仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

前回のラストは皆さん驚かれたようですが、今回で皆さんの不安に決着がつけられるかと思います。


第35話:アウトサイド、海羽は何処に

「ん~~!……はぁ、今日もいい天気ね」

 

 朝も早い時間、瑠璃は店の前に出ると差してくる日差しに目を細めながら体を伸ばし、筋肉を解しながら朝の街の空気を肺一杯に吸い込んだ。海都は海のど真ん中と言う立地の関係で、街には絶えず新鮮な海風が吹き抜ける。夜の間は車の往来も殆ど無くなるので、必然的に淀んだ空気は拭き流され朝にはいつも新鮮で綺麗な空気が街を満たしていた。

 それを胸いっぱいに吸い込む気持ち良さは何物にも代え難いものだった。晴天も相まって、この日も良い事があるのではと言う気になって来た。

 

「そう言えば、そろそろ海羽ちゃん帰ってくるのよね。フフッ! 楽しみ」

 

 また賑やかな日常が戻って来るのかと思うと、心躍らせずにはいられない。一体どんな土産話を持ってきてくれるだろうか。帰ってきたら何を話そうか。自分の過去を話したら、海羽はどんな反応を見せてくれるだろうか。気になる事は盛沢山だった。

 

 そんな事を考えつつ、瑠璃は踵を返し店に入った。さぁ今日もしっかり働こう、そう気合を入れ扉を潜った。

 

 その時、奥から鉄平が何やら青い顔をして出てきた。何があったのか、足元が覚束なく酔っぱらったようにフラフラと歩き今にも倒れそうだ。

 

「る、瑠璃……」

「ちょっ!? マスター、どうしたの!? 何があったの?」

 

 慌てて瑠璃が駆け寄り、今にも倒れそうな鉄平を支えると彼は唇を震わせて何があったのかを話した。

 

「い、今……学校から連絡があって……」

「うん……」

「海羽の……海羽の乗った船が沈没したって……」

「えっ!?」

 

 鉄平から告げられた衝撃の無いように瑠璃が驚愕していると、鉄平の方は限界が来たのかその場に崩れるように座り込んだ。瑠璃の方も衝撃を受けて一瞬意識が飛びかけたが、鉄平が崩れ落ちた音で我に返った。

 

「あ、マスター! マスター、しっかりして!?」

「どうした!?」

「ネイト!? 海羽ちゃんが、マスターが!?」

 

 座り込んだ鉄平に瑠璃が声を掛けていると、その声に反応して奥からネイトが出てきた。彼はまだ海羽の身に何が起こったのかを聞いていないらしく、何がどうしたのかが分からず困惑している。瑠璃は何とか説明しようとするのだが、彼女は彼女で瑠璃が行方不明になったと聞き動揺しているのか言葉が上手く纏まらない。

 

 瑠璃ですら大きく動揺していると言う状況に、これはただ事ではないと察したネイトは取り合えず瑠璃を落ち着かせることにした。

 

「瑠璃落ち着け! まずは何があったのか、それを簡単に話してくれ」

「う、うん……えっと、あのね?」

「あぁ……」

「海羽ちゃんが……海羽ちゃんの乗った船が、沈没しちゃったって……」

「何ッ!?」

 

 漸く何があったのかを聞いたネイトは、改めて瑠璃と鉄平の顔を交互に見た。なるほどそう言う理由なら、2人が揃って大きく動揺するのも納得できる。2人にとって大事な家族である海羽が行方不明になってしまったのだ。動揺するのも致し方ないだろう。

 

「他に何か詳しいことは分かるか?」

「ゴメン、私も今マスターから聞いたばかりだから……」

 

 鉄平は何か詳しく聞いていないかとチラリと見たが、生憎と今の鉄平に何かを聞くという事は出来なさそうだ。衝撃が大きすぎて、目の焦点が合っていない。大事な愛娘が突然行方不明になったのだから無理も無いだろう。

 

 仕方がないのでネイトは海羽が通う高校に電話をかけ、何がどうなったのかを訊ねる事にした。学校側も詳しい情報を仕入れようと必死になっているだろう。そこから少しでも何かを掴むことが出来るかもしれなかった。

 

「もしもし、藤野 海羽の保護者だ。何がどうなってるのか聞いても良いか?」

『え、あ、は、はい!? えっと、まだ詳しい事は分からないのですが……』

 

 突然電話を掛けてきて海羽の消息を訊ねてきたネイトに、電話の向こうの教員はしどろもどろになりながらも今は言っている情報を話してくれた。

 

 まず船との連絡が途絶えたと言う報告が今朝方港湾管理局から入り、その後船の反応が途絶えた地点に海上保安庁が向かうと船の残骸と思しきものが多数海上に浮かんでいるのを確認。残骸を回収し詳しく調べた結果、それが海羽達が乗っている船である事が分かったのだと言う。

 その残骸の中には避難艇もあり、更には乗客や乗組員のものと思われる遺体も多数確認され、船に乗っていた者の生存は絶望的だとか。

 

 それを聞き、ネイトは力無く二言三言相手側の教員に言葉をかけ通話を切った。

 

 話を聞き終え、ネイトは受話器を置くと疲れたように椅子に座った。その様子から瑠璃も何を告げられたのかを何となく察し、目に涙を溜めながらそれでも勇気を振り絞って問い掛けた。

 

「ね、ネイト……海羽ちゃんは?」

「船は……木端微塵になったのが確認されたって。避難艇も軒並みダメになってたから、生存は絶望的だってさ」

「そ、そんな――――!?」

 

 遂に瑠璃は堪えきれず、涙を零してその場に崩れ落ちた。ネイトも涙こそ流さなかったが、拳は血が滲むほど握り締められていた。

 

 海羽の身に起こった一大事。その日BAR・FUJINOは臨時休業となり、瑠璃達は丸1日悲しみに暮れていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方海都から遠く離れた太平洋の海上を、一艘の大型クルーザーが航行していた。所々に焦げ跡や修理の跡が見えるそれは、フランシス達が拠点としているクルーザーだった。

 

 そのクルーザーの最上階に当たる甲板の上で、バーツは首に引っ掛けたヘッドホンから流れる音楽を聴きながら周囲を見渡していた。今彼らは新しい仕事を得て荷を運んでいる真っ最中。言うまでもないが非合法な彼らが運ぶ物は当然非合法な代物であり、その荷を狙う輩も居る。なのでバーツは見張りとして見晴らしの良い最上階の甲板に立っていたのだ。

 

「♪~、♪~~♪~」

 

 とは言えあまり気張っている様子は無く、どちらかと言うとだらけた感じであった。音楽を聴き、リズムに乗って鼻歌を歌いながら柵に寄りかかるというリラックスぶりだ。

 今日は海が凪いでおり、天気も良いので遠くまでよく見える。これなら相手が潜水艦とかでもない限り接近される前に気付く事が出来た。しかも見張りに立っているバーツは目も良いので、遠くに船影がチラリとでも見えれば即座に反応できた。

 詰まる所こんなのバーツにとって朝飯前、昼寝しながらでも出来るほどの簡単な仕事なのでだらけるのも已む無しなのだった。

 

 とは言え、慎重なエドワードは必要以上にバーツが気を抜かないよう、時折通信機で気合を入れさせていたが。

 

『バーツ、どうだ? ちゃんと見張りやってるか?』

 

 案の定、またしてもエドワードから通信が入った。バーツはそれに、持参したジュースを飲みながら答えた。

 

「ん、ん……プハァッ! あぁ、やってるやってるって。心配すんなよエド兄貴」

『その通信機越しに聞こえる音楽が無けりゃ心配しなくて済むんだがな』

「固い事言うなって。あの女の依頼に比べりゃ楽な仕事なんだから、大丈夫だよ」

『油断するんじゃない』

「へいへい。……ったく、信用ないんだから」

 

 通信が切れると、バーツは思わず愚痴を零してもう一口ジュースを呷った。柑橘類の酸味と甘味、そして炭酸が喉を通り抜ける爽快感に気分が良くなる。

 

「――――ん?」

 

 と、その時バーツの目に奇妙なものが写った。海上に何かが浮かんでいる。それも複数だ。

 

 気になったバーツが双眼鏡を取り出し海上に浮かんでいる物を見てみると、それは何かの残骸である事が分かった。よくよく見るとそれは船の残骸であるように見える。その光景にバーツは首を傾げた。

 

「何だ? この辺で船でも沈んだのか?」

 

 この仕事をしていれば海難事故に遭遇する可能性もゼロではない。だから珍しいとは言え、そこまで騒ぐほどの事ではないのだが、それでもこれ程の残骸が浮くほどの海難事故と言うのは彼もまだ遭遇した事は無い。

 

 どこぞの誰かが不幸な目に遭ったのか? 最初海に浮かぶ残骸を見てバーツが抱いた感想はそんなものであった。だから、特に金にもならなさそうな浮かぶ残骸に彼は特に関心も示さず、しかし他に見る物も無かったので何とはなしにその浮かぶ残骸をぼんやりと眺めていた。

 

 だが次の瞬間、彼は自分の目を疑った。海を漂う残骸の中に、人の様な物が混じっているのに気付いた。それもただの人ではない、どこか見覚えのある人だ。

 

「あれ、は…………!?」

 

 よくよく目を凝らし、気になって双眼鏡を覗いてみるとバーツは思わず息を呑んだ。

 

 何故なら彼の視線の先には、ぐったりとしながらも海を漂う残骸にしがみついている海羽の姿があったからだ。

 それを見た瞬間バーツは首からヘッドホンを引っぺがしながら通信機に怒鳴りつけるように声を掛けた。

 

「おい、ブリッジ! ブリッジ!! そっちから右舷に浮かんでる残骸は見えてるな!?」

『ん? 見えてるがどうした?』

「フランシス兄貴! 今すぐそっちに舵切ってくれ、早く!!」

『は? いきなりどうした?』

「グダグダ言ってる暇ないんだ、早くしろ!!」

 

 物凄い勢いで捲し立ててくる弟分に、フランシスはただ事ではない事を察するとそれ以上の問答を止め言われた通り舵を切った。予定の航路から外れ、船は海に浮かぶ無数の残骸に近付いていく。

 その間にバーツは甲板を移動し、船の最先端に立つと柵から身を乗り出して海上を見渡し先程見た海羽の姿を探した。

 

「何処だ……何処だよ!?」

 

 海羽が何時からああしていたのかは分からないが、先程見た限りでは大分消耗しており意識があるかも怪しかった。あのままだと残骸にしがみつく力も失い、海に沈んでしまう。

 その前に見つけ出さなくては…………

 

「…………! 居た!」

 

 目を皿のようにして海面を見渡した末に、バーツは漸く海羽を見つけた。先程よりも近く、双眼鏡など使わなくても見えるくらいに近付いて見るとやはり海羽は意識があるかも怪しい状態だった。

 

「兄貴! 後ろのデッキにタオルと湯を用意しといてくれ!」

『待てバーツ、一体何がどうした?』

「海羽が漂流してんだよ!!」

 

 詳しく話している時間も惜しいと、バーツは最低限の事だけ伝え海に飛び込んだ。時間が惜しいので服を着たままでの入水。一般に着衣したままの入水は動きを著しく制限されたりなど危険が多いのだが、海で過ごす時間が長いバーツにはこの程度どうという事は無い。水を含んだ服が体に纏わりつく感覚など何のそのと言った様子で海羽に泳いで近付くと、残骸にしがみついている海羽を支えるように抱きしめた。予想出来ていた事だが、長時間海水に流されていたのか海羽の体は恐ろしいほどに冷えている。まだ辛うじて震えるだけの体力はあるようだが、このままだと危険だ。

 

「海羽!? 海羽、しっかりしろ!?」

「ぅ……ぁ……」

 

 このまま意識を失わせるとマズイと、バーツは抱きしめた海羽に必死に声を掛けた。するとその声かバーツの体温に反応したからか、海羽の瞼が震えゆっくりと開いた。意識が朦朧としているのかやや胡乱な目が彷徨い、バーツを見た瞬間彼女の顔に安堵の笑みが浮かぶ。

 

「ぁ……バー、ツ?」

「あぁ俺だ。しっかりしろ、もう大丈夫だからな!」

 

 元気付けるようにバーツが声を掛けると、海羽は弱々しいながらも笑みを浮かべその身を彼に委ねた。取り合えず今すぐどうにかなってしまうようなことはなさそうだと、バーツは海羽を引っ張って船へと戻っていった。未成年とは言え、人一人を抱えて泳ぐのはなかなかに骨だがバーツは着実に船へと近付いていった。

 船の方でも凡その状況は把握したのか、海に面した後部デッキをバーツの方に向けスクリューを止めている。

 

 時折波により行く手を阻まれそうになるも、力強く水をかいてバーツは船へと戻っていった。船に近付いていくと、バーツと海羽を待っているフランシス達が呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「バーツ、急げぇ!?」

「兄貴早く早く!」

「分かってる! 大丈夫だ、もう着く」

 

 フランシス達は妙に慌てた様子だが、バーツはそれを海羽の様子を鑑みての事だと思っていた。だがそれが間違いである事をエドワードが教えてくれた。

 

「そうじゃない、バーツ! 後ろだ!」

「あ?」

 

 エドワードの言葉に泳ぎながら後ろを振り返ると、まだ離れているがバーツに向けて近付いてくる背鰭の様な物が見えた。鮫のものとは違う異様な大きさの背鰭に首を傾げていたが、それが海上に飛び出した事で何であるかを理解した。

 

 飛び出したのはカジキがそのまま人間の様な姿になった怪人、ソードフィッシュ・ディーパーであった。

 

「んの野郎ッ!?」

 

 後ろからディーパーが迫っていることに気付いたバーツは、悪態を吐きながらも力の限り泳ぐ速度を上げ船へと戻っていった。幸いなことにバーツとディーパーはまだ距離が離れている。どう考えてもバーツが船に戻る方が早い。

 

 案の定ディーパーに追いつかれるよりも先にバーツは船に戻る事が出来た。後部デッキに片手を掛けると、バーツはまず海羽を船の上に引き上げさせた。

 

「兄貴、海羽を頼む!」

「任せろ!」

 

 筋骨隆々のフランシスは、バーツから受け取った海羽を軽々と引っ張り上げるとお湯を入れたペットボトルと一緒にタオルで包み船の中へと子分共々引っ込んでいく。

 残されたバーツはまだ船には上がっていない。それを見てエドワードはバーツに手を伸ばした。

 

「ほら、次はお前だバーツ!」

「いや、俺はあいつを始末してくる!」

 

 バーツはベクターリーダーを取り出すと、後ろから迫りつつあるソードフィッシュ・ディーパーを睨み付けた。

 勿論エドワードは止めた。ここでディーパーと戦う事にメリットはないし、何より海はあの怪人共の領域だ。迂闊に手を出して無事で済む保証はない。

 

「バーツ止せ! 魚を素手で捕まえようとするようなもんだぞ!」

「だから何だ!? このままアイツに追い回される方がずっと面倒だ!!」

 

 エドワードの言葉を聞かずバーツは海へと潜る。

 

 バーツが海中に入ると、ソードフィッシュ・ディーパーもそれを追う様に潜りバーツと対峙した。目の前に浮かぶソードフィッシュ・ディーパーを前に、バーツはメガロドンベクターカートリッジを起動状態にしてベクターリーダーに装填した。

 

(魚風情が、この俺に楯突くなんていい度胸だ!)

〈MEGALODON leading〉

 

 ベクターカートリッジが装填されると、ソードフィッシュ・ディーパーがバーツに襲い掛かろうと猛スピードで接近してくる。だが襲い掛かられるよりも先に、バーツが引き金を引くのが先だった。

 

(進生!)

〈Transcription〉

 

 銃口から放たれたスーパーコイルが迫るソードフィッシュ・ディーパーを弾き飛ばした。そして邪魔者を退かしたスーパーコイルは、本来の役目を果たすべくUターンしバーツの体を貫きその体を変身させた。

 

 コバルトウェーブに変身したバーツは、海水を蹴る様にしてソードフィッシュ・ディーパーに接近する。体勢を立て直したソードフィッシュ・ディーパーも体を一直線にして鋭い(ふん)で迎え撃つが、コバルトウェーブはソードフィッシュ・ディーパーが吻を突き刺してくるよりも先に至近距離から銃撃を放ち体勢を崩させ、更に接近して踏み台にするように蹴り飛ばした。

 

「まだまだぁっ!」

 

 コバルトウェーブの攻撃は終わらない。右手にベクターリーダー、左手にホルスター剣を構えた彼は、ソードフィッシュ・ディーパーに反撃の隙を与えなかった。距離が離れれば銃撃し、接近してはホルスター剣で滅多切りにする。

 エドワードは水中での戦いはディーパー側に有利だから避けろと警告したが、それは間違いだった。今この瞬間、海洋生物の遺伝子を身に付けているコバルトウェーブにとっても水中は絶好のバトルフィールドであった。少なくとも地上で戦うよりも出来る事が多い。

 

 何よりバーツは海の男として育ってきた。知識ではなく感覚で海を知り、天性の戦いの才能を持つ彼に海洋生物――それも太古の昔に海の覇権を争ったメガロドン――の力が加われば、海は文字通りホームグラウンドとなった。

 

「オラァッ!」

 

 動きの鈍ったソードフィッシュ・ディーパーの吻をコバルトウェーブは掴むと、両手で先端と根元を掴み吻の中程に膝を叩きつけて真ん中からへし折った。そのあまりの痛みにディーパーも叫び声をあげて海中でのたうち回る。

 

 最早相手は死に体だ。ここらでトドメを刺そうと、コバルトウェーブはベクターリーダーをホルスターに収めて腰に差し無手の状態で全身に力を込めた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 コバルトウェーブが全身に力を籠めると、彼の両足が微かに光を放ち形を変えていった。左右の足が変形しまるで下半身がそっくりそのまま鮫の頭になったかのような印象を受ける姿になる。

 彼は下半身の変形が完了すると、鮫の顎になった両足でソードフィッシュ・ディーパーに食らいついた。

 

「あぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 巨大な鮫が食い千切ろうとしているかのような挟み蹴り。左右で嚙み合わさるように生えた鮫の牙の様な棘が、彼が足を開いて閉じる度にディーパーの体を引き千切っていった。

 

 何度も咀嚼され、遂にはディーパーの体が限界を迎えた。トドメの一撃を喰らい、ディーパーは体を真っ二つに食い千切られ体を無数のドロップチップに変えながら海の底へと消えていった。

 それを見届け、コバルトウェーブは海面に浮上すると周囲を見渡し船を見つけ泳いでいく。後部デッキではエドワードと子分が2人待っており、変身を解いたバーツがデッキの縁に手を掛けると船に上がるのを手伝ってくれた。

 

「お疲れ。全く、無茶をする」

「あんなのに追い掛け回されるなんて真っ平御免なんでね。それより海羽は?」

「安心しろ、今は部屋で眠ってる」

 

 何よりも海羽の事が心配なバーツが安否を訊ねると、海羽を部屋に連れて行った筈のフランシスがバーツの分のタオルを持ってやって来た。バーツはタオルを受け取り、顔や頭を拭きながら船の中へと入っていった。

 

「ちゃんと臭くない部屋を選んだんだろうな?」

「当たり前だ。そこはちゃんと選んであるから心配するな」

 

 言うまでも無いがこの船は男所帯。一応船の上で過ごす上で最低限の家事は全員こなせるが、野郎ばかりなのでどうしてもズボラと言うかいい加減な部分は出てくる。掃除に関しても、取り合えずで済ませる場合も結構あるので部屋によっては絶えず異臭が漂うものもあった。

 流石に年頃の女の子である海羽を、そんな部屋に押し込む訳にはいかない。海羽を預けられたフランシスも、そこら辺はちゃんと考えて部屋を選んでいた。

 

「ほら、ここだ」

 

 フランシスに案内されて入った部屋では、海羽がベッドの上で布団に包まれて眠っている。布団の中に湯たんぽを仕込んであるのか、先程に比べて表情は穏やかで寒さに震えている様子もない。それを見てバーツは漸く安堵し肩から力を抜いた。

 

「海羽……良かった」

「しかし一体何だって、嬢ちゃんはあんなところを漂流してたんだ?」

「前に仮面ライダーの嬢ちゃんが言ってただろ? あの子海都を暫く離れてたって。多分戻る途中で事故か何かで船が沈没したんじゃないか?」

「そういや変に船の残骸が浮いてたな。それでか……」

 

 フランシスとエドワードが海羽が漂流していた理由について考察している間に、バーツはベッドの上で眠る海羽に近付き床に膝をついた。そして眠っている彼女の頭を優しく撫でた。

 

「……安心しろ。もう大丈夫だからな」

 

 聞こえる筈もないのに海羽に向けてそう呟くと、薄っすらと海羽の口元に笑みが浮かんだような気がした。

 

 それを見たフランシスとエドワードは、暫く2人だけにしておこうと黙ってその場から姿を消すのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一夜明けて、瑠璃は自室ではなくBAR・FUJINOのカウンターに突っ伏した形で目を覚ました。

 

「ん……あれ? あ……」

 

 目が覚め、ベッドの上ではなかった事に一瞬違和感を覚えた。が、カウンターの上に転がったウィスキーの酒瓶とロックグラスを見て昨夜自分が何をしていたのかを思い出した。

 

 海羽の行方不明、それも限りなく生存が怪しいと言う情報にネイトや鉄平共々悲しみに暮れていた瑠璃は、どうにも寝付く事が出来なかった。認めたくない海羽の死と言う出来事は瑠璃にとっても大きな衝撃であり、そのまま寝ようとすると悪い事ばかり考えて眠る事が出来なかった。

 

 なので瑠璃はネイトを誘い寝酒と洒落込み、深酒をして酔いで不安を紛らわせそのままカウンターに突っ伏する形で眠ってしまったのだ。普段酔い潰れる様な事は無い瑠璃だったが、精神的に弱っていたからか驚くほど酔いが回り昨夜の事は途中から記憶が曖昧になっていた。

 

「海羽ちゃん……はぁ。いつっ!?」

 

 起き上がろうと上体を起こした瞬間、頭に鈍い痛みが走る。喉から胸にかけても言いようのない不快感があった。完全な二日酔いだ。よく見ると転がっている酒瓶は1つだけではない。それだけの酒を一晩で空ければ、そりゃ二日酔いにもなる。

 

「うぇ、うぅ…………あれ? ネイト?」

 

 取り合えず水を飲もうとカウンター裏に回った所で、一緒に飲んでいた筈のネイトの姿が無いことに気付いた。言ってはなんだが、ネイトは瑠璃に比べて酒に弱い。勿論普通に飲める方であり、瑠璃が圧倒的に酒に強いと言うだけなのだが…………

 

 瑠璃がこれだけ深酒をしたという事は、一緒に飲んでいたネイトも相当に酔っぱらっていた筈だ。なのに瑠璃が起きた時には、既にネイトの姿は無かった。一体彼は何処に行ってしまったのか?

 

 首を傾げながらコップに水を汲み一息で飲み干すと、それを待っていたようにドアベルが鳴った。コップから口を離し扉を見ると、ネイトが渋い顔をしながら入って来ていた。

 

「はぁ~……くそ」

「ネイト?」

「おぉ、瑠璃。おはよう」

「おはよう……って、朝から何処に行ってたの?」

 

 こんな朝早くから、しかもまだ酔いが残っているだろう状態で一体何処に行っていたのか。瑠璃は彼に問い掛けながら、コーヒーメーカーからマグカップにコーヒーを注ぎネイトに差し出した。ネイトはそれを受け取り、一口飲んで一息ついてから先程の問いに答えた。

 

「ふぅ…………いや、ちょっとな。冒険家の知り合いに頼んで、海羽ちゃんを探せないかってあっちこっちに声掛けてたんだよ」

 

 冒険家同士は横の繫がりが広い。時には互いに手を取り合って遺跡などに挑まねばならない事もあるからだ。そして冒険家の中には、海での活動を得意とする者も少なからずいる。

 ネイトはそう言った者達に海羽の捜索を手伝ってもらえないかと、朝から声を掛けていたのであった。

 

「どうだった!?」

「悪い、知り合いに片っ端から声掛けてみたんだけど、どいつも今すぐこっちには来れなさそうだ……」

「そんな……」

 

 仮に海羽が船の沈没から逃れていたとしても、彼らが日本に来るまで漂流していては持ち堪えられないだろう。海上保安庁も捜索してくれてはいるだろうが、そちらからは生存者発見の報告は無い。

 

 という事は、海羽はやはり…………

 

「……そう言えば、マスターは?」

「ううん、まだ。あれからずっと部屋に籠ってるみたい」

 

 意気消沈する瑠璃だが、今一番心を痛めているのは言うまでも無く父親である鉄平であろう。何しろたった1人の愛娘なのだ。妻が遠く離れた本州で単身働いている状況で、娘である海羽の存在は心の支えでもあった筈。その海羽が失われたとなれば、気力を失くしても仕方がない。

 

 とは言え流石にそろそろ心配になって来る。可能性は低いが、海羽が生きている可能性もまだあるのだ。それに彼の妻はまだ生きている。このまま鉄平を衰弱死させたなんて事になれば、奇跡的に生きていた海羽が戻ってきた時や彼の妻に対して申し訳が立たない。

 

 そろそろ鉄平に声を掛けようかと互いに頷き合った瑠璃とネイトだったが、2人が動くよりも早くに鉄平が店の方にやってきた。だがその表情はやはり暗い。海羽を失ったかもしれないという衝撃が、彼から生きる気力を奪っているようだ。

 

「はぁ……海羽……」

「マスター、大丈夫?」

「あぁ、瑠璃……ネイト……ははっ、もうダメかもしれん」

 

 鉄平は瑠璃とネイトに弱々しく笑いかけ、そのまま適当な椅子に腰かけた。その姿からは何時もの覇気が全く感じられず、燃え尽きてそのまま風に流されて消えてしまうのではないかと言う気すらしてきた。

 

 このまま彼を放置してはいけない。

 

「ネイト、取り合えず今は……」

「あぁ、まずはマスターの方を何とかしなきゃな」

「ほらマスター、海羽ちゃんはまだ死んだって決まった訳じゃないんだし」

 

 そうは言うが、瑠璃だって海羽の生存が絶望的だという事は理解している。それでも何とか持ち直したのは、自分以上に絶望している鉄平を見たからだろう。ここぞと言うところで、自分がしっかりせねばと言う気持ちが芽生えたのだ。

 

 しかし瑠璃だって海羽の事は心配だ。もしこのまま彼女と永遠の別れなどという事になったら、鉄平の事を気遣う余裕も無くなると言う確信があった。

 

(お願い、海羽ちゃん…………私もネイトも、マスターも皆があなたの事を待ってるの。だからお願い、無事でいて……)

 

 不安を振り払う様に、瑠璃は鉄平の介護をしながら天に願った。

 

 その海羽は現在、バーツ達の船で安らかに眠っているのだが、彼女達がそれを知る事になるのはまだ少し先の話であった。




と言うわけで第35話でした。

海羽は幸いなことにバーツ達に拾われました。最悪の事態を心配された方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
ただこれでしばらくの間海羽は瑠璃とは別行動となります。合流までは間が空き、その間は出番が減ることになります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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