仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

お待たせしました、今回から瑠璃達の反撃が始まります。


第32話:アイ・イン・ザ・スカイ、絶頂からの転落

 起きてからも暫し啄み合う様に互いの愛を確かめ合った瑠璃とネイトは、交代でシャワーを浴びて身形を整えリビングに向かった。

 

 するとそこには既に鉄平が居て、新聞を広げながらコーヒーを楽しんでいた。

 

「おぅ、おはよう2人とも」

「おはよう、マスター…………あ゛」

 

 最初瑠璃は普通に挨拶したが、昨夜の事を思い出し気まずい気持ちになる。瑠璃と鉄平の部屋はそれなりに離れてはいるが、それでも防音性は言うほど高くはない。

 昨夜は瑠璃もかなり大きな声を出してしまっていたので、それが鉄平に諸に聞かれてしまっていたのではないかと恥ずかしさなどで冷や汗を流した。ネイトもその事に気付き、目を泳がせている。

 

 そんな2人の様子から何かを察し、鉄平は軽く笑いながら口を開いた。

 

「はははっ、何があったかは敢えて聞かないが安心しろ。昨日は一晩外で過ごしたからな。俺は何も聞いちゃいないよ」

「え? あ、そ、そうなんだ…………ほっ」

 

 瑠璃は即座に、鉄平が全てを予想して気を遣ってくれたのだと気付き、感謝すると同時に安堵の溜め息を吐く。

 

 その瑠璃の様子は完全に普段のそれであり、鉄平は彼女がいつもの調子を取り戻した事を察した。そしてそれを成したのがネイトであり、何より2人が絆を精神的にも肉体的にも深めた事を理解していた。

 

「どうやら、上手くやったようだな。ネイト?」

「……あぁ。マスターのお陰だ」

「俺は何もしてない。ただ軽く背中を押してやっただけだ」

「それでも、だよ。ありがとう、マスター」

 

 感謝の姿勢を崩さないネイトに、鉄平は律儀な奴と思わず笑った。

 

 一頻り笑った鉄平は、そのまま優しい顔をしながら瑠璃の方に目を向けた。

 

「……良かったな、瑠璃」

「うん。……マスターもゴメンね、心配掛けちゃって」

「気にするな。家族なんだからな」

「うん――――!」

 

 クローンであり、歪な存在でしかない自分を、知らないからとは言え家族と言ってくれる。その事に瑠璃は心が温かくなるのを感じ、嬉しさのあまり涙を一筋零した。

 

 それから2人は、鉄平が用意した朝食を済ませた。そして適度に腹が膨れると、瑠璃はいよいよ意を決した。そう、遂に鉄平に全てを話す時が来たのだ。

 

「ねぇ、マスター。聞いてくれる?」

「ん? あぁ……」

 

 鉄平は遂に瑠璃が思い出した過去の事を話すつもりなのだと気付き、気持ちを引き締めて聞く姿勢になった。それは間違いではない。過去の事も話すつもりだが、瑠璃は仮面ライダーの事も話すつもりだった。

 

「落ち着いて聞いてほしいんだけど…………マスターは、仮面ライダーって知ってるよね?」

「あの噂の仮面ライダーだろ? 直接見た事はないが……」

「あれ、私なの」

 

 それから瑠璃は自分が仮面ライダーになった経緯を事細かに話した。ある日海で偶然、フランシス達が落としたリールドライバーを拾った事。

 

 その後現れたディーパーに対し、不思議な声に従ってテテュスに変身した事。

 

 今までディーパーから街の人を守る為に戦ってきた事。

 

 それらを聞かされた鉄平は、予想していたのと違う話の内容と瑠璃が仮面ライダーだったと言う事実に面食らった様子を見せた。

 

「……まさか瑠璃があの仮面ライダーだったとはな」

「因みに俺もだ」

「何?」

「うん。ネイトも仮面ライダー。一緒に戦ってくれてるの」

 

 まさか自分の家に居候している2人が揃って仮面ライダーだったとは思っていなかったので、鉄平は話の内容に圧倒され椅子の背凭れに体重を預けた。

 

「はぁ~、なるほどねぇ。まさか2人があの仮面ライダーだったとは」

「それで、マスター。本題はここからなの」

 

 瑠璃が仮面ライダーだと言う話は飽く迄前座に過ぎない。勿論それも大事な話だが、瑠璃が本当に話したかったのはこの後に話す方の内容だった。いきなり本題を話しては驚かせて混乱させてしまう。

 

「私…………クローンなんだって」

「…………は?」

 

 自分がクローンである事を瑠璃が告げると、鉄平は案の定驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。無理も無いだろう、知人がいきなりクローンである事を告げられて、はいそうですかと理解できる人はいない。

 

 こうなる事が予想出来ていたから、まずはワンクッションとして仮面ライダーである事を告げたのだ。どちらも衝撃的事実であることに変わりはないが、クローン人間と言う現実離れした話に比べれば衝撃は大きくても受け止めやすい。

 

「私は、昔、傘木社の科学者に実験の為に作られたクローンなの」

 

「ネイトが探してたのは、私のオリジナルの人なんだって」

 

「だから、私には最初から思い出せる過去なんて無かったんだ。生まれてから殆ど時間経ってないんだもん」

「瑠璃……」

 

 途中からやや自嘲気味に瑠璃が自分の過去を話し始めると、ネイトがそれを宥めるように彼女の肩に手を置いた。瑠璃がクローンである事は最早覆しようのない事実ではあるが、しかしそんなものは瑠璃を卑下する理由にならない。クローンだろうが何だろうが、瑠璃は十分に魅力的な女性だ。それは最早恋人同士である間柄のネイトが保証する。

 

 対して鉄平は、事前に瑠璃が仮面ライダーである事のカミングアウトでワンクッション入れられても尚、瑠璃がクローンで実験の為に作られたのだと言う話を素直に信じる事は出来なかった。無理もない。仮面ライダーは現実に居るが、クローン人間など見た事が無いのだから。それが知り合いの女性だ等と言われても、素直に信じる事は難しかった。

 

 だが鉄平は多少強引にでも自身を納得させ、瑠璃がクローンである事を理解した。こんな雰囲気の中でふざけた事を言う様な性格を瑠璃がしていない事は、共に過ごしてきた鉄平がよく知っている。

 だから最初話の内容に圧倒され言葉を失っていたが、次第に真剣な表情で真摯に頷き瑠璃の話に聞き入っていた。

 

 そして一頻り話を聞き終えると、鉄平は瑠璃に近付き彼女の肩に優しく手を置いた。

 

「……よく、話してくれたな」

「マスター……」

「お前の抱える苦しみは俺には想像することしか出来ないが、それでもお前は俺と海羽の家族だ。きっと海羽がここに居ても、俺と同じことを言った筈だ。だから安心しろ」

「!……うん、うん! マスター、ありがとう!!」

 

 鉄平の言葉に瑠璃の目からは歓喜の涙が零れ、背中をネイトが優しく擦り頭を鉄平がゆっくりと撫でた。

 

 それから暫くして、落ち着きを取り戻した瑠璃は泣き止み本格的に前に進む事が出来るようになった。

 差し当たってまずすべきことは、やはり8号に奪われたリールドライバーの奪還である。

 

「さて、カミングアウトも終えた所で……どうしよう?」

「あの女からリールドライバーを取り返さないと、どうにもならねえからな。とは言え、今アイツらが何処に居るのか……」

 

 目的はハッキリしているのだが、方針が定まりきっていなかった。そもそも今の芳江の居場所すら彼女らは知らないのだ。これでは方針の決めようがない。

 

 鉄平も交えて額を突き付け合う様にして悩む瑠璃だったが、そこで突然インターホンが鳴らされた。こんな朝早くからの来客に、鉄平は怪訝な顔をしながらインターホンに応えた。

 

「一体誰だ、こんな朝早くから…………はい、藤野です。はい…………はい?」

 

 インターホン越しに来客に応待していた鉄平だが、段々と様子がおかしくなっていった。どうしたのだろうと瑠璃とネイトが見守っていると、鉄平は瑠璃の事を一瞥してリビングを離れると玄関へと向かっていった。

 

 程無くして戻ってきた鉄平は、瑠璃達にとって驚きの人物を連れて戻ってきた。

 

「え、仁さん!?」

「おはよ、大梅さん、ネイト」

 

 やって来たのは仁だった。彼はリビングに入ると、瑠璃の顔をジッと見つめた。瑠璃は何が彼の視線を引いているのだろうと自分の顔をペタペタと触っていたが、仁はその様子を見て満足そうに頷いた。

 

「ん、良かった。元気になったみたいだね」

「あ……ゴメン、心配掛けちゃって」

「ん~ん、俺の方こそ何もしてやれなくて悪かったと思ってるから」

「それで? アンタは何しに来たんだ?」

 

 まさか瑠璃の様子を見に来ただけという訳ではないだろう。こんな朝早くから来た事には、相応の理由がある筈だ。

 そのネイトの予想は正しく、仁は問い掛けられると表情を引き締め口を開いた。

 

「お誘いだよ。北條博士の居場所が分かった。これから博士の捕縛に行くんだけど、一緒に来る?」

 

 まさかの言葉に瑠璃とネイトは顔を見合わせた。

 

「勿論行くわ! けど何で分かったの?」

「昨日の今日だぞ? 海都は海の上の孤島だが、S.B.C.T.だって相当やられてたじゃねえか。一昼夜で調べられるほど、アイツら杜撰な逃げ方したってのか?」

 

 いくら何でも居場所の発覚が早すぎると、ネイトが芳江の居場所の情報に不信感を抱いた。だが仁はその疑問を予想していたのか、まるで答えを用意していたかのようにスラスラと答えた。

 

「情報提供があったんだ。小早川さんの所に、ね」

 

 仁の話によると、昨日の夜匿名で慎司の元に情報提供をしてきた者が居たらしい。その人物は、相応の報酬を払えば芳江の居場所を教えると告げてきたのだ。

 

 正直慎司はその情報の確度を怪しんでいた。だがβチームが全滅に近い被害を受け、戦力が激減した今、芳江の捜索に割ける人員が減った事は揺るぎようのない事実。そんな中で芳江に逃げられるよりも早くに彼女の居場所を知る必要があった彼らは藁にも縋る思いで先方の提示する要求金額を用意し代わりに芳江の居場所の情報を得た。

 

 とは言え流石に早すぎる情報提供に、仁も罠の可能性は考え一足先にデイナに変身して偵察した。すると提供された情報通りの場所に芳江が居る事を確認したのだ。

 

 情報が正確であると確認できれば後の行動は早く、慎司は動ける人員を纏めて芳江の捕縛に向け準備を進めていた。そして仁は、恐らく今回の件である意味一番の被害者である瑠璃にリベンジの機会が必要かと考え、またまだまだ知りたい事はあるだろうからと誘いに来たのだ。

 

「で、どうする? 来る?」

 

 問い掛けはしたが、仁には答えは分かっていた。今の瑠璃の顔を見れば…………

 

「勿論!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 港に停泊しているクルーザー、その一室で芳江はベッドの中で微睡んでいた。昨夜はちょっと深酒しすぎた。残ったアルコールで頭が痛む。

 

 それでも朝と言う時間は芳江を目覚めさせ、覚醒した芳江は痛む頭に顔を顰めながらこれからの事を考えた。

 

(さて……もう地下の研究所には戻れない。となると、”あそこ”に行く以外になさそうね。幸い研究データはここにバックアップを取ってあるし……)

 

 地下研究所に残されたデータに関しても、厳重なプロテクトが掛けられている上に暫くアクセスしないでいると自動的に消去されるようになっている。情報が必要以上に漏洩する事はない筈だ。

 

 芳江は今後の予定を纏めると、携帯を取り出し何処かへと連絡を取った。数コールで相手は通話に出たので、芳江は手短に用件を告げた。

 

「私よ。えぇ。そろそろここをおさらばしようと思ってね。で、迎えを寄越してほしいんだけど……えぇ。えぇ、そうね、分かったわ。じゃ、頼んだわよ」

 

 要件を告げ終え、芳江は通話を切るとベッドの上に倒れ込み大きく息を吐く。まだ頭が痛むし胃腸もムカムカするので、取り合えず水が欲しくなり傍に控えている筈の8号に水を要求した。

 

「8号、ちょっと水を一杯貰える?…………8号?」

 

 呼ぶが、8号がなかなか応えない。何をしているんだと改めて部屋を見渡せば、室内に居るのは自分1人だという事に気付いた。

 

「? 何処に行ったのかしらあの子?」

 

 勝手に部屋を出て出歩くなと言っておいたのに、何処をほっつき歩いているのかと苛立ちながら立ち上がり自分でコップに水を注ぎ一気に飲み干す。

 

 空になったコップをテーブルの上に置くと、それを合図にしたようなタイミングで8号が入って来た。包帯の無いその顔は、何処か焦っているように険しい。

 だが芳江がまず真っ先に気にした事は、8号が勝手に部屋を出て外を出歩いた事であった。

 

「8号、貴女一体何をやっているの? 勝手に外を出歩くなと言っておいたでしょ。ただでさえ今は私達の素性がバレて警戒されていると言うのに……」

 

 小言をあれやこれやと述べる芳江だったが、8号はそれどころではないのか彼女の言葉を遮って今が危機的状況にある事を伝えた。

 

「それどころではありません、博士。敵です!」

「……敵?」

「周囲をS.B.C.T.に包囲されています!?」

 

 芳江は今度こそ言葉を失った。幾らなんでも居場所がバレるのが早すぎる。

 だが8号がこんな冗談を口にする性質ではない事は芳江がよく知っていた。

 

 つまり、危険が迫っていると言うのは事実だという事。

 

 芳江は急いで着替えつつ、再び携帯を取り出し連絡を取った。

 

「私よ。緊急事態だわ。S.B.C.T.に包囲されてる。迎えを急いで寄越して頂戴。場所はビーコンで知らせるわ」

 

 手早く現状を伝えた芳江は、私物のノートパソコンとカプセルを抱え最後に手のひらサイズの機械のスイッチを入れると8号に先導させながら甲板に向けて進む。

 

 その道中、芳江は違和感を覚えた。船内が妙に静かなのである。周囲をS.B.C.T.に包囲されているという現状、彼らだって心穏やかではいられない筈。ましてや彼らと芳江は、有事の際守ると言う契約がある。彼らにとって現状は言うまでも無く緊急事態である筈だ。

 

 にも拘らず、下っ端の1人に至るまで慌てた様子が見られない。まだ全員寝こけているのだろうか?

 

(肝心な時に、役に立たない連中ね。所詮は爪弾きのアウトサイダーか)

 

 歩きながら芳江は内心でフランシス達を罵り、ほぼほぼ見切りを付けながら甲板に出た。高くなってきた太陽の光が芳江の顔を照らし、一瞬目が眩む。

 それでも前に進もうとした芳江は、何故か足を止めた8号の背中にぶつかり歩みを止めざるを得なくなる。

 

 何故止まったのか? そう問う前に目が光に慣れ周囲を見る事が出来るようになり、、そして芳江も状況を察した。

 甲板には既にS.B.C.T.が入り込んで、周囲から銃口を向けられているのだ。8号はライトスコープ達の銃口から芳江を守る様に立ち塞がっている。

 

「な、何故? アイツらは一体何をやっているのよ!?」

 

 いくら何でも、勝手に船に上がることなど出来る筈がない。ヘリが飛んでいないという事は、コイツ等が入って来たのは上からではなく下からという事。流石に彼らが入ろうとすれば、フランシス達が止めるだろうと思っていた。

 

 だが…………

 

「よぉ、ご機嫌な朝だな?」

「!?」

 

 唐突に頭上から声が掛けられた。見上げるとそこには、芳江達よりも上の甲板で柵に寄りかかりながら見下ろしているバーツの姿があった。

 こちらを見下すようなにやけ面で見下ろしてくるバーツの姿に、芳江は苛立ちを募らせ声を荒げてどういう事か問い掛けた。

 

「これは一体どういう事!? 何故奴らが船に入り込んでいるの!? いえそれ以前に、何をそんな悠長にしているのよ!?」

 

 普段の落ち着いた雰囲気もかなぐり捨てて、自分を見下ろすバーツに芳江は文句を言った。怒声をこれでもかと浴びせられるバーツだったが、彼は全く堪えた様子を見せない。寧ろそんな芳江の姿を楽しんでいるかのようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 それが更に芳江の神経を逆なでする。

 

「何を笑っているの!? さっさとあいつらを……」

「博士、違います」

「違う? 何が!?」

 

「意外と頭の回転鈍いね、あんた。状況的に分からねぇ?」

 

 何かに気付いた8号がそれとなく芳江を宥めるが、バーツは逆に芳江を煽るように声を掛ける。余計な事をと8号がバーツを睨むが、芳江は2人の言葉と状況から漸く正しい真実に気付いた。

 

「まさか……まさか貴方達、私を裏切ったと言うの!?」

「あぁ。残念だけど、アンタは客として最悪だった。秘密が多いだけじゃなく、報酬を何時まで経っても払わない。それどころか、そもそも俺達の物を掠め盗る。幾らなんでもこれ以上アンタにはついて行けないんでね。切られる前にこっちから切って、売れる情報を高く買い取ってもらったのさ」

 

 そう言ってバーツはS.B.C.T.を指差す。慎司達が昨日の今日で芳江の居場所を特定できたのは、エドワードが彼らに芳江の居場所をリークしたからだった。

 

 本来であれば、依頼主を裏切るような真似は自分達の評判を下げ今後の仕事に差し支えるのだが、今回ばかりは割り切って芳江を切り捨てる事を選んだ。何よりこのままだと彼らの方が切り捨てられる気がする。自分だけならともかく、子分達まで巻き込むリスクをフランシスは選択しなかった。

 

 だがこのままだと前金だけで儲けが心許無い。そんな彼らが選んだのが、芳江の居場所の情報をS.B.C.T.に売る事だった。最初慎司はその情報を信じることはしなかったが、エドワードが次々と出す芳江の情報や居場所を仁に確認させたことで情報が確実である事を知り、高額の報酬を払うのであれば芳江が逃げ出さないように配慮するとまで告げた。

 

 罠の可能性も疑った慎司だが、仁はこれを信じた。信じても良いと彼は判断したのだ。

 

『博士と彼らの間に信頼関係はないよ。それどころか、博士の性格を考えると彼らの事を切り捨てるかもしれない。それを察したのだとしたら、業界での信用が下がる事を覚悟で博士の事を売ってもおかしくはないかもね』

 

 と言うのは仁の弁だ。彼は先日芳江を援護する為に出てきたインディゴサイクロン達がフランシス達であり、あの時の彼らの様子が芳江に対して不信感を抱いている様子だった事を看破し総合的に見て判断したのだ。

 

 結果的に芳江は完全に嵌められ、四面楚歌と言う状況になってしまった。ライトスコープの間から仁と瑠璃、ネイトの3人が出てきて、追い詰められた芳江の事を見る。

 

(……ん?)

 

 その時瑠璃は芳江の表情に違和感を感じた。

 

 今の芳江は完全に追い詰められ、絶体絶命と言う状況の筈。であるにも関わらず、芳江の表情に諦めの感情が見られない。

 

 一見すると単に諦めが悪いだけの様に思えるが、数多くの勝負師と対峙してきた瑠璃には分かる。あれは何か隠し玉を持っている者の目だ。

 瑠璃自身の勝負師としての勘が囁いている。芳江は何かを仕掛けてくる。

 

「仁さん、ちょっと……」

 

 瑠璃は自身の感じた違和感を取り合えず仁に知らせようと声を掛けた。が、それは僅かに遅かったらしい。

 

 最初忌々しそうに顔を歪めていた芳江だったが、突如何かに気付き表情を憤怒から笑みに変えた。何か仕掛けてくる、瑠璃だけでなく仁までもがそう思った直後、クルーザーの後部デッキに駐機していたヘリが突如爆発した。

 

「!? 何だ!? テメェ、何しやがった!!」

「攻撃?」

 

 予想外の爆発に面食らい後部デッキの方をバーツが見れば、そこでは爆発したヘリが後部デッキを火の海に変え子分達が慌てて消火活動をしていた。

 

 即座に彼は芳江が何かをしたのだと思い銃口を向け、仁は何処から攻撃が来たのかと素早く周囲を見渡した。

 

 視力を上げ、遠くのスナイパーも見逃さぬと注意深く周囲を観察する。だがそれらしき者の姿は見当たらない。既に逃げた後か?

 首を傾げた仁だったが、彼の耳はその下手人の存在を捉えていた。頭上から薄っすらとだが風を切る音が聞こえていた。

 

「……上か?」

 

 仁が上を見ると、それに応える様に何もなかった筈の空に突如として一機のヘリが姿を現した。まるで空中から滲み出る様に姿を現し、それと同時にローター音が響き始めた。

 

「何だありゃ!?」

「おいバーツ、どうした!?」

「フランシス兄貴、あれ!」

「何だあれ、何処から出た?」

 

「…………高性能ステルス機か」

 

 姿を現したヘリの正体は仁の言う通り、高性能ステルスヘリだった。このヘリはただレーダーに引っ掛かりにくいとか静穏性に優れているだけでなく、文字通り光学迷彩により姿を物理的に見えなくすることが出来るのだ。勿論一般に出回る様な物ではなく、一部の国の特殊部隊が運用するような代物である。

 

 そしてそのヘリの腹には、バッチリと傘木社のマークが刻まれていた。

 

「時間よりも早くに来てくれたわね。流石、優秀だわ」

 

 姿を現したヘリに芳江が満足そうに頷き一歩下がると、8号がリールドライバーを装着した。それを見て瑠璃が思わず前に出て声を上げる。

 

「それを返して!?」

「あら失敗作? 意外と元気そうね。もっと落ち込んでるかと思ったけど?」

「私は失敗作なんかじゃない、大梅 瑠璃よ!! それはセラの故郷の大事な物よ、返して!!」

「その故郷とやらはもう存在しないわ。これは私が有効活用してあげる。8号、やりなさい」

「0……変身」

〈Fever!〉

 

 瑠璃の抗議も無視して8号はテテュス・スピアーレイズに変身。クロックスピアーを構えると、それを合図に頭上のヘリから完全武装のアントファッジが次々と降りてきた。

 

 身構える瑠璃だったが、今の彼女は無力な女に過ぎない。それを理解している仁とネイトは、瑠璃をそっと後ろに下がらせる。あまり言いたくないが、今の彼女は完全にお荷物でしかない。

 

「大梅さん、下がって」

「俺達に任せな」

「2人とも……ゴメン」

 

 本当は自分の力でドライバーを取り戻し、その上で芳江に一発叩き込んでやりたいがそうもいかない。その事を瑠璃もよく理解しているので、口惜しいのを堪えてこの場は2人に託した。

 

「テテュスは俺に任せて。ネイトは小早川さんと一緒に、雑魚の相手をお願い」

「おいおい、俺を除け者にするな……と言いたいところだが、時間操作は流石に俺にもどうにも出来ねぇ。悔しいが、アイツはアンタに任せたぜ」

〈Catch your fate〉

「変身!」

〈Fever!〉

 

 変身したオケアノスが、テンペストウィップを手にアントファッジ達に躍りかかっていく。それに続く様にS.B.C.T.が攻撃を開始し、クルーザーの上は忽ち戦場となった。

 周囲を銃火が飛び交う中、仁は8号が変身したテテュスと対峙する。

 

「この間は良くもやってくれたね?」

「またやられに来たの?」

「いいや? リベンジしに来た」

〈HUMAN〉〈HUMAN〉

 

 デイナドライバーを装着した仁が起動するのは、二つの人間の遺伝子を持つベクターカートリッジ。仁の能力を最大まで発揮する最強の力。

 

〈HUMAN + HUMAN Beyond evolution〉

「さて……検証の時間だ。変身!」

〈Break down the wall of evolution. Reach the NEW GENERATION. Open the door〉

 

 姿を現すのは、無限の可能性を持つ最強のデイナであるニュージェネレーションフォーム。世界を救った最強の仮面ライダーが、遂に姿を現した。

 

 しかしテテュスの心に焦りも恐れも無い。例えどんな可能性を持っていようが、ゆっくりと進む時間の流れの中で出来ることなど何もない。

 それを分かっている芳江も、テテュスが負けるなどとは微塵も思わずヘリから降りてきた梯子に掴まり悠々と上空へと逃れていった。

 

「手早く終わらせなさい、8号」

「了解」

 

 テテュスは早々に終わらせようと、クロックスピアーを連結させ回転させる。するとやはり槍の軌道をなぞる様に時計のエフェクトが出現し、そしてテテュス以外の全ての時間がゆっくりと動き出した。

 

 銃弾すら指で掴む余裕があるほど全てがゆっくりと進む世界では、デイナですら止まっているに等しいほどの動きでゆっくりと動いている。そんな案山子となったデイナに、テテュスは無警戒で近付いていく。

 

「……今度は確実に仕留める。頭を落とせば……」

 

 テテュスが槍の穂先をデイナの首筋に添えた。幾ら彼でも、首を落とされては生きてはいられないだろう。そう確信し、テテュスは狙いを定め刃を振るい――――

 

「――おっと」

「!?!?」

 

 その槍がデイナに片手で受け止められた。まさかの展開に思考が停止し動きも止めた彼女を、デイナの拳が殴りつけた。

 

「フン」

「がっ!?」

 

 殴り飛ばされた事で我に返ったテテュスは、体勢を立て直しながら周囲を見渡す。見ればまだテテュスの時間操作は生きており、周囲の物体は全てがゆっくりと動いていた。

 

 そんな中で動いている例外は、能力の発動者であるテテュスを除きデイナただ1人。テテュスはそれが分からなかった。

 

「何故……何故!? 何故動ける!? 時間の歩みを操作された世界の中で、動けるのは私だけの筈!!」

 

 喚きながらもテテュスは手にした槍を振り下ろした。破れかぶれのその攻撃がデイナに通用する訳も無く、あっさりと片手で受け止められた。

 

「どうして……動けるの!?」

「俺の体、何かおかしなことに気付かない?」

「おかしい?」

 

 言われてテテュスはデイナの体をじっくりと観察する。するとよくよく見ると、白い煙の様な物が立ち上っているのに気付いた。

 

 最初体を高熱に保っているのかと思ったが、デイナから流れてくる空気に触れてそうではないことに気付いた。その逆だ、デイナからは冷たい空気が漂ってきていた。

 

「冷たい? 冷えてる?」

「正解」

「ぐっ?!」

 

 テテュスがデイナに起こっている以上に気付くと、正解の景品とばかりにデイナはテテュスを蹴り飛ばした。

 

 先日テテュスの時間操作能力に敗北した後、仁はどうやってその能力を破るかと言う方法を考えた。だが相手は時間と言う、生物でもどうしようもない概念に近い存在。それに対抗する手段は流石に直ぐには思いつかない。

 悩んだ末に仁が思いついたのは、物理的に超高速を超える速度で動く事だった。昔仁はデイナに電気を操る能力で超高速で動かす手段を思い付いた。だがそれでも今のテテュスには追いつけない。

 

 超高速を超える超高速で動く必要がある。その必要に駆られた仁が思いついたのは、自らの体温を超低温近くに下げ電気の伝導速度を上げる超電導による超高速移動だった。バッファローヒューマンエレキテルの限界を超える速度の電気伝導で体内の電気信号を伝達させれば、完全に時間を停止させていない限り対応は出来ると考えたのだ。

 

 そしてその読みは当たった。体内で様々な化学反応を起こし体温を超低温に保ち、そこに電気信号を流す事で超超高速での行動を可能としたのである。

 それこそ時間を操作して周囲の物体をゆっくりと動かしているテテュスにも追いつけるほどに。

 

「これでお前だけの世界じゃなくなった」

「くっ!?」

 

 同じ時間の中で動けてしまえば、怖い物など何もない。デイナの怒涛の攻撃がテテュスに襲い掛かる。テテュスの戦闘力は通常の人間に比べれば高いだろうが、デイナに比べれば遥かに劣った。

 

 デイナはテテュスが振り回す槍を全て回避し、最小限の動きで接近すると顎を下から殴り上げた。

 

「おぐっ?!」

 

 顎を殴られ脳を盛大に揺らされたテテュスは一瞬意識を失いかけ、手から槍が滑り落ちる。それでも何とか気合で意識を繋ぎ留めたテテュスだったが、一瞬意識を失いかけた際に時間操作能力が解除された。だが解除されたのはテテュスの方の時間操作のみ。デイナの発動している超超高速は発動し続けている。

 

 結果、目にも留まらぬデイナの攻撃が次々とテテュスに突き刺さりあっという間に体力を削っていった。

 

「あぐっ!? あ、がぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 獣のような叫び声を上げるテテュスに、デイナがトドメとばかりに回し蹴りを叩き込む。強烈な蹴りが視認できないほどの速度で腹に突き刺さり、喰らったテテュスは一瞬腹に穴が開いたのではと錯覚するほどの衝撃と激痛を感じながら吹き飛ばされた。

 

「ぐぅぁ、あぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 吹き飛ばされる最中、体力の限界からテテュスの変身が解除され8号の姿に戻る。

 

「!」

 

 その瞬間デイナは8号に接近しリールドライバーを引き剥がす様に奪い取った。リールドライバーを取られた8号はそのまま壁に叩き付けられ、一方でデイナは超超高速を解除し奪い返したリールドライバーを瑠璃に投げ返した。

 

「大梅さん」

「あ――」

 

 瑠璃の目からはあまりにも一瞬の事だったので反応が遅れそうになったが、反射的に投げられたリールドライバーを受け止めた。

 

 受け止めたリールドライバーを見る瑠璃の目は、最初こそ目まぐるしく変わる状況に翻弄された様子だったが、次第に状況を理解したのか目に力が籠っていく。

 次の瞬間瑠璃が顔を上げると、その目には明確な闘志が宿っていた。それを見てデイナは仮面の奥で薄く笑みを浮かべながら小さく頷く。

 

 一方8号はデイナにより足腰が立たなくなるのではと言う程痛めつけられたものの、瑠璃には負けたくないという意地があるのか壁に手をつきながら立ち上がり失ったリールドライバーに変わりシェイブドライバーを装着する。

 

「まだ……まだ、終われない!!」

〈Read〉

「血浸!」

〈Focus on〉

 

 シーシェイブに血浸した8号は両腕から爪を出し瑠璃に向けて突撃していく。だがシーシェイブが接近する前に瑠璃が腰にリールドライバーを装着し、ブルーライフコインを投入した。

 

〈Bet your life〉

「ぐっ!?」

 

 あと一歩で瑠璃に爪を突き立てられると言うところで、シーシェイブはリールドライバーから飛び出したルーレットにより弾き飛ばされた。瑠璃はそれを見ながらレバーを下ろしルーレットを指差した。

 

「ストレート、0! 変身!」

〈Fever!〉

 

 デイナにより取り戻せたリールドライバーで瑠璃が再びテテュスに変身する。変身したテテュスは、腰のチップケースからドロップチップを1枚取り出すと親指で弾いたそれを人差し指と中指で挟み、チップを挟んだ2本の指でシーシェイブを指差しながら告げた。

 

「チップ1枚で、大逆転よ!」




という訳で第32話でした。

デイナによる8号テテュスへのリベンジはこうなりました。純粋な生物の能力では時間相手に太刀打ちなんて出来ないので、生物の体内で起こせる化学反応を全開にしてやっとこさ太刀打ち出来た感じです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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