖も忘れて目を輝かせた。

 

 それでも残った下級ディーパー達は諦めず2人……と言うか、2人の背後に居る子供達に襲い掛かろうとした。

 

 それを迎え撃ったのは、今度はオケアノスだ。テンペストウィップを召喚すると、それを大きく振り回して飛び掛かろうとしてきた下級ディーパーを叩きのめす。先程のテテュスのウェーブスマッシュの余波である程度のダメージを受けていた下級ディーパー達は、オケアノスのテンペストウィップがトドメの一撃となり次々と爆散しドロップチップを撒き散らした。

 

 飛び散るドロップチップを、テテュスとオケアノスは何枚か回収した。これも次の攻撃の糧となる。

 

 一方、一体だけとなったフライングフィッシュ・ディーパーは下級ディーパー達があっさりと一掃された事に忌々し気に唸り声を上げる。明らかに苛立っているのが分かる辺り、ディーパーにも一定の感情があるようだ。

 

 それはともかくとして、下級ディーパーが居なくなったことで周囲の壁が無くなった。子供達を逃がすなら今の内である。

 

「さ、君達は早く逃げて」

「うん!」

「ありがとう、仮面ライダー!」

 

 テテュスに促されて、子供達は立ち上がりその場から逃げ出した。去り際に2人は笑顔でテテュス達に感謝を告げる。子供特有の無邪気で純粋な言葉に、テテュスのオケアノスはなんだかこそばゆい気分になった。

 

「キェェェェェェェッ!!」

 

 そんな2人のほっこりした気分をぶち壊す様に、フライングフィッシュ・ディーパーは一声吠えると両腕を大きく広げた。すると腕と胴体の間から被膜の様な翼が大きく広がる。誰がどう見ても飛行する気満々な姿だ。俄然2人の警戒心も強くなる。

 

 2人が見ている前でフライングフィッシュ・ディーパーが羽搏き空中に飛び上がった。見た目に反した軽やかな飛行に、2人が警戒しているとフライングフィッシュ・ディーパーは予想外の行動に出た。

 なんと2人を無視して何処かへと飛んでいったのだ。

 

「え!?」

「何処に、ッ!? あの野郎!!」

 

 フライングフィッシュ・ディーパーが何処に行こうとしているかはすぐに分かった。逃げた子供達だ。自分1人では仮面ライダー2人に勝てないと察したから、弱い子供達を仕留めようと2人を無視して逃げる子供達に空から襲い掛かろうとしたのだ。

 

 気付いたオケアノスがテンペストウィップを振るって叩き落そうとするが、間一髪と言うところで回避されてしまう。

 そしてフライングフィッシュ・ディーパーが空中から子供達に襲い掛かろうとした。

 

「キシャァァァァァァッ!」

「「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 子供達も空を飛んで追跡してきたディーパーに気付き、悲鳴を上げながら懸命に足を動かす速度を上げた。しかし所詮子供の脚力と歩幅。しかも地上を走るのと空を飛ぶのだと空を飛ぶ方が普通に速い。あっという間に追いつかれ、鋭い牙の生えた口を大きく開き子供達を食い殺そうとした。

 

 背後から迫る血生臭い吐息に子供達が内心で諦めかけた、その時――――

 

「グギャッ?!」

 

 突如フライングフィッシュ・ディーパーがバランスを崩し、落下して地面に叩き付けられた。落下したフライングフィッシュ・ディーパーは飛行の勢いでそのまま前方に転がっていくが、幸いな事に方向がズレたのか子供達を巻き込むことはなく地面を転がって倒れた。

 

「え?」

 

 一体何が起こったのかと、子供達が足を止め呆然と倒れたディーパーを見るとある事に気付いた。ディーパーの背に水で出来た矢が一本刺さっている。

 

 それはテテュスの攻撃だ。フライングフィッシュ・ディーパーが空を飛んで子供達を追いかけていくのを見た彼女は、レイズアップしてアローレイズになると子供達に襲い掛かろうとしているフライングフィッシュ・ディーパーの背に狙いを定め矢を放ったのである。放たれた矢は狙い違わずフライングフィッシュ・ディーパーの背に突き刺さり、子供達への攻撃を止めさせ叩き落す事に成功する。

 

 そして動きを止めてしまえば、後はどうとでも出来る。

 

「ネイト!」

「あぁ!」

 

〈〈All in〉〉

 

 フライングフィッシュ・ディーパーが動きを止めたと見るや、2人は同時にチップケースをベルトに装着しレバーを下ろした。2人の行動に気付いたフライングフィッシュ・ディーパーが慌てて逃げようとするが、時すでに遅し。この時点で奴は既に詰んでいた。

 

「赤の1!」

〈SEVEN! SEVEN! SEVEN! Three of a Kind Seven!〉

〈〈Fever!〉〉

 

 テテュスのジャックポットフィニッシュの効果で行動を封じられ、身動きが出来なくなったところに2人の必殺技を喰らったフライングフィッシュ・ディーパーは成す術なく爆散した。

 

 フライングフィッシュ・ディーパーを倒した事を確認し、2人は変身を解除した。辺りを見渡せば、離れた所には目を輝かせている子供が2人。

 子供達の憧れに近い視線に、瑠璃とネイトは顔を見合わせ苦笑し合うと、子供達に手を振ってその場を後にする。

 

 店に戻る道中、2人は特に何を話す事も無く無言で歩く。先程戦っている時は戦闘に集中していたので忘れていたが、戦いが終わり精神的に落ち着いてくるとまたしても瑠璃はネイトの事を段々意識してきてしまった。

 

 自然と、視線は隣を歩くネイトの方をチラチラと向いてしまい、彼の顔を視界に収めると頬が紅潮するのを抑えられない。

 

 そしてネイトは、自分に向けられる視線に対してそこまで鈍感ではなかった。

 

「ん? どうした?」

「え? あ、いや……何でもない」

 

 視線を気付かれ、思わず瑠璃はネイトから目を逸らしてしまう。明らかに様子のおかしな瑠璃に、しかしネイトは首を傾げつつもそれ以上何かを問う事はせず前を向いた。

 

 それはネイトなりの優しさだった。瑠璃が記憶喪失に伴って色々と悩みを抱えている事は彼も承知している。承知しているからこそ、そこにズカズカと踏み込むことはしない。踏み込むことで、彼女を傷付ける事もあるかもしれないからだ。

 そんな優しさが瑠璃にはありがたく、同時に申し訳なかった。

 

 彼にそこまで気に掛けてもらっているのに、自分はセラに戻る事を躊躇している。

 

 その罪悪感に瑠璃は次第に押し潰されそうになり、堪らず問い掛けてしまった。

 

「ね、ねぇ……ネイト?」

「何だ?」

「ネイトは、さ。……瑠璃とセラ、どっちの方が好き?」

「は?」

 

 思わぬ問いに、ネイトが目を丸くして聞き返してきた。その彼の反応に我に返ると、慌てて先程の問いかけを取り消してなかった事にしようとした。

 

「ま、待って待って!? 今の無し、ノーカンノーカン!」

「いや、どっちが好きって聞かれても……」

「考えなくていいから! それより早くお店に戻ろう! ね!」

 

 ネイトの答えを聞く事もせず、瑠璃は1人さっさと店に向け走っていった。

 

 突然問い掛けてきたかと思ったら答えも聞かずに走り去っていった。離れていく瑠璃の後ろ姿を見て、ネイトは問われた事を改めてじっくり考えながらゆっくり店に向けて歩いていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 海都の政治の中枢である庁舎にて、知事の十三は険しい顔をしていた。

 原因は言うまでも無くここ最近のシーラカンス・ディーパーによる人々の行方不明事件である。折角地下施設が解放されたと言うのに、今度は人間に擬態するディーパーだ。只でさえ街には大小さまざまな問題があると言うのに、それらに加えてこれだ。

 

 一向に完全終息しないディーパーによる事件に、最近は街を訪れる者も減少しつつある上に街から離れる者も出る始末。

 これで頭を抱えるなと言う方が無理である。

 

「参りましたね……」

「S.B.S.T.の連中、もっと頑張ってもらえないものでしょうか」

「そんな事を言ってはいけません。彼らはよくやってくれています。現に地下施設を解放し、発電所と海水ろ過施設の職員の安全が確保できたのも彼らのおかげです。それに彼らが昼夜パトロールをしてくれているから、街の住人も一定の安心を得られているのです。その彼らにこれ以上を求めて文句を言うのはお門違いですよ」

 

 秘書の苦言を十三が宥める。十三の言葉に、秘書は言葉が過ぎたと頭を下げた。

 

 だが同時に、今回のシーラカンス・ディーパーに関する事件はなかなか終息を見せていないのも事実。一応擬態した男の姿は指名手配と言う形で住民に知らせて警戒を促しているが、相手は人間に擬態をする化け物だ。その気になれば擬態する相手を切り替えてまた街の住人に紛れ込み、陰で人を襲う事も出来る。この事件を終息させるには、原因であるシーラカンス・ディーパーを始末する以外にない。

 

 問題はそれが難しい位、シーラカンス・ディーパーは強くそしてしぶといという事だった。その道のプロであるS.B.S.T.が手を焼くシーラカンス・ディーパーに、改めて十三は頭を抱えた。

 

「何とか、ならないものでしょうか……」

「北條博士からは、何か聞いていらっしゃらないのですか?」

「北條博士も現在研究中との事ですが、現状生態の研究等は行き詰っているとの事です」

 

 何分サンプル自体が少ないのだ。出来る研究にも限界がある。

 

 十三と秘書が揃ってどうしたものかと頭を抱える。問題はディーパー絡みだけではないので、他にも処理しなければならない問題はあった。ディーパーの事にだけ目を向けている訳にはいかない。

 

「……そもそも北條博士にだけ、ディーパーの研究を押し付けているのが問題なのでは? 三人寄れば文殊の知恵と言いますし、北條博士以外に研究する者が居れば何らかの対策も……」

「既に各所に声を掛けてはいるんですがね。正直言って状況は芳しくないんですよ」

 

 人が集まらない理由の半分は、やはりディーパーの事件により安全性が不安視されての事が原因だ。

 

 執務室に重苦しい2人の溜め息が響いた。その瞬間を狙っていたかのように、十三の机に備え付けられた電話が着信音を鳴らした。

 

「はい、葉隠です?……あぁ! 白上教授ですか。えぇ、その節はどうも。本日はどのような用件で?……えぇ……えぇ、はい。……! そうですか! はい、分かりました。ありがとうございます」

 

 秘書が見ている前で、十三は電話越しに相手に感謝し頭を下げていた。

 

 その後も2~3話し合った後、十三は受話器を置き通話を切る。その際の表情は先程までの重苦しさが幾分か軽減されている様だった。

 

「どうされたのですか、知事?」

 

 思い切って秘書が聞いてみると、十三は幾分か和らいだ表情で答えた。

 

「今、明星大学の白上教授から連絡がありました。こちらが学者に困っていると聞いて、教え子に声を掛けてくださるそうです」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アメリカ・マサチューセッツ工科大学

 

 ここはアメリカが誇る大学、マサチューセッツ工科大学。

 

 その校内にある研究室の一つで、1人の男性がコーヒーを口に含んだ。

 

「……ん!? おい!」

「何だい?」

「コーヒーはフランス焙煎で頼むって言っておいただろ!?」

「え~? これフランス焙煎の筈だぞ?」

 

 コーヒーを飲んだ男性は持ってきてくれた男性に文句を言った。彼はコーヒーには五月蠅いタイプらしい。

 

 2人の男性が言い合うのを横目で見て、もう1人の男性は同じく渡されたコーヒーを口にした。そして文句を言う男性の気持ちを察した。

 

(あぁ、これは確かにコーヒー好きなら黙ってはいられないな)

 

 このコーヒー豆の販売元は、恐らく頑張ってフランス焙煎の風味に寄せようとしたのだろう。だがそこはアメリカクオリティ、気分さえ味わえれば程度の出来で本場のそれには遠く及ばない。

 

 これなら愛する妻が淹れてくれるコーヒーの方が……何て事を考えながら茶請けにと置かれたドーナツの一つを手に取り一口齧ると、研究室の奥からその男性に声が掛かった。

 

「ヘイ、”仁”! 日本からお前に電話だぞ?」

 

 声を掛けられ、男性――仁はドーナツを咥えながらそちらを見る。齧り掛けのドーナツから口を離すと、電話の主が誰なのかを訊ねた。

 

「日本から? 誰?」

「白上教授だ。お前と話がしたいんだと」

 

 まさか白上教授から電話がかかって来るとは思っていなかった仁は、ドーナツの残りを一気に口に押し込みコーヒーで流し込みながら受話器を手に取った。

 

「んぐ……ん、はいもしもし。お電話変わりました、門守です」

『やぁ門守君。しばらくぶりだね』

「お久しぶり……って程でもなかったですね」

 

 少し前の話だが、教授から送られたチケットで妻と子供達と共に客船に乗りそこで再会している。それを考えれば久し振りと言うのは些か不自然だろう。

 

 それよりも仁は教授が電話を掛けてきた理由の方が気になった。

 

「それで、何か御用で?」

『うん。実は君に海都の方へ行ってもらいたいんだ』

「海都に?」

『どうやらそこの知事が、研究者不足で困っているらしくてね。私が知る限りで一番優秀な研究者である君に、少し手伝ってもらえないかと思ったんだ。勿論無理にとは言わない。手が空いた時、気が向いた時にでも行ってあげて欲しいんだ』

 

 白上教授からの頼みであれば、海都に向かう事も吝かではない。元より一度は訪れてみたいと思っていたのだ。渡りに船とはこの事だろう。

 

「分かりました。こっちでの用事に一段落着いたら海都の方に向かいます」

『すまないね、頼んだよ』

 

 仁は白上教授との通話を切り、受話器を戻すと今の研究スケジュールなどを頭の中で広げる。今の仁は海外留学でここに居る為、ここでの研究も疎かにする訳にはいかない。キリの良いところまで研究を終わらせ、且つ出来るだけ早めに戻らなければならなかった。

 

(今直ぐに……は、無理か。どうしても少し時間が掛かるな。それにあんまりこっちを空ける訳にも……)

 

 日本からの留学生と言う立場の仁だが、実力を何よりも見るアメリカと言う国は素直に仁の事を評価していた。故に、留学生と言う身でありながら仁は結構頼りにされており、ここで行われている研究プロジェクトでも中心に近い位置に置かれていた。

 

 頭の中でスケジュールを組み立てている内に、仁は段々と辟易してきた。過密スケジュールとまではいわないが、それでも少し忙しくなりそうだ。

 

 今夜は亜矢と子供達に癒してもらおう。そんな事を考えた矢先、仁は海都での噂を思い出す。

 

(そう言えば、海都にも仮面ライダーが居るんだっけ?)

 

 噂を思い出した仁は、懐に手を入れそこから1枚のコインを取り出す。以前母である香苗から、お土産にと渡された緑色のコインだ。

 

「…………どうやら、漸くこれを君に渡せそうだよ。仮面ライダーテテュス」

 

 遠く離れた地で戦う仮面ライダーの事を思いつつ、仁は手にしたコインを軽く指で弾き落ちてきたそれをキャッチするのだった。




という訳で第20話でした。

はい、という訳で近い内に仁の参戦が決まりました。本格的に参戦するのはもう少し後になると思いますが、登場の時をお楽しみに。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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