お待たせしました。今回、遂に瑠璃の過去が明らかとなります。
デイナ達と芳江との戦いによる火の手は黒煙を上げ、朝の海都の空に高く昇っていた。海都は決して狭い街ではないが、それでも端から端が地平線の彼方に消える程ではない。だから黒煙の様な目立つものが立てば街のどこに居ても見える。
朝の海都の街で目立つその黒煙は、目覚めた住民達の目に留まり誰もが不安そうな顔で見上げていた。何しろここは海の上の孤島、大火災なんて事になれば逃げ場はない。
当然その黒煙は瑠璃とネイトの目にも入る。そろそろ帰ろうかと腰を上げた直後、瑠璃が遠くの方で空に昇る黒煙に気付いたのだ。
朝早くからの異変に、2人の顔が険しくなる。
「何あれ、火事?」
「まさかディーパーか?」
「ドライバーは反応してないけど……」
リールドライバーが何の反応もしていないという事は、黒煙の原因はディーパーではない。原因がディーパーではないのであれば、街の消防やレスキューに任せた方が良いかと悩む2人だったがその時、遠目でも分かる爆炎と共に新たな黒煙が上がった。
あれはどう見てもただの事故などではない。
「急ごう!」
「あぁ!」
2人は急いで家に戻り、瑠璃のバイクに跨り黒煙が上がる現場へと向かう。
道中現場に向かいながら周囲をチラリと見ると、既に活動を開始している住民の中には立ち上る黒煙に不安そうな顔をしている者が多数居た。だがまだパニックを起こすほどにはなっていない。
それでもやはり現場に近付くにつれて不安と騒動は大きくなっていき、再び新たな黒煙が上がった時にはざわつく人も居る程だった。
そんな住民を横目で見ながら瑠璃がバイクを走らせていると、警官とS.B.C.T.による規制線に当たった。無関係な住民がこれ以上近付いて巻き込まれないようにと言う処置であろう。
「瑠璃、見えるか!」
「見えてる! S.B.C.T.も動いてるって事は……」
「あぁ、ただ事じゃねえな!」
「しっかり掴まって!」
好奇心で近付こうとする野次馬を遠ざけようとする警察官の1人が、スピードを緩めずそれどころか速度を上げようとしている瑠璃に気付き慌てて目の前に立ち塞がり止めようとした。
「あ、ちょ! そこのバイク!?」
「ッ! 待て! あのバイクは良い」
「え?」
警官が瑠璃を止めようとしていることに気付いたライトスコープは、瑠璃の前に出ようとしている警官の肩を掴んで引っ張り道を開けさせた。
警官隊が困惑している間に瑠璃はバイクの速度を上げると、見事なテクニックでバイクをジャンプさせ規制線を飛び越え現場へと向かっていった。ライトスコープの配慮に感謝しつつ、瑠璃はそのままバイクを走らせ戦いの場へと突入した。
2人が現場に辿り着くと、まず目に入ったのは倒れた無数のライトスコープ達だった。受けたダメージは大小様々でまだ息のある者も多数居る。
そんな中で、激しく戦っているのがデイナとスコープだ。彼らは2人のシーシェイブと戦っている真っ最中だった。
「ゲッ!? あれが2人居る!!」
「面倒だな、さっさと終わらせるぞ!」
〈Bet your life〉
〈Catch your fate〉
「「変身!」」
〈〈Fever!〉〉
2人は同時に仮面ライダーに変身すると、テテュスはデイナに、オケアノスはスコープに味方すべく別れて戦闘に加わった。
「ハァッ!」
「! グッ!?」
突如現れ横合いから飛んできたテテュスの飛び蹴りを、デイナの相手をしていたシーシェイブは反応が間に合わず喰らってしまう。
「大梅さん?」
「仁さん、お待たせ! ところでこれ、どういう状況?」
蹴り飛ばされて倒れたシーシェイブを前に、構えを崩さないテテュス。シーシェイブが体勢を立て直す最中、デイナはハイブリッドアームズを構えながら簡単に状況を説明した。
「あれ、片方は北條博士だよ。今小早川さんが相手にしてる方」
「え!?」
「彼女は傘木社の研究員だったんだ。名前を変えて、何の目的かは知らないけど海都に潜り込んでたらしい」
デイナから告げられた衝撃の事実に、テテュスはスコープ・オケアノスの2人と戦っている方のシーシェイブの方を思わず見てしまう。
テテュスが居ている先では、芳江の変身したシーシェイブがスコープ・オケアノスの2人を相手に互角に渡り合っていた。
「ハッ!」
シーシェイブが放った蹴り上げが、スコープの持っていたガンマライフルを空中へ蹴り飛ばす。スコープは一瞬蹴り飛ばされた銃に目を奪われるも即座に頭を切り替え、ボルテックスブレードを起動し斬りかかった。そこにオケアノスのテンペストウィップも加わる。
「オォォッ!」
「そりゃっ!」
剣と鞭の攻撃を、シーシェイブはまるでブレイクダンスを踊るような動きで切り抜け無力化。それどころか、回避の為の動きをそのまま攻撃に転用。勢いの乗った蹴りをスコープとオケアノスに次々と叩き込んだ。
「そらそらそら!」
「ぐっ!?」
「いだだっ?!」
2人の仮面ライダーを相手に立ち回るシーシェイブの動きは、とてもではないが普段白衣を着て研究室に引き籠っている博士のそれとは思えないほどのものだった。本職のスコープは勿論、荒事に慣れていると言っても過言ではないオケアノスの2人を同時に相手にしてあの動きが出来るのは、生半可な実力ではない。
「くそぉ、何だあれ? あの博士こんな強かったのかよ。くそ、あのアマずっと猫被ってやがったな」
「確かに、色々な意味で猫を被っていたようです。まさか博士が傘木社の研究員だったとは」
「あら、あそこにいる門守 仁だって研究者でありながら仮面ライダーで実力者でしょ? 研究職だからと言って戦いに不慣れと言うのは間違った偏見じゃない?」
攻めあぐねている2人に、シーシェイブは両腕のマシンガンを起動し銃弾をばら撒いた。激しい弾幕を前に、2人の仮面ライダーは満足に近付く事すらままならずその場に釘付けにされていた。
その様子を横目に見たテテュスは、グリーンライフコインを取り出しながらデイナに告げた。
「仁さん、こっちの相手は私がやるわ。あなたはあの2人の方をお願い」
「いいけど、大丈夫?」
「大丈夫、何とかするわ!」
〈Bet〉
話しながらテテュスはコインを取り換え、ダイアリーシールドとクイールエペンを装備したシールドレイズにレイズアップした。以前の戦いでシーシェイブの持つ時間操作能力を無力化したこの姿であれば、奴の相手をするのも怖くはない。
自信を感じさせるテテュスの姿に、デイナは彼女を信じようと一つ頷くとスコープ・オケアノスの援護に向かおうとする。
主人である芳江に脅威が近付く事を、8号のシーシェイブは勿論阻止しようとした。だがその前に、ダイアリーシールドを構えたテテュスが立ち塞がる。
「貴方の相手はこの私よ」
「チッ、邪魔だ!」
本当なら八つ裂きにしてベルトを奪ってやりたかったが、今はそれよりも芳江の身の安全だ。シーシェイブは腰の装置を起動して時間操作でテテュスをやり過ごしデイナを止めようとした。
だが砂時計を反転させて押し込んでも時間が止まらない。何度操作しても、装置が起動する事はなく時間はそのまま普通に流れていた。
「!? 故障!?」
「残念でした。それ使われると面倒くさいから、さっさと書き込ませてもらったわ」
そう言ってテテュスが見せたダイアリーシールドには既に、時間操作が行えなくなることが記されていた。
またしてもあの姿の能力で自分の方の能力を一方的に潰されてしまった事に、シーシェイブは歯噛みした。
(だからもう少し調整をして欲しいと――――!?)
以前の戦いの後、8号は珍しく芳江に対し新装備の時間操作装置の細かい調整を希望していた。多少の事で不備が発生するようでは装備として信頼がおけない。
だが芳江はそれを適当に流し、ただ再使用が出来るようにした程度でそれ以上の事は一切手を付けなかった。以前と何も変わらず、何か少しでも不備があれば装置が使用不能になってしまうという欠陥を抱えたままのポンコツ装備。
それを抱えたまま戦わされるのだから8号としては堪ったものではない。
「さ、どうする? 頼みの綱は使えなくなった訳だけれど?」
奥歯を噛みしめるシーシェイブの前で、テテュスが挑発する様に羽ペンの様な剣を弄ぶように切っ先を向けている。それを見せられて、シーシェイブは怒りで我を失ったかのようにテテュスに向け突撃した。
「舐めるな!? この、不良品がぁぁぁぁっ!?」
「不良品?」
ここでシーシェイブが起こる事は想定内。寧ろそうなるように仕向けていたのは事実だが、しかしそれにしたって罵倒の言葉が不良品と言うところにテテュスは違和感を感じずにはいられなかった。
不良品という事は、それに対する正規品とも言うべき存在がある筈だ。瑠璃の記憶喪失を指して不良品と言っている可能性も無くはないが、それとは根本的に違う何かを指して彼女の事を不良品と罵っている気がしてならない。
もしや、あのシーシェイブは自分の事を何か知っているのではないかと言う疑念をテテュスは抱いた。
「……これは意地でもアイツを倒さないといけないみたいね」
「アァァァァァァ!!」
迫るシーシェイブが右腕の爪をテテュスに向け振り下ろしてくる。テテュスはそれを左腕の盾で受け止め、お返しとばかりに剣による刺突をお見舞いした。
「がぁっ?!」
大振りな攻撃を受け止められ隙を晒したシーシェイブには、この攻撃に対処する余裕がない。放たれた刺突を回避も防御も出来ず、シーシェイブは胸部の装甲を大きく傷つけられ吹き飛ばされる。
シーシェイブを吹き飛ばしたテテュスは、ダイアリーシールドを開くとそこにクイールエペンで文字を書き込んだ。最初は手早く、敵の変身が解けると書き込む。
が、これは不発に終わった。書き込みが終わった直後、書いた文字がインクが水に広がる様に消えていったのである。
(こう言うのはダメな訳ね……それなら!)
テテュスが次の予言を書き込んでいると、体勢を立て直したシーシェイブが隙ありと突撃してきた。まだテテュスは暢気に左腕の盾に何かを書き込んでいる。完全に隙だらけ、今なら反応されても攻撃を当てる自信がシーシェイブにはあった。
そう思っての突撃だったが、突如足元に何か違和感を感じたと思った次の瞬間、シーシェイブの視界が反転した。
「んなっ!?」
何が起こったのかと確認する前にシーシェイブはその場で激しく転倒した。何が起こったのかと体を起こして周囲を見ると、恐らく自分が走って来たと思われる進路上に中身の入った缶コーヒーが転がっているのが見えた。その近くには戦いの余波で破壊されたのだろう自販機があり、破壊された事で中の缶ジュースやペットボトルを吐き出している。
「よし!」
テテュスがダイアリーシールドに書き込んだのは簡単な内容だった。曰く『敵は走る途中で転ぶ』と……。
ダイアリーシールドに書き込む内容が実現するには、それが実現可能な範囲であればあるほど発動率が上がる。だから調整が甘いシーシェイブの時間操作装置は頻繁に動作不良を起こすし、反対に調整がしっかりしているシーシェイブのシステムは異常を起こさずダイアリーシールドに書かれた内容も不発に終わった。
見渡せば周囲は戦闘の余波で色々なものが破壊され、ゴミや残骸が散乱している。こんな所で駆けずり回れば、場合によっては足を取られて転倒する事は容易に想像できる。故に、テテュスの書き込んだ予言があっさりと実現したのだ。
転倒して隙を晒したシーシェイブにテテュスが怒涛の攻撃を畳み掛けている頃、芳江が変身しているシーシェイブにはスコープとオケアノスに、さらにデイナまでもが加わった事で一気に形成が傾きつつあった。
「ゲノムチェンジ」
〈Amazing! Revelation of the legend, DRAGON. Open the door〉
最強の姿であるニュージェネレーションフォームに次ぐデイナの切り札とも言えるドラゴンライフ。幻想にしか存在しない最強の生物の力を象ったデイナの放つ一撃は、それまで2人の仮面ライダーを圧倒していたシーシェイブを一撃で殴り飛ばすほどであった。
「ハァッ」
「ガハッ?!」
デイナの一撃で殴り飛ばされたシーシェイブは、電柱をへし折り壁にめり込むほどの威力を見せた。それまでシーシェイブ1人に苦戦していた2人は、その威力に思わず唖然とする。
「う、うぉぉ……スゲ……」
「さ、流石ですね……」
「褒めてくれるのは良いけど、彼女まだ元気だよ」
そう告げるデイナの前で、シーシェイブは壁から自分の体を引き抜く今の一撃が大分効いたのか、アーマーの各部から火花を散らせているが降参する気はまだ無いらしい。存外しぶとい事に面倒を感じずにはいられないデイナだったが、ここで彼はある事に気付いた。
芳江が研究室から逃げ出す際に持ち出していたカプセルが見当たらないのだ。
「あれ? ねぇ小早川さん、あの人研究室から逃げる時何かカプセルを持ってた筈だけど、あれは?」
「さ、さぁ? 確か戦い始めた時は持ってた筈ですが……」
正直芳江の意外な実力に、スコープの方もそこまで頭を回している余裕はなかった。ただ気付けば芳江は両腕を自由にして戦っていたので、戦闘の最中に被害を受けないようにと物陰にでも隠したのだろうと思っていた。
その予想は正しく、デイナが注意深く周囲を観察しているとシーシェイブの背後の物陰に何かが置かれているのが見えた。
(自分が捕まるかもって時でも後生大事に持ち出すほど……一体何が?)
デイナはそのカプセルの中身を知らなかったので、純粋に興味を抱きカプセルへと近付こうとする。それに気付いたシーシェイブが、デイナの動きを阻止しようとした。
「ダメですよ、門守さん。これには近付けさせません」
「それの中には何が?」
「貴方に言う必要はありません。あぁでも、貴方が私の実験台になってくれると言うのであれば見せて差し上げますよ?」
〈Blast mode, set〉
話しながらシーシェイブがベルトにプレートを読み込ませると、電子音声が響き全身の装甲が開いた。装甲の隙間からはラジエーターフィンが伸び、赤熱化したフィンから熱気が放出される。放出された熱気が空気を温め、シーシェイブの周囲で陽炎が揺らめく。
「それは……」
「フフフッ……このシーシェイブ、ただのスコープのコピー品と侮ってもらっては困るわ。シーシェイブにはこれまでのスコープの戦闘データに加え、仮面ライダーデイナの戦闘データもインプットしそれに対抗できるよう強化してある。このブラストモードは、今のデイナと同等程度の戦闘力を持っているわ」
「机上の空論だね。実践で試した事も無いくせによく言うよ」
「今から証明してみせればいいのよ」
そう言うとシーシェイブは熱気を放出しながらデイナに向け突撃、フィン同様赤熱した爪をデイナに向け振り下ろした。
振り下ろされた爪をデイナは片腕で受け止めるが、赤熱化した爪は徐々にデイナの生体装甲を焼き切っていく。
「ッ……」
このままでは腕ごと焼き切られると判断したデイナは、空いた方の腕でシーシェイブを殴り飛ばして距離を取る。殴り飛ばされたシーシェイブは、空中で熱気をバーニアの様に放出して空中で姿勢制御を行い体勢を立て直して着地。そして着地と同時にマシンガンで銃撃してきた。
「くっ」
「逃がさないわ!」
横に動く事でシーシェイブの銃撃を逃れるデイナだったが、銃弾も赤熱化されているからか威力が上がっており着弾と同時に小規模な爆発を起こしていた。厄介さが上がった攻撃にデイナが顔を顰めながら逃げていると、暴れまわるシーシェイブにオケアノスがテンペストウィップを巻きつけた。
「これ以上暴れさせるかよ!」
オケアノスの鞭はシーシェイブの片腕に巻きつき動きを封じようとしたが、今のシーシェイブから放たれている熱はかなりの熱量を持つのか何とオケアノスの鞭が徐々に焼かれ最終的には切れてしまった。恐るべき熱量にオケアノスは思わず目を見開く。
「はぁっ!? 何だそりゃ、どんだけ熱いんだアイツ!?」
信じられないと声を上げるオケアノスだったが、その光景を見てデイナはある事を思いついた。
「ねぇ小早川さん、アイツを温める事って出来ないかな?」
「温める?」
地球の物理法則に則っているのであれば、シーシェイブのあの状態は何時までも続かない筈だ。持って数分と言ったところだろう。それ以上あの状態を維持していたら、装備も中身も耐えられない。
それならば、外部からさらに熱を加えてシーシェイブのシステムに掛かる負荷を増やしてしまおうと言うのだ。デイナがそれを伝えると、スコープは合点が入ったと頷いて見せた。
「なるほど、そういう事なら」
〈Flamethrower Starting〉
スコープが装備したのは専用装備の火炎放射器。少し前に地下研究所がディーパーに占拠されていた際にも使用された装備だが、こちらはスコープ用にチューンアップが加えられており火力が上がっている。
その火炎放射器をスコープはオケアノスの相手をしているシーシェイブに向けた。
「こっちだ!」
「「!」」
スコープの声にシーシェイブとオケアノスが反応する。その瞬間、スコープが引き金を引くと放出された液体燃料に着火して強烈な炎がシーシェイブに襲い掛かる。
あっという間に全身火達磨となったシーシェイブ。装備のお陰で変身している芳江が直接炎に包まれるという事にはならないが、ただでさえ高温となっている今のシーシェイブに炎の熱は大敵であった。あっという間にシステムが限界近くまで加熱され、オーバーヒートを起こしシステムが強制的に停止しブラストモードが解除。急速冷却モードに入り、シーシェイブは全身が鉛の様に重くなり動きが鈍った。
「ぐっ!? くっ、これは――――!?」
「よし。ネイト、今だよ」
「おっしゃ!」
〈ATP Burst〉
〈SEVEN! SEVEN! SEVEN! Three of a Kind Seven!〉
動きが鈍ったシーシェイブにデイナとオケアノスがトドメの一撃を放とうとしている頃、8号のシーシェイブとテテュスの戦いにも決着が付こうとしていた。
「あぁぁっ!」
シーシェイブの爪がテテュスに襲い掛かるが、テテュスは左腕の盾を使ってそれを防ぎ、弾き、そうしてシーシェイブに隙が出来たところを狙って剣で切り裂いた。
時折シーシェイブがテテュスの隙を突こうとするが、そういう時は大抵テテュスがダイアリーシールドに予言を書き込んでいる時であり結果的にシーシェイブは実現した予言――その場で転んだり体が何かに引っ掛かって攻撃が失敗に終わったり――により大きな隙を作り出され、テテュスからの攻撃により何度も地面を舐めさせられていた。
「く、そ……!?」
「さ~て、そろそろ賭け時かしら?」
〈All in!〉
動きの鈍った今がチャンスと、テテュスはチップケースをドライバーに装着しレバーを下ろした。それに気付いたシーシェイブが不味いと思った時には、もう全てが手遅れであった。
「黒の33!」
〈Fever!〉
発動したテテュスのジャックポットフィニッシュの効果により、シーシェイブは動きを封じられてしまう。逃げる事の出来ないシーシェイブに、テテュスの必殺の蹴り技が炸裂し大きく吹き飛ばされる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
一方で、デイナとオケアノスも芳江のシーシェイブにトドメの一撃をお見舞いし、彼女を変身解除にまで追い込んでいた。
「「ハァァァァァァァッ!!」」
「くっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
仮面ライダー2人の必殺技を喰らったシーシェイブも地面を転がりながら変身を解除され、傷だらけの状態で倒れていた。その傍には同様に傷だらけとなった8号が…………
2人を倒した事で、テテュス達は変身を解除し一息つく。
「ふぅ……これで、この街での騒動は一件落着、かな?」
「いえ、それはまだです。まずは博士を拘束しなければ」
「あの凶暴女も頼む。アイツ何かと瑠璃をつけ狙ってるみたいなんでな」
勿論慎司は芳江だけでなく、8号の事も拘束するつもりだった。あの戦闘力に加え、芳江に加担しているという事で逮捕するだけの十分な理由になる。
並んで倒れている芳江と8号に、ライトスコープが拘束しようと徐々に近づいていく。それに気付いた8号が、傷付いた体で立ち上がり芳江を守る様に立ち塞がった。
「ふぅっ!? ふぅっ!?」
血走った目から放たれる眼力に、思わず歩みを止めるライトスコープ達。正に手負いの獣と称するに相応しい8号の姿に、慎司は恐れず拘束する事を命じた。
「恐れるな。どちらも既に手負いだ、大した抵抗は出来ない」
「時間を与えないで。その博士、何か仕込んでるかもしれないから」
慎司に続き仁にも促され、改めて2人を拘束しようと隊員が動き出す。
その瞬間、芳江の口から絞り出すような笑い声が上がった。
「ふふ、く……くくく……ふふふふふっ!」
「?……何がおかしいの?」
耳聡くその笑い声を聞きつけた仁が思わず訊ねると、芳江は口の端から血を滲ませながら顔に笑みを浮かべて答えた。
「これが笑わずにいられる? だってそうでしょ? この場で1人、自分は何も関係ありませんなんて顔してるんだもの。おかしくってしょうがないわ」
芳江の言葉を聞いて、仁は素早く瑠璃の方に目を向けた。瑠璃の方もそれに気付き、芳江と仁を交互に見る。
「え、何? 私? 私が何?」
「いい機会だわ、色々と教えてあげる。8号……包帯を取りなさい」
「!?」
その命令に、8号の目から一瞬で狂気が消えた。息を呑んだ8号がまさかと言う顔で背後を振り返れば、芳江は無言で顎をしゃくって再度包帯を外す事を命じた。
8号はその命令に直ぐには従わず、何やら逡巡する様に俯いたが直ぐに覚悟が決まったのか顔を上げると顔に巻いてある包帯を毟り取る様に外した。
乱暴に引き千切る様に外された包帯が地面に落ちる。その瞬間、露わになった8号の顔を見てその場の誰もが目を見開いた。
「なっ!?」
「あれは……」
「うそ、だろ?」
「え………………私?」
そこにあったのは間違いなく瑠璃の顔であった。顔立ち、目の色、髪の色から何まで全て同じ。唯一違うところを挙げるとすれば、顔を斜めに走る大きな傷があるという点だろうか。
「どういう事だ!? なんで瑠璃と、セラと同じ顔が二つある!!」
まず真っ先に黙っていられなかったのはネイトだった。彼の記憶にある限り、セラが双子だったと言う事実はない。つまり、この場に居る瑠璃と8号、どちらかは作られた顔という事になる。無論同じ顔の他人と言う可能性も無くはないが、芳江がこの場で8号に素顔を晒させたことを考えるとその可能性は限りなく低い。
「瑠璃……瑠璃、ねぇ? お人形の割には、随分と良い名前を貰ったじゃない?」
「人形? 私が?」
「ッ!? マズイ――!」
芳江が何を口にするつもりなのか気付いた仁が、彼女の口を塞ごうと走り出す。
その彼の足元に、無数の銃弾が突き刺さった。いや、彼の足元だけではない。芳江と8号に近付こうとする者全ての足元に次々と銃弾が突き刺さり、彼らに後退を余儀なくさせた。
「くっ、誰?」
「何者だ!?」
仁達が銃弾の飛んできた上の方を見上げると、そこにはインディゴサイクロン、ターコイズスウィール、コバルトウェーブの3人がベクターリーダーを手に佇んでいた。
3人は芳江たちに近付く者を遠ざけると、両者の間に割って入り芳江を立ち上がらせる。
「おい、これで十分に仕事は熟しただろ?」
「えぇ、ご苦労様」
「ん? お前、何でこっちに?」
面倒くさそうにインディゴサイクロンが芳江に話し掛けていると、コバルトウェーブが8号の素顔に気付いた。彼はこちらに最初瑠璃が居る事に違和感を抱き、そして仁達の方を見てそちらにも瑠璃が居る事に困惑した。
「は? え? 何でコイツ2人居るの?」
「その種明かしを今からするところだったのよ。今凄く良いところだからだれにも邪魔させないで」
芳江は3人を押し退けるように前に出ると、真っ直ぐ瑠璃の事を見て怪しい笑みを浮かべた。
「フフフッ……えっと、大梅 瑠璃……だったわね? 貴方、自分が普通の人間とは違うところがある事に気付いてる?」
「な、何が?」
「暗い海の中でも、昼間の様に遠くまで見る事が出来る」
「ッ!?」
芳江の指摘に瑠璃は思わず呼吸が止まった。そう言えば以前、海羽に自分が海に潜っている時の景色を口で伝えたら、どう言う訳か首を傾げられた。その時は自分の説明が下手くそだったのかと思ったが、もしそうではなく、そもそも瑠璃と海羽で海に潜った時に見える景色が違うのだとしたら…………
「酸素ボンベ無しで長時間深い場所まで潜っていられる」
「高速で動く物も、比較的ゆっくり動いてるように見える」
「周囲に誰も居ない筈なのに、声だけが海の底から聞こえてくる」
芳江が口にする事はどれもこれも、彼女に話した覚えのない瑠璃自身に当てはまる事であった。
特に高速で動く物がゆっくり動いているように見えるほどの動体視力。これは普段ルーレットで活かされている彼女の能力だった。この能力があるから彼女は基本的にルーレットを外すことなくピタリと当てる事が出来るのだ。
「な、何で……?」
「何で私がこれらを知ってるかって? 当然じゃない、何しろ私は――――」
これ以上芳江に話をさせては不味いと、仁は彼女の口を塞ごうと駆け出した。
しかしその彼の前にはインディゴサイクロン達が居る。先程の銃撃で彼らが芳江の味方であると判断した仁は、彼らを迂回すべく回り込むように動いた。
それが無駄な時間を生み、結果的に芳江に全てを話させてしまった。
「貴方の生みの親でもあるんだから」
「――――え?」
思いもよらぬ芳江の発言に瑠璃の頭の中が真っ白になる。その呆けた顔が面白いのか、芳江は遂に声を上げて笑い出した。
「あははははははははっ! まだ思い出せない? 自分がどういう風に生まれたのか?」
「止せ! それ以上は――――」
「大梅 瑠璃! 貴方はね、海に適応した海洋人ムー大陸の人間の数少ない生き残りの女のクローンとして作り出された存在なのよ!」
芳江の口から飛び出た衝撃の事実に、遂に仁の足も止まった。その顔は間に合わなかった事に対する後悔で歪んでいた。
一方の瑠璃は、自分がクローンであり作られた存在であると聞かされ、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けていた。手足の先から体が冷えていき、足元が崩れて体が宙に浮いているかのように現実味が薄れていく。
「私が……クローン? 作られ、た?」
否定したかった。そんな事はないと、自分は普通の人間だと、声高に叫びたかった。
だが作られた存在だとすれば、記憶が無い事にも納得がいってしまう。何より、芳江の指摘した事が全て事実だった事が瑠璃に己の真実を否応にも理解させていた。
そしてトドメに、瑠璃の中でそれまで封印されていた記憶が一気にあふれ出した。
――淡い緑色の溶液で満たされたシリンダーの中で目覚める自分の姿。
――周囲を見渡せば、自分の姿を観察する研究員が何人も居る。
――その中には芳江も居た。
――さらに注意深く周囲を見れば、同じ部屋の中には同じ姿で同じシリンダーに入った瑠璃と同じ女性が何人も居る。
――シリンダーから出され、様々な検査を受けた結果、瑠璃に付けられた評価は失敗作。
「あ、あぁぁぁぁぁ…………し、失敗作? 私、失敗作――――!?」
「やっと思い出した? そうよ、貴方は失敗作。このセラ8号と違って記憶の転写にも失敗し、ただ生きてるだけの人形の筈だった。それがこんなにまで立派になるなんてね」
自分の見立ても甘かったと、芳江は過去の自分の仕事の杜撰さに溜め息を吐くが瑠璃はそれどころではない。
今までずっと探し求めていた自分の過去。それがこんな残酷なものだった事実に、彼女の精神が限界を迎えていた。
「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁ……………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
日も徐々に高く昇って来た海都の街の中に、瑠璃の絶叫が響き渡った。
と言う訳で第29話でした。
瑠璃の正体は記憶を失ったセラではなく、セラから作られたクローン人間、その失敗作でした。本物のセラがどうなったかは次回にて(予想はつくだろうけど)
因みに今回、瑠璃の過去暴露のシーンはとある仮面ライダーの名シーンを意識しているものなのですが、気付かれましたでしょうか?もし皆様の脳裏に神が降臨されていたら、この作品を書く上でやりたかったことが一つ達成できました。
執筆の糧となりますので、感想評価その他宜しくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。