今回は仁とデイナが大活躍の回となります。
S.B.C.T.αチームと共に海中のディーパーへの攻撃に参加していたデイナは、絶えずエコーロケーションにより周囲の策敵を行っていた。ディーパーの中には海中の景色に紛れて近付いてくるものも居る。そういう奴らからの奇襲を避ける為、音による探知は重要な意味を持っていた。
索敵自体はS.B.C.T.のスコープ達も行っていたが、彼らの策敵とデイナの策敵では大きく違うところがある。それは察知した対称の姿を鮮明に捉えられるかどうかであった。スコープ達のソナーで分かるのは、そこに何かが居るなと言う程度のもの。
だがデイナのエコーロケーションは、捉えた対象の姿なども鮮明に感知する事が出来るのだ。
そのデイナの優れたエコーロケーションが、突如海都の下から出て海底へと向かっていくシーラカンス・ディーパーの姿を捉えた。
(ん? 何だアイツ、いきなり出てきて…………何?)
最初、出てきたのはシーラカンス・ディーパーだけかと思っていたデイナだが、よくよくエコーロケーションで調べると何かを抱えていることに気付く。デイナのエコーロケーションは、それがテテュスである事を報せた。
「マズイ……小早川さん、ここは任せてもいい?」
「はい、大丈夫です。これくらいなら我々だけで」
スコープの返答にデイナは頷くと、海水を蹴ってシーラカンス・ディーパーの後を追う様に海底に向け潜行していく。
深海に向かうにつれ、太陽の光が届かなくなり暗闇に包まれていく。だがデイナには暗さも水圧も関係ない。エコーロケーションで周囲の状況は分かるし、マッコウクジラの遺伝子により深海の水圧にも十分耐えられる。
唯一の懸念はシーラカンス・ディーパーの潜行速度が思っていた以上に速く、徐々に引き離されていたので見失ってしまわないかという事だった。
不安を抱えながら深海に向け潜っていたデイナに、シーラカンス・ディーパーは気付いているのか分からないが何かアクションを起こすことなくテテュスを抱えて潜っていった。
「…………あ?」
不意に、デイナのエコーロケーションがシーラカンス・ディーパーを見失った。策敵の範囲外かと一瞬思ったが、シーラカンス・ディーパーが消えた地点はまだエコーロケーションの策敵範囲内だ。
策敵範囲内なのにエコーロケーションからシーラカンス・ディーパーの姿が消えた理由は直ぐに分かった。海底に辿り着いたのだ。シーラカンス・ディーパーは、海底に存在する
問題は、シーラカンス・ディーパーが入っていったある物であった。その全容をエコーロケーションで知り、デイナは思わず絶句した。
「せ、潜水艦?」
海底に鎮座していたのはどう見ても潜水艦であった。ざっと見た感じ大きな損傷は見られないが、何らかの問題があって沈没したのだろう。かなり大きい、原子力潜水艦の様だ。
「何処の国のだ?」
デイナが記憶している限りにおいて、どこかの国の原潜が沈没したと言う話は聞いた事が無い。日本近海で原子力潜水艦が沈没したとなれば、流石に隠し通せるものではない筈だ。一瞬どこか別の場所で沈んだものがここまで流されて来たのかとも思ったが、それにしても違和感がある。
気になる事は沢山あったが、今はここに連れていかれたテテュスの方が大事だと諸々の疑問を脇に追いやりデイナは潜水艦への入り口を探した。シーラカンス・ディーパーがテテュスを引っ張って入っていけたのだから、何処かに出入りできる場所は必ずある。
それは案外すぐに見つかった。底部に穴が開いており、そこから出入りできるようだ。
デイナは警戒しながら潜水艦の中へと入る。ここは恐らくディーパーの巣窟、どこから敵が出てくるか分からない。
連れ去られたテテュスを探す意味でも、デイナはエコーロケーションの出力を上げ艦内の様子を索敵した。
果たしてテテュスは直ぐに見つかった。どうやら彼女は船の上部に連れていかれたらしい。そこは沈没した後も空気が残っているらしく、海水が無い場所となっていた。シーラカンス・ディーパーはそこにテテュスを連れて行ったらしい。
だが艦内にはシーラカンス・ディーパー以外にもディーパーがうろついている。迂闊に動けば集まって来たディーパーにより、最悪テテュスにも危害が及ぶ。デイナは極力気付かれないように慎重に艦内を移動し、テテュスの元へと向かっていった。
途中、彼が進んでいる通路の先からディーパーがやって来るのが分かった。このままでは見つかると、デイナは近くの部屋に入りやり過ごす。
艦内を巡回しているのか、移動しているディーパーはデイナに気付かず部屋の前を素通りしていく。脅威が去った事にデイナは胸を撫で下ろすが、自分が入った部屋が何なのかに気付き周囲を見渡した。
「ここは……」
その部屋の中には、大きなシリンダーが幾つも並んでいた。人が入るほどではないが、そこそこの大きさを持つシリンダー。
デイナはそのシリンダーに見覚えがあった。
「これは…………もしかして?」
一刻も早くテテュスを、瑠璃を助けに向かわなければならないと言う状況だが、デイナは今居る部屋の内部をエコーロケーションで徹底的に走査した。その結果、部屋の内装に強い既視感を感じずにはいられなかった。
もっと詳しく調べたいが、生憎とそんなに時間はない。已む無くデイナは近くに残された何らかの資料だろうファイルを可能な限りかき集める。エコーロケーションでは文字までは見る事は出来ないので、瑠璃を救出しホテルに戻ってからじっくり調べるつもりだった。
デイナは出来る限り急ぎつつ、ディーパーが部屋に入ってこない事を祈りながら資料を集めていた。
これが今海都で起こっている事の真相に近付く事を予感しながら…………
***
「ん……んん…………?」
瑠璃は暗闇の中で目を覚ました。頭に鈍痛を感じながらと言う最悪の覚醒だったが、そんなこと直ぐに気にならなくなった。
「え? あれ? ここ……私、確か…………!?」
視界が暗い事に疑問を抱くが、意識を失う直前の事を思い出し顔から血の気が失せた。
今自分はシーラカンス・ディーパーにより何処かへ連れ去られた。ここが何処かは分からないが、海の底のどこかだという事だけは察する事が出来る。
それを察したと同時に、瑠璃の頭に浮かんだのは先日ネイトをダイビングに誘った際に自分が見た夢と言うか幻覚の光景。
海底に引き摺り込まれ、その先に待っていた異形に蹂躙される悍ましいイメージ……
「いや、いやぁぁぁぁぁぁっ!? 誰か! 誰か助けて!? ここから出して!?」
半狂乱になって脱出しようとする瑠璃だったが、両手足は生暖かい壁の様な物に埋め込まれており身動きが取れない。それが更に彼女から冷静さを奪い、余計にパニック状態にさせていった。
「いや!? いやいやいや!? 助けて、誰か!? ネイト!? ネイトォ!?」
必死に助けを求める瑠璃。その声によりディーパーを呼び寄せるなどと言う懸念など微塵もない。今彼女の心を占めているのは恐怖だけだった。何時の間にか変身が解除されてリールドライバーがどこかへ行ってしまっていたが、そんな事を気にしている余裕はない。
「くっ!? うぅ! 誰、か……むぐっ!?」
突然何者かに口を塞がれた。暗闇の中、言葉すら封じられた事に瑠璃のパニックが最高潮に達しようとした時、口を塞いだ相手が声を抑えて言葉を紡いだ。
「しー、静かに。奴らが来る」
「!……じ、仁さん?」
「お待たせ。ゴメンね、遅くなっちゃって」
瑠璃の口を塞いだのはデイナだった。彼は資料を集め終わり瑠璃の元へと辿り着いたが、その時には瑠璃が半狂乱になって暴れていたので取り合えず静かにしてもらおうと口を塞いだのだ。
最初ディーパーが遂に何らかの行動を起こしたのかと警戒した瑠璃だったが、相手がデイナだと分かると徐々に落ち着きを取り戻していった。
「仁さん……良かった、ありがとう。でも、どうして? って言うか、ここ何処?」
ディーパーに掴まりデイナが助けに来てくれたと言うこと以外何も状況が分からず次々と質問をしてしまう瑠璃だったが、デイナは彼女を手で制すと筒状の何かを取り出した。と言っても、瑠璃からはデイナが何をしているかは分からないが。
筒のキャップを捻って外すと、その摩擦でマッチが擦れるような音が響き次の瞬間赤い炎が煙を上げながら灯った。それは発炎筒だったのだ。
赤い炎が辺りを照らす。ライト程の明るさはないが、闇が晴れると瑠璃の心にも安堵が広がる。
「そんなの持ってたの?」
「いや? これはここで見つけた物だよ」
ここに来る道中、ディーパーの目を逃れる為何度か途中にある部屋に隠れた際に偶然見つけたのだ。濡れていなかった奴を選んだが、それでも何年放置されているか分からない発炎筒。ちゃんと点火してくれるか不安だったが、取り合えず使用に関しては問題無いようだ。
炎を灯す発炎筒を床に置くと、デイナは拘束されている瑠璃を改めて見た。どんな素材かは分からないが、樹脂か何かの様な物で塗り固められた壁に埋め込むように拘束されている。このままでは逃げる事も儘ならないので、デイナは彼女の手足を固めている樹脂を力尽くで引き剥がし拘束を解いた。
それが終わるとデイナは発炎筒を瑠璃にも渡し、それと同時にここに来る途中で見つけたリールドライバーを渡した。
「これ、持っておいて。それと落とし物だよ」
「あ! リールドライバー、ありがとう!」
リールドライバーを受け取り安堵の顔をする瑠璃だったが、ここはまだ敵の巣窟のど真ん中。何時までも悠長にしていてはシーラカンス・ディーパーを始めとしたディーパーがやって来る。デイナは瑠璃を立たせてその場を離れようとした。
が、瑠璃が立ち上がった瞬間デイナがピタッと動きを止めた。まるで動画を停止させたように動きを止めたデイナに、瑠璃が驚き怪訝な顔をする。
「え、何? どうしたの?」
瑠璃からは分からなかったが、絶えずエコーロケーションで周囲を警戒していたデイナには異変が即座に伝わった。恐らく先程瑠璃が騒いだ事が関係しているのだろう。シーラカンス・ディーパーに率いられて、何体かのディーパーがここへやって来ていた。
「……急いだ方が良いね。今すぐ変身して」
「え?」
「早く」
状況が理解できない瑠璃をデイナが急かす。その際の威圧感に瑠璃は一瞬気圧された。緊急時だったので、少し声に力を入れすぎてしまったのだ。
瑠璃の表情から言い方が悪く委縮させてしまった事を察した仁は、努めて穏やかな声色を意識しつつ現状を端的に話した。
「奴らが近付いてきてる。相手できない事はないけど、ここで君の安全を確保しながら戦える自信は流石にない。さっさとここから逃げたいから変身して備えてくれ」
「う、うん!」
話しながらもデイナはここには居る唯一の扉を警戒し続ける。それで瑠璃も漸く危機感を抱いたのか、慌ててリールドライバーを腰に装着し変身した。
「変身!」
〈Fever!〉
瑠璃がテテュスに変身したのを見て、デイナは彼女の手を引いて近くの壁に向かう。扉とは真逆の方向に、テテュスは首を傾げた。
「何処に行くの? 扉あっちだよ?」
「そっちはもうダメ。奴らが来るまで時間が無い。奴らと鉢合わせするくらいなら、こっちから出た方が良い」
「こっちから……って、まさか!?」
〈ATP Burst〉
デイナが何をするつもりなのかに気付き身構えるテテュス。彼女の予想を証明する様に、デイナはノックアウトクラッシュを発動しエネルギーを左腕に溜め近くの壁に叩き込む。その壁のすぐ向こうは海の底。潜水艦の壁はデイナの一撃に耐える事が出来ず一撃で粉砕された。
するとどうなるか。破壊された壁からは猛烈な勢いで海水が入り込み、水圧で壁の破孔が広がり部屋はあっという間に海水で満たされる。
テテュスはデイナが壁を破壊する直前近くの固定されているものに掴まったし、デイナは次に何が起こるかを理解していたので流れ込んでくる海水に押し流される事無く耐えた。が、瑠璃に起きた異変に部屋にやって来たディーパー達はそうではなかった。
海洋生物であっても、渦潮を始めとした自然現象を前には成す術なく翻弄される。その規模が大きければ大きいほどだ。ディーパーは通常の海洋生物に比べれば強靭だが、それでも予想していなかった水流を前に耐えられるほどではない。
扉を開けると同時に襲い掛かって来た猛烈な水流に、シーラカンス・ディーパー達は潜水艦の奥へと押し流されていった。
ある程度海水の流入が落ち着いてきた頃を見計らって、デイナはテテュスの腕を掴み潜水艦の外へと飛び出した。
「む、無茶苦茶するわね!?」
「よく言われるよ。2年前からね」
テテュスを引っ張ってデイナは海面に向け浮上していく。テテュスは途中まで彼に手を引かれていたが、流石に何時までも彼の世話になるのは申し訳ないと途中から自力で浮上し始めた。
「もういいわ。ここからは自分で泳ぐから」
「ん、そう? なら後は頑張って。俺は少しやる事があるから」
「やる事?」
真っ暗な深海で、デイナはテテュスの質問に答える様に自分達が浮上するのとは逆方向を指差した。先程と違い海中で且つ変身しているのもあって、テテュスにはデイナのジェスチャーが手に取るように分かる。自然釣られて彼が指さす方を見ると、そこには自分達に向けて浮上しているシーラカンス・ディーパー達の姿があった。このままだと追いつかれる。
「あんなに――――!?」
浮上してくるディーパー達にテテュスが危機感を抱いている中、デイナは浮上してくるディーパー達に向けて手を伸ばした。
「水中に強いのは、お前達だけじゃないんだよ」
デイナの手から放たれるのは強力な超音波インパクトウェーブ。陸上で使用しても相手を脳の芯まで揺さぶり行動不能に追い込む威力のそれを、音をよく伝える水中で使えばどうなるか。
『ぐぉぉぉぉぉぉぉっ?!』
シーラカンス・ディーパーは強力な超音波に細胞レベルで多大なダメージを受け、下級ディーパーに至っては耐えきれず肉体が崩壊した。ただの音と見くびるなかれ。マッコウクジラはこの超音波を使って、餌であるダイオウイカなどを一撃で死に至らしめる事すらあるのだから。
デイナの目には見えない攻撃により追手の動きが鈍った。この隙にと2人は一気に浮上していく。
次第に周囲が明るくなってきて、デイナの目にも傍に居るテテュスの姿や海都の海中施設がシルエットレベルで見えるようになってきた。
さらに浮上していけば、2人の耳に発砲音が聞こえてくる。S.B.C.T.のαチームが海中施設の周りに居るディーパーと戦っているところに近付いている証拠だ。あれからそれなりに時間が経っている筈だが、戦闘はまだ続いているらしい。
「仁さん!」
「面倒だ、残りの奴ら全員お引き取り願おう」
〈ATP Burst〉
レセプタースロットルを引いてATPを産生したデイナは、そのエネルギーを全身に行き渡らせると超音波として一気に放出。指向性を持たせた超音波を一度に複数のディーパーに向け放ち、スコープ達と戦闘をしているディーパーを同時に複数攻撃した。
正確に狙いを定めての指向性超音波、それも本来はノックアウトクラッシュに使われるエネルギーを使っての一撃は、下級ディーパーのみならず通常のディーパーですら一撃で吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
「うぉっ!? え?」
「何だ?」
「これは……! 門守君!」
突然自分達と戦っていたディーパーが吹き飛んだことに困惑する隊員の中で、スコープは直ぐに何が起こったのかを察しその下手人であるデイナを見つけ近付いていく。その傍に居るテテュスに気付くと、何故彼女がここに居るのかと首を傾げた。
「大梅さん? 何故あなたがここに?」
「さっきシーラカンス・ディーパーに彼女が連れていかれるのが見えてね。一足先に下に行ったのはそういう理由」
「危ないところを助けてもらったわ」
テテュスがこの場に居る理由にスコープは頷き、そして彼により周囲のディーパーが纏めて始末された事に感謝の言葉を述べた。
「ともあれ、助かりました。この辺りのディーパーは粗方居なくなったようなので、一度上に戻りましょう」
スコープの指示で部隊は全員会場の輸送船に撤収。デイナとテテュスもそれに続き、輸送船に上がると変身を解除して一息ついた。
「ふぅ……」
「はぁ~~……」
軽く一息吐く程度の仁に対し、瑠璃は大きく息を吐き壁に背を預けてズルズルと滑り落ちるように腰を下ろした。まだ半日も経っていない筈だが、体感時間とても長い間戦っていた気がする。特に彼女は命の危機すら感じたのだ。その精神的負担は仁達の比ではないだろう。
そんな彼女を労おうと、仁は座り込んだ瑠璃に手を差し伸べた。
「お疲れ。大変だったね。無事で良かったよ」
「あ、ううん。こっちこそありがとう。本当に、あの時はもうダメかと……」
感謝しながら仁の手を取り立ち上がる瑠璃。その際仁は、彼女の胸元から下に向かって服に切り傷がある事に気付いた。
「あれ? それ……」
「え?……あわ!? こ、これはちょっと、海都で一つ目の変な奴に不意打ちされちゃって……」
「一つ目……あぁ、あいつか」
仁は瑠璃を傷付けたのが誰なのかすぐに気付いた。だがそれ以上に気になるのは、服は派手に切れているのにその下に僅かに見える地肌にはほとんど傷が見られない所だった。その様子に仁は違和感を感じ、好奇心に突き動かされ破れた服を少しずらしてその下の地肌をよく観察した。
「? なぁに?」
仁の突然の行動に首を傾げる瑠璃を無視して仁は切られただろう部分を観察するが、やはりそこには傷口どころか傷跡すら見られない。
「……変身した状態で切られたんだよね?」
「うん」
「ふむ…………」
自分も系統は違うが、仮面ライダーに変身するから分かる。服がここまで切れるレベルのダメージを受けたのなら、その下の地肌にも傷が出来る筈だ。少なくとも、こんなきれいな肌を維持できる筈がない。
では、瑠璃の体は何故無事なのか?
「……君、傷の治りが昔から早かったりする?」
「2年以上前の事は分からないけど、う~ん……そうねぇ……確かにちょっとの怪我なら早めに治ったような気も……」
勿論傷の治り方には個人差もあるから、これが一概に異常とは言い切れない部分はある。だが仁には、彼女のこの傷の治りの早さに既視感……と言うか、親近感に近い物を感じずにはいられなかった。
「私からも一ついい?」
「ん? 何?」
「それ何なの?」
そう言って瑠璃が指さすのは、仁の脇に抱えられたファイルの束である。潜水艦の一室で見つけた資料のファイルをここまで持ってきていたのだ。
「下の潜水艦、何なのかと思ってね」
「ふ~ん?」
「潜水艦?」
2人の会話が耳に入ったのか、慎司が話に入って来た。彼としては海底にディーパーの巣がある事は予想していても、潜水艦があるなど予想外なのだろう。
「何ですか潜水艦って?」
「後で纏めて説明するよ。それより大梅さん?」
「はい?」
「ちょっとこの後軽く検査を受けてもらえる?」
「へ?」
海都地下でディーパーに攫われた隊員も樹脂の様な物で固められた上で新たなディーパーを生み出す為の苗床の様な物にされた。今回瑠璃も同じような状態だったので、その隊員達の様に何かをされていないとは限らない。
仁の言葉に瑠璃の顔から血の気が引く。だが仁は即座に彼女を元気づける。
「ま、多分大丈夫。君が連れていかれてから直ぐに俺も入ったから、何かされた可能性は低いと思う。ただ念の為に、ね?」
「そ、そうよね。大丈夫よね、うん」
その後船は海都の港に戻り、瑠璃は仁と共に病院へと向かった。検査と言っても、やる事はレントゲンと血液検査程度だとか。
病院に向かう道中、仁の携帯に亜矢からの連絡が入った。何かあったのかと仁が携帯に出ると、聞こえてきたのは物凄く慌てた様子のネイトであった。
『門守か!? 大変だ、瑠璃が!? 瑠璃が連れ去られた!?』
『ちょっと! いきなりそんな事言ったって仁君訳分らないでしょ! ちょっと貸して!』
どうやらネイトは真矢から携帯を引っ手繰るようにして要件を伝えようとしたらしい。向こう側から聞こえる声であちらの慌てぶりがよく伝わってくる。
取り合えず今はネイトを落ち着かせる方が先決かと、仁は端的に瑠璃の安全を伝えた。
「大梅さんなら無事だよ。今一緒に居るから」
『え!?』
「大梅さん抱えて潜っていくシーラカンス・ディーパーが見えてね。後を追って助けたんだ」
『本当か? 本当に瑠璃はそこに居るのか!!』
「安心して。念の為に検査とかは受けてもらうけど、元気そうではあるから」
そこで仁は携帯を瑠璃に渡した。ここで仁が幾つも言葉を並べるより、瑠璃の声を電話越しでも聞かせた方が良い。
「もしもし、ネイト?」
『瑠璃!? 大丈夫なのか!?』
「うん。仁さんが助けてくれたからね」
『そっか……良かった…………』
電話越しにネイトの心底安心した声が聞こえてくる。それだけで彼がどれだけ心配していたかが伺え、瑠璃は申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「ゴメンね、心配させちゃって」
『いや、瑠璃が無事ならそれで十分だ。門守に代わってもらえるか?』
「うん。仁さん、はい」
『門守、本当にありがとう。瑠璃を助けてくれて……』
「気にしないで」
ネイトからの心からの感謝に仁が答えると、ネイトは携帯を真矢に渡したらしい。今度は真矢の声が聞こえてきた。
『何事も無かったようで良かったわ。何度も電話しても仁君全然出ないんだもの』
「携帯船に置いてきちゃったからね」
『でも、流石仁くんです』
その後、仁は亜矢といくつか言葉を交わし通話を切ると、改めて瑠璃を病院へと連れて行き検査を受けさせた。
結果は特に異状なし。レントゲンでも変な影が映るという事はなく、血液検査でもこれと言って異常は見られることなく健康体である事が証明された。
安堵する瑠璃は仁に何度目になるか分からない感謝をして、その日は彼と別れて帰っていく。
それを見送った彼の手には、こっそりくすねていた瑠璃の検査用血液の一部が握られていたが、瑠璃がそのことに気付く事はなかった。
という訳で第27話でした。
海底に沈んだ潜水艦に何とも言えない浪漫を感じるのは私だけでしょうか?何か色々な意味でのお宝が眠ってそうな印象があるんですよね。
今回デイナが海底深くまで潜りましたが、最初このシーンは仁が生身で潜る予定(流石に海中スクーターは使います)でした。ただ話の流れ的に素潜りでなく変身しての潜行になりまして。
エイリアン張りに囚われていた瑠璃でしたが仁によりあっさり救出。その際にお土産も手に入れました。お土産の内容は次回明らかになります。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。