仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第39話:ファイアリング、見えない脅威

「黒の33、オールイン!」

〈Fever!〉

「ハァァァァァァッ!!」

 

 その日も瑠璃はテテュスに変身し、街に現れたディーパーを始末していた。買い出しの途中で突如リールドライバーが反応し、已む無く買い出しを中断し現場に向かうと今にも襲われそうな人を発見。急いで間に割って入り襲われそうになっていた人を逃がすと、テテュスに変身してレイ・ディーパーと戦闘に突入。特に苦も無く倒したのだった。

 

「ふぅ~……」

〈Drop out〉

 

 ディーパーを倒したテテュスは、一息吐いて変身を解除すると額の汗を拭った。戦いには大分慣れ、この程度の相手なら楽に倒せるようになったとは言え、戦闘になれば疲れもするし汗もかく。じっとりと体の表面に浮かんだ汗の内、気になりやすく拭いやすい額の汗を拭うのは自然な事であった。

 

「ん~、まだまだディーパー出るなぁ……仁さんが巣を潰した筈なのに。やっぱり何処かに卵とかあるのかな?」

 

 もしそうなのであれば、街の中を徹底的に探して潰すべきかもしれない。生憎と探す当ての様な物はないので、やるとしたらそれこそ虱潰しにしかならないが。

 

 そんな事を考えていたら、瑠璃の携帯にネイトからの呼び出しが入った。買い出しに出る時は直ぐに帰ると言っておいたのに、ディーパー出現の現場に向かい戦闘している間にそれなりの時間が掛かってしまっていたようだ。なかなか帰らない事にネイトが心配して連絡を入れてきたらしい。

 彼に心配をかけてしまった事に申し訳なさを覚え、瑠璃は小さく舌を出しながら通話に出た。

 

「もしもし、ネイト?」

『あぁ良かった。なかなか帰ってこないから何かあったのかと……』

「ゴメンね、心配掛けちゃって。ちょっとディーパーが出ちゃったからそっちの方に行っちゃっててさ」

 

 まるで買い忘れた物を買う為に寄り道したみたいな感覚でディーパー退治の事を口にした。実際今の瑠璃やネイトにとって、ただのディーパー程度であればその感覚で十分なレベルの相手となっていた。なのでネイトも多少心配しつつ、相手がただのディーパーであると分かり若干安堵したような声になる。

 

『ディーパーか。あのシーラカンス野郎じゃないんだな?』

「うん。ただのディーパーだったよ」

『なら大丈夫だな。とは言えなかなか帰ってこなくてマスターも心配してる』

「分かってるわ。直ぐに帰るってマスターには言っておいて」

 

 瑠璃は必要な事を告げると通話を切り、少し離れた所に置いておいた買い物袋を回収し帰路へと就く。

 

 ディーパーが出た事で人が逃げ、誰も居なくなった道を瑠璃は悠々と歩いていく。

 その背をラブカ・ディーパーが静かに見つめていた。物陰から瑠璃に見つからないように、静かに見つめている。

 

『あれが、ラティの言っていたキャリアーか……』

 

 ラブカ・ディーパーは暫し瑠璃の後ろ姿を見ていたが、唐突に踵を返すと近くの排水口に近付き体を液状化させてその中に飛び込んだ。

 

 今度こそ本当にその場には何者も居なくなったが、その静けさは不気味な空気を孕んでいた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その日の晩、瑠璃は1人閉店後の店のカウンターでチーズを摘まみに晩酌を楽しんでいた。氷の入ったグラスに注がれたウィスキーを、舐めるようにゆっくりと飲み酒精の籠った息を吐く。

 

「はぁ~……ん~……」

 

 ほんのり赤みを帯びた頬をした瑠璃は、アルコールが回ったからかややトロンとした目をしながら徐にブルーライフコインを取り出し照明の光に翳して眺めた。

 

 しげしげとライフコインを眺めながら酒をチビチビと飲んでいると、遅れて片付けを終わらせたネイトが自分のグラスを持ってやって来た。

 

「何見てんだ、瑠璃?」

 

 ネイトは瑠璃の隣に腰掛け、グラスにボトルからウィスキーを注ぎながら訊ねた。彼からの問い掛けに、瑠璃はグラスを置き頬杖を突きながら答えた。

 

「私って一体何なんだろうな~って思って……」

「何って、瑠璃は瑠璃だろ? セラのクローンとか――」

「あぁごめん。そっちじゃないの。あの博士言ってたじゃない、セラはムー大陸人の生き残りだって。って事は、私も間接的にムー大陸人の生き残りって事になるのよね」

 

 言われてネイトもハッとなった。あの時はセラが既に死んでいる事とか、瑠璃がセラのクローンだとかそういう事にばかり意識が向いていてムー大陸人の生き残り云々がすっぽりと頭から抜け落ちていた。

 

 冷静になった今、よくよく考えてみればこれは重大な事である。何しろムー大陸など伝説上の存在。存在自体が疑われている古の大陸だ。その存在を巡り過去に何人もの学者が調査や議論を重ねたものだ。

 だがこの時代においてもムー大陸の存在は疑わしいと言う意見が多く、その存在を証明する証拠を誰も見つけられていない。伝説は所詮伝説であり、実在はしないとすら言われていた。

 

 それが、存在を知らないとは言え瑠璃はその大陸の生き残りであると言うのだ。一考古学者として心躍らせずにはいられなかった。

 

「つっても、瑠璃はムー大陸の事なんか何も分からないんだろ?」

「残念ながらね。何しろ生まれてから2年しか経ってないんで」

 

 ちょっぴり自虐ネタとして、クローンとして生まれてからまだ2年しか経っていない事を自分で茶化して言ってみたのだが、これはちょっと滑ってしまったようだ。

 

 何故それが分かるかと言えば、瑠璃がそう口にした次の瞬間ネイトが露骨にしまたと言う顔をしたからだ。

 

「悪い、流石にデリカシーなかった」

「ちょちょちょ!? ジョークだってジョーク! 自分がクローンだって事に関してはもう私の中で決着ついてるから!」

 

 本人はちょっとした自虐ネタの冗談のつもりでも、周りの者からすれば笑えない冗談になるという事の最たる例だろう。これには瑠璃も慌てた。笑い飛ばすつもりで口にした冗談で恋人が落ち込んでしまったのだ。

 酔いなんて一気に醒めた。

 

「ほ、ほらほら! これでも飲んで元気出してよ!」

 

 取り合えず立ち直らせようと、瑠璃は何時の間にか空になっていたネイトのグラスに追加のウィスキーを注いでやる。あまり健全ではないが、嫌な事は酒で忘れさせるのが一番だ。

 酒で嫌な失敗を洗い流す事があまり褒められた事ではないのはネイト自身分かっているのか、最初ネイトは注がれたウィスキーを苦い顔で見つめていたが瑠璃とウィスキーのグラスを交互に見てグラスに口を付けた。

 

 ネイトがグラスに口を付けてくれたのを見て、瑠璃はちょっと安堵した。

 

(やれやれ、意外と神経細いんだから……)

 

 BARで働いていれば酔っぱらいの相手をする事も日常茶飯事。ここで彼が酔い潰れてしまえば、それはそれで扱いが楽だと楽観的に考えていた。

 しかし瑠璃は失念していた。今相手にしているのが普段の自分との間に一線を引いている客ではなく、一線を越えた恋人であるという事を。自分のジョークが原因でネイトが落ち込んでしまったという事で、彼女の内心でテンパっていたのかもしれない。

 

「え? え、え、ちょ、ネイト?」

 

 瑠璃が見ている前で、ネイトの持つグラスの中の酒が見る見るうちになくなっていく。まるで水かジュースでも飲んでいるかのような速度で酒が彼の胃の中へ消えていった。

 繰り返すが、今彼が飲んでいるのはウィスキーである。アルコール度数40%のそれは、言うまでも無くビールやカクテルなんかとは違いゴクゴク飲むような酒ではない。普通は先程瑠璃が飲んでいたように、唇に沁み込ませるようにゆっくりと飲むものである。

 

「ま、待ってネイト!?」

 

 ウィスキーを、グラス一杯分とは言え一気飲みなんてすれば下手をすれば急性アルコール中毒になってしまう。ネイトは酒にもある程度強い事はこれまでの彼との生活で理解していたので大丈夫だとは思っているが、こんな精神状態で強い酒の一気飲みなんてしたら酔いが変に回ってもおかしくはない。

 

 慌ててネイトからグラスを取り上げようとした瑠璃だったが、彼女が酒のボトルをカウンターの上に置き手を伸ばした瞬間、ネイトは伸ばされた手を掴み彼女の体を引き寄せた。

 

 そしてバランスを崩し倒れるようにした抱き着いてきた瑠璃に、ネイトは唐突に口付けをした。

 

「んむぅっ!? ん、ん……んぅ」

 

 突然のキスに目を白黒させる瑠璃だったが、キスと同時に潜り込んできた舌が口内を蹂躙する感触に抵抗を早々に止め彼に身を委ねた。

 

 2人だけの店内に、暫し深いキスの音が響く。

 

「…………はっ」

「ぷはっ……ふぅ、はぁ」

 

 長いキスから解放された瑠璃の顔は、突然キスをされた事への羞恥と若干の酸欠で顔を赤くしてネイトの顔を見た。恋人からの熱いキスにスイッチが入ったのか目が酔った時の様にトロンとしている。

 

「……瑠璃が気にしてなくても、俺は気にする。そう言う冗談は止めてくれ」

「うん……ゴメン」

 

 キスをされた時に一緒にウィスキーも口の中に流し込まれたのか、瑠璃は思考に靄が掛かったような感覚に陥る。

 そんな中でも、先程のはブラックジョークが過ぎたかと後悔と反省が瑠璃の脳裏に浮かび上がった。こんな事で彼に迷惑をかけてしまった事が申し訳ない。

 

「ゴメンね、ネイト。お詫びに……ん」

 

 今度は瑠璃からネイトにキスをする。先程と違い、そこまで深くも長くも無いキス。

 

 だがそのキスが何を意味しているかは、ネイトに十分伝わった。

 

「お仕置き、して欲しいな」

「あぁ……いいぜ」

 

 

 

 

「――――ん? 2人ともどこ行った?」

 

 部屋に戻った様子が無い瑠璃とネイトを探して鉄平が店の方に来ると、そこには簡単に片づけられた2人が晩酌した跡が残されていた。

 

 2人は一体何処に行ったのかと考えながら取り合えず出しっぱなしのウィスキーを片付けようと近付くと、1枚のメモ用紙が残されているのに気付いた。

 

「なになに?」

 

 メモ用紙には簡潔にこう書かれていた。

 

『ネイトと夜のデートに行ってきます♡ 朝には帰るので、お酒は帰ってきたら片付けるね♪』

 

 鉄平はその文面を見て、何かを悟った笑みを浮かべた。こんな時間から恋人2人が向かう場所など、一つしかない。

 

「若いってのは良いねぇ」

 

 鉄平はそれだけ呟くと、メモ用紙に追加の書き込みをして元あった場所に戻すと寝室へと向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方その頃、海都近くの海中に潜んでいる潜水艦の中では、恭子が先日の戦闘の結果を基にヌーベルファッジの再調整を行っていた。

 今のヌーベルファッジは兵器としては申し分ない性能を持っているが、多彩な特殊能力を持っているテテュスを相手するには力不足感が否めない。特にテテュスの壁や地面に潜る能力に対しては無力も良いところだ。あれを使われてはヌーベルファッジが後手に回ってしまう。

 

 周囲の物体に自由に潜れるテテュスを相手に優位に回るにはどうすればいいか? それに対する恭子の答えは以下の様な物であった。

 

1.同じ能力で対抗する

 

2.何処に潜ろうと炙り出せる強大な火力で圧倒する

 

3.何処から攻撃が飛んで来ようと即座に反応できる電光石火の反射神経or全方位への策敵能力を持たせる

 

4.能力を使われる前に倒す

 

 これらの中から、恭子が有力な可能性として選んだのは4であった。と言うより現時点の設備でヌーベルファッジに施せる能力の付与がそれしかなかったと言うのが正しいか。

 

(能力を使われる前にテテュスを抑えるのは簡単だわ。要は気付かれなければいいのよ。見えなければどうしようもない)

 

 生物の中には自分の姿を上手い事周囲に隠せるものがかなり多い。元から体の作りが生活圏の環境に溶け込めるようになっているものも居るし、その場で自分の体色などを変えて周囲に擬態するものも少なくはない。前者はナナフシやハナカマキリ、後者はカメレオンやイカ・タコ等だ。

 

 恭子はヌーベルファッジに急遽イカなど体色を自在に変化させることが出来る生物の遺伝子を追加し、ヌーベルファッジを隠密仕様に改造した。これでヌーベルファッジは誰に見つかる事も無く攻撃対象に接近する事が出来るようになる。

 

「幾ら物体に潜り込めたり時間を操れても、姿が見えない相手を攻撃する事等出来る訳が無いわ。これをぶつけてやれば……」

 

 培養槽の中に漂う休止状態のヌーベルファッジの調整は程なくして終了した。一仕事終えて恭子は一息つき額の汗を拭う。

 

「ふぅ……こんなものかしら。さて、これがテテュス相手に何処まで対抗できるか」

「博士」

 

 一息ついていると何時の間にか傍に保安警察の隊員が来ていた。その手には湯気の立つコーヒーの入ったカップが握られている。恭子が隊員の存在に気付くと、その隊員は恭子にカップを差し出した。

 

「あらありがとう。それで?」

 

 ただコーヒーの差し入れに来た訳ではないだろう。彼らが態々やって来る時は、何か口頭で伝える必要のある報告がある時だ。

 恭子がコーヒーを受け取り口を付けながら問い掛けると、隊員は姿勢を正して答えた。

 

「ハッ。部隊の準備が整いました。こちらは何時でも行けます、博士」

「そう。こちらもついさっき用意が出来たところよ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら恭子はヌーベルファッジは入った培養槽を眺める。培養液に浮かぶヌーベルファッジを見るその目には、危険な光が宿っていた。

 

「それじゃ、行きましょうか。あの街を頂きにね」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 朝、瑠璃とネイトは眠気と微かに残る気怠さの中目覚めたばかりの街の中を歩いていた。

 

「ふぁ~……ふぅ」

「くぁ……流石にまだ眠いな」

 

 2人は昨夜を家ではなくホテルで過ごしていた。それも普通のホテルではなく、チェックインが簡単で恋人同士で一夜を過ごせると言う……まぁそう言う類のホテルだった。つまり2人は昨夜恋人同士の一夜を過ごした訳で……

 

「んふふ、ネイトってば激しいんだから♪」

「自分だってノリノリだったくせに何言ってんだ」

「テヘッ」

 

 聞く者が聞けば赤面したりするような会話を大っぴらに楽しむ2人だが、それは今がまだ朝早くで出歩く人が居ないから出来る事だった。幾らなんでも人の往来が激しいところで、こんな会話が出来るほど肝は座ってない。

 別に周囲に人が居ない訳ではないが、この時間この場所を歩くのは大体が同じような時間を過ごした者ばかり。事実2人の他にもチラホラと男女二人組で朝の街を歩く者が見られた。

 

 その中に明らかに年齢差が大きいペアが見られるのは、深く突っ込まない方が良いのだろう。例え父と娘くらい歳の差がありそうなペアや、逆に母と息子くらいの歳の差がありそうなペアが肩を寄せ合いながら歩いていても。あれらの2人組がどういう関係であろうと、それに態々物申すのは野暮というものである。

 

 何よりこの時間帯にこんな所を男女二人で歩いている以上、瑠璃とネイトだって同類なのだ。他人の事情や嗜好にどうこう言うのはお門違いにも程がある。

 

「真っ直ぐ帰るか?」

「ん~、何処かで朝ご飯食べて行こ。マスターだってそうなるって思ってるだろうし」

 

 そうと決まれば、2人は歩きながら手頃な喫茶店か何かを探した。海都には多数のファストフード店やコンビニもあるが、今の気分はカフェ飯だった。

 

 ところが優雅に朝のカフェ飯と洒落込んでいる場合ではなくなってしまう事態が起こった。街の中心にある庁舎から突如火の手が上がったのだ。大きな爆発音と共に。

 

「「なっ!?」」

 

 爆音はホテル街を歩いていた2人の耳にも届いた。朝っぱらから街中に響く爆音に、2人の足も止まり音の発信源の方を見る。そこでは庁舎から黒煙が立ち上っているのが遠目にも分かった。

 

 突然の爆音に周囲にチラホラ居る住民達も不安そうに庁舎の方を見ている中、ネイトは確かめるべきことを確認する為瑠璃の方を見た。

 

「瑠璃!」

「ちょっと待って!」

 

 瑠璃は急いでリールドライバーを取り出した。あの爆発がディーパーによるものなのであれば、リールドライバーが何かしらの反応を見せる筈である。

 

 しかし瑠璃の手の中にあるルールドライバーはうんともすんとも言わない。羅針盤はフラフラと揺れ動くだけで、試しに瑠璃が指先で回せばウィールは明後日の方向を向いて止まる。

 それはつまり、あの爆発にディーパーは関係していないという事だった。

 

「ディーパーは関係ない? ただの事故?」

 

 それもまぁあり得ない話ではない。海都庁舎はその下に地下研究所と大規模な発電所を備えている。言ってしまえば何かトラブルがあればでかい花火が上がる可能性の高い場所だ。だから何らかの人為的なトラブルで事故が起こる事も十分に考えられる。

 

 しかし瑠璃もネイトも胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。瑠璃は勝負師として、ネイトは冒険家として、それぞれ培ってきた勘がただ事ではないと告げていた。

 

「行こう!」

「あぁ!」

 

 空腹などあの爆発で何処かへと吹っ飛んでしまった。2人は互いに頷き合うと、一路庁舎へ向けて駆けていった。

 

 途中パニックを起こして庁舎から離れようとする人や、逆に何があったのか気になるのかスマホ片手に庁舎に近付こうとする野次馬を押し退けながら一刻も早く庁舎に向かって行った。

 

 程無くして2人は庁舎に到着する。庁舎の周囲は警察や消防により規制線が張られており、最初2人もそれ以上先へ向かう事を拒否された。

 が、何処からか連絡が入ったのか何者かと二言三言話すと警察は2人をあっさりと通してくれた。恐らくは十三か慎司が話を通してくれたのだろう。

 

 庁舎に近付くと、建物のあちこちから火の手が上がっていた。消防が必死になって消火活動に当たるが、火の勢いは収まらず逆に更に燃え上がった。

 

「酷い……一体何が?」

「おい、何がどうなってる!?」

「え、何? アンタら何なんだ?」

「俺らの事は後にしろ! 状況を教えろってんだ!!」

 

 兎に角重要なのは情報収集だ。状況を理解できなければ最善の行動はとれない。ネイトは近くに居た消防隊員を捕まえて事情を聞きだそうとした。当然消防隊員は明らかに一般人のネイトがこの場に居る事や状況を聞き出そうとすることに困惑するが、ネイトの押しに負けて簡単に状況を話してくれた。

 

「建物内にはまだ人が残っている。下の階にはそこまで被害が広がっていないが、反面上の階は火の回りが早く取り残された職員が多数確認できている。その中には、知事の姿もあるとか」

「知事が!?」

「突入は? それも出来ない位酷いの?」

「それは――――」

 

 瑠璃からの質問に隊員が答えようとしたその時、上の方で窓が爆発した。その際に一緒に何かが飛び出し、吹き飛ばされたと思しきそれは真っ直ぐ下に向かって落ちてきた。

 

「退避ぃぃぃッ!?」

 

 このままでは下に誰かいた場合下敷きになると、誰かが逃げるよう声を上げた。その声に消防隊員が一斉に落下物から距離を取る。

 

 落ちてきたそれは地面に落下した瞬間べしゃりと言う音を立てて地面にへばり付く様に潰れた。見る見るうちに広がる血を見て、瑠璃はそれが先日突如として自分達に襲い掛かって来た怪物・ヌーベルファッジである事に気付いた。

 

「こいつ、この間の!?」

「こいつが原因か? って、やべぇぞ!? バケモンが原因って事は知事達も!?」

 

 このままでは知事は火災の炎や煙で死ぬか、ヌーベルファッジに襲われて命を落としてしまう。そうなる前に助け出そうと、2人は燃え盛る建物の中へ飛び込みながらドライバーを腰に装着した。

 

〈Bet your life〉

「ストレート、0! 変身!」

〈Catch your fate〉

「変身!」

 

〈〈Fever!〉〉

 

 燃え盛る庁舎の中に、テテュスとオケアノスは飛び込んだ。

 

 中は既に大分火の手が広がっているのか、あちこちに火の手がある。2人は変身しているから大した事ないが、このままだと取り残されている人々がただでは済まない。

 

「くそ、この火どうする?」

「私に任せて!」

 

 テテュスは自信満々に告げると、チップケースからドロップチップを5枚取り出してベルトに投入しレバーを下ろした。

 

〈Bet. Good luck〉

「赤の14!」

〈BINGO! Skill activation! WAVE SMASH.〉

 

 まだ敵の姿も見えないのに発動されたウェーブスマッシュ。何故そんな事をとオケアノスが思った次の瞬間、テテュスが放ったウェーブスマッシュで放たれた水が周囲の火を消し止めた。水を操る、テテュスならではの消化方法だ。

 

「なるほど、それなら俺は!」

〈BINGO! Weapon release. TEMPEST WHIP〉

 

 テテュスの行動からヒントを得たオケアノスは、テンペストウィップを召喚するとそれを振り回した。一見すると意味の無い行動。しかし彼が鞭を振り回すと、それに引っ張られるようにして水が鞭に集まっていった。

 周囲には今し方テテュスが放ったウェーブスマッシュで撒き散らされた水の他に、消防隊が消化の為に放水した水が広がっている。オケアノスはテンペストウィップでそれらの水を引っ張り上げ、火を消す為の力にしようと言うのだ。

 

「おぉぉぉらぁぁぁぁ!」

 

 オケアノスが一際火の勢いが強いところにテンペストウィップを叩き付けると、それに引かれて大量の水が火に降り注ぐ。水のハンマーを叩き付けられたに等しい炎はその一撃で消し止められ、見える限りで火の手は見られなくなった。これで動きやすくなる。

 

「よし、上ね!」

「急ぐぞ!」

 

 2人は急いで上の階に向かい、知事を始めとした逃げ遅れた人々の救助に向かおうとした。

 

 ところが出し抜けに何もない空間から飛び出したヌーベルファッジにより、テテュスは押し倒され抑えつけられた。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「瑠璃!? この!」

 

 押し倒されたテテュスを助けるべくオケアノスが振るった鞭はヌーベルファッジを吹き飛ばし、黒焦げになった壁に叩き付けた。

 叩き付けられたヌーベルファッジは口元から涎を垂らしながら唸り声を上げて立ち上がると、空気に溶け込むように姿を消してしまった。それを見てテテュスは仮面の奥で目を見開く。

 

「嘘!? 姿消せるの!?」

「面倒な野郎だ。瑠璃、ここは俺に任せてお前は知事の方に行け。潜ればアイツらの邪魔が入る事も無いだろ」

「でも大丈夫? アイツ多分1体だけじゃないよ?」

「あんなの俺1人で十分だ。心配せずに行きな!」

「ネイト……うん、分かった!」

 

 オケアノスの言葉に甘えて、テテュスはチップケースからドロップチップを1枚取り出しベルトに投入してレバーを下ろした。

 その瞬間ヌーベルファッジが姿を現し、テテュスに襲い掛かろうと飛び掛かった。だがそれはテテュスの前に現れたルーレットにより弾かれる。

 

「黒の20!」

〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉

 

 発動したディープダイビングによりテテュスは物体の中に潜る能力を得た。その能力を活かし、ヌーベルファッジや火の手に邪魔される事無く知事の元へ向かうべくテテュスは近くの壁に飛び込む。

 

「それじゃ、一足先に上に行ってるから。気を付けてね!」

「あぁ、そっちもな!」

 

 テテュスが壁に飛び込み、文字通り建物の中を通って知事の元へ向かうのをオケアノスが見送る。

 

「さて……?」

 

 テテュスを見送ったオケアノスが鞭を手に身構えると、彼の前で陽炎が立った様に景色が揺らぐとそこにヌーベルファッジが姿を現した。それも1体だけでなく3体が前に現れる。

 

「へ! これっぽっちで俺をどうにかできるなんざ――――」

 

 既に勝った気でいるオケアノスだったが、余裕の笑みが消えるのにそう時間は掛からなかった。

 

 最初に目の前に3体姿を現したのを皮切りに、右手に2体、左手に3体、後方に2体と次々姿を現したのだ。合わせて10体のヌーベルファッジに取り囲まれ、流石のオケアノスも仮面の奥で顔を引き攣らせる。

 

「お、おぉ……なかなかの歓迎じゃねえか。それくらいでなきゃ物足りないぜ」

 

 口では強がるが、声が僅かに震えていた。2~3体程度であれば確実に勝てる気でいたが、流石にこの数を1人で相手にするのは厳しいと言わざるを得ない。ともすれば数の暴力で逆に圧倒されかねなかった。

 

 しかし今更弱音を吐くなどと言う情けない事は出来ない。既にこの場には居ないが、テテュスに……瑠璃に対し大口を叩いて見せたのだ。この程度を1人で対処できなければ、彼女に合わせる顔が無い。

 オケアノスは気合を入れるべく自分の頬を一発殴ると、手にした鞭を振るい先端を床に叩き付けた。

 

「おら! 何処からでも掛かってきやがれ!!」

 

 その言葉を合図に、周囲からヌーベルファッジが一斉にオケアノスに襲い掛かった。




そろそろこっちのレイトショーの執筆の準備もしないとな。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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