お正月2日目の更新では、遂にテテュスに最強形態が登場です!
コバルトカイザーにラハブ達の相手を任せ、肉塊に取り込まれた瑠璃を助けようとしたチェーンレイズのオケアノスは苦戦を強いられていた。
それと言うのも、ラハブと分離した肉塊はそれだけでも戦闘力を持っており、接近してきたオケアノスに対し触手を伸ばして攻撃してきたのである。
「クソッ!? このッ!」
肉塊から生えるように伸びた触手が何本もオケアノスに迫ってくる。彼はそれを手にした錨付きの鎖を振り回して、鎖で薙ぎ払ったり錨で触手を切り裂いて立ち向かっていた。遠心力を活かした錨の斬撃は一撃で数本の触手を切断し、オケアノスは攻勢が緩んだ隙に着実に歩みを進めていた。
だが触手は何本切っても生えてきて、オケアノスの行方を阻んでいた。切っても切っても生えてくる触手に、彼も仮面の奥で忌々し気に歯噛みした。
「くそ、キリがねぇ……!」
それでも彼の中に諦めるという選択肢は無かった。愛する瑠璃がそこで彼の助けを待っているのである。こんな所でこんな趣味の悪い肉塊に、これからの彼女と共に歩む人生を阻まれるなど冗談ではなかった。
「邪魔するんならッ!」
〈Bet, Good luck〉
幾ら何度再生すると言っても、無限に再生する訳がない。きっと限界が来る。ならば、その限界が来るまで何度でも肉塊に傷を負わせてやると、彼はスロットを回して錨のマークを合わせた。
〈BINGO! Skill activation! ANCHOR EXTREME.〉
「いっけぇぇぇぇぇぇッ!!」
振り回した錨が風を纏い、振り回す度に暴風が巻き起こる。更にはまるで引き寄せられるように水が集まってきて、その様子はさながら風と水の奔流であった。
まるで台風の様な鎖と錨を肉塊に向け放つと、凄まじい暴風雨が肉塊から生えている触手を次々と引き千切り細切れにしていく。
ミキサーでかき混ぜられたように肉塊が千切れていくが、千切れた端から次々と再生し元通りになっていく。
そしてオケアノスの必殺技『アンカーエクストリーム』が過ぎ去った後、そこにあったのは技が決まる前と同じく傷一つない肉塊の姿だった。その様子にオケアノスは肩で息をしながら仮面の奥で悔しそうに顔を歪めた。
「チクショウ、これでもダメなのかよ」
あわよくばこの技で肉塊自体を抉り、中の瑠璃を引っ張り出すつもりであった。だが肉塊の再生力は想像以上で、何をやってもすぐに再生されてしまう。これではあちらの再生力に限界が来る前にオケアノスの体力の方が尽きてしまう。
しかもさらに厄介なのが、この肉塊はただ再生力が優れているだけでなく異様に硬いのだ。見た目に反してその表面は触手に至るまで少なくとも樹脂製のプロテクターの様に弾性に富んでおきながら硬質的で、触手一本切断するにもかなりの力を籠めなければならないほどであった。
そんな触手であるから、最初錨を振り回してその錨が触手に弾かれた際はド肝を抜かれた。戦っている内にその硬さにも慣れ、切断できるほどにはなったが、触手を切断したり肉塊を傷付けるのには相当の体力を必要とした。
「はぁ、はぁ、ぜぃ、ぜぃ……」
次第にオケアノスの攻勢は弱まり、肉塊からの触手の一撃を捌くだけで精一杯という状態になりつつあった。このままではそう遠くない内に体力が尽き、嬲り殺しにあってしまうだろう。
それでも彼は決して戦う事を止めなかった。
「はぁ、はぁ……瑠璃ぃぃぃッ!!」
***
「…………ん」
誰かに呼ばれたような気がして、瑠璃は微睡みから目覚めた。
目を開ければ周囲は薄っすらと景色が見える程度の光量しかなく、最初自分がどこに居るのかが分からなかった。
だが思考がはっきりしてくると直前に何が起こったのかを思い出し、自分が今どういう状況なのかを理解した。
(そうか……私、ラハブに取り込まれて……!? このままじゃ、溶かされてッ!?)
ここが胃の中であるのなら、瑠璃はこのまま全身を溶かされて吸収されてしまう。その時の苦痛はどれほどだろう。
想像して体の芯が冷えた瑠璃は、半狂乱になって外に出ようと暴れた。
「嫌ッ!? 嫌ぁぁぁぁぁッ!? 出して、ここから出してッ!? 誰かッ!? ネイトッ!? ネイトォッ!?」
手足を振り回して暴れようとした瑠璃だったが、両手足は生暖かい何かに包まれて身動きが取れない。薄暗い中で目を凝らせば、瑠璃は自分の手足が触手で出来た壁の中に取り込まれて磔にされているのが分かった。そこで漸く瑠璃は自分の手足に触手が巻き付いて肉の壁の中に埋め込まれている事を理解し、全身に嫌悪感から鳥肌が立った。
「ヒッ!? くっ!? んぐぅぅぅぅっ!?」
必死に手足を引き抜こうとする瑠璃だったが、肉壁を構成している触手は瑠璃の手足を指先に至るまで締め付けており、彼女が手足を引き抜く事を許さない。
それどころかさらに彼女を触手の壁に引き摺り込もうと、新たな触手が壁から伸びて手足だけでなく首や胴体にまで触手が巻き付き壁の中に引き摺り込んでくる。
全身に触手が巻き付き、豊満な胸にまで巻き付いた触手が徐々に体を壁の中に引き摺り込もうとするのを瑠璃は体を揺すって抵抗しようとした。全身を触手に巻き付かれた彼女に、今できる抵抗はそれだけであった。
「うぐっ、あ、がっ!? かはっ!? あ゛っ、う゛ぅぅぅ……」
肉壁に引き摺り込まれる最中、首に巻き付いた触手に首を絞められ瑠璃の意識が遠のいていく。
この頃になると瑠璃の抵抗も弱くなっていった。絶望的なこの状況、瑠璃の心には無念の想いが広がっていた。
(こんな、所で……終わりなんて…………セラ……ゴメン。私……結局、貴方の代わりの人形でしかなかったみたい……)
瑠璃が諦めかけたその時、周囲が大きく震えたかと思うと何かが瑠璃の眼前を抉って外の景色が見えるようになった。
それはオケアノスのアンカーエクストリームによる一撃。台風の様な攻撃が肉塊を削り取り、僅かな時間だが瑠璃に外の景色を見せてくれたのだ。
「ネイ、ト……海羽ちゃん……」
開けた視界の先に見えたのは、見た事の無い姿のオケアノスが瑠璃を助ける為に鎖付きの錨を振り回す姿。そしてその向こうには、ラハブ達と戦っているコバルトカイザーに、その様子を見守っている海羽の姿が見えた。
愛する者達が、自分を助ける為にここまで来てくれている。その光景が見えた直後、肉塊は驚異的な再生力により元通りになり再び視界が閉ざされた。
視界が閉ざされ再び薄暗闇の中に囚われた瑠璃だが、今見えた光景は再び瑠璃の心に火をつけるには十分だった。
「そう、だ……こんな所で、諦めてたまるもんか。私は、生きるんだ……! セラの分まで、セラとは違う、1人の人間として――!!」
――瑠璃ぃぃぃッ!!――
「ネイトぉぉぉぉッ!!」
外から微かにネイトが自分を呼ぶ声が聞こえてきたので、瑠璃は咄嗟にそれに応えて声を張り上げた。
その瞬間、瑠璃の右腕が肉壁から引き抜けた。オケアノスの先程の一撃による傷は一見即座に再生したように見えたが、その実確実に肉塊を消耗させていたのだ。僅かながら肉塊が消耗したおかげで、拘束が緩み片腕だけだが自由にすることが出来たのだ。
「くぅ……でも、どうすれば……」
しかし片腕が自由になっただけでは出来る事は限られる。ここにドライバーがあれば変身する事も出来たが、取り込まれる直前に外されたのか手元にドライバーは無い。それでも瑠璃は何か出来る事は無いか、何か使える物は無いかとズボンのポケットの中に手を突っ込んだ。
「……ん? これ……」
何かと思い取り出して見ると、それはドロップチップであった。本来であればドライバーに付属しているチップケースに入っているだけで直に持ち運ぶ事等しないのに…………
実は瑠璃が連れ去られる寸前、オケアノスが放った矢がEXクラムの体の一部を抉った際に飛び散ったドロップチップが偶然にも1枚だけ瑠璃のズボンのポケットに入り込んでいたのだ。
しかしこの場にはリールドライバーが無い。変身も出来ないのにドロップチップが1枚あっても何も出来ないと瑠璃は落胆した。
「チップ1枚……たったこれっぽっちじゃ……! ぁ……」
だがそこで瑠璃はある事を思い出した。
ラハブの体は通常のディーパーと違い、高純度のライフコインのみで構成されている。それがラハブの驚異的な再生力と強靭さの秘密であるのだが、見方を変えれば純度の高い状態を維持しなければこの状態は維持する事は出来ないと言う事。
ではそこに不純物を混ぜたら?
瑠璃はチップを見つめると、それに軽くキスをして指で弾き飛ばした。
小さな音を立てて飛んでいったチップは、本来であればダメージにもならない程度。良くて相手を一瞬怯ませるしか出来ない程度の効果しか望めないものでしかなかった。
しかし瑠璃により弾かれたドロップチップが肉壁に当たった瞬間、劇的な変化が起こった。チップは壁に当たると同時に肉壁の中に潜り込み、その部分を中心に波紋の様に肉壁の痙攣が広がった。瑠璃の体を拘束している触手の力が緩み、今の状態でも自力で肉壁から這い出す事が出来た。
「こ、のぉっ! くっ!」
肉壁を構成する触手は力だけでなく耐久力も弱くなったのか、手足を引き抜く際に触手の何本かが引き千切れた。その際に生暖かい液体が飛び散ったが、そんな事を気にすることなく瑠璃はチップが入り込んだ肉壁に腕を躊躇なく突っ込んだ。壁は予想通り生身の瑠璃の腕でも容易に掘り進むことができ、蔦や草木をかき分けるようにして肉壁を掘り進む。
自身の中を掘り進まれるのは苦痛なのか、それとも瑠璃が逃げ出す事を妨害したいのか内部の触手が派手に暴れ瑠璃の腕などに巻き付こうとする。だが瑠璃は巻き付いてくる触手を引き千切りながら、外へ出る為に壁を掘り続けた。
そして遂に、片腕を壁の外へと出す事が出来た。膜の様な物を突き破る感触と共に、片腕が外気に触れたのを感じる。
その腕を誰かが掴んだ。瑠璃の腕を掴んだ手は力強く彼女の体を引っ張り、それにより瑠璃の体は遂に肉塊の中から引きずり出された。
「プハァッ!」
「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「瑠璃姉ぇッ!!」
瑠璃を引きずり出した瞬間、オケアノスは勝利の雄叫びを上げ海羽は歓喜の声を上げた。
オケアノスはそのまま瑠璃を引っ張って肉塊から引き離す。また肉塊から触手が伸びて瑠璃を取り込もうとするかもしれないからだ。しかしそれは杞憂だったらしい。肉塊は震えて蠢くばかりで、触手を伸ばして瑠璃を探す素振りすらない。
「ゲホッ! ゴホッゴホッ、ゴホッ!」
「瑠璃、大丈夫か? 瑠璃!」
一見すると瑠璃は特別大きな怪我をしたりしている様には見えない。だが引きずり出す際に肉塊から流れる血に塗れているからか、彼女が怪我したりしているのかがよく分からなかった。どんな怪我をしているか分からない中、オケアノスは彼女の負担にならない程度に肩や腕などを触って怪我などが無いか確認する。
そんな中、瑠璃は唐突にオケアノスに飛びついた。無骨で硬い鎧も関係なく、力強く抱きしめてくる瑠璃にオケアノスは勢いに負けて尻餅をつく。
「うぉ、っと!? る、瑠璃、どうした?」
突然の抱擁に困惑していると、瑠璃は彼を抱きしめたまま耳元で囁く様に呟いた。
「ありがとう……私本当に、ネイト大好き」
「お、おぅ……大丈夫そうだな」
命懸けで窮地を救ってもらった事で、安堵と愛しさが瑠璃の中で暴れまわり抑えきれない好意が口から溢れ出たらしい。既に互いに恋人同士となっている仲で吊り橋効果も何もなかろうが、死への絶望から生の喜びと恋人への愛しさと言う心の揺れ幅の大きさに瑠璃も自分の心を制御できなくなっていた。
その耳元への囁きは妙な色香を放っており、こんな状況であるにもかかわらずオケアノスは興奮せずにはいられなかった。ここが戦場でなければそのまま彼女を押し倒していたかもしれない。
束の間、2人だけの空間を作り出す瑠璃とオケアノスだったが、それも瑠璃の無事を喜ぶ海羽がバーツに肩を貸しながらやって来るまでだった。
「瑠璃姉ぇ瑠璃姉ぇ瑠璃姉ぇッ! 瑠璃姉ぇ大丈夫!」
「あ、海羽ちゃん! 久し振りね、大丈夫だった?」
「うん! うん!」
久し振りに瑠璃と再会できた喜びと、彼女が助かった事への安堵で海羽はボロボロと涙を流して何度も首を縦に振った。脳をシャッフルするのではと言う程首を縦に振るので、バーツは流石に彼女を宥めた。
「海羽落ち着け、首取れるぞ。大丈夫そうだな?」
「うん。ありがと、海羽ちゃんを助けてくれて」
「気にすんな。それより、あれ……」
バーツが視線を向けた先では、未だ苦しむラハブが蹲りEXラフィとEXクラムが心配して集まっている。どうやらあの肉塊とラハブは見えない何かで繋がっていたようで、肉塊を瑠璃により文字通り引っ掻き回された事で大きなダメージを受けたらしい。
だがまだダメージを受けたと言うだけで倒すには至っていない。世界の平和の為にはもう一押しして、ラハブを完全に倒す必要がある。
バーツの言わんとしていることに気付き、瑠璃は何時までもオケアノスとじゃれている訳にはいかないと彼から離れ立ち上がる。
「あっ、えっと、リールドライバー……」
「瑠璃姉ぇ、はい」
瑠璃がリールドライバーを探していると、海羽が拾っておいたリールドライバーを瑠璃に差し出した。バーツの戦いをオケアノス達の戦いを見守る傍ら、きっと必要になるからとこっそり回収しておいたのだ。
「それから、これ。拾った奴だけど……」
そう言って海羽が取り出したのは、連れ去られる直前に弾かれて落としたゴールドライフコインだった。あの後海羽がオケアノスを見つけた際、不意に足元に転がっているコインに気付き拾っていたのだ。
瀕死になるほど痛めつけられたりラハブに取り込まれたりですっかり忘れていた瑠璃は、海羽が取り出したゴールドライフコインを両手で包むように受け取った。
「あ~ッ! これッ! そっか、あの時落として……ありがとう海羽ちゃん!」
「えへへ……頑張ってね」
「うん!」
自分達に出来るのはここまでと、海羽はそっと後ろに下がった。見ればラハブも流石に落ち着きを取り戻したのか、まだ若干ふら付いているがしっかりと立っている。その視線は真っ直ぐ瑠璃に向いていた。まだ彼女の事を諦めてはいないようだ。
『うぅ……おぉぉ……キャリアー、キャリアー……!』
「しっつこいなぁ。アンタは私の趣味じゃないの。ネイト、さっさと終わらせよう!」
「あぁっ!」
瑠璃が腰にリールドライバーを装着し、手の中にあるゴールドライフコインのキスをした。
「
一言呟き、コインを右手の親指で弾き左手でキャッチしてベルトに投入する。
〈Bet your life〉
文字通り、命を賭けての一戦。大勝負に臨む、瑠璃の顔に浮かぶのはディーラーとしての笑みであり、同時に勝負師としての自信に溢れた笑みであった。
「ストレート、0……変身ッ!」
〈Fever!〉
ウィールの上を転がるボールが0のポケットに入る。見事に入るポケットを当て、彼女の眼前で回転していたウィールが頭上に移動し下に下がった。瑠璃の体がウィールを通り抜けると、まるで海面から飛び出す様に水飛沫を上げながら彼女の姿が変化した。
青いアンダースーツに金の鎧。鎧は今までの様な申し訳程度の物に比べれば重厚で荘厳。だが決してゴテゴテとした雰囲気は無く、テテュスが本来持つ美しさを損なわない。強いて言うなら姫騎士と言う表現が適切だろうか。胸や肩、手足と腰に金色に輝く鎧を纏い、更に背中には白いマントを纏っている。
普段のテテュスも十分に美しいが、今のテテュスの姿には高貴な何かを感じ海羽は思わず見惚れていた。
「わ、あぁ……」
「これが、テテュスの新しい姿か……」
新たな姿のテテュス……テテュス・ノーブルレイズは、自分の変わった姿をまじまじと眺め何度か拳を握っては開くを繰り返す。変化した自身の様子を確かめると、そのままラハブとの戦いに突入……はせず、何を思ったのかバーツに手を向けた。
「あ?」
何をする気なのか分からず首を傾げていると、チップを投入していないのに彼女の背後でルーレットが回りボールがポケットに入った。
〈Cure ball〉
ボールがポケットに入るとベルトから音声が響き、テテュスの手の中に淡く優しい光の玉が出現しバーツへと飛んでいく。それはオケアノスが自身や他人を癒す為に使う技のキュアボール。彼女はそれを、1枚のチップも使わずに発動したのだ。
キュアボールによりバーツの傷が癒え、彼は傷一つなくなった自身の体に驚きを隠せない。それを傍から見ていた海羽とオケアノスもだ。
「ぉお? こりゃぁ……」
「バーツ!」
「まさか、チップ使わずに技が使えるのか!」
ノーコストで能力を使い放題など、破格にも程がある。オケアノスが驚愕を露わにしていると、テテュスは仮面の奥から得意げな目を彼に向けた。
「フフッ! さ、行こう!」
戦意高らかにラハブを見やる。体勢を立て直したラハブは、今のテテュスを見ると忌々し気に顔を顰めた。
『その、姿は――――!?』
今でも思い出す。自身を暗く冷たい海の底に封印した最後の女王。自爆同然の攻撃でラハブを封印した最後の女王が変身したテテュスが、今の彼女の姿と重なる。
感情と本能の赴くままにテテュスに突撃しようとしたラハブだったが、ギリギリのところで理性を働かせ足を止めた。今のテテュスは無策で突撃して勝てる相手ではない。
踏み止まったラハブは、自分の傍に控えている忠臣の片割れであるEXクラムに顔を近付けた。
『クラムよ……』
『はい』
ラハブは小声でEXクラムに何かを二言三言告げた。それを聞いたEXクラムは、恭しくラハブに対し頭を下げる。
『御心のままに。我が君』
EXクラムからの返答に満足そうに頷くと、ラハブは改めてテテュスの方を見て身構えた。
『キャリアー……いやテテュス。今度は私が勝つ。勝って、世界を我が手に収めるッ!!』
「そんな事させない!」
「おぉぉぉぉっ!」
テテュスとラハブの言葉がぶつかり合うと、それを合図にしたようにオケアノスが鎖を振り回しながら突撃した。
対するラハブの傍からは、EXラフィが両手に持った剣でそれに対抗した。
『我が君には触れさせん』
先端に錨の付いた重量のある鎖の一撃を、EXラフィは両手の剣で受け止め弾こうとした。しかしオケアノスは、鎖が受け止められた瞬間待ってましたと言わんばかりに鎖を手元に引き寄せた。
「そう来ると思ったぜ!」
『がっ?!』
出し抜けに背中を鋭い何かにより引き裂かれた。何かと背後を振り返ろうとした、EXラフィの視界を通り過ぎていったのはオケアノスにより引き寄せられていった錨の姿。
それを見てEXラフィは何が起こったのか、オケアノスの狙いが何だったのかを理解した。今の攻撃は鎖によって引き寄せられた、錨のエッジがEXラフィの背中を引き裂いたのだ。湾曲し横から突き出た錨の片方が、フックの様にEXラフィの背中に引っ掛かりそのまま引き裂いた。
「へへっ、こうやって使うのさ」
『小癪な……!?』
忌々し気に吐き捨てながら、EXラフィは再びオケアノスに突撃してきた。今度は引き戻しによる攻撃も警戒してか、愚直にオケアノスの攻撃を受け止めるのではなく回避をメインに距離を詰めていく。オケアノスの今の武器である鎖と錨の組み合わせは、中距離での範囲は脅威だが接近してしまえば即応性に難がある。彼の戦い方を観察してEXラフィはそう結論付け、対処すべく動いた。
しかし、オケアノス……ネイトが得意としている武器は鞭。故に彼は芯の無い変幻自在な武器の扱いは、その弱点に至るまで心得ていた。そしてその弱点を突かれた場合の対処法も用意している。
いや、その表現は適切ではない。正確に言えば、そうならないようにする為の戦い方を心掛けていると言った方が良かった。
「おら、よっ!」
オケアノスは徐に錨を自身の後ろの方に放ると、柱に引っ掛けて自分を引っ張りEXラフィから距離を取った。距離を放され、追いすがるEXラフィだがオケアノスは柱に引っ掛かった錨を起点に縦横無尽に動き回り翻弄する。
それでも向かう先は錨が引っ掛かっている柱のある場所。ならば動きを読むのは容易いと、EXラフィは進路を変えオケアノスではなく錨が引っ掛かっている柱に向かっていった。
その瞬間、オケアノスが手元を少し動かすと引っ掛かっていた錨が外れた。自由に動くようになった錨を、オケアノスが鎖を操り振り回す。
『なっ!?』
突然自由に動くようになった錨がEXラフィに襲い掛かる。重い筈の鎖と錨を、いとも容易く意のままに操るオケアノスは、振り回した錨と鎖でEXラフィを切り裂き打ち据えた。
複雑な動きで、重い一撃を何度も加えてくる鎖にEXラフィは翻弄される。が、その程度で倒されるほど奴も容易い存在ではない。
突如、EXラフィの体が床の下に潜り込んだ。ディープダイビングで物質の中に潜ったのだろう。同じフィールドで戦うのは得策ではないと気付いたのだ。
泳ぐことで移動する事が出来るディープダイビングは確かにEXラフィにとって戦いやすいフィールドだろう。それに対し、オケアノスもディープダイビングで対抗し床の中に潜るという事も出来なくはない。
しかしそれは魚を水の中に入って捕るに等しい行動。無論それを生業とする者も居る事は居るが、今この場においては似つかわしくない。
何より、いちいち相手のフィールドに合わせてやるのがオケアノスは癪だった。
ならばどうするか?
「逃がしはしねえよッ!」
オケアノスは徐に鎖を振り回すと、それを床に向けて放った。放られた錨は床に接触した瞬間、水飛沫をあげて床の中に潜り込んだ。ディープダイビングと同じ効果を持つ錨は、そのままどんどん潜っていく。
「…………」
沈んでいく錨と鎖に、オケアノスは全神経を集中させる。
これはただ床の中に潜っていくだけではなく、ソナーの様な役割も持っていた。周囲の音を鎖を伝ってオケアノスに届け、隠れた敵の姿を教えてくれる。
果たして、鎖から伝わる僅かな音からEXラフィの居場所を捉え、鎖をそちらに向けて動かした。
「そこだッ!」
床下を薙ぐ様に鎖を動かすオケアノス。EXラフィはそんな方法でオケアノスが自身の居場所を探り当てたなどと気付く事無く、突然巻き付いて来た鎖に面食らった。
『何だとッ!?』
潜らずに己の居場所が察知された事に驚き、EXラフィは動きを止めてしまった。その隙にオケアノスは、鎖を引っ張ってEXラフィを床の下から引きずり出した。
「獲ったぁぁぁぁぁぁッ!!」
一本釣りよろしく引きずり出されたEXラフィは、空中で鎖を解かれ解放される。しかしそれは自由になった訳ではなく、能力も及ばず身動きの取れない空中と言うまな板の上に置かれただけに過ぎなかった。
「へへっ、こいつでッ!」
チップを5枚ベットしスロットを回す。揃える絵柄は錨のマーク。錨が3つ揃うと、ベルトからファンファーレが鳴り響いた。
〈BINGO! Skill activation! ANCHOR EXTREME.〉
「おぉぉぉぉぉぉッ!!」
先程はラハブの肉塊を一部抉るだけしか出来なかった技を再度放つ。台風の様な攻撃は、空中で身動きが取れないEXラフィを巻き込み暴風と水流により蹂躙した。
『うぐおぉぉぉぉぉぉッ?!』
ミキサーの中に放り込まれたように、EXラフィの体が次々と削り取られていく。肉塊は再生力にも優れていたので抉るだけしか出来なかったが、強固なラハブの肉塊を大きく抉るほどの一撃だ。奴以外の何かがこの技を喰らえばどうなるかは、今のEXラフィを見れば一目瞭然だった。
自分の体がどんどん細切れになっていくのを感じながら、EXラフィは自身の完全な敗北を察した。
『み、見事……。我が君、申し訳、ありま、せ――――』
EXラフィは爆発することなく、空中で細切れにされドロップチップを大量に撒き散らして息絶えた。
技が終わり、風と水が納まると上から大量のドロップチップが降り注ぐ。雨の様に降るドロップチップを、オケアノスは達成感の様な物を感じながら見上げていた。
という訳で第50話でした。
瑠璃がラハブの体内から脱出できたのは、幸運によるところが大きかったですね。偶然ドロップチップがポケットの中に紛れてて、且つラハブの体がドロップチップと言う異物に拒否反応を示したから脱出出来ました。この本来完璧な能力を持つ敵が、異物が紛れ込んだ為に弱体化してしまうと言う展開は割とよく見られるかもしれません。例えば妖怪大戦争とか。あれも最終的な勝利の決め手はたった一粒の小豆だった筈。
そして遂に、テテュスの最強形態ノーブルレイズの登場です。能力としては鎧武の極アームズが近いかもしれません。
本格的な活躍はまた次回。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。