今回は年内最後の更新となります。
深海から浮上した影響で、草木一つなく所々に海水の水溜りがあるムー大陸の街の中を瑠璃とネイトが進む。
その道中は不気味なほど静かだった。街に入ってすぐの頃は手荒い歓迎を受けたというのに、街の奥へ進むとそれが嘘の様に静かなのだ。逆に誘い込まれているのではないかと勘繰ってしまう。
「瑠璃、周り来てるか?」
「うぅん、何も。私達が来てる事に、気付いてる訳じゃなかったのかな?」
「大人しくしてると反応しないのが玉に瑕だな。警戒は怠るな」
何時何処からディーパーが飛び出してきても大丈夫な様に、2人は絶えず警戒して街の中を進む。
警戒しながら進む都合上、瑠璃は街の様子をつぶさに観察する事になった。
街の様子は海都などの現代とあまり変わらない。言い伝えによるとムー大陸の文明は現在よりも進んだ技術力を持っているとか。生命を固形化できると言うくらいだから、本当ならば現代よりも遥かに進んだ文明だったのだろう。
一体人々はどんな生活を送っていたのだろうか? 瑠璃は不意に目を瞑って夢想してみた。
……街の中を、浮いた自動車が行き交う。空中にはホログラムの映像が浮かび、案内板の役割をしているのだろう未知の脇にあるホログラムに街の人が手を翳しスライドさせると様々な情報が映し出された。
見た事が無い食べ物を手に街行く人が不意に瑠璃の方を振り返り――――
「――――璃? 瑠璃?」
「ん? え?」
「どうした?」
「あ、うぅん。何でもない」
少し夢想に集中しすぎてしまっていた。ネイトに話し掛けられた事にも気付かないとは。
「着いたぜ」
夢想しながらもしっかり歩けてはいたらしい。気付けば目的の建物の前に到着していた。
ここは一体どんな建物で、どんな情報が手に入るのかと瑠璃が緊張した面持ちで建物を見上げる。意識せず、瑠璃は緊張に唾を飲み込む。
「行くぞ。物陰とかに注意しろ」
「うん」
意を決して2人は建物の中へと入りライトで照らす。
驚いた事に内部は外に比べて綺麗な状態で遺っていた。閉ざされていたから長い年月による浸食の影響を受けなかったのだろうか。だがそれにしても綺麗すぎる。もしかすると、ムー大陸の超科学がこの建物内部を守っていたのかもしれない。
とすると、この建物は長い年月の海水の浸食から守らなければならない何かだという事だ。俄然期待に胸が高まる。ここでなら何か有用な情報が手に入るかもしれないと。
だが喜んだのも束の間、2人はある問題にぶち当たる。
「ここ……何?」
「分からねぇ。何だこれ?」
内部は所々に端末の様なものがあり、本棚の様なものが並んではいるのだが、それらをどうやって閲覧すればいいのかが分からないのだ。本棚の様な物からは何かを抜き出すという事が出来ないし、端末に至っては動力が止まっているからネイトが触れてもうんともすんとも言わない。これでは何も分からないではないか。
落胆を紛らわせるようにネイトが端末を小突く。その傍では瑠璃が棚を撫で、ネイトが触れているのとは別の端末にそっと触れた。
するとその瞬間、沈黙していた建物内の設備が復活した。
『ロイヤリティの接触を検知しました。施設の機能を再起動します』
「えっ! えっ!?」
「瑠璃、何触った?」
「いや、この端末? なんだけど……」
突然異変に狼狽する瑠璃に対し、ネイトは順応が早かった。突然のアナウンスとそれに伴う施設の稼働。そのカギが瑠璃にあると素早く気付いた。
「そうか……瑠璃には王族の血が流れてる。この街は、王族が帰ってくるのを待ってたんだ」
「何だかよく分からないけど、今ならどんな情報も引き出せるって事?」
「試してみるか」
ネイトがもう一度端末に触れてみると、端末から画面がホログラムのように投影された。ホログラムの画面は触れた感触は無くとも、触れれば反応を見せる。生憎と文字は分からないが、そこはネイトの考古学者としての腕の見せ所。既に判明している古代文明で使われている文字から凡その読み方を類推し、翻訳しながら端末を操作した。
一方の瑠璃は起動させることはできても、記憶にない文字は読めないので翻訳は完全にネイト任せだ。
「ねぇ、どう? 何か分かりそう?」
「……ここは、どうやらこのムー大陸の国でも殊更に重要な情報集積機関だったらしいな。情報量が半端じゃなさそうだ」
ネイトは画面から目を離さず瑠璃に何を調べたいかを訊ねた。瑠璃は僅かに考え込むと、まず最初に知っておきたい事を口にした。
「テテュス……テテュスの事何か分かる?」
「待ってな」
翻訳しながらネイトが文字を入力していく。完璧な翻訳ではないので時間を掛けていたが、それでも調べたい情報の入力には成功したらしい。入力が完了すると次の瞬間、2人の前に新たな映像が投影された。
『テテュス……王族専用の鎧。ディーパーの脅威に対処する為開発されました。ライフコインを用いて様々な能力を獲得可能。他に何か訊ねたい事はありますか?』
「追加で情報を入力できる?」
「そんな感じには……」
『口頭での質問に対応しています。追加で閲覧したい情報はありますか?』
2人が追加情報をどう入力するか悩んでいると、なんとアナウンスの方が気を利かせて口頭での質問に答えてくれると言ってくれた。驚くべきことにこのアナウンスは人工知能によるものの様で、2人の様子と会話から何を求めているのかを理解し教えてくれたらしい。
「あなた、私達の言葉分かるの? あなたは誰?」
『問いに答えます。私はこの公文書館の管理用人工知能『アビス』。貴方達の言語はこの時代のネットワークにアクセスして学習しました』
そう言えば、文字体系が違うのにアナウンスは瑠璃達にも分かる言語で答えてくれている。文字が変わらないのは不便だが、言葉で分かるようにしてくれているだけ十分に優秀だった。
「えっと、じゃあ、何でテテュスってルーレットで能力が使えるの? もっと自由に使えればいいのに」
『問いに答えます。ディーパーの中には人間に擬態するものが居ますし、ラハブは他者を洗脳できます。特に王族に対してはラハブの精神感応が強く作用する事がある為、最悪の場合最大戦力のテテュスが敵に回る可能性があります。それを回避する為通常のテテュスは動体視力を試される方式を取っています』
そう言えば、瑠璃もラハブの頭部から精神感応の様な物を受けていた。過去に何度かラハブの精神感応を受けた時は、ラハブが封印状態にあったからかそれとも頭部と胴体が切り離されていたからか、精神感応が弱く洗脳されるほどではなかった。
テテュスのルーレットは見た目以上に動体視力が求められる為、精神に異常をきたした状態では止められるものではない。洗脳によるテテュスの敵対化を防ぐ為には、これ以上の方法は無かったのだろう。
オケアノスがスロットで能力を発動するのも同様の理由のようだ。
「じゃあ、次の質問させて。ディーパーってそもそも何なの?」
『問いに答えます。ディーパーは元々生命を固形化する技術の発展として考えられた新たな生物創造計画により生み出された生命でした。固形化した生命から新たな生物を生み出そうとした結果、制御を外れ爆発的に繁殖を始めました』
「その制御できなくなったディーパーを駆除する為、慌ててテテュスとオケアノスを作ったって訳か」
だがそれでもラハブを排除する事は出来ず、已む無く大陸毎封印するという力技に訴えるしかなかった。それだけディーパーの繁殖が電撃的で、封印するのが精一杯だったという事だ。
このままだと、世界が嘗てのムー大陸の二の舞……いやそれよりも更に悲惨な事になりかねない。
「止めないと、絶対!」
「だがどうやって?」
「ねぇ、ラハブはどうすれば倒せるの?」
過去のテテュス達はラハブを封印する事が出来た。現代でも再び倒せないまでも封印する事が出来れば……そう思っていた。
だがアビスから返って来た答えは絶望的なものであった。
『問いに答えます。ラハブを倒す事は不可能です』
「…………え?」
『ラハブは高純度のライフコインを中心に、多数のライフコインで生命を構成しています。その強固な生命力は、あらゆる攻撃を無力化します』
「でも昔は封印できたんだろ? 一体どうやったんだ?」
『嘗てのラハブは当時の女王陛下が命を賭して自爆に近い行動でラハブの動きを止め、その隙に大陸全土を巻き込むほどの封印措置を施す事で漸く封印する事が出来ました。しかし、今はその封印措置も失われています。なので結論として、ラハブを封印する事は不可能です』
現時点でラハブを倒す手段は無い。絶望的なその言葉にネイトは目の前が暗くなるような気がした。世界を破滅させるほどの怪物が居るのに、倒す手段がないなど悪い冗談にも程がある。
堪らず憔悴した顔で頭を抱えるネイトだったが、瑠璃の顔は違った。顎に手を当て、唇を人差し指で撫でるその様子は絶望している感じではなく、それどころか何やら考えを巡らせているように見えた。
「ねぇ? ラハブは私を手に入れようとしてたけど、それは私を使って繁殖したいからなのかな?」
『問いに答えます。それは違います。ラハブがキャリアーと呼ぶのは自身を強化する為の強靭な遺伝子を欲しているからです』
「博士もそんな事言ってたわね」
『なので、強靭な遺伝子を持つ者をその身に取り込もうとしているのです』
得られた情報を瑠璃は頭の中で整理する。このまま座して見ていては、ラハブがディーパーを次々と生み出し現在の生物に取って代わって世界を支配してしまう。だが肝心のラハブを倒す手段は今のところない。いや、もしかしたら力技で倒す事は出来るのかもしれないが、少なくともテテュスには不可能だ。唯一ラハブを無力化する手段である封印は既に失われている。八方塞がりだった。
そしてラハブの目的の一つは、瑠璃などの特別な遺伝子を持つ者を取り込み自身を強化する事にあった。そのラハブの体は、他のディーパーと違いライフコインで構成されている。
様々な情報を整理し、統合していく。学者的思考かもしれないが、瑠璃にとってはギャンブラーとしての思考であった。負けが許されない状況で、どのようにして相手を出し抜くか。相手の中にある穴を見つけ、そこを突き、勝利に手を伸ばす。
瑠璃は今、人生最大の賭けに挑む為の算段を整えていた。
『ロイヤリティ、大梅 瑠璃様』
「んぇ? あれ? 私の名前?」
『失礼ながら、アクセスして調べました。現在唯一の王族である貴方に、嘗ての王族から贈り物があります』
アビスがそう言うと、足元のタイルが彼女を誘導する様に光の道を作った。この道に沿って来てくれという事だろう。
過去の人物が、現代の瑠璃に一体何を送ろうというのか。気になる瑠璃は、ネイトと顔を見合わせ頷き合うとアビスの案内に従い建物の奥へと向かって歩いていく。
誘導に従って向かった先にあったのは、この公文書館の心臓部とも言える全てのデータを集積したコアのような場所だった。部屋の中央に、巨大な結晶の様な情報集積体が淡い光を放ち鎮座している。
「うわ、何これ?」
『公文書館の全ての情報が集積されたコアです』
「これが、瑠璃に渡したい物か?」
『正確には違います。大梅 瑠璃様、コアに触れてみてください』
「い、いいの? これ触っても?」
『どうぞ』
何だか触るとその瞬間に感電したりするのではと警戒せずにはいられないが、ここにきてアビスが嘘を吐くとは思えないので瑠璃はコアに近付きそっと触れた。
結果的に言えば、感電するという様な事は無かった。だが触れた瞬間瑠璃は感電したように体を強張らせ仰け反らせた。
「はっ! あ゛っ!」
「瑠璃!?」
明らかに異常事態に陥った瑠璃を心配してネイトが彼女をコアから引き離そうとするが、瑠璃は驚くほどの怪力でネイトを振り払いコアに触れ続けた。その動きはまるで瑠璃らしくない。誰かが彼女の体を動かしているかのようだ。
「な、何が……おいアビス! 瑠璃はどうなってるんだ!?」
『大丈夫です。今彼女には、必要な情報が伝達されています』
「情報の伝達?」
『王族の血を引く彼女には、必要な知識です。ラハブと戦う際にも、きっと役立つ知識だと思います』
だから安心しろとアビスは言うが、呆けた顔で体を強張らせ痙攣している様子はとてもではないが普通ではない。過度な情報の流入でこのまま廃人になってしまわないかと心配になる。
だが彼の心配を他所に、瑠璃は触れた時と同じく唐突に落ち着きを取り戻した。
「――――あっ! はぁ、はぁ……」
「瑠璃、大丈夫か!?」
「ネイト? うん……大丈夫」
「今何があったんだ?」
ネイトの事を認識できたという事は、瑠璃の記憶に異常が出たりするような事をされた訳ではないらしい。だがだとすれば、今の瞬間彼女の身に何が起きていたのか?
心配しながらの質問に瑠璃は答える事はせず、徐にその場で祈る様に手を握った。何をするのかとネイトが見守っていると、その手の中に何かが流れ込んでいくのが見えた。瑠璃の中から、空気中から、青い流れが彼女の握った手の中に流れ込む。
決して長い時間ではなかったが、それでも体感で長く感じる時間が過ぎた時、流れは唐突に止まった。ネイトが見守る前で瑠璃が握った手をゆっくりと開くと、そこには金色のライフコインが握られているのが見えた。絵柄は宝箱の様に見える。
「瑠璃、これは?」
どう見ても今、瑠璃が自らの意志で作り上げたとしか思えない光景にネイトが問い掛けると、瑠璃は静かに頷いた。
「……ムー大陸の人が海での活動に優れているのは、海のエネルギーを自身に取り込むことが出来るから。海のエネルギーは、生命のエネルギー。生命を固形化するって言うのは、その海のエネルギーに形を持たせるって事だったんだ」
自分で作り出したライフコイン、ゴールドライフコインを眺めながら、瑠璃はセラから託されたブルーライフコインを取り出した。そう言えばブルーライフコインは、瑠璃を逃がす最中セラが決死の想いで作り出した物だった。どうやってか分からなかったが、今なら瑠璃には分かった。
「つまり今、瑠璃はそのライフコインの生成方法を教えられたって事か?」
「うん。きっと、セラも先祖代々受け継いできてたんだと思う」
ひょっとすると、ブルーライフコインにはまだセラの意志が宿っているのかもしれない。これをリールドライバーに投入することで、2人は最終的にこの場所に辿り着けた。2人にとって、このブルーライフコインは宝の地図。そして手に入れたゴールドライフコインは、宝の地図が示した宝物という事だ。
瑠璃は改めて自分にこれを託して命を繋いでくれたセラに感謝した。
「セラ……ありがとう」
涙と共に紡がれた感謝の言葉。管制人格のアビスは、その様子を静かに見守っていた。
***
公文書館から離れた街の中心部に存在する、嘗てはムー大陸全土を治めていた王宮と言えるその場所にラハブは居た。
周囲には生み出したと思しきディーパーが蔓延っており、敬う様に跪いている。
その中心に居るラハブは、下半身の肉塊を大きく振るわせていた。
『うぅ、おぉぉ……!』
一際大きな呻き声を上げた次の瞬間、何かが肉塊を突き破って出てきた。破裂する様に肉塊が内側から弾け飛び、肉片や血が飛び散る中に二つの影が降り立った。
『おぉ、あぁぁ……』
『ふぅ、ははは……』
飛び出してきたのはシーラカンス・ディーパーとラブカ・ディーパーであった。だがその姿は以前と比べ大きく変化していた。
以前は半魚人然りと言う姿だった2体は、共に姿が洗練されておりまるで魚型の鎧を纏ったような姿となっている。それはラハブの中で熟成された証。シーラカンス・ディーパーは傷付いた体を癒すと同時に強化が施され、ラブカ・ディーパーも今後の活動での必要性を鑑み強化されていた。
2体は強化された己の体を眺め、以前に比べ遥かに力強く洗練された肉体を確認すると、その事への感謝を示す様に跪いた。
『ありがとうございます、我が君』
『我が君。貴方からの期待に応えるべく奮起いたします』
『うむ』
既に2体が飛び出した肉塊は元通りになっている。自身を敬ってくる家臣とも言える2体を前に鷹揚に頷くその姿は、この地に新たに君臨した王の様な振る舞いであった。
その王たるラハブに、ディーパーの1体が近付き耳打ちした。ラハブは配下のディーパーからの報告に2~3頷くと力を与えた2体に早速命令を下した。
『ラフィ、クラム。お前達が見つけたというキャリアーの素質を持つ者がやって来たらしい。我が前に連れて来い』
『『御意』』
シーラカンス・ディーパーとラブカ・ディーパーは返事を返し、ディーパーを何体か率いてその場を後にした。
後にはラハブと、周囲を囲むディーパーが残された。
『ふふふっ、もう直ぐだ。もう直ぐ、我が新たな世界の覇者として君臨できる』
その為の生贄がもう直ぐやってくる。ラハブはその時を思い、笑みを浮かべ口の端から涎を垂らしていた。
***
ゴールドライフコインを手に入れた瑠璃とネイトは、公文書館を後にした。これで準備は整った。次に目指すは目標であるラハブ。奴を倒さなければ、世界が滅亡への道を歩んでしまう。
気合を入れてラハブが居るとアビスが言っていた王宮に向け足を踏み出した瞬間、2人の足元に何かが突き刺さった。
「とっ!?」
「何だ!?」
見るとそこにあったのは、地面に突き刺さった無数の棘の様な物。2人の目がそれを捉えたのと同時に、周囲に無数のディーパーが姿を現した。しかも姿を現したのはどれも下級ディーパーではなく、それぞれ特有の能力を持ったディーパーばかり。
「本気で歓迎してくれる気になったみたいね」
「派手に暴れるか!」
2人は頷き合うと、にじり寄るディーパー達の前でドライバーを装着した。
「
〈Bet our life〉
〈Catch your fate〉
「ストレート0、変身!」
「変身!」
〈〈Fever!〉〉
水を纏い変身するテテュスとオケアノス。テテュスは自分達を取り囲むディーパー達を前に、指をさして宣言した。
「チップ1枚で、大逆転よ!」
テテュスの言葉を合図に襲い掛かるディーパー達。四方八方から迫るディーパーを、オケアノスがテンペストウィップで打ち返していく。
先制はテテュス達が取った。ディーパー達が体勢を崩したのを見て、テテュスはスカートを翻して躍りかかった。
「はぁぁぁぁっ!」
ボレーキックがディーパーの1体を蹴り飛ばし、よろけた所に更に追撃で上段回し蹴りを放つ。鋭い一撃がディーパーの頭を蹴り飛ばし、壁に向けて吹っ飛ばした。
その隙を突いてテテュスに飛び掛かるディーパーだったが、それはオケアノスの鞭により阻まれた。テテュスに届きそうだった爪の生えた手に鞭が巻き付き、明後日の方向に向け振り回され別のディーパーに叩き付けられた。その衝撃でディーパーはどちらも爆散しドロップチップをばら撒く。
「頂き!」
飛び散るドロップチップをテテュスが数枚キャッチし、ドライバーに5枚投入してレバーを下ろした。その際に出現したルーレットが、今正にテテュスの前に居たディーパーを吹き飛ばす。
〈Bet. Good luck〉
「黒の31!」
〈BINGO! Skill activation! WAVE SMASH.〉
「はぁぁぁぁぁ!!」
円を描く様に放たれたウェーブスマッシュが周囲のディーパーを纏めて吹き飛ばした。爆発の余波はまだ無事なディーパーにも及び、連鎖的に複数のディーパーがドロップチップへとその身を変えていく。
その内の何枚かを、今度はオケアノスが掴んだ。掴んだドロップチップの内5枚をドライバーに装填しレバーを下ろす。
〈Bet. Good luck〉
「貰ったぜ!」
〈BINGO! Activate weapon ability. WHIP EXTREME.〉
2を揃えて放つウィップエクストリームがダメ押しとばかりに周囲のディーパーを薙ぎ払う。
この2人にとって最早通常のディーパーなど相手にならない。ただただドロップチップを提供するだけの存在と化していた。
圧倒的な力の差を見せつけるテテュスとオケアノスを前に、ディーパーにも恐怖と言う感情があるのか怖気付いたように後退った。
これが人間相手であれば或いは見逃す事も選択肢に入るが、コイツ等ディーパーは見逃せば何をしでかすか分からない。人工的に生み出されておきながら一方的に処分される事に一定の憐れみを感じないではなかったが、奴らも人間を根こそぎ駆除して地球の生態系を乗っ取るつもりなのだから御相子だろう。
何より奴らがのさばれば、テテュスにとって大切な海羽達にも危険が及ぶ。それだけは看過できなかった。
「今はアンタたちの相手してる暇ないの。さっさと決めさせてもらうから!」
テテュスは残ったディーパー達を始末しようと、手に入れたばかりのゴールドライフコインを取り出し投入しようとした。
その時、飛んできた1枚のドロップチップがテテュスの手の中にあったゴールドライフコインを弾き飛ばした。
「あっ!? くっ、誰!?」
明らかに狙って放たれたドロップチップ。こんな器用な事をするのは誰だとテテュスが周囲を見ると、徐にディーパーの群れが一部割れ道が出来た。
そこを通って出てくるのは、ラハブにより強化されたシーラカンス・ディーパーとラブカ・ディーパー。以前と装いが変わった2体を最初テテュス達は同一の個体と認識する事が出来なかった。
「新手? 今までのとは違うみたいね」
「いよいよ本気出してきたって事か」
『見つけたぞ、キャリアー』
『我が君の望みだ。キャリアーの女、来てもらうぞ』
「この声……! こいつ等まさか!?」
聞き覚えのある声に、オケアノスはそれが以前自分達が退けたシーラカンスディーパー達であることに気付いた。
彼がその事に気付くと、強化されたシーラカンス・ディーパー『EXラフィ』が両手に剣を持ち2人に斬りかかってきた。
『ハァァッ!』
振り下ろされた二つの刃を、オケアノスがテンペストウィップで防ごうとする。しかし強化されたその刃は、オケアノス自慢の鞭を一撃で両断してしまった。
「嘘だろ!?」
今までに奪われたりしたことはあったが、まさか両断されるとは思っていなかったので面食らうオケアノス。その隙に接近したEXラフィの連撃にオケアノスは大きく吹き飛ばされた。
「ぐあっ!? がはぁっ?!」
「ネイト!?」
吹き飛ばされたオケアノスを助け起こそうと駆け寄るテテュスだったが、その前に強化型ラブカ・ディーパー『EXクラム』が立ち塞がる。
『おっと』
「ッ! 邪魔よ!」
〈Raise up〉
直ぐ手元に出せるグリーンライフコインでシールドレイズにレイズアップし斬りかかるテテュス。それに対し、EXクラムはするりと回避すると長剣を取り出しそれを振るってテテュスを押し返した。
「あぐっ!? くっ!」
『我が君の為、君には来てもらうよ』
ダイアリーシールドに何かを書き込む余裕も無く激しい連撃に防戦一方となるテテュス。堪らず後ろに飛んで距離を取るが、EXクラムの攻撃は彼女を逃さなかった。
『フッ』
離れた所で長剣を振るうEXクラム。どう考えても届かないのに何をやっているのかと思った次の瞬間、長剣が鎖で繋がれた蛇腹剣となり何倍にも伸びてテテュスに襲い掛かった。
「なっ!?」
突如として大きく伸びたEXクラムの攻撃範囲にテテュスは反応が遅れ、蛇のようにしなる斬撃が彼女の全身を切り刻んだ。
「あぐ、あぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
『そこだ』
「げふっ?!」
EXクラムの攻撃に動きを止めていると、何時の間にか背後に迫っていたEXラフィに蹴り飛ばされ地面に押し倒される。俯せに倒れたテテュスの上にEXラフィが足を乗せて身動きできないように踏み付けると、肺を押し潰されたテテュスの口から悲痛な悲鳴が上がった。
「あぐぁっ!? あぁぁぁぁっ?! かはっ!?」
「る、瑠璃ッ!?」
恋人の悲痛な悲鳴にオケアノスが助けに向かおうとするが、それまで遠巻きに見ていたディーパーが彼の前に立ち塞がりそれを許さない。傷付いた体でディーパーの相手をしながら、それでも尚彼はテテュスに向けて歩みを進め続けた。
そんな彼の想いを嘲笑うかのように、EXラフィはテテュスを蹴り転がして仰向けにすると腹を踏みつけて動けないようにした上で両手の剣で滅多切りにした。
『ヌンッ、フッ』
「あぎっ?! あぁぁっ?! がぁっ?! うあぁぁぁぁっ?!」
ただでさえオケアノスに比べて防御に劣るテテュスの鎧は、強化されたEXラフィの斬撃により見る見るうちにボロボロになっていく。
ボロボロになって最早動けないテテュスをEXラフィは首を掴んで持ち上げた。
「うぐぅ、あぁぁ……」
首を絞められ苦しそうな声を上げるテテュスだったが、もう抵抗するだけの気力も無い。
そんな彼女に追い打ちを掛けるように、EXクラムが逆手に持った長剣の柄頭を向けた。柄頭には宝玉が付いており、それが禍々しい赤黒い光を放つとテテュスの全身に電撃の様な苦痛が走った。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ?! うぐっ?! あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
辺りにテテュスの悲痛な悲鳴が響き渡り、全身を駆け巡る苦痛にテテュスの手足が本人の意思を離れて不規則に暴れ回る。オケアノスは彼女を助けに向かおうとしているが、立ち塞がるディーパーの壁が邪魔をして近付く事が出来ない。
「くそっ!? お前ら邪魔だッ!? 瑠璃ぃっ!!」
押し退けても殴り飛ばしても湧いてくるディーパーに苛立つオケアノスの耳に、唐突にテテュスの悲鳴が届かなくなる。あまりの苦痛にテテュスの意識が途切れたのだ。
EXラフィに首を掴まれた状態で沈黙するテテュス。まるで人形の様に動かない彼女の体が水泡の様に弾けると、変身が解除されボロボロの傷だらけとなった瑠璃の姿が露わとなった。
瑠璃が動かなくなったのを見ると、EXラフィは彼女の体を担ぎその場を後にする。EXクラムもその後に続く。
ディーパー達の相手で精一杯のオケアノスは、このままではマズイと以前借りたまま持っていたイエローライフコインを使ってアローレイズにレイズアップし苦し紛れに矢を放つ。
〈Raise up〉
「テメェら、待ちやがれッ!」
『グッ?!』
放たれた矢はEXクラムに向け飛んでいき、それに気付いたEXクラムはギリギリのところで直撃を回避した。直撃は避ける事に成功したが、矢はEXクラムを掠りドロップチップを何枚か飛び散らせる。が、それだけで瑠璃が連れ去られるのを止める事は出来なかった。
「待てッ!? くそ、瑠璃ぃぃぃぃぃっ!?」
人の気配の無いムー大陸の街の中に、オケアノスの叫び声が木霊した。
「あれ? 今何か聞こえなかった?」
「あぁ。声みたいな……」
「そうかぁ?」
「俺達には何も……」
その時、ちょうど海羽達が街に到着していたのだが、瑠璃達の身に何が起きているかを彼女達はまだ知らない。
という訳で第47話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。