仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今年最後の更新は終わったと言ったな?あれは嘘だ。
という事で、これが本当に最後の更新です。


第48話:マキシマム・ベット、瑠璃を賭けた戦い

 朝からぶっ続けで歩き続けた海羽達は、瑠璃達に遅れて街に到着していた。

 

「着いた~!」

「お~、近くで見れば結構綺麗なんじゃねえか?」

「ふむ、コイツはお宝期待できるかもしれねえな」

「持って帰れる物ならな」

 

 素直に遺跡に目を輝かせる海羽とバーツに対し、フランシスとエドの2人は街に遺されている宝や金目になりそうなものを期待していた。持ち帰る手段を考える必要はあるが、金銀財宝があれば浮上した陸地に打ち上げられて鉄屑と化した船を補填する事も夢ではない。

 

「……あん?」

「おとと!? どうしたの、バーツ?」

 

 街に入って暫くして、バーツは突然立ち止まると怪訝な顔をした。彼の異変に海羽がぶつかりそうになりながらも足を止め問い掛けると、彼は警戒心を露わにしながら答えた。

 

「何だ? 何処かで派手にやり合ってる音が聞こえるぞ?」

「え?」

「戦ってる奴が居るって事か?」

「あぁ……」

 

 バーツは目を閉じ、耳に手を添え音をよく拾おうとした。その様子を海羽は息を潜めて見守っている。

 

「そんなに遠くじゃねえ……何処だ?…………! こっちだ!!」

 

 暫し策敵に集中したバーツは、音が聞こえてくる正確な方向を掴んだ。何が起こっているのかは分からないが、戦っている者達が敵か味方か分からなければ宝探しも満足に進まない。

 

 バーツの先導に従い海羽達がムー大陸の街中を駆けていくと、次第に彼女らの耳にも戦いの音が聞こえてきた。硬い何かが激しくぶつかる音が何度か続き、唐突に聞こえてくる爆発音。どう好意的に見積もっても穏やかさとはかけ離れた音に、海羽も表情を強張らせた。

 自然とバーツはベクターリーダーへと手を伸ばし、何時でも抜いて撃てるように備えた。

 

 その時、海羽達の耳に雄叫びが聞こえてきた。

 

「退けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「ッ! この声、もしかして――!」

 

 海羽はこの声に聞き覚えがあった。バーツ達は朧気にしか思い出せないが、彼と暮らしてきた海羽はこれが同居している居候の声である事にすぐ気付いた。

 

 この声が聞こえるという事は、一緒に姉に等しい彼女も居る筈と表情を明るくしながら走る速度を上げた。穏やかではない音が聞こえてきてはいるが、それに対する恐れよりも離れ離れだった彼女に会えることへの嬉しさの方が強かったのだ。

 

 そうして遂に海羽達は、音の発生現場に到着した。

 

「瑠璃姉ぇ! ネイトさん!……ッ!?」

 

 声の主、ネイトと彼と行動を共にしているだろう瑠璃の名を呼びながら角から飛び出した海羽が見たのは、何体も居るディーパーに取り囲まれて攻撃されているオケアノスの姿だった。既に長時間戦闘しているのか、オケアノスは全身の装甲がボロボロで立っているのが不思議に思う程の有様だ。

 

 海羽に遅れて角から顔を出したバーツは、その光景を見て考えるよりも先に飛び出していた。

 

「チッ! 進生!」

〈MEGALODON Transcription〉

 

 素早くコバルトウェーブに進生したバーツは、ディーパーの群れに銃撃しながら片手でホルスター剣を抜き斬りかかった。突然の奇襲にディーパー達も反応が遅れ、最初に攻撃目標にされたディーパーは銃撃で体勢を崩された挙句立て続けに斬撃を喰らい呆気なく倒れた。

 

「おいおい、ありゃどういう事だ?」

「考えるのは後だ兄貴。行くぞ!」

「応よ! 嬢ちゃんはここに居な!」

「は、はい!…………あれ?」

 

 海羽と子分達をその場に残し、フランシスとエドも戦闘に加わった。体力的にもボロボロだったオケアノスをあともう少しで倒せそうだと勢いに乗っていたディーパー達は、ここに来ての敵の増援に浮足立ち奇襲の効果もあってその数を次々と減らしていった。

 

 果たして、コバルトウェーブ達の活躍もあってオケアノスを取り囲んでいたディーパー達は全て始末され、安全が確保されると海羽が急いでオケアノスに駆け寄った。

 

「ネイトさん!?」

「み、海羽ちゃん? 何で?」

「その、色々あって……それより瑠璃姉ぇは?」

 

 詳しく説明すると長くなりそうだったので、適当にお茶を濁しながら海羽は瑠璃の姿が見当たらない事に疑問を感じた。ネイトがここに居るのなら、瑠璃も一緒に居ると思ったのだ。

 

 ネイトは海羽に問い掛けられると、傷付いた体を無理矢理動かして歩き出そうとする。

 

「そ、そうだ! こんな所で休んでる場合じゃねえ! 早く行かないと、瑠璃がッ!?」

「どう言う事!?」

「瑠璃が奴らに連れ去られた。このままだと瑠璃は奴らの親玉に取り込まれちまう!!」

 

 ネイトから聞かされた瑠璃の身に迫る危機に、海羽も悲鳴のような声を上げた。

 

「そんなッ!? どうしよう…………ねぇバーツ!? お願い、瑠璃姉ぇを助けて!!」

 

 瑠璃の身に危機が迫っていると知り、海羽は狼狽えながらもバーツ達に助けを求めた。今この場で彼女が頼れる相手は、彼らしかいない。

 

「……兄貴」

「皆まで言うなバーツ。あの姉ちゃんにも色々と迷惑掛けちまったからな」

「あぁ。急ぐぞ」

 

 最早彼らに瑠璃に対する敵愾心とかは存在しなかった。そりゃ嘗てはリールドライバーを巡って争った間柄だが、それはそれこれはこれだ。

 何より彼らには瑠璃に対して一定の負い目がある。恭子の策もあったとは言え、彼女に酷い迷惑をかけてしまった。その事への謝罪の意味も込めて、瑠璃を助ける事に否やは無い。

 

 まぁ一番の理由は、バーツだけでなく何だかんだでフランシス達も気に入っている海羽の願いだからと言うものではあったが。

 

「ほら、しっかりしろ」

「あぁ、待て」

 

 エドがボロボロのネイトに肩を貸して歩きやすくしてやる。だがネイトはそれを拒むと、スピンドライバーを装着せずにチップを投入しレバーを下ろした。変身せずにそのままドライバーを使うネイトにフランシス達は奇異なものを見る目を向けた。

 

「おい嬢ちゃん、こいつ何やってんだ?」

「さ、さぁ?」

 

 海羽もスピンドライバーが変身せずとも使える事を知らなかったので、訊ねられても首を傾げることしか出来ない。

 彼女達が見ている前で、ネイトは果実の絵柄を合わせキュアボールを生成し自身を回復させた。その光景に海羽は口をポカンと開け、フランシス達は驚きに目を見開いた。

 

「へ?」

「「「何ぃっ!?」」」

「ふぅ~……」

 

 驚く海羽達を他所にネイトは傷を回復させ一息ついた。そして準備を整えいざ瑠璃を助けに行こうと彼女が連れ去られた方向を見た。

 

「よし、瑠璃! 待ってろよ、今行くぞ!」

「いや待て待て待て!? 今の何だ!?」

「あんな事出来たのか!?」

「もしかして姉ちゃんの奴でも出来るのか!?」

 

 驚きの熱が冷めないバーツ達は慌ててネイトについて行き、移動しながら先程の機能について訊ねた。ネイトとしては説明する事も吝かではなかったが、今は瑠璃を助けに向かう事が最優先なので質問に答える事は後回しにして急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして彼らが辿り着いた場所は、街の中でも一際荘厳な雰囲気を持つ建物。朽ちかけてはいても現代的な雰囲気を持つ他の建物に比べ、この建物だけは歴史を感じられる。それもその筈、ここは嘗てのムー大陸の全てを統治していた王宮なのだ。

 

「何ここ? 宮殿みたい」

「みたいじゃなくて、宮殿だったんだろうな。造詣が他と違い過ぎる」

 

 ネイトは王宮を一頻り眺め、何かを見つけた様に目を細めると内部へと入っていく。あまりにも堂々と入っていくので、フランシス達は敵の見張りを警戒してネイトを引き留めた。

 

「バカバカッ!? 敵の本陣にそんな堂々と入っていく奴があるか!?」

「まずは侵入できる場所を探すぞ」

「いや……もう手遅れみたいだぜ兄貴達」

 

 バーツが指さした先からは、下級ディーパーが建物の内部から出てきているのが見えた。奥からだけでなく近くの柱の陰などからも続々と出てきた事に、彼らは警戒して身を寄せ合った。バーツなどは海羽を守ろうと彼女の肩を抱き寄せ、空いた手でベクターリーダーを自分達を取り囲むディーパー達に油断なく銃口を向けていた。

 

「おいおい、随分と派手な歓迎じゃねえか」

「この街は全体が奴らのテリトリー。考えてみれば俺達は入った時点で奴らに居場所を把握されてたのかもな」

 

 警戒しながらネイトはスピンドライバーを装着し、フランシス達もベクターリーダーにベクターカートリッジを装填していく。

 

〈Catch your fate〉

〈MEGALODON leading〉

〈MOSASAURS leading〉

〈LEVIATHAN leading〉

 

 彼らが変身準備を整えた次の瞬間、襲い掛かろうと迫るディーパー達。その瞬間にネイト達は変身した。

 

「変身!」

「「「進生!」」」

 

〈Fever!〉

〈〈〈Transcription〉〉〉

 

 変身の際に飛び出すスロットやスーパーコイルが彼らに迫ろうとしていたディーパー達を押し返す。奴らが体勢を崩している間に、ネイトはオケアノスに、フランシス達はそれぞれインディゴサイクロン、ターコイズスウィール、コバルトウェーブに姿を変えた。

 

「オラッ!」

 

 オケアノスは変身直後に突撃し、体勢を崩したディーパーを持ち上げ別のディーパーに叩き付けた。彼らが変身する際の衝撃を免れ体勢を崩していなかったディーパーは、仲間を投げつけられひっくり返る。

 自分の上に圧し掛かる仲間を押し退け立ち上がろうとするディーパーだったが、そこにオケアノスのドロップキックが炸裂した。全体重を掛けてのドロップキックは一撃でディーパーを沈め、動かなくなったディーパーをオケアノスは掴んで振り回し他のディーパーへの攻撃に利用していた。

 

 正に台風の如き暴れっぷりを見せるオケアノスに対し、インディゴサイクロン達は3人で連携し迫るディーパー達と渡り合っていた。

 

「そらよ!」

「兄貴! 銃貸してくれ!」

「ほれ! !? バーツ後ろだ!」

 

 反応速度に任せて素早く動き回るコバルトウェーブ、正確な狙いでディーパーを近付けないターコイズスウィール、そして迫るディーパー達を持ち前の頑丈さとパワーで捻じ伏せるインディゴサイクロン。彼らは互いに互いの背中を警戒しながら、生身の子分や海羽達を守りながら戦っていた。

 

 嘗ての王宮、そのエントランスと言える場所で行われる激しい戦闘。

 オケアノス達は大群と言えるディーパーを前に持ち堪えていたが、このままではジリ貧である事を彼らは察していた。とにかく敵の数が減らないのだ。王を守る為なのか、次から次へと出てきて襲い掛かって来る。中にはオケアノス達を無視して、守られている海羽達の方へ向かう奴まで居る始末。

 

「クソッ!? ヤベェぞ兄貴、このままだとこっちが持たねぇ!?」

「つっても、今更逃げ場なんてねえしなぁ」

「キャッ!?」

「海羽!? この野郎!!」

 

 気付けば逃げ場を失い、ディーパー達に取り囲まれていた。前にも後ろにも勧めないこの絶望的な状況で、しかしオケアノスだけは希望を失うことなく一歩でも前に進もうと敵を薙ぎ払っていた。

 

 殴り、蹴り飛ばし、叩き付ける。だが敵は一向に減らず、1体倒すと2体3体と挑んでくる状況に体力を削られていった。

 

「クソがッ!!」

〈Fever!〉

 

 やけくそ気味に放ったビッグウィンフィニッシュが、進路上の複数のディーパーを纏めて薙ぎ払った。包囲に穴が開き、王宮の先が見えるようになった。

 

「道が出来た!」

「今だお前ら! 一気に叩き込め!!」

「「応ッ!!」」

 

〈〈〈Full blast〉〉〉

 

 オケアノスが作り出した千載一遇の好機。この機を逃す手は無いと、インディゴサイクロン達は一斉にジェネリック・ブレイカーを発動しディーパーの群れを押し返した。お陰で包囲が大きく後退し、束の間の余裕が生まれた。

 

「今だ! 一気に前に進め!」

 

 既にディーパー達は反撃に移りつつある。次に包囲されたら、もう押し返す事が出来るという保証はない。

 

 オケアノスが戦闘になって王宮の奥へと進み、後ろに海羽と子分達が続きコバルトウェーブ達3人が殿となり銃撃でディーパー達の追撃を押し留める。

 

 エントランスから出る狭い通路に入ったオケアノス達だが、このままだと狭い通路で追いつかれてしまうそうなればお終いだ。

 出来れば通路の後ろを塞いで奴らの足止めが出来れば良いのだが…………

 

「……ん?」

 

 不意にコバルトウェーブの目に、壁の一部が点滅しているのが映った。

 

 急いでいたので気にしている余裕が無かったが、何万年も前の遺跡の建物の中だというのに明るい。まるで動力が生きているかのようだ。そしてその動力が生きている建物の中で、点滅しているそれが何かのスイッチである事に気付くのに時間は掛からなかった。

 

 その事に気付いた彼は、考えるよりも先にそのスイッチに銃口を向けて引き金を引いていた。別に何か確信があった訳じゃない。強いて言うなら勘だ。

 そして彼の勘は的中した。そのスイッチは隔壁の起動スイッチだったらしく、スイッチが打ち抜かれた瞬間ブザーが鳴り頭上から分厚い隔壁が勢い良く下りて彼らの背後を閉鎖した。その際下りてきた隔壁によりディーパーの何体かが押し潰された。

 

「おぉ……」

 

 何か起きればいい位の感覚で動いたコバルトウェーブはこの展開に思わず目を点にし、兄貴分2人はそんな彼を称賛した。

 

「よくやったバーツ!」

「やるじゃないか」

「は、ハハッ! まぁざっとこんなもんよ!」

 

 褒められた事でコバルトウェーブは見栄を張る様に胸を張った。まぐれだろうが何だろうが、自分の活躍で一時とは言え危機を脱せたのは事実なのだし少しくらい威張っても良いだろうと言ったところか。

 

 隔壁が下りたのは深い考えがあっての事ではないだろうという事に、オケアノスと海羽は彼の様子を見て気付いたが敢えて指摘することはしなかった。

 

 ともあれこれで体勢を立て直すだけの余裕が出来た。ここに居ると隔壁が破られたり回り込んだディーパーにより袋小路に追い込まれる危険があるので、一行はその場を急いで離れた。

 

 変身を解き、王宮内を進むネイト達。彼らが進む王宮内は、何万年も前に滅んだとは思えないほど綺麗でしかも照明により明かりが確保されていた。

 

「そう言えば明るいね? 何で?」

「あの隔壁も変だったよな」

「そりゃ瑠璃が街に入ったからだ」

「どう言う事? 何で瑠璃姉ぇが?」

「端的に話すと、瑠璃は大昔のムー大陸人の王族の血を引いてるんだと」

 

 本当はそのクローンなのだが、流石にそこまで話すほど無神経ではない。

 それにクローンと言う情報が無くても、瑠璃が王族の血を引いているという情報はそれだけで海羽達には大きなインパクトがあった。

 

「王族ッ!? え!? 瑠璃姉ぇお姫様!?」

「まぁお姫様言われても納得の美人ではあるな」

「酷いおかちめんこが王族言われるよりは説得力あるな」

「顔の問題じゃ無くねえか?」

 

 話しながら歩いていると、程良い広さの部屋を見つけた。ここなら隔壁からは大分離れているし、軽く休息するには丁度いいだろう。

 

 一行は部屋に入ると、追手が来ていない事を確かめた上で扉を閉めた。そこで海羽と子分達は漸く一息ついた。

 

「はぁ~……、何とか撒いたかな?」

「多分な」

「もう疲れたっス~」

「腹減ったっス~」

「お前らなぁ……」

「今はそんな悠長な事言ってる場合じゃねえ。瑠璃が危ないんだぞ」

 

 緊張の糸が一時的とは言え切れたのか、子分達が気を緩めて騒ぎ始める。バーツは情けない子分達にジトッとした目を向け、ネイトは焦りを口にするが、海羽はそんな彼らを宥めつつ持って来た弁当を取り出した。

 

「はいはい、お弁当あるから落ち着いて。バーツもお腹空いてきたんじゃない?」

「う……」

「腹が減っては戦は出来ぬ……日本の諺だったか?」

「ま、荷物減らせばその分嬢ちゃんが身軽になると思えば」

 

 海羽は荷物から弁当を取り出し全員に配っていく。物は朝と同じサンドイッチだが、朝とは挟まれている具材が違うので十分に満足できる。

 

 随分と手慣れた様子の海羽に、暫く離れていた間に彼女も成長したのだとネイトが感じていると彼の目の前にもサンドイッチが差し出された。

 

「ネイトさんも、はいこれ」

「え? 何で……」

「お代わりに少し多めに作ったんです。瑠璃姉ぇが心配なのは私も一緒ですけど、エドワードさんも言ってた通りお腹減ってちゃ全力出せません。これ食べて、瑠璃姉ぇを助けましょう!」

 

 本当に海羽は成長した……ネイトは心からそう感じた。海都に居た頃の海羽なら、瑠璃が連れ去られたなんて事になったら心配で食事も喉を通らなかった筈だ。それが今は落ち着いているだけでなく、周りを気遣う余裕すら持っている。

 バーツ達と過ごした事で、瑠璃と離れた事で己の殻を打ち破ったのだろうか。何にしても、以前とは比べ物にならない位頼もしくなった。

 

「強くなったな、海羽ちゃん。うん……美味い」

「ありがと! 強くなれたとしたら、それは……」

 

 不意に海羽の目がバーツの方へ向く。ソースが塗られ、分厚いハムが挟まれたサンドイッチに口周りを汚しながら齧り付いている。

 そんな彼を見る海羽の目は、温かく優しい。そんな目をする海羽にネイトは既視感を感じた。

 

 何処だったか……少し考え、それが瑠璃が自分を見ている時の目と同じものであることに気付いた。

 

「海羽ちゃん……もしかして、バーツの事?」

「ふぇっ!? な、何?」

 

 ネイトに指摘され、あからさまに狼狽える海羽の姿に本当に彼女も成長したのだと温かい目を向けた。海羽はその視線だけで彼の言いたい事を察し、気恥ずかしさに何も言えなくなって俯きサンドイッチをもそもそと齧る。

 

(マスターに何て言おう?)

 

 こんな事を鉄平が知れば、衝撃のあまりひっくり返るかもしれない。ネイトとしては海羽を応援したいところだが、鉄平が黙っているだろうか?

 まぁ瑠璃であればきっと海羽の味方をするだろうから、あまり心配する必要も無いのかもしれない。

 

 そんな事を考えていると、一足先に食べ終えたフランシスが手の平に残ったパン屑を落としながら立ち上がった。

 

「うっし! ボチボチ行くとするか!」

 

 フランシスに続き次々と食べ終えたものが立ち上がる。海羽とネイトも手早く食べ終えそれに続いた。

 

「よし、急ごう。何時までも休んでる場合じゃない」

「腹も膨れたしな!」

「で、何処に行けばいいんだ?」

「取り合えず先に進む。奥に行けば何かあるだろう」

 

 扉を開け、敵がいない事を確認してネイトは先に進む。フランシス達がその後に続き、王宮のさらに奥へと足を進めた。

 

 先程逃げている時は気にしている余裕も無かったが、王宮という事もあってかこの廊下も装飾が施されている。これだけでも歴史的価値は十分にあった。

 が、今は暢気に調査などしている場合ではない。体勢を立て直す為に休憩を挟んだが、今は一刻を争うのだ。

 

 自然、ネイトの歩みも他の者に比べて早くなる。海羽はその後ろについて行きながら、ネイトに詳しい事を訊ねた。

 

「でもネイトさん、何で瑠璃姉ぇが連れていかれたんですか?」

「詳しい事は省くが、連中は瑠璃を取り込んでより強い種族になろうとしてるらしい」

「えぇっ!? それって――!?」

「あぁ、直ぐに殺されるなんて事は無いだろうが、急がないとヤベェ」

 

 瑠璃の人としての尊厳の危機が迫っていると知り、海羽も焦りを募らせ始めた。

 

 その時後ろから子分の1人が声を上げた。

 

「わぁぁぁぁぁっ!!」

「ッ!? どうした!」

「大丈夫か!?」

 

 子分の上げた声にネイトは振り返り、フランシス達もそちらを見ると声を上げた子分は何かの部屋を開けていた。

 

 部屋の中に一体何があるのかと彼らが集まると、そこにあったのは目も眩むほどの財宝であった。

 

「親分凄いっス! お宝っスよお宝!!」

「馬鹿野郎ッ!? お前今の状況分かってんのか!?」

 

 適当に部屋を開けたらそれが宝物庫だった事に子分は興奮した様子だったが、一方でバーツは子分のそんな情けない姿に拳骨を落とした。

 

「アイデッ?!」

「今は宝なんか気にしてる場合じゃねえっての。海羽の姉ちゃんがヤバいって時だぞ、ったく。なぁ兄貴?」

「ん? あ、あぁ。そうだなその通りだ」

 

 宝は凄いが、今は瑠璃の身に危機が迫っている状況。関係の無い宝に気を取られている余裕などない。そう思いバーツはフランシスに話を振るが、彼はバーツの声に我に返ったように何度も頷いた。

 明らかに今、フランシスも宝に見惚れていた。そのことに気付いたバーツはフランシスを睨んだ。

 

「兄貴?」

「んんっ!! さ、先を急ぐぞ。先の方にでかい扉が見える」

 

 居心地の悪くなったフランシスが廊下の先を指差せば、そこには確かに他とは違う大きくて荘厳な扉が見える。第一印象で言えば、あの先に玉座か何かがありそうだ。

 扉を閉め、そちらへ向け歩きだす一行だったが、それに待ったを掛けるように周囲の通気口などからディーパーが飛び出してきた。

 

「キシャァァァァッ!!」

「おいおい、またぞろどんどん出てくるぞ!?」

「くっ!?」

 

 広い廊下を埋めるかのように出てくるディーパーを前に、ネイトはスピンドライバーを取り出しフランシス達もベクターリーダーを構えた。ネイトはそのままドライバーを腰に装着してオケアノスに変身しようとするが、フランシスがそれに待ったを掛けた。

 

「待ちな兄ちゃん。お前は先に進め」

「何?」

「ここは俺達が足止めしてやるってんだよ!」

「馬鹿ッ!? この状況、分かってんのか!!」

 

 こんな数を相手に、たった3人で挑むなど無謀だ。オケアノスであれば広範囲の大技もあるし、大軍を相手にするのであれば居た方が良いのは確実だった。

 しかしフランシスに続きエドワードとバーツがネイトに先を促した。

 

「心配するな。この程度の荒事なら慣れてる」

「陸に上がった魚如きに、この俺が負けるかってんだ。良いからお前はさっさとあの姉ちゃん助けに行きな」

 

「「「進生!」」」

〈〈〈Transcription〉〉〉

 

 進生した3人がディーパーの大群に突撃していく。銃撃と斬撃の音が、ディーパーの津波を押し留めるのをネイトが奥歯を噛みしめて見ていると海羽が彼の手を引っ張っていった。

 

「あ、ちょ、海羽ちゃん!?」

「早く! バーツ達の頑張りを無駄にしないで!」

 

 海羽の手を引かれてネイトは大きな扉に辿り着く。後ろからはまだ激しい戦闘の音が聞こえるが、ネイトの方にやってくるディーパーは居ない。全て彼ら3人が食い止めてくれているのだ。

 一度背後を振り返れば、そこではインディゴサイクロンが持ち前のパワーでディーパーを次々と殴り飛ばし、ターコイズスウィールが二挺のベクターリーダーで弾幕を張り、コバルトウェーブがディーパーの間を駆けまわりながら銃剣モードのベクターリーダーでディーパーを切り裂いている。たった3人で、彼らは見事にディーパーの群れを食い止めていた。

 

 だがそれも何時までも続かないだろう。彼らをあの状況から脱させる為には、ネイトが一分一秒でも早く瑠璃を救出し逃げなければ。

 

「すまねぇ……助かる!」

 

 ネイトは後ろを彼らに任せ、扉に手を掛けると力を入れて押し開けた。大きさに比例して重い扉を開けるのは苦労したが、海羽も手伝って中に入る事が出来た。

 

 扉を開けた先。そこにあったのは謁見の間と言うべき場所であった。周囲を柱に囲まれた空間には外から光が差し込み、玉座から入り口まで続く広いスペースを照らしている。

 その奥に存在する玉座に、ディーパーの親玉であるラハブは居た。醜悪な肉塊の上に魚人と言うべき上半身がくっ付いた様な姿のラハブに、海羽は生理的嫌悪を感じ思わず顔を逸らそうとした。

 

 だが下半身の肉塊から伸びた触手に、瑠璃が両手を広げて十字に磔の様に囚われている光景に嫌悪感も何もかも吹き飛んだ。

 

「瑠璃姉ぇ!?」

「テメェら、瑠璃に何しやがる!!」

 

 激昂するネイトだったが、ラハブは特に気にした様子も無く瑠璃を引き寄せながら口を開いた。

 

『漸くだ……待ちわびた。今日この時を以て…………』

 

 ラハブは引き寄せた瑠璃の頬を、後ろから手を伸ばしてゆっくり撫でる。その感触が悍ましいのか、意識を失った様子の瑠璃が目を閉じたまま顔を顰め呻き声を上げながら体を震わせる。

 

「う、うぅ……」

「瑠璃ッ!?」

「瑠璃姉ぇッ!?」

「ぅ……ネイト? 海羽ちゃん?」

 

 ネイトと海羽の呼び声に瑠璃が目を覚ます。まだ生きているし、何もされていないようだ。その事にネイト達が一瞬安堵しそうになるが、その顔も次の瞬間凍り付いた。

 

『私は、世界に羽ばたく!!』

 

 ラハブの下半身の肉塊が左右に開き、触手の海が姿を見せた。その触手の海から何本も触手が伸び、瑠璃の体を引き摺り込む。

 目覚めたばかりの瑠璃は、状況を理解できていない。だが自分の身に危機が迫っている事は本能的に察したのか、肉塊に飲み込まれる直前ネイトに助けを求めるような目を向けた。

 

「え? あ!? ネイト――」

「待て、瑠璃!?」

 

 手を伸ばすネイトだったが届く筈も無く、瑠璃の体はラハブに飲み込まれた。瑠璃を飲み込んだラハブの下半身が満足そうに震え、その光景を見た海羽は糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。

 

「そん、な…………瑠璃姉ぇ……嘘……」

「クソッ!? 変身!!」

〈Fever!〉

 

 まだ瑠璃は飲み込まれて直ぐ、今助ければ間に合うとネイトはオケアノスに変身して突撃した。

 

「瑠璃を返せぇぇぇぇぇッ!!」

 

 ラハブに拳を握り締めて飛び掛かるオケアノス。

 

 その拳をラハブは受け止めた…………肉塊に辿り着く前に。

 

「はっ!?」

『ふふふっ……』

 

 まだ殴ろうと振りかぶっている最中の拳を受け止められ、オケアノスが一瞬呆気に取られていると()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がぁっ?!」

「ネイトさんッ!?」

 

 海羽の居るところまで蹴り飛ばされたオケアノスは、込み上げる吐き気を抑えながら顔を上げた。

 

 そこに居たのは先程まで見ていたラハブだが、決定的に違うのは足がある事だった。そう、奴は下半身の肉塊を脱ぎ捨てるように分離して、魚人としての姿でオケアノスと対峙しているのだ。

 

「お前、それ脱げるのかよ!?」

『ふふふっ……さぁ、もう間も無くだ! 世界を、我々ディーパーが手中に収める時が来た!!』

 

 歓喜に震えるラハブの声が謁見の間に響き渡る。

 

 オケアノスは瑠璃の身を案じて焦りを感じながら、ラハブを前に仮面の奥で表情を険しくさせていた。




という訳で第48話でした。

既に最終話まで書き終えているので、ここからは連日更新で最終話まで駆け抜けます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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