お待たせしました!テテュスと次回作を繋ぐ特別編をお送りします!
特別編・第1話:ベアビック、新たなディーラー
太平洋上に存在する、日本の新たな都市にして人類の新たなフロンティアの可能性を示す都市。その名は海都。人工的に作られた島の上で、人々はごく普通の生活を営んでいた。
『生まれてから死ぬまで暮らせる』がコンセプトのこの都市には商業施設は勿論、幼稚園から大学まである。更には数年で各種レジャー施設なども作られ、それらを賄えるだけの電力を作り出せる発電所も備えていた。それでも街が出来た当初は食料の多くを輸入に頼っていたが、数年で街が全体的に拡張され農業にも手を出し、今では自給自足での生活すら可能となっている。仮に南極の氷が溶け海面が大幅に上昇して陸地が無くなっても、この街は元から海に浮かんでいるので影響を受ける事無く人々は変わらぬ生活が送れるだろう。
そんな海都はある事が非常に活発だった。それはギャンブル。海都は日本で唯一カジノを作る事が許された街であり、数多くのカジノで賑わう様子は世界有数のカジノ街であるラスベガスの様であった。それ故海都は別名、日本のラスベガスと呼ばれていた。
そのカジノが有名なこの街で、街の人々に愛されている店がある。そこはカジノではなく、一件のBARであった。カジノ街から離れて賑わいからは少し遠ざかった場所に存在するそのBARは、特別大きな宣伝もしていないので外からくる者はそんな店がある事等微塵も知らない。
だが反対にこの街に住んでいる者は誰もがこの店を知っていた。この店を愛し、長くこの店に通っていた。
ではその店内を覗いてみよう。店内は多くの客で賑わい、座れる席を探すのも一苦労だった。
カウンターの向こうには壮年のマスターらしき男性がグラスを磨きつつ、時に入ってくるオーダーに料理や酒の用意に忙しそうに動き回っている。
そして客席の間を動き回っているのは
2人の店員が忙しなく客席の間を動き回り、オーダーを聞いては酒や料理を配膳している。
と、よくよく店内観察していると客の多くが店の一画に集まっていた。
店の奥の方……少し広いスペースに客が集まり、酒や手に持てる料理を持って何かを見ている。
彼らの視線の先には一つのテーブル。しかしそれは普通のテーブルではない。緑のフェルトの様な素材で覆われた部分にはマスと数字、赤と黒が描かれ、その隣には所謂ルーレットのウィールがあった。
そのテーブルはカジノにもあるルーレットテーブル。この店で異彩を放ちながら、店が街の住人から愛される理由がそこにあった。
「
ディーラー席に立つ女性が席に着いた客にそう告げる。茶色掛かった黒髪を左側のサイドポニーにした、豊満な胸をディーラー服に包んだ女性だ。
その女性の言葉に、挑戦者の3人の客が手持ちのチップを賭けていく。1人は手持ちの赤いチップを5枚ずつ、黒の6と赤の9、赤の19と黒の22、赤の21と黒の24に跨る様にそれぞれ賭けた。所謂スプリットベットと言う賭け方だ。配当は18倍なので、どれか一か所だけでも当たれば最低でも75枚の儲けになる。
別の男性は手持ちが少ないからか、配当2倍のカラーベッドの赤に手持ちの黄色いチップを全てを賭けた。チップの枚数は6枚、これが今の彼の手持ちの全てだった。
そして最後の1人、この男は大穴を狙っていた。男は手持ちの青いチップ15枚を全て赤の1に賭けた。配当36倍、最高の配当を誇るストレートアップベットと言う奴だ。これで当てればこの男は一気にチップを540枚に増やす事が出来る。
男は一縷の望みを賭けてゲームに臨むが…………
ディーラーの女性がウィールを回し、ボールを放り込む。カラカラと音を立てながらボールがウィールの内側を転がり、一つのポケットに落ちた。
そのポケットはルーレットに於いて唯一無二の0のポケット。ルーレットに於いて0のポケットに入って配当が得られるのは0に賭けたストレートアップベットか0と1、2、3の4つのマスに賭けるフォーナンバーベットのみ。今回の賭けでここに賭けた者は誰も居ないので、全員賭けたチップを失う事になった。
「あぁ~!?」
「くぅ~……」
「なッ!?」
ゲームに臨んだ3人はこの結果に頭を抱えたり言葉を失ったりと様々な反応を見せた。
それを周囲で見ていた客の反応も様々だ。
「あちゃ~、駄目だったか」
「思い切りは良かったのかもしれないけどなぁ」
「いやいや、流石にあれは大穴狙い過ぎだろう」
この店の常連に取ってみれば、このルーレットに挑戦する客の勝敗もまた格好の肴。誰が勝つのか、勝てるかどうかを楽しむのもこの店の醍醐味であった。
それは挑戦する側もそうであった。この美人ディーラーを相手に、ルーレットで勝利を収める事はこの店に通う客にとって一つのステータスとなっていた。
とは言え、今のところ彼女を相手に勝利を収めた者は1人たりとも居ないのだが。
今日も何時も通りディーラーの勝利でゲームが終わり、観戦していた客は健闘した挑戦者と勝利したディーラーに賛辞を送った。ディーラーは客から投げかけられる称賛や指笛に笑顔で手を振って応え、挑戦者達も負けはしたが向けられる賛辞に手を上げた。
「ふざけんなッ!?」
「ッ!?」
が、ただ1人、この結果に不満を露にする者が居た。大勝ちを狙い赤の1にストレートアップベットをした男性である。
このゲームが始まる際、この男性は一度酔った勢いでディーラーに絡んでいた。それに対しディーラーはゲームで大勝ちしたら好きな様にしろと条件を付けた。男はこれに乗ってゲームに臨み、そして見事に粉砕されたのである。勝てばこの美人ディーラーを好きな様にできると信じていた男は、目の前で最高の時間が遠ざかった事に憤慨せずにはいられなかった。
「お前イカサマしただろッ!?」
「ルーレットでイカサマなんて出来ませんよ? 兎に角落ち着いてください」
男がここまで怒りを露にするのは、単純に負けたからと言うだけの話ではなかった。最初の10枚はサービスで無料だったのだが、その10枚を使い切ってからは10枚追加するごとに料金を取られていたのだ。かなりまとまった額を費やしてしまい、財布が寂しい事になってしまった事も男のストレスの原因となっていた。
「いいや、絶対イカサマだ!? でなけりゃこんな負ける訳がないッ!?」
「お客様、兎に角落ち着いて……」
「五月蠅いッ!!」
酔った事もあって暴れる客をディーラーは澄ました顔で宥めようとする。それが男の怒りに拍車をかけ、感情に任せて手を出そうとした。
この騒動を周りの客は見ているだけだった。それはとばっちりで痛い目を合うのが嫌だからと言うのも無きにしも非ずだが、それとは別に理由があった。
その理由とは…………
「フンッ!」
「あだッ?!」
ディーラーに手を出そうとしていた男が、何時の間にか背後に近付いていた男性店員に取り押さえられた。ディーラーに伸ばしていた腕を背中側に捻られ、ルーレット台の上に押さえ付けられた。
「いでででででっ?! 腕ッ!? 腕折れるッ!?」
「賭けに乗ることを決めたのはそっちだろ。海羽に八つ当たりするのはお門違いだぜ」
「ん、だとぉ……!?」
「これ以上文句言う様なら警察呼ぶぞ? それが嫌ならさっさと帰んな」
「分かった!? 分かったから放せ!?」
男が降参したのを見て男性店員――バーツは手を放してやった。解放された男は素早く起き上がると、捻られていた腕を擦りつつバーツの事を一睨みして逃げるように店を出て行った。
それを見送り、バーツはディーラー席に居る海羽に目を向けた。
「大丈夫か、海羽?」
「バーツのお陰でね♪」
一通りの出来事が去ると、再び周囲から歓声が上がった。この程度の騒動日常茶飯事、常連も慣れたものでありこれもまたいい見世物となっていた。
4年ほど前、この街を襲っていたディーパーの脅威が過ぎ去った後この店の看板娘であった瑠璃はネイトと共に旅に出た。その瑠璃の代わりに看板娘として、そしてディーラーとして活躍するようになったのが海羽である。4年と言う月日の間に瑠璃に勝るとも劣らぬほどの美女に成長した海羽は、ディーラーとしての腕も磨き連日訪れて挑戦してくる客を楽しませていた。
そしてバーツだが、彼はこの店の用心棒の様な立ち位置に納まっていた。常連はともかく、一見の客の中には荒っぽい者も少なくない。特にこういう街に訪れる客の中には、海羽の美貌に良からぬことを考える輩も居た。
そんな連中に対処する為、フランシスから送られたのがバーツであった。彼と海羽は恋人同士でもあったし、2人にとっても渡りに船であった。
因みにそのフランシスだが、この街に腰を落ち着けるようになってからは『カリビアン・ダイナー』と言う飲食店を営んでいた。出される料理はどれも男料理と言った感じだが、ボリュームとスタミナの付く
料理に意外とリピーターが多い店となっていた。
本来であればバーツもその店の手伝いをするつもりだったのだが、上記の理由によりBAR・FUJINOにバイトと言う形で連日通っているのだった。
そんな感じで、瑠璃が居なくなってからもBAR・FUJINOは寂れる事無くそれどころか寧ろあの頃よりも客足は増していた。確かに瑠璃が海都を去った当初は客足が少し遠退いた。当時の常連の中には瑠璃を目的とした客も居たからだ。
それを海羽は何時瑠璃が帰ってきても良いようにと、彼女に負けない女性になろうと日々努力を重ねた。彼女のそんな直向きな姿勢に徐々に再び客も増えて行き、また彼女の努力が実を結び有言実行とばかりに今では海羽も瑠璃に引けを取らない美女へと成長した。その結果、BAR・FUJINOは海都でも一二を争う店となっていた。
この日も来てくれた多くの客を酒と料理、そして海羽がディーラーを務めるルーレットで満足させ、無事に営業を終える事が出来た。その事に海羽は達成感を覚え、心地よい疲れをシャワーで流し片付けの済んだ店内で1人アルコールの入ったグラスを傾けていた。
「ふぅ~……」
「飲みすぎんなよ?」
あれから4年が経ち、海羽もバーツも立派に成人している。だから酒を飲むことに何の問題も無いが、今の2人は大学生。明日も講義があるので、飲み過ぎて二日酔いになりました、などという事になってしまえば目も当てられない。
「大丈夫よ。そこら辺はちゃ~んと弁えてるから」
「どうだか」
余裕を感じさせる海羽の返答に、バーツは肩を竦めつつ隣に座った。そして自分の分のグラスに酒を注いで一口飲んだ。
「ふぅ……」
「ねぇ、今日は泊まれる?」
「ん? あぁ」
鉄平も公認で海羽と付き合っているバーツは、週に何回かは海羽の部屋に泊まっている。勿論カリビアン・ダイナーに帰る日もあるが、割合で言えば半々かややBAR・FUJINOの方が多い位だ。
今日はバーツが泊まれる日だと分かり、海羽は嬉しそうに目を細めるとグラスの中を空にして隣のバーツの肩に頭を乗せた。
「あ~ぁ、早く大学卒業したいな」
「またその話か?」
「だって~」
2人は一応まだ交際の段階だが、互いの将来は既に決めている。海羽としては今すぐにバーツと籍を入れたいのだが、せめて大学は卒業するまで待つ方が良いと美代子に諭されこれまで我慢してきたのだ。
海羽としては、将来的にはこの店を継いでディーラーを兼用しながら店を切り盛りするつもりだった。だから大学に向かう意義は彼女の中で薄かったのだが、流石に大学は出ておけと周りから言われ仕方なく進学したという経緯を持つ。
大学を面倒臭がる海羽にバーツはまたかと溜め息を吐くと、グラスの中身を一気に飲み干しそのままの勢いで海羽の唇を奪った。
「んむっ! ん……ふ……」
突然のキスに海羽は一瞬目を見開くが、直ぐに目を酩酊したように蕩けさせ身を彼に委ねた。
海羽との深いキスを堪能したバーツは、頃合いを見計らって唇をゆっくり離した。2人の間に透明な橋が架かり、途中でプツリと途切れる。
「今は、これで我慢しろ。たっぷり付き合うから、な?」
「うん」
4年前は考えられないほど海羽は艶やかな笑みを浮かべその身をバーツに委ねた。バーツはそんな海羽の肩を優しく抱き、改めて自分は彼女に入れ込んでいる事を自覚するのだった。
***
夜も更けた海都に、一隻の船が近付いていた。タンカークラスの大型船だが、その船は海都に資源を運ぶタンカーではない。そもそも今の海都に資源の輸送は必要ない。
その船の正体は旧傘木社残党の一部が拠点としている海上研究所の一つだった。会社崩壊から逃れた残党の多くは秘密の研究所や偽装した企業などに身を隠したが、こうして移動可能な研究施設で逃げ回っている連中も居た。
この船に乗っているのも、そうした逃げ回っている連中の一つだった。
その船のブリッジに、一際異彩を放つ人物がいる。軍服の様な制服に身を包んだ、船長の席に座った人物だ。一目で分かるくらい偉そうな雰囲気を纏ったその人物に、海図を見ていた測量士が報告する。
「船長、海都までもう間も無くです」
「よし……準備は問題無いか?」
測量士からの報告に頷いた船長と呼ばれた人物は、隣に立つ白衣を着た男性に声を掛けた。
「順次滞りなく、ペレズ船長」
「培養の方は?」
「それに関してはこちらを」
白衣の男に促され、ペレズ船長はブリッジを離れた。向かった先にあるのはこの船に備え付けられた研究区画。この船の大部分を占めるその海上研究所と言うに相応しい区画の、最奥にある培養室であった。
内部は余計な刺激が培養しているモノへの刺激とならないよう、照明も可能な限り最低限に抑えられており光源となるのはパソコンやコンソールを照らす小さな照明と室内に数多く並んだ培養シリンダーだった。特に培養シリンダーは、内部の溶液が光を屈折させ波長を変えているのか、薄っすらと黄色に光っている。お陰で培養室内部は何処かおどろおどろしい雰囲気を放っていた。
まぁその雰囲気は決して気の所為ではないだろう。何せここで行われているのは、倫理を無視した生命への冒涜と言えるような実験の数々なのだから。
その部屋に入ったペレズ船長は、目の前に並んだシリンダーの内部に浮かんでいる
「よし……コントロールの方は問題ないんだな?」
「それは問題ありません。ドクター・深井から送られてきたデータに加え、手に入れた情報からこいつらが我々の指示に従う事はまず間違いないかと」
そう話し合う2人の前に並んだシリンダーの中に浮いているのは、多数のディーパーであった。彼らはここでディーパーの独自培養を行っていたのである。
「深井博士、詰めは甘い女だが腕は確かだ。彼女が送ってくれたデータを基に、こうしてディーパーの培養まで漕ぎ着ける事が出来た。時間は掛かったが、それに見合う成果はあるだろう」
「以前であればラハブと言う遺伝子的上位存在が最大の懸念材料でしたが、仮面ライダーに排除された事でその心配も杞憂となりました。コイツ等は、正真正銘我々の命令しか聞きません」
隣に立つ研究員の言葉にペレズ船長は頷いた。
この船で培養されているのはディーパーだけではなかった。恭子の遺した研究資料から、ヌーベルファッジの水陸両用仕様であるヌーベルファッジ・パドルも多数培養されていた。こちらは姿形が様々なディーパーに比べ、能力的な安定感が期待されている。
そして…………
「あとは……船長、こちらを」
「ほぉ……これか」
培養室の中で多数並んだシリンダーから少し離れた所に、一本のシリンダーがある。繋がれた計器の数も他のシリンダーの倍以上で、このシリンダーで培養されているモノだけ他とは明らかに扱いが異なっていた。
その培養シリンダーの中に浮かんだ”それ”を、ペレズ船長は過去の偉人が遺した芸術品を見るような目で見ていた。
「美しいな……」
「調査に向かった者が唯一回収できた破片から再生させました。あとは目覚めの時を待つだけです」
「文句の付けようがない程美しいが……大丈夫なんだろうな? こいつの所為であの怪物共が制御不能になるなんて事になったら目も当てられんぞ?」
「そこは大丈夫でしょう。再生の過程で体内に緊急時の爆薬を仕込んであります。もし暴走するようなことがあれば、スイッチ一つで停止させることが可能です。それに、目覚めたら即座に記憶消去処置を行います。間違ってもこの”姫君”がコイツ等を支配するなどと言う事態にはならないかと」
研究員とペレズが話し合う中、シリンダーの中に浮かぶ”姫君”は培養液の中でゆらゆらと揺れていた。海の様に青い髪を浮かべ、芸術作品と言っても過言ではない肢体の下半身を巨大な魚の鰭で包んでいる。
その女性……彼らが回収したブラックライフコインから再生させた8号=ディープラビニは、培養液の中で薄っすらと目を開けシリンダーの外の世界を少しだけ眺め、再び眠る様に目を瞑るのだった。
***
翌日、海羽とバーツは揃って海都の大学へと足を運んでいた。
海都の大学、正式名称を海都総合大学は、海都から若者が広い世界に旅立てるようにと様々な学部を備え、幅広く多くの事を学べた。
特色としては、海都と言う土地に合わせたのだろうカジノのディーラーになれる資格や技能を学ぶ講義が設けられている事だ。
海羽も当然この講義は受けており、2年と言う短い間とは言え凄腕のディーラーを間近に見てきたからかディーラー関連の講義に関しては成績上位をキープしていた。
そんな彼女が大学に入れば、当然学友達からは声を掛けられた。
「海羽、おはよ!」
「おはよー、知佳!」
「海羽ったらまた彼氏同伴? 羨ましいわねぇ~」
「も~、そう言うの止めてよ」
海羽に声を掛けてくるのはその多くが高校時代からの付き合いのある学友達だ。海都の学校は基本エスカレーター式であり、学年が上がれば自動的に大学に編入される。
ただし決して楽なだけではなく、学生は高校から大学に上がる際に試験を受ける。そしてその試験如何で、学べる内容の自由度やレベルが大きく異なっていた。単純に言えば、成績の悪い学生は最低限社会に出れる程度の基本的な事ばかりで専門的な内容に関しては広く学ぶ事が難しいシステムが組まれているのだ。
勿論そこで燻るだけで終わる様な無慈悲な事は無く、仮に編入試験で最低の結果を残したとしてもその後の試験で好成績を残せば学べる幅は広くなるようになっていた。
因みにバーツは元がアウトローであった為、高校時代から成績は悪い方だったのだが海羽について行く為大学編入後に苦労しながらも猛勉強をし、何とか彼女について行くことが出来る程度には学力を身に付けていた。
閑話休題。
「よっ、バーツ! 今日もお熱いな!」
「おぅ」
そんなバーツにも声を掛けてくる学生は多い。高校に途中編入する事で海都の学校に通うようになった彼は、最初の内こそアウトローの雰囲気を纏っていたので敬遠されがちであった。加えて海羽と恋仲になっているという情報が広がるまでそう時間は掛からなかったので、それもあって変なやっかみを受けたりして他の所謂不良から目を付けられる事も少なくは無かった。
しかし海羽が常に彼に寄り添っていた事と、乱暴かもしれないが仁義を重んじる彼の性根が少しずつ周りに認知されていったことで徐々に友と呼べる者も増えていった。
今では同級生達に周知されたカップルとして、時に冷やかしを受けつつ充実した学生生活を送っていた。
だが……その平和も長くは続かなかった。
「ッ!? あん?」
「バーツ?」
突然バーツが明後日の方を睨むようにして眺めた。彼の雰囲気の変化を敏感に感じ取った海羽は、同じ方向を不安そうな目で見る。
2人が揃って明後日の方を見始めたことに、学友達は何があったのかと不思議そうな顔でその視線を追った。
するとその先で、突如爆発が起こり黒煙が上がった。それも一度だけではなく複数回。明らかな異常事態に、周囲の学生達が騒ぎ始めた。
「え!? 何、事故?」
「まさか、また4年前の怪物がッ!?」
「バーツ……」
周囲の学生達が騒ぐ中、海羽とバーツの2人は大きく狼狽えるような姿は見せなかった。だが不安が無い訳ではないので、海羽は咄嗟にバーツの腕に抱き着いた。それに対しバーツも、彼女を安心させるようにそっと抱きしめる。
「あぁ……」
海羽を抱きしめながらバーツは立ち上る黒煙を睨み付ける。彼が爆発するよりも先にその場所を見たのは、決して偶然ではない。彼は持ち前の動物的勘でそれが起こる事を悟ったのだ。
そして彼の勘はまだ告げている。
それは間も無く現実となる。
「海羽、店に連絡しとけ」
「うん!」
何はともあれ、店で今日の営業の準備をしているだろう鉄平と美代子の安全を確保しなければならない。あれがただの事故であるならともかく、そうでなかった場合2人の身に危険が迫る。
2人にはカリビアン・ダイナーに行ってもらおう。あそこなら店に居るより安全だ。そう思って海羽がスマホを取り出した、その時である。
近くのマンホールが弾かれるように吹き飛び、そこからヌーベルファッジ・パドルが飛び出してきた。
「キシャァァァァァッ!」
「あッ!?」
ヌーベルファッジ・パドルは近くに居た知佳に襲い掛かろうとした。だがマンホールが吹き飛んだ時点で何かが出てくることを察したバーツは、素早く近付くと飛び出したヌーベルファッジ・パドルを蹴り飛ばした。
「らぁっ!」
バーツに蹴り飛ばされ、地面に落下したヌーベルファッジ・パドル。突然出現した怪物により、爆発で高まっていた恐怖と緊張が爆発し周囲の学生達がパニックになる。
「わぁぁぁぁぁっ!?」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
「皆、急いで逃げてッ!?」
慌てふためき右往左往する学生達に海羽が必死に声を掛ける。今は兎に角避難を促すのだ。
そうこうしている間にもマンホールからは次々ヌーベルファッジ・パドルが出てくる。次々と姿を現すヌーベルファッジ・パドルに、バーツは舌打ちしベクターリーダーを取り出した。
「チッ、またコイツを使う事になるとはな」
〈MEGALODON leading〉
周囲に逃げ惑っている学生達が居る中で、バーツは4年ぶりに握るベクターリーダーのグリップを握り締めつつメガロドンベクターカートリッジを装填。実に4年ぶりの戦いに身を投じた。
「進生ッ!」
〈Transcription〉
という訳で特別編の第1話でした。
海羽は立派に育ち、瑠璃に負けない美人へと変貌を遂げました。目標が瑠璃だったため、海羽の頑張りは凄まじいものだったでしょう。
特別編は全4話を予定しています。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。