今回で仮面ライダーテテュスも最終話となります。
ラストにはちょっとしたサプライズも用意してあるので、どうかお楽しみに。
戦いは終わった。
ディーパーの親玉であったラハブは倒れ、ラハブの能力を受け継いだ8号の変異したディープラビニもテテュスにより倒された。ディーパーの脅威がなくなった事で、今度こそ本当に海都には平和が戻ってきたわけだ。
しかしながら海都の住人が負った傷は深い。親しい者を失った人も、自身に大きな傷を負った者も居る。
だがそれでも海都の住人は強かった。悲しみに暮れながらも、住人の多くは既に前に向かって進み始め、復興に向け動き出していた。
そんな街の中で、ここBAR・FUJINOではこの一連の戦いで奮闘した戦士たちが互いの労を労っていた。
「志村さん、お久し振りです!」
「アンタもね、亜矢。旦那の門守とも上手くやってるみたいだし……」
「う~う~!」
「あ~?」
「子供達も元気に育ってるみたいだしね」
仁はともかく、久方ぶりに出会った亜矢と希美は共に子供をあやしながら談笑していた。亜矢の夫である仁は、その様子を微笑ましく眺めながら慎司と話していた。
「今回も君達には助けられました。改めて、ありがとうございます」
「ん、気にしなくていいよ。今回ここに来たのは本当に偶然だったし。それより、小早川さん達としては、あれは良いの?」
そう言って仁が指さした先では、フランシス達がS.B.C.T.の隊員達と共に騒いでいた。
「そうかそうか、アンタらも大変だな。まぁ今日は飲め飲め」
「すまねぇな。カートリッジ使ってたから一瞬勘違いしてたけど、お前ら思ってたよりも良い奴らだな」
アウトローなフランシス達と悪党を取り締まる側であるS.B.C.T.の隊員達。本来であれば決して慣れ合う事は無いだろう両者は、共に共通の敵を退ける為結果的に共闘した事で奇妙な連帯感が生まれたらしい。特に子分達は率先して怪我人などの搬送に力を貸していたので、その分信頼感を得るのも早かったらしい。
そんな風に騒いでいる彼らの傍らでは、バーツが鉄平に言い寄られていた。
「バーツ君、君になら海羽の事を任せられる。どうか娘を、よろしく頼むッ!!」
「え、あ、お、あ~、はい」
「ありがとう。これはお近づきの印だ!」
「お父さんッ! バーツはまだ未成年だよッ!?」
海羽の為、そして海羽の家族である自分達の為、危険に身を投じ命を賭けて戦ってくれた。その事に鉄平は感激し、彼になら海羽を任せても良いと父親として彼を認め彼に海羽の父としての気持ちを伝えていた。それは良いのだが、鉄平の勢いは今までに彼が感じた事の無い圧を持っており、怯えると言う程ではなくとも気圧されて後退るほどであった。何しろ普段は隙あれば酒に手を出そうとするのに、今は鉄平から勧められた酒に手をつけようとしないのだ。彼がどれだけ気圧されているかが分かるというものである。
「ほら! 鉄平さん、そこまでにして。今日は忙しいんだから」
そんな鉄平の頭を美代子が小突いた。今日は海都に残っていたS.B.C.T.の隊員達とフランシスの子分達も居るおかげで文字通り店の中は大わらわ。猫の手も借りたいと言う状況であり、海都にやって来てから早々美代子は給仕として忙しい時間を過ごしていた。海羽も居るとは言え流石にこの人数、酒に料理の用意までしては手が回らない。にも拘らず鉄平に何時までも遊ばれていては堪ったものではない。
それでも何時もであれば瑠璃が手際よく動いてくれるのだが、この場に瑠璃の姿は無かった。戦いが終わってからというもの、瑠璃に覇気は無く何処か気落ちした様子で海羽も不安に思っていた。
「瑠璃姉ぇ……」
姿を見せない姉に、海羽が思わず不安そうな顔をしていると美代子が彼女を安心させるように尻を叩いた。
「何て顔してるのよ」
「っと!? お母さん?」
「安心しなさい。彼女はそんなに弱い子じゃない、そうでしょ?」
付き合いは海羽に比べて圧倒的に短い筈なのに、知った風な口を利く美代子に海羽は思わず唇を尖らせた。そんな事、言われなくても分かっている。
「そんなの、言われるまでもなく知ってるもん。ただ、やっぱり心配だよ」
姉が傷付いているのを、勝手な信頼だけで済ませる事が出来るほど海羽は神経が太くない。心配なものは心配だ。娘のそんな気持ちを理解しているのか、美代子は酒の乗った盆を持ちながら海羽の頭を撫でた。
「大丈夫よ。なんたってあの子には、頼りになるナイトが居るんだから」
海羽が心配している相手である瑠璃は、8号と戦った現場にやって来ていた。手には酒の瓶を持っており、持参した二つのグラスの片方を8号が最期を迎えた場所に置き酒を注ぎ、もう一つに注いだ酒を一息に呷った。
「ん……ん……はぁ」
月明りが照らす中、瑠璃は酒精の籠った息を吐いた。そしてもう一杯酒を注ぐと、今度は足元に置かれたグラスに軽くぶつけて乾杯をした。
「……私がこうして飲めるんだから、あなたもきっと飲めたんだよね。一度でいいから、あなたとこうして飲んでみたかったかな」
8号、彼女もきっと酒には強かっただろう。色々な酒に飲みなれた自分と8号、飲み比べをしたらどちらが勝てただろうか。そんな事を考えながら瑠璃は新たに注いだ酒をこれまた一息で飲み干した。
そしてもう一杯酒を注ごうとした時、横から新たなグラスが差し出された。
「え?」
「俺にも一杯、貰えるか?」
グラスを持って来たのはネイトであった。瑠璃はネイトの顔と差し出されたグラスを交互に見て、肩の力を抜きながら笑みを浮かべると彼が持っているグラスに酒を注いだ。琥珀色の酒がグラスを満たしていくのを、2人は静かに見ていた。
「おっと、そろそろ十分だ」
危うく溢れる寸前と言うところで瑠璃は注ぐのを止めた。並々と注がれた酒を、ネイトは器用に零れないように口を付け飲んだ。彼が酒に口を付けたのを見て、瑠璃も自分のグラスに口を付けた。
「……ふう、美味いな」
「ん……結構いい酒だからね」
2人は暫し足元のグラスと空に浮かぶ月を肴に、言葉も無く酒を飲み交わした。
静かな2人だけの酒宴。それが変化したのは、瑠璃が持って来た酒が半分ほど減った時だった。
「少しは、気も晴れたか?」
何が、とは聞かない。そんな無粋な事は必要なかった。
ネイトからの問い掛けに、瑠璃は目を瞑り薄く笑みを浮かべて頷き答えた。
「うん。……あの子を助けられなかった事は、凄く悲しいし悔しい。でも、それで何時までも立ち止まってたらそれこそあの子に向き合えないから」
瑠璃には、8号の分まで生きる義務がある。自由に世界を見る事が出来なかった彼女の代わりに、広い世界を見て生きる事を楽しむ義務が。
それはある意味で縛られた生き方だった。瑠璃はセラと8号、2人分の人生を託された。未来を閉ざされた2人の分も、人としての生を楽しむと言う義務が。それはある意味で窮屈な生き方だろう。他人に強制された生き方ほど窮屈な生き方は無い。
だが瑠璃はその生き方から逃げるつもりは無かった。その窮屈な生き方から逃げるという事は、セラと8号という瑠璃に己の人生を託した2人の存在を自ら否定するという事。2人の事を大事に思い同時に2人の死を無駄にしたくないと思っている瑠璃にとって、その事実から目を背けて逃げるなどと言う事は万人が肯定しても彼女自身は絶対に肯定できない事であった。
ここで問題となるのは、何をどうすれば2人の分も人生を楽しめるのかという事。その答えは既に瑠璃の中に存在していた。
「ねぇ、ネイト……もう少ししたら、ネイトは海都から出て冒険に行くんだよね?」
「……あぁ。やっぱり俺は、冒険しないと落ち着かないらしい」
瑠璃から離れる事に後ろ髪を引かれる思いなのか、ネイトは何処か躊躇うような様子を見せながら答えた。それを見て瑠璃は、仕方ないとでもいうかのように笑みを浮かべ彼の腕に抱き着いた。
「じゃあさ、私の事も連れてって」
「え!?」
「何、その反応? 私が一緒に行くのはそんなに嫌?」
「いや、駄目とか嫌じゃねえ。寧ろ願ったり叶ったりだ。だが、瑠璃はそれでいいのか?」
ネイトについて冒険に向かうという事は、海羽達を置いて出て行くという事。瑠璃にとっての家族である海羽達と別れ、まだ見ぬ世界に旅立つという事は相当の勇気を要する筈だ。瑠璃はそれで本当に良いのかとネイトは訊ねた。
それに対する瑠璃の答えはとっくの昔に決まっていた。
「うん。私、もっと広い世界を見てみたい。もっと人生を楽しみたい。私に命を託してくれたセラや、本当はもっと生きたかったはずのあの子の分まで」
「瑠璃……」
「だからさ? ネイトが良ければだけど、一緒に行かせてくれないかな?」
上目遣いに問い掛けてくる瑠璃。それに対するネイトの答えは、最初から決まっていた。
次の瞬間、ネイトは瑠璃を引き寄せ力強く抱きしめた。突然の抱擁に一瞬驚かされた瑠璃だが、直ぐにそれがOKを意味しているのだと理解し抱きしめ返した。
暫しだ外に抱きしめ合っていた2人だが、どちらからともなく少し体を放すと今度は互いに顔を近付け合った。
夜空に輝く月が見守る中、ネイトと瑠璃の影が一つに重なり合うのだった。
***
海都での決戦から幾日か経ったその日…………
瑠璃はネイトと共に港に来ていた。彼女は今日、この海都から旅立つのだ。ネイトと共に、もっと広い世界を見て回る為、彼のパートナーとして。
これから旅立つ瑠璃を、藤野一家が見送りに来ていた。
「行っちゃうんだね……」
「うん。こんなに広い世界、海都だけで過ごすなんて勿体ないもん。それに……」
瑠璃は視線を下ろし、手の中に納まっている物を見た。セラが託してくれたブルーライフコインと、8号が死んだ後に残った砕けたライフコイン。
彼女達の魂は既にここにはない。だがそれでも、彼女達の遺した意思はこのコインに宿っていると瑠璃は信じていた。
「この2人の分も、生きて広い世界を見て回らなきゃだし」
「そっか……寂しくなるね」
「辛い事があったら、何時でも戻って来てね。私達、家族なんだから」
「はい」
「おいネイト、分かってるな?」
「皆まで言うなマスター。瑠璃は俺が守る。泣かせるようなことはしねえよ」
「ならば良し。さぁ、行ってこい!」
藤野一家に見送られ、瑠璃は笑顔で船に乗った。まずはフェリーに乗り、本州に向かいそこから世界へと羽搏くのだ。
瑠璃が乗った船が出航し、港から離れていく。動き出した船の甲板に出た瑠璃は、港を振り返り手を振って見送ってくれている海羽達に手を振り返した。
「瑠璃姉ぇ~! いってらっしゃ~い!!」
港の方から、海羽の声が聞こえてくる。波と船の音にかき消されそうになりながらも届いたその声に、瑠璃は溢れそうになる涙を堪えて手を振り返した。
「いってきま~す!!」
瑠璃は海羽達の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
そして船が海都から離れ、3人の姿も見えなくなると、途端に胸に寂しさが溢れだし目尻から涙が零れ落ちる。
その涙を、横からネイトが拭った。
「不安か?」
「少しね。でも、大丈夫。今の私は、空っぽじゃないから」
何処までも続く大海原。晴天の下に広がる広い世界を見て、瑠璃は空に登っていった己の姉妹と言える2人に語り掛けた。
「行ってくるね、2人とも」
海都に残った海羽達は、瑠璃が乗った船が見えなくなっても暫く港に残っていた。他ならぬ海羽が、見えなくなった船を何時までも見送り続けていたのだ。
気持ちは分かる。海羽にとって、瑠璃は血の繫がりが無くとも大事な姉だったのだ。その姉が、何時帰って来るかも分からない旅に出てしまった。その寂しさはいかばかりだろう。本当であれば、泣きたい筈だ。
だが海羽の目からは涙が零れない。零れないように必死に堪えていた。それが、旅立つ瑠璃への餞別であるかのように。
「さ、そろそろ帰ろう海羽」
「あの2人なら大丈夫よ」
「うん……」
船が見えなくなり、流石にこれ以上ここに居るのは他の人の迷惑になると両親に促されその場を後にする。
港から離れようとしている海羽の視界に、ふと見慣れた青年の姿が映った。彼の姿を見た瞬間、海羽は堪えていた涙が再び溢れそうになるのを感じた。
「ぁ……ごめん、お父さんお母さん。先に帰ってて」
「え、海羽?」
「……分かったわ。先に帰ってるから、あなたはゆっくり帰って来なさい」
「うん」
鉄平と美代子を先に帰らせ、海羽は壁に寄りかかってこちらを見ているバーツの元へと駆け寄っていく。彼の存在に気付いた美代子は、邪魔をするのは悪いと娘の意思を汲み鉄平を促して先に店へと帰っていった。
近くに駆け寄ってくる海羽に、バーツは複雑そうな顔をした。それはそうだろう。彼にも、別れの時が来たのだ。
「はぁ、はぁ……バーツ」
「海羽……」
「……行っちゃうんだね?」
「あぁ……」
この日、バーツも海都から海へと旅立つ。また再び、荷物を運ぶアウトローな生活へと戻るのだ。
実を言うと、バーツはこの旅立ちで海羽を誘おうかと迷っていた。彼女の事は心の底から好きだし、彼女が居ると船の雰囲気も明るくなる。フランシス達に冷やかされるのは癪だが、それを補って余りあるほど海羽と共に過ごす時間は満たされていた。
だが、散々に悩んだ結果やはり海羽は海都に残るべきだと言う結論に達した。彼女には危険と隣り合わせのアウトローな生活は似合わない。この街で、両親と共に穏やかに暮らすのが彼女には相応しい。
「そっか…………ぐすっ」
バーツのその想いを察し、海羽はそれ以上の我儘を口にはしなかった。我儘が許されるのは子供の内だけだ。自分はもうそんな子供じゃない。それに瑠璃の旅立ちを見送ったのだから、バーツの旅立ちだって見送ってやらねば不公平だ。
それでもやはり瑠璃とは違う意味で愛する彼が、何時会えるかも分からない遠くへ旅立ってしまうのはとても寂しい。その寂しさが涙となって彼女の目から零れ落ちた。
泣き崩れそうになる海羽を、バーツは一瞬抱きしめてやりたくなった。だが今それをすると、もう彼女から離れられなくなると理解しているから鋼の精神でそれを抑え、代わりに涙を優しく拭い頬にそっとキスをするだけに留めた。
「ん……バーツ……」
頬に感じた温かな感触に、海羽が潤んだ目でバーツの事を見る。彼女の目に後ろ髪を引かれそうになりながら、彼は彼女に別れの言葉を口にした。
「じゃあな、海羽。元気で暮らせよ」
「うん……バーツもね。風邪引いたりしないでよ」
「子供扱いするなよ。……また来るから」
「うん……」
その言葉を合図に、海羽とバーツは互いに背を向けてその場を離れた。これ以上は、別れがもっと辛くなる。
海羽は歩きながら涙を流し、バーツは込み上げてくるものを押し殺して兄貴分達が待っている場所へ向かう。
「何処に行く気だ?」
「ッ!?」
と、徐に横から声を掛けられた。見るとそこには、横道からこちらを見ているフランシスとエドワードの姿があった。
「何処って、船に決まってるだろ。俺達は船乗りだ、次の仕事に向けて――」
海羽との別れの寂しさを振り払い、次の船出に向けて思いを馳せる。
だがフランシスの口から出てきたのは、そんなバーツの決意を吹き飛ばすような言葉だった。
「船ならもう無いぞ」
「…………はぁっ!?」
船が無いとはどういう事か。シルバーレガシー号は確かに色々とあってボロボロだったが、決して直せないほどではなかった筈だ。それが何故無いなどと言う事になっているのか?
「船が無いって、どう言う事だよ兄貴ッ!?」
「バーツ、俺達は考えたんだ。何時までも根無し草なアウトローじゃ、いけないってな」
「まともな仕事に就けなかったから運び屋なんて仕事をしてたが、人間ってのはやっぱり地に足を付けて働くのが一番だ」
「つー訳で、船は売っ払った。これからはこの街で店でも開こうと思う」
「待て待て待てッ! 話が進み過ぎだッ! 大体、あの船売っただけでそんな気軽に次の仕事が出来るようになるのかよッ!」
シルバーレガシー号は確かに良い船だったが、荒っぽい使い方や荒事に巻き込まれた事もあり結構ボロボロだった。そんな船を売ったところで、次の仕事を始める為の元手になるとはとても思えない。まず店を開くと言っても、その店の場所を手に入れるだけで底を尽きてしまいそうだ。
「いやぁ、実はな? 怪物どもに街が襲われてた時、助けたオッサンが実はこの街の偉い人でなぁ」
ディーパーによる大襲撃があった日、フランシスは意図せず十三を助けていた。危ないところを助けたばかりか、その後も街の住人の為に奮闘してくれた彼らに十三はいたく感謝し、その印として自分に出来る事なら何でも手を貸すと約束してくれた。
それを聞いてフランシスは、ならばとこの街で店を開く為の場所が欲しいと願った。フランシスからの要求に十三は快く応じ、手頃な場所に手頃な大きさの店を用意してくれた。
つまり、既に店の場所は用意されている。その分の資金は必要無いのだから、元手が多少少なくても問題なかった。
その話を聞くにつれてバーツは段々と冷や汗が流れてくるのを感じた。
「兄貴……まさか……」
「そう。元々、もうこれ以上航海するつもりは無かったんだよな、エド?」
「あぁ。あの嬢ちゃんもバーツと別れるのは嫌だろうから、もうこの街で過ごそうって兄貴とは決めてたんだよ」
「で、この街に着いてから船は売ってさぁ何処に店を構えようかって時にあんな事があってな」
「こいつは渡りに船って事で店を構える事になった訳だ」
つまりは兄貴分2人によるお節介。バーツのここ数日の悩みは無駄だった訳だ。
海羽と別れる必要が無くなった事への嬉しさは確かにあるが、それと同じくらい勝手に話を進めていた2人にバーツは顔を真っ赤にして憤慨した。
「どうすんだよ兄貴ッ!? 俺もう海羽にお別れしちまった後なんだぞッ!? どんな顔してアイツに会いに行けばいいってんだよッ!?」
自分で言うのもあれだが、あんなに盛り上がる別れ方をした後で旅立ちは無くなりました、これからもよろしくね、等と顔を合わせるのは気まずいにも程があった。
だが怒りの矛先を向けられた2人は、バーツの抗議など何処吹く風と言った顔で受け流していた。
「まぁそう言うなバーツ。お前だってあの嬢ちゃんと別れるのは辛いだろ?」
「嬢ちゃんだってバーツが残ってくれるとなれば喜んでくれるさ」
「そうかもしれないけど…………!?」
もうバーツは頭を抱えるしかなかった。そんな彼の両肩に、フランシスとエドワードの手が乗せられる。見上げれば、そこには2人のいい笑顔があった。
「バーツ、兄ちゃん達応援してるからな!」
「頑張れよ!」
「うるせぇッ!? 馬鹿兄貴共ぉッ!?」
晴天の下、港にバーツの怒声が響き渡るのだった。
***
海都を離れて早数時間。
寂しさも癒え、これからの旅路に瑠璃は思いを馳せていた。
「それで? まずは何処に行くの?」
「とりあえず、師匠に合流しようかとか考えてるんだけどなぁ。どんな冒険をするかは、まだ完全に決まってねえってのが正直なところだ」
ネイトは師匠である香苗同様、フリーの冒険家である。故に自由に動ける反面、次の行き先がなかなか決まらないという事も往々にしてあった。
次の行き先が完全に決まっていないと聞いて、瑠璃はそれならばと己の希望を口にした。
「それじゃあさ、忍者探してみない?」
「はぁ? 忍者?」
「うん。海羽ちゃんに聞いたんだ。本州で忍者を見たって。ね、ちょっと興味湧かない?」
瑠璃からの提案にネイトは顎に手を当てて考え込む。暫し黙り込み、考えが纏まったのか不敵な笑みを浮かべた。
「忍者、か……そいつは面白そうだな」
「それじゃあ?」
「行くか、忍者を探しに」
「うん!」
水平線の彼方にある本州を見据えて、瑠璃は期待に胸を膨らませた。海都でウェイトレスとディーラーをしていた時は考えられなかった楽しみ。未知との出会いへの期待と不安、そしてスリルを前に、胸のときめきが抑えられなかった。
ここから、瑠璃の本当の意味での船出は始まったのである。
そんな彼女の事を、少し離れた所から見ている者が居た。まだ若い、少年と言える年齢の男だ。
2人の会話を聞いていた少年は、徐に懐から筆を取り出した。
「……そう簡単に会えるほど、忍者ってのは安い存在じゃないんだけどね」
少年が軽く腕を振るうと、何も無い筈の空中に筆で文字が描かれる。描かれた文字は、「隠れ身」と言う文字であった。
「執筆忍法、隠れ身の術」
【忍法、隠れ身の術! 達筆!】
次の瞬間、空中に書かれた文字が少年に吸い込まれると、少年の姿が霞の様に消えてしまった。まるで最初から存在しなかったかのように姿を消した少年の存在に気付いた者は、誰も居ない。
「ッ、ん?」
瑠璃は一瞬何かの気配を感じたようだが、彼女が振り返った先には当然誰も居ない。突然彼女が振り返った事に、ネイトが首を傾げた。
「どうした、瑠璃?」
「ん~? ううん、何でもない。気の所為だったみたい」
誰も居なかったので、瑠璃は一瞬感じた気配を気の所為と流し直ぐに忘れた。
少年の言葉通り、瑠璃が忍者に会えるのはそれから長い時間を要するのだが、彼女はその事を知る由も無かった。
これにて仮面ライダーテテュス、瑠璃の物語は一旦終わりです。
ですが、薄々察している方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで完全に終わりではありません。
現在次回作との繋ぎになる特別編を執筆中です。少しお時間を頂いてから投稿しますので、少々お待ちください。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。