仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第6話:フェイスアップ、新たなる来訪者

 BAR・FUJINOの開店時間は夕方になってからなので、日中は店の掃除や客に出す料理の仕込みに費やされる。メインは酒の店だが、料理は酒を引き立てるのに大事な要素だ。故に鉄平は毎日料理の仕込みに力を入れている。

 瑠璃はその間、店の掃除と片付けに専念していた。

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 鼻歌を歌いながら、店の床にモップを掛ける瑠璃。因みに海羽は学校だ。先日の一件が大分落ち着いてきたので、休校状態も終わり学校に行っている。海羽はバイト感覚で店を手伝うので、彼女が店に顔を出すのは学校から帰ってきて宿題などが終わってからだ。

 

 店内の床のモップ掛けがあらかた終わり、瑠璃が一息ついた時店の奥から鉄平が顔を出した。

 

「お~ぅ、瑠璃。スマンがちょっと買い出しに行ってきてくれないか? ちょっと今手が離せなくてな」

「は~い!」

 

 瑠璃は鉄平から必要な物のメモを受け取ると、モップを手早く片付け店を出てバイクで商業区画へと向かった。

 海都は京都の様に最初から街をきっちり区画分けされており、居住・学業・商業がはっきりしている。そこに更にカジノ街とオフィス街があり、これらが海都と言う街を支えていた。

 

 見慣れた街の中を瑠璃がバイクで走り抜ける。

 ここ最近は半魚人――瑠璃は名前を知らないがディーパー――により色々と騒がしいが、何事もなければ平和なものだ。

 

 街を行き交う人々を眺めながら、瑠璃は目的のスーパーに辿り着いた。このスーパーは一般人向けから業務用まで、色々と取り扱っているので鉄平の店も良く利用している。

 

 駐車スペースに愛車のバイクを停め、店に入り目的の物を手早く買っていく。鉄平からのお使いは主に調味料であり、他の物は頼まれていない。だからお使い自体は直ぐに終わった。

 

「あ・と・は~♪」

 

 お使い自体は終わりだが、それだけで終わらせはしない。折角の買い出しなのだから、ついでに欲しい物を買っていくのは買い出しに向かった者の特権である。

 瑠璃は意気揚々と酒類が置かれているコーナーへと向かう。街がカジノを一番の売りにしているからか、酒類が特に充実している。棚に多種多様な酒が並んでいる光景は、見ているだけでテンションが上がった。

 

「ん~、これとこれ。あ、ワインか~」

 

 酒を選び、手に取ると籠に放り込む。瑠璃は基本酒であればなんだってイケる口なので、日本酒やワインから焼酎やウィスキーなども飲める。今回選んだのはウィスキーとワインだった。

 

 後忘れてはいけないのは摘まみだ。酒だけでは味気ない。

 飲めるのは店が終わった後なので、食材のあまりで適当に作っても良いのだが、手を加えずに食べられる簡単な物もそれはそれで悪くないものだ。

 

 酒類コーナーに一緒に置かれている摘まみコーナーから、瑠璃はチーズやナッツを適当に手に取り籠に入れるとそれをレジに持っていき会計を済ませる。

 

 目的の物を買い終えた瑠璃はスーパーを出て、愛車の荷物を入れるスペースに買ったものを入れヘルメットを手に取り被ろうとした。

 

 そこで彼女に声を掛ける者が居た。

 

「よぉ、瑠璃」

「ん?」

 

 反射的に声がした方に振り返った瑠璃は、相手の顔を見た瞬間渋面を作った。

 

「げぇ……」

「おいおい、人の顔を見るなりそんな顔するなよ」

 

 そこに居たのは強面の大柄な男だった。男は口元に下品な笑みを浮かべながら瑠璃の体を上から下まで舐めるように眺めている。

 その視線に瑠璃は虫唾が走るのを感じ身を軽く捩る。さっさとこの場を離れようとヘルメットを被りバイクに跨る瑠璃だったが、男は瑠璃に肩を掴んで自分の方を向かせた。

 

「おいおい、待てよ」

「何か? 言っておくけど私、忙しいんです。こんなところで道草食ってる暇ないんですよ、(さかずき)さん」

 

 基本誰に対してもフレンドリーに接する瑠璃にしては珍しい、硬い他人行儀な物言いをする相手の名は盃 弦二(げんじ)。カジノ街で上位を争うカジノ店のオーナーだ。

 ただ外から来た人は別として、街の住民からの評価は良くはない。と言うのも彼の店は悪い噂が多いのだ。

 

 例えばイカサマをして客を負けさせて破産させたり、そうして身を破滅させた客を奴隷の様に扱ったりである。噂では、破産した女性客で売春宿を経営しているなどとも言われていた。勿論真偽の程は定かではない。

 

 だがそんな噂が無くても、瑠璃は彼の事が嫌いだった。会う度に厭らしい視線を向けるだけでなく、事ある毎に自分の店に瑠璃を勧誘するのだ。正直うんざりである。

 

「そんな事言うなって。それよりどうだ? そろそろ俺の店に来る気になったか?」

「私の反応を見てまだそんな事を言える、あなたの神経の図太さにだけは感心してあげるわ。何度も言ってるでしょ? 私はあの店から離れるつもりはないって」

「そう言うなよ。うちの店に来れば、今よりずっといい給料出すぜ? お前にはそれだけの価値がある」

 

 しつこく食い下がる弦二だったが、瑠璃も負けてはいない。頑なに首を縦に振る事はなく、100円玉を掴むとそれを親指で弾き弦二の眉間にぶつけた。

 

「うわっ!?」

 

 痛みはないが、突然眉間に異物がぶつかり弦二は思わず目を瞑り顔に手を当てる。

 

 肩から手が離れた瞬間、瑠璃はアクセルを全開にし走り去った。

 弦二は即座に瑠璃を追いかけようとしたが、流石に走るバイクに追いつくことは出来ずまんまと逃げられてしまった。

 

「くそぉ、瑠璃め――――!?」

 

 走り去っていく瑠璃の後ろ姿を弦二は恨めしそうに睨む。暫く瑠璃が去っていった方を睨み付けていた弦二だが、彼女の姿が見えなくなると悔しそうに地団太を踏み自分の店へと戻っていった。

 

「今に見てろよ。絶対にお前を俺の物にしてやるからな――!」

 

 弦二のつぶやきは当然瑠璃の耳に入る事はなかったが、彼がそう口にした瞬間瑠璃は悪寒の様な物を感じ身を震わせていた。

 

 

 

 

 元来た道を戻り、店の前に戻った瑠璃は荷物を取り出し店に入ろうとする。

 その瞬間、またしても彼女は声を掛けられた。

 

「見つけたぞ!」

「んん? あ……」

 

 今度はバーツだった。バーツは瑠璃の姿を見つけるなり、ベクターリーダーを取り出しながら彼女に近付いていった。

 今にも噛み付かんばかりの勢いで近付いてきたバーツに、瑠璃は先程とは違う意味で顔を顰めた。

 

「今日は店も開いてない内から千客万来ね」

「何訳分らねえこと言ってやがる。そんな事より、羅針盤さっさと返しやがれ! そいつは俺達のお宝だ! 返さねえって言うなら――」

「ちょっと待った」

 

 迫るバーツに対し、瑠璃は手でT字を作る。思いがけない彼女の行動に、意表を突かれたバーツは思わず足を止めてしまった。

 

「っととと、何だよ?」

「色々と話し合いたいのは山々だけど、まずはこの荷物片付けさせて」

 

 荷物を掲げる瑠璃に、バーツは荷物と彼女の顔を交互に見比べ鼻を鳴らした。

 

「まぁ、それくらいなら……ただし逃げられないように、店には入らせてもらうぞ」

「仕方ないわね」

 

 瑠璃は肩を竦めつつ、バーツを連れてみせに入る。

 戻ってきた瑠璃を、鉄平が笑顔で出迎えた。

 

「おぉ、お帰り瑠璃……って、そっちの子は?」

 

 出迎えた鉄平だったが、瑠璃の後ろに続いて入って来たバーツには怪訝な顔をする。まだ開店時間ではないのだ。しかも見た目海羽と同年代の男の子。BARに入るには早すぎる年齢だ。

 不審に思わない方がどうかしている。

 

 鉄平が訊ねると、瑠璃は一度バーツの事を見て適当な話をでっちあげた。

 

「前に会ったお友達。久し振りに会えたから、ちょっとお話ししようってなって」

「ふ~ん……」

 

 まだどこか警戒した様子の鉄平ではあったが、溜め息を一つ吐くと瑠璃の手から荷物を受け取り引っ込んでいった。

 

「まぁ、瑠璃の交友関係に口出しする気はないけど……って、何だこの酒は!?」

「買い出しに行った者の特権よ、おかしな事ある?」

「ん~、まぁ、良いけどな」

 

 今まで瑠璃が酒に呑まれて前後不覚になったりした事はないので、大丈夫だとはわかってはいる。だからそれ以上は何も言うことなく、鉄平は瑠璃が買ってきた荷物を手早く片付け仕込みの続きに戻った。

 

 それを見届け、瑠璃はバーツを店の隅に案内しようとした。

 

「さ、こっちで話しましょ」

「その必要はねえ。表出ろ」

 

 手招きしながら店の外に向かうバーツに、瑠璃は溜め息と共に肩を竦めた。出来れば平和的に話し合いで解決したかったが、どうやらそうもいかないらしい。このまま店の中に居てくれるなら、茶でも出して落ち着かせられるのだが残念だ。

 

 バーツの後に続いて瑠璃が表に出ると、待ち受けていたバーツが瑠璃を壁に押さえつけた。

 

「うっ!?」

「騒ぐな」

 

 押さえつけられた際の痛みで顔を顰める瑠璃だったが、バーツは構わず彼女の豊満な胸にベクターリーダーの銃口を突き付けた。

 

「さぁ、お宝を返してもらおうか?」

 

 有無を言わせぬバーツに、しかし瑠璃は怖気付くことはなかった。ここ数日で命の危機にも少しだが慣れたのか、変に心が落ち着いていたのだ。銃口を突き付けられても、彼女自身驚くほど心が乱れない。

 

 寧ろ驚いたのはバーツの方だ。壁に押さえつけて銃口を突き付けているというのに、全く動揺を見せない瑠璃に彼は優位に立てた気になれず息を飲む。

 

「お前……」

「ねぇ、一つ良い?」

 

 壁に押さえつけられ銃口を突き付けられている状況の中、瑠璃はバーツに交渉を持ちかけた。

 

「私達さ、手を取り合えないかしら?」

「は?」

「私はただ、自分の過去が知りたいだけなの」

「過去って、お前記憶ないのか?」

「そ。2年以上前の記憶が無くてね。自分の本当の名前も知らないのよ。なのにこれの事は昔からずっと知ってるような気がするの」

 

 取り出したリールドライバーを瑠璃が眺める。瑠璃がリールドライバーを取り出したのを見てバーツは咄嗟に奪い取ろうとしたが、それは読まれていたのか瑠璃はさっとリールドライバーを彼から遠ざけつつ押さえつけていた手が離れたのを見て壁を離れ距離を取った。

 

 すかさずベクターリーダーの銃口を向けるバーツに対し、瑠璃は空いてる方の手を前に出して待ったの姿勢を取る。銃口を向けられて尚その堂々とした姿に、バーツも気圧され思わず銃口を逸らしてしまう。

 

「だからさ……ね? 私が記憶を取り戻すまで、待っててもらえないかしら? 記憶が戻れば、これはあなた達に返すわ。約束する、だから――」

 

 努めて真摯に自分の要求を告げつつ、返却を約束する瑠璃。バーツはそんな彼女に対し大きく溜め息を吐き、銃口を下ろして歩み寄る。

 

 話が通じたかと瑠璃が肩から力を抜き、顔に笑みを浮かべた。

 だが次の瞬間、笑みを浮かべた顔はバーツの手により引っ叩かれた。肌を叩く乾いた音が響き渡る。

 

「あぅっ!?」

 

 まさか引っ叩かれるとは思っていなかったのか、瑠璃は引っ叩かれた勢いそのままに倒れ込んだ。

 

「ふざけるなよ。何勝手に話進めてんだ? お前こっちの事情少しは考えてんのか?」

「あ、え?」

「こちとらな、何時までも同じ場所に留まる訳にはいかねえんだよ。今の仕事終わればまた次の仕事の為に街を離れなきゃならねえ。その間にお前が俺達の目が無いからってお宝を持ち逃げしないなんて言いきれるか?」

「私そんな事しないわ!」

「信用できるか! この間会ったばかりだぞ、どうして信じられる?」

「それは……」

 

 確かに彼の言う通り、お互いの名前すら知らない状況で、信じろと言って信じてもらうのは虫の良すぎる話だ。瑠璃としては誠心誠意頼み込んだつもりだが、そもそも信頼関係が無い上に一度は敵対した事で彼との間には溝が出来ていた。この溝を埋める前に信じてくれと言っても、戯言にしか聞こえないだろう。

 

 言葉に窮する瑠璃を見下し、バーツはベクターカートリッジを取り出しベクターリーダーに装填した。

 

〈MEGALODON, Leading〉

「最後の警告だ。お宝を返せ」

〈Transcription〉

 

 バーツはコバルトウェーブに変身すると、ホルスター剣を彼女の首筋に突きつけた。

 

「それが嫌だって言うんなら…………」

 

 剣の切っ先で瑠璃の顎を上げさせる。この状況では変身もできない。

 

 絶体絶命の状況、瑠璃は冷や汗を流しながらコバルトウェーブを見ていた。

 

「おい、何をしている!」

「あ?」

 

 そこに第3者の声が響いた。邪魔をされたとコバルトウェーブが苛立ちながらそちらを見ると、制服姿の慎司がコバルトウェーブに拳銃を向けていた。

 

「お前のその装備、まさか傘木社の残党か! こんなところで何をしている!」

 

 コバルトウェーブの装備は慎司にとっても見慣れたものだ。故に彼はコバルトウェーブを傘木社の残党か何かと警戒を露わにした。

 

 自分に拳銃を向けてくる慎司に、コバルトウェーブはあちらを先に何とかした方が良いかと瑠璃の首から切っ先を下げそちらに向かう。

 切っ先が無くなった事で瑠璃は安堵の溜め息を吐きながら立ち上がりその場から下がった。

 

「答えろ! ここで何をしている!」

「答える必要はねえな。っつか、傘木社なんて知らねえし」

「何? ならお前は――」

「だが邪魔するってんなら、容赦はしねえ!」

 

 コバルトウェーブは出し抜けに慎司に斬りかかった。拳銃でそれを迎え撃つ慎司だったが、拳銃弾程度では牽制にもならない。お構いなしに剣を振り下ろしてきたコバルトウェーブに、慎司は飛び退って距離を取りながらスコープドライバーを取り出した。

 

 目の前で争いだした2人に、瑠璃はどうすべきかと悩んだ。騒動の中心にいるのは自分なのだから、ここは自分が何とかすべきなのだが、しかし今いきなり変身するのは状況をさらに混乱させるような気がしなくもない。

 

 悩んでいると、慎司と一緒にここに来ていた茜が瑠璃の手を掴んでその場から離れさせた。

 

「え、あ、ちょ――」

「さ、ここは危ないですからこっち!」

「北村さん、彼女は任せます!」

〈Access〉

「変身!」

〈In focus〉

 

 慎司が銅色の仮面ライダースコープに変身し、ボルテックスブレードを展開し構える。対するコバルトウェーブも、ベクターリーダーの銃口を向けながらホルスター剣を構える。

 

「さ、こっちです」

「は、はい……」

 

「――邪魔だ!」

「行かせはしない!」

 

 ぶつかり合うスコープとコバルトウェーブを背後に、瑠璃は茜に引っ張られるようにしてその場から離れて行った。瑠璃本人としては自分の問題なので彼らに押し付ける様で心苦しかったが、ここで下手に自分が仮面ライダーである事を明かすと何だかややこしい事になりそうだったのでここはやり過ごす事にした。

 

(とは言え、この人達には話しておいた方が良いよね?)

 

 どうせ何時かはバレる事だ。それに今後の事を考えれば、彼らの理解は得ておいた方が良いかもしれない。組織としてはともかく、慎司らの人柄は信用しても良いだろう。

 

「あの――――」

 

 意を決して自分が仮面ライダーである事を茜に明かそうとする瑠璃だったが、それよりも早くに何処からか悲鳴が上がった。絹を裂くような女性の悲鳴だ。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「ッ!?」」

 

「! こっちよ!」

「え、ちょっ!?」

 

 瑠璃は咄嗟にリールドライバーに目を向けると、それが悲鳴の聞こえてきた方を指しているのを確認した。という事は、悲鳴の主はディーパーに襲われているという事だ。

 

 一も二もなく瑠璃は悲鳴の聞こえてきた方に向け走り出す。悲鳴から緊急事態を察していた茜は、瑠璃が走り出したことで慌ててその後を追った。

 

 現場に辿り着くと、そこには今にも女性に襲い掛かろうとしているディーパーの姿があった。牙を剥き出しにし、女性に食らいつこうとしている。

 

「くっ!」

 

 それを見た茜は咄嗟に拳銃を取り出し、ディーパーに向け引き金を引いた。二発発砲しどちらも命中はしたが、表皮を僅かに傷付けるだけで大したダメージにはなっていない。

 ダメージはないが、それでも意識をこちらに持ってくることは出来た。ディーパーはゆっくりと茜の方を剥き、彼女に向け敵意を向け始めた。

 

「あなたは逃げてください。できれば警察署に向かって、S.B.C.T.に応援を要請をお願いします」

 

 言うが早いか、茜は瑠璃からも距離を取りながら発砲してディーパーの注意を引く。茜が注意を引いてくれている間に、襲われそうになっていた女性は逃げる事に成功していた。

 

 瑠璃はここで決断を迫られる。茜の言う通りこの場を離れ、S.B.C.T.に後を任せるか。それとも離れたフリをして変身して戦うか。

 それとも……今すぐ変身して戦うか。

 

 僅かな間悩む瑠璃だったが、茜の攻撃はディーパーに全く効果が無い。このままでは遠からず追い詰められ、最悪命を落とすだろう。

 

 それならば…………

 

「よし……この!」

 

 茜の銃が弾切れを起こし銃撃が止んだ瞬間、ディーパーが襲い掛かろうとする。その瞬間を狙って、瑠璃はディーパーに飛び蹴りを放った。

 

 蹴り飛ばされ倒れるディーパー。銃に弾を込めようとしていた茜は、突然の瑠璃の行動に目を見開いた。

 

「ちょっ!? 何してるんですか!? 逃げてって言ったじゃないですか!?」

 

 茜にとって、瑠璃の行動は蛮勇以外の何物でもなかった。武器も持たない一般人が怪人に身一つで挑むなど、無謀にもほどがある。

 

 だが瑠璃は茜からの警告を聞かず、リールドライバーを取り出し腰に装着した。その見慣れた動作に、茜は先程とは別の意味で目を見開く。

 

「それは――!?」

「ここで逃げたら、勝負師失格なんで」

 

 瑠璃はライフコインを取り出し、右手の親指で弾き左手でキャッチした。その間にディーパーは体勢を立て直し立ち上がる。

 

「グルルルル……」

 

Place your bets please(賭け金を置いてください).」

 

 立ち上がったディーパーを前に、瑠璃はライフコインをベルトのスロットに挿入する。

 

〈Bet your life〉

 

 ベルトから音声が響くと、それを合図にしたかのようにディーパーが瑠璃に飛び掛かる。だがディーパーが襲い掛かる前に瑠璃がベルト右側のレバーを下ろすと、ベルトから飛び出す様に出現したルーレットがディーパーを弾き飛ばした。

 

 ルーレットはディーパーを弾き飛ばし、回転するとボールが転がる。瑠璃は転がるボールを見て、ルーレットを指差し宣言した。

 

「変身!」

〈Fever!〉

 

 掛け声と同時にボールが0のポケットに入り、瑠璃を仮面ライダーテテュスに変身させた。

 

 姿を現したテテュスに、茜は言葉を失った。

 

「あ、あなたが……仮面ライダー……」

 

「チップ一枚で、大逆転よ!」

 

 驚く茜を他所に、瑠璃は構えを取りディーパーに飛び蹴りを放った。体を捻りながらの飛び蹴りを喰らい、ディーパーは壁に叩き付けられる。

 

「グルルルルッ!」

 

 だがディーパーはまるで攻撃が大して効いていないかのようにすぐさまテテュスに襲い掛かる。牙の生えた口を開き食らいつこうとしてきたので、テテュスはそれをバク転で回避しやり過ごそうとした。

 

 しかし次の瞬間、ディーパーは大きく開いた口から小さな口を飛び出させた。予想外の攻撃にテテュスは一瞬判断が遅れ、左肩を喰らいつかれてしまう。

 

「うあっ!?」

 

 ディーパーの攻撃はそれだけに留まらず、口から飛び出した顎がテテュスの左肩に食らいついたまま引っ込み引きずり込んだ。結果、テテュスはディーパーの大きな顎に食らいつかれてしまった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!…………ぐぅぅっ?!」

 

 このディーパー、よく見れば顔がウツボに似ている。ウツボは海水を吸い込んで獲物を飲み込むことが出来ないので、代わりに口の中に第2の顎を持ちそれで獲物を飲み込む。この攻撃はその第2の顎によるものだった。

 

 左肩を喰らいつかれ、振り回され叩き付けられるテテュス。まだ戦いに慣れているとは言えない彼女に、この攻撃は辛く叩き付けられる度に悲鳴を上げた。

 

「うあっ!? ぐ、あぁぁっ!? くぅっ!」

 

 肩を噛み砕かれそうになりながらも、テテュスは何とかチップを2枚ベットしレバーを下ろす事に成功した。

 

〈Good Luck〉

 

 レバーを下ろした瞬間、ベルトから飛び出したルーレットがウツボのディーパー・モーライディーパーを弾き飛ばす。テテュスは左肩から血を流しながら、ボールの入るポケットを予想した。

 

「赤の……13!」

〈BINGO! Efficacy activation! Healing.〉

 

 ボールの入るポケットを的中させ、恩恵を受ける事に成功するテテュス。癒しのシャワーを浴び、左肩の傷が癒え自由に動かせるようになる。

 

「ふぅ~……」

――奴らは見た目で攻撃を予想出来るわ。他はともかく、魚に関する知識はあるでしょ?――

「……馬鹿にしないでよね」

 

 唐突に脳裏に響く声に、僅かながら言い返し再び攻撃を行う。

 

 ウツボはウナギの様にうねり、獲物に食らいつく動きは素早い。だがそれ以外にはこれと言った武器はなく、毒針もなければ体色を変えて擬態する事もない。

 第2の顎による攻撃にさえ気をつけておけば、こいつはそこまで恐れる様な相手ではなかった。

 

「行くわよ!」

 

 蹴り技を主体に、モーライディーパーを攻め立てる。ディーパーも牙や爪で反撃してくるが、テテュスは流れる水の様に体をしなやかに動かし回避していく。時折第2の顎が飛んでくるが、その攻撃は既に警戒されている為最早当たらない。

 

 それどころか、タイミングを見計らったテテュスは第2の顎が飛び出した瞬間ディーパーの顎を蹴り上げて、ディーパー自身に第2の顎を食い千切らせた。自分で自分の最大の武器を食い千切ってしまい、モーラーディーパーは口から血を流しながら叫び声をあげる。

 

「ギアァァァァァァッ!?」

「ここが賭け時!」

 

 大きく隙を晒すディーパーを前に、テテュスは右腰のケースを外しベルトに装着した。

 

〈All in!〉

 

 レバーを下ろすとベルトからルーレットが飛び出し回り始める。それと同時に足元にルーレットテーブルが現れた。

 

 危険を察したモーライディーパーは急いでその場から離れようとした。だがそれは許されない。今この場はテテュスによるゲームの場と化したのだ。そのゲームから、勝手に降りる事は許されない。

 

「黒の22、オールイン!」

 

 ディーパーの逃げる先とルーレットの回転からボールの入るポケットを予想し、それが合致するマスを見抜き宣言する。そのマスにディーパーが足を踏み入れた瞬間、真上からエネルギーのチップが大量に降ってきてますに入ったディーパーを閉じ込めた。

 閉じ込められたディーパーは拳を叩き付けて逃れようとするが、エネルギーのチップはディーパーを逃がさない。

 

 そしてルーレットが止まり、ボールがポケットに入った。入ったマスは、彼女の宣言通り黒の22。

 

〈Fiver!〉

「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 動けないディーパーに向け、テテュスが必殺技のジャックポットフィニッシュを放つ。テテュスの飛び蹴りが炸裂した瞬間、内包されていたエネルギーが解放され爆発を起こしモーライディーパーを粉砕した。

 

「ガァァァァァァァッ!?」

 

 モーライディーパーは断末魔の叫びを上げ爆散し、周囲にドロップチップをまき散らした。

 

 爆発の影響で燻る炎の中、敵を倒し終えたテテュスは暫し佇み、茜の方を見て変身を解除した。

 

〈Drop out〉

 

 変身を解除し元の姿に戻った瑠璃を、茜は呆然と見ながら口を開いた。

 

「そ、そうだったんですか。あなたが、この街の……」

「えっと……はい」

 

 驚きながらも、徐々に茜の顔には笑みが広がっていく。それは安堵と期待が混ざり合った笑みだった。

 その笑みを向けられて瑠璃はなんだか気恥ずかしくなり、恐縮しながらも頷き返す。

 

 瑠璃が仮面ライダーの正体を明かしたその様子を、遠くから鎧を身に纏った8号が見ていた。ビルの屋上から、赤く光るカメラアイがジッと瑠璃の事を見ている。

 

「…………ふん」

 

 暫し瑠璃の様子を眺めていた8号だが、不意に面白くなさそうに鼻を鳴らしその場を離れた。

 

 その道中、ついでに8号はBAR・FUJINOの見えるビルの上に降り立った。FUJINOの前では、スコープとコバルトウェーブが激しい戦闘を行っている最中だった。

 

「はぁっ!」

「おらぁっ!」

 

 ボルテックスブレードとホルスター剣がぶつかり合い火花を散らす。コバルトウェーブは斬撃が受け止められた瞬間、ベクターリーダーの銃口を向け引き金を引こうとしたがスコープはそれに気付くと空いてる方の手で銃口を逸らした。

 直後に引き金が引かれ、放たれた銃弾は地面に穴を穿つに留まった。

 

「やるじゃねえか! お前、名前は?」

「S.B.C.T.αチーム隊長、小早川 慎司」

「慎司か。俺はバーソロミュー・ロバーツってんだ。バーツって呼んでくんな」

 

 こんな時だと言うのに、コバルトウェーブは自らの名を名乗りまたスコープに変身する慎司の名を訊ねた。

 何とも前時代的なやり取りだが、コバルトウェーブは勿論問われた側のスコープもどこか清々しい物を感じずにはいられない。

 

 その時、BAR・FUJINOの扉が開き鉄平が顔を出した。

 

「さっきから随分と騒がしいけど一体……うわぁっ!?」

 

 先程まで料理の仕込みに集中していたらしい鉄平だったが、店のすぐ前で戦闘が行われている事に仰天しその場で腰を抜かしたようにへたり込んだ。

 

「あぁ? 邪魔だ、すっこんでろ」

 

 驚き座り込む鉄平を、コバルトウェーブは一瞥しただけでそれ以上の事はしなかった。人質にしてスコープの行動を制限する素振りすら見せない。

 

 だが例え人質にせずとも、直ぐ近くに民間人が居る状況ではスコープ側に下手な事は出来なかった。迂闊に攻撃を続行すれば、最悪余波で鉄平を巻き込む危険もある。

 

 スコープが手をこまねいていると、コバルトウェーブの方もそれを察したらしい。もう一度鉄平を見ると舌打ちを一つして武器を下げた。

 

「チッ……白けた。女にも逃げられちまったし、今日はもう帰る。次はこうはいかねえからな。あばよ!」

「待て!!」

 

 コバルトウェーブは店の屋根の上に飛び乗ると、そのまま他の建物の屋根を伝ってその場から離れて行った。その機動力に、スコープは追いつくことが出来ず逃げていくのを見送るしかできなかった。

 

「くそ、逃がしたか……」

 

 悔しそうにしつつ、それでも必要以上に被害を出さずに済んだことにスコープは自分を納得させ変身を解除。そしてまだ座り込んだままの鉄平に近付き彼を気遣った。

 

「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「あ、あぁ、はい……」

 

 色々とあって呆然としながらも、慎司の手を借りて何とか立ち上がる。まだ呆然としているがそれも無理はない。自分の店の前で戦闘が行われるなど、人生に一度でもあるかどうかという体験だ。慎司に言わせれば、パニックを起こさないだけまだ助かる。

 

 慎司に助け起こされた鉄平は、立ち上がり落ち着いてくると一体何事なのかと問い詰める。それに対し、慎司がやんわりと、しかしハッキリと詳しくは話せない旨を説明していくのを、8号はカメラアイでしっかり見ていた。

 

「…………何で私が、助ける様な事を……」

 

 実はこの時、慎司と茜がこの場所に来たのは偶然ではない。彼女は芳江から指示を受けていたのだ。フランシス達が瑠璃に下手な行動をしそうだったら、どんな手を使ってでも止めろ……と。

 

 芳江曰く、今瑠璃に何かあるようでは困るとの事だ。

 故に8号は、匿名で慎司と茜をここに来るように誘導した。どう誘導したかなど簡単だ。ただ慎司達宛てに、不審人物がこの近くで目撃されたと教えてやればいい。それだけで慎司らは動いてくれる。

 

 まさか隊長である慎司が自ら動くとは思っていなかったが、これはこれで問題ない。一番の問題は、偽りの通報を悪戯と判断されて動かれない事なのだから。

 

 だが8号としては正直この指示と結果は複雑だ。彼女にとって瑠璃は邪魔者以外の何物でもないのだから。

 

「……まぁいい。この次は必ず…………」

 

 8号は小さく呟きながらその場から姿を消した。まるで景色に溶け込むように、音もなく静かに消えた彼女に、気付いた者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 同時刻――――――

 

 海都へと向かう一隻の船があった。豪華と言う言葉はつかないが、大型の客船だ。甲板には海風を楽しもうと、無数の乗客が出てきている。

 

 その中に、1人の男が居た。船の上だと言うのに、男の格好はまるで冒険でもしているかのような物々しい格好だ。場違いな恰好をする男に、時折他の乗客が視線を向けている。

 

 だが当の本人は向けられる視線など全く意にも介さず、ただ水平線の彼方に思いを馳せる様に遠くを見つめている。

 

 不意に、男は懐に手を突っ込む。そこから取り出したのは、瑠璃の持つライフコインの色違いとも言うべき黄色いコイン。裏には瑠璃が持つ物と同様の太陽と海を象った絵柄が刻まれ、表には六分儀と呼ばれる測定器具の様な物が描かれている。

 

 男は手に取ったコインを徐に指で弾き、落ちてきたそれを右手でキャッチした。

 

 キャッチしたそれを見ようと手を開くと、彼の手の中でコインは表を上に向けていた。それを見て男は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「次の冒険は、心躍るものになりそうだな」

 

 男はコインを仕舞いながら、誰にともなくそう呟いた。

 その呟きは、海風に乗って水平線の彼方へと消えていくのだった。




という訳で第6話でした。

バーツ達海賊はどことなく憎めない悪役を目指して描いていきます。ですので今回みたいに、人質になるのに無視したり自分から勝手に名乗ったり。

瑠璃はここで仮面ライダーである事をさらに多くの人にバラしました。今回に限れば長々と隠し通しても良い事なんてないので。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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