今回は強敵・コバルトウェーブとの戦闘になります。
バーツがコバルトウェーブに変身し、ホルスター剣を瑠璃に向ける。
向けられた剣の切っ先がキラリと光り、それを目にした瑠璃は顔を引き攣らせ冷や汗を流した。
「ちょ、アンタ!?」
「さっさと返すならそれでよし。そうでないなら、少し痛い目に遭ってもらうぞ!」
切っ先を瑠璃に向けながら、コバルトウェーブは明後日の方に向けてベクターリーダーを乱射する。その銃声に驚き、周囲の人が悲鳴を上げて逃げだした。周囲から人が居なくなる中、緊迫した空気が両者の間に漂う。
その2人の間に、海羽が瑠璃を庇う様に割って入った。
「止めてよ!」
「お前に用はねえ、退け!」
「退かない! これは瑠璃姉ぇの記憶が戻るかもしれない物なんだから!」
睨み合うコバルトウェーブと海羽。強気に立ち振る舞っている彼女だが、足元を見れば膝が笑っている。彼女だって怖いのだ。武器で脅してくる奴の前に立ち塞がるなんて、命知らずにもほどがある行為なのは彼女自身がよく分かっていた。
それでも海羽が瑠璃を守るように立ち塞がるのは、このリールドライバーが瑠璃の過去を取り戻す足掛かりになるかもしれないからだ。姉のように慕う瑠璃の悩みだった過去が分かるかもしれない物を、こんな形で失いたくないという一心だった。
海羽の勇気と優しさに、瑠璃は場違いに胸が暖かくなるのを感じた。
「海羽ちゃん……ありがとう」
瑠璃は海羽に心から感謝しながら、彼女の肩に手を置き優しく自分の後ろに下がらせた。
「え、瑠璃姉ぇ?」
海羽と入れ替わる形で、瑠璃はコバルトウェーブと対峙する。その手にはリールドライバーが握られていた。
まさか本当に返すのかと、海羽が瑠璃を引き留めようとするが彼女はそれを片手で制した。対するコバルトウェーブ、こちらはこちらで瑠璃がリールドライバーを返す気になったのかとやや上機嫌になる。
「ほら、さっさとそれ返しな」
ホルスター剣を腰に差し、空いた手を差し出すコバルトウェーブ。
瑠璃はリールドライバーを持ち上げると……それを自身の腰に装着しライフコインを取り出した。
リールドライバーをただの羅針盤としか思っていなかったコバルトウェーブは、ベルトが伸びて腰に装着された事に驚愕し思考が停止した。
「はぁっ!?」
「悪いけど、折角の私の記憶の手掛かりなの。返す訳にはいかないわ」
右手で持ったライフコインを指で弾き、左手でキャッチしてドライバーのスロット部分に挿入した。
〈Bet your life〉
レバーを下ろし、投影されたルーレットがコバルトウェーブを弾き飛ばす。
「おわぁっ!?」
「変身!」
〈Fever!〉
ルーレットのポケットにボールが入り、瑠璃の姿を仮面ライダーテテュスに変身させる。
まさか変身――それも明らかに仮面ライダー――するとは思っていなかったコバルトウェーブは、瑠璃が変身したテテュスを前に大いに狼狽えた。
「な、何だそれ!? 聞いてねえぞ!?」
「こういう使い方があったのよ。悪いけど、帰ってもらうわ!」
狼狽えている間に攻撃を仕掛けようと飛び掛かるテテュスだったが、コバルトウェーブは思いの外早く体勢を立て直すとベクターリーダーで銃撃してそれを妨害。放たれた銃弾が薄いテテュスの装甲に刺さり彼女を押し倒す。
「うあぁっ!?」
「舐めるなよ。お前が仮面ライダーだろうが関係ねえ……お前を倒してそいつ引っぺがすだけだ!」
倒れたテテュスに向けホルスター剣を振り上げ突撃する。テテュスはそれを転がってやり過ごすと、腰のケースからチップを1枚取り出してスロットに挿入しレバーを下ろす。
「赤の30!」
〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉
発動したディープダイビングの効果により、テテュスの体がすぐ近くの道路に沈み込む。地面に潜ったテテュスを前に、コバルトウェーブは困惑しながらも逃がしはしないと彼女が潜った場所をベクターリーダーで何度も撃って穴を穿つ。
しかし当然そこには既にテテュスは存在しない。消えたテテュスを探して周囲を警戒するコバルトウェーブの、背後からテテュスが飛び出しその背に蹴りを叩き込んだ。
「うぐおぁっ!? んの野郎が!?」
感情に任せてホルスター剣を振り回し反撃するコバルトウェーブだったが、テテュスはそれをバク転しながら地面に潜る事で回避。再びコバルトウェーブの死角を狙って飛び出し、奇襲を仕掛けようとした。
だが、テテュスが近くのビルの壁から飛び出した瞬間、コバルトウェーブはそちらに銃口を向け彼女の攻撃よりも早くに引き金を引いた。
「あぁぁぁっ!?」
飛び出すと同時に撃ち落とされ、受け身も取れず叩き落されたテテュスをコバルトウェーブが踏み付ける。
「うぐっ!?」
「捕まえたぞ!」
「な、何で……」
何故自分が飛び出す場所が分かったのか分からず、仮面の奥で苦悶の表情を浮かべながら問い掛ける。
それに対しコバルトウェーブは、彼女を小馬鹿にしたように鼻を鳴らしながら答えた。
「はん! 鮫ってのは周りの気配に敏感でな。潜られてちゃ分からねえが、出てくればすぐにお前の居場所が分かるんだよ!」
鮫の鼻の良さはテテュスも知っている。だがそれは飽く迄水中での話だ。まさか陸上で、鮫の強力な嗅覚・感覚器官の凄まじさを味わう事になるとは思っても見なかった。
危機感を感じたテテュスは、思わず腰のチップケースに手を伸ばした。ケースの中にはチップが残り9枚。この状況、更にチップを賭ければもしかしたら打開できるかもしれない。
〈Bet〉
瑠璃はケースから5枚チップを取り出し、スロットに挿入してレバーを下ろした。回転するルーレットと転がるボールを見て、当たりの数字を予想する。
だが彼女が当たるポケットを宣言しようとした瞬間、コバルトウェーブが明後日の方に向けて発砲した。
「させるか!」
放たれた銃弾はあらぬ方へ飛んでいく。どこを撃っているのかと思いつつ宣言しようとしたその時、コバルトウェーブの撃った銃弾が反射してテテュスの脇腹を撃ち抜いた。
「あ゛っ?! う、くっ!? く、黒の20!」
跳弾による奇襲で脇腹を撃ち抜かれながらも、当たりを予想して宣言するテテュス。だが今の一撃で精神的に動揺していたのか、予想は外れボールは隣のポケットに入ってしまった。外れだ。
するとルーレットが止まった瞬間、色が褪せて水泡の様に弾けて消えてしまった。
「あぁっ!?」
「フン!」
テテュスの事等ほとんど知らないだろうコバルトウェーブだが、直感でルーレットを当てさせてはならないと理解したのだろう。だからこそ、跳弾と言う相手の動揺を誘う攻撃でテテュスの精神を乱し外させた。
このコバルトウェーブ、変身するのは海羽と同年代に見える少年だが変に戦い慣れている。戦いと言うより、荒事だろうか? それに加えて、天性の判断力・直感力があるのか動きに迷いがない。
体が覚えているとは言え、昨日戦いの世界に身を置いたばかりのテテュスには厳しい相手だ。
(どうすれば……)
――チップを3枚賭けて――
「ッ!」
突如脳裏に響いた声に、テテュスは疑問を抱くより先に従ってチップを賭けレバーを下ろす。飛び出したルーレットにコバルトウェーブは弾き飛ばされ、テテュスは体勢を立て直せた。
回るルーレットを見て、彼女はボールがどこに入るかを予測し言い当てた。
「赤の32!」
〈BINGO! Change object, BLUE HORIZON.〉
音声が響くと、ルーレットがテテュスから離れていき彼女が乗って来たバイクに近付いていく。一体どうなるのかとテテュスが見守っていると、ルーレットがバイクを通過しバイクが異なる姿に変化した。
ところどころに波のような模様が刻まれた青いバイクだ。
「あれは――!」
――それに乗って逃げて――
愛車が全く異なる、青と白の流線形のバイクに変化した事にテテュス以上の衝撃を受けたコバルトウェーブを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたコバルトウェーブは、腹をけられた痛みと情報の多さに目を回す寸前な様子だった。
「ッ、ハッ!」
「ぐおっ!?」
目の前で起きた出来事に驚き動きを止めているコバルトウェーブを、テテュスは蹴り飛ばしひっくり返す。
もんどりうって倒れたコバルトウェーブを視界の端に収めつつテテュスは新たな姿となった愛車――ブルーホライズンーーに跨ると、隠れている海羽に手を伸ばした。
「海羽ちゃん!」
「うん!」
もう2年の付き合いにもなれば、相手が何を言おうとしているかは大体わかる。そもそもこの状況だ、戦う以外の選択肢となれば逃げるしかない。それを察した海羽は、細かく聞かずともテテュスの言いたい事を理解し彼女の後ろに飛び乗った。
「いつつ……あっ! おい!?」
蹴り飛ばされた状態から回復したコバルトウェーブが気付いた時には、テテュスは後ろに海羽を乗せたブルーホライズンが走り出そうとしていた。コバルトウェーブは追いかけようとするが、テテュスが方向転換の為後輪を滑らせると何故か地面から大きな波が立ちコバルトウェーブを押し流す。
「うおぉぉっ!? く、そぉっ!」
それでも諦めず銃撃したが、銃弾は地面や壁に穴を穿つだけでブルーホライズンを捉える事はない。
そのまま逃げられ、走り去っていくテテュス達の背を見送る事になるコバルトウェーブ。彼はテテュス達の姿が見えなくなると、ぞの場で地団太を踏んで悔しさを露にした。
「あんの女!? 絶対逃がさねからな! どこまでも追いかけて俺達のお宝を返してもらうぞ!」
人が逃げて静かになった街の中で、コバルトウェーブの声だけが響いていた。
***
一方、逃げ出したテテュスは十分にコバルトウェーブから逃げられたと判断すると、ブルーホライズンを止め近くのベンチに向かいながら変身を解除した。
〈Drop out.〉
彼女が変身を解除すると、それに合わせてブルーホライズンも元のバイクに戻った。
元の姿に戻った瑠璃は、疲れ切った様子でベンチに座り背凭れに体重を預けた。その様子を見て海羽が彼女を心配する。
「瑠璃姉ぇ、大丈夫?」
「あ……うん、大丈夫。ただちょっと、疲れちゃって」
瑠璃はそこで空を仰ぎ見ながら大きく息を吐いた。最初に変身した時もそうだが、頭では分かっているし体も戦いに対応した動きが出来ている。だが頭と体が動きに齟齬があり、時折思うように動いてくれない。
その事にもどかしさを感じずにはいられなかった。有り体に言って、悔しかった。
「瑠璃姉ぇ、はい」
己の不甲斐無さに歯噛みする瑠璃の内心を察してか、海羽が近くの自動販売機で缶ジュースを買って持ってきてくれた。瑠璃は海羽の優しさに、絞り出すように笑みを浮かべながら感謝した。
「ありがと、海羽ちゃん」
プルタブを開け、良く冷えたジュースを喉に流し込む。喉を通り過ぎる炭酸の刺激が心地いい。
「んく、んく……ふぅ」
一気に半分ほど飲み干して、口を離し溜め息を吐く。水分補給をしたからか、先程に比べれば疲れた様子は鳴りを潜めたが瑠璃の心は晴れたとは言い難かった。
「アイツ何なんだろ。いきなり出てきたと思ったら、瑠璃姉ぇの記憶の手掛かりを一方的に返せって言ったり襲い掛かって来たり」
「多分あの子達にとっても大事な物なんでしょ」
「え~? そうかな? アイツの言い分聞いてると、ただお宝を横取りされたくないから取り返そうとしてるだけにしか思えなかったんだけど」
そのお宝が大事な何かなのかもしれない、とは思っても口にはしなかった。理由はどうあれ、彼が暴力に訴えて奪い取ろうとしたことは事実なのだから。
とは言え瑠璃としては、彼の言うお宝なんぞに興味は微塵もなくただ自分の過去が知りたいだけであった。なので場合によっては、手を取り合う事も可能かもしれない。
「……返す代わりに私の記憶を探すの手伝ってって言えば、平和的に解決できないかな?」
「瑠璃姉ぇ、正気? 無理無理、あんな奴が協力してくれる訳ないよ。ううん、それならまだいい方。アイツ仲間が居るみたいだし、もしかしたら対価として瑠璃姉ぇの体求めてくるかも……」
海羽は自分で言って自分の想像に嫌悪した。瑠璃の様な女性が、あんな野蛮な男やその仲間に蹂躙される様など、想像でも見たくない。
頭に浮かんだ情景を振り払うように頭を振り、海羽は改めて瑠璃に強く告げた。
「とにかく、アイツらと仲良くなんて絶対無理! 瑠璃姉ぇの記憶は私達で見つけないと」
「海羽ちゃん……うん、そうね。やっぱり、自分達で頑張らないとね」
心機一転、元気を取り戻した瑠璃が残りのジュースを飲み干し、空になった缶をゴミ箱に放り投げた。気を取り直した瑠璃の心を現す様に、空き缶は綺麗な放物線を描きゴミ箱の中に入った。その光景に瑠璃は小さくガッツポーズをし、海羽が見事と拍手をする。
「さて、とりあえず…………あ!」
「え、何? どうしたの?」
突然何かを思い出したように声を上げる瑠璃に、釣られて海羽も驚きの声を上げてしまう。
「すっかり忘れてた、そもそも目的地何処なんだっけ?」
バーツのコバルトウェーブを相手する事に夢中ですっかり忘れていた。そもそも2人が外に出たのは、リールドライバーがどこかを指し示したからだ。バーツに出会ったのはその途中の話。つまり、まだ目的地には辿り着けていない。
瑠璃は慌ててリールドライバーを手に取った。すると案の定、リールドライバーは独りでに回りある一方を指して止まった。
「あっちね」
「急ごう!」
何があるのかは分からないが、これが瑠璃の記憶の手掛かりになるかもしれないのならと気合を入れてバイクに跨る海羽。自分よりもやる気に満ちている彼女に、瑠璃も笑みを零しつつバイクに跨りヘルメットを被るとバイクを走らせた。
走り出すこと数分、2人が辿り着いたのは所謂カジノ街の一画だった。カジノ街と言っても、外れの方であり規模としても小さい賭場が殆どで賑わいも中心部ほどではない。
しかし2人が辿り着いた時、そこは阿鼻叫喚の地獄と化していた
「グルアァァァァァッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
そこに居たのは、先日見たのとは異なる姿の半魚人。オニダルマオコゼの様な厳つい顔と、岩の様な見た目の体。口には何本も牙が生えており、それで1人の男性に食らいついている。
突如現れた怪物に、多くの人々が逃げ惑っているとそこにライトスコープが2人やって来た。地下から出た後、装備を改めて整えてから追跡していた2人である。
「居たぞ、あそこだ!」
「くそ、もう犠牲者が……」
「ぼやくのは後だ! 1人でも多く助けるんだよ!」
2人のライトスコープは、次の獲物を探すオニダルマオコゼの半魚人に向け発砲する。ここは周りを海に囲まれた施設ではないので、そこまで気にすることなく発砲できる。
勿論誤射には気を付けなければならないが。
放たれた銃弾は半魚人の表皮を削り取り、苦痛の声を上げさせる。やはり装備さえ整えば、この程度の相手恐れるに足りない。
だがそう簡単に倒される半魚人ではなかった。そいつはまるで顔を守るように両腕を構えると、腕に生えた鰭を2人に向けた。
よく見なければ分からないが、その鰭の先端には鋭い棘がついている。
その事に気付かず2人が発砲しながら近づいていると、その棘が突如飛び出しライトスコープの装甲に突き刺さった。
「うわっ!? 何だ!?」
棘は装甲に突き刺さっただけだが、頑丈に作られているライトスコープの装甲に突き刺さったというだけで充分驚愕に値する。
だが2人が本当に度肝を抜かれるのはこの後。突き刺さった棘が熱を持ち始めたかと思うと、突如爆発して装甲を吹き飛ばしたのだ。
「うわぁぁっ?!」
「な、何ぃぃぃっ!?」
幸いな事に、吹き飛ばされたのは装甲だけで装着者本人には大きなケガはない。だがオリジナルのスコープと違い装着するだけのライトスコープは、装甲を破壊されるとそれだけで大きな損害となる。
オペレーターの茜が急いで2人に撤退するよう促した。
『それ以上は危険です! 2人とも撤退してください!』
「だが今俺達が逃げたら……」
「また人が襲われる。そんな事出来るか!」
しかしライトスコープの2人は撤退指示を拒否し、飽く迄戦う姿勢を見せた。
その様子を見ていた瑠璃は、改めてリールドライバーを見る。羅針盤はあの半魚人を真っ直ぐ指していた。
「……それなら、ここから先は私が代わるわね」
リールドライバーを腰に装着し、ライフコインをスロットに挿入しレバーを下ろした。
〈Bet your life〉
「変身!」
〈Fever!〉
瑠璃は仮面ライダーテテュスに変身し、物陰から飛び出すとオニダルマオコゼの半魚人に向け飛び掛かる。ほぼ背後からの攻撃に、半魚人は反応しきれず背中を蹴り飛ばされる。
「ガッ?!」
「な、何だ?」
「あれは、仮面ライダー!?」
テテュスの登場に驚いたのは半魚人だけではない。ライトスコープの2人も、仮面ライダーの登場に驚きを隠せなかった。
『あれが、新しい仮面ライダー? 門守君達とは全然違う……』
2人のライトスコープのカメラを通して、茜もテテュスの姿をまじまじと見る。明らかにデイナとは異なる仮面ライダーの姿を、彼女は脳裏にしっかりと刻みこんだ。
そんな視線など気にすることなく、テテュスは半魚人との戦闘を続行した。
「ハッ! ヤッ! そぉれ!」
蹴り技を中心に、半魚人を攻め立てる。半魚人は外見の元となった魚に因むように動き自体は鈍い。素早く動き回るテテュスの動きにまるでついてこれていなかった。
このまま一気に勝負を決めよう。そう思ったテテュスの前で、突然半魚人が体を丸めるように蹲った。背中の鰭が立つが、テテュスは構わずその背に回し蹴りを叩き込もうとして――――
「ッ!? っぶな!?」
寸でのところで蹴りを中断した。危うく忘れるところだった。オニダルマオコゼは鰭に鋭い毒の棘を持っている。先程はそれを発射してライトスコープを攻撃したが、こいつはそれを普通に防御にも用いるのだ。
「やり辛いな~……」
「グルァァッ!」
「くっ!?」
攻め手が弱まったのを見て、半魚人が攻勢を強める。全身の鰭にある毒針を攻撃に転用し、テテュスはそれを喰らわないように立ち回らざるを得ず逃げに徹するしかなかった。
徐々にだが追い詰められるテテュス。その時、半魚人が再び体を丸めた。今度はテテュスが攻撃しようとしていた訳ではないのに……
「……ッ! いけない!」
奴が何をしようとしているかを察し、テテュスは慌てて踵を返して距離を取ろうとした。だがその判断は一瞬遅く、背を向け離れた瞬間半魚人の全身の鰭から毒針が発射された。全方位に放たれた毒針は壁や道路に突き刺さり爆発する。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
当然テテュスも例外ではない。攻撃圏内に居たテテュスは、背中に諸に毒針を喰らってしまい破裂した毒針でダメージを受ける。俯せに倒れたテテュスの背は黒く焼け爛れ痛々しい。その背を半魚人が踏み付けた。
「うぐっ!? あ、あぁぁっ?!」
踏み付けられた圧力による苦しさと、背中の傷を刺激された苦痛に悲鳴を上げる。半魚人は暫しテテュスを甚振るように踏み付けていたが、抵抗が弱くなったのを見ると彼女の足を掴んで何処かへ引き摺っていこうとする。
「あ、あぁ……瑠璃姉ぇ――!?」
このままだとテテュスがどこかへ連れ去られて殺される。そう思った海羽ではあったが、しかし彼女にはどうする事も出来ない。生身の彼女では、例え掴み掛ったとしても簡単に振り払われて殺される。何もできない自分が恨めしかった。
だがこの場には、奴を止める事が出来る者が居た。
「行かせるか!」
「こんのぉぉぉぉっ!」
S.B.C.T.αチームのライトスコープ2人だ。彼らはまだ戦う力を残している。テテュスを連れ去ろうとする半魚人に、ガンマカービンを向け引き金を引いた。
放たれた銃弾が次々と半魚人の体に突き刺さる。それに半魚人は堪らずテテュスから手を離し後退を余儀なくされる。
「グルルルルッ!」
邪魔された事に苛立ったのか、殺気立った目をライトスコープ2人に向ける。
それがそいつにとっての命取りとなった。
――今よ!ケースをそのままスロットに装着して!――
「う、うん……」
唐突に頭に響く声に、痛みに視界がチカチカする中立ち上がりながら従った。言われた通り、ケースを外してそのままドライバーのスロット部分に装着した。
〈All in!〉
ベルトから音声が響くとテテュスの前にルーレットが現れるが、今度はそれだけではない。足元にルーレットテーブルが描かれたのだ。テテュスにとっては見慣れたルーレットテーブルに、半魚人は戸惑った様子を見せテテュスの方を見る。
テテュスは1人ルーレットを見ながらレバーを下ろした。まだ背中は痛むし滅多に経験しない痛みに脳は処理が追い付かないのか未だ視界は歪んだままだが、しかしルーレットを前にすると頭がスッと冷える。痛みがまるで他人事のように思え、思考は回るルーレット上のどこにボールが入るかだけを考えていた。
「――――黒の4、オールイン!」
彼女の宣言と同時に、半魚人の頭上にケースの残り枚数と同じ10枚のチップがエネルギー状になって出現し、半魚人の上から落下してその中に閉じ込める。
その半魚人が立っているのは、彼女が宣言した通り黒の4のマスであった。
そしてボールがポケットに入る。入ったのは彼女の予想したのと同じ、黒の4のポケット。ジャックポットだ。インサイドベット、ストレートの配当は36倍。つまりこの時点でゲームであればチップの枚数は一気に360枚になる。
それが攻撃力となって半魚人に襲い掛かる。
〈Fever!〉
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
身動きが取れない半魚人に向け、テテュスが飛び蹴りを放つ。海を割るように蹴り足から波をかき分けて放たれた必殺技『ジャックポットフィニッシュ』が半魚人を拘束しているチップの山に炸裂した。
その瞬間、内包していたエネルギーが解放され爆発。半魚人はそのエネルギーをまともに受けざるを得ない。
「ギャァァァァァァッ?!」
動けない状況で必殺技を喰らい、半魚人は断末魔の叫びを上げて爆発四散。後には燃えカスとなった半魚人だったものだけが残され、辺りには数枚のドロップチップが散らばっていた。
「はぁ……はぁ……、ふぅ」
脅威を退け、安堵の溜め息を吐くテテュス。敵を倒して安心した事で、背中の痛みがぶり返してきた。痛みによろける体を自分で押さえて支えつつ、テテュスはその場を離れようとした。
そこに――――
「見つけたぞ!!」
「えっ!?」
「アイツ、また――!?」
痛む体を引き摺ってその場を離れようとしたテテュスに、襲い掛かったのはコバルトウェーブであった。彼はあの後もテテュスの事を追いかけていたのだ。
振り下ろされたホルスター剣を危ういところで躱したテテュスではあったが、今の彼女にこれ以上先頭を続行するだけの元気はない。痛みで集中が長続きしないのだ。
まさに絶体絶命……その時、両者の頭上から何者かが割って入って来た。乱入者は落下の勢いを利用して、その腕を振り下ろし籠手から伸びた鋭い爪で地面を粉砕する。
「うっ!?」
「何だッ!?」
突然の横槍に、2人は揃って足を止め乱入者を注視した。
そいつは何とも言い難い奴だった。一見するとスコープなどのような全身金属製の鎧を身に付けたような姿をしているが、ヘルメットにはレールで左右に動くカメラアイがあり頭を動かさずカメラだけが2人を交互に見ている。
地面から爪を引き抜いたそいつは、今度は首を動かしてコバルトウェーブを見やり口を開く。
「……こいつは私の獲物。邪魔するな」
「は? お前いきなり出てきて何言って……って、その声まさか?」
一方的な乱入者の言葉にいら立ちを露わにするコバルトウェーブだが、彼はその声に聞き覚えがあった。思わず首を傾げるコバルトウェーブだったが、それはテテュスも同様だった。彼女もまた、聞こえてきた鎧の人物――声から恐らく女性――の声に違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
(今の声……何処かで……)
とても身近な声の様な気がするが、僅かに変声が掛かっているのかいまいちピンとこない。テテュスが首を傾げていると、出し抜けに振り向いた鎧の女性が籠手の爪で斬りかかって来た。
「え、きゃっ?!」
「な、何よアイツ! 助けてくれたんじゃないの!?」
遠くから様子を見ていた海羽は鎧の女性がコバルトウェーブに言った言葉が聞こえていなかった。あの人物が割って入ったのは、テテュスを助ける為ではなく自分の手でテテュスを始末する為だったのだ。
両手の鋭い爪で何度もテテュスに斬りかかる鎧の女性。既に限界に近付いていたテテュスは、これを満足に避ける事も出来ず何度も体を切り裂かれた。
「あうっ!? う、ぐっ!? あぁっ?!」
鎧の女性の爪が振るわれる度に、テテュスの体が傷付き血が僅かに舞い散る。半魚人との戦闘と合わせて、テテュスはもう立っているのが限界であった。
「う、く……はぁ、はぁ……」
遂にはその場に膝をつくテテュスに、鎧の女性は胸の前に右手の籠手の爪を掲げながら近付く。もしヘルメットで顔が隠れていなかったら、爪を舌で舐めていたかもしれない。
「これで、邪魔者は居なくなる。……生き残るのは、私だ」
鎧の女性がテテュスを刺し貫かんと爪を振り上げる。ライトスコープ2人は何とかしてテテュスを助けようとした。
「仮面ライダー!?」
「援護……くそ!? 弾が――!?」
だが半壊した鎧が足枷となって満足に動けず、ならば援護射撃をと思っても肝心な時に弾切れだった。
そうこうしている内に、鎧の女性が爪をテテュスに向け振り下ろし――――
〈Bet〉
その直前、テテュスは先程の半魚人を倒した際に散らばったドロップチップを一枚拾いドライバーに挿入していた。そして爪が振り下ろされるよりも先にレバーを下ろす。
〈Good luck〉
「なっ!? グッ!?」
「赤の5!」
〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉
鎧の女性は出現したルーレットに弾き飛ばされ、テテュスはチャンスをものにしディープダイビングで素早く地面の中に潜った。
地面に潜ったテテュスを探しカメラアイが左右に激しく動く鎧の女性。その前でテテュスは地面の中を泳ぎ回り、先程の戦闘で散らばったドロップチップを片っ端から集めて回る。地面から一瞬テテュスの手が出てくる度に、鎧の女性はモグラ叩きよろしく爪を地面に叩き付けるが、テテュスの姿を捉える事は出来ない。
そうしてドロップチップを集めたテテュスは、地上に出ると新たに2枚をベットしルーレットを回した。
〈Good luck〉
「赤の7!」
〈BINGO! Efficacy activation! Healing.〉
的中により効果が発動した瞬間、ルーレットからシャワーのように水が降り注ぐとテテュスの体に刻まれた傷が見る見るうちに塞がっていった。目の前でテテュスが回復した事に、鎧の女性は動揺を隠せない。
「何ッ!?」
「チップ1枚で、大逆転よ」
「~~~~!? ふざけるな!!」
言葉通り、1枚のチップから一気に形成を逆転しつつあるテテュスに鎧の女性が激昂し斬りかかる。だがそれより早くにテテュスが5枚のチップをベットしレバーを下ろしルーレットで攻撃を防いだ。
〈Good luck〉
「赤の19!」
〈BINGO! Skill activation! WAVE SMASH.〉
テテュスは勝負を決める一手に出た。放たれた波を纏った蹴り、ウェーブスマッシュが鎧の女性を蹴り飛ばした。
「うぐあぁぁぁぁぁっ?!」
「おわぁっ!?」
鎧の女性の巻き添えで吹き飛ばされたコバルトウェーブだったが、こちらは殆ど余波と飛ばされてきた鎧の女性がぶつかっただけなのでダメージはそれほどでもない。
彼は何とか立ち上がると、火花を散らす鎧の女性に手を貸して立ち上がった。
「い、つつつ……。あの女……おい、大丈夫か?」
「うる、さい――!? 私は、私はアイツを――!!」
いい一撃を貰い、これ以上の戦闘続行は苦しいだろうにまだ戦おうとする鎧の女性をコバルトウェーブは無理矢理自分の方を向かせて押し留めた。
「良いから退くぞ! これ以上は無駄だ。アンタとあの女の間に何があったのかは知らねえが、アンタらはまだ俺達の客だ。その相手にみすみす死なれる訳にはいかねえ」
「そんな事――――」
コバルトウェーブの言葉に尚も戦い続けようとする鎧の女性だったが、その時ヘルメットに内蔵された通信機から女性の声が響いた。
『戻りなさい、8号。これ以上は戦う必要無いわ』
「ッ!? で、でも……」
『聞こえなかった? 私は、戻れと、言ったのよ? それともあなたも不良品かしら?』
「ッ!?!?…………いえ」
『それじゃ、直ぐに戻りなさい。可愛い8号』
通信が切れると、鎧の女性――8号は一度忌々し気にテテュスの事を見て、彼女に背を向けると大きく跳躍しビルの屋上を転々としながらその場から離れて行った。
「あ、おい! ったく……」
1人その場に取り残されたコバルトウェーブは、自分を置いて1人去っていった8号に小さく悪態を吐き、次いで彼もテテュスの事を睨み付けた。
「……次会った時は絶対それ返してもらうからな。お宝は俺達のもんだ!」
そのセリフを最後に、コバルトウェーブも去っていった。
今度こそ本当に戦いが終わり、テテュスは安堵の溜め息を吐き自分も帰ろうと海羽が隠れているところへ向かおうとした。
後を追おうとする2人のライトスコープだったが、それは茜により待ったが掛けられる。
『待って下さい』
「何で?」
『今は過度に接触を図るべきではありません。向こうもこちらを警戒しているでしょうし、藪を突くことはしない方が賢明です』
茜は嘗て仮面ライダーと共に戦った。その経験から言わせれば、正体不明な仮面ライダー相手には積極的に距離を詰めるよりも自然と距離が縮まるのを待った方が益がある。
何より自分達はあの仮面ライダーの事を殆ど何も知らない。お互い知らない事の方が多いのに、いきなり接触を図るのは無用な諍いを招きかねなかった。仮面ライダーを相手に、それは避けたい。
故に茜はここでのテテュスとの接触を控えさせたのだ。
『それより地下ではまだ戦闘が続いています。2人は直ぐに後退し、予備の装備を装着し応援に向かってください』
「仕方ないか……了解」
「挨拶は次の機会に取っておくか」
ライトスコープ2人は肩を竦め、元来た道を戻った。
動く者の居なくなった戦場だった場所。そこを離れた所からモニターで見ている者が居た。街の監視カメラにハッキングし、それをノートPCに映したのだ。
「ふ~ん、なるほどね」
その映像を見ていたのは、バーツ達と共に船で街に入った白衣を着た女性。先程8号に通信をした彼女であった。
女性は映像を巻き戻し、戦うテテュスの姿を見て怪しげな笑みを浮かべた。
「これは、新たな実験になりそうね」
怪しくも嬉しそうな笑みを浮かべ、女性はノートPCを閉じた。
ノートPCを閉じても尚笑みを絶やさない女性。
その近くには、何かが浮かぶ大きめのシリンダーが置かれていた。
という訳で第4話でした。
コバルトウェーブは荒事に慣れている上に、天賦の才で戦いのセンスがあるのでテテュスには部の悪い相手です。逆立ちしても、今のテテュスは戦闘経験の不足が顕著ですからね。そこは仕方ありません。
テテュスの専用バイクが今回登場しました。アギト方式で、乗っているバイクが能力で変身するタイプです。
今回8号が戦闘しましたが、彼女の装備についてはまた後程説明します。
執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。