今回は前作のキャラクターが登場します。
突如海都で起こった怪人出現とそれによる被害。海中での建設作業員の死亡と高校の警備員の犠牲、そして危険に晒された生徒達。
この事態に対処すべく、海都の知事は警視庁にS.B.C.T.の派遣を要請した。
朝日に照らされる洋上を、一機の大型ヘリが飛んでいく。機体には日本警察の紋章と共に、S.B.C.T.の文字が刻まれている。
海都から緊急の要請を受けてやって来た、S.B.C.T.の輸送ヘリだ。二年前の傘木社絡みの事件が収束して以降、各地で頻発するようになったファッジによる事件に対処する為、人員の増加に合わせて配備されたのである。
機体の中には既に装備を着込んだライトスコープが搭乗しており、戦いの時を今か今かと待っていた。
その時、ヘリのパイロットが通信機で搭乗しているS.B.C.T.の隊員に告げた。
「お客様にお知らせします。ただいま日本のラスベガス、海都上空に到着いたしました。左の窓からご覧になれます」
その通信が流れた瞬間、多くの隊員は一斉に左の窓に近寄り朝日に照らされた煌びやかな海都の景色を目に収める。
「おぉ~! あれが海都かぁ!」
「レジャー施設も充実してるんだって?」
「仕事じゃなけりゃな~」
皆一様に海都への憧れを口にし、中には興奮のあまりヘルメットを外して直に見ている者も居る。
興奮する隊員達に、この場で唯一の女性であるオペレーターが手を叩きながら彼らを窘めた。
「ほらほら皆! 私達は遊びに来た訳じゃないんですよ! そんな子供みたいに浮かれないでください!」
「北村さんの言う通りだ。皆、気を引き締めてくれ」
浮かれた様子の隊員達を叱ったのは、オペレーターである
二年前の事件後、隊長を務めていた
勿論そこにはただ最終的なスコープ2号の装着者だからとか長く生き残ったからではなく、指揮能力など総合的に加味しての判断である。
彼らを乗せたヘリは海都上空を軽く一周し街の全容を一通り見てから海都の警察署のヘリポートに着陸した。
ヘリが着陸すると、降りた慎司らを警察署の署長が出迎えた。
「遠路遥々、ようこそ海都へ。海都警察署署長の
「ありがとうございます。それで早速ですが、事件の概要について教えていただけますか?」
「勿論です。さ、こちらへどうぞ」
慎司を先頭にS.B.C.T.の面々が海都警察署の会議室に案内される。その道中彼らは好機の視線に晒された。本土から遠く離れた太平洋上の海都で、S.B.C.T.の装備はとても新鮮なのだろう。
会議室で各々席に着くと、署長と補佐をする者が前方のスクリーンにプロジェクターで事件の発端を写真付きで説明し始めた。
「始まりは数日前、海中研究所の建設作業員と連絡が取れなくなったことに始まります。海中作業ポッドに搭乗していた作業員達が消息を絶ったという報告と共に監視員から怪物が出たと報告があり、その後監視員とも連絡がつかなくなりました」
「怪物に関する詳細は何か分かっているのですか? 何か写真か映像があるとか」
「それについてはまた後程説明します。消息を絶った作業員達の捜索の為機動隊を送り込んだのですが、彼らも消息を絶ち現在地下……あぁ、便宜上地下と言っているだけで実際は海中です。そこへの立ち入りは全面的に禁止しています」
海中研究所は一部稼働していたが、そこにも被害が及ぶことを危惧して現在は完全に無人となっている。ただこの街の生命線と言える水力発電所と海水ろ過施設は止める訳にはいかない為、そこは厳重に警戒しながら今も稼働している。
つまり現在、この街を支える為の仕事に従事している者達が文字通り危険と隣り合わせで作業しているのだ。
彼らの為に、可及的速やかに事態の収束を図らなければならない。
「で、先程の怪物の詳細についてですが、つい先日も恐らくその怪物と思われるモノが街中に出現しました。どうも授業中の高校に出現したらしく、生徒を守る為警備員が数名犠牲になりました。その際に監視カメラに怪物らしき存在が確認されました。それが、これです」
署長の指示でスクリーンに件の怪物……半魚人が表示された。正に魚がそのまま人になったような姿。顔と手に鋭い牙と爪がある姿を見て、慎司達は眉間に皺を寄せた。
「これが……怪物」
「ファッジ……とは少し違うようにも見えますね」
それは長くファッジと戦ってきたが故の直感の様な物だ。一見するとピラニアファッジの様にも見えるが、何かが違うと彼らの勘が訴えていた。
だが気になる情報はそれだけではない。映像や画像にはないが、どうしても無視できない情報があるのだ。
「それと、こちらに関しては詳しい事が不明なのですが……先日現れた怪物を仮面ライダーが倒したという情報がありまして」
「えっ!?」
「仮面ライダーがッ!?」
署長が仮面ライダーと言う単語を口にした瞬間、慎司達の目の色が変わった。彼らにとって、仮面ライダーとはそれほどの存在なのだ。
「まさか、門守君達が?」
「いえ、彼らは今アメリカに居る筈です。権藤指令や志村さんも違うとなると……」
「新しい、仮面ライダー?」
新たな仮面ライダーが海都で生まれたとなると、この事件も意味合いが大分異なって来る。未知の怪物の出現だけでも異常事態なのに、この上未知の仮面ライダーまで現れたとなるとこれは新たな騒動の始まりを彼らに予感させた。
ともあれ、いろいろ気になる事はあるがまず必要なのは行動だ。現時点でまずすぐ動けるのは、海中研究所の調査だろう。
そしてこの研究所及び建設中の部分で敵と遭遇し戦闘をする可能性を考えると、無視する訳にはいかない要素があった。
「まぁ新しい仮面ライダーに関しては後程考えるとして……署長。この海中研究所、実弾を使用しても大丈夫なところなんですか?」
今回はかなり緊急な出動だったので、通常装備で来てしまった。だが話を聞いている内に主な活動が海中研究所になりそうだという事に気付き、慎司はある問題に気付いてしまった。
言うまでもないが、洋上にある海都は地下に潜ればそこは壁一枚隔てた先海中と言う場所だ。そして現在、S.B.C.T.で基本的に使われている銃弾はファッジの強靭な表皮や甲殻にダメージを与え得る専用の徹甲弾。
そんなものを海中の建物で使えばどうなるか…………
「……出来れば、実弾の使用は遠慮していただけると。何分壁一枚隔てた先は水圧が掛かる海中ですので、最悪地下構造物が圧壊し更には海都自体が沈没する恐れも……」
「やっぱり……」
「ちょっと待ってください。怪物が居るかもしれない地下に丸腰で向かえって事ですか?」
署長の言葉に慎司は諦めに似た感情を抱き、隊員達は顔色を変えた。撃たねばならない状況で、撃ってはいけないと言われたのだ。文句の一つも言いたくなるだろう。
とは言え、迂闊な発砲が自分達の命だけでなく海都の住民全員の命に係わると言われたら、無視する訳にはいかない。
「議論の余地はない。少なくとも今回の戦闘で実弾の使用は無し。使えるのは近接武器だけだ」
「それと火炎放射器の使用は許可します。あれなら壁に穴空きませんし、もしもと言う時の対処も容易ですから」
もし火事になっても、上から水を流し込めば火は消せる。壁に穴が開くよりはずっとマシだ。
「海中施設での武器使用の問題に関しても対策を練っておきますので、今回は皆我慢してください」
「と言う訳だ。行くぞ!」
***
一方、FUJINOでは朝から瑠璃がどこか疲れた様子で朝食の場に姿を現した。
「はふぅ~……2人とも、おはよう……」
「お、おはよう瑠璃。何だか元気無いな?」
「え? あ~、うん。まぁ、昨日のアレで、ね?」
昨日のアレとは言うまでもなく半魚人による高校襲撃と、仮面ライダーに変身しての戦闘である。
とは言え前者はともかく後者に関しては鉄平には話していない。理由は単純に、瑠璃の中でも仮面ライダーに変身した事に関しては整理がついていないからだ。それに何より、鉄平を無駄に心配させてしまう。ただでさえ海羽が半魚人に襲われて命の危機に晒されたというのに、この上瑠璃が仮面ライダーに変身したなどと告げられては、鉄平が気疲れして倒れてしまう可能性すらあった。彼はあれで結構心配性なのだ。
「あぁ、アレか。警備員の皆さんには気の毒だが、それでも海羽が無事で本当に良かった」
「お父さん、帰ったら物凄い勢いで飛びついてきたもんね……瑠璃姉ぇに」
「もう心配のあまりどっちがどっちか確認しなかったもんでな」
「だからっていきなり飛びつくのはどうかと思うよ? そりゃ瑠璃姉ぇだって引っ叩くよ」
あの後、海羽と共にFUJINOに戻った時は少し大変だった。さっさと入ろうと海羽に先んじて扉を開けた瞬間、主に海羽の事を心配した鉄平が飛び出しそのままの勢いで瑠璃に飛びついたのだ。
まさかいきなり鉄平に飛びつかれると思っていなかった瑠璃は、驚きのあまり鉄平を思いっきり引っ叩いてしまった。そこで漸く鉄平も飛びついた相手が瑠璃である事に気付き飛びついた事に対して謝罪はしたのだが、多分抱き着いた相手が海羽であっても引っ叩かれていたことに変わりはないだろう。
女性2人から呆れの視線を向けられ、鉄平は心底申し訳なさそうに委縮する。
「いや本当に済まなかった」
「お母さんが居なかったことに感謝してよね。居たらお父さん、大変な事になってたよ」
そうは言うが、流石に状況が状況だから海羽の母もこの事で目くじらを立てたりはしないだろう。立てはしないだろうが、それでも厳しく叱りはしたかもしれない。瑠璃は年頃の女性。その女性に許可もなくいきなり抱き着くのだ。怒られても文句は言えない。寧ろ引っ叩かれるだけで済んだのは幸運だったのではないだろうか。
「それより海羽ちゃん、今日は学校お休みなんだって?」
「うん、そりゃね。あんな事があって、警察の調査とか後始末とか色々あって暫くは休校にするんだって。再開の時は追って連絡するって言ってた」
生徒の犠牲者こそ出なかったが、警備員が目の前で殺されるところを見てしまった生徒も少なくはないだろう。彼ら彼女らの心のケアの為にも、高校はしばらく再開する事は出来まい。
その事を海羽の口から聞き、瑠璃は改めて先日自分はとんでもなく危ない事をしたのだと実感し思わず身震いした。
「まぁ、海羽の場合は瑠璃が一緒に居てくれたから助かったようなものだな。本当にありがとう、海羽を助けてくれて」
「う、うん……」
その後、朝食を終えた瑠璃は1人後片付けをすると、特にすることもないので自室に戻りベッドに座るとそのまま後ろに倒れてぼんやりと天井を見上げた。
考えるのはやはり、先日の戦いの事だ。
初めて見る筈なのに、全くそんな気がしない羅針盤・リールドライバー。戦いとは無縁だと思っていたのに、体が覚えているかのように出来てしまった戦い。そして戦いの最中、それを思い出させてくれたかのような謎の声。その声も、何処か聞き覚えがあって…………
「本当……何なんだろう?」
瑠璃は自分の過去に対する興味と恐怖が今まで以上に強くなったのを感じた。
こんな事が出来てしまう自分は一体何者だったのかが知りたい。
だがこんな戦いが出来てしまう自分は、もしや危ない人物だったのではないかと恐怖せずにはいられない。
今まで以上に強くなったジレンマに、瑠璃はどうすればいいか分からなくなりベッドの上で体を丸めた。
その時、部屋の扉がノックされた。
『瑠璃姉ぇ、今いい?』
「あ、う、うん」
突然の訪問に驚きつつ、瑠璃は海羽を部屋に招き入れた。
部屋に入る際、海羽は鉄平が近くに居ないか少し警戒しながら扉を閉めた。
「海羽ちゃん、何の用?」
「昨日の事。瑠璃姉ぇが変身した仮面ライダーの事とか、色々聞きたくて」
ベッドの上に腰かけながら海羽が単刀直入に訊ねた。
「昨日は聞いてる暇がなかったけど、あれ何だったの? 瑠璃姉ぇ、随分慣れてるみたいだったけど?」
「う~ん……正直、自分でもよく分からないんだ」
瑠璃は海羽に正直に告げた。リールドライバーをどこかで見た事がある気がする事、頭に響く声の事など、全部だ。
話を全部聞き終えた海羽は、顎に指をあて難しい顔になって考え込む。
「う~ん、話を聞く限りだとそのリールドライバー? に関しては単純に昔の瑠璃姉ぇに関係があるってだけの話に思えるんだけど……頭に響く声はなぁ~……」
冷静になって、瑠璃は謎の声の事まで話すのは不味かったかと冷や汗を流した。既視感のあるリールドライバーの事だけならともかく、謎の声の事など精神的な異常を疑われてもおかしくはない。
だが海羽は瑠璃に対して奇異の視線を向ける事無く、真剣に考えてくれていた。瑠璃は改めて海羽が良い子である事を認識し、そして彼女と曲がりなりにも家族になれた事を感謝した。
「……その声って今も聞こえるの?」
「ううん、こっちからの呼び掛けには何も答えてくれないの。変身すればもしかしたらまた聞こえるのかもしれないけど……」
言いながら瑠璃はリールドライバーを取り出しぼんやりと眺めた。海羽は瑠璃からリールドライバーを借り、自分でも色々な角度から眺めたり試しにウィールを回してみたりした。もちろんそれで何か変化が起こるようなことはない。
暫く眺めていた海羽だが、ここで彼女の中にある考えが浮かんだ。これが扱えるのは瑠璃だけなのだろうか?
「ねぇ瑠璃姉ぇ、これ私が使ってみてもいい?」
「え? 使うって……まさか変身する気!?」
「ちょっとだけちょっとだけ。もしかしたら私が変身した時もその声ってのが聞こえるかもしれないし」
言うが早いか、海羽は瑠璃の制止も聞かずリールドライバーを自分の腰に押し付けた。変身の様子はつぶさに見ていたので、何をどうすればいいかは大体わかる。あの時、瑠璃はこうして腰にドライバーを押し付けるとベルトが勝手に巻かれていた。
それに倣って海羽もドライバーを腰に押し付けるのだが――――
「…………あれ?」
待てども待てども、ベルトが巻かれる様子はない。試しに海羽は何度もドライバーを腰に押し付けてみたが、結果は同じで何の変化も起こらなかった。
どうやらこれは瑠璃以外には使う事は出来ないようだ。その事に瑠璃はこっそり安堵し、海羽はどこか不満そうにしていた。
「ちぇ~、私もカッコよく変身! ってやってみたかったのにな~」
「そんなにいいものでもないわよ。きっとね」
そう言って瑠璃は海羽からリールドライバーを受け取った。
「でもこれだけじゃ何も分からないよね?」
「うん……そう言えばこれ、昨日は何もしてないのに勝手に動いたけど、何でだろう?」
「動いたって、これが?」
「そう。これが差した先で海羽ちゃんが危ない目に遭いそうになって、助ける事が出来たの」
思い返してみれば、これが無ければ今頃海羽の命がなかったかもしれないのだ。想像してゾッとする。
瑠璃の話を聞いて、海羽はある仮説を立てそれを口にした。
「それってもしかしてさ、変身する以外に持ち主が行くべき場所を教えてくれるんじゃないかな?」
「え? う~ん、それは……どうだろう?」
もしそうであれば、これを持っていれば瑠璃は自分の記憶を取り戻せるかもしれない。しかしそんなに上手くいくだろうか?
…………等と考えていたら、突然羅針盤が勝手に回り始めある方向を指して止まった。2人は驚き目を見開くが、瑠璃はそれが何か――もしかしたらまた半魚人に人が襲われた――を示しているのではと思い、居ても立っても居られず飛び出した。
海羽もそれに慌てて続いた。
慌ただしく部屋を飛び出し外へ向かう2人に、鉄平が何事かと顔を出す。
「んおっ!? どうした急に?」
「ごめんマスター、ちょっと急用!」
「いってきま~す!」
詳しく説明している暇もないし、そもそも詳しい事は何も分からないので適当な事を言って殆ど鉄平を無視して外に停めてあるバイクに跨る。その後には追いついた海羽が相乗りした。
「海羽ちゃん何でついてくるの!」
「だって気になるじゃん!」
「また危ない事になるかもしれないのよ!」
「望むところよ!」
「全く、海羽ちゃんはお母さん似ね。どんな人なのか想像できるわ」
瑠璃は海羽の鼻先に軽くデコピンした。全くこのじゃじゃ馬娘は…………
議論している時間も惜しいので、瑠璃は海羽を無理に下ろす事はせず予備のヘルメットを渡し自分も被るとエンジンを掛けた。海羽も急いでヘルメットを被ると瑠璃に後ろから抱き着き、それを待っていた瑠璃はバイクを走らせた。
「ちょちょっ!? 瑠璃姉ぇ、スピードスピード!? お巡りさんに捕まるって!」
急ぐあまりスピードを出し過ぎな運転をする瑠璃に、海羽が必死に声を掛けて宥めた。その甲斐もあって、人目に付くところを走る頃には法定に則った速度にまで落としてくれた。
そのまま2人は羅針盤が指し示す方へ向かうのだった。
***
時は少し遡り、建設途中の地下施設にはS.B.C.T.αチームが潜っていた。地上に近い発電施設とろ過施設にはまだ人が居たが、さらに下の研究所には誰もいない。当然だ、何時怪物が出るか分からないのだから。正直に言えば、発電施設とろ過施設に勤める職員たちも気が気ではない筈だ。
その彼らの不安を少しでも排除する為、S.B.C.T.αチームが進む。
「こちらαリーダー、現在のところ異常なし。北村さん、そちらからは何か異常を検知出来ましたか?」
『こちらオペレーター、こっちでも異常は確認できません。そのまま慎重に進んでください』
「了解」
周囲には発電施設とろ過施設の稼働音以外は彼らが歩く足音しか聞こえない。建設途中と言うが、研究所にも通電はされているのか一応通路は灯りがついていて先が見通せる。だが照明のいくつかは不自然に明りが消えており、微妙に薄暗くなっていた。
何より空気が重苦しい。明らかにここには何か異常が起こっている。それを実感し、隊員たちの間に緊張が走る。
「――――ん?」
その時スコープの視線の先に何かが映った。スコープは一度立ち止まると、カメラを操作して望遠モードにし通路の先に見えた物を注視する。
彼に合わせて足を止めた他の隊員達が見守る中、スコープは視線の先にあるそれの正体に気付いた。
「αリーダーより報告。話に聞いていた、施設に突入したという機動隊を見つけました」
『状態は?』
スコープは茜の質問に直ぐには答えなかった。周囲を警戒しながら近づき、倒れている機動隊員をまじまじと見てしゃがむと首筋にそっと触れる。
「……機動隊員の死亡、確認……他に何人も居ます」
『そう、ですか。その近くには建設の様子を監視するモニタールームがある筈です。とりあえずそこへ向かってください』
「了解。全員、警戒を。いつ出てくるか分からないぞ」
ボルテックスブレードを構えたスコープを先頭に、ガンマソードを構えたライトスコープが続いていく。
その一団の中で一際目立つ装備を背負った者が2人いる。この場で扱える数少ない装備である、火炎放射器を装備した隊員だ。火炎放射器と言ってもその原型は嘗て宗吾が変身したスコープが1度だけ使ったフレイム・ブラスターの簡易生産版で、その威力はフル出力にすれば超強力ガスバーナーと言っても過言ではないほどのものになる。
その火炎放射器にはあるオプションが取り付けられている。動体センサーだ。何かが動けばそれに反応する様になっていた。
スコープに続いて警戒して進んでいた火炎放射器を装備した隊員2人。その2人の火炎放射器に取り付けられた動体センサーが何かに反応した。
「ん? 隊長、何かが近付いてきます」
「何処からだ?」
「前方からです」
「警戒態勢!」
前方には誰も居ない筈。そこから近付いてくるなど、件の怪物以外にあり得ない。一気に緊張感が増し、隊員達は手に汗が滲むのを感じた。
センサーが反応する音だけが響く中、前方には何の異変も起こらない。だがセンサーの上では確実に何かが彼らに近付いていた。
「動体反応、もう目の前です!」
「だが何も見えない……北村さん!」
『こちらでも状況は見えてます。ですが動体センサーに反応しているのに姿が見えないという事は、対象は皆さんと同じ平面状にはいないという事になります』
「つまり、上か下?」
奇襲を仕掛けてくる気かと前ではなく上と下に警戒するS.B.C.T.だが、次の瞬間驚くべきことが起きた。
動体反応が彼らを素通りしていったのだ。
「ど、動体反応、どんどん離れていきます」
「何?…………ッ!? 戻るぞ!」
スコープは直ぐにその動体の目的地が分かった。地上だ。この動体はS.B.C.T.を無視して、直接地上を襲おうとしているのだ。
スコープを先頭に大急ぎでUターンするS.B.C.T.αチーム。その時、最後尾を行く隊員の頭上の通気口を突き破り半魚人が襲い掛かった。
「うわ、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「なっ!?」
この個体は地上に向かおうとしているのとは別の奴だ。待ち伏せしていたらしい。動体センサーは動くものには敏感に反応する半面、動かないものに対しては全く反応しない。待ち伏せしている相手に対してはこれ以上ない位無力だった。
最後尾のライトスコープに襲い掛かった半魚人は、その鋭い牙で食らいつこうとしている。ライトスコープはそれをガンマソードで何とか防いでいるが、奇襲を受けたことによる動揺もあって押されていた。
「だ、誰かこいつを早く離してくれぇ!?」
言われるまでもなく、他の隊員が2人掛りで半魚人を引き剥がし、ガンマソードで切り付けて蹴り飛ばす。胴体を切られた半魚人は、悲鳴を上げながら別の通気口に飛び込み逃げていった。
「くそ、逃げられた!」
「動体反応は?」
「奥の方へ逃げていきます」
「隊長! さっきの奴が更に離れていきます。このままだと探知圏外に逃げられます」
スコープは決断を強いられた。先程ダメージを与えた奴をこのまま逃がす手はない。が、最初に見つけた奴を追わなければ住民に被害が出てしまう。
何があるか分からないこの状況で、迂闊に戦力を分断しては各個撃破の危険が伴う。どうすべきか僅かな時間考え、最終的に地上に向かおうとしている個体の追跡を選んだ。
「戻るぞ。さっきの奴は後で――」
「隊長! 別のが来ました!」
しかし半魚人は彼らをここから逃がすつもりがないようだ。通気口や曲がり角から先程よりも多い数の半魚人が次々姿を現し、殺意を剝き出しにして迫って来る。流石にこれを無視して地上に向かう訳にはいかない。
「くそ、やられた!?」
これを連中が狙っての物なのかどうかは分からない。が、こいつらを放って地上に戻ろうとすれば、こいつらをそのまま引き連れる事になってしまう。それだけは絶対にする訳にはいかなかった。
仕方なくスコープは、地上で待つ茜に警戒を促してこいつらの相手をすることにした。
「αリーダーより、北村さん! 地上に向かう個体が1体居ます! α2とα3を向かわせますので、そちらの支援をお願いします!」
『了解! 装備を用意しておきます!』
「そう言う訳だ! 高田、馬場、2人は地上に迎え!」
「了解!」
「こっちは任せましたよ!」
迫る半魚人達に背を向け、指名された2人の隊員が地上へ向け走り出す。半魚人達はそれを追おうとするが、その前に2人のライトスコープが立ち塞がった。彼らの背には火炎放射器の燃料タンクが背負われている。
「火炎砲、撃て!」
迫る半魚人達に向け、高温の火炎放射が放たれる。通路を覆いつくすような劫火が、迫る半魚人を飲み込み先頭に居た個体が火達磨になった。
「ギャァァァァァァッ!?」
絶叫を上げのたうち回る半魚人だが、他の個体は炎の壁を突き破ってS.B.C.T.αチームに襲い掛かった。
スコープを始めとしたS.B.C.T.αチームは、それを剣で迎え撃つのだった。
***
一方地上では、瑠璃が海羽を後ろに乗せて街中をバイクで走っていた。法定速度ギリギリで走る彼女は、時折バイクを止めては羅針盤の向きを確認している。
と、ここで羅針盤が差す方向が変わった。先程まで庁舎の方を指していたのに、突然ぐるりと回り明後日の方を指したのだ。
「え、何で?」
「瑠璃姉ぇ、どうかした?」
「急に行き先が変わったわ」
一体どうしたというのか? 首を傾げる瑠璃だったが、現状これ以外に頼れるものもないので瑠璃は素直に従ってバイクを走らせようとした。
その時、2人の前にバーツが姿を現した。
「あぁっ!! それ俺達のお宝ッ!」
「え、何?」
「何じゃねぇ!? その羅針盤は俺達のもんだぞ!!」
「って事は、もしかしてあなたがあのクルーザーの? お願い教えて! これ一体何なの!?」
「うるせぇ、返せ!!」
問答無用で瑠璃からリールドライバーを奪い取ろうとするバーツだったが、考えるよりも先に瑠璃はバイクを乗り捨ててまでその手から逃れた。支える者が居なくなったどころかバーツが体重を掛けてきたため、バイクは海羽を乗せたまま倒れそうになる。
「わわわわわっ!?」
「海羽ちゃん!」
「アブねッ!?」
バイクと一緒に倒れそうになる海羽を、瑠璃が海羽を支えバーツがバイクを支えて助ける。
転倒を免れた海羽は瑠璃の手を借りてバイクから降り、バーツはスタンドを立ててその場でバイクを安定させた。
「あ、ごめんね?」
「いや……じゃなくて! それ俺達のお宝だぞ! さっさと返しやがれ!!」
バイクを乗り越えてリールドライバーを再び取ろうとするバーツだったが、その前に海羽が立ちはだかった。
「ちょっと待って!」
「何だよ、邪魔すんな!?」
「そうじゃなくて! アンタこれが何なのか知ってるの?」
「もしそうなら教えて、お願い!」
もしかすると彼が瑠璃の過去の一端を知っているかもしれない。そうでなくても、それに関係しているかもしれないリールドライバーの事を知っているのであれば是非知りたかった。
しかし――――
「あぁ? んなもん、お宝への道標って事しか知らねえよ」
「道標?」
「あぁ。そいつは持ち主をお宝へ導いてくれるって話だ。俺達はそのお宝を目指してんだよ」
どうやら瑠璃の過去に係わる何かは知らないようだ。その事に瑠璃は落胆した表情になる。
「そっ……かぁ」
「……それで? 返すのか、返さねえのか?」
気落ちした瑠璃を海羽が慰めていると、バーツが押し殺した声で再度返却を要求してきた。これが本来彼らの持ち物であるなら、素直に返すのが道理というものだ。
だがこのリールドライバーは今まで何も分からなかった瑠璃の過去に関係する代物。ここで手放す訳にはいかなかった。
「その……これ、少しの間でいいから貸してくれない?」
「はぁ?」
「お願い! これでもしかしたら瑠璃姉ぇの事が何か分かるかもしれないの!」
「用事が済んだら絶対あなたに返すわ。だから――――」
瑠璃の言葉は一発の銃声で遮られた。周囲の人が驚き注目する中、銃声の音源に居たのはバーツだった。懐に隠していた大型の拳銃――ベクターリーダー――を取り出し、それで2人の足元を撃ったのだ。
「……面白れぇ冗談言うじゃねえか」
「じ、冗談じゃ……」
「って言うか、銃って――!?」
ここで漸く2人はバーツが危険な相手であることが分かった。それを証明するかのように、彼は更にある物を懐から取り出した。
それは見る者が見れば目を見開くものだったことだろう。何せ彼が取り出したのは…………ベクターカートリッジだったのだから。
「口で言って利かねえってんなら、力尽くで返してもらうしかねえなあ!」
〈MEGALODON, Leading〉
バーツはベクターリーダーに起動状態のベクターカートリッジを装填し、銃口を天に向け引き金を引いた。
〈Transcription〉
銃口から放たれた閃光が上空でUターンし、地上のバーツを撃ち抜きその体を変異させる。
バーツの姿は黒いアンダースーツに群青色の装甲を持つ戦士のそれへと変化していく。鮫を模したヘルメットの目元は黒いバイザーで覆われ、両腕と両脛側面には鮫の鰭を模したカッターのようなものが装着される。
「覚悟しろよお前ら! 俺らをコケにした、その代償はでかいぜ!!」
そう言って、バーツの変異した戦士――『コバルトウェーブ』は2人にホルスター剣を向けるのだった。
という訳で第2話でした。
はい、前作からの登場人物はS.B.C.T.の慎司と茜となります。前作ではサブキャラ程度の立ち位置でしたが、本作では大きく活躍します。勿論前作からの登場人物はこれだけでは終わらないのでどうかお楽しみに。
リールドライバーは瑠璃専用で、彼女以外には腰に巻く事すらできません。何でそうなのかは、また暫く後で説明しますのでお待ちを。
執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。