オケアノスがEXラフィを相手に勝利を掴んでいた頃、テテュスとラハブの戦いは激しさを増していた。
「ハァァァァァァッ!!」
テテュスのウェーブスマッシュがラハブに放たれる。波の軌跡を描きながら放たれる回し蹴りを、ラハブは両腕で受け止める。強烈な一撃を、ルーレットを回すという予備動作無しに放てるようになった今のテテュスは制限を無くし自由な戦いが出来るようになっていた。
『くぅっ!?』
「まだまだぁッ!」
〈BINGO! Skill akutivation! TEMPEST RUSH.〉
本来ならオケアノスの技であるテンペストラッシュ。水圧により強化された拳による連続パンチがラハブの体を穿とうと何発も襲い掛かった。
『ぐぐっ!? なめる、なぁっ!!』
しかし相手は全てのディーパーの王と呼べる存在。この程度の小手先の技で倒されるほど容易い相手ではない。何度も撃ち込まれる連打を、ラハブは気合と共に振り払った。
その瞬間にテテュスが体勢を崩され隙が生まれる。狙うは今と、ラハブが腕を振り下ろした。
だがラハブの腕は空を切るだけに留めた。腕が振り下ろされた瞬間、テテュスがディープダイビングを発動し床の中に潜ったのだ。水飛沫だけを残してテテュスの姿がその場から消える。
『逃がすかッ!』
ディープダイビング程度ならラハブにだってできる。配下であるラフィが出来るのだ。王であり、同時に生みの親でもあるラハブに出来ない道理は無かった。
忽ち始まる、床の中での水中戦と言う奇妙な構図。物体の中を泳ぐという奇妙な光景の中で、テテュスとラハブが何度もぶつかり合った。
「たぁッ!」
『づぁッ!』
「んのッ!」
『ふんッ!』
互いに相手に突撃し、すれ違いざまに一撃加え合うという応酬。中世の馬上戦を立体的な動きで行っているような戦いは、正に一進一退の様相を呈していた。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
『おぉぉぉぉぉぉッ!!』
真正面からぶつかり合ったテテュスとラハブは、相手の腕を受け止め合い押さえつけ合いながら動き回る。互いの推力を全力で押し付け合った結果、一瞬のバランスのズレがベクトルに影響し、暴走したロケットの様にしっちゃかめっちゃかな動きになっていた。
それでも両者は互いに相手から離れようとしない。
「何が目的なの!? アンタは一体何がしたいのよッ!?」
『知れた事。我らの世界を作る! その為には、今地球上を支配している人類が邪魔なのだッ!』
「共存すればいいじゃないッ!?」
『無理だな。どう足掻いても我らにとって人間とは食物であり苗床。頑張っても精々家畜と言う印象以外抱けぬ。貴様ら人間もそうだろう?』
ラハブの言う事も分からないではない。人間に限らず、全ての生物にとって自分以外の種族は敵か、食料でしかない。無論そう言った他の生物を隣人と愛する者も居るには居るが、他の生物を食さねば命を繋げない人間にとってそこには必ず一定のラインが存在する。
生物としてラハブの言っている事は間違っていないのかもしれない。
だがだからこそ、テテュスはその言葉を受け入れる訳にはいかなかった。
「だったら、私がアンタ達を倒すッ!」
一瞬の隙を突き、テテュスは両足でラハブを押し出すように蹴り飛ばすと下に回り込んで上に向け蹴り上げた。ラハブはそのまま押し出されるようにして床から飛び出し、空中に放り出された。
『うぐぉぉぉぉぉッ!?』
ラハブの後を追って床から飛び出たテテュスは、ベルトのウィールに手を持って行くと手動でウィールを動かした。ダイヤルを回す様にポケット一つ動かし、その状態でチップを入れずにレバーを下ろす。
〈ARROW Raise〉
レバーを下ろすと、左手に水が集まり弓を形作る。そしてあっという間にセクスタントボウになってしまった。
これがノーブルレイズとなったテテュスのもう一つの特性。全てのレイズでの能力や武器を任意で使う事が出来る様になっていた。
セクスタントボウを手にしたテテュスは、上空のラハブに弓を向けると弦を引いて矢を放つ。
『ガァァァッ?!』
放たれた矢がラハブを射抜く。ダメージらしいダメージにラハブが苦痛に悲鳴を上げ、バランスを崩して落下する。テテュスはそれを見て、再びウィールを動かしレバーを下ろした。
〈SHIELD Raise〉
次に装着したのはダイアリーシールドとクイールエペン。左手に装着された盾を前方に掲げた状態で、テテュスはラハブに向け突撃した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
『己ぇッ!?』
盾と片手剣で挑んでくるテテュスを相手に、ラハブも両手に剣を作り出しそれで対抗する。振り回される両手の剣を、テテュスは左手の盾で防ぎ受け流しつつ反撃の機会を伺った。
激しい斬撃の嵐。それを盾と片手剣で巧みに防ぐテテュスに、焦りは存在しない。冷静にラハブの動きを観察し、そして連続で放たれる攻撃の間にある僅かな間隙をついて刃を挿し込んだ。
「フッ!!」
『ぐぅっ?!』
テテュスの一撃がラハブの片腕を切り裂き、堪らずラハブが後ろに下がる。ラハブが下がるとテテュスはその場に剣と盾を投げ捨て、ウィールを動かしレバーを下ろした。
〈SPEAR Raise〉
スピアーレイズのクロックスピアーを装着するテテュスに、ラハブも負けじと剣にもなる杖を作り出し水流で攻撃した。
『はぁっ!』
鉄砲水の様な水流がテテュスに襲い掛かるが、スピアーレイズの能力でその攻撃を既に読んでいたテテュスはそれを容易く回避した。そして水流を放つ為に動きを止めたラハブに、テテュスは両手に持った短い槍で攻撃する。
「たぁぁぁぁぁッ!」
舞うような動きで振るわれる二本の槍の一撃一撃が、動きを止めたラハブの体を抉る様に傷付けていく。ラハブも負けじと杖を長剣として使い、次第にテテュスの動きに慣れてきたのか受ける攻撃よりも防ぐ攻撃の方が増えてきた。
このままでは埒が明かないと、テテュスが両手の槍を連結させ時間操作能力を発動させようとした。しかしそれはラハブに読まれており、槍を連結させようとした瞬間長剣を振るい片方の槍を弾き飛ばした。
「あっ!?」
『ヌンッ!』
「あぐっ?!」
弾き飛ばされた槍に一瞬意識を持って行かれた、その隙を突かれ横薙ぎに振るわれた一撃がテテュスの胴体を大きく切り裂いた。普段に比べれば鎧の面積は増えたが、相手の攻撃がそれ以上に威力のある一撃だったので押し切られてしまった。
切られた部分から血が流れ落ちている。決して致命的という訳ではなく、傷口を押さえてはいるがそれでも彼女の足取りはしっかりとしていた。
「くぅ……!?」
傷口を押さえつつ、体勢を整える為後ろに下がるテテュス。ラハブはテテュスに大きな傷を負わせたと余裕を取り戻したのか、悠々とした足取りで長剣を構えながら近付いていく。
『くくくッ!』
「~~ッ、舐めないでよね。勝負はこれからよ!」
ベルトに手を添え、ウィールを回す。先程まではポケット一つ分程度だったが、今度は違った。普段店でルーレットを回す時の様に、手慣れた動きで手首のスナップを利かせてウィールを回転させたのだ。
軽快に回転するベルトのウィール。それに合わせて何処からか水が集まってきて、まるで吸い込まれるようにベルトに水が入っていく。その光景にラハブは既視感を感じたのか明らかに動揺した姿を見せた。
『それはッ!?』
目を見開くラハブの前で、テテュスがレバーを下ろした。
〈ABYSS TRIDENT〉
レバーを下ろした瞬間、集まっていた水が一本の槍の形状となった。いや、それは槍ではなく矛と言うのが正しいか。銀色の柄の先端に大海原の様に青い穂先が付いている。その穂先は三叉で、一言で言い表すのであればそれはトライデントと呼ばれる武器であった。
取り出した武器『アビストライデント』をテテュスが構える。連結させたクロックスピアーよりも一回り程大きな矛を、彼女は軽々と振り回し己の手足の様に扱い構えてみせた。
ラハブは彼女が矛を構えるのを忌々しげな顔で睨んだ。
『その矛ッ! 覚えている……嘗ての王族が振るっていた物。それを再び私の前に持ってくるとは……!?』
「こいつで……アンタを倒すッ!!」
『抜かせッ!』
テテュスが大型の武器を取り出したからか、ラハブも持っていた長剣を捨て新たな武器を作り出した。身の丈ほどもある大剣。形状は湾曲しており所謂海賊が用いるカトラスと呼ばれる物と似た大剣だった。
『おぉぉぉぉッ!』
大剣を手にラハブが大きく跳躍し、落下の勢いを利用する様に振り下ろす。あんなものを喰らえば真っ二つ待ったなしと言う一撃を、テテュスは矛を使って受け流した。柄の部分でラハブの大剣を滑らせるように軌道を逸らせ、相手の攻撃を受け流すと同時にその勢いを利用して薙いだ矛で殴り飛ばす。
「フンッ!」
『グッ!?』
穂先の腹で殴られ床に叩き付けられたラハブは、視界が歪むのを無視して転がる様にしてその場を離れた。テテュスからの追撃を警戒しての事だ。
事実テテュスは倒れたラハブに追撃しようと、床に突き刺す形で矛を構えていた。それを実行に移す前に逃げられた形になったテテュスだが、彼女は止まらず床に突き刺そうとした矛を軌道修正してラハブに向け矛を突き出した。しかし両者の距離は離れている。テテュスの矛は僅かに届かない。
そう思っていたのだが、次の瞬間驚くべき事が起こった。テテュスが矛を突き出した瞬間、穂先が液状化して射程が伸びたのだ。伸びた穂先がラハブに届き、体勢を整えたばかりのラハブは反応できず一撃を喰らいもんどりうって倒れる。
『がはぁっ?! ぐ、ぐぐぅ……』
「はぁッ!」
『ぐっ!?』
その後もテテュスはラハブに嵐の様な攻撃を見舞った。突き、薙ぎ、叩き付けて追い詰めていく。ラハブも大剣で応戦するが、テテュスは矛の扱いに加えて足元を水の様にして水上スキーの様に動くというディープダイビングの発展型の技による動きで翻弄した。
高速で、且つ滑る様な動きをするテテュスに、ラハブは対応が間に合わなくなり遂には武器を弾かれた。
『うぉっ!?』
「そこっ!」
『がっ?!』
武器を弾かれ体勢を崩したところに、ダメ押しの一突きを喰らい倒れるラハブ。ラハブは矛で突かれた傷を見て、その部分をゆっくり撫で慄いた眼をテテュスに向けた。
『テテュス……!? 己、またしても私の野望の前に立ち塞がるかッ!?』
「当たり前よ。私の大好きなこの世界を、アンタ達に滅茶苦茶にされて堪るもんですか!」
明確にこの世界をお前には渡さない、この世界にお前の居場所はないと宣言され、ラハブは激昂し感情に任せて立ち上がり突撃してくる。
そんなラハブを前に、テテュスは再び手でウィールを回しレバーを下ろした。
〈HORIZON Fever!〉
矛をテテュスが構えると、その穂先に水が集まっていく。水はどんどん集まっていき、しかしその水量に対して穂先はあまり大きくはなっていない。それはつまり、それだけの水量の水が圧縮されて高圧の水の刃になっているという事。それが解き放たれた時、どれほどの威力になるのかは想像に難くない。
やられる前にやれ、ラハブはテテュスが攻撃を放つ前に彼女を倒そうと自身の両足にエネルギーを集束させドロップキックを放った。
『ハァァァァァァァァッ!!』
ラハブの渾身の一撃。これを喰らえばテテュスもただでは済まないだろう。
だがラハブの行動は一歩遅かった。蹴りの為に空中に飛び上がったラハブは、同時に床からも地面からも離れて行動に制限が出来ていた。
身動きの取れないラハブに狙いを定め、テテュスが矛を突き出した。
「ハッ!!」
ラハブにテテュスの一撃「ホライズンフィーバー」が放たれる。解き放たれた高圧の水流の刃がラハブの蹴りとぶつかり合う。
拮抗する両者の攻撃の余波が、周囲の床や柱を破壊していく。それでもどちらも一歩も退かない。互いに互いの種族の繁栄を懸けた一撃なのだ。
「うぅぅぅぅぅぅっ!!」
『ぐぅぅぅぅぅぅっ!』
互いに譲らぬ拮抗をテテュスは途方も無く長い時間に感じていた。だが実際にはまだ1分も経っていない。
その拮抗に変化が生じる。突如テテュスの手にオケアノスの手が添えられたのだ。
「あ……」
「ここで決めるぞ、瑠璃!」
「うん!」
2人で矛を持ち、力を籠める。すると水量が上がり、威力を増した一撃にラハブの方が力負けした。
『何だとッ!?』
水の刃はラハブの一撃を蹴りごと打ち砕き、水の奔流で飲み込んでいく。飲み込まれたラハブは、高圧の水の刃に切り裂かれ、搔き乱されていった。
『うぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!』
悲鳴を上げて水流の中に消えていったラハブに、テテュスはゆっくりと矛を下ろした。下ろされた穂先が軽く床に当たると、その直後に両足を失い全身ズタボロになったラハブも床に落下した。
倒れたラハブは最早虫の息であり、再生する様子も無い。テテュスの一撃により、奴の体を構成しているライフコインが破壊されたのだ。
この戦い、勝者はテテュスに決まった。その事を彼女は倒れたラハブを見下ろしながら確信した。
「はぁ、はぁ……私達の勝ちよ」
『うぐ、ぐ……ま、だだ。まだ、終わってはいない……』
「往生際の悪い奴だな。瑠璃、一思いにやっちまえ」
勝負はついただろうが、まだ何かしてくる可能性は否めない。トドメはさせる時に差してしまえと言われ、頷いたテテュスは矛を構えて一突きで終わらせようとした。
その時、バーツと共に近付いて来た海羽がある事に気付いた。
「あの、ねぇ瑠璃姉ぇ? アイツが居ないんだけど?」
「アイツ?」
「ほら、杖持ったアイツ――――」
瞬間、地面が大きく揺れた。周囲の建物が軋みを上げるほどの大きな揺れに、テテュスはバランスを崩し倒れる体を支えようと手にした矛を下に突き出す。
そこにはラハブが居て、結果的にテテュスはラハブにトドメを刺す一撃をお見舞いした。
『ぐふっ?!』
「あっ!」
「きゃっ!?」
「うぉっ!?」
「海羽ちゃん、バーツッ!」
意図したタイミングを外してのトドメに、テテュスは一瞬呆気にとられてしまう。一方海羽とバーツは揺れに耐えきれず倒れそうになり、それをオケアノスが揺れに足を取られそうになりながらも何とか支えた。
激しい揺れに足を取られそうになりながら、テテュスは死にゆくラハブに何が起こっているのかを訊ねようと矛を引き抜き胸倉を掴んで持ち上げた。この場に居ないEXクラム、そしてタイミング。どう考えてもこいつが一枚嚙んでいるに違いない。
「何をしたのッ!?」
『ぐふっ、がはっ……フフフッ、嘗て貴様の祖先が私にしたのと同じ事をしてやるだけさ』
「この大陸を沈めるつもりかッ!?」
厳密に言えば嘗てはラハブを封印した上で大陸を沈めたのだが、このタイミングで大陸を沈められてはどちらにしろ変わりない。大陸が沈んでしまえばここは海のど真ん中。流石に海のど真ん中に放置されては、テテュスであっても持たない。
「往生際悪すぎだろッ!?」
「そんな事言ってる場合じゃない、逃げないとッ!?」
「逃げるったって何処に……!?」
可能性があるとすれば過去のムー大陸人が生き残るのに逃げ延びたあの山の山頂だろう。だが今からあそこに行くのはとてもではないが間に合わない。距離的にもそうだし、何よりあの山を登らなければならないのだ。下りる時は滑り降りるだけだったので早かったが、登るとなると容易ではない。
最早これまでかとテテュスが諦めかけたその時、海羽が彼女の手を引っ張った。
「まだ間に合うよ瑠璃姉ぇ!」
「え、でも……」
「俺らの船……あそこならまだ間に合うかもしれねぇ」
「そうか!」
そう言えばそうだ。海羽達がここに居るという事は、彼女達も船で来ていたという事にテテュスとオケアノスも気付いた。
懸念があるとすれば、バーツ達の船に穴が開いていて海面上昇した際に沈没してしまわないかという事だった。
「座礁した時に穴が開いてないのは確認した。後どうなるかは賭けだな」
「賭け、か」
不意に金属を弾く音が聞こえる。全員がそちらに視線を向ければ、テテュスがブルーライフコインを親指で弾いていた。弾かれたコインは回転しながら上昇し、そして落下してくる。そのコインを彼女は手の甲でキャッチした。
「表と裏、どっちに賭ける?」
「はぁ? 今遊んでる場合じゃ「表だ」、っておい?」
突然コイントスを始めたテテュスにバーツが訝しむが、オケアノスは流れるように答えを返した。
彼の答えにテテュスがコインを隠している手をどかすと、そこにあったのは地図のマークを上に向けたライフコインが見えた。
それにテテュスは仮面の奥で笑みを浮かべた。
「フフッ……大丈夫よ。皆助かるわ」
「何を……って、話してる時間も惜しいか」
「急ごう!」
4人が玉座の間を出ると、宝物庫から財宝を持ち出そうとしていたらしきフランシス達と鉢合わせした。どうやら彼らは迫りくるディーパー達を退けた後、宝物庫に入り宝を漁っていたらしい。
突然の揺れに、彼らは皆両手に金銀財宝を抱えて飛び出してきていた。
「うぉぉぉっ!? いかん地震だッ!?」
「落ち着け兄貴、暫くジッとしてれば収まる」
「残念だけど、ジッとしてたら海の底よ。この大陸が沈んでるから」
「何ぃぃぃッ!?」
「そう言う事だ。お前ら、宝は諦めて船に戻るんだな」
こんな荷物を抱えていては逃げるのに間に合わない。宝は惜しいだろうが、命あっての物種だ。彼らには宝を諦めてもらうしかない。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぅ~~ッ!? 折角これだけお宝があるってのに……」
「死ぬよりマシだぜフランシス兄貴」
「そうっすよ親分!」
「さっさと逃げましょう!」
「皆、こっちよ!」
海羽が先導し、瑠璃達が後から続く。フランシスは宝を手放す事を渋っていたが、海の藻屑になっては意味が無いと泣く泣く諦め後に続いた。
逃げる間も大陸は揺れ続けている。今こうしている間にも、大陸全体が海の底に沈みつつあるのだ。宇宙から見下ろせば、大陸が端から海の底に沈んでいく様子が見えた事だろう。
肌で大陸が沈んでいくのを感じつつ、テテュス達は王宮を出て廃墟となった街の中を走り抜ける。この揺れで長い年月の間に劣化していた建物の一部が崩れてきたが、彼女らは構わず走って街を出た。
街を出ると、遠く離れた所に座礁した船の姿が見えた。
「あそこッ!」
船が見えたことに海羽が喜色を浮かべるが、それも長くは続かなかった。
街から船まであと半分と言うところまで来た時、遠くから迫る波の姿が見えた。いよいよ大陸の沈没がこの近くにまで影響し始めたのだ。
船まで間に合うか少々微妙な距離だが、今は間に合う事を信じて走るしかない。
「急いでッ!」
「間に合えぇぇぇぇッ!!」
必死に足を動かし、何とか波に飲まれる前に船に辿り着く事が出来た。
だが船まで辿り着いて、彼女らは愕然とした。
言うまでも無いが船底には入れるような場所は無い。船に乗る為にはデッキのある場所まで上がらなければならないのだが、船の大きさが災いして乗るのに苦労を要した。決して乗れないと言う程ではないのだが…………
「駄目、もう無理ッ!?」
波がもう目の前まで来ていた。その波も船を軽く飲み込むほど大きい。これでは仮に乗り込めたとしても、波に飲まれて転覆して海の底だ。
もうどう足掻いても間に合わないという状況に誰もが諦めかけた。その時、テテュスが動いた。
「まだよッ!!」
「瑠璃ッ!?」
テテュスは何を思ったのか、船を飛び越えて船と波の間に立った。何をするつもりなのか分からないオケアノスは、彼女を心配して船を回り込むようにして彼女の傍に向かおうとした。
すると彼の目の前で、彼女は徐にベルトのウィールを何回も回した。ウィールが回転を増すごとに、周囲から吸い上げるように海水がベルトに集まっていく。
その間にも波は船に迫る。その光景に海羽達がもうダメだと、船に乗る事も諦めて本能的に頭を守ろうと頭上に手をやり視界を手で覆い隠した。
瞬間、テテュスはベルトに集めた海水……に見える海のエネルギーを一気に解放した。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
放出されたエネルギーがフィールドを形成し、船とその周囲に居る者達全員を包み込む。直後到着した津波はそのフィールドに阻まれ、海羽達はまるで激流の川の中に取り残された中洲に居るような状態となった。
「え、これ……?」
「瑠璃がこれを……すげぇ……」
海羽やオケアノスがその光景に圧倒されていると、テテュスの意志で船ごと全員がフィールドに入れられたまま海面へと上がっていく。まだ船に乗れていないものは、水中に浮かんだような感覚に手足をバタつかせた。
「わわわっ!?」
「おっとと、スゲェな姉ちゃん」
「お前らッ! 早く船に乗れッ!」
テテュスの成した事は凄いが、これが何時まで続けられるものなのか分からない。海面に出た直後にフィールドを解除されようものなら、未だ荒れた海流により流されてしまう。
まだ船に乗れていない者は空中を泳ぐ様にして船に取りつき、全員が乗り込むことに成功する。子分の1人までが乗り、残るはフィールドを形成しているテテュスのみ。
そこで船が海面に出た。勢いよく飛び出したフィールドは勢いがつき過ぎたのか一瞬海面のさらに上まで上がり、そして静かに着水した。
既に周囲は完全に沈没しているのか、見渡す限り海しか見当たらない。そんな中でテテュスは船が大丈夫だと見ると、フィールドを解除した。
「……はぁっ」
力を抜いた直後、水泡が弾けるようにフィールドが消え船が海に浮かぶ。海面はまだ荒れているので着水した瞬間船は大きく煽られたが、幸いな事に転覆する事は無く船員達を支えた。
テテュスはそんな船を見やりながら海面に”立った”。地面の上の様に海面に立ち、歩いて船に乗って来た。
オケアノスは船に乗ろうとしたテテュスに手を差し出した。
「ほら」
「ん、ありがと」
「お疲れ」
「うん」
言葉短く会話を交わす2人。その顔は仮面に隠されてどんな表情なのかを傍から見て伺い知ることはできない。
だが雰囲気から海羽は、2人が互いに笑みを浮かべているのだという事を察した。
海羽達が見守る前で、テテュスとオケアノスが変身を解除した。元の姿に戻った2人に、海羽は改めて再会を確かめる為に近付いた。
「瑠璃姉ぇ! ネイトさん!」
「あ! 海羽ちゃん、久し振り!」
「怪我は無いか?」
「うん、うん! 瑠璃姉ぇ、本当に……本当に……う、うわぁぁぁんッ!?」
安全が確かめられた事、久し振りに瑠璃の顔が見れた事。様々な事が積み重なり、混ざり合って、海羽は感極まり大声で子供の様に泣きながら瑠璃に抱き着いた。瑠璃はそんな海羽を受け止め、子供をあやす様に頭を優しく撫でた。ネイトはそんな2人を優しく見守り、バーツは瑠璃との再会を喜ぶ海羽を前に安堵と同時に彼女との別れを感じ寂しそうな顔をしていた。
その後、まだ辛うじて動く状態だった船は自力で航行し、無事に海都まで到着した。
海都に着くなり、瑠璃はレンタルした船を失った言い訳をどうしようと頭を抱える事になるのだがそれはまた別の話である。
という訳で第51話でした。
今回で漸くラハブとの戦いに決着がつきました。ラハブとは……ね?
でも瑠璃の戦いはまだ終わりません。もう少し続きます。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。