仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第42話:ホールカード、喰らう者の来訪

 瑠璃を適当な部屋に連れていかせた後、恭子が向かったのは暫定的に自室としている研究室であった。

 そこではカプセルに入った人型ディーパー……ラハブの頭が鎮座しており、そのすぐ傍には顕微鏡とラハブから採取した皮膚片が入ったシャーレが置かれている。

 

 更に部屋を見渡せば、元からこの部屋にあったのかそれとも制圧後に持って来たのか、室内にはいくつか大きなシリンダーが並んでおりその中にはヌーベルファッジがシリンダーの数だけ浮かんでいた。ただそのヌーベルファッジ、よくよく見ると細部がこれまでのヌーベルファッジとは異なっていた。皮膚が鱗で覆われていたり、指の間に水掻きがあったりと、全体的に見て水生生物の特徴を備えていたのだ。

 

「ふむ……やはりコイツの細胞は違うわね。超万能細胞が強く影響を受けている。これは面白いデータが取れそうね」

 

 並ぶシリンダーをコツコツと小突きながら、恭子はこの実験で得られたデータをタブレットに入力していく。

 

 その時、白衣を着た研究員らしき人物が恭子に近付いて来た。

 

「深井博士、準備が整いました」

「ご苦労様。さ、出発までの短い間だけど、楽しい実験を始めましょ」

 

 準備とは言うまでも無く瑠璃を用いた実験の事だ。取り合えず今すぐできる実験は耐久実験くらいだろう。様々な刺激に対する耐久力を見るのだ。何しろ瑠璃はオリジナルであるセラのクローンであり、嘗て失敗作の烙印を押した存在。実験を行うに際して、何処まで耐えられるのかを確認するのだ。

 

 向かった先には様々な拷問器具が置かれている。これを使ってこれから瑠璃が死なない程度に痛めつけるのだ。

 

「あの子はどんな声で泣いてくれるかしらね」

 

 思い返せば8号は良い声で泣いてくれていた。同じクローンであれば瑠璃も良い声で泣いてくれるだろう。恭子は研究員に瑠璃を連れてこさせ、待っている間にこれから始まるであろう実験に心躍らせていた。

 

 暫く待っていると、研究員が1人の保安警察の隊員と共に瑠璃を連れてやってきた。

 研究員に背中を押される形で部屋に入った瑠璃は、室内に並んだ拷問器具を見て顔を引き攣らせ息を呑んだ。

 

「ッ!?」

「いらっしゃい、失敗作。これから楽しい楽しい実験の時間よ」

 

 サディスティックな笑みを浮かべてそう告げる恭子に、瑠璃はせめてもの抵抗で後ろから押される力に抗う様に後退る動きを見せた。

 

「実験? 拷問の間違いでしょ?」

「耐久実験よ。貴方は大事な大事な最後のサンプル。簡単に潰れたりしないよう、どこまで耐えてくれるのかをしっかり確かめてやり過ぎないようにしないとね」

「……この実験で死ぬんじゃないの?」

「それは貴方次第よ。さ、始めましょ」

 

 どこか楽しそうに恭子は瑠璃を引っ張っていき、部屋に固定された椅子に彼女を縛りつけようとした。無理矢理椅子に座らせ、両足を固定しようと視線を下げた。

 

 次の瞬間、瑠璃は自由になった手で恭子の肩を掴むと顔を上げさせその顔に握り締めた拳を叩き込んだ。

 

「フンッ!」

「な、がっ?!」

 

 恭子は何が起こったのかを理解する間もなく、瑠璃に顔を殴られひっくり返った。それを見て瑠璃をここまで連れてきた研究員は慌てながらも傍に控えていた隊員に捕縛を命じた。

 

「あわわっ!? な、何してる!? 早く奴をッ!!」

「はいよ、と!」

「ごふっ!?」

 

 しかしあろう事か隊員は研究員を殴り飛ばし、一撃で意識を刈り取ってしまった。そして研究員が気絶したのを見ると、恭子を跨ぐようにして瑠璃に近付いていった。

 

「大丈夫か、瑠璃?」

「うん」

「な、何が……?」

 

 殴られて脳を揺らされたからか、未だ恭子は事態を把握する事が出来ていない様子だった。殴られた部分を手で押さえ、困惑した顔で瑠璃と隊員を交互に見ている。

 その姿が何だか可笑しくて、瑠璃は笑いを堪える事が出来なかった。

 

「フフフッ! 大成功、ね。正直こんなに上手くいくとは思ってなかったけれど」

「同感だ。意外と杜撰だなこいつら」

「何の話? 何を言って……」

 

 まだ気付いていない様子の恭子に、2人は顔を見合わせて肩を竦めると種明かしをしてやることにした。隊員がヘルメットを外し、その下にあった素顔を晒す。

 

「ッ!?!? お、お前はッ!?」

「よっ!」

 

 そこにあったのはネイトの顔であった。この隊員はネイトが入れ替わったものだったのだ。

 

「何時から!?」

「あ? そんなの瑠璃をここに連れてきた時からだよ」

 

 瑠璃は何も無策で身を捧げた訳ではない。

 前々から気になっていたのだが、テテュスとオケアノス……リールドライバーとスピンドライバーでは能力的な違いが分からなかった。なのでネイトと少し調べてみた結果、今まで彼が使っていなかったオール1の効果が正にテテュスが使うディープダイビングと同じであることが分かったのである。

 海都に辿り着くまではドロップチップの数が限られていた為迂闊に実験する事が出来ず、変身する様になってからは必要な時しかスピンドライバーを使わなかったので今まで能力をちゃんと確認する事が無かった。

 

 そうと分かれば話は早い。ネイトはオケアノスに変身すると、オール1でディープダイビングを発動。地面に潜りながら瑠璃に付いて行き、庁舎の中へ侵入した。

 その際瑠璃が保安警察の隊員に体を弄られたり殴られたりした光景を見た時は腸が煮えくり返ったが、作戦の為と怒りを押し殺し静観していた。

 

 そして瑠璃と隊員の1人について行きエレベーターに入り扉が閉まった瞬間、ネイトはディープダイビングを解除。一瞬で隊員を無力化すると変身を解除し、隊員から装備を剥ぎ取り代わりに纏ってネイトが保安警察になり替わり侵入したのである。

 因みに装備を剥ぎ取った後の隊員は、縛って外からは死角になるエレベーターの一画に置いておいた。

 

「お前らがのんびりしてる間に、人質になってる職員は全員自由にしてある。安全も確保済み、後は上からS.B.C.T.が突入すりゃ完璧だ」

「そう言う事。アンタは勿論捕まえさせてもらうからね」

 

 瑠璃とネイトの2人がじりじりと恭子に近付いていく。すると恭子は懐からリモコンの様な物を取り出すと、何かのスイッチを押した。

 

「ちょ、何よそれ!?」

 

 慌てて瑠璃がリモコンを取り上げるが時既に遅し。幸いなことにそれは爆弾の起爆スイッチの様な物ではなかったらしく、直後に施設が轟音と共に揺れるという事は無かった。

 

「おい! コイツは何のスイッチだ!?」

 

 ネイトが恭子の胸倉を掴み上げて問い掛けるが、恭子は返答代わりに隠し持っていたスタンガンを彼の腹に押し当てた。

 

「ごぁっ?!」

「ネイト!?」

「ふふふっ、知りたい? そのスイッチはね、強化が終わったヌーベルファッジの起動スイッチよ」

 

 もしもと言う時の為に、恭子はヌーベルファッジを遠隔操作で起動できるように設定しておいた。既に攻撃対象も設定してあるので、間違っても味方である保安警察や研究員に襲い掛かるようなことはしない。

 

 だが無防備な人質だった職員はその限りではない。もしかすると何かの拍子で彼らが襲われるかもしれなかった。

 

「さ、どうする? ここで私に構ってる暇はあるのかしら?」

「この、クソアマ!?」

「ネイト! それよりも今は……」

「分かってる!」

 

 こんな所で恭子を相手にしている場合ではない。2人は急いでその場を離れつつ、ネイトは通信機で上に待機している慎司達に合図を送った。

 

「ネイトだ! ちょいと予定が狂ったが兎に角突入してくれ!」

『分かりました!』

 

 ネイトからの合図を受け、地上で待機していたS.B.C.T.が一斉に突入。それに呼応する様に下からは傘木保安警察の隊員が変異したアントファッジが次々と現れ応戦した。

 

 そのアントファッジに襲い掛かる人影があった。1人の女性が、銃撃も恐れず飛び掛かり拳と蹴りで次々とアントファッジを薙ぎ倒していく。

 

「だ、誰だ!?」

 

 明らかにS.B.C.T.ではなさそうな私服姿の女性に、アントファッジ達は銃口を向ける。

 

 女性はそれを一瞥すると、腰にベルトを装着した。

 

〈Base HORSESHOE〉

「これ以上は、好きにさせないわよ」

〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉

「変身」

〈Create, Capture, Out of Control. Brake the chain〉

 

 女性――志村 希美が変身した仮面ライダーヘテロを見て、アントファッジ達は漸く目の前に居るのが誰なのか分かった。嘗て傘木社に所属していながら、雄成を裏切り会社へ牙を剥いた仮面ライダー。

 

「さぁ、私を満たしなさい」

 

 周囲のアントファッジはヘテロに銃口を向け一斉に引き金を引いた。無数の銃弾がヘテロの装甲に殺到する。しかし嘗てデイナの攻撃すら弾いたヘテロの装甲は、そんな銃弾程度で敗れるほど柔ではなかった。うろこ状の装甲に覆われたアンダースーツは銃弾を受け止め、丸みを帯びた装甲は銃弾を弾いた。

 

 分かってはいた事だが、既に旧式と言っても過言ではないアントファッジではどれだけ数を揃えてもヘテロの相手とはなり得ない。

 敵は恐れるに足らずと見て、ヘテロは反撃に移る。武器など必要ないとばかりに、背負ったテイルバスターは使用せず素手で次々とアントファッジを薙ぎ倒していった。

 

 ヘテロの参戦により、戦線は一気にS.B.C.T.側に有利となった。この機に乗じてライトスコープ部隊もアントファッジを次々と無力化していき、地上部分はあっという間に制圧されていった。

 

 そのような事になっているなど知らない瑠璃は、ネイトの先導に従い人質となっていた職員達が居る場所へと向かって行く。その道中で瑠璃はネイトから預けていたリールドライバーを手渡され、何時でも変身できるように腰に装着した。

 

「この先だ!」

「うん!」

 

 目的の部屋はもう目の前。人数は多いが、ここに来るまで保安警察には遭遇していない。瑠璃は知らない事だが、上の方でヘテロが派手に暴れておりここに待機していた保安警察総出で対処に当たっていたのだ。

 お陰で安全な場所に連れ出すのは苦労しなさそうだと一瞬考えたが、それは突如目の前に姿を現した異形により阻まれた。

 

「グルルルルルッ!」

「ッ!? こいつっ!?」

「例の化け物か!」

 

 2人の前に姿を現したのは件の恭子がさらに改良したヌーベルファッジ、ヌーベルファッジ・パドルだった。

 

 2人の行く手を阻むように2体、そして退路を塞ぐように2体の合計4体が2人の前に立ち塞がる。瑠璃とネイトは挟み撃ちにされた形に、咄嗟に背中合わせになって身構えた。

 

「こんな時に……」

「考え方を変えよう。こっちに来てくれたって事は、人質は無事だ」

「これで全部とは限らないんじゃない?」

「騒げば他のもこっち来るだろ?」

 

 軽口を叩き合い、2人は背中越しに顔を見合わせ笑みを浮かべた。なるほど、そう考えれば確かに大した事は無さそうだ。

 

「なら、派手に騒いでさっさと終わらせよっか!」

「あぁっ!」

 

〈Bet your life〉

「ストレート……赤の30!」

〈Catch your fate〉

 

「「変身!!」」

〈〈Fever!〉〉

 

 2人がテテュスとオケアノスに変身すると、それを合図にヌーベルファッジ・パドルは一斉に2人に襲い掛かった。今までと違い水掻きのついた指の先の鋭い爪が、2人を切り裂こうと振り下ろされる。

 テテュスはそれを蹴りで迎え撃ち、オケアノスは拳で叩き落した。

 

「ハァッ!」

「オラァッ!」

 

 最初の攻撃を防がれ、ヌーベルファッジ・パドル達が怯んだ様子を見せる。そこにテテュスは畳みかけるように連続で蹴りを放ち、ヌーベルファッジ・パドルの1体をその場に釘付けにした。

 

 ボコボコに蹴られ、ボロボロになっていくヌーベルファッジ・パドル。仲間がボロボロになっていく様子に、テテュスの相手をしていたもう1体のヌーベルファッジ・パドルは静かに移動した。テテュスと攻撃されているヌーベルファッジ・パドルを結んだ直線上、彼女からは死角になる位置だ。

 

「ん?」

 

 自分が相手にしている敵の1体がおかしな動きを見せた事に、テテュスは違和感を覚え攻撃を中断し構えを取った。仲間がボロボロになるのを助けもせずに移動したヌーベルファッジ・パドルが気になり、目の前に居る奴の後ろを覗き見ようとした。

 

 だがそれよりも早く、目の前のヌーベルファッジ・パドルの胸が弾けて先端に刃が付いた尾が飛び出してきた。

 

「なっ!? あがっ?!」

「ッ! 瑠璃ッ!?」

 

 言うまでも無く目前のヌーベルファッジ・パドルの胸を貫いたのはその背後に回った奴だ。恐ろしい事にこいつらはテテュスと言う強敵を倒す為に、味方を平気で捨て石にしたのである。恐ろしいほどに狡猾で残虐な連中だ。

 

 幸いなことにテテュスの相手をしていたヌーベルファッジ・パドルを貫く事に威力の殆どを削がれたのか、テテュスが受けたダメージはそれほど大きくはない。精々が胸の装甲を傷付けられた程度だ。だがテテュスの装甲は素早くしなやかな動きを阻害しない程度に小さく薄い。

 威力の大半が削がれていても、彼女の動きを止めるには十分な一撃であった。

 

「あぐ、うぅ……」

 

 倒れる事は堪えたテテュスだが、胸部への不意の一撃はかなり効いたのか突かれた胸を押さえて足元をふら付かせつつ立っている。その彼女の前で、ヌーベルファッジ・パドルは串刺しにして殺した仲間を尾を振るう事で振り落とした。そこに仲間意識など全く感じられない。あるのはただ一つ、命令を達成する為の非情さだけである。

 

「アイツら、仲間を平気で――! くそ、お前ら退け!?」

 

 今すぐテテュスに手を貸したいオケアノスだったが、彼は彼で2体のヌーベルファッジ・パドルの相手で忙しい。左右の手にそれぞれヌーベルファッジ・パドルの首を掴み押さえつけている。

 

 助けに入りたくても入れないもどかしさを感じるオケアノスを嘲笑う様に、テテュスに一撃入れたヌーベルファッジ・パドルは舌なめずりをするようにゆっくりと前に進む。

 

 そしてテテュスの目の前で、彼女にトドメを刺そうとしているかのように尾を振り上げ――――

 

〈Bet. Good luck.〉

 

 こっそりケースから取り出していたドロップチップをベルトに投入したテテュスにより、ヌーベルファッジ・パドルはルーレットにぶっ飛ばされた。

 

「黒の20!」

〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉

 

 その間にテテュスはディープダイビングを発動させ、床に潜ると泳いでヌーベルファッジ・パドルに接近した。吹き飛ばされたヌーベルファッジ・パドルはテテュスの姿を見失い、彼女を探す様に周囲に忙しなく頭を向ける。

 そんなヌーベルファッジ・パドルをテテュスは奇襲した。ヌーベルファッジ・パドルの下から突き上げる様に跳び出し、蹴り飛ばしたのだ。

 

「グギャァァッ?!」

 

 まるで鮫の狩りの様な奇襲に、ヌーベルファッジ・パドルは成す術なく蹴り飛ばされ壁に叩き付けられ床に倒れた。

 

 その無防備を見逃すテテュスではない。

 

「ハァァァァァァッ!!」

 

 放たれる追撃の飛び蹴りにより、ヌーベルファッジ・パドルは立ち上がった直後壁に釘付けにされるようにテテュスの足と壁の間に胸を挟まれた。胸を覆う甲殻の様に硬い表皮がひしゃげ、肋骨が折れて胸が潰される。

 

「ゴブッ?!」

 

 折れた肋骨が心臓や肺に突き刺さったのか、それともテテュスの足に潰されたのか、ヌーベルファッジ・パドルは口から血を吐き出すとそのままテテュスに支えられるように壁に押さえ付けられたまま動かなくなった。

 テテュスが足を退かすと、足裏にこびり付いた血や粘液が糸を引き橋を作る。足を床に下ろすと、足裏から感じる嫌な感触に仮面の奥で顔を顰めた。

 

 一方解放されたヌーベルファッジ・パドルは暫く壁に寄りかかっていたが、テテュスからの圧力が消えるとゆっくりと壁から離れそのまま倒れて動かなくなった。

 

「ふぅ……」

 

 自分に襲い掛かって来た敵を倒した事に安堵の溜め息を吐きながら肩の力を束の間抜いた。が、残りの2体をまだオケアノスが相手をしていると気を引き締め彼の支援に向かおうとする。

 

「ネイト!」

 

 テテュスがオケアノスの支援を行おうとそちらを向いた時、そこでは既に決着がつく寸前であった。

 

「オラ、よ!!」

 

 何時の間にか彼はテンペストウィップを召喚しており、それでヌーベルファッジ・パドルの片割れを簀巻きにしてハンマーの様に振り回してもう片方のヌーベルファッジ・パドルに叩き付けた。2体のファッジは互いに叩き付けられた事で、共に内臓を潰されそのまま息絶える事となった。

 

 一気に2体のヌーベルファッジ・パドルを倒したオケアノスは、満足そうに鞭を収めるとこちらに向かおうとしていたテテュスを見て軽く手を上げた。

 

「おぅ、瑠璃! そっちも終わったみたいだな?」

「まぁね。さ、早く助けに行こう!」

 

 気を取り直して人質となっていた職員達を地上に連れ出そうとする2人だったが、その2人の前に今度は先程の部屋に置き去りにして来た筈の恭子が姿を現した。その腰には既にシーシェイブのドライバーを巻いている。

 

「悪いけど、貴方達の好きにはさせないわ。……血浸」

〈Read.Focus on〉

 

 恭子は2人の前でシーシェイブに血浸した。だが、その姿は以前見たものとは異なっている。どうやらあれから改良を加えたらしい。右腕の複合兵装が大型化していた。

 

「シーシェイブカスタム……これなら貴方達2人でも負けないわよ」

 

 恭子のシーシェイブカスタムは右腕の複合兵装を2人に向ける。兵装には先端にガトリングの様な物が付いており、2人の方を見た瞬間ガトリングが火を噴き無数の弾丸が高速で2人に襲い掛かった。

 

「やべ、逃げろ!?」

 

 流石にあんなのを喰らってはただでは済まないと、オケアノスはテテュスの手を引いてその場を離れた。2人が離れた直後、先程まで居た場所がガトリングの銃弾によりズタズタに引き裂かれる。予想はしていたが銃弾にも大分手を加えているらしい。

 

「ほらほら、逃げてばかりかしら?」

 

 シーシェイブカスタムはそのまま逃げる2人を追いながら追い詰めるように銃撃を放つ。複合兵装にはガトリングだけでなくグレネードランチャーまで搭載されていたのか、時折榴弾が飛んできて2人の背後で爆炎と共に弾けた。

 

「くそくそくそ!? 好き勝手しやがって!?」

「あの人正気!? こんな所であんな大火力をバンバン撃ったりして、壁に穴空いたらどうするつもりなのよ!?」

 

 言うまでも無くここは海の中。ここで壁に穴でも空こうものなら、大量の海水が流れ込み地下施設は使い物にならなくなる。テテュスとオケアノスは水中活動にも対応している為そのまま逃げる事も出来るが、人質となっていた人達は水流と水圧に押し潰されて一巻の終わりだろう。

 反撃をしてあの複合兵装だけでも何とか破壊したいところだが、激しい銃撃が2人に接近するだけの余裕を与えてくれない。今2人に出来る事は逃げ惑う事だけであった。

 

 それが恭子の狙いであるとも知らずに…………

 

「はぁ、はぁ……あれ? ここって……」

 

 気付けば2人は変にだだっ広い空間に立っていた。見渡せばそこには何やら巨大な機械。機会には無数のケーブルが繋がれ、絶えず動いているのか重苦しい音が聞こえてくる。

 

「こいつは、一体なんだ?」

「ここって…………!? あ、あぁ……マズイわ。ここってもしかして!?」

 

「どうやら発電施設にまで来ちゃったみたいね?」

 

 何かに気付いた様子のテテュスが慄くと、2人に追いついてきたシーシェイブカスタムがここが何であるかを口にした。何故か余裕を感じさせる佇まいで、、複合兵装の先端を2人には向けず肩に担ぐ様にしている。

 

 その様子に、テテュスはシーシェイブカスタムが狙って2人をここに誘導したのだという事を確信した。

 

「アンタ、分かっててここに!?」

「さてどうかしら? さ、それよりもどうするの? まだ続ける?」

「このアマ、分かって言ってやがんのか!?」

「ネイト、ダメよ!?」

「分かってる!」

 

 ここで下手に戦闘を行えば、戦闘の余波で発電施設が大きく破損するかもしれない。シーシェイブカスタムの強烈な攻撃は、この施設を破壊するのに十分な威力だ。もし発電施設が被害を被れば、街からは電気が失われるだけでなく海水の濾過すら出来なくなり、街は早々に干上がってしまう。そうなればお終いだ。

 

 そんな事情など知ったこっちゃないと言わんばかりに、シーシェイブカスタムは複合兵装を2人に向けてきた。

 

「フフッ!」

「!? 止めてッ!!」

 

 絶対に撃たせてはならないと、テテュスはシーシェイブカスタムに接近し複合兵装を奪い取ろうとした。これさえなければ施設が被害を被る事は無い。

 

 しかしシーシェイブカスタムはテテュスがそう来るだろう事は予想していた。彼女はテテュスが接近してくると、引き金を引く事は止め複合兵装自体を振り回し銃身に当たる部分を叩き付けた。見れば複合兵装の下部は全体が大きな刃の様になっており、質量を伴う斬撃がテテュスを切り裂いた。

 

「あぁぁぁぁぁっ?!」

「瑠璃ッ!? クソがッ!!」

 

 テテュスを援護すべくオケアノスは鞭を振り回す。振るわれた鞭をシーシェイブカスタムは複合兵装で防ぎ、テテュスはその間に体勢を立て直した。

 

〈Raise up.〉

「とにかく、これで……」

 

 オケアノスが注意を引いてくれている間に、テテュスは姿をシールドレイズに変えダイアリーシールドにある事を書き込んだ。その内容は『敵は武装が使えなくなる』というもの。これで敵の装備が異常を起こして使い物にならなくなってくれれば万々歳だ。

 

 が、世の中そんなに甘くはない。テテュスが書き込んだ文字は泡となって消え、能力が不発に終わった事を示していた。どうやらあの装備は万が一にも動作不良が起きたりしないように、整備をしっかりと行っているらしい。

 

「くっ!?」

 

 思惑が外れた事にテテュスが歯噛みしていると、シーシェイブカスタムがオケアノスの攻撃を突破して肉薄してきた。振り下ろされた複合兵装を、テテュスは咄嗟にダイアリーシールドで防ぐ。

 

「ぐぅっ!?」

「武器はこれだけじゃないのよ!」

「あがっ?!」

 

 重い一撃に膝をつきそうになるテテュスに、シーシェイブカスタムは左腕に装着された爪で攻撃を仕掛けた。強烈な一撃を防ぐだけで精一杯のテテュスにこれに対抗する術は無く腹から胸にかけて下から切り上げられた。

 

「このッ!」

「邪魔よ!」

 

 背後から飛び掛かったオケアノスに対し、シーシェイブカスタムは至近距離からのグレネードランチャーの一撃で吹き飛ばした。

 

「ぐはぁぁぁぁぁっ?!」

「ネイトッ!?」

「他人の心配してる場合かしら!」

「うぐっ!?」

 

 グレネードに吹き飛ばされたオケアノスの方に意識を受けていると、そこをシーシェイブカスタムにより蹴り飛ばされた。ボールの様に床の上を跳ね、壁に叩き付けられたテテュスは腹と背中に走る痛みにその場で大きく咳き込んだ。

 

「げほっ!? ごほっ、ごほごほっ!?……くっ!」

 

 シールドレイズでは相手にならないと、テテュスはスピアーレイズになろうとホワイトライフコインを取り出した。例え強力な力を持つ敵であろうと、時間操作や未来予知で完全な先手を取れるスピアーレイズであれば何かをされる前に倒す事も可能だ。

 

 しかしスピアーレイズの存在はシーシェイブカスタムの方も警戒していた。テテュスが白いライフコインを取り出したのを見るなり、シーシェイブカスタムは複合兵装の銃口を明後日の方へ向けた。その銃口の先にあるのは、街の電力を支える発電施設。

 

「なっ!?」

「フフフッ、貴方は大変ねぇ? 態々街の電力の事とか考えなきゃいけないんだから」

「この、卑怯者――――!?」

「なんとでも仰いなさいな。私にとっては負け犬の遠吠えよ」

 

 体勢を立て直したオケアノスからの罵倒も柳に風と言った様子で、今にも派手にぶっ放そうとする姿を見せつける。これにはテテュスもそれ以上下手な動きを見せる事が出来ず、大人しくホワイトライフコインを手放した。

 

「くっ……」

 

 テテュスの手から落ちたライフコインがチャリンと小さな音を立てる。最大の懸念であったスピアーレイズが封じれた事にシーシェイブカスタムは仮面の奥で笑みを浮かべた。

 

「フフフフフッ! いい子ね、失敗作。それじゃ次は変身を解除してもらおうかしら? これからの貴方に、そんなものは必要無いわ」

「~~~~!?」

 

 ここで変身を解除すればそれこそお終いだ。その先はシーシェイブカスタムに連れ去られ、潜水艦で遠くに運ばれ倫理を無視した実験台にされる。そんなのは御免だが、この状況で彼女を刺激する訳にはいかない。

 

 已む無くテテュスが変身を解除しようとベルトに手を伸ばし、それを見ているしかないオケアノスが歯を食い縛り拳を握り締めていると…………

 

 突如として、何者かがシーシェイブカスタムに飛び掛かり手にした武器で発電施設に向けられていた複合兵装を切り裂いた。

 

「ハッ!」

「なっ!? くっ!?」

 

 真っ二つに切断された複合兵装に、シーシェイブカスタムは慌てて複合兵装との接続を切り明後日の方に向け投げ捨てた。破壊された複合兵装は発電施設からも離れた所で派手に爆発した。どうやら内部の機関や弾薬に引火して誘爆したらしい。

 

 その爆炎を背に、新たな襲撃者がシーシェイブカスタムを見据えていた。シーシェイブカスタムはその相手を知っている。

 

「お前は、あの裏切者の――――!?」

 

 そこに居たのは仮面ライダーヘテロ。嘗て傘木社の尖兵として作り出され、そして傘木社に牙を剥いた戦士であった。




という訳で第42話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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