仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

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第7話:サーベイランス、解放に向けて

 海都警察署の一室、S.B.C.T.が一時的にオフィスとして借りている部屋には、現在S.B.C.T.αチームが勢揃いしている。彼らは全員席につき、部屋の正面に注目していた。

 

 その彼らの視線の先に居るのは、隊長を務める慎司とオペレーターの茜。

 そして――――

 

「え~、そう言う訳で、皆に知らせる事がある。彼女が……」

 

 慎司と茜に挟まれる形で立っているのは、先日の戦闘でテテュスである事を明かしてしまった瑠璃だった。瑠璃は向けられる無数の視線を前に、しかし怖気付く事無く自然な姿を維持し続けた。

 

「大梅 瑠璃、仮面ライダーテテュスです。よろしくお願いしますね」

 

 そう言って瑠璃が隊員達に笑みを向けると、彼らは一気に沸き立ち歓声を上げた。

 

「うぉぉぉぉっ! マジか!」

「まさかあの子が仮面ライダーだったなんて!」

「あの子って、あれだろ? この間お前らが行った店に居たっていう子だろ?」

「出会いなんて無縁だと思ってたこの仕事でこんな出会いがあるとは!」

 

 隊員達の反応は概ね好印象の様だが、その内訳は仮面ライダーが居るという事への頼もしさよりは、瑠璃の様な女性とお近づきになれたという事への喜びが強いらしい。雰囲気は可愛い女子が転校してきた高校生だ。

 

 だらしない反応を見せる野郎共を前に、茜が額に青筋を浮かべ手にしたボードを手で叩いた。

 

「ほらあなた達! 子供じゃないんだからこんな事で浮かれてるんじゃないの!」

「北村さんの言う通りだ。全員――」

「大体女ならここにも居るでしょうが!? まるで女が誰も居なかったような反応するんじゃないわよ!!」

「……え? そっち?」

 

 怒りの方向が明後日だった事に困惑する慎司だったが、咳払いを一つして気を取り直すと話を続けた。

 

「んん! まぁ、そう言う訳で、今後はこの大梅さんが共に行動する事もある。とは言え大梅さんには普通の生活もあるので、あまり干渉しすぎたりしないように」

「と・く・に! 彼女の店に入り浸るなんて事はしないように。いいわね!!」

 

 茜が全員に釘をさす様に告げるが、案の定彼女の言葉は彼らの耳には入っていないようである。一心に瑠璃を見て時には話し掛けようとする彼らに、茜は怒りに震え拳を握り締めた。

 

「あ~ん~た~た~ち~……!!」

「あ……そ、そう言う事だから! え~、では大梅さん。今日はありがとうございました。本日はもう、お帰りいただいて結構です」

「あ、はい。それじゃ皆さん、今日はこれで失礼します。お店にも来てくださいね!」

 

 笑顔で手を振り部屋を出ていく瑠璃に、隊員達から再び歓声が飛ぶ。その歓声に瑠璃はウィンクを返し、今度こそ本当に部屋を後にし警察署の中を歩いていく。

 

 廊下を歩いてて、背後から茜の怒声が聞こえてきたような気がしたのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 そのまま歩いていた時――――

 

「あら、あなた……」

「はい?」

 

 不意に横から出てきた女性に声を掛けられた。声を掛けられ咄嗟にそちらを見ると、そこに居たのは芳江であった。芳江は興味深そうな顔で、私服姿の瑠璃を見ている。

 

「この先にあるのはS.B.C.T.の仮設指令室だった筈ですが、あなたは?」

「えっと~……民間協力者みたいなものです」

 

 慎司からは予め、仮面ライダーである事はみだりに言いふらさない方が良い事を聞かされていたので、芳江には適当な事を言って誤魔化す瑠璃。

 だが次の瞬間芳江の口から出た言葉は、瑠璃にとって予想外のものだった。

 

「あぁ、あなた確か先日確認された仮面ライダーですね?」

「え!?」

 

 初対面である筈の芳江に看破された事に驚く瑠璃だったが、そんな彼女の反応が面白いのか芳江はコロコロと笑う。

 

「あら、本当にそうだったんですね? 適当な事を言ってみただけだったんですが」

「う゛っ――――!?」

 

 芳江の笑みに、瑠璃は思わず呻き声を上げる。カマを掛けられたのだ。普段店で客を翻弄する側の自分が、見ず知らずの他人に翻弄された事に瑠璃のプライドが若干傷付いた。

 

 だがそれもすぐ気にならなくなった。瑠璃は芳江の顔に違和感を覚えたのだ。

 

(初めて……? 初めての、筈……)

 

 コロコロと笑う芳江だったが、笑いを引っ込める瞬間の僅かな時間の顔に瑠璃は違和感が強くなるのを感じた。笑いが引っ込み、笑みを浮かべた顔に戻る僅かな瞬間。笑いと真顔の中間の様な微妙な顔に、強烈な既視感に近いものを感じずにはいられない。

 

(私……この人の事、知ってる?)

 

「あの、何か?」

 

 呆然と芳江の顔を見ていると、無言で注目されている事に芳江が首を傾げた。そこで漸く我に返った瑠璃は、無遠慮に芳江の顔を見続けてしまった事に申し訳なさを感じ頭を下げる。

 

「い、いえ! 何でも……えっと、それじゃ」

 

 瑠璃はそそくさとその場を後にし、芳江から離れた。何故かは分からないが、今は彼女から距離を取りたかったのだ。

 

 足早に警察署の廊下を歩き去る瑠璃の背中を、芳江が黙って見送る。

 その彼女の口元には、先程の人の良さそうな物とは真逆の嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 

「あの子、もしかして…………これは確かめる必要がありそうね」

 

 心底楽しそうな笑みを浮かべつつ、瑠璃とは逆方向に歩いていく芳江。

 彼女の口元から零れる笑みに、気付いた者は誰も居なかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 警察署を後にした瑠璃だったが、何だか店に戻る気にはなれなかった。何と言うか、心がざわついている。先程の芳江に感じた違和感がまだ燻っている感じだ。気持ちが悪い。

 

 どうしようか……こんな時は海に潜るのが一番なのだが、今夜も店がある為そんな事をしている訳にもいかない。

 

 何か手頃で、それでいて夜に疲れを残す事が無いような気晴らしは無いか。

 そんな事を考えながら歩いていた瑠璃は、気付けばカジノ街に来ていることに気付いた。

 

「カジノ…………うん」

 

 そうだ、ここはカジノの街じゃないか。それなら、この街で最大のエンターテインメントと言えばギャンブルに他ならない。

 ギャンブルなら手頃な時間を潰すのに持って来いだし、何より疲れないといい事尽くめ。

 

 瑠璃は意気揚々と手近なカジノへと足を運んだ。

 

「いらっしゃ……げっ!?」

 

 店員の1人が入店した瑠璃に気付き挨拶をするが、その表情は一瞬で凍り付く。

 その反応を見て、瑠璃も堪らず苦笑を零す。自分も随分と名が売れてしまったものだ。

 

「困るねぇ、藤野さんとこの」

 

 目の前の店員の反応に苦笑していると、別の店員に呼ばれたのかそれとも監視カメラで見ていたのか、店のオーナーらしき厳つい顔の男が凄みを利かせた顔で出てきた。

 

 オーナーらしき男は瑠璃の事を睨み付け――――

 

「――――どうか! どうかお引き取りを!!」

 

 一瞬でその場に土下座し、退店を懇願してきた。厳つい男が見目麗しい女性を前に必死に土下座している姿は嫌でも目立つ。特に瑠璃の事を知らない外からの客は、何が何だか分からず2人の様子を奇異の目で見ていた。

 

 これには流石の瑠璃も乾いた笑みを浮かべ、目を泳がせることしか出来ない。

 

(ここまでとはね……)

 

 実を言うと、この辺りの店には前にも来た事があったのだ。そしてその時、瑠璃はこの辺りの店を片っ端から荒らしまわったのである。

 荒らしまわったと言うが、やった事と言えばイカサマ無しで連戦連勝した位だった。その程度ではあるが、店側としては客にばかり勝たれては堪ったものではない。それもたった一人の客にコテンパンにされたとあっては、店のディーラー達のプライドにも響く。

 

 事実、以前瑠璃が荒らしまわった後には、あまりにもコテンパンにされたものだから暫く仕事にならなかったディーラーも居たほどである。

 

 そんな事があったので、カジノのオーナーとしてはあの出来事の再現は何が何でも回避したかった。故にこうして土下座までしたのである。

 

 軽く遊んで帰る予定だった瑠璃は、急いでオーナーを立ち上がらせた。

 

「待って待ってよ。今日はちょっと遊びに来ただけ、軽くやったらすぐ帰るわよ」

「ほ、本当ですか?」

「本当本当。皆には迷惑掛けないから、ね?」

 

 そこまで言うのならと、オーナーは渋々立ち上がり今度は普通に頭を下げた。

 

「え~、失礼しました。改めていらっしゃいませ。どうぞごゆるりと……はしてほしくないけど、楽しんでいってください」

「そうさせてもらうわ、ありがとう」

 

 何とか場が収まったと、瑠璃は安堵の溜め息を吐きながらチップの販売機まで向かい所持金をチップにする。今回は軽く遊ぶ程度なので、千円程度だ。

 

 チップを手に、カジノ内をぶらりと回る。まず目に入ったのは、無数にあるスロットマシンだ。適当に空いている台の前に座り、チップを1枚スロットに入れる。

 レバーを下ろして3つのリールが高速で回転する。高速で回転するリールの絵柄は、辛うじて大まかな形状が分かる程度でそれを狙って止めるとなると難しい。

 

 難しいが……瑠璃にはなんて事はない。

 

 トン――トン、トン……と、リズムを刻むようにリールを止めるボタンを押すと、押した瞬間にリールが止まる。スロットの中には押してから止まるまでにラグがあるものもあるが、この店の台は押した瞬間に止まってくれる良心的な台だった。

 良心的だが、その分リールの回転は速く絵柄を見て止めると言う所謂「目押し」は難しい。

 

 そんなスロット台で瑠璃が最初に止めたリールの絵柄は赤く太いフォントで描かれた7。そして続き止まった絵柄も、同じものが続き大当たりとなる。

 

 絵柄が見事揃った。それも配当が一番高い組み合わせだ。スロット台はそれを感知し、高らかにファンファーレを鳴らす。

 同時に台からはジャラジャラと増えたチップが吐き出され、勢いのあまり何枚か床に零れ落ちた。

 

 その光景に、周囲の客の何人かはお見事と拍手した。

 そしてそれを遠巻きに見ていた店員とオーナーは頭を抱えた。

 

「さーて、次は何にしようかしら……」

「あの、本当に程々に……」

 

 次のゲームを探して席を立つ瑠璃。見かねてオーナーが控えさせようと身を小さくしながら近づいていくが、瑠璃は無視して次のゲームに得意のルーレット台を選んだ。

 

 だがルーレット台はどれも埋まっている。さてどうしたものかと少し考えていると、ルーレット台の一つから悲鳴のような声が上がった。

 

「うぐぉあぁぁぁぁぁっ!?」

「ん?」

 

 気になって瑠璃がその台に近付くと、1人の男性がルーレットで大負けしたのかチップをまき散らしながら台の上に突っ伏しているのが見えた。ドレスコードの無いこの店でも珍しい冒険家か何かのような恰好をした男性は、台に突っ伏したまま頭を抱えている。

 

「ちくしょー、なんてこった……。さっきスロットじゃあ勝てたのに……あそこでやめときゃ良かった」

 

 どうやら調子に乗ってかなりの額を擦ってしまったらしい。完全に自業自得だが、だからこそ都合がよかった。

 瑠璃は音もなくその台に近付くと、ざっと見て残りの男性のチップの枚数を把握。どうやら完全に素寒貧になった訳ではなく、保険の意味もあってか数枚は残しておいたらしい。

 

 残りのチップを集め、更に自分のチップも加えて瑠璃は男性に代わり次のゲームに臨んだ。

 

「次、私がやるわ」

「え? あ――!!」

 

 突然自分の隣に座り、チップを掻き集めてゲームを始めた瑠璃に男性は驚き目を見開く。その男性に、瑠璃はウィンクを返した。

 

「ごめんね、ちょっとだけ貸して? ちゃんと返すから」

 

 男性に軽く謝りながら、瑠璃は回るルーレットを眺めた。回転するウィールの上を、小さいボールが転がっていく。

 数秒ほどそれを眺め、瑠璃は一つのマスに全額ベットした。赤の36、そこに男性が残したチップと自分の手持ちを全額置く。

 

 その思い切りの良さに周りで見学していた客はどよめく。

 

 周囲のざわつきを無視して、瑠璃はボールの動きを見守った。徐々にウィールの回転が弱まり、ボールが転がりながらポケットの間を跳ねる。

 そして遂にボールがポケットに入った。入ったポケットは赤の36、瑠璃の賭けたマスと同じ数字だ。

 

 その瞬間周囲の客は一斉に歓声を上げた。配当36倍に、全額賭けて大勝ちしたのだ。こんな大勝負滅多に見れない。

 

 周囲からの歓声に得意げな顔をする瑠璃だったが、一方で男性は瑠璃の顔をじっと見つめている。その視線に気付き、瑠璃も男性を見返しながら首を傾げた。

 

「えっと、どうかした?」

「君……君は――」

 

 男性が何かを口にしようとしたその時、瑠璃の持つ携帯が着信音を鳴らす。取り出してディスプレイを見ると、そこには慎司の名前が表示されていた。

 どうやら何かあったようだ。

 

「ゴメン、私そろそろ行かなきゃ! あ、勝ったチップは全部あげるわ。ゲームを横入りしちゃったお詫び。それじゃね!」

「あっ! ちょ、ま、待って!?」

 

 サッと席を立ち店から出ていく瑠璃を追おうとする男性だったが、周囲の客がそれを許してくれなかった。今の大勝利に沸き立つ客が邪魔して、男性はその場から動けない。

 

 客の間をすり抜けて店を出た瑠璃は、歩きながら通話に出る。

 

「はい、もしもし?」

『大梅さん。今し方、本部から増援が来たので、我々はこれから地下研究施設の掃討作戦を行います』

「もしかして、私も行った方が良いですか?」

 

 ディーパーの戦力が未知数なので、戦力は1人でも多い方が良い。慎司からの電話を、瑠璃は最初作戦への参加要請だと思った。

 だがそれは慎司自身により否定される。

 

『いえ、大梅さんにはそのまま上に残っていていただきたいんです』

「残る?」

『はい。掃討作戦中に地上に逃げられる可能性も十分に考えられますので、大梅さんには一部の残った部隊と共に地上に居てもらいたいんです』

 

 なるほど、納得できる話だ。確かにディーパーは排水管か下水道を通って地上のどこにでも現れる。地下が騒がしくなった時、その騒動のどさくさから逃げるか紛れるかで地上に出てくる可能性は十分にあった。

 

「分かりました。上は任せてください」

 

 慎司の言葉に返事を返すと、瑠璃はもう遊んでる場合ではないと一度店に戻るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 S.B.C.T.のβ・γチームが到着し、更に専用装備も届いた。これで準備は万端だ。

 

 慎司は今回の作戦の責任者として、先頭に立ち全員に指示を飛ばす。

 

「これより、地下施設の掃討作戦を開始する。作戦にあたり、先の戦闘で戦力が消耗しているαチームは地上にディーパーが出現した時の事も考えて待機。βとγチームは私と共に地下に潜る。尚突入組は装備をB装備に換装しておくように」

 

 B装備とは、流れ弾による被害を極力出さないようにする為の拠点防衛用装備である。装備と言っても、違うのは使用する弾丸程度。

 この専用弾は重量を徹底的に軽くしており、弾頭には人工ダイヤモンドを使用している。これにより至近距離では初速と硬さで無類の貫通力を誇るが、代わりに少し距離が離れると途端に威力を失う事となった。近距離に居る敵にだけダメージを与え、少し離れた施設にはダメージを極力与えない優れた装備だ。

 

 その装備を携え、慎司のスコープを先頭にS.B.C.T.の部隊が地下へと潜っていく。エレベーターで降りると最悪一網打尽にされるので、階段を使って降りて行った。

 

 暫く無言で降りていき前回ディーパーと遭遇した階に到着すると、スコープは部隊を二手に分けた。

 

「βチームはこの階の制圧を。γチームは私と更に下の階に向かう」

 

 スコープの指示に従い、βチームは別行動。γチームはスコープと共に更に下の階に向かう。

 

 下の階に向かってすぐ、彼らは異変を感じた。臭いが違うのだ。βチームと別れた階に比べて、ハッキリ言って磯臭く生臭い。海の匂いを不快と感じるかは人それぞれだろうが、この臭いは恐らく万人が不快に思うだろう。海の悪臭を集めればこんな感じになるのではないだろうか。

 毒ガスにも強いスコープとライトスコープは異臭を感じる事はない筈だが、それでも不快に思うほどという事は相当臭うという事だ。

 

「くっせぇ……」

「何だここ?」

「上まで臭ってなかった……って事は、この臭いの元は空気より重いって事か?」

 

 あまりの異臭に隊員達が口々に言葉を交わす。無駄口が増えた原因は、異臭の所為だけでは無いだろう。皆この階の異変を感じ取っているのだ。

 

 その異変は直ぐに形となって表れた。

 

「――――ん?」

 

 階に踏み入れた第1歩。その第1歩にスコープ達は違和感を感じ足元を見た。

 

 見ると床が一面何らかの粘液で塗れていた。足を上げれば、透明な液体が足裏と床を糸で繋ぐ。

 その光景に一部の者はヘルメットの奥で顔を顰めた。

 

「うぇぇ……」

「臭いの原因ってこれか?」

「……全員、警戒しろ」

 

 スコープを先頭にべっとりとした廊下を歩く。一歩踏み出す度に粘着質な音が響くのに、それが複数人分起こるので廊下は変に騒がしくなった。

 

 どれほど廊下を進んだか。まだ機材の置かれていない研究室の前を通る。通電されていないのか、廊下の左右には窓に隔たれた暗い研究室が並んでいる。

 カメラを暗視モードにして周囲を警戒するが、暗い研究室の中には異変が見られない。

 

 それでも一行は警戒しながら廊下を奥に進んでいく。

 

 この時、もし彼らが暗視モードではなくライトで研究室の中を照らしていたら気付いていただろう。

 

 研究室の中で息を潜める様にジッとしている、下級ディーパーの姿を…………

 

「――――ん?」

 

 最後尾を行くライトスコープは、不意に自分の右側の研究室で何かが動いたような気がした。足を止め、もっとよく見ようと研究室の窓に顔を近付け――――

 

「キシャァァァァァッ!」

 

 出し抜けに眼前に牙の生えた魚面が飛び出した。

 

「うぉっ!?」

 

 突然の事に隊員は驚き仰け反るが、下級ディーパーはそれを許さなかった。

 

 窓を突き破ってライトスコープを掴むと、そのまま研究室の中に引き摺り込んだ。

 その部屋の中には外から見ただけでは分からなかったが、そいつ以外にも無数のディーパーが居た。ディーパー達は室内に引き摺り込んだライトスコープに、獲物に襲い掛かるピラニアの群れの様に一斉に群がった。

 

「うわぁぁぁぁっ!? た、助け、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 如何にライトスコープが対特殊生物災害用の装備で防御力に優れているとは言え、量産仕様では出せる強度に技術的限界がある。多数の怪物に一斉に襲い掛かられては一溜りもない。

 

 研究室に引き摺り込まれた隊員は鋭い爪と牙によりあっという間にずたずたに引き裂かれてしまった。

 

 ここで漸く異変に気付いたスコープ達が引き返すが、その瞬間別の研究室の窓を突き破ってディーパーがγチームに襲い掛かる。

 更に通気口からもディーパーが飛び出し、別のライトスコープが通気口の中に引き摺り込まれてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「くっ! 応戦だ、応戦しろ!」

 

 一斉にライトスコープ達のガンマカービンが火を噴いた。高速で発射される銃弾が次々とディーパーの体を撃ち抜き蜂の巣にしていく。

 新型弾頭は彼らにも効果抜群の様だ。

 

 攻撃が効くとなれば、ある程度心にも余裕が出来る。γチームは互いにカバーし合いながら、襲い掛かるディーパーを迎え撃った。

 

「こちらγチーム、ディーパーの群れと遭遇! βチーム、そちらは大丈夫か?」

 

 こちらがこれだけの攻撃を受けているのなら、もしかしたら上のβチームは無事かもしれない。

 

 そんな淡い期待を抱いたが、それはあっさりと打ち砕かれた。

 

『こちらβチーム、こちらも多数のディーパーの襲撃を受けている! ここから動けそうにない!』

「くそ……。北村さん、現在こちらはディーパーの襲撃を受けています。そちらは大丈夫ですか?」

 

 事前に地下施設から地上に出るダクトやルートのいくつかには予めセンサーを設置してある。なのでもし地下から地上に出ようとするディーパーが居れば、気付くことは出来る様になっていた。

 

『こちら北村です。こちらのセンサーには今のところ…………あ! センサーに複数の反応を検知、何体かが地上に出ようとしてます!』

「地上に残したαチームは迎えますか?」

『……駄目です、今からでは地上に出てくるディーパーを止められません』

「では、大梅さんにも連絡を。αチームにも予想される現場への急行を頼みます」

 

 事ここに至っては仕方ない。民間人である瑠璃を頼らねばならないのは情けない話だが、プライドだけで市民の命は守れない。力不足の恥と不甲斐無さを耐えるだけで人々の命が守れるなら安いものだ。

 

 あらかたの指示を追え、スコープはガンマライフルを構えた。高速の弾丸が目前まで迫ったディーパーを蜂の巣にして始末する。

 

 そのまま彼らは次々と現れるディーパーを迎え撃った。

 敵はまだまだ多い。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――――はい、はい。大丈夫です、今向かってます」

 

 一方瑠璃はと言うと、茜から連絡を受ける前にはもう行動に移していた。

 店に戻った瑠璃は、店の準備として食器を磨いたりして時間を潰していたのだが、その際見えるところにリールドライバーを置いておいた。何となくだが、瑠璃にはこれが自分が動くべき時と場所を教えてくれているような気がしたのだ。

 

 その予想は見事的中し、突然動き出したリールドライバーに従って行動しているとその途中で茜からの連絡が入った。

 

(これ、あの怪物の事を私に教えてくれてる?)

 

 一体どういう理屈なのかは分からない。だが少なくとも、これに従って動いていれば最悪の事態にはならないと思う。

 

「むむっ! そこの女!」

「ぅえっ?」

 

 そんな事を考えながら走っていると、突然声を掛けられた。何事かと足を止めてそちらに目を向けると、そこには背が高く筋肉もしっかりついた男性が瑠璃の事を指差していた。

 

 男性の特徴を一言で言えば、背高ノッポの細マッチョ。

 

 その特徴に合致する男性を、瑠璃は最近聞いた事があった。

 

「あ、あなた……もしかして最近クルーザーで海都に来た?」

「知ってるなら話は早い。俺の名はエドワード・ティーチ、バーツの兄貴分だ。ここ最近、バーツの奴が世話になったようだな」

 

 その男こそ、コバルトウェーブに変身するバーツの兄貴分の1人であるエドワードだった。彼は予めバーツから瑠璃の特徴を聞いていたので、一目で瑠璃がリールドライバーの持ち主であると気付けた。

 

「バーツはS.B.C.T.の邪魔の所為で取り返せなかったようだが、俺は違うぞ。俺達のお宝、返してもらう!」

「~~~~ッ! あぁ、もうっ!?」

 

 今はこんなところで道草を食っている訳にはいかないと言うのに。瑠璃は流石に苛立ちを感じ、頭を乱暴にかいた。

 

 出来れば変身して追い払いたいところだが、今は駄目だ。周囲に無関係な人が多すぎる。いざとなれば仕方ないとは言え、無関係な人々に自分が仮面ライダーであると周知させるのは瑠璃としても遠慮したい。

 やるのは構わないが、やるならやるで場所は選びたいところだった。

 

 問題なのは、こいつらがそれを許してくれるかどうかだが……

 

「さぁ、大人しく返せばそれでよし。そうでないなら――」

 

 エドワードは懐からベクターリーダーとベクターカートリッジを取り出し変身しようとする。案の定、こいつらは騒ぎを起こす事に対して抵抗が無いらしい。

 

 こうなったらこいつらが騒いで逆に無関係な人々を追い払ってくれた方がやりやすいか?

 そんな事を考えていたら、突然近くのマンホールが吹き飛んだ。

 

「「ッ!?」」

 

 思いもよらぬ出来事に、瑠璃とエドワードだけでなく周囲の人々が一斉に吹き飛んだマンホールに視線を向ける。視線を向けた人々の何人かは、飛んできたマンホールから逃げようと悲鳴を上げていた。

 

 だが直ぐに彼らはマンホールの事など気にならなくなった。何故ならマンホールからは次々とディーパーが姿を現したからだ。

 

「な、何だこいつらッ!?」

「よりによって此処ッ!?」

 

 姿を現したディーパーに、瑠璃とエドワードは身構え他の人々は悲鳴を上げて逃げだした。ここら辺海都がある意味で閉ざされた空間である事が幸いした。先日の一件で怪物の出現が住民の知るところとなっていたので、彼らの反応は迅速だった。

 

 蜘蛛の子を散らす様に住民が逃げていく中、瑠璃とエドワードだけは険しい顔でディーパーと対峙した。

 

「全く、こいつら本当にどこからでも現れるわね」

「何だなんだお前ら? 俺は今忙しいんだが……」

 

 リールドライバーを取り出す瑠璃と、ベクターリーダーを向けるエドワード。その2人に、ディーパーは徐々に近づいていく。

 

 瑠璃はリールドライバーを腰に装着し、エドワードはベクターカートリッジを起動状態にした。

 

Place your bets please(賭け金を置いてください).」

〈Bet your life〉

〈MOSASAUR, leading〉

 

 変身の準備を整えた2人に、ディーパーが一斉に飛び掛かろうとする。瞬間、瑠璃はレバーを下ろしエドワードは引き金を引いた。

 

「変身!」

〈Fever!〉

〈Transcription〉

 

 リールドライバーから出たウィールとベクターリーダーから放たれた閃光が、飛び掛かって来たディーパーを弾き飛ばす。

 

 瑠璃がテテュスに変身し、エドワードも『ターコイズスウィール』に変身した。

 その2人に、ディーパーの群れが一斉に襲い掛かった。




という訳で第7話でした。

瑠璃はギャンブルもそれなりに嗜みますが、街のカジノは昔瑠璃に痛い目に遭わされたので半ば出禁状態です。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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