仮面ライダーテテュス   作:黒井福

43 / 59
第43話:バースト、代償を支払う時

 突如現れた、仮面ライダーヘテロ。

 彼女の乱入によりシーシェイブカスタムだけでなくテテュスとオケアノスも動揺を隠す事は出来なかった。

 

「だ、誰?」

「S.B.C.T.……か?」

 

 見た事のない仮面ライダーに、状況も忘れて呆然と呟く2人にヘテロは武器を肩に担ぎながら答えた。

 

「ヘテロ……仮面ライダーヘテロよ。S.B.C.T.……ま、連中の仲間って事で」

 

「志村 希美ッ!?」

 

 テテュス達に己が何者なのかを告げるヘテロだったが、シーシェイブカスタムは忌々しいと言った感情を抑えず叫んだ。何を隠そう、ヘテロに変身している希美は傘木社関係者にとってある意味因縁のある相手だからだ。

 

「お久し振り?……って訳でもないわね。私、あんたとは1度も顔を合わせた事は無いもんね?」

「えぇ、そうね。でも私は貴方の事を知ってるわ、この裏切り者ッ!?」

「知ってるのはお互い様よ、深井 恭子博士。嘗ての傘木社海洋研究部門主任、研究の為に外洋に出てたとは聞いてたけど、そのまま雲隠れしてたなんてね。しかも態々別人に成りすまして……」

 

 ヘテロは話しながらテイルバスターを肩から降ろし、持ち方を変えて銃口をシーシェイブカスタムに向ける。それが銃撃の姿勢に移ったのだという事に気付くと、テテュスは慌てて彼女を制止した。

 

「待って待って待って!? ここ発電施設のすぐ近くなの! ここで銃とか使って、下手な所に当たったら電力止まっちゃう!!」

「ん……ん~……」

 

 テテュスの必死の訴えを聞き、改めて周囲を見渡せばヘテロの目にも巨大な機械が映った。あれが発電施設の一部である事が分かると、ヘテロは面倒くさそうに溜め息を吐くとテイルバスターを床に突き刺し拳を構えた。武器を使わず素手で戦うつもりらしい。

 それを見てシーシェイブカスタムはヘテロを小馬鹿にするように鼻で笑った。

 

「ふんっ! 腑抜けたものね、嘗ての幹部も。あんな物無視して力を振るえば、楽に勝てたかもしれないのにね!!」

 

 例え近くに発電施設があって、それが破損すれば街の住民に多大な被害が出るのだとしてもシーシェイブカスタムには関係ない。彼女の目的は瑠璃の身柄であり、それが確保さえできれば街が跡形も無く消し飛ぼうがそれ以外のものはどうでも良かった。

 

 それを証明する様に、シーシェイブカスタムはヘテロに腕部のマシンガンを向け銃撃を開始した。複合兵装の下にも元の武装は残っていたようで、両腕のマシンガンが火を噴きヘテロに向け銃弾が殺到する。今のヘテロの後ろには発電施設、回避すれば最悪破損し街の電力が消失してしまう。

 

 回避は出来ない攻撃……しかしヘテロはシーシェイブカスタムの銃撃を全く気にすることなく歩みを進めた。

 

「なっ!?」

 

 自身の攻撃が全く通用していない様子を見て、シーシェイブカスタムは思わず慄いた。彼女はヘテロの事を資料でしか知らないので、実際にこうして目にすること自体初めてだったのだ。

 

 ヘテロは嘗て、デイナの攻撃を全て無力化し逆に圧倒した事もある仮面ライダーだ。特に防御力は特筆すべきものがあり、鱗で覆われたアンダースーツと曲面装甲は敵の攻撃の殆どを無力化してしまう。

 

 シーシェイブカスタムの攻撃を意にも介さず、ヘテロは握り締めた拳を彼女の顔面に叩き付けた。

 

「フンッ!」

「がっ?!」

 

 顔面を殴り飛ばされ、壁に叩き付けられるシーシェイブカスタム。痛みと衝撃でのたうち回る彼女を睨みつけながらヘテロは告げた。

 

「馬鹿な事言わないで欲しいわね。そんな戦い方、あの子達に誇れる訳ないじゃないの。私はもう、昔みたいなことはしないわ」

 

 暗に犠牲を出すような戦いはしないと宣言するヘテロに、テテュスとオケアノスは完全に彼女が味方であると確信し彼女の元へ集まった。

 

「あの!」

「ん? あぁ、アンタ達がこの街の仮面ライダーね。話は聞いてるわ」

「アンタがS.B.C.T.の増援って奴か?」

「そう言う事。志村 希美よ」

「大梅 瑠璃、よろしく!」

「ネイサン・ジョーンズ、ネイトで良い。上の方はどうなった?」

「もうとっくに制圧済みよ。他の連中も下に来て、今は人質だった人達の解放と残りの敵の確保の真っ最中」

 

 状況は最早完全にシーシェイブカスタムに不利となっていた。S.B.C.T.は次々と地下施設に入り込んでおり、研究所は最早ほぼほぼ制圧されつつある。彼女も、このままだと目の前の3人の仮面ライダーに敗れた挙句逮捕されるだろう。

 

 そんなのは真っ平御免だった。

 

「艦長! これから退避するわ。出発の準備を!!」

『了解』

 

 拠点である潜水艦は下の方で施設と強引に接続している。シーシェイブカスタムが入れば、後は接続を切り離せばすぐに出発できた。その際に地下施設の方は海水の流入と水圧で圧壊する可能性があるが、そんな事はどうでもいい。寧ろその混乱で逃げる隙が出来る。

 

 勿論それを許すヘテロではない。相手が逃げるだろう事は既に予想済み。逃げる仕草を見せた瞬間、彼女はシーシェイブカスタムを取り押さえようと駆け出した。

 

「逃がすと思ってんの!」

「くっ!?」

 

 迫るヘテロを前に、シーシェイブカスタムは両腕の爪を伸ばして応戦した。振り回される爪をヘテロは防ぎ、時には回避して凌ぎ接近を果たすと武器である両腕を掴み明後日の方を向かせた。スコープ系列のライダーシステムであるシーシェイブは同様にパワーに優れている筈だが、まるで赤子の手を捻る様に腕を押さえ付けられシーシェイブカスタムは狼狽える。

 

「ぐっ!? なっ!?」

「捕まえた。さぁ、観念しなさい」

「こんな、所で!?」

 

 せめてもの抵抗にと、シーシェイブカスタムは自由な足で必死にヘテロの足や腹を蹴りつける。しかし力の乗っていないそんな攻撃が通用する訳も無く、ヘテロは平然とした様子だった。

 だが流石に煩わしいのか、喉の奥から唸り声を上げると後ろで見ている2人に援護を要請した。

 

「ちょっとアンタ達、見てないで手伝ってよ」

「え? あ、あぁ、うん」

 

 実は2人はヘテロの相手の攻撃を物ともせず突撃する戦い方に圧倒されていたのだが、それは敢えて黙って彼女の言葉に従いシーシェイブカスタムを取り抑えに掛かった。幾ら往生際の悪いシーシェイブカスタムであっても、仮面ライダー3人に取り押さえられては大人しくせざるを得ないだろう。

 

 そう思い左右からシーシェイブカスタムに迫る2人だったが、突如頭上からヌーベルファッジ・パドルが飛び掛かり2人を逆に取り押さえた。

 

「うわっ!?」

「こいつら、まだ!?」

「ッ!? ヌーベルファッジ?」

「その、改良型よ!」

 

 まさかここでヌーベルファッジが出てくるとは思っていなかったので、ヘテロはそちらに意識を向けてしまう。それを隙と見て、シーシェイブカスタムはヘテロに頭突きを喰らわせた。不意の頭突きは流石に効いたのか、ヘテロは衝撃に後ろに仰け反りシーシェイブカスタムから手を放してしまった。

 

「フンッ!」

「ぐぅっ?!」

「これも喰らいなさい!」

「ぎっ?!」

 

 バランスを崩し倒れそうになるのを堪えたヘテロだったが、そこにダメ押しでシーシェイブカスタムの爪による刺突が襲い掛かる。比較的防御が弱い腹を鋭い爪で刺し貫かれ、ヘテロの腹部から血が流れ落ちる。

 

「ぐぅ、あっ?!」

「甘いわね? 噂に聞いてた幹部のチミンとは思えない位だわ、と!」

「あがぁっ?!」

 

 ヘテロの腹から爪が引き抜かれ、零れ落ちた血が床を赤く染めていく。しかしそんな一目で分かるほどの重傷を受けたにも拘らず、ヘテロは倒れる事無く両の足で床を踏みしめ立ち続けた。

 

「ぜぇ、はぁ……ぐふっ……」

「しぶといわね……流石に実験動物として改造されただけの事はあるって事かしら?」

 

 皮肉な事だが、嘗て傘木社により施された希美への施術が結果的に彼女を強化しちょっとやそっとの事では死なない体にしてしまった。何しろ心臓を貫かれても生きて再生するだけの生命力を得てしまったのだ。今更腹を突かれた程度で動けなくなるほど脆い体ではない。

 

 だが痛みはしっかり感じるので、彼女は激痛に苛まれている。普通であれば痛みのあまり、ショックで意識を失ってもおかしくない位だ。

 それでも意識を失うことなくシーシェイブカスタムを睨み続けるのは、偏にヘテロの意志に強さによるものに他ならない。

 

「ぐっ……ふん、こんな事で、止まる私じゃないのよ」

「ん?」

「あの子達がこれから胸張って生きる為に、私が情けない姿を晒す訳にはいかないって話よ。アンタには分かんないでしょうけどね」

 

 全てはヘテロの……希美の帰りを待つリリィとレックスの為。あの2人が日の光の下で笑っていられるようにする為には、自分が過去の罪から逃げずに立ち向かい続けなければならない。その意地と覚悟が彼女を立たせていた。

 

 ヘテロの根性をシーシェイブカスタムは馬鹿にするように溜め息を吐いた。実際彼女からすれば、今のヘテロの姿は酷く滑稽に映った。

 

「分からないわね……」

「それがアンタの限界よ!」

 

 それまでヌーベルファッジ・パドルの相手をしていたテテュスとオケアノスだが、相手が1体であれば勝てない相手ではない。最初こそ奇襲で動きを押さえ付けられたが、気持ちが落ち着けば対処できない相手ではない。拘束を振り払うと2人は自分を取り押さえようとしていたヌーベルファッジ・パドルをシーシェイブカスタムの傍に放り投げた。

 

「私も、セラも……ううん、目に入る全ての人を見下してばかりのアンタじゃ絶対に分からないわ!」

「ついでに言うと、見下されてたのはアンタの方よ? 社長は全ての人を見下して実験動物と見てた。つまり、社長にとってはアンタも見下される実験動物って事」

 

 テテュスに続き放たれたヘテロの言葉に、シーシェイブカスタムは怒りに身を震わせた。己が実験動物と言われた事も、それを実験動物であった2人に言われた事も我慢ならないらしい。

 

「生意気な口を!? もういいわ! そいつらを殺しなさい!!」

 

 タイミング良く傍にヌーベルファッジ・パドルが居たので、これ幸いとシーシェイブカスタムは2体のヌーベルファッジ・パドルにテテュス達への攻撃を指示した。ここまで侮辱されたら、もう実験とかそう言うのはどうでもいいらしくテテュスに対しても捕獲ではなく殺害が命令された。

 

 シーシェイブカスタムの命令が飛んだと同時に、倒れていたヌーベルファッジ・パドルが立ち上がり殺気を放つ。身構えるテテュス達だったが、3人はふと違和感を覚えた。

 

 ヌーベルファッジ・パドルの殺気が自分達ではなく、シーシェイブカスタムに向かっているような気がしたのだ。いや、気がする所の話ではない。明らかに2体のヌーベルファッジ・パドルの視線はシーシェイブカスタムに向いている。

 

「……え?」

 

 違和感にはシーシェイブカスタムも気付いたらしい。周りを見渡すと明らかにヌーベルファッジ・パドルが自分に敵意を向けている。

 危険を察したシーシェイブカスタムは2体のヌーベルファッジ・パドルを交互に見ながらゆっくりと距離を取った。

 

「な、何をしているの? 標的は私じゃないわ、アイツらよ!」

 

 慌てて改めて命令を下すが、ヌーベルファッジ・パドル達はそれを無視してシーシェイブカスタムに襲い掛かった。

 これには彼女も慌て、転がる様に攻撃を回避すると爪を出して迎え撃つ構えを取った。

 

「何ッ!? どういう事ッ!?」

 

 困惑しながらも、襲い掛かって来るヌーベルファッジ・パドル2体を迎え撃つ。

 

 その光景をテテュス達は訳が分からないと首を傾げてみていた。

 

「え? 何? どうなってるの?」

「何かアイツらを怒らせるような事でもしたのか?」

「或いは制御を外れて暴走したか」

 

 嘗て傘木社に幹部として、研究員として所属していたヘテロは暴走の可能性を真っ先に考えた。実験の最中生み出したファッジが制御不能になり暴走したのを鎮圧したこともあるし、彼女自身も制御を外れ暴走した経験がある。彼女からすれば、ファッジを始めとした生物兵器などというものは常に暴走の危険が付いて回る極めて不安定な兵器と言うのが印象だった。

 

 そんな事を考えながら見ている前では、シーシェイブカスタムが2体のヌーベルファッジ・パドルと互角に戦っていた。2対1で互角に戦えている当たり、あの博士も案外腕は立つのかそれとも装備が優秀なのか。

 しかしいつまでもこうしてのんびり見ている場合ではない。このまま奴らを戦わせて、戦闘の余波で発電施設が破壊されては目も当てられない。そろそろこちらから戦闘に介入して鎮圧するべきかと考えたその時…………

 

『まぁまぁ使えるじゃないか。混ざりものも、悪くはない』

「!? 誰!!」

 

 突如聞いた事のない声が響いた。まるで口にコップを当てて喋ったかのような、ぼんやりとくぐもった声。その声に3人が弾かれるようにそちらを見ると、そこには見た事もないディーパーらしき怪人――ラブカ・ディーパーが佇んでいた。

 

「こいつ、喋る奴だぞ!? あのシーラカンス野郎と同じだ!」

「喋る奴って珍しいの?」

「少なくとも1体しか知らねぇ。アイツ以外はな」

「ッ!? 見てあれ!?」

 

 ついこの間退ける事に成功した強敵と恐らく同格のディーパーの出現に身構える中、テテュスはそいつがあるものを抱えていることに気付いた。

 

 それは恭子が後生大事に持ち運んでいた、ラハブと言う人型ディーパーの頭部であった。テテュスが指さすと、ラブカ・ディーパーは抱えているラハブの頭部を愛おしそうに撫でた。

 

『いい加減そろそろ、返してもらおうと思ってね。この方もそれをご所望だ』

 

 物言わぬ頭部を大事に抱えるラブカ・ディーパーに、命令を聞かずに自分に襲い掛かって来ていたヌーベルファッジ・パドルを何とか始末したシーシェイブカスタムが気付き声を荒げた。

 

「なっ!? それを返しなさい!? それは私の研究サンプルよ!!」

『冗談を。これは我が主の一部。それを何時までも持ち逃げするどころか、混ぜ物に使用するなど言語道断。さぁ我が主よ、不敬な者に鉄槌を』

 

 まるでラブカ・ディーパーの言葉に促されるかの様に、ラハブの目が開かれるとそれを合図に周囲から次々とヌーベルファッジ・パドルが姿を現した。牙を剥き出しにして唸るヌーベルファッジ・パドルは、テテュス達とシーシェイブカスタムに敵意を向け今にも襲い掛かろうとしている。

 

「くっ!? なんてこと……あれの細胞を使ったのが裏目に出るなんて――!?」

 

 シーシェイブカスタムは仮面の奥で苦虫を嚙み潰したような顔をするがもう遅い。過去の行いを無かったことになど出来ないのだから。

 

 今にも襲い掛かって来そうなヌーベルファッジ・パドルを前に、テテュス達は互いに背中合わせになった。コイツ等は姿を消せる。背中を無防備に晒す事だけは絶対に避けなければならない。

 

 ヘテロは周囲を警戒しつつ、近くに突き刺しておいたテイルバスターを手に取った。自分達を取り囲むほどの数を相手に、流石に無手では少々厳しい。発電施設への被害を抑える事を考えて、銃撃は使えないが剣としてだけでも十分に力を発揮できる。

 

 テテュスは改めてスピアーレイズにレイズアップし、オケアノスもテンペストウィップを手に構えを取る。

 ラブカ・ディーパーはそれを待っていたかのように、指を鳴らして合図を送った。

 

「ガルァァァァッ!」

 

 一斉に襲い掛かって来るヌーベルファッジ・パドル達。爪と牙、さらには尾の先端の刃までをも用いてテテュス達をズタズタにしようと向かってきた。

 

 それに対し先手を取ったのはスピアーレイズのテテュスであった。テテュスは槍を連結させ回転させると、時間操作を発動し周囲の時の流れを遅くした。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 スピアーレイズのこの時間操作は見た目ほど長い時間時間の流れを遅くすることはできない。体感で精々数秒から数十秒と言ったところだ。それ以上長い時間操作する事も出来なくはないが、その場合体力を著しく消耗してしまう。なのでテテュスは体力の消耗が大きくなる前に可能な限り自分達に迫るヌーベルファッジ・パドルを蹴散らしておいた。

 

 そのテテュスの頑張りの甲斐もあって、時間の流れが元に戻った時には群がるように迫って来ていたヌーベルファッジ・パドルは多くが首や胴体を切られ倒れ伏していた。

 

「は? え?」

「! ボサッとすんな、今だ!」

 

 スピアーレイズの時間操作能力を知らないヘテロが一瞬困惑したが、オケアノスに腋を肘で突かれ気を取り直すとテイルバスターを手に突撃した。

 

「ハァッ!!」

 

 ワニの尾の様にギザギザの刃が付いた剣が振るわれると、ヘテロに飛び掛かろうとしていたヌーベルファッジ・パドルが次々と切り裂かれる。突出したヘテロに他のヌーベルファッジ・パドルが襲い掛かるが、それらはオケアノスのテンペストウィップが全て叩き落した。鞭で打たれ、衝撃でひっくり返るヌーベルファッジ達に、槍を分割させたテテュスが迫る。

 

「ハッ! フッ!」

 

 連結させた時に比べれば格段に短くなり取り回しの良くなった槍をテテュスが縦横無尽に振るえば、立ち上がろうとしたヌーベルファッジは成す術なく倒される。

 

 だが気を付けなければならないのは、乱戦の最中に姿を消して不意を打とうとする奴の存在だ。他の奴の相手に夢中になっている間に、擬態した状態で近付かれては気付くことなど出来ない。

 

「!! ネイト後ろ!」

 

 とは言えそれはテテュスがスピアーレイズ以外を使用していた場合の話だった。スピアーレイズのテテュスは定期的に短い先の未来を見て、擬態したヌーベルファッジが誰の不意を打とうとしているかを先読みして警告する事で不意打ちを防いでいた。

 その警告のお陰でオケアノスは無防備な背中を攻撃される前に、先んじて攻撃する事で逆に背後から迫っていたヌーベルファッジを倒す事が出来た。

 

 テテュス達3人が順調に敵の数を減らしている間、シーシェイブカスタムもまた1人周囲から迫るヌーベルファッジへの対応に追われていた。

 

「このッ!? 使い捨ての兵器の分際でッ!?」

 

 シーシェイブカスタムは苛立ちながらも両腕の爪を振るい次々とヌーベルファッジを切り裂いていた。テテュス達に比べ彼女は1人なのでどうしても背後を突かれる事はあるが、強化前に比べてパワー・装甲共に上昇している為ヌーベルファッジの攻撃如きではその動きを止める事も出来ない。寧ろ下手に攻撃すれば標的がそちらに移り、次の瞬間にはズタズタに引き裂かれる結果となっていた。

 

 テテュス達に比べれば、効率は悪いがシーシェイブカスタムも自分に降りかかる火の粉は着実に払えていた。

 

 しかし彼女とテテュス達では、どちらの方が戦うのが楽かは明らかだった。

 

『ハッ!』

「ぐっ?!」

 

 ヌーベルファッジ達の間を縫うようにして飛び出したラブカ・ディーパーが、ドロップチップから作り出した杖でシーシェイブカスタムの脇腹を殴った。不意を打たれたシーシェイブカスタムは強烈な殴打により吹き飛ばされ、床の上を転がり壁に叩き付けられた。

 

「がふっ!?」

『さて、貴方には今まで我が主を好き放題してきたツケを払ってもらいますかね?』

「くぅ、舐めないでもらえるかしら!?」

〈Blast mode, set〉

 

 シーシェイブカスタムが奥の手であるブラストモードを使用した。高温の体は周囲の床や壁を焼き、襲い掛かろうとしたヌーベルファッジ・パドルは熱で表皮を焼かれ悲鳴を上げて距離を取る。

 

 邪魔な奴らが近付いてこなくなったので、シーシェイブカスタムは赤熱化した爪でラブカ・ディーパーを細切れにしようと駆け出した。

 

「お前も私の実験サンプルにしてあげるわ!!」

 

 高温の爪でラブカ・ディーパーを切り裂こうとするシーシェイブカスタムだったが、振り下ろされた爪をラブカ・ディーパーは手にした杖で軽々と受け止めてしまった。

 

 そして片腕でシーシェイブカスタムを振り払うと、杖を向け先端から大量に放水してシーシェイブカスタムを押し返した。

 

「なっ!? く、あっ!?」

 

 高温となっているシーシェイブカスタムではあったが、水流は強く蒸発した先から次々と迫る水に押されてしまう。それでも何とか堪えたシーシェイブカスタムではあったが、全身が高温になっている為水はあっという間に蒸発し高温の水蒸気となって視界を塞いだ。

 

 周囲を水蒸気が満たすと、ラブカ・ディーパーは放水を止めた。しかしシーシェイブカスタムは依然としてその場を動けずにいた。高温の水蒸気により、通常の視界だけでなく熱探知の視界すら塞がれたのだ。これでは動こうにも動けない。

 

「でもそれは向こうも同じな筈。大丈夫、何も恐れる事は……」

 

 落ち着いてどっしり構えようとしていたシーシェイブカスタムだったが、出し抜けに振り下ろされた杖が頭を殴りつけた。予想外の一撃にシーシェイブカスタムは受け身も取れずに勢いよく床に倒れた。

 

「あがっ!? な、何……?」

『我々を舐めないでいただきたい。音さえ聞こえれば、そちらの居場所など容易に捉える事が出来るのですよ』

 

 ラブカ・ディーパーはそう言って何度も杖を振り下ろしシーシェイブカスタムを殴りつけた。恐ろしい事に奴は未だブラストモードを使用しているシーシェイブカスタムに、表皮を焼かれているにも拘らず平然としている。

 

 テテュス達が状況を把握できるようになったのは、幾分か時間が経ち水蒸気が晴れてからだった。その間3人は互いに背中合わせになり、水蒸気の中迫ってくるヌーベルファッジ・パドルを地道に迎え撃っていた。

 

「えっ!? 博士やられてる!?」

「あの野郎、熱くねえのかよ!?」

「ん!? 2人ともよく見て、アイツの足元!」

 

 ヘテロが指さした先には、ラブカ・ディーパーの足元が何らかの液体で水浸しになっているように濡れている光景があった。

 奴が高温のシーシェイブカスタムの傍で平然としていられたのは、体から次々と粘液を放出しているからだった。恐らくは脂肪分を含んだ断熱性の高い粘液を次から次へ汗以上に垂れ流す事で熱をシャットアウトしているのだろう。ハイギョが乾期を耐える為、自らの体を粘液で包むようなものだ。

 

 そうこうしている内に、シーシェイブカスタムのブラストモードが時間切れとなり通常モードへと移行した。その頃にはラブカ・ディーパーに殴られまくった影響で、シーシェイブカスタムの装甲は罅割れボロボロとなっていた。

 

「あぐ……あ、が……」

『ふむ……』

 

 シーシェイブカスタムからの抵抗なさそうだと見ると、ラブカ・ディーパーは杖をドロップチップに戻して取り込み空いた手で彼女の首を掴んで持ち上げた。

 

「ぐぁっ!? が……かっ!?」

 

 首を絞められながら持ち上げられ、シーシェイブカスタムの口から苦しそうな声が上がる。ラブカ・ディーパーはそんな彼女を上から下までじっくり見ると、徐に首から手を放しそのまま素早く拳を握ると彼女の腰のドライバーを殴って破壊した。

 

「がはぁぁっ?!」

 

 ドライバーを破壊され、吹き飛ばされながら血浸が解除される恭子。彼女は通路へと続く扉の傍に飛ばされると、壁に手をつき何とか立ち上がった。

 

「こんな……こんなぁ……」

『なるほど、なるほど……お前にもキャリアーの素質があるらしいな。折角だ、お前にはこれまでのツケとして我が主の種を植え付けさせてもらおう』

「そうはさせるもんですか――――!?」

 

 恭子は徐に懐からリモコンを取り出すと躊躇なくそれのスイッチを押した。するとまだ周囲に残っていたヌーベルファッジ・パドルが次々と爆発し始めた。

 

「何だッ!?」

「あの女、コイツ等に自爆装置を埋め込んでたのねッ!?」

「発電施設がッ!?」

 

 幸いにして爆発は見た目ほどの威力は無かったらしく、派手に肉片などが飛び散りはしたが発電施設は損傷する事は無かったらしい。だがその混乱は恭子を逃がす為の隙を十分に作ってくれたらしく、通路を見れば既に扉は開け放たれ彼女の姿は影も形も無かった。

 

『逃がしませんよ』

 

 逃げていった恭子を追うべく、ラブカ・ディーパーは扉の奥へと向かって行った。テテュス達も慌ててその後を追う。現状敵が潰し合ってくれるのは構わないが、あの博士からはまだまだ聞かねばならない事がある。最悪でも生きていてもらわなければ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ――――!!」

 

 背後からラブカ・ディーパーとテテュス達が追っている事を察し、恭子は傷付いた体で必死に走りながら潜水艦に連絡を取った。

 

「私よ! 発進準備を整えなさい、今すぐに!!」

 

 潜水艦が接続している区画まではもう直ぐ。そこに辿り着きさえすれば逃げ切れると考えていた恭子だが、通信機の向こうから聞こえてきたのは了解を示す言葉ではなかった。

 

『それどころではありません博士!? ディーパーが、怪物がッ!? ヒッ!? うわぁぁぁぁぁぁっ?!』

「な、あ……」

 

 通信機の向こうからは無数の悲鳴が聞こえてきた。

 

 彼女が拠点としてきた潜水艦は、現在進行形でディーパー……それもその親玉であるラハブの体からの襲撃を受けていたのだ。

 潜水艦に取りついたラハブの肉塊は穴を開けた潜水艦の内部に何体ものディーパーを放ち瞬く間に艦内を制圧していた。

 

 逃げ場が無くなって唖然としている恭子の前で、何かが扉を破壊して出てきた。それは潜水艦から延ばして地下施設にまで伸びてきたラハブの肉塊の触手だった。

 

「ヒッ!?」

 

 慌てて踵を返して逃げようとする恭子だったが、彼女の背後には追いついたラブカ・ディーパーが立ち塞がっていた。掲げるように持ち上げられたラハブの頭部と目が合い、思わずその場で足を止めてしまう。

 

 それを見逃すラハブではなく、伸ばされた触手が次々と彼女の体に巻き付いた。

 

「しまっ!? や、イヤッ!? 離してッ!? 誰かッ! 誰か助けてッ!?」

 

 必死に助けを求める恭子の姿を、追いついたテテュス達が目にするももう遅い。テテュスと恭子の目が合った次の瞬間、彼女は通路の奥へと引き摺り込まれていった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

「あぁっ!?」

 

 恭子の悲鳴が通路の奥へと消えていく。それを見ているしか出来なかったテテュスに、ラハブはゆっくりと振り返った。

 

『それでは、これにて失礼。ですが、貴方にはまた会いに来ますのでそのつもりで』

「な、何で?」

『貴方は最良のキャリアーですので』

「何よそれ? キャリアーって何なの!!」

 

 一体奴らが何を目的にしているのか分かるかもと思い質問するテテュスであったが、ラブカ・ディーパーが答えるよりも通路の先から大きな振動が響くのが先であった。

 

 見ると通路の先から大量の水が迫ってきている。遂に浮いていられなくなった恭子の乗ってきた潜水艦が沈み、接続が切れた所から大量の海水が入り込んだのだ。

 

 このままでは地下施設は水没し、最悪海都自体が沈んでしまう。そう危惧したテテュスの手を、ヘテロが引っ張った。

 

「何してんの、さっさとこっち!!」

「でも、このままじゃ!?」

「分かってる!!」

 

 説明する時間も惜しいとテテュスをヘテロが引っ張っていく。何が何だか分からずオケアノスもその後に続くと、ヘテロは徐に近くの壁に取り付けられた小さなハッチを引き千切る様に開けた。

 

 見るとハッチの中には赤いレバーがある。ヘテロは躊躇せずそのレバーを下ろした。

 

「間に合えッ!」

 

 ヘテロがレバーを下ろすと、警報が鳴り隔壁が降りてきた。その勢いは早く、海水が彼女達に届く前に完全に閉まり海水の流入を防いだ。

 

「あ、危なかったぁ……」

「お前なんでこんなの知ってたんだよ?」

「寧ろ何であんた達これの事知らないの? ここ海中よ? 非常事態を想定して浸水と圧壊を防ぐ為の緊急装置があって当たり前じゃないの」

 

 ヘテロは海都に辿り着くまでの間に、最悪の事態が起こった場合の対処法を事前に頭に叩き込んでおいた。ここら辺は嘗て傘木社でファッジなどの暴走を想定すべく存在した保安警察のトップの一員だった頃に培われた思考だろう。非常事態に最小の被害で事態を収める手段は常に頭に叩き込んでおくと言う癖の様な物が付いていたのだ。

 

 テテュスとオケアノスは海都で活動しているが、立場は飽く迄民間だ。だからそう言う装置の存在までは知らなかった。言い訳をさせてもらえば、2人の担当は主に地上部分で地下は基本的にS.B.C.T.の担当だった。だから緊急隔壁閉鎖装置の事を知らなくても仕方ないのかもしれないが、最悪の事態を考えてこう言った装置の存在を把握しておかなかったのは2人のミスだろう。

 

 ともあれ、これで事態は一応の終息と見ていいだろう。恭子によりヌーベルファッジ・パドルは全て処分され、アントファッジも軒並み確保されるか死亡した。首謀者であった恭子も恐らく生きてはいないだろうから、これで海都は本当に傘木社残党の魔の手から解放された事になる。

 

 しかし、安心するのはまだ早いだろう。

 

 何しろ今度は再び、ディーパーの脅威に晒される事になるかもしれないのだから。




という訳で第43話でした。

恭子に遂に裁かれる時が来ました。今まで好き放題してきた代償を、文字通りその身で贖う事となりました。しかもその相手が、今まで自分が研究対象にしてきた相手だと言うのだから皮肉なものです。好き放題する悪の科学者の最期ってのは、大体こう言うのって相場が決まってると思います。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。