仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第40話:ストラテジー、大企業の残滓

 オケアノスと別れたテテュスは壁の中を泳いで一気に庁舎上部の十三の執務室へ向かった。

 一気に、と言ってもその道中で逃げ遅れた職員を見かける事はある。彼ら彼女らが迫る火の手に怯えて動けなくなっているのを見捨てるなどという事が出来る筈も無く、テテュスは職員を見つけるとその度に助ける為壁や床から出て助ける為に時間を割かれた。

 その結果思っていたよりも十三の所へ向かうのに時間が掛かってしまったが何とか間に合った。

 

「知事!」

「! その声、大梅さん!?」

 

 突然壁から飛び出してきたテテュスの姿に面食らった様子の十三だったが、声から相手が瑠璃であることに気付き驚きながらも安堵の表情を浮かべる。仮面ライダーが来てくれたという事が、彼の心に勇気を与えたのだ。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、私は大丈夫。ただ秘書の彼が……」

 

 十三の足元にはまだ年若い眼鏡の男性が荒く呼吸をしながら倒れている。どうやら煙を多量に吸い込んでしまったらしい。このままだと命に関わる。

 

「一体何があったんですか?」

 

 テテュスは秘書の男を助け起こしながら十三に訊ねた。突然の爆発に加え、ヌーベルファッジの出現など不可解な点が多すぎる。

 しかし何が起きたか知りたいのは十三も同様だった。

 

「私にも分かりません。ただ地下からの連絡が途絶えたかと思ったら、突然爆発と火の手が上がり……小早川隊長が何が起こったのかと調べに向かってくれたのですが、すると今度は通信で怪物が出たと……」

 

 十三がそう言ったかと思った次の瞬間、燃え掛けている扉をぶち破ってヌーベルファッジが執務室に飛び込んできた。ヌーベルファッジはテテュスの姿を見ると、牙を剥き出しにして尻尾を床や壁に叩き付けて威嚇してくる。

 

「か、怪物!?」

「あぁ、もう。こんな時に……。知事、彼の事頼みます」

 

 秘書を支えたままでは戦えない。テテュスは十三に秘書を任せると、拳を握りヌーベルファッジと対峙した。

 

 戦う姿勢を見せるテテュスの姿に、しかしヌーベルファッジは即座に襲い掛かるような真似はしなかった。サソリの様に尻尾を振り上げた状態で腰を落とし、じりじりと距離を測りながらテテュスの周りをゆっくり動く。テテュスは何時襲い掛かられても良いようにと、構えを取ったまま十三を守るようにしながらすり足で体を回す。

 

 建物が燃える音を遠くに聞きながら、静かな睨み合いが暫し続く。が、その睨み合いはそう長くは続かなかった。

 

「……ん?」

 

 最初に異変に気付いたのは戦いの様子を後ろから見ていた十三だった。彼が見ている前で、テテュスの首の周りの空間が歪んだように見える。

 何だろうとよくよく目を凝らして見ると、それは天井から伸びた長い何かである事が分かった。長い何かは空間に揺らぎを作りながらテテュスの首回りに巻き付く様に動いていた。

 

 あれが何かは十三には分からない。だが危険な何かであることは彼にも分かった。

 

「危ない!?」

「え?」

 

 十三の声にテテュスの意識が向いた次の瞬間、天井から伸びてきた長い尾がテテュスの首を締めあげた。

 

「うぐっ!? あ、がっ?!」

「大梅さん!?」

 

 突然首を締め上げられ、テテュスが驚きながらも天井を見る。するとそこには、いつの間にか天井に張り付いていたヌーベルファッジが尾を伸ばしてテテュスの首に巻き付けているのが見えた。

 

(囮!?)

 

 なかなか目の前のヌーベルファッジが襲い掛かってこない事に随分と慎重な奴だと思っていたが、何の事は無いこいつはテテュスの注意を引くのが目的だったのだ。

 テテュスはファッジに関しては良く知らないので、コイツ等は異形の獣程度の認識しかなかった。だがそれは間違いだ。コイツ等には互いに連携を取り、獲物を追い詰める狡猾さがある。

 

 実際ヌーベルファッジは生物兵器としてはある意味完成度が高いと言えた。目標の指示を出せばそれを狙って動いてくれるし、必要とあれば仲間同士で連携を取り確実に目標達成に向けて動いてくれる。もし2年前、もっと早い段階で傘木社がヌーベルファッジを実践投入していたらデイナ達は苦戦を強いられていただろう。

 

「うぐぅぅ、がはっ!? が、か……」

 

 テテュスは何とか首に巻き付いた拘束を解こうとするが、ヌーベルファッジは尾に更に力を込めテテュスの体を持ち上げた。首だけでつり上げられ、足が浮き上がり一気に苦しみが増す。テテュスの口から苦悶の声が上がるが、彼女を助けてくれるものはこの場に居ない。

 

 しかも今いる敵は彼女を吊り上げている奴だけでなく、囮となっていた奴も居るのだ。そいつが何時までも大人しくしているかと言うと…………

 

「ガァァァァァッ!」

 

 答えは否。吊り上げられて無防備な獲物の腹を掻っ捌こうとしているかのように、爪と牙を剥き出しにして飛び掛かった。

 首を絞められて薄れゆく意識の中、テテュスは視界の隅でもう1体のヌーベルファッジが自分に飛び掛かって来るのを何処か他人事のように見ていた。

 

 しかしこの場には味方が居ない訳ではなかった。

 

「こ、この――!!」

 

 十三は何かないかと周囲を見渡し、ふと目に入った消火器を手に取ると壁から取り外し噴射口をテテュスに飛び掛かろうとしているヌーベルファッジに向けグリップを握った。噴き出す消火剤が煙幕の様にヌーベルファッジの視界を塞ぐ。

 

「グァァァァァァッ!?」

 

 突然噴きかけられた消火剤に驚き声を上げるヌーベルファッジだったが、それは所詮攻撃力など皆無。一瞬怯ませただけでヌーベルファッジは直ぐに体勢を立て直してしまった。

 それどころか、邪魔をしたことでそいつの狙いがテテュスから十三に移ってしまった。殺意の籠った目を向けられ、十三は思わず腰が引ける。

 

「グルルルルッ!」

「ひっ!?」

 

 もしここで十三が何もしなければ、彼が攻撃目標に入る事は無かっただろう。ヌーベルファッジは命令されたこと以上の行動はしない。だから例え目の前を通り過ぎようとも、攻撃目標に設定されていなければ無視される。

 だが逆に少しでも奴らの行動を妨害するようなことをすれば、障害と認定され途端に攻撃対象となってしまう。

 

「グルァァァァァッ!」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 十三を八つ裂きにしようと飛び掛かるヌーベルファッジ。襲い掛かられた十三は悲鳴を上げながら腕で防御の構えを取る。そんなもの微塵も役に立たないが、咄嗟に体がとる防衛行動だった。

 

 しかしヌーベルファッジが十三を八つ裂きにする事は無かった。今あの瞬間、彼がヌーベルファッジの行動を妨害した事はテテュスに十分な時間を作ってくれたのだ。

 そう、レイズアップするだけの時間を。

 

「赤の、1! ネクストゲーム!!」

〈Rise up〉

 

 気合でホワイトライフコインをベルトに投入しレバーを下ろし、ルーレットを回してレイズアップする。スピアーレイズにレイズアップしたテテュスはスカートの代わりに両手に装備されたクロックスピアーでまずは首に巻き付いている尾を切断し、次に十三に襲い掛かろうとするヌーベルファッジに左手の槍を投擲した。槍はヌーベルファッジの体を貫通し、壁に突き刺さり虫の標本の様にヌーベルファッジを壁に縫い付ける。

 

「グギャァァァッ?!」

「ピィィィィィィッ?!」

 

 尾を切断されたヌーベルファッジは悲鳴を上げて尾を振り回し、撒き散らされた血が周囲に飛び散り壁や床を赤く染める。

 一方壁に縫い付けられたヌーベルファッジは何とか抜け出そうと藻掻いているが、深く突き刺さった槍は抜ける事無くヌーベルファッジが苦しいだけだった。

 

 それでもこのままだと抜け出されるかもしれないし、何より武器が片方使えない。テテュスは壁に縫い付けられたヌーベルファッジにトドメを刺した。藻掻くしか出来ないヌーベルファッジの首を残った槍の穂先で切り落とす。

 

「よい、しょっと!」

 

 首を落とされ動かなくなったヌーベルファッジを壁に押し付けるように踏み付け、槍を壁から引き浮いた。槍にはヌーベルファッジの血がべったり付いていたので、振るう事で血を落とす。完全ではないが先程に比べれば全然マシだ。

 

「知事、ありがとうございます」

「お気になさらず。それより!」

「分かってます!」

 

 まだヌーベルファッジはいる。テテュスに尾を切断された奴だ。そいつは天井に張り付く事を止め、床に下りるとまだ血の滴る尾を振り上げた状態で臨戦態勢を取った。この状態でもまだ戦う気のヌーベルファッジに、テテュスは槍を連結させて対峙する。

 

 何時でも掛かってこい、そう気合を入れながら、テテュスはまた奇襲を受ける事が無いようにと周囲も警戒した。

 

 それが良くなかった。周囲にまで意識を向けていた事で、目の前のファッジに対する警戒が疎かになり奴が次に行う行動への反応が遅れた。

 いや、或いはそれもそいつの策だったのかもしれない。

 

 ヌーベルファッジが臨戦態勢で尾を振った。それは先程までと何も変わらない行動。だが違うのは、尾が切断されている事と尾を振る速度だ。人が濡れた手から水を落とす様に、瞬間的に速度を速めてピッと尾の先端を振った。

 すると尾の切断面から血が勢いよく飛び散った。纏まって飛び散った血は真っ直ぐテテュスに向けて飛んでいき、顔にべしゃりと掛かる。

 

「あっ!?」

 

 顔に付いた血は少ない量ではなく、視界が塞がれるには十分な量を掛けられた。その瞬間テテュスは視界を塞がれ、ヌーベルファッジの姿を見失う。

 

「キシャァァァァッ!」

 

 その瞬間をヌーベルファッジは待っていた。大きな隙を晒したテテュスに、ヌーベルファッジは飛び掛かり彼女を八つ裂きにしようとした。

 実際にはヌーベルファッジに与えられた命令はテテュス……瑠璃の確保なので八つ裂きにされて殺されるという事は無いだろう。だが無傷という事もなさそうだ。抵抗する力を奪う為、彼女をズタボロにする事位はする可能性があった。

 

「大梅さん!?」

 

 危険を知らせようと十三が声を上げるが、目が見えない者にそんな事をしても意味がない。ヌーベルファッジはテテュスに飛び掛かって床に押し倒し――――

 

 ギリギリのところで、テテュスの時間操作が発動しヌーベルファッジは飛び掛かろうとする体勢のまま空中で固定されたような形になった。

 

「む……あ~、びっくりした。姑息な真似してくれちゃってさ」

 

 まさか血の目潰しをしてくるとは思っていなかった。獣のような動きをしていながらなかなかに狡猾な連中だ。おまけにしぶとい。

 とは言えこうなってしまえば最早まな板の上の鯉。煮るも焼くも自由である。

 

「フンッ」

 

 中途半端にダメージを与えて暴れられても困るので、取り合えず首を刎ねて能力を解除した時点で動かなくなるようにした。

 

 確実にトドメを刺したテテュスが時間操作を解除すると、ヌーベルファッジは体と頭を分離させて血を撒き散らしながら飛び掛かろうとした勢いのまま床に落下し転がった。

 

「わっ!? え?」

 

 十三には何が起こったか分からないだろう。彼の目にはヌーベルファッジが飛び掛かろうとした次の瞬間には、テテュスが目にも留まらぬ速さでファッジの横に移動しファッジは首を切られた状態で倒れた様にしか見えないのだから。

 

「ふぅ~、これでとりあえずは安心かな。でも、念の為……」

 

 このまま十三と秘書を連れて外まで向かうのはリスクが高い。少しでも安全性を高める為、テテュスはシールドレイズにレイズアップするとダイアリーシールドに次の事を書き込んだ。

 

『道中怪物に遭遇しない』

 

 果たしてテテュスの書き込みは実現可能な範囲だったらしく、能力の発動を示すように文字が光り沁み込むように消えていった。

 

 これで道中の安全は確保された。火事の危険はまだあるが、そちらはテテュスでも何とかなる。テテュスは満足そうに頷くと、十三の手を引いた。

 

「もう大丈夫です。さ、行きましょう!」

「はい。さ、もう少し頑張れ」

 

 テテュスと十三は2人で左右から秘書を支えながらあちこちに火の手が広がった庁舎内を外に向けて歩いて行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方下の階では、オケアノスが必死に階段を上っていた。

 

「ひぃ、ひぃ~、くそ。最近変に階段に縁があるな?」

 

 あの後彼は1人で襲い掛かって来る無数のヌーベルファッジを始末すると、テテュスの後を追って執務室へ向かおうと1人階段を上っていたのだ。

 

 ただ他の階を素通りして取り残された職員を見逃すわけにはいかないので、途中の階には全て立ち寄り逃げ遅れた人が居ない事を確認しながら上へと上がった。幸いなことに多くの職員は火の手が広がる前に逃げる事が出来たのか、逃げ遅れた人を見つける事は無かった。

 

 と、その時、彼の耳に重い発砲音が響いた。拳銃レベルではない、ライフルとかそう言うレベルの銃声だ。

 

「! 今のは……スコープか?」

 

 今海都でこんな銃声を発する銃を持っているのはS.B.C.T.のスコープくらいだ。

 

 足を動かす速度を上げて断続的に銃声が響く方に向かうと、そこには逃げ遅れた人々を後ろに庇いながら迫るヌーベルファッジを銃撃で迎え撃っているスコープの姿を見た。

 テテュスも心配だが目の前のスコープと逃げ遅れた人々を見過ごすわけにもいかない。オケアノスはテンペストウィップを手にヌーベルファッジに背後から飛び掛かると、スコープに襲い掛かる隙を伺って構えているファッジを鞭で叩きのめした。

 

「オラァッ!」

「ギャッ!?」

「! ジョーンズさん!」

「大丈夫か!」

「えぇ、彼らも無事です」

 

 邪魔なヌーベルファッジを1体仕留めたオケアノスはスコープと合流し2人で逃げ遅れた人を守る様に立った。周囲にはまだ数体のヌーベルファッジが居り、新たにやって来て仲間を1体倒したオケアノスに警戒する様に唸り声を上げている。

 

「よ~し、隊長さんよ。一体何がどうなってるんだ?」

「こっちが聞きたいです。私はただ報告に来てただけなのに、コイツ等ヌーベルファッジが突然地下から上がって来たんです」

「ヌーベルファッジ?」

「そう、コイツ等はヌーベルファッジ。旧傘木社が最後の戦いに投入したファッジの発展型です」

 

 傘木社との決戦であった富士山麓の研究所での戦いではヴェロキラプトルファッジと共にヌーベルファッジが敵として立ちはだかり、当時のS.B.C.T.に多数の被害を出した。

 ただヌーベルファッジを生み出すには新人類に覚醒した人間が必要不可欠。傘木社が崩壊した今、もう出てくる事は無いと思っていた。

 

 しかし恭子は身を隠す前にヌーベルファッジのデータを手に入れていた。彼女はそのデータを基に人を新人類に強制的に覚醒させ、ヌーベルファッジに改造したのである。

 

「通常のファッジであれば倒せば元の人間に戻りますが、コイツ等は無理です。倒せばその時点で死にます」

「らしいな。俺も瑠璃ももう何体も始末しちまった」

「そう言えば、大梅さんは?」

「一足先に知事の所に行った。今頃は知事を助けてる頃だろ。下の階の安全は確保したから、コイツ等さっさと倒して後ろの連中を逃がすぞ」

「はい!」

 

 2人は頷き合うと、オケアノスが先手を取り鞭を大きく振るった。勢い良く振り回された鞭の先端が、ヌーベルファッジの先鋒を引っ叩き壁に叩き付けた。

 

 オケアノスの攻撃で1体が倒れたのを合図に、ヌーベルファッジ達が一斉に襲い掛かって来る。次々と襲い掛かって来るヌーベルファッジを、オケアノスは鞭の一撃だけで何とか凌いでいた。

 

「だぁぁ、ちっくしょう!? コイツ等倒してもチップにならねぇからやり辛いんだよ!」

 

 先程テテュスを先行させた時、オケアノスは引き受けたヌーベルファッジを始末するのに既に5枚消費してしまっていた。一応まだチップは残っているが、無駄遣いをしていては直ぐにチップが底を尽きてしまう。

 ライフコインがあれば補充は可能だが、生憎ライフコインは全て瑠璃が管理しているのでこの場にない。こんな事なら1枚くらいは借りておいたほうが良かったとオケアノスは後悔した。

 

 とは言え、状況は悲観するほどでもない。何しろ今は先程と違い、背中を預ける事が出来る相手が居るからだ。

 

「くっ!」

 

 オケアノスの鞭を回避して飛び掛かろうとしたヌーベルファッジを、スコープのガンマライフルが撃ち落とした。スコープにはこの場において有効な広範囲をカバーできる装備が無いが、その分敵を素早く補足する能力と撃ち落とす火力があった。

 

 その後もオケアノスが鞭で牽制したり動きを釘付けにしつつ、スコープが1体1体確実に仕留めると言う方法でヌーベルファッジの数を着実に減らしていった。なかなかどうして、この2人が組むと良いコンビネーションを発揮していた。決して知らない仲ではないし背中を任せた事も無い訳ではないが、それにしたって数で負けている相手を一歩も寄せ付けずに倒していくのは見事と言う他ない。

 

 気付けばヌーベルファッジも片手で足りる程度の数にまで減っていた。ここまで減るとヌーベルファッジの方も彼我の実力差を理解し闇雲に襲い掛かっても意味がないと察したらしい。迂闊に飛び掛かったりするようなことはせず、機を伺う様にじりじりと適度に距離を保ちながら時折接近を試みていた。

 

 そんな中、ヌーベルファッジの1体が姿を消した。擬態能力で周囲の景色に溶け込んだのだ。

 

「だぁぁっ!? くそ、アイツらまた姿消しやがった!?」

「そいつは私が!」

 

 姿を消せるヌーベルファッジだが、この場ではあまり役に立たない能力だった。何故ならこの場にはスコープが居る。スコープの策敵能力は非常に高く、視界を赤外線・紫外線・X線などに変化させることであらゆる敵を見つけ出す事に長けていた。

 

 果たして姿を消したヌーベルファッジは直ぐにスコープの視界に映った。見えてしまえば怖い物などない。スコープは姿を見られていないと思っているだろうヌーベルファッジに狙いを定め、引き金を引いて無数の銃弾を叩き込んだ。

 

 姿を消した仲間すら見つかり倒された事で、いよいよ危機感を感じたのかヌーベルファッジ達は唸り声を上げながらゆっくりと後退りし始めた。どうやら一旦後退して体勢を立て直すつもりらしい。

 

 と思っていたら、ヌーベルファッジ達は突然弾かれたように後ろを振り返った。ファッジ達が何に気付いたのかとオケアノス達が奴らの視線を追うと、テテュスが十三と秘書を連れてやってきた。

 

「大丈夫ですか? しっかり……げっ!?」

 

 ここまで来てヌーベルファッジ達に出くわした事にテテュスが呻き声を上げるが、その向こうにオケアノス達が居ることに気付いた。

 仮面越しに彼女が笑みを浮かべている事が手に取るように分かったオケアノスは、その笑みに応えるべくここが使い時と5枚のチップをベットした。

 

〈Bet. Good luck〉

 

 回転するドラムを睨み、正確に2を揃えて止める。それにより発動したウィップエクストリームが、その場に残ったヌーベルファッジを一掃した。

 

〈BINGO! Activate weapon ability. WHIP EXTREME.〉

「オォォォォッ!!」

 

 暴風を纏った鞭の一撃は、ヌーベルファッジ達を殲滅するのみならず、部屋に迫りつつある炎すら吹き飛ばしてしまった。あまりの暴風に顔を手で覆っていたテテュスだったが、風が納まったのを感じ手をどかして顔を上げると動くヌーベルファッジが居ないのを確認し安堵の溜め息を吐きながらオケアノスに近付いていった。

 

「ネイト!」

「瑠璃、大丈夫だったか!」

「何とかね。勿論知事も」

「葉隠知事、お怪我は?」

「私は大丈夫。ただ彼が……」

「お預かりします」

 

 合流した3人の仮面ライダーは、情報交換もそこそこにとりあえず逃げ遅れた職員達を連れて庁舎からの脱出を図った。まだ火の手は完全に消えてはいないし、ヌーベルファッジが残っているかもしれない。

 他に懸念があるとすればまだ逃げ遅れた職員が居ないかという事だが、生憎と今はこれ以上捜索に割いている時間は無い。一歩間違えれば今いる逃げ遅れた職員や十三が犠牲となるかもしれないのだ。

 

 そう言う訳でテテュス達は庁舎を一度脱出した。脱出すると今正に突入しようとしていたのか、完全装備の消防隊員達と遭遇。彼らはまだ火の手が上がっている庁舎から十三を始めとした職員が仮面ライダーに連れられて出てきた事に度肝を抜かれる。

 

 その後、テテュス達は成り行きでそのまま消防隊員達と共に再び庁舎に入り生存者の捜索に移った。もしヌーベルファッジの生き残りが居たら、彼らだけでは対処できない。

 

 途中警察署で待機していたS.B.C.T.の残りの隊員が駆け付け、共に一気に作業効率が上がった。下手な装備よりずっと頑丈なライトスコープに水のタンクとホースを持たせることで、内部の消火活動も加速度的に進み火災はあっという間に鎮火した。

 また他に逃げ遅れた人も確認できず、ヌーベルファッジの出現もなく騒動は収束したかに見えた。

 

 しかし、本当の戦いはここからだった。

 

「上の連中は助けれたが、問題は下だな」

 

 一旦変身を解除したネイトが足元に目をやる。

 

 十三他職員達の話では、ヌーベルファッジは地下から上がって来たのだと言う。という事は、連中は海中から海都施設に侵入してきたという事。

 

 庁舎は地下研究所、並びに海水濾過施設と大規模海洋発電所と直結していた。そして現在、地下施設はどれも稼働しており大勢の職員や作業員、新たに入って来た研究員が勤めている。

 

「知事の話では、奴らが地下から姿を現す少し前に地下からの連絡が途絶えたとか……」

「じゃあ、下はもう……」

 

 怪物達により再び地下施設が、それも研究施設だけでなく住民のライフラインに関わる施設が占拠されたという事に誰もが暗い顔を浮かべた。

 

 が、それまで黙って考え事をしていた瑠璃が何かに気付いたようにその結論に待ったを掛けた。

 

「待って。もしかしたら、下の人達は無事なんじゃないかな?」

「どういう事だ?」

「自惚れとかそう言うんじゃないけど、アイツら私の事を狙ってたような気がするのよね」

 

 テテュスが十三を助けに向かった際、ヌーベルファッジは十三と動けない秘書を無視してテテュスに襲い掛かった。複数体居たのに、絶好の獲物である筈の非戦闘員2人を完全に無視していたのだ。

 その後もオケアノス達と合流した際には、彼らを無視して後から来たテテュスの方に注意を向けていた。それらの事から、瑠璃はヌーベルファッジが明確に自分を狙っているのではと言う考えに至った。

 

 これは勿論彼女らが知る由もない事だが、ヌーベルファッジには瑠璃を優先的に狙い連れ去る様に指令が下されている。奴らはその指令に従いテテュスを優先的に狙う様になっていたのだ。

 庁舎の被害に対して脱出できた生存者が多いのはこれが理由だ。要するに、命令にない相手への攻撃はしないのである。中には襲われた職員も居たが、彼らに共通するのは突然現れたヌーベルファッジに驚きうっかり攻撃に相当する行動を取ってしまったからだった。下手に物を投げつけたりと、ヌーベルファッジに敵対したと思われる行動を取った事で攻撃対象となってしまい、その結果命を奪われる事となった。

 

 庁舎に火の手が上がったのはこれが原因だ。何人かの職員が驚き攻撃してしまい、ヌーベルファッジが反撃した際に電気系統などを傷付け火災に繋がったのだ。

 

「でもそうなると、下の連中も驚いて攻撃したりしたんじゃないか?」

「全員が全員そんな反応をするとは限らないでしょ? 中には逃げる事を優先して隠れた人も沢山居るだろうし――――」

 

 兎に角ヌーベルファッジの狙いが瑠璃であるのなら、地下の職員達が生き残っている可能性は高い。瑠璃とネイトがその結論に至った、その時である。

 

「小早川君、これ!!」

 

 突然茜が慌てた声を上げながらノートパソコンを持ってくる。何やらただ事ではない様子で、今までに見た事が無いような焦った顔をしていた。

 

 これは何か良く無い予感がする。そんな事を考えながら、慎司に続き瑠璃とネイトが横から茜のノートパソコンを覗き込むと、そこに映っていたのは恭子の顔だった。

 つまりこれは恭子からの通信という事になる。

 

 彼女が自分達に一体何の様なのか? 顔を見合わせていると彼女はさらに驚くべきことを口にした。

 

『S.B.C.T.、並びに仮面ライダーテテュス……大梅 瑠璃に告げます。海都の地下は我々が占拠したわ』

 

 まさかの地下制圧宣言。それを聞き瑠璃は鉛を飲み込んだような顔になるのだった。




読んでくださりありがとうございました!

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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