新年一発目の更新になります!
瑠璃がラハブに取り込まれた。その光景に海羽は絶望し崩れ落ち、オケアノスは彼女を助け出そうとラハブに挑みかかった。
だがラハブは何と、肉塊から下半身を引き抜く様にして分離すると身軽になった体でオケアノスを迎え撃つ。
「この野郎ッ!」
握り締めた拳を振り下ろすオケアノスだが、ラハブはそれを片手でいとも簡単に受け止めてしまった。まるで子供のパンチを受け止めたかのような軽さに、オケアノスは思わず面食らう。
『こんなものか?』
「なっ!? くっ!」
明らかにこちらを挑発するような物言いに、オケアノスは心を奮い立たせ何発もパンチやキックをお見舞いした。左右の拳を抉る様に叩き付け、体重を乗せた蹴りをお見舞いする。
しかしラハブには全く通用しない。ラハブは放たれた攻撃の全てを軽く受け止め、受け流し、全くダメージを受ける事無くその場から一歩も動く事も無かった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
渾身の猛攻を事も無げに無力化され、徒労と疲労でオケアノスの動きが止まる。これがラハブ、嘗てムー大陸の文明を崩壊させ、倒す事叶わず封印するのが精一杯だった災厄。
こんな化け物を相手に勝てるのかと言う疑念が心に覆い被さって来るが、瑠璃を助けるという一心でそれを振り払いドロップチップをベットした。
「これならどうだ!」
〈BINGO! Skill activation. TEMPEST RUSH.〉
ただのパンチは軽く受け止められた。ならばこれはどうだと、オケアノスは必殺技のテンペストラッシュをお見舞いした。水を纏った連続パンチがマシンガンの様にラハブに叩き込まれる。
これで倒せるとは彼自身思っていないが、今の最大の目標は瑠璃を助け出す事。この技は目くらましか足止め程度にしか考えてはいなかった。
だがラハブの強さは彼の想像を遥かに超えていた。
「オラオラオラオラオラオラッ!!」
並のディーパーであれば場合によればこれだけで勝負がつく攻撃。そうでなくても、喰らった相手はその威力と攻撃の連続に足止めを余儀なくされる筈の技をお見舞いした。
だというのにラハブは、放たれた攻撃の全てをその場から動かず片手だけで受け止めてしまった。
「な、あっ!?」
暴風のような攻撃を、まるでそよ風程度にしか感じていないかのようなラハブの様子にオケアノスは一瞬唖然としてしまった。
思わず思考と動きを止めてしまうオケアノス。それはこの場において致命的な隙となった。
『これで終わりか、尖兵よ? ならば今度はこちらの番だ』
「ッ!?」
反撃が来る……そう思って身構えようとしたオケアノスは、次の瞬間には壁に叩き付けられていた。
「――――え?」
「え?」
それはあまりにも一瞬の事であった。やられた本人は勿論、放心していたとは言え傍から見る形になっていた海羽にも何が起こったのかを認識する事は出来なかった。
ただはっきりしているのは、拳を振り抜いたラハブの体勢からオケアノスが殴り飛ばされたのだと言う事。遅れてやってきた痛みに、オケアノスは漸く自分が目にも留まらぬ速度でラハブに殴り飛ばされ、一瞬で壁に叩き付けられたのだという事を理解した。
「ぐっ!? がはっ?!」
床に倒れるオケアノス。何が起こったのかを理解する間も無い攻撃は、それだけで双方の力の差を理解させるのに十分であった。
「こ、んな……ぐぅっ!?」
立ち上がろうとするオケアノスは、胸に走る痛みに思わず手を当てそちらを見た。
そこにあったのは、無残にも大きく罅割れ鎧としての機能を著しく欠いたと言わざるを得ない装甲の姿。テテュスを超える防御力を誇る筈の装甲が、ただのパンチ一発で意味を失くした。圧倒的な力の差にオケアノスの顔から血の気が引いた。
(こんなもん、瑠璃が喰らったりしたら……!?)
ラハブと戦うのが自分で良かったかもしれないと、オケアノスは場違いな事を考える。それは一種の現実逃避だったのかもしれない。そうしてしまう程、ラハブとオケアノスの間には大きな力の差があった。
圧倒的な力の差に呆然とするオケアノスに、ラハブがゆっくりと近付いていった。近付いてくるラハブの姿を彼は一瞬他人事のように見ていたが、ラハブの背後に鎮座する肉塊を見て我に返った。
そうだ、自分は瑠璃を助ける為に戦っているのだ。こんな所で折れる訳にはいかない。
「くっ!!」
〈BINGO! Skill activation. Deep diving.〉
このまままともに戦っては勝てない。まずは瑠璃を助ける事を最優先にしようと、オケアノスはディープダイビングで床の下に潜りそのまま床の下を泳いで肉塊へと近付こうとする。
その首を何者かが掴んだ。
「ぐっ!?」
最初オケアノスはそれをEXラフィの仕業かと思った。そう言えば奴はオケアノス達と同じく、ディープダイビングにより物体の中に潜る事が出来る。主であるラハブのサポートの為、オケアノスの行動を妨害に来たのかと警戒した。
だが振り返った彼が見たのは、こちらに見下した笑みを浮かべたラハブであった。
「テメェッ!?」
コイツは全てのディーパーの親玉だ。考えてみれば、ディーパーが使える能力は全て使えると考えてもおかしくは無いのかもしれない。
マズイと思った次の瞬間、オケアノスは猛烈な力で放り投げられ外へと放り出された。
「うぉあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
成す術なく床から放り出され、重力に従い落下するオケアノス。受け身を取る余裕も無く床に叩き付けられ、全身に走る痛みに悶えていた。
「がはっ!? ぐぅぅっ?!」
「ネイトさんッ!?」
「来るな!?」
思わずネイトに近寄ろうとする海羽だったが、今ここはラハブの狩場と言っても過言ではない状況。迂闊に近付けば鮫の様に下から襲い掛かられてしまう。
だがそれは杞憂であった。何しろ今のラハブにとって、獲物とはオケアノス以外に居なかったからである。
徐に床からラハブの腕が伸びると、オケアノスの体を今度は床の下に引き摺り込んだ。
「うぉっ!?」
床から追い出された事でオケアノスのディープダイビングは既に解除されている。その状態で床の、物体の中に引き摺り込まれたらどうなるか?
その答えを彼は自ら体験する事になる。
「ぐっ!? がはっ!? がぁっ?!」
身動きが取れない床の中で、縦横無尽に動き回れるラハブはオケアノスの体を少しずつ削り取る様にじわじわと嬲っていく。能力を使っている状態なら対抗も出来ようが、能力が切れ身動きが取れない状態では今のオケアノスはただの的であった。
散々に嬲られ、声も出せないほど痛めつけられたオケアノスは再び外へと弾き出される。もう装甲など見る影もない程ボロボロになったオケアノスは、床から弾き出されるとその勢いを己の力で止める事も出来ずゴロゴロと床の上を転がり海羽の前で止まった。
そこで力尽きた彼は変身が解除され、海羽の前に傷だらけの姿を晒した。
「う、ぐ……」
「ね、ネイトさん…………あぁ」
瑠璃は取り込まれ、ネイトはボロボロ。扉の向こうからはディーパーの大群と、絶望的な状況に海羽は涙を一筋流した。
そんな海羽に、ラハブはニヤリと笑みを浮かべてゆっくりと近付いていく。
ラハブがすぐ傍に近寄ってきたことに気付いた海羽が、引き攣った顔を向けると奴は海羽の首を掴んで持ち上げた。
「うぁ、あぁっ!?」
「み、海羽ちゃん!?」
持ち上げられた海羽にネイトが手を伸ばすが、ラハブには届かず海羽は肉塊に向けて連れられて行く。
海羽の事も取り込むつもりなのだ。いや、海羽には植え付けを行うだけだろうか。どちらにしても海羽の身が危ないというのに、ネイトは満足に動く事が出来ず見ていることしか出来ない。その事に彼は悔しさに歯を食い縛った。
肉塊が近付く中、海羽は虚空を見つめながら小さく呟いた。
「たす、けて……」
誰の耳にも届く筈の無い小さな呟き。しかしその言葉が呟かれた次の瞬間、扉が弾かれるように開かれコバルトウェーブが飛び込んでくると一直線にラハブに掴まっている海羽に向けて駆け抜けていった。
「海羽ぅぅぅぅぅぅっ!!」
銃剣モードのベクターリーダーを手に突撃するコバルトウェーブの前に、EXラフィが立ち塞がる。
『我が君の邪魔はさせない』
「退けッ!!」
両手に剣を持ち立ち塞がるEXラフィだが、今のコバルトウェーブには眼中にない。彼の目に映っているのは、危機が迫っている海羽のみ。
振るわれたEXラフィの剣を踏みつけるようにして飛び越えたコバルトウェーブは、そのままEXラフィを踏み台にして大きく跳躍し距離を稼ぐ。逃がすものかとEXラフィが剣を投げるが、彼はそれをろくに見もせず逆に銃剣で弾き返してしまった。
『ぐっ!?』
『ちっ!? 痴れ者がッ!!』
進撃を止めないコバルトウェーブに焦れたEXクラムが剣を逆手に持ち杖にして能力を発動。津波の様に水を放ちコバルトウェーブを押し戻そうとした。
漸く少し落ち着いてきたネイトが見ている前で、コバルトウェーブの姿が水流に飲まれて消える。彼はコバルトウェーブがそのまま押し流される未来を予想したが、その予想は大きく外れた。
コバルトウェーブは鯉が滝を上る様に、EXクラムの放つ水流の中を泳いで接近していった。
『何だとッ!?』
「うぜぇっ!!」
『がっ?!』
まさかこの水流の中を泳ぎ切るとは思っていなかったEXクラムが慄いていると、コバルトウェーブは水流から脱し一発斬撃を喰らわせて進路から退かした。
これで海羽までの道に障害物は無くなった。コバルトウェーブは一直線にラハブへと接近すると、後ろからラハブに斬りかかった。
「海羽を放しやがれッ!!」
振り下ろされた刃を、ラハブは腕で受け止めた。硬い鱗が刃を押し留めている事にコバルトウェーブは歯噛みしつつ体勢を変えると、まだ残っている飛び掛かりの勢いを利用して踏み付けるようにラハブに蹴りを放ち距離を取った。
その勢いにラハブも思わず体勢を崩した。
『うっ……』
「貰った!!」
その瞬間をコバルトウェーブは待っていた。体勢を崩した事で、僅かにだがラハブが海羽の首を掴む力が緩んだ。その瞬間を狙って、コバルトウェーブは海羽を掴んでいる方のラハブの腕を斬りつけた。その一撃にラハブは思わず海羽の首から手を放し、解放された海羽をコバルトウェーブは引き寄せ腕に抱いた。
「海羽、大丈夫か!?」
「バーツ!」
「あの姉ちゃんは?」
「瑠璃姉ぇは……」
コバルトウェーブに助け出され、彼の腕の中に納まったことで安堵の表情を浮かべた海羽だが、瑠璃の行方を訊ねられて笑みを消す。そして今にも泣きそうな顔で肉塊を見て、その視線が意味する事に彼も気付いた。
「は? え、もしかして?」
「瑠璃姉ぇ、あれに食べられちゃった――!?」
もう終わりだと泣き崩れる海羽を、ラハブが改めて捕らえようとする。瑠璃が食べられたと知り一瞬呆然としていたコバルトウェーブだが、海羽の身に危険が迫っていることに気付くと彼女を横抱きに抱えて一旦ネイトの傍へ移動した。
彼が近付く頃には、ネイトも多少体力が回復したのか自分の足で立ち上がっていた。
「海羽ちゃん、大丈夫か?」
「怪我はさせてねぇよ。それより、どうするんだ? もう諦めて帰るのか?」
瑠璃が肉塊の中に取り込まれてからまだそこまで長い時間は経っていない。あの肉塊の中で瑠璃がどうなるのかは分からないが、仮に消化吸収されるのだとしてもまだ余裕はあると思っていた。流石にそんな驚異的な消化力があるなら、態々自分で肉塊を切り離して妨害しに来ないだろう。
だが瑠璃がまだ健在だとしても、ラハブを突破出来なければ彼女を助け出すことは叶わない。そしてラハブの戦闘力は、彼の予想を遥かに超えて高く倒す事はほぼ不可能に近いと感じていた。その事が、彼から覇気を奪っていた。
「諦めたくはない。だが、奴は……ラハブは、強すぎる」
「だから?」
「え?」
「あの瑠璃って姉ちゃんは、敵が強かったら命惜しさに諦められる程度の奴なのか?」
「なっ!?」
コバルトウェーブの物言いにネイトは反論したかった。そんな事ない、命に代えても助けたいと。だが同時に、犬死する可能性をどうしても考えてしまう。策も案も無しに猪の様に馬鹿正直に突撃する勇気は彼にはなかった。
しかしコバルトウェーブは……バーツは違った。
「海羽!」
「ッ、何?」
「あの姉ちゃん助けたいか?」
「え?」
「助けたいかどうかって聞いてんだ!」
「そんなの……助け、たい」
突然の質問に、唖然としつつ答える海羽。だがその答えでは不満なのか、コバルトウェーブは態とらしく耳元に手を当てよく聞こえないとジェスチャーをした。
「あぁ? 何だって? よく聞こえねぇよ」
「~~~~ッ! 助けたいに決まってるじゃん!! 瑠璃姉ぇは、とっても大切な、私のお姉ちゃんだもん!! 何が何でも助けたいよ!!」
やけくそになって叫ぶ海羽に、コバルトウェーブは満足そうに頷いた。
「オーケー、それなら俺に任せろ! そこの腰抜けと一緒にここで待ってな!」
コバルトウェーブはそう言って肉塊に向け駆けだした。
彼の目的が肉塊に囚われた瑠璃であると気付き、ラハブはそれを妨害すべく彼の前に立ち塞がった。
『させるか』
「ハッ!」
襲い掛かって来るラハブを、前転する様に飛び越えるコバルトウェーブ。だがこの程度で逃がすほどラハブは鈍くは無く、素早く振り返り彼の背に鋭い爪の生えた手で切りかかる。
振り下ろされた爪をコバルトウェーブは身を低くすることで回避し、お返しに体を反転させながら銃剣を振り上げる。
一撃を回避した直後に放たれた会心の一撃。しかしそれはラハブの全身を覆う硬い鱗により阻まれ、傷一つ付けることは叶わなかった。
呆れる硬さにコバルトウェーブは小さく舌打ちをした。
「チッ、めんどくさい奴」
『我が君に無礼を働くなどッ!?』
『万死に値するッ!?』
「あっ?」
ダメージにならなかったとは言えラハブに一撃入れられた事で、EXラフィとEXクラムが激昂してコバルトウェーブに襲い掛かる。EXクラムも杖を剣として扱い、EXラフィと共にコバルトウェーブに接近戦を仕掛けた。
2体の幹部からの攻撃を、コバルトウェーブは横に転がって回避。そしてそこから立ち上がると、銃剣一つでラハブに幹部2体を同時に相手取った。
銃剣を振り回し、相手の武器を弾きながらお返しの一撃を加えていく。一見すると善戦している様にも見えるが、しかし3対1でいずれも格上と言う状況は彼にとっても辛いのは明らかだった。次第に対応が追い付かなくなっていき、一方的に攻撃を受ける事も増えていく。
『ハッ!』
「ぐっ!? んのっ!!」
『甘い』
「がっ?!」
徐々に防戦一方に追い込まれ、防御も次第に儘ならなくなり嬲られていくコバルトウェーブの姿に海羽は目に涙を浮かべていた。
「あぁ、バーツ!? ねぇネイトさん!? バーツを、バーツを助けて!!」
「分かってる! だが……」
先程ラハブにやられた際のダメージがまだ残っている。この状態であそこに飛び込んでも、嬲られるのが2人になるだけで状況は何も変わらない。
せめてこの状況を打破し、瑠璃も助けられるだけの力が手に入れば…………
(力が……力が欲しい!)
無い物強請り、しかしそれで瑠璃とコバルトウェーブを助けられる訳も無い。それでも瑠璃とバーツを見捨てるのは残されたプライドが許さないので、ネイトはなけなしの勇気を振り絞り一歩前に踏み出した。
その瞬間、懐から1枚のコインが零れるように落ちた。セラの故郷の島で、祭壇の上に残されていたシルバーライフコインだ。
落ちたコインがチャリンと言う音を立てる。
「これは……」
そっと落ちたライフコインを拾い上げる。コインが床に落ちた際の音は決して大きな音ではなく、ともすれば戦闘の音にかき消されて聞こえなくてもおかしくはない筈の音だったが、ネイトの耳はその音を鮮明に捉えていた。まるでコインが自らの存在を主張したかのようだ。
暫し手の中のライフコインを見つめるネイトだったが、徐に顔を上げると腰のベルトにコインを投入した。
〈Catch your fate〉
レバーを下ろしスロットを回す。高速回転するリールを見つめ、タイミングを合わせて回転を止めた。揃う絵柄は全て7……最高の大穴を当てたネイトは、その景品とばかりに新たな鎧を手に入れた。
「変身!」
〈Fever!〉
新たな姿となったオケアノスの姿は、一言で言えば船乗りだった。黒いアンダースーツの上に銀色の装甲を纏い、頭にはキャプテンハットを被っている。
だが今の彼の姿で何より目を引くのは、その手に握られている鎖に繋がれた錨だった。抱えるほど大きな錨が、鈍い光を放つ鎖に繋がれて小さく揺れている。
それは、オケアノスの手に入れた新たな姿。太古のテテュスやオケアノスが使用したその力の名は、言うなれば『チェーンレイズ』と言ったところであった。
「……行くぞ」
小さく呟いたオケアノスは、鎖を振り回しながら突撃した。
コバルトウェーブを甚振っていたラハブ達は、接近するオケアノスに気付かない。
「オラァァァァァッ!!」
こちらに意識を向けないラハブ達に、己の存在を主張するかのように雄叫びを上げながらオケアノスは鎖を伸ばしながら振るった。遠心力で勢いの付いた錨が、鎖に繋がれた状態で振り回され大きく弧を描きながら飛んでいく。
その錨は勢いよく飛んでいき、ギロチンの様に鋭き研がれた縁がラハブの体を大きく傷付けた。
『ぐぉっ?!』
『我が君ッ!?』
まさか自分の体が傷付けられるとは思っていなかったのか、ラハブは驚愕の声を上げてひっくり返る。その事にEXラフィとEXクラムがまさかと言った様子で動きを止めた。
『貴様ッ!?』
「退けッ!!」
ラハブを傷付けられた事に激昂したEXラフィがオケアノスに襲い掛かるが、彼はそれを振り回す鎖で弾き返した。オケアノスは鎖を手足の様に扱い、鎖はまるで意志を持っているかのように動きEXラフィとEXクラムを遠ざけた。
邪魔者を引き剥がしたオケアノスは、散々に甚振られていたコバルトウェーブに手を差し出した。
「大丈夫か?」
「ぐっ……へっ、来るのが遅ぇんだよ」
ボロボロとなったコバルトウェーブは、オケアノスの手を借りて立ち上がる。足取りは若干覚束ないが、その目から放たれる覇気は微塵も翳りを見せてはいなかった。
「こいつらは俺が何とかする。だからお前は海羽ちゃんを……」
「お断りだ。舐められたままで終われるか」
「お前……もうボロボロのくせに何言ってんだ。命惜しかったら下がってろ」
少し強めに下がるように言うオケアノスだったが、コバルトウェーブは一歩も退かない。寧ろオケアノスを自分の後ろに追いやる様にして、瑠璃の元へと行かせようとした。
「ッ、おい!」
「俺に命令すんな。大体、お前は俺じゃなくてあの姉ちゃんを助ける為にここに居るんだろうが。優先順位間違えんな」
「だがな――――」
コバルトウェーブの腕が立つ事は彼も認める所ではあったが、変身しているバーツはそもそもまだ子供である。そんな子供にこれ以上の無茶をさせるなど、大人として認める訳にはいかない。
だがそんな子供扱いは、バーツが最も嫌悪する事であった。
「俺は何時までも子守りが必要なガキじゃねえんだ。自分の身は自分で守れるし、何より……」
見せつけるようにコバルトウェーブが二つのベクターカートリッジを取り出した。それはフランシスとエドワードが使っている筈の、リヴァイアサンとモササウルスのベクターカートリッジであった。
そこで気付いた。部屋の外がやけに静かだという事を。
「俺だって別に無策な訳じゃねえんだよ」
「ちょっと待てお前ら……アイツら皆倒したのか?」
ベクターカートリッジは彼ら3人が戦う為に必要なアイテム。それが全てこの場にあるという事は、扉の向こうではもうこれらは必要ないと言う事になる。
廊下を埋め尽くすほどのディーパー、それも後から後から湧いて出てくるディーパーの群れを、彼らはたった3人で全て倒したのだ。オケアノスがその事実に気付き信じられないと言った目を向けていると、コバルトウェーブは勝ち誇ったように鼻で笑った。
「あの程度どうって事ねえ。分かったらさっさと行きな!」
〈MEGALODON, LEVIATHAN, MOSASAUR leading〉
「さぁ、お楽しみだ――!!」
〈Triple Transcription〉
銃口から放たれるのは3つのスーパーコイル。それが対峙しているラハブにEXラフィ、EXクラムに直撃し、反射してコバルトウェーブに返っていく。
戻ってきた三条の閃光を、仁王立ちしたコバルトウェーブが両腕を広げて受け止める。閃光に貫かれ、コバルトウェーブの姿が大きく変わる。
「ぐっ! ぉ、あぁぁぁぁっ!!」
鮫の顔を模した頭部に、ゴツイ肩アーマーから伸びた腕の先にはインディゴサイクロン譲りのガントレットが付き、下半身は口を開けたワニの様に両足にスパイクを仕込んだ装甲が取りつけられた。
太古の海で捕食者の覇権を握っていた3体の巨獣。その遺伝子全てを内包した戦士がここに誕生した。
その名はコバルトカイザー。敵対する者を食い千切り、海を支配する帝王。
「くぅぉぉぉっ――!! 流石に3本はキツイが……」
恐らくベクターリーダーを嘗て開発した傘木社も、こんな使い方は想定していなかったに違いない。ベクターカートリッジの数が増えれば増えるだけ制御が難しくなるのは自明の理、嘗ての傘木社幹部達だって2本以上同時に使用するようなことはしなかった。
しかし、バーツは違った。彼は暴れる3つの遺伝子を抑え込み、その力を己の物として制御してしまったのだ。それは天性の才能によるものか、それとも並外れて精神力が強かったのか。
「これならお前らも纏めて蹴散らせる! 行くぜッ!!」
3体に向け突撃するコバルトカイザーを、EXラフィが迎え撃つ。両手に剣を構え、素早い動きで近付き剣を振り下ろした。
それをコバルトカイザーは両手のガントレットで受け止めた。
『何ッ!?』
まるで硬い岩盤を切りつけたかのような感触が剣から手に伝わり、思わずEXラフィは息を呑んだ。明らかに先程とは気迫だけでなく存在が違う。
そう警戒したのが悪かった。攻勢が緩んだのを見た瞬間、コバルトカイザーはEXラフィの懐に潜り込み両手のガントレットで何度も殴りつけた。
「オラオラオラオラオラァァァァァッ!!」
切り付けた際の感触が岩盤のようであるのなら、殴りつけてくる威力は岩盤をも砕くほどの一撃であった。一発一発がEXラフィの全身をバラバラに砕くのではと言う程の一撃が何発も叩き付けられ、EXラフィの全身を覆う鱗の鎧が無残に砕け散る。
『ぐぉぁぁあぁぁぁぁぁぁっ?!』
『チィッ!?』
仲間の悲鳴にEXクラムが慌てて水流を放ちコバルトカイザーを引き剥がそうとする。彼を押し流すどころか、両断しようとしているかのようなその水流を、しかしコバルトカイザーは持ち堪えるどころか水流の中を歩いた。
『何だとッ!?』
まさか耐えるどころか歩いてくるとは思っていなかった。何しろ今放っている水流は最大出力の物。それに耐えるどころか、あまつさえ歩いてくるなど想定できる訳がない。
水流の中を歩き切り、EXクラムの前に辿り着いたコバルトカイザーは自分に水流を放つ杖を掴んで明後日の方を向かせた。
「よぉ、良いシャワーだな?」
『ッ!?』
予想外の事態に思考が停止してしまっていた。慌てて距離を取ろうとするEXクラムだったが、それよりも早くコバルトカイザーのアッパーカットがEXクラムの頭をかち上げ、続いて放たれる上段回し蹴りで蹴り飛ばした。
『グッ?!』
蹴りの瞬間、オーラがモササウルスの頭部を模しEXクラムの頭部を喰らう。オーラがまるで食い千切る様にしながらドロップチップを撒き散らし、EXクラムは回転して倒れる。
倒れたEXクラムに追い打ちを掛けようと迫るコバルトカイザーだったが、その背後からEXラフィが飛び掛かった。背後からの一撃は完全に不意を突き、無防備な背中を切り裂く筈であった。
だがコバルトカイザーは、まるで背中に目があるかのように見るよりも先に腕を動かし、振り下ろされた刃を受け止めてしまった。
『くっ!?』
不意打ちを受け止められ、歯噛みするEXラフィにコバルトカイザーはゆっくりと振り返る。そして剣を振り下ろした体勢で動きを止められ無防備となっているEXラフィの腹を殴りつける為、コバルトカイザーが拳を握り肘を引き構えを取った。
その腕を、ラハブが掴んで止めた。コバルトカイザーが掴まれた腕を見ると、ラハブは掴んだ腕をゆっくりと捻る様に持ち上げる。勿論彼はそれに抗おうとしたが、ラハブの力は尚も強く彼の抵抗を振り切り捻り上げた。
「クソがッ!!」
もうEXラフィに構ってなどいられない。コバルトカイザーは標的をラハブに集中させ、空いている方の腕で殴りつけた。
それもラハブには受け止められる。渾身の力を込めた一撃を受け止められ、力比べで負け両腕を開かされたコバルトカイザーはラハブを振り払おうとまだ自由な足で蹴りつけた。
「放せッ!?」
蹴りの瞬間、オーラのモササウルスがラハブの胴体に食らいつく。だが今度は食い千切る事は出来ず、ただラハブを後ろに数歩下がらせるしか出来なかった。
依然として余裕そうな態度を崩さないラハブにコバルトカイザーは舌打ちして追撃に入ろうと拳を握り一歩前に足を出す。
するとその時、突然彼の足から力が抜けその場に蹲る。
「ぅあっ!? な……?」
何が起こったのか? 一瞬考えるコバルトカイザーだったが答えは何てことは無い。ただ体に限界が来ただけだ。元々2本同時使用ですら負担が掛かるのに、3本も同時に使えば体に掛かる負荷は相当なもの。寧ろここまで戦えたのが称賛に値する程だった。
だがそれもここが限界だ。体からは急速に力が抜け、意識が遠退くのを感じる。コバルトカイザーは己の限界に力の入らない奥歯を噛みしめながら、それでも根性で意識を保ち足に力を入れ立ち上がる。
「こ、のぉ…………!」
まだ戦う意思を手放さないのは大したものだが、彼はもうここまでだ。ラハブはそう告げるように、最早的となったコバルトカイザーをエネルギーを集束した足で蹴り飛ばした。
『フンッ!』
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」
「バーツッ!?」
コバルトカイザーが蹴り飛ばされた先には海羽が居た。海羽の前に倒れた彼は、変身が解除され元の姿に戻ってしまう。
「がはっ!? ぐぅ、ぁ……」
「バーツッ!? バーツしっかりして、バーツッ!?」
倒れて血を吐くバーツを海羽が抱きしめるように助け起こす。朦朧とした意識の中、バーツが視線を向ければラハブがこちらに向けゆっくりと歩いてきていた。海羽を再び捕まえて取り込むか苗床にする気なのだ。
それに気付きバーツは残った力で海羽に逃げるよう告げた。
「み、海羽……逃げろ、早く……」
バーツの警告にラハブが迫っていることに気付いた海羽は、しかし逃げる事はせずバーツを抱きしめながら迫るラハブを睨み付けた。今から逃げて逃げ切れるとは思えないし、何より瑠璃だけでなくバーツまで見捨てて逃げるような真似は出来ない。
故に海羽は、今自分に出来る最後の抵抗として仇敵に向けるような視線をラハブに向けたのだ。
ラハブはその視線を嘲笑う様に鼻を鳴らし、海羽に近付き手を伸ばして――――
『グッ!?』
「……え?」
突然何かに苦しみだした。今この瞬間、誰も何もしていないし、ラハブが何かをされた気配も無い。バーツはこの通りダウンしているし、海羽に戦う力は無い。オケアノスだって――――
『まさかッ!?』
振り返ったラハブが見た先には、膝をついているオケアノスの前でラハブの下半身だった肉塊が蠢いている様子が映った。それはまるで何かが内側から飛び出そうとしているようで…………
『や、止めろぉぉぉぉっ!?』
ラハブが叫んだその時、肉塊を突き破って腕が一本出てきた。肉塊の中を突き破って出てきたからか血に塗れているが、それが誰の腕なのか海羽にはすぐ分かった。
オケアノスがその腕を掴んで引き摺り出す。引きずり出されたその姿を見て、海羽は歓喜の笑みを浮かべ涙を一筋流した。
「瑠璃姉ぇッ!!」
という訳で第49話でした。
今回バーツはかなり無茶をしました。ベクターリーダーでは改良で2本までは同時使用できても、3本同時使用は考えられていなかったので最悪変身できずにぶっ倒れるリスクもありました。
そのリスクを克服し、圧倒的力を見せるも無茶が祟ってラハブには及びませんでしたけども。
最後の方で瑠璃が脱出に成功していましたが、それに関しては次回明らかになります。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
今年もよろしくお願いします!それでは。