今回で本当の最終決戦、決着です。
突如街を襲った無数のディーパーは、目に映る人間を無差別に襲った。平和を謳歌していた人々は、何が何だか分からず逃げ惑っていた。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「逃げろぉぉっ!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ?!」
恐怖に慄く悲鳴に混じって、逃げ遅れたのか追い詰められたのか犠牲となった人の絶叫が街に響き渡る。その悲鳴が更に恐怖を助長し、街は収束不可能なほどのパニックに見舞われるかと思われた。
だが混乱の坩堝にあった街の中で、1人でも多くの人々を守るべく奮闘する者達が居た。
「おらぁぁぁぁっ!」
今正にディーパーに襲われそうになっていた親子。そこにチェーンレイズのオケアノスが殴り掛かりディーパーを親子から遠ざける。襲われそうになっていた親子は、理解が追い付いていないのか目を白黒させていた。
「わぁっ! 仮面ライダーだぁッ!」
ただ1人、子供だけは無邪気に噂でしか知らなかった仮面ライダーが目の前に居て、自分達を助けてくれた事に目を輝かせていた。
「怪我は無いか?」
「うん!」
「よっしゃ。アンタらは?」
「だ、大丈夫です」
「私も……」
親子が無傷である事を確認したオケアノスは満足そうに頷くと、彼らを背に庇う様に立ち鎖を振り回して錨で周囲のディーパーを薙ぎ払った。
「でぇぇぇやぁぁぁぁぁっ!」
「す、凄い……!」
「無事な連中は庁舎に集まってる! 今の内に早く逃げろ!」
「は、はい!」
現在無事な住人は庁舎に集められている。復旧の過程で強度が上げられた庁舎なら頑丈でちょっとやそっとの事では崩れないし、地上だけでなく地下にも広い。それに一か所に纏まれば、S.B.C.T.に守ってもらえた。現在庁舎は周辺をS.B.C.T.により、即席の避難所として機能していたのだ。
オケアノスの話に助かる希望を見出したのか、親子は彼に感謝しながら庁舎に向け走り出す。
当然それを逃がすディーパーではないが、追跡を許すオケアノスではなく親子の後を追おうとしたディーパーに鎖を巻き付け引き摺り振り回して叩き付けた。
「フンッ! とぉ……ふぅ。しかし……」
ディーパーを地面に叩き付けて倒したオケアノスは、一息ついて周囲を見渡す。周囲にはまだまだ多数のディーパーが隙間もない程ひしめき合い、オケアノスを取り囲み今にも襲い掛かろうとしていた。
うんざりするようなその光景に、彼は先程とは違う意味合いの溜め息を吐いた。
「はぁ~……ったくよぉ。いい加減、お前らの面見るのも飽き飽きしたぜ。…………来いよ」
オケアノスの挑発に乗るかのように、ディーパー達が一斉に襲い掛かる。ディーパー達が動き出した瞬間、彼は手の中のチップを5枚ベルトに投入しレバーを下ろし絵柄を揃えた。
〈Fever!〉
「らぁぁぁぁぁっ!!」
エネルギーを充填した錨で周囲のディーパーを一掃する。しかしそれでもまだディーパーの数は多く、視覚的には全く減った様子を見せなかった。
それでも彼は諦めない。この街は瑠璃の故郷なのだから。
***
一方、BAR・FUJINOの前では、コバルトウェーブが1人で迫るディーパーを押し留めていた。両手にそれぞれ持ったホルダー剣とベクターリーダーで、後ろの店内に居る海羽達一家を守る為に奮闘している。
その戦いの性質上、彼は持ち味の素早さを活かせない。極力その場を動かず、敵の攻撃は基本受け止めて反撃する形で対抗していた。
「オラッ! このっ! クソ、だぁっ!」
結果、彼の体は何度もディーパーからの攻撃に晒され、鎧のあちこちに傷が出来ていた。加えて戦いの疲労に、背後に守るべき者が居ると言う状況が彼から余裕を奪い焦りが体力を余計に奪っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…………チィッ。オラどうしたッ! もう終わりかテメェらッ! 命が惜しくない奴から掛かってきやがれ! ここから先には一歩も通さねぇぞ!!」
そんな絶望的な状況でも彼は折れる事無く、ディーパー達を挑発して自信を奮い立たせる。その彼の戦いを海羽を始めとした藤野一家が店の入り口から見守っている。
「バーツ……!」
「バーツ君……」
「頑張って……!」
逃げる事をせず1人傷付きながら戦う彼を、海羽は心配し、鉄平は目を逸らさず、美代子は応援していた。
そこに新手が現れる。周囲のディーパーが巻き込まれる事も構わず水の砲撃でコバルトウェーブが薙ぎ払われた。
「うっ!? ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」
「あぁっ!? バーツッ!?」
「アイツかッ!?」
コバルトウェーブを吹き飛ばしたのはEXクラムであった。剣を逆手に持った杖で水の砲撃を放ち、周囲のディーパーごと邪魔者であるコバルトウェーブを押し流したのだ。
強烈な水圧の水の砲撃に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられたコバルトウェーブはそれまでに蓄積したダメージもあってか立ち上がる事が出来ない。ガクガクと震える腕と足で体を持ち上げるのがやっとだった。
「ぐっ……が、くぅ……。はぁ……はぁ……」
「バーツッ!」
ボロボロのコバルトウェーブの姿に、堪らず海羽が飛び出し寄り添った。店の中から鉄平と美代子が引き留める声も聞かず、コバルトウェーブの傍に向かうと体を支えるのもやっとと言う彼に手を貸した。
「バーツ、しっかりして!」
「み、海羽……危ねぇから、離れてろ……」
「海羽!? 早くこっちにッ!?」
「海羽逃げてッ!?」
コバルトウェーブに寄り添った海羽を鉄平と美代子が呼び戻そうと身を乗り出す。するとEXクラムが、海羽を呼ぶ声に反応したのか倒れたコバルトウェーブよりも鉄平達の方に狙いを定めた。本能的にそちらの方が先に仕留めやすいと察したのだろう。
EXクラムが両親に狙いを変えたことに気付いた海羽が、顔を青くして2人に逃げるよう促した。
「いけないッ!? お父さんお母さん、逃げてッ!?」
「え? ッ!? う、うわぁぁぁぁっ!? 美代子ッ!?」
「きゃぁぁぁぁっ!?」
迫るEXクラムに気付いた2人が悲鳴を上げた。海羽の警告も空しく、迫るEXクラムに追い詰められた2人は互いに身を寄せ合い恐怖に身を震わせた。
周囲を見れば、逃げ遅れたのだろう人々の無残な遺体が転がっている。これから自分達も彼らの仲間入りをするのだと、否応なしに察してしまった。
「海羽……すまん」
「あなたは、逃げて……」
EXクラムが杖を順手に持ち、剣として使い振り上げる。海羽が悲鳴のような声を上げるが、EXクラムは構わず剣を振り下ろし――――
「ぐぅッ?!」
「…………え?」
「な、バーツ君ッ!?」
2人が切り裂かれる寸前、立ち上がったコバルトウェーブが2人の前に立ち塞がり、振り下ろされた凶刃から2人を守った。肩で刃を受け止め、食い込んだ刃に切り裂かれた肩から血が流れ落ちる。
しかし今の彼が感じているのは、痛みや苦痛ではなく怒りであった。
「て、テメェ…………!!」
コバルトウェーブは肩に食い込んだ刃を片手で押さえ動かないようにすると、相手の腹にベクターリーダーの銃口を突き付けた。
「海羽の親父とお袋さんに、何しようとしてんだッ!!」
零距離から何度も引き金を引き、放たれた銃弾がEXクラムの腹を抉っていく。銃弾に何度も腹を食い破られ、EXクラムは堪らず剣から手を放し後ろに下がった。撃たれた場所からはポロポロとドロップチップが零れ落ちている。
明らかに奴は大きなダメージを受けた。それを見たコバルトウェーブは、肩に食い込んでいた剣を投げ捨てベクターリーダーにホルダー剣を装着して銃剣モードにしてジェネリック・ブレイカーを発動させた。
〈Genome set Full blasut〉
刃にエネルギーが集束していく。それを前にしてEXクラムは、ダメージが足に回ったのか前にも後ろにも進む事が出来ずに黙って見ているだけであった。
「オラァァァァァァァッ!!」
放たれたジェネリック・ブレイカーがEXクラムを大きく斜めに切り裂いた。体を斜めに大きく切り裂かれたEXクラムは、悲鳴も上げず手をコバルトウェーブに伸ばし、唐突に糸が切れたかのようにその場に倒れるとそのままチップを撒き散らしながら爆散した。
それを確認し、安堵したのかコバルトウェーブも力尽きた様子で倒れる。彼が倒れると、それを見た海羽が急いで近付き彼の体を抱き上げた。海羽に抱き上げられた瞬間、変身が解け彼は元の姿に戻ってしまった。
「バーツ、しっかり!?」
「バーツ君ッ!?」
「大丈夫ッ!?」
海羽を始めとした藤野家の全員がバーツに寄り添い安否を心配する。怪我人という事でもみくちゃにされる事は無かったが、一斉に詰め寄られて流石に圧力を感じたのかバーツは気合で目をこじ開け海羽達と目を合わせた。
「い、生きてるよ……大丈夫。ちょっと、疲れただけだ……」
「バーツ! 良かった~……」
「それより、海羽。お前の親父さんとお袋さんは?」
「うん。お父さんもお母さんも大丈夫。ありがとう、バーツ」
バーツが両親を身を挺して守ってくれた。その事に彼女が素直に感謝を述べると、彼は安堵したように顔に笑みを浮かべた。親が居ない寂しさは彼自身よく知っている。その辛さを、海羽が味わう事にならなくて良かったと言う意味の安堵であった。
その様子を見て、鉄平のバーツを見る目が変わった。海羽を傷物にしたという事で冷静さを欠いていたが、こうしてみればなかなかどうしていい男ではないか。アウトローではあるかもしれないが、悪人ではない。
何より彼は海羽だけでなく海羽の家族までをも守ろうとしてくれた。彼女の心を守ろうとしてくれる彼なら、娘を預けるのに不満は無い。
「バーツ君……ありがとう」
鉄平は万感の思いを込めてバーツに感謝し、同時に彼に海羽を託すことを決めた。その何か含みを持った物言いに、バーツは先程と何かが違うと気付き首を傾げる。
「ん?……おぉ……しっかし、兄貴達は何処で何してやがんだ?」
***
その頃、庁舎の近くでは避難してきた住人の誘導作業が行われていた。
「さ、こっちです! 急いで!」
ライトスコープが必死に迎撃する中、十三を始めとした職員達が逃げてきた住人を誘導している。何分突然の襲撃だった為、初動で混乱が生じ已む無く危険を承知で十三が陣頭指揮を執る事になったのだ。
逃げてきた住人の中には怪我をしている者も居る。傷口を押さえたり足を引き摺っている住人に、十三は手を貸して避難の手助けをした。
「大丈夫ですか? もう少しです。さ、頑張って……」
怪我をした住人を庁舎内に誘導しようとしたその時、ライトスコープの迎撃を潜り抜けたディーパーが十三らに襲い掛かろうとしていた。迫るディーパーに気付いた十三は、咄嗟に住人を庁舎の方に押し出し自分はディーパーの前に出て両腕で防御の構えを取った。そんなもので防げるはずがない。これは咄嗟の行動だ。
「知事ッ!?」
別の職員が声を上げながら手を伸ばし、危険に気付いたライトスコープが銃口を向けるが間に合わない。
最早これまでかと、何処か他人事のように考えながら十三が目を瞑り迫る痛みに備えた。
しかし…………
「どりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
あわやというところで、横からインディゴサイクロンが乱入し十三に襲い掛かろうとしていたディーパーを殴り飛ばした。強烈なパンチを喰らったディーパーは、殴り飛ばされ壁に叩き付けられ、その場に崩れ落ち動かなくなった。
あと一歩で死ぬところだった十三は、状況の変化について行けずただ勢いのまま後ろに倒れ尻餅をついていた。
「え?……アイタッ!?」
「ふぃ~、ったく。コイツ等何処からこんなに湧いてきた? あ、大丈夫かオッサン?」
「え、えぇ……危ないところをありがとうございます」
「気にすんな」
十三が誰なのかを知らないインディゴサイクロンはフランクに接し、十三は助けられた事実だけを見て彼に感謝する。
インディゴサイクロンの向こうでは、彼の子分達が逃げる途中で見つけた怪我人や子供、老人などを担いで走って来ていた。そしてターコイズスウィールが、その子分達を援護している。
「おやぶ~ん!」
「待ってくださいよ~!」
「モタモタすんな、こっちだ!」
どうやら彼らはこの混乱の中、自力で逃げつつ道中で見つけた1人では逃げるのに苦労する人々を手助けしているらしい。それは別段、打算あっての行動ではなくついでのようなもの。とは言え根が悪い人間ではないフランシスは道中で見つけた負傷者らを放置する気になれず、また進生してディーパーを迎え撃つにしても怪我人や老人子供にウロチョロされては邪魔になるからと言うのも彼らの行動の理由であった。
子分達が怪我人たちを庁舎へと運んでいくのを眺めつつ、インディゴサイクロンは十三へと話しかけた。
「ところで、オッサンがこの辺の偉い人か?」
この場合の偉い人と言うのは、避難活動の責任者とかそう言う意味であって街の政治のトップとかいう意味ではない。陣頭指揮を執っていた為、十三を救助活動の責任者と勘違いしての発言であった。インディゴサイクロン=フランシスは十三が街の知事である事は知らない。知らないからこそ、ここまでフランクに話し掛ける事が出来ているのだ。
一方の十三も、権力とかそういう事に五月蠅いタイプではないので、初対面の相手からフランクな対応を受けても気分を害するような事は無かった。
「そうですね。偉いかどうかと言われれば偉い方です」
「なら、アイツら預けるから、避難の方きっちり終わらせてくれ。そうしないとこっちも満足に戦えねぇ」
別に暴れ回っても良いのだが、そうすると海羽と瑠璃の故郷が大きな被害を受ける。ただでさえディーパー達が暴れ回って街は甚大な被害を受けているのだ。これ以上被害が大きくなって、街が人の住めない状況になろうものなら彼女達が悲しむ。彼女達が悲しめば、特に海羽の事を愛しているバーツも良い顔をしない。だから彼は街を守る事にも積極的であった。
彼らがどういう人間かを良く知らない十三も、彼らが街を守ろうとしてくれている事は肌で感じたのか、その申し出を快く受け入れた。
「分かりました。重ねて、協力ありがとうございます」
「んじゃ、こっちは任せた! 行くぞエドッ!!」
「行くのは良いけど、兄貴誰を相手にしたか分かって……ま、いいか」
インディゴサイクロンはターコイズスウィールを伴い、迫るディーパーを蹴散らしに掛かった。その際ターコイズスウィールは十三の事をチラリと見たが、溜め息一つで意識を切り替えるとインディゴサイクロンの後に続いて避難の手助けと敵の迎撃に向かうのだった。
***
海都のあちこちで、街や人々を守る為の戦いが行われている。
それはここ、海都の外縁でもそうであった。
他の場所に比べ人の居ないこの場所で、今正に世界の命運を分ける為の戦いが行われている最中であった。
「ハァァッ!」
「アァァッ!」
ノーブルレイズのテテュスと、ディープラビニが激しい戦いを繰り広げる。攻撃に水を纏わせ、水圧を味方につけて戦うテテュス。それに対しディープラビニは、同じように水を味方につけて対抗していた。
放たれるテテュスのウェーブスマッシュ。波の軌跡を描いて放たれる回し蹴りがディープラビニに直撃した。強烈な水圧を伴う一撃にディープラビニは腹部を抉られ血を流すが、その傷は即座に修復され元通りになった。それは正しくラハブの能力であり、コアとなるライフコインを砕かぬ限りあの再生力を突破する方法は無いとテテュスに確信させた。
一方のディープラビニは、傷が癒えると即座に反撃に転じた。異形と化した両腕に生えた鋭い爪でテテュスに斬りかかり、テテュスはそれを水をカーテンのようにして防ぐ。普通なら容易く突き抜けそうな水のカーテンだが、深海の水圧に等しい圧力を持ったそれは強固な壁となってディープラビニの一撃を防いだ。
並の相手であればこれだけで攻撃を無力化する事が出来たであろうが、今テテュスが相手にしているのはラハブの能力を受け継ぎ、更にオリジナルのセラが持っていた古代ムー大陸人の能力を混ぜ合わせた最強の存在。本来ラハブが実現する筈であった、最強の生物の能力を遺憾なく発揮した8号はテテュスの防御を貫きその爪で彼女の体を切り裂いた。
「あぐぁぁっ?! くっ!?」
胸から腰に掛けて大きく切り裂かれ、血を流すテテュスだったが彼女に痛みに悶えると言う贅沢は与えられない。彼女が時間を掛ければそれだけ街の人々が多く傷つくのだ。愛する街が、同じ街に住む人々が、危険に晒されるのだと考えれば、この程度の痛みなど苦にならない。
即座に体勢を立て直したテテュスは、ベルトのリールを思いっ切り回してアビストライデントを取り出しそれでディープラビニを振り払った。
「ハァァァァァァッ!!」
「がっ?!」
思いの外早い立ち直りと反撃に、ディープラビニの反応が遅れ反撃を諸に喰らう。銛の柄で殴り飛ばされ、距離を引き離された所で追撃の薙ぎ払いが放たれた。
「フッ!」
今度は柄での殴打ではなく、穂先の刃で切り裂く事を目的とした薙ぎ払い。喰らえばディープラビニもただでは済まないだろう一撃だ。
それを前にして、ディープラビニは予想外の行動を取った。徐に手を眼前に掲げると、その手の中に1枚のライフコインを生成したのだ。それは瑠璃やセラなど、過去のムー大陸の王族が会得した技術によるもの。
ラフィによりラハブの元へ連れていかれ、ラハブの一部を植え付けられる過程で刷り込まれた知識から得た能力であった。
そうしてディープラビニが作り出したのは、黒いライフコイン。絵柄は銛の、ブラックライフコイン。それを生成したディープラビニは、薙ぎ払われたテテュスの銛を受け止めつつブラックライフコインを握り締めるようにして自身の体に取り込んだ。
するとどうだろう。次の瞬間ライフコインを取り込んだ手から黒い水が溢れだし、それが瞬く間に形を作っていき一本の銛となった。テテュスのアビストライデントとは違う、穂先が一本の銛。ただ普通の銛と違うのは、穂先が真っ黒だという事だ。
「なっ!?」
「ハァァッ!」
「あぐっ?!」
まさかこの場でライフコインを生成し、更にはその能力で新たな武器を手にするとは思っていなかった。予想外のディープラビニの行動に一瞬テテュスの思考が止まった、その隙を突かれ銛による一撃を受ける。テテュスの心臓を穿つ勢いで放たれた一撃は、テテュスが辛うじて直前に反応した事もあり直撃だけは回避する事が出来たが、それでも完全に回避する事は出来ず左肩を刺し貫かれた。
テテュスに一撃を加えることに成功したディープラビニは口元に笑みを浮かべると、彼女の肩を抉る様に銛を捻った。傷口を広げられる事に、テテュスの口から悲鳴が上がった。
「うあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?! ぐ、あぁぁっ!?」
傷口を抉られ広げられる激痛に悲鳴を上げるが、それでも彼女の中から闘志は失われなかった。激痛に視界が歪む中、テテュスは突き刺された銛を掴むと返しで傷口が切り裂かれる事も構わず引き抜いた。
「ぐぅぅぅぅっ!? くっ、あぁぁぁぁぁッ!!」
そして引き抜いた銛を地面に突き刺すと、突き刺された衝撃で手放していたアビストライデントを拾いディープラビニに突き刺そうとした。ディープラビニは地面に刺さった銛を力尽くで引き抜き、独楽の様に回転してテテュスの突きを弾く。
攻撃が弾かれた事で、テテュスは一度体勢を立て直すべくディープラビニから距離を取った。対するディープラビニの方も、下手に攻めると予想外の反撃が来ることを恐れて追撃を控える。その代わり、得られた時間を利用して体力の回復に努めた。
ディープラビニが攻勢を緩め、体力の回復に努めてくれたおかげてテテュスの方にも回復の猶予が与えられた。この機を逃さず、テテュスはキュアボールで傷を癒し万全のコンディションを取り戻した。その光景にディープラビニが舌打ちをする。
「チッ、器用な奴……」
「ラハブ譲りの回復力をデフォルトで持ってるあなたに言われたくないわね」
「こんな力……欲しくて手に入れた訳じゃないわ!?」
感情に任せて銛を振り回し、周囲を破壊しながらテテュスに迫るディープラビニ。近付いたものを無条件に破壊する嵐の様な彼女に、テテュスは静かに銛を構えてタイミングを合わせて突きを放った。放たれた一撃は、正確に相手の銛を受け止め破壊の嵐を押さえ付ける。
「くっ!?」
「もう……もう止めよう? こんな事しても、何にもならない。今はまだ辛いかもしれないけど、元の姿に戻れる方法を探そう? 私も……、私も一緒に探すから……ね?」
何て言うが、正直な話ディープラビニ……8号が元の姿に戻れると言う保証はどこにもなかった。一生を掛けて探しても、人生が徒労に終わる可能性の方が高い。
しかし、希望はあった。仁は超万能細胞を始めとした生物工学に精通していると聞いた。であれば、もしかすれば今の8号を治療する事も出来るのではないかと思ったのだ。例え直ぐに治療は出来なくても、時間を掛けて彼女が元の姿に戻れる方法を見つけられる可能性は探せる筈だった。
そんな希望を抱いて8号を宥めようとしたテテュスだったが、やはりと言うか最早彼女にテテュスの声は届かなかった。8号は押さえつけられた銛を、力尽くで振り払おうと力を込めた。
「もう……もう!? もう沢山なのよ!? こんな世界!? きっと今だって、世界の何処かで私達みたいなのが作られてるに決まってる!! こんな狂った世界、亡くなった方が良いに決まってるわ!!?」
激情が力となり、ディープラビニの振るった銛がテテュスの手から銛をもぎ取り海へと放り捨てる。回りながら弧を描いて海へと落ちた銛を、テテュスは一瞬見送るが次の瞬間ディープラビニから放たれた突きを受け止める為視線を海から前に戻した。
テテュスが見た瞬間、ディープラビニが目にも留まらぬほどの速度で銛を突き出してきた。心臓を狙って放たれた刺突を、テテュスは持ち前の電光石火の反射神経で捉え寸でのところで受け止めた。
胸の装甲まであと数センチと言うところで止まった銛の穂先。ディープラビニはそれを更に押し込みテテュスを串刺しにすべく、全身の力を銛を持つ手に集中させた。
「うぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「ぐ、くっ! ぅあ、ぅぅぅぅぅぅぅッ!?」
徐々に銛が押し込まれ、穂先と胸の間の距離がゼロになる。それだけに留まらず、穂先の刃が胸の装甲を割る様にして食い込んでいくのをテテュスは感じ、徐々に広がる悍ましい痛みに仮面の下で脂汗を流した。
ここで普通であれば、どうにかして軸をズラすなりして相手の攻撃を最低限のダメージでやり過ごす方向に考えるだろう。だがしかし、この次にテテュスが行った行動は、傍から見れば正気を失ったとしか思えないものであった。
何と唐突に銛を押さえている手を片方離したのである。押し込みを防いでいる力が半分になった事で、穂先が一瞬ずぶりと装甲を貫き胸に先端が食い込んだ。
その際の激痛に顔を顰めつつ、銛が完全に胸を貫く前にテテュスは離した手を腰のチップケースに持っていった。ノーブルレイズになってから、殆ど必要の無くなったチップケース。彼女はそこからドロップチップを1枚素早く取り出すと、これまた素早くそれを親指で弾いた。
弾かれたチップは、狙い違わずディープラビニの顔へと飛んでいく。そして、弾かれたチップはディープラビニの目の部分に当たり一瞬だが怯ませた。
「うぁっ!?」
その瞬間、銛を押し込むディープラビニの力が緩んだ。テテュスはこれを待っていた。銛を押し込む力が緩んだ瞬間、テテュスは銛を押し返し胸から引き抜くと、今度は逆にそれを引っ張って相手の手から奪い取った。
「な、あっ!?」
一瞬怯んだ隙にあっという間に武器を取られた。銛を押し返されたので逆に押し戻そうと込めた力を逆に利用された。そしてテテュスは、ディープラビニから奪い取った銛を構えると海に落とした自分の銛の代わりにそれで相手を刺し貫いた。
「ハァッ!!」
「ガッ?!」
テテュスの刺突はディープラビニを刺すだけに留まらず、そのまま海に押し出し共に海中へと没した。
ディープラビニと共に海に落ちたテテュスは、銛から手を放すと相手を蹴って距離を取った。蹴り出されたディープラビニは刺された銛を引き抜こうとしているが、銛についた返しが引っ掛かって抜く事が出来ずにいる。
倒すなら、今が絶好の好機。テテュスはチップケースをベルトの投入口に装着してウィールを回した。
「チップ一枚で、大逆転…………これで終わりよ!」
〈JACKPOT FEVER!〉
「ハァァァァァァァァァッ!!」
銛を引き抜こうと必死のディープラビニに、テテュスの必殺技「ジャックポットフィーバー」が放たれる。海水を纏った必殺の蹴りが、一直線にディープラビニに向けて突き進み突き刺さる。
「がぁっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「アァァァァァァァァァッ!!」
テテュスは力の限り何処までも蹴り続け、ディープラビニを海底に向けて蹴り落としていく。深度が上がるにつれて、テテュスの足に集まる力も強くなり水圧を味方につけたかのような一撃がラハブ譲りのディープラビニの再生力を上回る。
そして遂に、ディープラビニの力の源となっているライフコインを全て砕いた。
「ぁ…………」
自らの命の源が砕かれたのをディープラビニは確かに感じ取った。
その瞬間、彼女の顔に笑みが浮かんだ。
「フフッ……」
「ッ! くっ!?」
彼女の笑みを見た瞬間、テテュスは攻撃を止め力無く海底に沈みつつあった彼女の手を掴んで海上に向け浮上した。
そして海から顔を出すと、ディープラビニを引っ張って海都と言う作られた陸地の上に上がった。
「はぁ、はぁ……ちょっと!?」
「げほ、がは……」
海から引き上げられた時、ディープラビニの姿は元の8号のそれに戻っていた。衣服は無く、全裸で海から引き上げられた8号はライフコインの影響なのか顔の傷も無くなっておりその姿は瑠璃のそれと瓜二つになっている。
海から上がったテテュスは変身を解いた。そうして素顔で対面した2人だが、8号の顔には誰が見ても分かるほどの死相が浮かんでおり、勝者である筈の瑠璃の顔には隠し切れない悲しみが浮かんでいた。
「何で……どうして!?」
最後、ジャックポットフィーバーによりトドメを刺された瞬間、8号が浮かべた笑みで瑠璃は全てを察した。彼女は態と瑠璃の最後の敵となる事で、残りのディーパー共々自分を葬らせたのだ。瑠璃はその事に今になって漸く気付いた。
「は、ははは……言ったでしょ? もうこんな世界にはうんざりだって。なのにあの半魚人、私の事を勝手に生かして利用しようとしてさ……。癪に障ったから、一緒に地獄に行ってもらおうと思ったのよ」
「でもッ!? それなら、あなたが死ぬ事無いじゃないッ!? 一緒に元に戻れる方法を探そうって、そう言ったのに……!?」
「だから、もううんざりなのよ。人の欲望に利用されるのも、人の欲望を見るのも。こんな世界、私は真っ平御免だわ」
「う、うぅぅぅぅ…………!?」
8号の体が徐々に崩れていく。避けようのない姉妹と呼べる存在の死に、瑠璃は只管に涙を流した。零れ落ちた涙が、8号の頬に落ちて弾ける。
温かい涙が自分の顔に掛かった事に、8号は顔を顰める事もせず穏やかな顔を瑠璃に向けた。
「何、泣いてるのよ。あなたはこの世界で生きて行くんでしょ? 自分の世界を守れたんだから、もっと喜びなさいよ」
「あなたは、それでいいの? 本当に、この世界に未練は無いの?」
「無い……と、言いたいところだけど……。あぁ、でも、ちょっと憧れてたかな? 自由って奴に……」
体の半分が崩れた中、8号はまだ残っている右手を空に向けて伸ばした。こんな状況だと言うのに憎たらしい位燦々と輝く太陽と青い空に、その景色を掴み取ろうとしているように手を伸ばし、しかし何も掴めない事に8号は穏やかな笑みを浮かべた。
「あぁ……広いなぁ、この世界は……きっと、まだ見た事の無いものが、沢山あるんだろうな……」
「あるよ……きっとこの世界には、まだ誰も見た事の無いようなものが沢山あるよ。綺麗な景色も、珍しい生き物も、仲良くできる人も、沢山…………!!」
「そっか…………世界は、こんなに…………ねぇ、瑠璃?」
唐突に8号が瑠璃の名を呼んだ。初めて彼女から名を呼ばれた事に、瑠璃は一瞬目を見開くき息を呑む。が、8号が何かを伝えようとしている事は分かる。故に瑠璃は、驚きを引っ込め彼女からの言葉に耳を傾けた。
「何?」
「…………ありが、とう」
その言葉を最後に、8号の体は完全に崩れ落ちる。8号の姿は消え、後には砕けたライフコインが数枚あるだけであった。
その砕けたライフコインを瑠璃は大事に拾い、手の中の砕けたコインを握り締めながら涙を流した。
「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!? うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
波の音が穏やかに響くその場に、瑠璃の慟哭が響き渡った。
〈ATP Burst〉
「ハッ!」
同時刻、海都の別の場所ではデイナがルーナと共に逃げ遅れた住人を守ってディーパーと戦っていた。デイナとルーナにとっては、通常のディーパー程度取るに足らない相手だがそれでも数が揃い、守るべき人が多く居る中では決して楽な戦いとは言えなかった。
「ふぅ……仁くん、大丈夫ですか?」
「ん、へっちゃら、亜矢さん達の方は?」
「大丈夫です。……雄司と愛衣も、ね」
2人が振り返った先には、逃げ遅れた人に託した子供達の姿が見える。子供達は2人が戦う姿に興味津々と言った様子でこちらを見ている。こんな時だと言うのに、雄司はともかく愛衣までもが好奇心を優先させた事に、デイナはともかくルーナは子供達の将来に一抹の不安を覚えた。
「こりゃ2人とも仁くん似ね。……あは、は」
「それより、そろそろ終わったかな?」
気付けば襲い掛かってくるディーパーの姿が無くなっていた。どうやら長く続くと思われた戦いもようやく終わりらしい。耳を澄ませば、街のあちこちから聞こえてきていた戦いの音が聞こえなくなっている。2人は戦いの終わりを感じ、変身を解除した。
戦いの終わりを感じたのは2人だけではなかった。慎司達S.B.C.T.も、希美も、フランシスやバーツ達も、そしてもちろんネイトも戦いの終わりを感じ取っていた。
街を、世界を守れたことに戦士達は誰もが安堵の溜め息を吐いた。
ただ1人、瑠璃だけが悲しみの涙を流しているとは知らずに。
ここにこうして、太古の時代から続いたディーパーの脅威は消え去ったのだった。
という訳で第54話でした。
瑠璃と8号の戦い、遂に決着です。
8号は半分自棄を起こして世界を壊そうとした面もありますが、大体の理由は自分を死なせてくれなかったディーパーへの復讐だったりします。勝手に生き永らえさせられた挙句に、利用されようとしていたのでその腹いせに逆に地獄への道連れにした感じですね。
ただ最期の瞬間、自由を羨望した事と瑠璃に感謝した事は本心です。
次回は最終回のエピローグとなります。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。