今回は前作のある人物が活躍します。
研究室を後にした仁は、慎司から現在S.B.C.T.の進めている作戦に関して話を聞いていた。
「海中パトロール?」
「そうです。現状ディーパーの出現場所は海都の下に広がる海中です。元を絶たねば街に現れるディーパーを幾ら潰しても意味がない。そう言う訳で、本部よりスコープとライトスコープ用の潜水装備が用意され、海中のディーパー殲滅。可能ならば、海底のディーパーの巣を叩こうと」
彼の言いたいことは分かる。街の中にディーパーの巣が見られない以上、連中が来ているのは海中からなのだからその大本を叩き潰すと言うのは理に適っていた。
しかし太平洋の平均水深は4280メートル。人間が装備できる潜水装備で耐えられる深度ではない。巣があるならば海底だろうが、そこまでスコープやライトスコープは潜れるのだろうか?
「その潜水装備って何処まで潜れるんです?」
「テストの結果、最大1000メートルまで潜る事が出来ると」
「へぇ……」
現在存在する大気圧潜水服で最大700メートル潜れる筈だったので、それを考えればかなりの性能を持っていると言えるだろう。だがそれでもやはり海底にあるだろうディーパーの巣を叩くには物足りない。
現時点で可能性があるとすれば、それは仁とデイナしかいないだろう。
「でもそれじゃやっぱり海中までが精一杯だよ。海底の方は俺が行くから」
「お願いできますか?」
「それが目的で俺を呼んだんでしょ?」
「すみません。本当は我々の力だけで何とかしたかったのですが……」
「仕方ないよ。技術がそこまで追いついてないんだから。ただ協力はするけど……」
「その間のご家族の安全の確保、ですよね? 分かってます。そちらに関してはしっかりと警護を回しますので」
その言葉が聞ければ十分だった。慎司達に協力する上で、仁が抱えていた最大の懸念は亜矢と子供達の安全だ。それを彼らが確保してくれると言うのであれば、仁に憂いはない。
(いざと言う時は大梅さんも居るしね)
瑠璃の実力は仁もある程度理解したつもりだった。先程見た時はやや不安定と言うか頼りなさを感じずにはいられなかったが、それでも非常事態になれば自分の身は勿論街の住人を守れるくらいには戦えるだろうと信じていた。
だが仁にも予想出来ない事と言うのはある。新人類になったからと言って、決して万能という訳ではないのだ。
故に想定外だった。まさか瑠璃が直接の標的になると言うのは…………
***
翌日、仁はS.B.C.T.のαチームと共に海都の港にやって来ていた。今そこには海中で活動するS.B.C.T.の為に専用の船が用意されていたのだ。
慎司達に続いて乗船した仁は、内部の充実した設備に舌を巻いた。
「ふ~ん……権藤さん、今回は結構気合入れてるんだね」
内部にはライトスコープ用の格納庫などが備え付けられており、そこには通常のライトスコープだけでなく、件のライトスコープ用の潜水装備が用意されていた。仁が眺めていると、早速隊員達がライトスコープを着込みその上から潜水装備を装着していく。
潜水装備を装着したライトスコープは、一見すると酸素ボンベとスクリューポッド、追加装甲を増やしただけの様に見えた。だがよくよく見ると、関節などボディースーツ部分が新たな素材で覆われている。あれが耐圧服の役割を果たすのだろう。
格納庫の内部の様子を眺めていると、頭上から茜のアナウンスが響いた。
『まもなくポイントに到着します。各員は出撃の用意をしてください』
アナウンスが響くと隊員達は格納庫の出口に向けて整列する。仁はその列の最後尾、慎司は列の最前列へと立つ。
「これより、海中のディーパーへの攻撃を開始する。初の海中戦だ、決して油断するな!」
「「「ハッ!」」」
しっかりと隊長をやっている慎司の様子に仁が権藤の姿を重ねていると、格納庫のハッチが開いた。
船が向かったのは以前海中作業が行われていたポイントの真上。少し周りを見れば海に浮かぶ海都の姿が大きく見える。
広がる海原と浮かぶ海都を眺めつつ、慎司は腰に装着したスコープドライバーにキープレートを装填しハンドルを回した。
〈Access〉
「変身!」
〈In focus〉
慎司はスコープに変身すると即座に最初のキープレートを抜き取り、別のキープレートをドライバーに装填した。
〈Marine・Equipment Starting〉
投影され精製された新たな装備がスコープに装着される。それは他のライトスコープ達が装備しているものと大体同じ潜水装備だったが、他のライトスコープ達と違い背中のボンベからチューブが口元に伸びていた。それに装甲の各部にも、姿勢制御目的なのだろう小型のスクリューが装備されていた。
慎司がスコープに変身し、潜水装備を装着すると早速海へと飛び込みその後に続いて次々と隊員達が海へと入っていく。
仁はそれを見て、自分もデイナドライバーを装着してデイナに変身した。
〈DOG + WHALE Evolution〉
「変身」
〈Congrats! Birth of a new life, CETUS. Open the door〉
デイナは初手からケートスライフに変身した。これはデイナの数あるフォームの中で最も海中での戦闘に適した姿だ。
単純に海中で戦闘をするだけであればドラゴンライフも可能だが、ケートスライフには他のフォームにはないエコーロケーションによるソナー能力がある。今回の戦闘ではデイナには暗く深い海中での活動が求められる。そこでの活動に最も適しているのは、クジラの能力でエコーロケーションが使えるケートスライフが一番だった。
最後の隊員が海に入ったのを見て、デイナもそれに続き海に入る。デイナが海中に入ると、それを確認してスコープが隊員達に指示を出した。
「よし、海都海中施設に沿って全員このまま深度200まで潜行。海中はディーパーのフィールドだ。警戒を怠るな」
背中のスクリューポッドから気泡を噴き出し、スコープとライトスコープが海底に向けて潜行していく。デイナはその後に続き海水を蹴って潜る。
海中に入って分かったが、彼らの潜水装備にはソナーが備え付けられているようだ。デイナも自前のソナーで周囲を探るが、彼の耳は他のライトスコープ達のソナー音も捉えていた。スコープ、ライトスコープ達は装備で機械的に味方のソナー音を除去できるので問題ないだろうが、デイナはそう言った機械的な事は出来ないので正直ちょっとうるさい。
しかしそんな状況でも、デイナの能力は優れていた。音の反響しかとらえられないソナーに対し、デイナの耳は海の中に潜むディーパーの活動音を捉えていたのだ。
まだ誰も潜むディーパーに気付いていない。デイナは一気に潜行すると、ライトスコープ達の間を縫って一気に潜むディーパーに接近。海中施設に潜んで不意を突こうとしていたディーパーに強烈な蹴りを喰らわせた。
「フンッ」
「ギィッ?!」
潜伏がバレた。それを察した瞬間、海中施設の隙間や裏側から次々と下級ディーパーが姿を現し、一斉にS.B.C.T.αチームに向けて襲い掛かった。
「来るぞ! 総員、攻撃開始! 撃てぇッ!!」
水中用のライフルを構え、迫るディーパー達に一斉に射撃を開始するS.B.C.T.。デイナはその銃撃の中を動き回り、銃撃を逃れ接近を試みるディーパーに対し接近戦を仕掛けるのだった。
***
一方海都では、瑠璃が何時も通り店の準備に勤しんでいた。
清潔さを保つ為、濡らしたモップで店の床を擦り汚れを拭いていく。
一見すると特に変わった所は無いように見える瑠璃だったが、その頭の中は今現在海中で行われていると言う作戦の方に向いていた。
先日、店が始まる前に仁にこの日行われる作戦の事を聞いていたのだ。現在海都にS.B.C.T.αチームとデイナは居ない。もし今何かあれば、瑠璃は自分とネイト、残ったβチームとγチームで対処するしかない事になる。
断っておくと、瑠璃は決して彼らを頼りないなどと言うつもりはない。ネイトには何時も助けられているし、αチームと他のチームにそこまで能力に差が無い事も分かっている。
だが、早い段階から共闘関係を築けたαチームに、仮面ライダーとしての先輩であるデイナを頼れない状況に、瑠璃は自分でも驚くほど心細さを感じていた。思っていた以上に彼らを頼りにしていた事に、瑠璃はここで漸く気付いたのだ。
(やれやれ、これじゃあ海羽ちゃんに偉い事言えないじゃない)
女々しい自分に瑠璃は自分で自分を笑うが、不安を感じている理由はそれだけではない。
一時的とは言え海都から離れるに際して、仁は瑠璃にある事を頼んでいたのだ。
『少しで良いんだ。ただ、俺の家族の事を気に掛けておいてくれない?』
いざと言う時、海都に残った者の中で一番の戦力は言うまでも無くテテュスである。亜矢も変身できるが、彼女は子供達を守らなければならない。
その頼みは瑠璃の両肩に重くのしかかっていた。期待されていると言えば聞こえはいいが、期待は時に相手にとってのプレッシャーとなる。瑠璃は仮面ライダーを始めて1年にも満たない自分がそんな期待をされるほどなのかと、不安を感じずにはいられなかった。
とは言え、期待されているという事は信頼されているという事でもある。瑠璃は不安に負けないよう、自分の頬を叩いて気合を入れ直し床のモップ掛けを手早く終わらせた。
そしてモップを片付け、さぁ次はテーブルの上を布巾で水拭きしようとか考えていると、近くに置いておいたリールドライバーが回り出した。それも嫌に回り方が激しい。
感覚の話だが、これほど激しい回転をするという事はそれだけ感知したディーパーの能力が高いという事と瑠璃は感じた。
つまり、出現したのは以前倒し損ねたシーラカンス・ディーパーである可能性が高い。人間に擬態し人々に襲い掛かるアイツが、再び活動を始めたのだ。
その事に気付いた瑠璃が息を呑んだ瞬間、ネイトもその場にやって来て激しく回るリールドライバーに険しい表情を浮かべた。
「ネイト!」
「あぁ!」
頷き合うと、瑠璃はリールドライバーを鷲掴みネイトと共に店を飛び出していく。
2人の異変に気付いた鉄平は、ものすごい勢いで店から出て行こうとする2人に訳が分からず声を掛けた。
「え? え? 瑠璃、ネイト、いきなりどうした?」
「ゴメン、マスター! ちょっと出掛けてくる!」
「すぐ戻るから!」
「あ、うん、いってらっしゃい?」
緊急事態だったので、ロクな言い訳も考え付かず兎に角勢いに任せて出掛ける事だけを伝えた。鉄平もその勢いに気圧され、目を白黒させながら見送るしかできない
2人が店を出て行った後、残された鉄平は1人ポツンと佇んでいた。
鉄平を一人残して店を飛び出した2人は、瑠璃のバイクでリールドライバーの誘導に従って街中を移動していた。運転は瑠璃、ナビゲートはネイトだ。
「そこ右だ!」
「了解!」
後ろから瑠璃に抱き着く形で乗ったネイトは、片手に持ったリールドライバーの動きを逐一瑠璃に報告する。急いではいるが、それでも一応法定速度はギリギリ守っているので例え警察に見つかっても心配はない。が、それでも2人乗りでかなりの速度を出しているので時折通り過ぎる2人を振り返る人は何人か居た。
その中には、偶然にも買い出しに出ていたフランシス達3人の姿もあった。3人は瑠璃とネイト……と言うよりネイトが持っているリールドライバーに気付き、通り過ぎるバイクを振り返って見た。
「あ! フランシス兄貴、あれ!」
「あぁ、見えてるよ」
「兄貴、良いのか放っておいて?」
3人は飽く迄見送るだけで、攻撃を仕掛けるようなことはしない。ただ見送るだけだった。
「あぁ、何か急いでるみたいだしな。それに、もういいんじゃないか?」
「良いのかよフランシス兄貴? お宝手に入らないぜ?」
バーツが不満そうな顔をするが、それでも勝手に行動を起こしたりしないのはフランシス達の教育が行き届いているからか、それとも彼も瑠璃達にはもうそこまで拘っていないからか。
いずれにしても、フランシスはバーツからの問いに直ぐに答えることはしなかった。ただ小さく唸るだけで、明確な答えを出すことはしない。
そんな彼らとすれ違ったことに気付かず、2人は街の中を走り抜ける。その道中、瑠璃は凡その到着地点に見当が付いた。
「この先、もしかしてホテル?」
「何だって?」
「間違いないよ、奴はホテルに居る!」
そこで瑠璃はある事を思い出した。確かこの先にある海都で一番大きな宿泊施設である『海都ビューホテル』には、仁の家族が宿泊している筈だ。
シーラカンス・ディーパーが何を基準に人間を襲っているのかは分からないが、もし奴の狙いが仁の家族であったなら…………例えそうでなくても、奴が暴れてそれに仁の家族が巻き込まれる様な事があれば…………
「させない!」
仁に頼られたのだから、その信頼には答えようと瑠璃は法定速度を無視して全速力でホテルへとバイクを走らせた。
ホテルに到着すると、2人はまずリールドライバーに目を向けた。ドライバーの羅針盤は真っ直ぐホテルの方を向いている。ここにディーパーが出たと見て間違いない。
バイクを適当な所に停め、大急ぎでホテルへと飛び込むように入った。
慌ただしくエントランスに入ってきた2人に、宿泊客やボーイが何事かと注目する。
「ネイト、アイツ見える?」
「分からねえ」
ザっと周囲を見渡したが、シーラカンス・ディーパーが擬態した男の姿は見当たらない。既に客室の方へ移動しているのか、それとも別の人間に擬態しているのか……
リールドライバーを見るが、これの羅針盤では二次元的な動きしか分からず上の階に居るのかまでは分からない。とりあえず瑠璃は、怪しい人物が入ってこなかったかをフロントに訊ねた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「はい、何でしょう?」
「ここに怪しかったり、雰囲気の可笑しい奴が来なかった?」
ざっくりした質問だったが、相手は海都で一番のサービスを誇るホテルのフロント。どんな客が相手であっても粗相が無いようにと、努めて冷静に構えて真摯に答えた。
「申し訳ございませんが、その様な方は来られていないかと……」
「そう、ですか……」
薄々予想はしていたが、やはり結果は芳しくない。これでは犠牲が出る方が先になってしまう。いや、もう犠牲は出ていて、これからさらに増えていくかもしれない。
どうするべきか……考えていた時、瑠璃はある事に気付いた。
(あれ……これ、縦にしたらどうなるの?)
羅針盤は普通縦にしたら動かなくなるものだが、こいつは普通の羅針盤とは違う。これは羅針盤でありルーレットなのだ。そしてルーレットには、横ではなく縦に置いて使う物もある。と言うよりこいつは変身の際は縦に立てられた状態で動く。
という事は…………
「! やっぱり!」
リールドライバーの向きを傾けると、羅針盤は何かに引っ張られるように上のある方向に向きそのまま固定された。つまり、シーラカンス・ディーパー若しくは奴に準ずる力を持つディーパーが既にホテルに入り込み、客室に向かっている。
「ネイト、上!」
「急ぐぞ!」
具体的にどの階に居るのか分からないので、エレベーターを使わず階段を駆け上がる2人だったが2人は早くも後悔しだした。
何しろこのホテルは全部で20階以上ある。それを階段で駆け上がりながら一階ずつ確認するのは体力的には勿論、精神的にも少々と言うか結構しんどい。瑠璃はダイビングで、ネイトは冒険でそれなりに体力はある方だと思っていたが、それでも全速力で5階を超えた辺りから顔に疲労を滲ませ始めた。
「はぁ、はぁ……アイツ、何処まで上がってるのよ――――!?」
「えぇい、くそ!? この階段なんか急じゃないか?」
「ネイト、エレベーター使おう! 通り過ぎたら途中で降りればいいんだし」
「賛成だ」
2人は今居る階のエレベーターに乗ると、そのまま最上階を押し上がっていく。その間方向を確認しつつ、ディーパーがどの階に居るかを確認する。
程無くしてリールドライバーの羅針盤に変化が起こった。12階を超えた辺りで羅針盤が傾き14階に差し掛かる頃には羅針盤の差す方向が上下入れ替わっていた。
つまり目的のディーパーは13階に居るという事になる。
「ストップストップ!!」
瑠璃は慌てて次の階のボタンを押してエレベーターを止めると、ドアをこじ開けるようにして飛び出し今度は階段を駆け下りる。幸いと言うか2人が止まったのは15階だったので、二つ分階を降りれば目的の階に辿り着ける。
だが2人にとっての幸運はそこまでが限界だったようだ。目的の13階に2人が足を付けた直後、フロアの何処からか銃声が響いた。
「!?」
「クソッ!? 野郎ッ!!」
銃声は断続的に響いている。その銃声に驚いたのか、客室からは何人かの宿泊客が飛び出し慌てて逃げ惑う。瑠璃とネイトはパニックを起こして逃げ惑う宿泊客を避けながら、ディーパーが暴れている場所へ向かった。
客室が幾つも並んだフロアを奥に進み十字路に差し掛かった時、また一発の銃声が今度はかなり近くで響いた。直後、1人の制服姿の男が何かに吹き飛ばされたように2人の目の前を右から左に向けて飛んでいき、反対の壁にぶち当たり崩れ落ちた。
「! 居た、あそこ!」
反射的に飛んでいった男を目で追ってしまった瑠璃だが、直ぐに視線を反対側に向けるとそこには廊下の奥で拳銃を構えた男に近付くシーラカンス・ディーパーの姿があった。
悠然と近付くシーラカンス・ディーパーに、男が銃を撃って対抗するが拳銃弾程度ではディーパーの歩みを止める事は出来ず接近を許してしまう。
「くそ!? くそ!? 緊急! 本部、至急海都ビューホテルに部隊を派遣してくれ! 例の擬態するディーパーが現れた!」
男が通信すると、それを合図にしたかのようにシーラカンス・ディーパーが一気に接近。男は反撃する間もなく爪により切り裂かれ、血を噴き出しながら崩れ落ちた。
「あぁ!?」
「あの野郎、瑠璃!」
2人はそれぞれドライバーを取り出し、腰に装着するとテテュスとオケアノスに変身した。
「「変身!」」
〈〈Fever!〉〉
2人は仮面ライダーに変身し、廊下の先に居るシーラカンス・ディーパーに向けて駆けていく。
が、肝心のシーラカンス・ディーパーは2人の存在に気付いていないのかすぐ傍にある客室の方に注目していた。
『匂う……匂うぞ。上等なキャリアーの素質を持つ者の匂いだ。それも複数……』
どこか嬉しそうにも聞こえる声を上げ、シーラカンス・ディーパーは1つの客室に近付いていく。
だがシーラカンス・ディーパーが客室の扉を開ける寸前、テテュスとオケアノスが到着し跳び蹴りを放ってシーラカンス・ディーパーを客室から遠ざけた。
「あっち行け、この!」
「オラァ!」
『!?』
余程その客室の中に居る人が気になっていたのか、2人の接近に気付かなかったと思しきシーラカンス・ディーパーは回避や防御どころか、蹴られて漸く2人の存在に気付いかの様な様子を見せた。
蹴り飛ばされたシーラカンス・ディーパーは一撃で廊下の先の窓際まで追いやられる。
「何アンタ? 随分と無防備だったじゃない?」
「この部屋に居る奴がそんなに気になるのか?」
「アンタが言うキャリアーって一体何?」
訳が分からないと2人が顔を見合わせるが、シーラカンス・ディーパーが立ち上がるとそれどころではないと構え直した。
窓際まで蹴り飛ばされたシーラカンス・ディーパーは、今度はテテュスの方に意識を向ける。
『お前も来たのか……ちょうどいい』
シーラカンス・ディーパーはドロップチップで剣を作り出すと、テテュスの方に向けて歩き出す。
対するテテュスはシーラカンス・ディーパーが自分に向ける正体不明の視線に怖気が走るのを感じながらアローレイズにチェンジし、矢を放って遠ざけた。何だか分からないが、敵だからとかそう言う普通の理由抜きに奴には近付いてきてほしくない。
「こっち来ないで!」
「取り合えずお引き取り願うぜ!」
テテュスの矢により動きを止めたシーラカンスディーパーに、オケアノスが装備したテンペストウィップの一撃が炸裂する。鞭の殴打によりシーラカンス・ディーパーは完全に窓際に押し込められた。
このままホテルの外へ押し出そうと、テテュスとオケアノスはシーラカンス・ディーパーに接近し跳び蹴りを見舞う。シーラカンス・ディーパーはそれを迎え撃とうとするが、2人の飛び蹴りの方が威力が高かったのか抑え切れず下がらされる。
それだけに留まらず、テテュスとオケアノスはシーラカンス・ディーパー毎壁を蹴破り、ホテルの外に押し出した。
『ぐおぉぉぉっ!?』
シーラカンス・ディーパーはホテルの外に蹴り出され、テテュス達はそのままシーラカンス・ディーパーを足場にして、落下のダメージを軽減し地面に着地。2人に踏み台にされたシーラカンス・ディーパーは、元々の落下エネルギーに加え踏み台にされた際の勢いも加わり地面に叩き付けられた。
『がはっ?!』
「さ~て、そろそろコイツとの決着もつけたいわね」
「全くだ。コイツ居ると神経すり減らされるんだよ」
『キャリアー……お前だけでも……』
テテュス達が構えを取る前で、シーラカンス・ディーパーが立ち上がる。シーラカンス・ディーパー体からドロップチップをばら撒き配下の下級ディーパーを生み出しテテュス達に襲い掛からせた。
「あぁ、もうコイツ等!」
「先に雑魚共倒すぞ! コイツ等残してたらまた回復されちまう!」
「分かってる!」
以前の戦いで回復された事を忘れてはいない。2人はシーラカンス・ディーパーの相手もそこそこに、周囲の下級ディーパーを次々と倒していった。
テテュスはセクスタントボウで離れた所の下級ディーパーを射抜き、例え接近を許してもその時は刃になっている弓で切り裂き倒す。
オケアノスはテンペストウィップを縦横無尽に振り回し、群がってくる下級ディーパーを一切近付ける事無く倒していた。
最早この2人を相手に、下級ディーパーでは相手にならない。気付けば下級ディーパーは全て倒され、地面には大量のドロップチップが散らばっていた。
「ふぅ……あれ? アイツどこ行ったの!?」
下級ディーパーを倒し切り一瞬安堵の溜め息を吐くテテュスだったが、直後に肝心のシーラカンス・ディーパーが姿を消したことに気付き最大限の警戒を周囲に向ける。恐らくはまた物質に潜る能力を発動させたのだろう。
「くそ、どうする?」
この状況に2人は判断に迷った。これが自分達の不意を打つ事を目的としているならともかく、どさくさに紛れて先程狙おうとしていたホテルの宿泊客を改めて襲おうとしているなら今すぐ戻らなければならない。だが2人が隙を晒すのを待っているのであれば、今動くのは逆に自分達だけでなく宿泊客の身を危険に晒す事になる。
では二手に分かれればいいかと言えばそんな事も無く、2人で何とか対等に渡り合えるシーラカンス・ディーパーを相手に戦力を分散しては最悪各個撃破されかねない。
2人は互いに背中合わせになり、周囲を警戒する。その際足元への警戒も怠らない。前回の奴との戦いでは足元への注意が疎かになっていた為に、テテュスが不意を突かれて地面の中に引き摺り込まれ甚振られてしまった。もうそんな愚は犯さない。
2人は警戒しながらシーラカンス・ディーパーの次の行動を待った。だが、待てども待てどもシーラカンス・ディーパーは行動を起こさない。
逃げた? それとも奴も2人が隙を晒すのを待っている?
不気味な静寂にテテュスが仮面の下で汗を一筋流した、次の瞬間ホテルの中から突然何人もの人がパニックを起こしながら飛び出してきた。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「化け物だぁぁぁぁっ!?」
「えっ!?」
「野郎、まさか中の方に!?」
シーラカンス・ディーパーは2人の不意を突くのを止め、先程襲い損ねた宿泊客に狙いを定めたのかと2人がホテルの方を向いた。
その時だ。2人の背後から水飛沫を上げながらシーラカンス・ディーパーが飛び出した。
シーラカンス・ディーパーは一度2人の前から姿をくらませると、一度ホテルの中に入りそこで下級ディーパーを生み出し、2人の意識をホテルにのみ向かわせる為の囮にしたのだ。
結果は成功し、2人……特にテテュスは大きな隙を晒した。今なら地面の下に引き摺り込むことも容易。
そう思ったシーラカンス・ディーパーだったが、その手がテテュスに触れる寸前一発の銃弾が肩を貫き逆方向に吹き飛ばした。
『がぁぁぁっ?!』
「! 後ろ!?」
「何だ!? 今の誰だ!!」
まさか背後から出てくるとは思っていなかったので、2人は弾かれるように背後を振り返った。オケアノスはその際、直前に銃声をしっかりと聞いたので誰かが自分達の援護をしてくれた事に気付き周囲を見渡した。
シーラカンス・ディーパーが吹き飛ばされた方向から逆算して、銃撃が行われたのはホテルからだ。オケアノスは目を凝らしてホテルを凝視し、視線を徐々に上げて狙撃手を探した。
そして彼は見つけた。先程2人がシーラカンス・ディーパーをホテルから叩き出す際に開けた壁の穴の縁に、膝をついて一丁のライフルを構えている1人の仮面ライダーの姿を。
「あれか!」
「誰、あれ?」
2人は初めて見る仮面ライダーだったが、テテュスは何処となくデイナに似ていると感じた。
それもその筈。その仮面ライダーの名は、仮面ライダールーナ。嘗てデイナと共に傘木社の野望に立ち向かった仮面ライダーの1人だったのだ。
そのルーナに変身しているのは、誰あろう仁の妻である亜矢。ルーナはシーラカンス・ディーパーが倒れたのを確認し、銃を下ろすと先程奴が入ろうとしていた客室の方に目を向ける。
そこにはS.B.C.T.のオペレーターの1人に抱きかかえられた2人の我が子が、不安からか泣き喚く姿があった。そう、シーラカンス・ディーパーが襲おうとしていた客室に宿泊していたのは仁達一家だったのだ。
シーラカンス・ディーパーが部屋の扉を開けようとしていた時、部屋の中では亜矢が変身したルーナが既に待ち構えていた。だが奴が部屋に入る前にテテュス達が到着し、部屋から引き離した挙句ホテルから叩き出してしまった。
2人に助けられた事にルーナは感謝し、2人だけに任せる訳にはいかないと壁に空いた穴から連結させたリプレッサーショットを構えて援護できる体勢を整えていたのである。
思わぬ援護により一気にテテュス達が優位に立てた。ルーナの一撃でシーラカンス・ディーパーは満足に動けない。奴を倒すなら今だ。
「ここで一気に賭ける!」
テテュスがチップケースを手に、シーラカンス・ディーパーにトドメを刺そうとする。
だが彼女がチップケースをドライバーにセットしようとしたその時、出し抜けに目の前に姿を現したシーシェイブが両手の爪でテテュスの体を切り裂いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「瑠璃ッ!?」
全く想定外の出現をしたシーシェイブに、オケアノスは何が起こったのか分からず驚愕に動きを止める。それもその筈で、彼はシーシェイブが短い間だが時間を操れることを知らなかったのだ。
それでもテテュスの危機に彼女を援護しようと、テンペストウィップを構えるオケアノス。しかし次の瞬間にはシーシェイブの姿が消え、同時に背中を切り裂かれ地面に倒されてしまった。
「ぐあぁぁっ?!」
「ネ、ネイト……くっ!?」
倒れたオケアノスに、テテュスは何とか立ち上がり反撃しようとしたが、シーシェイブは彼女が何かをする前に爪を発射。射出された爪と繋がったワイヤーが巻きつき、テテュスの体を拘束する。
「くっ!? この、離して――!」
束縛から逃れようとするテテュスだったが、硬質なワイヤーはちょっとやそっと身動ぎした程度では解けない。
悪戦苦闘するテテュスだったが、シーシェイブはそれ以上の彼女の抵抗を許しはしなかった。
シーシェイブは拘束したテテュスにワイヤーを通じて電流を流した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
全身を高圧電流に焼かれる痛みで、テテュスの口から悲痛な悲鳴が上がる。全身の筋肉が強制的に硬直させられ、背筋を伸ばし体を痙攣させた。
「あががががががが!? いあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「いけない!?」
テテュスの上げる悲鳴に、ルーナも異変に気付き子供達から視線を外し下を見た。そこでテテュスがシーシェイブに電撃で攻撃されているのを見て、ライフルを構え引き金を引く。狙うはシーシェイブとテテュスを繋いでいるワイヤー。本来であれば細くてとても狙い辛いそれを、ルーナは正確に狙い撃ち切断した。
「!?」
まさかワイヤーを狙撃で切断されるとは思っていなかったシーシェイブは、ワイヤーを切断したルーナの居る方を一瞬睨む。が、直ぐに視線をテテュスの方に向けると何を思ったのか爪を引っ込め手をリールドライバーに向け伸ばす。
だがその手は何もない空間を掴んだ。シーシェイブの手がリールドライバーに届く直前、いつの間にか復帰していたシーラカンス・ディーパーが物質透過能力で地面の中からテテュスに接近し引き摺り込んでいたのだ。
「あっ!?」
「瑠璃ッ!?」
物質透過能力はテテュスとシーラカンス・ディーパーにしかない為、一度潜られるとオケアノスにもシーシェイブにも何も出来ない。
傷付いた体でシーラカンス・ディーパーと1対1の戦いに持って行かれたテテュスは、電撃で痛む体を動かして抵抗しようとする。
が、シーラカンス・ディーパーはテテュスの腹に重い一撃を喰らわせ彼女の意識を刈り取った。
「うぶっ?! あ、が…………」
意識を失い、がっくりと項垂れるテテュス。シーラカンス・ディーパーは抵抗しなくなったテテュスに満足そうに頷くと、地面の下を通り海に出て海底に向けて潜水していった。
「チッ……」
シーシェイブはシーラカンス・ディーパーにテテュスが連れていかれたのを見て、舌打ちをしてその場から離れ、残されたオケアノスは彼女が連れ去られた地面に何度も拳を叩き付けた。
「瑠璃、瑠璃!? 何してんだよ、早く上がって来いよ!! 瑠璃ぃぃぃぃぃぃっ!!?」
という訳で第26話でした。
デイナには水中戦に特化した能力がありますが、前作ではあまり水中戦をする事が出来ずちょっと後悔しておりました。
その分今作は、海の上の街が舞台という事もあって思いっきり水中戦をさせる事が出来そうで満足しております。
亜矢は勿論ドライバーを持っています。今は専ら子育て何かで忙しく、また危険な事は仁が率先して矢面に立つので出番が無くなっておりますが、腕はまだ鈍っていません。
瑠璃が攫われて海の底へと誘われました。次回は勿論瑠璃の救出に焦点が当てられますが、それだけでは終わりません。次回は今作の事件の核心に迫る話となっています。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。