仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第5話:ディール、それぞれの宴

 突如発生した半魚人による特殊生物災害に対処する為派遣されたS.B.C.T.αチームは、海都警察署の一画を臨時の指揮所として借り受けていた。

 

 先日の地下施設への調査では、死人こそ出さなかったものの数名の負傷者を出してしまった。加えて件の怪物である半魚人の討伐は完了していない。

 そしてそれを放置して帰る事など出来ない以上、彼らには活動の為の拠点が必要不可欠であった。その場所として、海都警察署の一部を借用したのだ。

 

 その臨時の指揮所で、慎司は総司令である宗吾と連絡を取っていた。内容は先日の戦闘の報告である。

 

『そうか……海都に新たな仮面ライダーが……』

「はい。接触した隊員2名の話によると、少なくとも敵意を向けては来なかったそうです」

「今は過度に接触を図って刺激すべきではないと思い、今回は声を掛けるなどの行動は控えさせました」

『そうだな、それが賢明だ。話せばわかり合えるかもしれないが、銃を持った相手にいきなり話しかけられて冷静でいてくれるという保証はない。まずはこちらが絶対に敵ではないと思わせる事が重要だ』

 

 宗吾はそれを身をもって知っていた。言葉ではなく行動で自身の本質を指し示す。言葉で言うのは容易いが、実行するのはとても難しい。一度感情的になった相手は、こちらの話など一切聞いてはくれないからだ。

 それでも、味方である事を示し続ければその思いは何時かきっと届くだろう。宗吾はそう確信していた。

 

 一通りテテュスに関する報告の後は、先日の戦闘の結果と今後の活動に関してである。

 

「それと、今後の活動に関してですが……」

『分かっている。今朝の便でそっちにB装備を送らせた。これで周りが原子炉だろうが気にせず攻撃できる』

 

 そんなところでの戦闘など真っ平御免だ。そうは思ったが慎司は話の腰を折らないようにと敢えて黙っておいた。

 

「助かります」

『気にするな。折角遠路遥々海都まで行ったんだ。仕事の合間に息抜きでもして来い。お前は少し真面目過ぎるからな。部下と一緒にガス抜きしておくんだな』

 

 宗吾はそう言って通信を切った。慎司はツー……ツー……と音を鳴らす受話器を静かに見下ろした。

 

「息抜き……か」

 

 誰にともなく呟く慎司だったが、その声を耳聡く聞く者が居た。言わずもがな、茜である。

 

「そうですね。小早川さんには息抜きが必要です」

「北村さんまで……」

「権藤さんの言う通りですよ。小早川さんは少し真面目過ぎます。適度に肩の力抜かないと、潰れちゃいますよ。それに……」

「それに……何です?」

 

 キョトンとする慎司に、茜はニコリと微笑みながら答えを口にした。

 

「隊長である小早川さんが息抜きしないと、部下の人達が羽を伸ばせません。今回の事件、長く付き合う事になりそうですし、適度に肩の力を抜いても罰は当たらないと思いますよ?」

 

 慎司は思わず唸る。罰が当たらない云々は別にしても、長期化が予想される任務で息抜きの一つもないのは自分はともかく部下には辛かろう。であるならば確かに、茜の言う事にも一理ある。

 幸いな事にここはリゾート地。曲がりなりにも警察官である彼らがギャンブルに興じる事は問題だが、交代で休息し軽く酒を飲む程度は許されるだろう。

 

 装備が届くまでは時間もある事だし、慎司は数人を連れて何処に呑みに行く算段を立て始めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 夜、BAR・FUJINOはこの日も静かに営業していた。

 最近は色々と物騒になって来たが、この店は平和だった。今宵は変な客も入らず、客も料理や酒を楽しみつつ顔見知りとの会話などに興じている。

 

 その客の間を、エプロン姿の瑠璃が動き回っていた。

 

「はい、こちらウィスキーのロックになります」

「お、来た来た」

「瑠璃ちゃん! こっちテキーラとカットレモン、それと~ソーセージ盛り合わせ頂戴!」

「は~い!」

 

 馴染みの客達は今日も美しい瑠璃の姿を目で追いながら、酒を飲み酔いを回らせる。時折この店には何も知らない客が入っては瑠璃や、彼女ほどではないが可愛い海羽にちょっかいを出す事もあったが常連である彼らはそんなことしない。

 

 少なくとも真っ当な良い客でいれば、瑠璃や海羽からは素敵な笑顔を向けてもらえる。そこで下手に欲を見せて、狼藉を働こうとすればその者は確実に搾り取られるのを彼らはよく知っていた。

 そう、店の奥にある一台のルーレットによって…………

 

 その時店の扉が外から開かれた。新たな客の到来を、揺れるベルの音が知らせてくれる。

 

 瑠璃と海羽はベルの音に反応し、ドアの方に笑みを向けた。

 

「「いらっしゃいませ~!」」

 

 

 来店したのはいずれもスーツ姿の男性達だった。先頭の男性は生真面目そうで、瑠璃達に軽く頭を下げ人数を告げた。

 

「4人なんですが……」

「は~い、こちらの席にどうぞ~!」

 

 海羽が4人の男性……適当に部下を選んだ慎司達をテーブル席に案内する。その間に、瑠璃は他の客に酒や料理を運んでいく。

 

 席に着いた4人の内、部下3人はまず店の内装を眺め次いで店の中を動き回る瑠璃に視線を釘づけにされた。

 

「おぉ~、見ろよあの子」

「なかなか……ふむ」

「こういう小さい店が意外と穴場って話はよく聞くが、眉唾じゃなかったみたいだな」

 

 他の客に酒と料理を配膳した瑠璃が彼らの視線に気付きそちらを見た。自分に注目する3人に、瑠璃はスマイルを向け手を振った。

 その笑顔に彼らはイチコロになり、鼻の下を伸ばして手を振り返す。

 

「言っておくが、あまり羽目を外し過ぎるなよ。任務中の息抜きで来てるんだからな」

「分かってますって、隊長」

「しかし意外でした。まさか隊長の口から、交代とは言え呑みに行く事を提案されるとは」

「真面目が服着て歩いてるような隊長なのに……」

「悪かったなクソ真面目で」

 

 部下たちからの評価に慎司は顔をムッとさせながら言い返す。

 そこに海羽が注文を取りにやって来た。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「取り合えず、生ビールを」

「俺達もそれで」

「は~い」

 

 注文を聞き、海羽が彼らから離れていく。海羽が離れて行ったのを確認すると、慎司はちょっと真剣な顔になって口を開いた。

 

「で、だ。高田、馬場。もう一度聞きたいんだが、お前達が見たという仮面ライダーはどんな感じだった?」

 

 今回慎司が連れてきた部下は3人だが、内2人は明確に理由があって呼んだのだ。その理由とは、彼らが出会ったテテュスの事を詳しく聞きたいが為。報告の為に話を聞きはしたが、もう一度確認の意味も込めて聞いておきたかったのだ。

 

「どんな感じって言われても……前に話した通りです。なぁ?」

「はい。声や仕草から察するに女性で、正直に言って戦いになれてるって感じじゃありませんでした。でもずぶの素人かって言われるとそれも疑問で、何と言うか……やり方は分かってるけど実践した事はあまりないって感じ、ですかね?」

 

 彼らの話を、瑠璃は近くのテーブルを拭きながら耳を大きくして聞いていた。会話の内容から、彼らが先の戦闘で自分よりも先に半魚人と戦っていたライトスコープであると気付いたのだ。間違っても自分の正体がバレているようなことはないと分かってはいるが、それでもやはり気になってしまう。

 

「という事は、最近仮面ライダーになったばかりなのか? いやだが、戦い方が分かっているというのは……」

「飽く迄私見ですがね」

「しっかし、あの怪人何なんですかね? 何か倒すとチップみたいなの落とすし」

「あぁ、そう言えばそんなの落としてたな。下でも何体か倒したんだが、その時にチップを回収してる。調査の為に技研に送りはしたから、何か分かる事があればいいんだが……」

 

 どうやら彼らの興味はテテュス以上に半魚人の方にあるらしい

 瑠璃はその事にちょっぴり安堵した。

 

「ほっ……」

 

 瑠璃が安堵の溜め息を吐いていると、海羽が4人分の生ビールのジョッキを持って出てきた。それを見て、瑠璃は海羽に近付くと彼女からジョッキ4つを受け取った。

 

「海羽ちゃん。これは私が持っていくから、海羽ちゃんはあちらのお客さんの方をお願いして良い?」

「え? うん、分かった」

 

 海羽は特に疑問を抱かず、瑠璃にジョッキ4つを任せると別の客の方へ向かった。

 ジョッキを受け取った瑠璃は、それを慎司達のテーブルへもっていく。

 

「はい、お待たせしました。生ビール4つです」

「お! 待ってました!」

「まぁ隊長、難しい話は後にして今は楽しみましょう」

「……そうだな」

 

 4人は軽くジョッキを当てて乾杯をし、良く冷えたビールを流し込む。気温の高い海都の温度と湿度、更には仕事で火照った体にビールの冷たさと炭酸、そしてアルコールが良く沁みた。

 

 そしてアルコールが入ると、必然的に心が段々と軽くなるもの。摘みに色々と頼み、瑠璃がそれを持ってくると高田が徐に瑠璃に声を掛けた。

 

「いや~、君綺麗だね~。この街に住んで長いの?」

「そうですね~。もう2年になりますか。まぁこの街自体、出来てからそれくらいしか経ってませんから大体の人はそれくらいだと思いますよ」

「高田、あまり羽目を外し過ぎるなと言っただろう」

「構いませんよこれくらい。お巡りさん達もお仕事大変でしょうし、息抜きは必要ですよね」

 

 高田からのちょっかいを適当に受け流しつつ瑠璃が接客する。だがその中で、彼女はちょっとしたミスを犯した。

 

「ん? なぜ我々が警察官だと?」

 

 思わせぶりな会話をしてはいたが、彼らは会話の中でS.B.C.T.の名前も何も出していない。それなのに警察官であると指摘するのは些か不自然過ぎた。

 

 慎司からの指摘に、瑠璃は冷や汗を抑えながら彼らの手元を見てあるものを見つけるとそれを指差した。

 

「皆さん、指の同じ場所にタコが出来てますよね。それ、拳銃で出来たんでしょ? この街で拳銃のタコが出来るような職業なんて、警察以外にありませんから」

 

 瑠璃に指摘され、全員自分の右手を見る。確かに彼らの指には特徴的なタコが出来ていた。なるほど知る者が見ればこれで警察官であることくらいは分かるだろう。

 

 慎司は瑠璃の観察力と推理力に舌を巻いた。その姿はまるで、彼も良く知るある男の様ですらあった。

 

「見事な推理力と観察力ですね」

「いえ、以前読んだ小説でそういうシーンがあっただけです。偶々ですよ、偶々」

 

 コロコロと笑う瑠璃に、慎司達も頬を綻ばせる。何とか誤魔化せたことに、瑠璃はそっと安堵の溜め息を吐いた。

 

「最近は色々物騒になってきてお仕事大変でしょうけど、頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、頑張りますよ」

 

 瑠璃からの激励を受け、慎司達は俄然やる気を滾らせた。こんな美女に励まされるなら、頑張ろうという気にもなるというものだ。

 

 そのまま彼らは暫く店で飲み食いし、程よく酔っぱらったところで店を後にした。

 

 彼らを見送る瑠璃は、この店での様子から彼らがそこまで警戒すべき相手ではないことを知り次からはもうちょっと協力的になろうかと考えるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、港に停泊しているクルーザーにはバーツ達が集まっていた。

 食堂に料理を広げて騒がしく食事をしながら、話す内容はテテュスに関する事だ。

 

「何? あの羅針盤で仮面ライダーに変身できたのか?」

「あぁ、この目で確かに見た。羅針盤を腰に装着して、青いコインみたいなのを入れてレバーを下ろして……」

「コイン……もしかして、あれと一緒に手に入れたああ言うのと同じ奴か?」

「多分それだ。はっきり見た訳じゃないけど、色はともかくデザインはよく似てたと思う」

「ふむ……どうする、兄貴?」

 

 エドワードが問うと、フランシスはラム酒をガブリガブリと飲み口元を手の甲で乱暴に拭いつつ答えた。

 

「んなもん決まってる。元は俺達のもんだったんだ、なら返してもらうのが道理ってもんだろうが! バーツ、女の特徴は覚えてるな?」

「勿論。あんな女、忘れようと思っても早々忘れられねぇ」

 

 バーツの答えに気を良くしたフランシスは、大振りのナイフを取り出すと傍にあったハムの塊に突き刺しかぶりついて引き千切った。

 

「なら明日、さっそく返してもらおうじゃねえか。明日は忙しくなるぜ!」

「お宝は俺達の物だ」

「応よ!」

 

 3人の言葉に、子分達も威勢のいい声を上げた。彼らはそのまま夜が更けるまで飲んで騒ぎ、港に停泊したクルーザーからは何時までも明りが零れていた。

 

 

 

 

 そのバカ騒ぎを、船内の別室で聞いている者が居た。白衣を着た女性と8号である。

 白衣の女性は扉越しにも聞こえてくる騒がしい声に、煩わしそうに眉間に皺を寄せ溜め息を吐いた。

 

「全く、騒がしい事この上ないわね。手頃な足として雇ったのは失敗だったかしら? ねぇ、どう思う8号?」

 

 そう言って女性は手元のスイッチを押した。瞬間、室内に8号の悲鳴が響き渡る。

 

「あぁぁぁぁぁっ!? が、がぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 椅子に縛り付けられた8号が悲鳴を上げながら体を痙攣させた。彼女の体には電極が取り付けられており、それが彼女を電流で痛めつけていたのだ。

 

 あまりの激痛に悲鳴を上げながら意思に反して身を捩る8号だが、手足を硬く縛られている為抜け出す事が出来ない。

 部屋中に響き渡るほどの痛ましい悲鳴だが、しかし食堂で騒ぐフランシス達は気付いていなかった。

 

 そのまま暫く拷問していた女性は、唐突にスイッチを切った。痛みが突然消え、脱力した8号は顔を上げる力もないのか項垂れ息も絶え絶えになりながら女性に許しを乞うた。

 

「お、おねが……しま、す。ゆ、許、し……。もう、逆らい、ません。もう、失敗しません……から……」

 

 彼女の足元には電流による拷問で吹き出た彼女自身の体液で水溜りが出来ている。異臭を放つ水溜りに、女性は顔を顰める事無く近付き8号の髪を掴んで顔を無理やり上げさせた。

 

「う゛あ゛っ!?」

「良い子ね、8号。素直な子は私好きよ。これからもそう言う素直さを忘れないで頂戴ね? あなたは折角の”成功体”なのだから」

 

 ニチャリとした笑みを向けてくる女性に、8号は怯えた目で何度も頷く。その様子に女性はサディスティックな笑みを深めると、手を離して電極を外した。

 次いで手足の拘束を外してやり、8号を自由にすると自分は椅子に座り机の上のノートPCを開いた。ノートPCには先の戦闘と瑠璃の姿が映し出されている。

 

「まさかこんなところに居たなんてね。これは幸運かしら? 実験が捗るわねこれは」

 

 女性はクスクス笑うと、部屋の冷蔵庫からワインを取り出し栓を開けグラスに注いで一気に飲み干した。アルコールが回り頬が赤らみ、アルコールを含んだ吐息が吐き出される。

 

「あ、明日から職場に行くんだったわね。あんまり酔う訳にもいかないか」

 

 ふと思い出したように言って、女性は残念そうにワインに再び栓をすると冷蔵庫に仕舞い、衣服を脱ぎ棄て全裸でベッドに入り明りを消した。そのまま女性が寝息を立て始めると、8号は椅子から立ち上がりふら付きながら机に近付きまだ電源が入ったままのノートPCを覗き込む。

 

 未だ画面に映し出される瑠璃の姿を見て、8号は体を震わせる。そして、唐突に自棄を起こしたように顔を覆う包帯を掻き毟った。

 

「ぐ、あ~~~~~!?」

 

 ガリガリと包帯を掻き毟ったせいで、包帯が千切れ素顔が露わになる。パサリと包帯が外れて落ちると、ハッと気づいたように動きを止め8号は新しい包帯を持って洗面台に向かった。

 

 新しい包帯を巻く為、鏡を見る8号。その際に嫌でも見る事になる自分の顔に、8号は顔を怒りに歪ませた。

 

「生き残ったのは……生き残るのは私だ、私なんだ――! 邪魔する奴は……全員、殺してやる――!!」

 

 呪詛のように呟きながら新しい包帯を顔に巻く8号の様子を、女性はベッドの上から楽しそうに眺めていた。そして女性は音もなくベッドから出ると、まだ付きっぱなしのノートPCの電源を落とし改めてベッドに入り今度こそ眠るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌朝、海都の庁舎にある知事の部屋に白衣の女性は訪れていた。

 

「ようこそ海都へ。知事の葉隠 十三(はがくれ じゅうぞう)です。歓迎しますよ、北條博士」

北條 芳江(ほうじょう よしえ)です。これからよろしくお願いします」

 

 白衣の女性改め、北條 芳江は葉隠知事から差し出された手を握り返す。知事の隣には、制服姿の慎司の姿もあった。

 

「S.B.C.T.αチーム隊長の、小早川 慎司です。現在海都で起こっている特殊生物災害対策の為、滞在しています。海洋生物の権威である博士の知恵、是非お貸しいただきたいと思っています」

「私程度の知識でお役に立てるか分かりませんが、出来る限り協力させていただきます」

 

 芳江は海外で活動する日本人の海洋生物学者として有名で、海都の地下研究所建設時も主任研究員の1人として声が掛かっていた。が、件の半魚人騒動でそれどころではなく、話が白紙になりそうだった所に彼女が自発的に海都を訪れたのだ。

 

「――で、その街を騒がせている半魚人と言うのは?」

「はい。このような奴です」

 

 慎司は手元のノートPCを開くと手早く操作し、これまでの戦闘で得られた半魚人の映像や画像を表示して芳江に見せた。慎司からノートPCを受け取りそれを見た芳江は、何かを確信したように深く頷いた。

 

「やはり……これはディーパー……」

「ディーパー?」

「私はそう呼んでいます。端的に言えば、魚類が深海で人類の様に進化した種とでも言えばいいでしょうか。目撃例自体は少ないですが、世界中で深海探索中に確認された事があるんです」

 

 有名なもので言えば有人深海調査艇の窓に外から人の手の様な物が当てられたというものだ。当時はそれをフェイク映像だと騒がれたが、芳江曰くあれは本物でディーパーの姿を捉えた貴重な映像だと言う。

 

「どのような生物なのですか?」

「既にご存じかもしれませんが、まず彼らはとても凶暴です。人間に限らず、他の生物を見つけたら容赦なく襲い掛かります」

 

 そこは疑いようもない。何しろ既に何人も犠牲者が出ているのだから。

 

「ですが、連中は魚類の延長なんですよね? なのに何故陸上で活動できるんですか?」

「浮袋を発達させ、肺と同じ器官を持っているんです。これで陸上での活動にも対応できるんです」

「何故そのディーパー? は突然現れ襲い掛かって来たんですか?」

 

 慎司と芳江が話していると、横から知事が話に参加した。彼はこの街の知事であると同時に、この街の発展に尽力する都市開発の責任者。その発展の妨げとなるディーパーの存在は許せなかった。

 

「まだ研究の途中なので詳しい事は……。ただもしかしたら、この都市の真下にディーパーの巣の様な物があるのかもしれません」

 

 海底への人類の進出だったら海底油田の建設もあるが、それらは偶々ディーパーの巣が無い場所だったのだろう。この広い海の中で、ピンポイントでディーパーの巣を刺激する事は難しい……と言うのが芳江の意見だ。

 

「ディーパーの生態などはどこまでわかっているのですか?」

「すみません。何分目撃例も少なく、分かっている事は殆ど無いんです。ただこのまま手をこまねいているつもりはありません。少しでも皆さんのお力になれるよう、私も微力ながら力添えしますわ」

 

 そう言って笑みを浮かべる芳江に、知事は頼もしいさに頭を下げた。

 

「ありがとうございます。何か必要なものがあれば遠慮せず言ってください」

 

 知事は手放しに芳江を歓迎したが、慎司はそうではなかった。

 

 芳江の浮かべるあの笑み……彼はあの笑いにどこか既視感の様な物を感じていたのだ。それも決していい意味ではなく、警戒すべき存在として。

 

(あれは……どこだったか?)

 

「それで、早速使える研究施設をお貸しいただきたいのですが?」

 

 慎司に疑惑の目を向けられているとは気付いても居ない様子の芳江は、知事に研究室の提供を求めた。だが現在、地下研究所はまだディーパーの活動圏内。今地下に潜るのは危険が大きい。

 

「お貸ししたいのは山々ですが、まだ地下の安全は確保できているとは言い難い状態でして……」

「本日中には本部から増援と装備が届くので、改めて地下研究所の掃討作戦を実施する予定です」

 

 予想以上にディーパーの数が多いという事で、宗吾は専用装備だけでなく増援にβチームとγチームも送っていた。今日中には装備と一緒に到着する予定だ。

 

「ですので、申し訳ありませんが今暫くはお待ちしていただければ。即席の研究スペースとして部屋は用意しますので」

「ありがとうございます。では、荷物は一旦そちらに運び込んでおきますね」

 

 その後、2~3話し合いを経て彼らは別れた。知事は執務、慎司は任務、そして芳江は研究とそれぞれのやるべきことの為に。

 

 芳江は真っ直ぐクルーザーに戻り、話し合いの結果をフランシス達に話した。

 

「――――そういう訳だから、私は地下研究所の方に向かうわ。あなた達は今まで通りここに居て頂戴」

「……それはいいけどよ、アンタについていって本当にお宝が手に入るのか?」

 

 一方的に話を進める芳江に対し、一番胡散臭そうな顔をしているのはバーツだった。彼は最初から彼女の事を信用していない。

 彼が芳江についていくのは、彼女がお宝への水先案内人だからだ。少なくとも彼らは芳江自身からそう聞いていた。

 

 しかしここに来て突然仮面ライダーの出現や、訳の分からない怪物による事件が立て続けに起こり前々から抱いていた不信感が大きく膨れ上がったのだ。

 

「あら、信じられない?」

「あぁ信じられないね。俺達はあのお宝で更にでっかいお宝を手に入れるのが目的で、アンタを連れて来たり守る必要なんてこれっぽっちもなかったんだ。それを――」

「そこまでだバーツ」

 

 尚も捲し立てるバーツだったが、フランシスがそれを宥めた。彼も表情はどこか渋いが、それでもバーツに比べれば大分落ち着いていた。

 

「フランシス兄貴……」

「バーツよ……俺達は確かにお宝が目当てだ。だがお宝までの詳しい道のりを知ってるって言うのはこの博士だ。博士が居なけりゃ、俺達はこれ以上先に進めねぇ。それなら、今は信じるしかねえんだ」

 

 正直に言うと、フランシスも芳江の事は信用していない。だがだからと言って突っぱねる様な事をしてたら、この仕事は成り立たない。彼らだって非合法の運び屋、脛に傷を持つ者や非合法な物を運ぶことは日常茶飯事なのだ。

 

 何より、芳江には既に前金としてクルーザーとベクターリーダーを貰っている。胡散臭くてもその分の義理は果たさなければならない。

 

「そう言う訳だ。兄貴の言う通り、時には我慢も大事だぞ」

「チッ……分かったよ」

 

 兄貴分2人に諭され、バーツも渋々頷いた。一応の納得を見せてくれた事で、芳江は満足そうに頷くとまとめた荷物を手にクルーザーを後にした。芳江が出たのを確認すると、8号は自室へと戻っていき後にはフランシス達だけが残される。

 

「フランシス兄貴……本当に良いのか?」

 

 バーツはやはり納得していない様子だった。あの場では納得した様子を見せはしたが、それは飽く迄振り。内心では何時芳江が掌を返したりしてくるのかと警戒を絶やしていなかった。

 

 それに対し、フランシスとエドワードは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「な~に、俺らがあの女にされた依頼はここまで運ぶことと有事の際の護衛だ」

「裏を返せば、それ以外は自由に動いていい」

「なら俺達は俺達で勝手に動くだけさ。その過程であの女が不利益被ろうが知ったこっちゃねぇ」

「なるほど……流石兄貴達!」

 

 2人の考えに、バーツも心から納得したのか同じような笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ早速あの女に所に行って、羅針盤を返してもらうとするか」

「1人で大丈夫か?」

「心配するな。今度こそ取り返してやるよ」

 

 自信満々にバーツはクルーザーを後にし、瑠璃を探しに街に入っていった。

 

 その様子を、8号は物陰からじっと見ていた。彼女はバーツが瑠璃の元へ向かったのを見ると、音もたてずにクルーザーの奥へと引っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く冷たい海の底。海都のほぼ真下と言っても過言ではない海底に、ある意味でその場に不釣り合いなものがあった。

 

 それは潜水艦。細長い楕円形の船体が、海底に横たわっていた。

 

 見るからに損傷した潜水艦だが、艦内には水が入っていない区画がいくつかある。

 その中の一つに、肉腫としか言いようのない肉塊が鎮座していた。それも一つや二つではない。

 

 見る者が見れば鳥肌が立つだろう無数の肉腫はゆっくりと脈打っている。

 

 その中の一つが徐に大きく脈動すると、内側から裂け半魚人が飛び出してきた。目はぎょろぎょろとしており、口には鋭い牙が何本も生えている。

 

 半魚人――ディーパーの見た目を一言で言い表すなら、それはウツボと言う言葉がしっくりくるだろう。

 

 ウツボの様な見た目のディーパーは、全身を粘液でてからせながら暗い船内を歩いていき、外と繋がっているところから外へと出て浮上していった。

 

 暗い海の底から新たな脅威が迫りつつあることに、瑠璃を始めとした海都の住民は誰一人気付くことはなかった。




という訳で第5話でした。

宗吾は前作の時に比べ大分偉くなりました。人望もあっての事ですね。

瑠璃と慎司達が初顔合わせ、ただし相手の正体を理解しているのは現状瑠璃だけです。彼女がここで名乗り出なかったのは、鉄平や他の客が居る上に仕事中だからですね。

あ、それとデイナの特別編は時間軸的にはこの後の話になります。ここで戦力を海都に集中させたから、客船の事件の時は殆ど戦力が無かったわけです。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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