仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は前半の終わりと後半の導入みたいなお話になります。

多分ラストの部分で度肝を抜かれるかと思います。


第34話:ペイアウト、別れと喪失

 海底の潜水艦を潰したデイナは、浮上し瑠璃達と合流した。

 

「ふぅ……ん?」

 

 僅か数分だと言うのに、太陽を見るのも新鮮な空気に触れるのも随分と久し振りに感じる。

 海面に顔を出し港の縁に手を掛け体を人工の丘の上に引きずり上げると少し離れた所に瑠璃達が居るのが見えた。だがどうにも様子がおかしい。ネイトが瑠璃に寄り添い、必死に何かを話し掛けていた。

 

 彼はそれだけで何かあったのを察すると、完全に体を海中から引っ張り上げ変身を解除して瑠璃達に近付いていった。

 

「お待たせ。下は終わったよ」

「あ、お疲れさまです」

「ん。それで? 何かあった?」

 

 仁が問い掛けると、瑠璃がピクリと肩を震わせた。傍から見た様子で彼女絡みだろう事は予想できたが、これほどの事とは一体何なのかと仁は首を傾げる。

 

 仁の問いに答える者はいなかったが、それでも彼は答えを急かす事はせず誰かが何かを言うのを待った。

 果たして、その答えを真っ先に口にしたのは瑠璃であった。

 

「あの子……あの子が……」

「あの子?」

「瑠璃のクローン、8号の事だ。博士に見捨てられて、行くところが無かったアイツを瑠璃は助けようとしたんだが……」

「彼女は錯乱していたようで、大梅さんを拒絶して海に転落。その後、海中で鮫に襲われ命を落としたようです」

 

 ハッキリと言葉を口に出来ない瑠璃に代わりネイトと慎司が何があったのかを説明した。それを聞いて仁も、そう言えば海中に血が漂っている事を思い出した。その事も聞こうと思っていたのだが、意外なところで疑問が一気に氷解した。

 

 一通り事情を聞き終えた仁は、涙を流す瑠璃に近付き肩にそっと手を置いた。

 

「大梅さん……」

「あの子は、私の事を嫌ってたのかもしれない。でも、私にとって、あの子は世界でたった1人の血の繋がった姉妹だった……。だから――――!?」

「もういい、もういいよ。仕方なかった。分かり合えない相手ってのはどうしても居る。俺も、出来れば死に別れたくないと思った人はいる」

 

 仁の脳裏を過るのは、世界を己の目的の為に滅茶苦茶にしようとした1人の男の姿。大多数から見れば彼は極悪人以外の何者でもないのだろうが、しかし仁は未だに彼に対して一定の尊敬に近い感情を向けていた。

 

「それにここで彼女が海に落ちて鮫に食われなくても、彼女は傘木社の手が掛かった物扱いされる存在だ。それなら、どの道命は無かったかもしれない。小早川さん?」

「……博士が連れてきたアントファッジは、倒されると隠蔽処置が行われました。嘗ての傘木社の戦闘員と同じです」

 

 やはりそうか。傘木社に所属する者の多くは体の中に証拠隠滅の為の隠蔽装置が埋め込まれている。恐らく8号にも、似たような物があった筈だ。8号の場合はシーシェイブが破壊された直後には装置が作動せず、変身解除後に海に落ちて鮫に食われたのでもしかするとテテュスに倒された際に隠蔽装置が破損していた可能性はある。

 だが傘木社の残党が自分達の情報が漏洩するリスクを放置するとは思えなかった。きっと何らかの形で彼女は始末されていた。仮に8号が瑠璃を受け入れて、共に暮らす中で芳江が8号を始末しに来た場合無用な被害が出る危険があった。

 

 何より、想い出を作ってから始末された場合、悲しみは今の比ではない。そう考えるとここで8号が勝手に死んでいったことは一番被害が少ない事だったのかもしれない。…………そう思うのが一番幸せだろうと、仁は自分に言い聞かせた。

 

「だから気にしない方が良い。気にし過ぎると、君自身が耐えられない。悲しいかもしれないけど……」

「うぅん、分かってる。ここで悲しんでても仕方ないって」

 

 涙を拭い、瑠璃は立ち上がる。その目には新たな光が宿っていた。

 

「でも、あの博士だけは許せない。最低でも一発はぶん殴らないと――!」

「その時は俺も付き合うぜ。セラの仇を、放置なんて絶対に出来ねぇ。瑠璃を悲しませたことも含めて、あの澄ました顔に思いっきり拳を叩き込んでやる!」

 

 どうやらもう大丈夫なようだ。仁は安堵に小さく溜め息を吐くと、慎司が隣にやって来て手を差し出してきた。

 

「ありがとうございます。また、君に助けられました。S.B.C.T.を代表して、感謝します」

「こちらこそ」

 

 仁は差し出された手を取り、2人は固く握手をした。

 

 

 

 

 

 その後、諸々の後始末は街の警察に任せ仁達は十三の元を訪れていた。ディーパーの巣窟の破壊と、今回の件で暗躍していた悪党が街から出て行った事、そしてこの為に尽力していた者達の奮闘を報告する為に。

 

「皆さん、この度は本当にありがとうございました! 皆さんのおかげで街の人々の元に平和が戻ります。何とお礼を言ったら良いか……」

「我々は任務で動いただけです。そこまで感謝されるほどの事はありません」

「気にしないでください。乗り掛かった船なんで」

「そうですよ。私なんて、殆ど成り行きでここまで来ちゃったみたいなものですし」

「俺、あいや私も……」

 

 十三からの感謝をそれぞれ違う言葉で謙遜した。だが街を、そこに暮らす人々を愛する十三からすれば、街を守る為に奮闘してくれた彼ら彼女らにはどれだけ感謝しても足りない。

 

「それでも、です。私の愛するこの街を、守ってくれて本当に感謝しています」

 

 そこまで言うのならと、瑠璃とネイトは大人しくその感謝を受け取った。すると十三は2人に向けて笑みを浮かべた。

 

「それにしても驚きました。まさか鉄平さんのお店のウェイトレスのあなた方が仮面ライダーだったとは」

「あ、あはは……」

「この事、鉄平さんはご存じで?」

「一応マスターも知ってる。まぁ、教えたのは最近だけど」

「そうでしたか。改めて、本当にありがとうございます。街の全ての住民を代表して、感謝します。本当であれば、大々的に表彰などもしたいのですが……」

「それは、ちょっと……」

 

 流石にそれは困る。以前の弦二の時の様な事が起こらないとも限らないのだし、何より店に変な客が来られても困るので仮面ライダーである事を知る者は少ない方が良い。

 そう思って2人が表彰は遠慮すると、十三はコロコロと笑ってそれを受け入れた。と言うより、そう言う反応になるだろう事を予想していた。

 

「分かっています。必要以上に注目され騒がれるのは煩わしいでしょう。この件に関してはあなたたちの活躍に関しては伏せます。ただ事態の終息を住民に知らせない訳にはいかないので、小早川隊長達の活躍という事にさせていただきますが……」

「それは……すみません。皆さんの手柄を奪うような形になってしまい……」

「別にいいよ。俺達は別に、仮面ライダーとしてちやほやされたい訳じゃないからさ。ね?」

「うん」

「まぁな」

 

 安易に称賛される事を良しとせず、ただ街の住民を守る為に戦ってくれた英雄たちを前に十三は改めて感謝を胸に笑みを浮かべた。

 

「皆さん、この度は本当に、本当にありがとうございました。私にできることなど限られていますが、必要とあれば微力ながら力を貸しますので」

 

 こうして英雄たちは静かに称えられるのだった。

 

 仁達の意向を汲み、彼らの活躍は伏せられつつ住民にはS.B.C.T.により怪物騒動は収束に向かった事を告げられた。守られているとは知りつつ、何時怪物に襲われるのではと心の何処かでは恐れを抱いていた住民達は本当に平和が訪れた事に安堵し歓喜した。

 

 とは言え、街の中にディーパーが残っていないとは言い切れない。なのでS.B.C.T.のβチームとγチームは生き残りを連れて引き上げ、αチームだけが今暫く残りパトロールをする事になった。これは飽く迄も、念の為の処置である。

 

 一方仁はと言うと、新たに街に研究者が数人やって来て地下研究所に赴任する事が決まった事もあってアメリカに戻る事になった。街の安全が確保されつつあるという事で、前々から十三が打診していた研究者の派遣が漸く動き出したのだ。

 

 海都を発つ前日、仁は家族を連れて再びBAR・FUJINOを訪れた。

 

「どうも」

「いらっしゃい!」

 

 瑠璃は仁達家族を以前と同じ席に案内し、子供達にも席を用意して座らせた。席に着くと雄司と愛衣は基本寝ていた前回とは打って変わって、興味深そうに店内をあちこち見ていた。

 

「今日は元気ね、この子達」

「多分、ディーパーの気配が無くなったからだろうね」

「気配が?」

「この子達、特に雄司はそう言うのに敏感だからさ」

 

 先日の作戦前までは雄司も珍しく夜泣きをしたりと落ち着かない様子だったが、今はすっかり落ち着き何時もの調子を取り戻している。それを仁はディーパーの気配が無くなったからだろうと結論付けた。雄司は落ち着いている反面、自身に近付く危険に対しては敏感だ。恐らく本能的にディーパーの危険が街に潜んでいる事を察知したのだろう。

 

 しかし瑠璃はそれだけではないことに気付いていた。

 

「多分、それだけじゃないと思う」

「って言うと?」

「きっと、ディーパーの親玉みたいのが仁さんが壊した潜水艦の中に居たんだと思う。前はそいつがテレパシーみたいなのを出してて、それが五月蠅くて落ち着かなかったのかも」

 

 なぜ瑠璃がそんな事を言うかと言うと、最近は海に入っても何も聞こえなかったからだ。前は海に入れば五分の確率で海底から自分を呼ぶ声が聞こえていた。しかしあれから数日、時折気晴らしに海に潜ると例の声は聞こえる事無く快適なダイビングを楽しめていたのだ。

 

「ふむ……俺や亜矢さんは何も感じなかったよね?」

「えぇ。特に違和感なく過ごせていましたが……」

「私がムー大陸人の生き残りのクローンだからかな?」

 

 あるいは仁と亜矢は後天的な新人類で、子供達は先天的な新人類である事が関係している可能性もあるが最早どうでもいいだろう。海底の潜水艦は仁の手により破壊され、そこに巣食っていたものは潜水艦と運命を共にしたか逃げ出して街の近くにはいない。もう瑠璃が謎の声に悩まされる事は無いのだから。

 

 瑠璃達がちょっと真面目な話をしていると、手が空いたネイトが近付いてきて琉璃の肩に手を置いた。

 

「瑠璃、もう良いじゃないか。アイツらはもう居なくなったんだし」

「ネイト……うん、そうだね」

「アンタも良いだろ? 仁?」

「ん……それもそうか」

 

 改めて、仁はこの店に来たそもそもの目的を思い出した。今夜は街を発つ前の最後の想い出にと、再び瑠璃の店に呑みに来たのだ。

 辛気臭い話はここまでにして、今夜は飲もうと仁と亜矢は早速飲み物と簡単な食事を頼む。その際、同時に子供達が口に出来るものも亜矢は注文した。2人もそろそろ離乳し始める時期。細かく砕いた果物なんかを食べ始める時期に入っていた。

 それを聞いた鉄平は、店にある果物を使って簡単な離乳食の様な物を作って出してくれた。これなら子供達も口に出来る。

 

 仁と亜矢が酒を楽しみ、子供達にも離乳食を食べさせているのを横目に瑠璃は他の客達に接客していた。十三から街中に安全宣言が出されたからだろうか、今夜は来客が多い。

 

 ネイトと共に店の中を忙しなく歩き回っていると、また新たな客がやって来たのか扉が開かれドアベルが鳴る。

 

「あ、いらっしゃ~……あ」

 

 入って来た客の姿に瑠璃は一瞬呆けた。

 と言うのも来店してきたのはフランシスとエドワード、そしてバーツの3人だったのだ。

 

「よぉ」

「また来たぞ」

「……ちわ」

 

 3人の内、どうにもバーツの様子がおかしい。何と言うか居心地が悪そうだ。

 と言うのも彼は自分達の行動が、瑠璃を大きく傷つける結果に繋がった事をかなり気にしていた。

 

 瑠璃はそれを察してか、努めて笑みを浮かべると3人を快く店に招き入れ席に案内した。

 

「いらっしゃい。この席が空いてるわよ?」

「お、すまねぇな」

「取り合えず何か飲み物くれ。任せる」

「は~い!」

 

 瑠璃に席に案内され、座りながら適当に注文するフランシスとエドワード。一方のバーツはまだ喉に小骨が刺さったような顔をしていた。兄貴分2人は、そんな彼の背を軽く叩いて喝を入れた。

 

「ほれ、何時までうじうじしてるバーツ。少しはシャンとしろ」

「そうだぞ。男なら細かい事を何時までも気にするな」

「ッつ、だってなぁ……」

 

 煮え切らない顔をしているバーツの前に、瑠璃がメロンソーダの上にアイスクリームを乗せたクリームソーダを置いた。

 

「んおっ!?」

「気にしないで。私はもう大丈夫だし、貴方達には助けられてもいるわ。だから大丈夫」

 

 普段浮かべるのとは違う、相手を慈しむ優しい笑みを向けられバーツは思わず顔を背けた。そう言う笑みを向けられ慣れていないと言うのもあるが、瑠璃から感じた確かな女の色香を直視出来なくなったのだ。

 

 瑠璃から色香を感じた瞬間、脳裏に海羽の顔が過ったから…………

 

「~~ッ、べ、別に……ってか、子供扱いすんな!? んだよこれ!?」

「ん? 嫌いだった?」

「そうじゃねぇけど……」

 

 危険と隣り合わせの運び屋稼業を行う海賊の様な生活を送って来たバーツには、海の男になるという目標があった。端的に言えば背伸びしているのだ。

 そう言うところが逆に子供っぽいとも言えるのだが、それを教えてくれる者は誰も居ないし本人も気付いていない。

 

「要らないって言うんなら、私が食べちゃうけど~?」

「要らねぇなんて言ってねぇだろ!」

 

 クリームソーダを守る様に引き寄せると、ストローに口を付けメロンソーダを飲み、スプーンでアイスを掬う。すると甘味を口にしたからか仄かに笑みが浮かぶ。それを見て瑠璃だけでなく、隣でビールを呷っていたフランシスとエドワードも面白そうに見ていた。

 

「すまねぇな。お嬢ちゃん達にも色々と迷惑をかけた」

「もういいわよ。それよりそっち、船は大丈夫なの?」

「あぁ。お前の彼氏が頑張ってくれたおかげで、船が丸焼けになるなんて事にはならずに済んだ。修理も終わったし、もう何時でも出港できる」

 

 ネイトを堂々と彼氏と言われた事に、瑠璃は嬉しそうに頬を染めつつ否定しない。

 

 その光景に店内の常連客達の間に電流が走る。

 

「な、何!?」

「瑠璃ちゃんが!?」

「あの瑠璃ちゃんを落とせる男が居たのか!?」

 

 当然彼らの視線はネイトに集中する。常連客達に一斉に注目され、ネイトも流石に狼狽えた。

 

「え? え!?」

 

 ネイトが四面楚歌に等しい状況にある中、瑠璃は構わずフランシス達と話を続けた。

 

「そっか、貴方達も街を出るのね」

「あぁ。あの女からの前金も何時までも持たないしな。生きる為には、金を稼がにゃならんし」

「この街で稼げばいいのに……」

「今更普通の仕事なんて出来ねぇよ。身分証も無いしな」

「海羽ちゃん、寂しがるだろうな」

「そういや、アイツまだ帰って来てねぇのか?」

「もう少ししたら帰って来るわ」

 

 実際海羽が帰ってくるまでもう一週間を切っていた。ついさっきなど、面白い土産話が出来たから楽しみに待っていてくれと言う電話まできたくらいだ。生き生きとした海羽と再会できる事が楽しみであり、そんな彼女とバーツが再会することなく別れる事になるのが残念でもあった。

 

「何時でも良いから、偶には海都に寄ってね。海羽ちゃんも喜ぶから」

「……近くを通る事があればな」

 

 ぶっきらぼうな返しだったが、顔は満更でもなさそうだ。

 

 その後、店ではネイトが常連達からの質問攻めにグロッキーになったり、仁とフランシスと瑠璃による飲み比べが始まってダウンしたフランシスを尻目に仁が僅差で瑠璃に勝ったりと、騒がしくも楽しい一夜が過ぎていった。

 瑠璃は、平和な日常が戻ってきた事を感じた。知ってしまった自身の過去は辛いものだったが、自分には守るべき存在と受け入れてくれる者達が居る。瑠璃にはそれだけで十分だった。

 

 

 

 

 それから数日後、門守一家が海都を発つ時が来た。瑠璃とネイトは仁達を見送るべく、港で彼らの前に立っていた。

 

「行っちゃうのね。何だか少し寂しいわ」

「仕方ないよ。俺、今は一応院生で留学生だし。何時までも研究をほったらかしには出来ないよ」

 

 マサチューセッツの教授から先日遂にそろそろ帰ってこいと言う旨のコールが入った。向こうの研究が仁を欠いた事で滞りつつあるらしい。海都での生活は確かに快適だったが、やはり自分には研究と探求をしている方が性に合っていると仁は改めて感じた。

 何よりこの街にはもう仁の力は必要無いだろう。この街には瑠璃が……仮面ライダーテテュスが居るのだから。

 

「色々と世話になったね」

「本当に、ありがとうございます」

「何言ってるの、それはこっちのセリフよ。仁さんが居なかったら私も危ないところだったわ。ありがとう」

「何時でも来てくれ。アンタ達なら歓迎する」

 

 瑠璃達は互いに握手したり抱擁したりした。

 

 別れを惜しんでいると、船が汽笛を上げた。そろそろ出航だ。

 

「それじゃ、またね」

「お2人とも、お元気で」

「う~!」

「あ~!」

 

「達者でな」

「子供達もね!」

 

 門守一家が船の中に消えていくのを2人は手を振って見送っていた。彼らが船に乗ってから数分後、船は出航しゆっくりと港から離れアメリカへと向けて動き出す。

 

 船が海都から離れていくのを見送っていると、2人の前を大荷物を手にしたフランシス達が通り過ぎようとした。

 

「あ、あなた達ももう行くんだ?」

「あぁ。次の仕事が見つかったんでな」

「また危険と隣り合わせの運び屋稼業さ。この街での暮らしが恋しいよ」

「あ~……アイツが帰ってきたら、よろしくな」

 

 3人は思い思いに瑠璃達に言葉を告げ去っていく。彼らに続いて子分達が瑠璃達の前を通り過ぎる際も、瑠璃やネイトに一言告げて行った。

 

 相も変わらず騒がしい連中だが、その彼らとも別れかと思うと何だか寂しくなる。彼らには迷惑を掛けられた事も多かったが、不思議と嫌いにはなれなかった。人間的魅力があるのだろうか?

 

 暫くすると遠くの方に停泊している一隻のクルーザーが港から離れていく。所々に焦げ跡があるから、あれがフランシス達の船だろう。

 瑠璃は離れていくクルーザーを見て、彼らにも小さく手を振った。

 

「……行っちゃったね、皆」

「ま、あの海賊連中が居なくなったのは嬉しいがね。アイツら五月蠅いし」

「私は嫌いじゃなかったよ? それに海羽ちゃんだって」

「海羽ちゃんか、もうすぐ帰って来るんだったか?」

「うん。明日には船の上じゃないかしら」

 

 2人は話しながら店に向け歩きだす。まだ完全に安心はできないが、それでも平和が戻ってきた事は確か。ならば、今はこの束の間の平和を享受しよう。

 

 見上げれば今日の海都の空も晴れ渡り、空には燦々と輝く太陽があった。瑠璃はその眩しさに思わず目を細めるが、口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 海都から離れた海底…………そこは一般には、だだっ広い海底が広がるだけの筈であった。

 だが一般に知られているのとは異なり、そこには何か街の様な物が広がっていた。余程大昔に沈んでそのままなのか、建物の多くは朽ち、原形が分からないものも数が多かった。

 

 これこそ、今では伝承だけで実は存在しないとまで言われていた、大昔に太平洋の海底に沈んだと言われる幻の大陸……ムー大陸だ。

 

 最早住んでいた住民の亡骸も海の藻屑と化して残っているのは遺跡だけと言うその大陸の上の街の中に、シーラカンス・ディーパーは巨大な肉塊と共に居た。

 

 あの戦いの中、デイナが潜水艦を破壊する前にシーラカンス・ディーパーは数体のディーパーと共にこの肉塊を潜水艦から運び出していたのだ。彼らにとっての主人であり親でもある、この肉塊を守る為に。

 

 シーラカンス・ディーパーは肉塊の傍で恭しく頭を下げていた。まるで次に告げられる言葉を待っているかのようだ。

 

『…………はい。今暫くは街には近付けないかと』

 

 何も告げられていないにも拘らず、シーラカンス・ディーパーは何かに答えるかのような言葉を口にした。よく見ると、シーラカンス・ディーパーが跪いている肉塊の上部には、首の無い人間の上半身の様な物が生えている。

 

 その上半身が、まるで生きているかのように手を上げた。

 

『ですが、街には種を蒔いております。暫く離れていても、キャリアーとなる者を連れて来てくれるでしょう』

 

 シーラカンス・ディーパーの言葉に、肉塊は満足そうに脈動した。

 

 一度はディーパーの脅威から解き放たれたと思われた海都だが、脅威は完全に去ってはいなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 正体がバレ、海都を追い出される事になった芳江は傘木社残党が移動拠点の一つとしている潜水艦の研究室で寛いでいた。

 

「ふぅ……」

 

 海都を追い出されてから数日、その間陸地に上がる事など出来る訳も無かったので、決して広くはない潜水艦の中での生活を余儀なくされていた。

 しかし芳江の顔に不満の色は見られない。それもそうだろう。芳江はあれから、日々を持ち帰ったカプセルの中のディーパーの頭部の研究に費やしていたのだから。

 

 とは言え、不満は無くとも快適とは言い難い様子だった。それと言うのも研究に関しては特にこれと言った進展が無かったからだ。

 今は小休止と、研究を中断してコーヒーを飲んでいた。

 

「……頭があれば本体の方から何らかのアプローチがあるんじゃないかと思ったけど、これと言った事は起きなかったわね」

 

 芳江がコーヒーを飲みながらカプセルを見て呟く。芳江がこのカプセルだけは持ち出したのは、これが重要な研究対象だったからに他ならない。

 

 数年前、まだ傘木社が健在だった頃、芳江を責任者とした研究チームは海洋生物の研究の一環でこのディーパーの存在を知り、探索の結果このラハブを発見。研究の為頭部だけを持ち帰り研究を続けていたのだ。

 

 だがこれと言って研究に進展は無く、首を捻っていたところにセラの存在を知り研究に役立てる事は出来ないかと島を襲撃しセラを誘拐。研究サンプルを増やす為クローンを何体も作り出していたのだった。

 

「ま、いいわ。それより問題は首から下が何処に行ったか、よ。デイナと言う脅威を前に、ラハブが大人しくしている筈がないわ。シーラカンス・ディーパーと言う手足となる存在も居るのだから……」

 

 カプセルの中のラハブの頭を眺めつつブツブツ呟いていると、研究室のドアが開き完全防備に身を包んだ男が1人は行ってきた。嘗て傘木社の裏で戦闘員として活動していた、傘木保安警察の装備に身を包んだ男だ。

 

「失礼します。”恭子”博士、宜しいでしょうか?」

 

 男は芳江改め、『深井 恭子(ふかい きょうこ)』に話し掛ける。話し掛けられた恭子は、中身の残ったコーヒーの入ったカップを机の上に置きそちらに体を向けた。

 

「何の用かしら?」

「先方から連絡です。補給の準備が整ったと」

 

 男の言葉に恭子は笑みを浮かべた。補給とはただ燃料や食料の補給だけに非ず。一番の目的は戦力の補給である。戦闘員にベクターカートリッジなど、必要な物がこの補給で届く手筈となっていた。

 

 恭子が補給をさせた最大の目的は、瑠璃を手に入れる事であった。8号を失った以上、残った研究材料は瑠璃ただ1人。瑠璃を手に入れる為、恭子は纏まった戦力を欲していたのだ。

 

「門守 仁は引き上げたのね?」

「はい。それだけでなく、S.B.C.T.もその大部分が撤収したようです」

 

 報告衣恭子は笑みを深めた。一番の邪魔ものである仁が居なくなり、S.B.C.T.も戦力を大きく減らした今なら瑠璃を手中に収める事も容易い。大きな損失はあったが、流れが自分に向きつつある事に恭子は笑いを堪える事が出来なかった。

 

「待っていなさい、失敗作。貴方は私が有効活用してあげるから! あはははははっ!」

 

 

 

 

 恭子が潜水艦の中で高笑いしている頃、潜水艦の補給予定ポイントに一隻の船が近付いていた。本州から海都に人を運ぶフェリー船。海羽が海都への帰路に就く為に乗っている船だ。

 その船の甲板で、海羽が海風に顔を綻ばせて久し振りに見る瑠璃達の顔を思い浮かべていた。

 

「ん~! 良い風! 瑠璃姉ぇ達元気にしてるかな? 早く土産話を聞かせたいな~。忍者を見た、なんて――――」

 

 帰宅の時に海羽が思いを馳せている中、船のブリッジでは岩礁警戒用のソナーに映る潜水艦の影に船長を始めとしたクルーが怪訝な顔をしていた。

 

 ソナーは音で周囲を探るレーダーの様な物。そして音で周囲の状況を探る潜水艦にとって、船のソナーは自身の存在を告げるアラームの役割も果たしていた。

 

「艦長! 海上に船が居ます!」

「向こうもこちらの存在には気付いているだろう。ここで我らの存在を知られるのも面倒だ。撃沈しろ!」

「ハッ!」

 

 直ちに船の撃沈が指示され、船に照準を合わせて魚雷が発射される。

 

 船上で海を眺めていた海羽が何気なく下の海を見ると、船に向けて突っ込んでくる魚雷の雷跡を見た。

 

「え? 何あれ? イルカ?」

 

 海羽が首を傾げながら雷跡を見ていると、魚雷が船に直撃。

 

 直後、船は大きな爆発と共に海の藻屑と化していった。




という訳で第34話でした。

今回で門守一家は退場となります。流石に何時までも仁が居ては瑠璃の出番を片っ端から取っていってしまいかねないのでね。

と同時に海賊一家も海都から離れます。と言ってもこちらはがっつりストーリーに関わるキャラ達なので今後も出番はありますけどね。

そしてラストは、皆さん驚かれた事でしょう。海羽がどうなってしまったかは次回明らかになります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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