仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第46話:リフル、揃う役者

 時は遡り、洋上を行くシルバーレガシー号。

 

 航行中も日夜フランシス・エド・バーツの3人の指揮の元、子分達が忙しなく駆けずり回る船内で、ただ1人の女性である海羽が甲板に出て左手に持ったフライパンに右手に持ったお玉を叩き付けた。

 

「ほら皆! ご飯よっ!!」

 

「「「は~い!」」」

 

 フライパンとお玉がぶつかる音を合図に、船員が全員集まってくる。

 

 この船に当分厄介になる事になった海羽には、当然ながら仕事が割り当てられた。なし崩し的に乗せる事になった彼女だが、決して客人ではない。人手は1人たりとも無駄には出来ないのだ。

 何よりこれは海羽自身が望んだ事である。何もしないでいるのはやはり不安だったし、バーツ達にも申し訳ないという事で自分から働かせてくれと頼んだのだった。

 

 彼女に任されたのは船員達の腹を満たす食事であった。これまでは船員達が交代で担当していた食事番だが、当然と言うべきか彼らの中に料理の心得がある者はいなかった。エドワードは多少齧ってはいたが、そんなに大したものは出来ない。結果日々の食事はハムやベーコンをそのままだったり、インスタント食品などで済ませる事が多かった。

 

 そんな状況でやってきた海羽は、彼らの食事事情を大幅に改善した。仕事で港に立ち寄った際に彼女は保存食としてのハムやチーズに加え、生の野菜や肉も買い込み片っ端から冷蔵庫にぶち込んだ。そしてそれらを用い、店の手伝いで培った料理の腕をフル活用して船員の腹を満たす料理を振る舞ったのだ。

 

 これが今まで雑多な食事で済ませていた彼らには衝撃であり、一発で胃袋を掴まれた彼ら、特に子分らは海羽に崇拝に近い念を送っていた。

 

「いやぁ、姐さんが来てくれて本当に良かったな!」

「だな! 前じゃ考えられない飯ばかりだしよ」

「姐さん、このままこの船に居てくれないかなぁ?」

 

 口々に海羽を絶賛しながらパンやスープ、サラダをかき込んでいく船員達。その様子をバーツは憮然とした顔で眺めていた。

 

「ったく、アイツら……あっさり胃袋掴まれやがって」

 

 あっという間に海羽に靡いていった船員にバーツは面白くなさそうな顔をしながらスープを啜った。その左右では、同じくエドやバーツが舌鼓を打っていた。

 

「まぁそう言うな。あの嬢ちゃんが美味い飯を作ってくれてるのは事実なんだし」

「そうだ。今までとは雲泥の差のクオリティの飯を作ってくれるなら、これほどありがたい事は無い」

「だからってなぁ……」

 

 子分達の姿にどこか情けなさを感じたバーツはそう言って渋るが、フランシスとエドは知っている。この場の誰よりも海羽に入れ込んでいるのは他ならぬバーツであるという事を。

 

「ほほぉ? その割には、お前あの嬢ちゃんと仲良さそうじゃないか?」

「え? 何が?」

「知らないと思ってるのか? あれからほぼほぼ毎晩、お前の部屋にあの嬢ちゃんが来てる事を」

 

 エドワードの指摘にバーツの動きがピタリと止まる。そして錆びたブリキ人形の様にギギギ、と左右の兄貴分達を見れば、2人の目には生暖かくも厭らしい笑みが浮かんでいた。

 

「兄貴達、まさか……」

「安心しろ。覗く奴も聞き耳立てる奴もこの船には居ないしさせてないから」

「高い船で良かったな? お陰で防音もばっちりだ」

 

 つまりはそう言う事だった。洋上の船と言う閉鎖空間の中で海羽はバーツへの好意を抑える事が出来ず、また故郷から1人遠く離れて何時帰れるかも分からないという不安を紛らわす為バーツの部屋に入り浸っていたのだ。

 

 バーツは一応海羽との逢瀬は隠してきたつもりだったが、どっこい他の船員達には筒抜けだったらしい。

 ふと見れば海羽にも3人の会話は聞こえていたのか、俯いて耳まで真っ赤にしていた。それを見てバーツも居た堪れなくなり、顔を赤くして頭を抱えた。

 

「ぐぅぅ……」

「バーツ、頑張れよ」

「兄ちゃん達は応援してるからな」

「うるせぇ、馬鹿兄貴共……」

 

 左右から置かれた手を払う気力も無く、バーツは羞恥との戦いを余儀なくされた。その間に口に運んだ料理の味を、感じるだけの余裕は彼にはなかった。

 

 そんな日々を送り、ある日の朝。

 

「ふぅ~……」

 

 バーツは日が昇ると同時に最上階の甲板に出て水平線の彼方を眺めた。天候は今日も快晴、雲一つない空を水平線から昇った太陽の光が照らしていく。

 

 普段であれば1人静かに遠くを眺めていたバーツだが、この日は何時もと違った。バーツの後を追って海羽が梯子を上り彼の隣に近付いた。

 

「何か見える?」

「いや、何時も通りの静かな海だ」

「そっか」

 

 それから2人の間に会話は無い。だが海羽は、そっとバーツの隣で彼の腕を抱きしめた。まるで寂しさを紛らわす様に。

 

「どうした?」

「うん……お父さんや瑠璃姉ぇ、元気にしてるかなって……」

 

 こうしてバーツと一緒に居ると、一時だが海羽は寂しさも何もかもを忘れられた。彼と居ると心が満たされた。だからだろうか。最早連日連夜彼の部屋を訪れ、彼に抱いてもらい寂しい気持ちを紛らわしていたのは。

 勿論そこには純粋にバーツを好きで、何時かくる別れを惜しむことが無いようにと時間が許す限り彼との濃厚な時間を心に刻もうという気持ちはあった。好きだからこそ、ここまで入れ込み入り浸っているのだ。

 

 こんな自分を見たら瑠璃は何と思うだろうと、海羽は思わず夢想した。呆れるか、叱るか、それとも温かい目を向けてくれるか。

 

「……なぁ、海羽?」

「ん?」

 

 暫し寄り添い合って海を眺めていた2人だが、不意にバーツが口を開いた。海羽が彼に目を向けると、彼は声を掛けたにも拘らず何やら言い淀んでいる。急かすことなく海羽がバーツの顔を見つめていると、彼は意を決してゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「……近い内に、海都の方に行けるらしい。やっと予定が出来た」

「!? そっか……もうすぐ、お別れか……」

 

 心なしか海羽がバーツの腕を抱きしめる力が強くなった。やっと家に帰れるというのに、海羽の胸を占めているのは嬉しさではなく寂しさだった。決して帰りたくない訳ではないのだが、同時に彼との別れの時が近付いてきた事を惜しんでいたのだ。

 

 この日々がずっと続けば、等という事は無い。今だって家に帰って、瑠璃や鉄平に甘えたいという気持ちはある。だが、しかし…………

 

「ねぇ、バーツ……」

「ん?」

「偶にはさ、海都に遊びに来てよ」

「時間が合えばな」

 

 その言葉を最後に、2人は言葉を交わさず互いの顔をジッと見つめ合った。

 

 そして、どちらからともなく顔を近付け――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、太平洋のど真ん中……嘗て太古の地球で飛び抜けて発達した文明を持つムー大陸が存在した地に、ラブカ・ディーパーが恭子から取り戻したラハブの頭を手土産に戻ってきていた。

 

 海底に沈んだ廃墟の中に鎮座しているラハブの体は、僕が己の失われていた体の一部を持ってきた事に声の無い歓喜の声を上げ両手を広げて迎え入れる。ラブカ・ディーパーはそんなラハブに近付き、取り戻したラハブの頭部を恭しく差し出した。

 

『どうぞ、我が主よ……』

 

 ラブカ・ディーパーが頭部を差し出すと、ラハブの体はそれを奪い取る様に受け取った。体が頭部を掴むと、触れ合った瞬間それまでピクリとも動かなかったラハブの顔が目をカッと見開き口を大きく開けて狂喜したような笑みを浮かべた。

 

 そのまま体は失われていた部位に、僕が取り戻してきた頭部を戻した。頭を体に近付けると、両方の切断面から触手が伸び絡まり合い、引き寄せ合って接着した。

 

『おぉぉぉぉぉ…………!』

 

 主の体が元通りになっていく様子に、ラブカ・ディーパーが喜びの声を上げる僕の喜びの声を聞きながら、ラハブはここに復活を果たした。

 完全な体を取り戻したラハブは、暫しくっついた首を押さえながら右に左にと頭を捻り首の様子を確かめる。そして何も問題が無い事を確認すると、鱗のある人間の様な顔を笑みの形に歪めた。

 

『ふ、はははははははっ! 遂に! 遂に戻ったぞ、我の体が!! よくやったぞ、クラム!』

『お褒めに与り、光栄の極み。つきましては……』

『皆まで言うな、分かっている』

 

 言うが早いか、ラハブは腰から下の肉塊を開きシーラカンス・ディーパーの時と同じようにラブカ・ディーパーを触手で引き寄せ取り込んだ。ラブカ・ディーパーはそれを抵抗もせずに受け入れ、喜びと共に触手の海に飲み込まれていった。

 

 僕を取り込んだラハブは、力を全身に染み渡らせるように体を震わせた。すると全身の筋肉が膨らみ、押さえきれない力が溢れ出るオーラの様にラハブの体から揺らめき立った。

 

『さぁ、永い眠りの時は終わりだ。我が悲願を、この時代に!!』

 

 ラハブが海面に向けて掌を突き出すと、強力なエネルギーの奔流が伸びて行き、枝分かれして嘗てのムー大陸全域に降り注いだ。

 

 太古の昔、太古のテテュス達が死力を尽くして施したラハブの封印。それが今破られた。封印が破られた事で、それまで何者をも近付けないようにと沈んでいた広大な大陸が浮上し始める。

 

 地響きを聞きながら、ラハブは歓喜の声を上げた。

 

『世界を、我が手に!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唇が触れ合う瞬間、海羽とバーツは足元から奇妙な振動が伝わってきたことに気付き思わず下を見た。

 

「え、何?」

「地震? な訳ないよな?」

 

 海の上で地震など聞いた事も無い。ここは陸地ではないのだから。

 だが現実に足元が揺れている。それどころか、揺れは徐々に大きくなってきていた。

 

 これはマズイかもしれない。バーツが嫌な予感を感じた次の瞬間、通信機から焦ったフランシスの声が響いた。

 

『バーツ!? 何かに掴まれ!!』

「何だ? 何が起こった!?」

『下から何かが、うぉぉっ!?』

 

 何が起こったのかを詳しく聞く前に、一際大きな振動が船全体を襲った。振動だけでなく船が横倒しに倒れそうになる。バーツは慌てて片手で柵を掴むと、もう片方の手で海羽の体を掴んだ。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「海羽、掴まれ!! ぐぅっ!?」

 

 あっという間に船は横倒しになり、バーツは片手で自分と海羽の体重を支えた。腕が悲鳴を上げ、一瞬千切れそうになるのを気合で堪えていると海羽が自分の手で柵を掴み体を引っ張り上げた。

 それを見てバーツも両手で自分の体を支えた。

 

「ぐぅ……海羽、大丈夫か?」

「うん、バーツは?」

「気にするな。それより、一体何が……!?」

 

 柵にしがみ付き体を固定させた2人は、一体何が起こったのかと周囲を見渡す。

 

 そこで2人は信じられないものを見た。

 

「な、何だこれッ!?」

「海が無くなってくッ!?」

 

 2人の眼下で、先程まで遠い彼方の先まで広がっていた海が引いて行き陸地が顔を見せていた。まるで海の水がどこかに流れ込んで無くなっているかのようだったが、そうではない事にバーツが気付いた。

 

「いや違う、海が無くなってるんじゃなくて下から陸地が上がって来てるんだ!」

 

 シルバーレガシー号が居た場所はムー大陸の真上であり、そのムー大陸の封印が解かれ浮上した事で彼らは船ごと陸の上に上げられてしまったのだ。

 

 程無くして揺れは収まり、落ち着きを取り戻した2人は横倒しになった船から脱出する。柵を伝って、傾斜が厳しい位傾いた床の上を滑り、船内に戻ると壁と床の違いが曖昧となった船内を進んでいく。取り合えず目指すべき場所はフランシス達が居るブリッジだ。

 

「兄貴、無事か?」

「皆、大丈夫?」

「おぉ、バーツに嬢ちゃん。2人も大丈夫だったか」

「こっちは何とかな。騒ぎで怪我した奴が何人か居るが、大した事は無い」

 

 取り合えず船員に大事ある者はいないらしい。海羽はその事に安堵し胸を撫で下ろす。

 

「一体何が起こったんだ?」

「分からん。いきなりソナーが下から来た何かで埋まったかと思ったらこの有様だ」

「いきなり陸地が上がったみたいですけど、そんな事あるんですか?」

「ないな。仮に海底火山が活発化したとしてもこんな事にはならない」

 

 普通に考えればありえない事態だが、そのあり得ない事態が起こっている。その事に誰もが頭を悩ませた。

 

 その時、海羽がある事に気付いた。

 

「……あれ?」

「どした、海羽?」

「ねぇ、GPS戻ってない?」

「何?」

 

 海羽が指さした先では、大きく傾いた計器のGPS機能が復活している事を示していた。先程まで居た場所は電波妨害が酷くてロクに機能していなかった筈なのに何故?

 

 彼らは知る由もないが、今までこの海域の電波に悪影響を及ぼしていたのは、ラハブが封印を破ろうと抵抗していたからである。ラハブの抵抗が徐々に強くなっていった結果、電波障害が起こる海域が広がっていたのだ。

 それが、封印が解かれた事で電波障害も無くなり、GPS等も正常に機能するようになった。

 

「とりあえず、どうする?」

 

 よく分からないが、これで通信機以上の長距離通信も可能になった。今なら何処かに救助を要請する事も出来る。

 

「まずは状況の確認だな。エド、船内の様子を見て来てくれ」

「分かった」

「バーツはちょっと外に出て、周囲の状況を確認してくれ。ここがどういう場所なのか知りたい」

「任せろ」

「あ、私は?」

「嬢ちゃんはとりあえず飯の用意だな。まずは腹ごしらえだ」

「はい!」

 

 フランシスの指示の元、全員がキビキビと動き出す。間抜けなへまをする事も多いフランシスだが、曲がりなりにも彼はこの船の船長。こういった時一番頼りになる人物であることに間違いは無かった。

 

 指示を受けて、海羽はブリッジを離れてキッチンへと向かう。大きく横倒しになった船内の移動は大変で、普段なら気にもしない曲がり角も意を決して滑り降りたりしなければならない事もあったがそれでも何とかキッチンへと辿り着く。

 

 案の定と言うか、キッチンも酷い有様で食器や調理器具が散乱していた。海羽は割れた食器などで怪我をしないように気を付けながら、冷蔵庫に手を掛け中身を確認した。

 幸い、冷蔵庫の中は大して荒れてはいなかった。食材の幾つかはシャッフルされていたが、別に食えない事は無い。

 

「問題は、火よね」

 

言うまでもないがこんな状況では調理など出来ない。コンロはあらぬ方向を向いている為使い物にならなかった。

 だがバーツを始めとした船員達は腹を空かせている。何とかして彼らを満足させることは出来ないかと考えた海羽の目に、無事なパンの塊が見えた。

 

「今はこうするしかないか」

 

 海羽は傾いたキッチンでパンを掴み、手頃な大きさにカットするとそれに冷蔵庫の中の食材を挟んで簡単にサンドイッチを作った。これなら軽く包むだけで全員に持って行ける。

 テキパキとサンドイッチを作っていき、十分な数が出来上がるとそれを包んで持って行く。ここで海羽はどうやって船員達に配って回るかで少し迷ったが、近くを探して手頃なバスケットを見つけたのでそれにサンドイッチを入れて船員達に配った。

 

「よいしょ、と。大丈夫?」

「あ、姐さん!」

「そっちも無事で?」

「えぇ。それよりこれ、朝ご飯。食べれる時に食べといて」

「ウッス!」

 

 船内で安全確認・被害状況の確認作業を行っている船員達にサンドイッチを配って回り、ブリッジにも持って行った。

 

「フランシスさん、ご飯です」

「おぉ! 助かるぜ嬢ちゃん」

「すまないな」

 

 ブリッジにはフランシスを始め、エドワードと子分が2人ほど居る。が、バーツの姿は見当たらなかった。

 海羽は彼らにサンドイッチを配りながら、バーツの行方を尋ねた。

 

「あの、バーツは?」

「あぁ、アイツならまだ外だ」

「今のところ異常は無いみたいだぞ」

 

 フランシス達に話を聞いた海羽は、彼らの分のサンドイッチを配り終えるとバーツの元へと向かった。陸地に乗り上げた状態の船から地上に降りるので多少苦労したが、それでも何とか陸地に降り立つと外の探索をしているバーツを探した。

 

「んしょ、と。ふ~……あれ? バーツ?」

 

 バーツは外に居るという話だったが、いざ外に出てみると彼の姿は見当たらない。海羽は彼の姿を探して船の周りをぐるりと回ると、海羽が降り立った場所から船を挟んで反対側にバーツの姿があった。彼は顔に双眼鏡を当て、遠くの景色を見ている。

 

 そんな彼に近付き、海羽はバスケットの中に残ったサンドイッチを渡した。

 

「バーツ、はい。朝ご飯」

「ん? あぁ、悪い」

 

 バーツはサンドイッチを受け取ると、齧りながらまた双眼鏡で遠くを眺めた。何がそんなに気になるんだろうと首を傾げつつ、海羽も自分の分のサンドイッチを取り出し食べ始めた。

 

「何が見えるの?」

「なんつーか……想像以上のものだな」

 

 意味深な事を呟く彼に海羽が首を傾げると、彼は黙って双眼鏡を海羽の顔の前に持って行った。この双眼鏡の先に何が見えるのか、海羽は興味をそそられ覗いてみた。

 

 船から遠く離れた場所、そこに広がっていたのは朽ちかけてはいるがまだ形を保った建物の数々であった。

 遠くに広がる光景に海羽は思わず言葉を失った。

 

「あ、え? あれって……?」

「遺跡、って奴か。とりあえず兄貴達に相談しないとな」

 

 手早くサンドイッチを食べ終え、バーツは海羽と共に船へと戻った。戻るのは出る時以上の苦労を要したが、バーツが海羽を押し上げる形で船に乗せる事で2人とも戻る事が出来た。

 

 バーツが海羽と共にブリッジに戻ると、フランシスとエドワードが海図を広げて今後の方針について話し合っていた。2人はバーツと海羽の姿を見て、海図から顔を上げた。

 

「おぉ、バーツ! どうだった、外は?」

「予想以上のもんが見れた。ここから東の先に遺跡みたいなのがあったぜ」

「遺跡!?」

「私も見ました。遺跡って言うか、古い街みたいな」

 

 この話にフランシス達は悩んだ。さっきまでは、通信も回復した事だしここで救助を待とうと考えていたのだ。傾いてはいるが、船には使える設備が残っている。数日の間待つだけなら十分出来た。ただその場合、残念ながら船は捨てなければならない。

 

 だが遺跡に向かい、そこで価値のある物を見つける事が出来ればその損失を補える可能性はある。どういった理由でこの陸地が浮上したのかを知らない彼らだが、そんな所にある遺跡の遺物であれば相当な価値があるのは想像に難くない。好事家に売ればかなりの値段になる事が予想された。

 

 それに純粋に、遺跡というものに興味もあった。

 

「よし、行くか!」

「行くって、遺跡にか?」

「どうせ助け呼んだって数日はここに缶詰なんだ。ならその時間を有効に使わないとな」

 

 エドワードはフランシスの思惑に気付き、特に反対する事も無く頷いた。確かに、こんな見た事も聞いた事も無い遺跡にならどんなお宝が眠っているか想像もできない。

 

 対照的に純粋に遺跡に向かう事を楽しみにしているのは海羽とバーツだ。これは紛れもない冒険。年頃の少年少女2人が、そんな心躍るイベントに盛り上がらない訳がない。

 

「じゃあ私、お弁当用意します!」

「俺は何か使えるものが無いか探してくる」

 

 はしゃぎながらブリッジを出て行く2人の姿に、フランシスとエドワードは仕方ないなと言う様に肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、突如浮上したムー大陸に困惑していた瑠璃達だが、何時までも呆けている訳にはいかないと一度船まで戻り持ち出せる道具を取りに戻った。

 

 案の定乗って来た船は陸に打ち上げられた状態になっており、最早ただの残骸と化していた。もう乗り物としては使えない。これでは海都に戻る事も苦労する。

 仮に陸地が再び沈んでくれれば、船として海を駆ける事が出来るようになるだろう。ただしその際、横転からの沈没等という事にならなければの話だが。

 

「どう、ネイト?」

「ちょっと待て……よし、これだ」

 

 ネイトが取り出したのは彼の冒険の相棒、双眼鏡を始めとした各種冒険で扱う道具が一纏めになったナップザックである。今回に限らず、彼は冒険に赴く際は必ずこれを持ち歩いて来た。

 

 陸に打ち上げられた影響で横倒しになった船内から何とか引っ張り出したそれから、ネイトは双眼鏡を取り出し周囲の状況を調べた。その間に瑠璃は無事な食料を集める。

 

「一体ここは……ん!?」

「ネイト、どうかした?」

「街? いや、遺跡か?」

「え?」

 

 ネイトが覗き込んだ双眼鏡の先には、海水の浸食で朽ちかけてはいるが形を遺した建造物が多数見える。冒険家として、それが古代の遺跡であることに気付くのはそう時間のかかる事ではなかった。

 

 遺跡と言われ興味を持った瑠璃は、ネイトから双眼鏡を借り自分も遠くにある遺跡の存在を目にする。それを見て彼女は、それがムー大陸の遺跡であることに気付いた。

 

「あれ、もしかしてムー大陸の?」

「そうだ、間違いない!!」

 

 ラハブを封印する際、ムー大陸はその全土を海底に没した。だがセラの故郷だった島があった場所は、ムー大陸に存在していた標高の高い山の山頂だったのだ。恐らく太古の昔、セラの祖先は大陸沈没を逃れる際にこの山の上に登り、そして周囲を海に囲まれ逃げられなくなりそのままこの島で過ごす事を決めたのだろう。

 

 きっとそこには、想像もできないほどの苦労があった筈だ。突然の文明の崩壊、嘗ての山頂は人の生活できる環境ではなかっただろう。そこを限られた資材などで何とか生活を維持し、子孫を残し続けた。

 そうして永い時を、命を繋ぎ続けた末に存在するのが瑠璃である。彼女の体には、その苦労を乗り越えた人々の血が流れている。

 

「行こう、ネイト。あそこにはきっと、何かある筈」

「そうだな」

 

 山を下りるのは早かった。ネイトがスピンドライバーを使ってサーフボード『トルネードライド』を取り出し、瑠璃を抱きかかえて一気に山を滑り降りた。

 あっという間に山を滑り降り、ネイトはそのままサーフボードで遺跡へと向かった。今まで海底に沈んでいたからか地面は均されていない岩肌剥き出しだが、どんな悪路でも走破出来るトルネードライドには関係ない。

 

 2人は驚くべきスピードで遺跡へと到着していた。

 

「到着……ここが……」

「大昔に海の底に沈んだ、ムー大陸」

 

 ムー大陸……その名は、オカルトの世界では知れ渡った名であった。太古の昔に太平洋に存在し、一夜にして海の底に沈んだと言われる幻の大陸。

 嘗て多くの学者がその存在の有無を確かめるべく調査に乗り出したが、深海と言う大自然の防壁を破る事は出来ず匙を投げてきた。

 

 それが今、自分達の足元に広がり、嘗て存在した文明が目の前に存在している。ネイトはそれだけで状況も忘れて、目を輝かせずにはいられなかった。未知の遺跡に未開の大地は、冒険家にとって宝島である。

 

 だがそれに水を差す者が居た。

 

「キシャァァァァッ!」

「ガルルルルッ!」

 

「ディーパー!?」

「こんな所にまで……いや、ここだからか!」

 

 朽ちかけた街に入った2人を出迎えたのは、建物の中や蔭から姿を現した下級ディーパーであった。どう見ても歓迎していない様子で、牙を剥き出しにして涎を垂らしている。

 

 2人は互いに背中合わせになると、肩越しに頷き合いドライバーを腰に装着した。

 

「「変身!!」」

〈〈Fever!〉〉

 

 テテュスとオケアノスが姿を現すと、それを合図にディーパー達が飛び掛かる。

 

 ここは最早ディーパーの巣窟、それも海都の地下に作られた物とは訳が違う。数は勿論、下級ディーパー達も海都で戦った奴らよりも何処か手強く感じられた。

 

 だがテテュスとオケアノスも負けてはいない。数々の強敵と戦い成長してきた2人に、多少強化され数が多いだけの下級ディーパーなど相手にもならなかった。

 

 

「ハッ! フッ! ヤァッ!」

 

 レイズアップなどする必要もないと、テテュスは無手の状態で蹴り技だけを使って下級ディーパー達を文字通り蹴散らしていく。流れる水の様な、まるで踊っているような動きで下級ディーパーの間を動き回り蹴り倒していく。鋭い蹴り技に、下級ディーパー達はその数を徐々に減らしていった。

 

「オラッ! フンッ!」

 

 オケアノスの戦いは正に豪快の一言であった。全体重を掛けてのドロップキックに、持ち上げた下級ディーパーを別のディーパーに投げつけ、倒れたディーパーにトドメと体重を掛けて肘を叩き込む。その暴れっぷりはまるで台風の様で、下級ディーパーは彼を止める事も出来ずされるがままであった。

 

「ハァァァァァッ!」

「ラァァァァァッ!」

 

 互いに最後の1体を倒し、周囲に下級ディーパーの姿は無くなる。それでも追加が来るかもしれないと、2人は再び背中合わせになって周囲を警戒した。

 だがもう周囲に敵はいないのか、何かが近付いてくる気配はない。一先ずこの場は収まったと見て、2人は肩から力を抜くと変身を解いた。

 

〈〈Drop out〉〉

「ふぅ~、とりあえずは何とかなったかな?」

「だがその内次が来る。ここは多分街全体が奴らの棲み処。何処から出てくるか分かったもんじゃねえ」

「そうね。で、何処に行く?」

 

 移動するにしても闇雲に動く訳にはいかない。ここがムー大陸の遺跡であると言うのなら、ディーパーに関してもう少し詳しく分かる事がある筈だ。目指すならそこだろう。

 

 ネイトはざっと周囲を見渡し、形を遺している建物を見比べるとある一つの建物に目を付けた。

 

「あれだ。あの建物、あそこに行こう」

 

 それはまるで神殿の様な見た目の建物であった。現在の価値観と古代のムー大陸人の価値観がどれくらい違うのか分からないので、あの建物が何の意味を持っているのかは分からない。彼があれを選んだのは、ただの勘である。だがこの勘に彼は何度も助けられてきた。今回もそれを信じる。

 

 方針を決め、2人はその建物へと向かって行った。

 

 2人は知る由もない、そこが嘗てこの国の公文書館であった事を。

 

 そこには膨大な知識が蓄えられている事を2人は知らない。

 

 太古の昔に封印された膨大な知識、それが現代に解き放たれようとしていた。




という訳で第46話でした。

海羽は見事にバーツとくっつきました。物理的にも(笑)
まぁ若くて惹かれ合ってる男女が閉鎖的な空間に長時間居て何も起きない筈がありませんわな。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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