仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は漸くテテュスの新たな姿がお披露目となります。


第8話:レイズ、先を見通すもの

 街中に現れたディーパーの群れに、テテュスとターコイズスウィールが立ち向かう。2人は決して味方同士ではないが、さりとて降りかかる火の粉を前にしてもまだ戦うような愚かさはない。特にテテュスの方には、ターコイズスウィールとそこまで積極的に戦う理由が無い。

 

「はっ! やっ!」

 

 テテュスは素早い動きでディーパーの間を縫うように動き回り、スカートの下から覗く足で鋭い蹴りを放ちディーパーを寄せ付けない。

 

「この! ちっ、らぁっ!」

 

 対するターコイズスウィールは、右手のホルスター剣と左手のベクターリーダーを駆使してディーパー達を寄せ付けない。テテュスに比べて荒々しい動きながら、その力強さでディーパーを次々と倒していた。

 

「エド兄貴!」

 

 そこに援軍がやって来た。バーツだ。騒ぎを聞きつけてか、バーツがベクターリーダーを片手に現場に駆け付けた。

 

「おぉ、バーツ! 来たのか!」

「こんだけ騒がしけりゃな!」

〈MEGALODON, leading. Transcription〉

 

 現場に駆け付けながら、バーツはコバルトウェーブに変身しディーパーの群れに飛び込んだ。ターコイズスウィールに負けず劣らぬ荒々しい攻撃が、ディーパーを次々と叩きのめしていく。

 

 別に撃墜スコアを競っている訳ではないが、テテュスは何だかこのまま2人全て倒されるのが面白くなくなり気合を入れ直した。

 

〈Bet〉

「私に武器はないけれど!」

〈Good luck〉

「黒の4!」

〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉

 

 武器による攻撃力は無くても、テテュスには多彩な能力がある。ディープダイビングを発動させた彼女は地面や壁の中に潜り、奇襲戦法でディーパーを翻弄し次々と打倒していった。

 

 当初わらわらと出てきていたディーパーの群れも、その数をあっという間に減らし今では見る影もない。

 その光景に、3人は一気に勝負をかけるべく必殺技を放った。

 

「ここが賭け時ね!」

〈Good luck〉

「赤の32!」

〈BINGO! Skill activation! WAVE SMASH.〉

 

「蹴散らすぞ!」

「あぁ!」

〈〈Full blast〉〉

 

 三方向から囲むようにして各々必殺技を放ち、残りのディーパーを薙ぎ倒す3人。テテュスがウェーブスマッシュで、コバルトウェーブとターコイズスウィールがジェネリック・ブレイカーで残りのディーパーを全て倒した。

 

 邪魔者は居なくなり、これで3人が共闘する理由はなくなった。

 という訳で、コバルトウェーブとターコイズスウィールはベクターリーダーの銃口をテテュスに向け彼女に迫る。

 

「さて……」

「これでゆっくり話が出来るな」

「まぁ、こうなるわよね」

 

 どうせこいつらには話し合いなんて意味はない。自分の記憶を取り戻す為、出来る事は戦う事だけだ。

 

 テテュスも覚悟を決め、拳を握り応戦する意思を見せた。その度胸にコバルトウェーブが内心でほくそ笑み、いざ攻撃を仕掛けようと足を一歩前に踏み出した。

 

 瞬間、2人の足元で銃弾が弾けた。

 

「うぉっ!?」

「何だッ!?」

 

 何事だと2人だけでなくテテュスまでもが周囲を見渡すと、こちらに向かって走って来るライトスコープ達の姿が見えた。

 ディーパーとの戦いには間に合わなかったS.B.C.T.αチームだったが、それでもテテュスの窮地には間に合ってくれたのだ。

 

「大梅さん!」

「大丈夫ですか!」

 

 ライトスコープ達はテテュスを守るように陣を組み、コバルトウェーブとターコイズスウィールの前に立ちはだかる。自分達に向けられる無数の銃口を前に、2人も流石に不利を感じ取らずにはいられなかった。

 

「くそっ!? 邪魔者が居なくなったと思ったら今度はこいつらかよ!」

「こいつは流石に厳しいな……バーツ、ここは退くぞ」

「チッ!」

 

 多勢に無勢。この状況で尚テテュスに攻撃を仕掛けようとするほど、彼らも考え無しではなかった。自分達に圧倒的不利な状況の時は、大人しく引き下がる思い切りの良さが彼らにはある。彼らだって伊達に荒事を潜り抜けてはいないのだ。

 

 2人は視線を上に向けると、ビルに取り付けられている看板に向け何発も銃弾を叩き込んだ。接続部を破壊された看板は、ビルから外れ回転しながら落下してくる。

 

「退避ぃぃっ!?」

 

 これは不味いと、αチームはテテュスと共にその場を離れる。お陰で落下した看板の被害はないに等しかったが、この隙に2人にはまんまと逃げられてしまった。

 

「しまった、追え!」

 

 慌てて逃げる2人を追っていくαチームだったが、なかなかに早い逃げ足の2人に追いつくことは出来ずそのまま逃げられてしまった。

 

 離れていくコバルトウェーブとターコイズスウィール、それを追うαチームの後ろ姿に、テテュスは大きく息を吐くと変身を解除した。

 

「はふ~……」

〈Drop out〉

 

 とりあえずこの場は何とか収まったとみていいだろう。問題は下の状況だが、S.B.C.T.は間違いなくこういった事態のプロだ。ド素人の自分が心配するのも余計なお世話だろうと、一瞬頭に浮かんだ不安を引っ込めた。

 

 とは言えもしもという事はあるので、瑠璃は状況が落ち着いたのを見て茜に連絡を取った。

 

「もしもし、大梅です。そっちは大丈夫ですか?」

『大梅さん、ご無事で何よりです。こちらも、まぁ……何も問題ないとは言えませんが、それでも危険と言う程ではありません。想定の範囲内です』

 

 茜の話によると、想定以上のディーパーからの攻撃に数名の犠牲者が出てしまったが、それでも見える範囲でディーパーを撃退する事は出来たので一時後退する事になったらしい。現在は地上に引き上げてる真っ最中だとか。

 

 こうなると瑠璃に出来る事はもうない。仮面ライダーに変身できるとは言え、所詮彼女は記憶喪失の一般人。勝手に動きすぎると逆に彼らの邪魔になってしまう。

 

「そうですか。それじゃ、後はそちらにお任せしても?」

『はい、後はこちらで何とかします。今回もありがとうございました』

「いえいえ、それじゃ」

 

 通話を切り、もう一度2人が逃げて行った方を見た瑠璃は大きく背中を伸ばして筋肉を解した。背を伸ばす為胸を仰け反らせた結果、ただでさえ目立つ豊満な胸が殊更に強調される。

 

「んん~~! はぁ……。さて、帰ってお店の準備しなくちゃね」

 

 瑠璃はそんな事をボヤキながら、店へと戻り日常へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 第2次海都地下研究所解放作戦。

 

 人員と装備を整えての再攻撃は、成功とも失敗とも言い難い結果となった。何しろ敵の数が予想を超えて多かったのだ。結果、地下に居るディーパーの数を大幅に減らす事は出来ただろうが全てを殲滅するには至らず、またS.B.C.T.側の被害も少なくはなかったので後退を余儀なくされた。

 

 仮設指令室に戻った慎司は、茜やβ・γチームの隊長と共に現状を整理した。

 

「これだけ戦力を集めても倒しきれないとは……」

「仕方ありません。物資が潤沢でも、それを扱う人間には活動の限界があります。あの数は流石に……」

「ですが、恐らくはあともう一息でしょう」

「小早川隊長、その根拠は?」

 

 首を傾げるβチームの隊長からの問い掛けに、慎司は現時点での地下研究所のマップを見ながら話した。

 

「建設途中ではありますが、地下研究所は海水が入らないよう密閉された空間です。海水が入ってくるような穴があれば、そこから地下施設が圧壊して海都が沈没します。それが無いという事は、ディーパー達も自由に地下に出入り出来ている訳ではないという事です」

 

 恐らくは海中に造られた作業ポッド発進口が開いている時に入って来たのだろう。燃料の事を考えれば作業ポッドは海上より海中から出撃させた方が良いという事で、最下層には施設と海中を繋ぐ出入口がある。エアロックの様に海水を出し入れして作業ポッドを出撃させる仕組みの出入り口だ。

 

 それが発進用に開いている間に、ディーパー達は入り込んだと言うのが慎司の考えである。

 

「つまり、今施設内に居るディーパーを殲滅してしまえば……」

「一先ず、施設の安全は確保できたとみていいかと」

「……一つ気になるんですが、仮に連中の侵入口が作業ポッド発進口だとして、一度にそんな数が入ってきたら普通その時点で異変に気付きませんか?」

 

 その違和感に気付いたのはγチームの隊長だ。

 前回も今回も、ディーパーはとんでもない数が出てきた。それだけの数が一度に侵入して来れば、その時点で施設の方で何らかの異変を察知した筈。

 

 だが現実には、ディーパーの侵入が確認されたのは作業を監視する部屋まで入り込まれてからなのだ。つまり最初は侵入に気付かれない程度の数しか入ってきていないという事。

 

 これらが意味する事は…………

 

「まさか連中……繁殖力が高いのか?」

「その可能性、ありますよ。これ見てください」

 

 そう言って茜が見せるのは、部隊全員のバイタルデータを表示したノートPCだ。現在は全員装備を外しているので、殆どの隊員のバイタルデータは非表示となっている。数少ない表示されているバイタルデータは、先程の戦闘で殉職した隊員のものだ。

 

 だがその中に二つほど、未だバイタルデータが表示されているものがある。弱々しいが、心臓がまだ動いていた。

 

「この、2人は……」

「先程の戦闘で通気口と床下に引き摺り込まれた、γ4とβ6のものです」

 

 先程の戦闘でS.B.C.T.は数名の犠牲者を出してしまったが、その中でこの2人だけはその場で殺される事無く何処かへと連れ去られていた。

 慎司達はそれを集団から引き離して1人になったところを始末されたものと思っていたが、予想に反して連れ去られた2人はまだ生きている。

 

 人間を容赦なく殺す筈のディーパーが2人の隊員を生かしている。それが何を意味しているか、予想出来ないほど彼らは馬鹿ではなかった。

 

「……繁殖に利用するつもりか?」

「卵を植え付けるのか、それとも生まれた幼体の餌にするつもりなのかは分かりませんが」

「カメラのデータは? 何か映ってないんですか?」

「残念ながら、連れ去られる過程で破損したのかカメラは役に立ちません。ですので2人が今どんな状態なのかまでは……」

「ただ一つ言えることは、そう遠くない内に2人の命が危ないという事だ」

 

 となれば、やる事は一つ。

 

「明朝、準備が整い次第今度は全員で一気に2人の救助に向かおう。北村さん、2人の居場所は?」

「ここ、最下層の作業ポッド発進口近くです」

 

 恐らく時間はない。あのサイズの生物が即日で増える事は無いだろうが、ディーパーに関しては分からない事の方が多い。自分達の知る常識だけで動くのは危険だ。

 

 慎司達はすぐさま次の出撃に向けての準備に奔走するのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その日の夜、BAR・FUJINOは何時も通り営業していた。

 

 何時もの夜、何時もの客。中には初めての客も居るが、瑠璃は海羽と共に彼ら彼女らを笑顔で接客していく。

 この日は特におかしな客も入ることなく、夜も更けてきて客も居なくなりそろそろ店を閉めるかと言う時。

 

 テーブルを瑠璃と海羽が拭いていると、ドアが開きベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

 もうすぐ閉店時間だが、そんな事は顔には出さない。滑り込みで入って来た客ならそれはそれでしっかり持て成してやらなければ。

 

 そう思って瑠璃が笑顔でドアの方を見ると、そこにはどこかで見た顔の男性が息を切らせた様子で瑠璃の事を見ていた。まるで街中を走り回ったかのように、顔には大粒の汗が浮かんでいる。

 その様子に流石の瑠璃も違和感を感じずにはいられない。

 

「あの、お客様?」

 

 何時まで経っても動かない男性に、瑠璃が首を傾げながら声を掛けると男性は弾かれたように瑠璃に近付き彼女の肩を掴んだ。

 

「やっぱり……君だったんだ!」

「え? あの?」

 

 突然の事に驚く瑠璃だったが、ふとその顔をどこで見たのかを思い出した。

 

 昼間、暇潰しに入ったカジノでルーレットで大負けしていた男性だ。横から入り、彼に代わってルーレットで大勝ちしてきてやった。

 

 その事でお礼を言いに来たのかと思ったのだが、次の瞬間彼の口から出てきたのは思いもよらぬ言葉だった。

 

「ここに居たのか、『セラ』!!」

「――――え?」

 

 セラ……彼は今確かに瑠璃の事をそう呼んだ。困惑する瑠璃に対し、男性は顔に歓喜の笑みを浮かべながら捲し立てた。

 

「良かった、無事だったんだな! 島があんな事になってたから、凄く心配して――」

「ちょちょちょ、待って! あんた、瑠璃姉ぇの事何か知ってるの?」

 

 突然瑠璃の事を別の名前で呼んだり、訳の分からない事で喜んだりと忙しい男を海羽が宥めた。それは宥めたというより、過剰に瑠璃に近付く男を無理やり引き離した感じだった。

 

 ここで漸く男も落ち着きを取り戻した。

 

「あぁ、悪い悪い。ちょっと取り乱してた。でも安心したのは事実なんだ。何しろ、セラの事、凄く心配してたから……」

 

 落ち着きを取り戻しながらも、男は瑠璃の事をセラと呼び続ける。

 漸く現れた自分の過去を知るだろう人物の登場に、瑠璃は逸る気持ちを抑えて逆に問い掛けた。

 

「ねぇ……私、セラって言うの?」

「…………え?」

「ねぇお願い、教えて。私は誰なの? あなたは私の何を知ってるの?」

 

 今度は男の方が予想外だったのか、困惑し視線を右往左往させる。

 見かねて鉄平が今の瑠璃の状態を男に説明してやった。

 

「その子、瑠璃はね……この街に流れ着いた時には自分に関する記憶を全て失ってたんだ」

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、急遽早めに店を閉めると瑠璃達は一つのテーブルを囲み男から話を聞くことにした。こんな状態では店どころではない。

 

「まず、自己紹介を。俺はネイサン・ジョーンズ、冒険家だ。気軽にネイトって呼んでくれ」

「俺は藤野 鉄平。こっちが娘の海羽で、こっちが……」

「瑠璃……大梅 瑠璃。この街に来てからはそう名乗ってるわ。ねぇ、あなたは本当に昔の私を知ってるの?」

 

 逸る気持ちが抑えられず、瑠璃は体面に座るネイトに身を乗り出して訊ねる。目前に迫る瑠璃の顔に、ネイトはやや仰け反りながらも口を開く。

 

「俺が知ってるのは、もう何年も前の君だけど……」

「構わない。教えて」

「それじゃあ……君の名は、セラ。ある小さな島の小さな集落に暮らす、1人の女性だった」

 

 数年前、ネイトが冒険の最中海で遭難した時の事。海上を漂いながら、薄れゆく意識の中もうダメかと思った時に現れたのが瑠璃と瓜二つのセラであった。海に漁に出ていたらしきセラは、海上を漂うネイトを自分が乗って来た船に引っ張り上げ、そのまま故郷の島に連れ帰ったのだと言う。

 

 ネイトはそのまま回復してからも少しの間を島で過ごし、セラや自分に良くしてくれた島の住民との別れを惜しみながらも島を後にした。

 

 それから数年後、今から1年程前。ネイトはセラ達が恋しくなり、また偶々近くを通りがかった事もあって久々に島を訪れた。

 だがそこで彼は愕然とした。彼が島に再び足を踏み入れた時、そこにあったのは自分を助けてくれた集落が壊滅して時間が経った様子だった。

 

 家屋は軒並み朽ち落ち、人の気配はない。いや、よく見ると白骨化した人骨が落ちている。昨日今日壊滅したのではなく、彼が再び島を訪れるよりも前に何かに襲われ住民は全滅していたのだ。

 

「正直、目の前が真っ暗になったよ。あの時の温かい島の人達が皆死んでしまった。セラにももう会えないのかって……でも、この街で君に会えた! セラはまだ生きてたんだって、そう、思ったのに……」

 

 あらかた話し終え、そして突き付けられた現実にネイトは大きく肩を落とした。折角再会できたというのに、その相手は記憶を失っていたというのだから無理もない。

 

 ネイトの話が終わると、鉄平と海羽の視線は瑠璃に向いた。だが肝心の瑠璃は、視線を向けられてもどうすればいいのか分からなかった。

 

「瑠璃姉ぇ、どう?」

「……って言われても、正直ピンと来ないわ」

「何か思い出しそうになったりは?」

「…………ごめん、分からない」

「そう、か……ははっ、世の中そう上手くはいかないな」

 

 力なく首を振る瑠璃に、ネイトも覇気のない笑顔で答える。

 

「そんな気を落とさないでよ。まだ瑠璃姉ぇがそのセラって人だって決まった訳じゃないでしょ?」

「まぁな。でも本当にそっくりなんだよ。そっくりすぎて、最初カジノで見た時は驚きすぎて頭が真っ白になったくらいだ」

 

 そこまでそっくりという事は、もしかするとそのセラと言うのが本当の瑠璃の名前なのかもしれない。だが何も思い出せない現状、セラと呼ばれても瑠璃は直ぐに反応する事は出来なかった。

 

「まぁとにかく、瑠璃の過去の手掛かりが見つかったかもしれないんだ。そう悲観する事も無いだろう」

 

 重苦しくなってきた雰囲気を払う為か、鉄平がコーヒーを淹れて持ってきた。温かいコーヒーを受け取った瑠璃は、一口飲んで口の中を潤す。気付けば口の中がカラカラになっていたのか、一気に半分近く飲んでしまった。

 

「ん、ん……はぁ」

「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁ!」

 

 喉が渇いていたのはネイトも同様だったらしい。あちらは一気に全部飲み干していた。飲みやすいようにと温度調整がされたコーヒーだが、それでも淹れたてを一気飲みするとは。

 

 そしてコーヒーを飲み干した瞬間、ネイトの顔には再び覇気が戻ってきていた。

 

「よし、決めた!」

「え、何を?」

「俺もセラの記憶を取り戻す事に協力する。セラと過ごしたのは短い期間だったが、それでもセラの事を知る俺が居た方が何かと役に立つだろ?」

 

 突然そんな事を宣うネイトに、瑠璃だけでなく鉄平と海羽も目を白黒させた。

 

「えっと、ネイトだったか? 具体的にどうするつもりだ?」

「とりあえず、セラと一緒に過ごしたい。って事で店長! 俺もこの店に住まわせてくれ!」

「ちょっと待て。いきなりすぎるだろうそれは」

「冒険で必要なのは決断力と判断力。思い立ったが吉日だ。迷う暇が勿体ない」

 

 先程の気落ちした様子は何処へ行ったのやら、ネイトは生き生きとした様子で鉄平に迫る。あまりの勢いに、鉄平もかなり押され気味だ。

 

 そんな様子に、瑠璃が助け船を出す意味でも口を開いた。

 

「いいよ、マスター」

「え!?」

「いいって、瑠璃姉ぇ本気!?」

「うん。どの道このままずるずると過ごしたって記憶が戻るとは限らないんだし。それなら、私の事を知ってるっていうネイトには近くに居てくれた方が良いと思う。ダメ……かな?」

 

 上目遣いに不安げな声で言われると、鉄平としても否と答えるのは難しい。

 確かに瑠璃の記憶が彼が居る事で戻る可能性があるのなら、彼には近くに居てくれた方が良いのかもしれない。だが彼には年頃の娘が居るし、ネイトの言う事がどこまで真実かも分からないのでは即断するのは難しかった。

 

 だが…………

 

「――――店の手伝いはするんだろうな?」

「勿論!」

「分かった。言っておくが、うちは男手が少ない。手伝うと言うからにはビシバシこき使ってやるから覚悟しておけよ」

 

 結局は鉄平もネイトの滞在を認めた。他ならぬ瑠璃が望んでいるのだ。彼女の記憶に関しては部外者の鉄平に、それを勝手な判断で拒める道理はない。

 

「ありがとうございます!」

「マスター……ありがと」

「気にするな。記憶……戻ると言いな」

「うん」

「それじゃ、ネイトさん。空いてる部屋に案内するから、こっち来て」

「あぁ。これからよろしくな、海羽ちゃん」

 

 ネイトを空いてる部屋に連れて行こうとする海羽の後ろ姿を、瑠璃と鉄平が見送る。2人が店から引っ込んでいったのを見送ると、瑠璃と鉄平は店の後片付けに取り掛かるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、朝早くにS.B.C.T.は全戦力を用いて再度地下研究所への攻撃に向かっていた。昨日の今日でそこまで増えてはいないだろう。残りのディーパーを殲滅するなら今だ。

 

 戦力を分散させることなく、しかし一網打尽にされないよう適度に感覚を開けながら現時点での最下層へと向かう。

 

 下の階層に向かうにつれて、施設内の雰囲気が有機的で不気味になっていく。どうやらディーパー達は研究所の一部を自分達の巣にしているらしい。もうどこから連中が飛び出してきてもおかしくはない。

 

 周囲に警戒しながら、スコープを先頭に最下層へと辿り着くS.B.C.T.。ここまで何の妨害もなかったことに不気味さを感じながら、連れ去られた2人の隊員が居ると思われるところまで進んでいく。

 

『αリーダー、気を付けてください。2人の反応がすぐ近くまで近づいています』

 

 不意に茜から通信が入った。ここまで来ると照明も全滅し真っ暗なので、全員暗視装置で暗い階層の中を注意深く観察していく。

 

 そして遂に、連れ去られた2人の隊員を見つけた。2人は正面の壁に、壁に埋め込まれるように囚われていた。

 

「居たぞ!」

「待ってろ、直ぐに助けてやるからな!」

 

 高田と馬場の2人がすぐさま彼らを拘束している壁に取り付き、体を壁に磔にしている樹脂の様な物を剝がしていく。

 その振動で、気を失っていた2人の隊員は目を覚ました。

 

「う、ぁぁ……」

「安心しろ、もう大丈夫だぞ」

「こ、殺せ……」

「は?」

 

 突然とんでもない事を口にする隊員に、高田が思わず動きを止める。その時、囚われている隊員の1人の体が唐突に引き攣った。

 

「う、あぁぁぁぁぁっ!? だ、ダメだ……殺してくれ。は、早く――!?」

「どういう事だ!? 何を言っている!?」

 

 スコープが隊員に近付き事情を問い質そうとするが、それよりも先に隊員の体に変化が起こった。彼の体がカビの繁殖を早送りで見ているように、全身がドロップチップで包まれたのだ。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!?!」

「マズイ、離れろ!!」

 

 これ以上は無理だと、スコープが高田と馬場の2人を引き剥がす。その直後、ドロップチップが彼の体に浸み込むように溶け込むと、拘束を引き千切って自由の身になった。

 

 拘束から解き放たれた瞬間、彼の体は人間のものではなくなっていた。

 

「グルルルル……」

「こ、こいつは――!?」

「グルアァァァァァァァァァッ!!」

 

 自由になった隊員……否、隊員が変異した事で生まれたディーパーが雄叫びを上げる。扁平な顔と右腕が鞭の様になったディーパー……レイ・ディーパーが体を震わせると、錆が落ちる様に体からドロップチップがポロポロと零れる。

 そして零れ落ちたドロップチップは、細胞が増殖する様に膨らみあっという間に下級のディーパーになってしまった。

 

「シャァァァァ……」

「グルルルル……」

 

「こ、こいつら、こうやって増えるのか!?」

「攻撃開始だ! 撃ち方始め!」

 

 本格的に行動を起こされる前に行動すべしと、一斉射撃するS.B.C.T.。放たれた銃弾が下級のディーパーを次々に仕留めていくが、肝心のレイ・ディーパーは素早く通気口に入って逃げてしまった。

 逃がすものかとスコープが通気口のに近付き銃口を向け引き金を引こうとするが、その時もう1人の隊員も変異が始まったのか悲鳴を上げ始めた。

 

「うぐっ!? お、あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「う、はっ――――!?」

 

 この瞬間、スコープは迷った。このままではこの隊員も下級ディーパーを生み出しながら自身もディーパーに変異してしまう。それならばここで一思いに殺してやった方が、彼も苦しまずに済むかもしれない。

 だが必ずしもそうとは限らない。ここで彼を撃とうとも、彼が変異する事を止められない可能性が高かった。

 何より、仲間を躊躇なく撃てるほど彼は割り切りのいい人間ではない。

 

 結果、彼が迷っている間にもう一人の隊員もディーパーに変異してしまいさらに複数の下級ディーパーを生み出してしまった。

 

 それだけではなく、前日の戦闘で倒し損ねたディーパー達が生まれた新たなディーパーの咆哮に引き寄せられてかこの場に集まって来た。周囲から迫るディーパーの気配に、スコープは己の弱さを悔やみながら、周囲の隊員に指示を出した。

 

「迎え撃て! 恐らくこいつらを全て倒せば掃討作戦は完了する!」

「逃げたディーパーは!?」

「分かっている! 北村さん!」

『聞こえてます、αリーダー』

「今すぐ大梅さんに連絡を。こんな時間ですが、今は頼れるのは彼女しかいません!」

『了解』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地下で激しい戦闘が行われているとは露知らず、窓の向こうが明るくなってきた部屋で夢の中を彷徨う瑠璃。寝返りを打って仰向けになった瞬間、緩く止めた寝巻の前がはだけた。

 

「んぅ~……」

 

 お腹は辛うじて掛布団で隠れているが、はだけて下着に包まれた胸が見える状態で眠る瑠璃の姿はとても扇情的だ。普段はポニーテールにしている髪が、ベッドの上に拡がる様子も不思議な色気を感じさせる。

 

 その時、枕元に置いてある瑠璃の携帯から着信音が鳴った。目覚まし代わりにしているアラームとは違う音に、瑠璃は一気に意識を覚醒させ飛び起きた。

 

「んわっ!? え? あ……はい、もしもし?」

『おはようございます、大梅さん。こんな朝早くからすみません』

 

 寝ぼけ眼で通話に出る瑠璃だったが、通話相手が茜だと分かると眠気が一気に覚めていった。

 

「何かあったんですか?」

『地下で再び戦闘を行ったのですが、ディーパーに1体逃げられ……今回は全戦力を地下に向かわせたので、更に周囲を包囲され追撃する事が出来ません。申し訳ありませんが……』

「分かりました、直ぐに行きます!」

 

 ベッドを飛び出し、手早く着替えて準備を整えるとリールドライバーを手に部屋を出る。あまり騒がしくすると鉄平達を起こしてしまう為、出来るだけ静かに部屋を出て廊下を歩き外に停めてあるバイクに向かった。

 

「……セラ?」

 

 静かに家を出た瑠璃に、ネイトだけは気付いた。冒険家生活で身についた、周囲の異変に敏感に反応する感性。それが反応し、瑠璃が部屋で慌ただしく起きたのに彼も気付いたのだ。

 

「こんな朝早くから何処に……?」

 

 静かに、だが剣呑な雰囲気を纏いながら家を出ていく瑠璃にネイトは首を傾げ彼女についていく。後ろをついてくるネイトに気付かぬまま、瑠璃はバイクに跨り現場へと向かう。茜からは凡その場所しか教えられなかったが、リールドライバーが導いてくれる。

 

 リールドライバーに導かれるままにバイクを走らせる瑠璃に、乗り物が無いネイトはついて行くことが出来ない。

 だと言うのに、彼の顔に焦りの色は見られなかった。

 

「こういう時はっと……」

 

 ネイトは徐に懐から何かを取り出した。それはリールドライバーに非常によく似ていた。違うところがあるとすれば、リールドライバーではルーレットになっている部分がスロットマシンになっているところくらいか。

 

 取り出したそれに、ネイトはドロップチップをそのまま入れレバーを下ろす。軽快な音と共に3つのリールが回るのを、ネイトはジッと見つめ――――」

 

「!」

 

 タイミングを見計らって、上部のスイッチを押しリールを止めた。止まった絵柄はどれも同じもの、波に乗るサーフィンボードが描かれている。

 

〈BINGO!〉

 

 絵柄が揃うと、ファンファーレの音と共にリールの絵柄が飛び出し形となってネイトの足元にサーフボードが出現した。ネイトはそれを見ると、手の中のスロットマシンを懐に戻しボードに乗った。彼が乗ると、サーフボードはまるで見えない波に乗ったかのように地面から僅かに浮き上がる。

 

「待ってろよ、セラ。今行くからな!」

 

 そのままネイトが体重移動させると、ボードはエンジンでも積んでいるかのように動き出し瑠璃の後を追いかけて行った。

 

 一方の瑠璃は、ネイトが後を追いかけてきている事など気付きもせずバイクを走らせる。時々リールドライバーを確認し、目的地を目指していた。

 

 どれほどそうしていたか、人気のない早朝の街中を瑠璃が走る。そして何気なく路上のマンホールの上を通り過ぎた。

 

 まさにその時、下からマンホールが打ち上げられるように吹き飛び、後輪がまだマンホールに乗っていたバイクは瑠璃を乗せたまま前方に転がるように吹き飛んだ。

 

「うあっ!? くぅっ!?」

 

 瑠璃も襲撃されるだろう事は想像していたが、まさか真下からいきなり来るとは思っていなかったので反応が遅れる。だが吹き飛んだバイクからは直ぐに手を離し、落下するバイクの下敷きになる事は回避する事に成功し、体勢を立て直して真下から襲撃してきたディーパーの相手に集中する。

 

 現れたレイ・ディーパーは、瑠璃の姿を見ると彼女が変身する間もなく襲い掛かって来る。

 

「ガルァァァァァッ!!」

「くっ!」

 

 リールドライバーを取り出してテテュスに変身しようとする瑠璃は、レイ・ディーパーの攻撃を掻い潜りながらリールドライバーを腰に装着しスロット部分にライフコインを挿入。その隙に襲い掛かろうとしてきたレイ・ディーパーであったが、それよりも早くに瑠璃がレバーを下ろしたことで現れたルーレットにレイ・ディーパーは阻まれ吹き飛ばされた。

 

〈Bet your life〉

「変身!」

〈Fever!〉

 

 何とか変身したテテュスは、レイ・ディーパーと対峙する。レイ・ディーパーは瑠璃がテテュスに変身すると、その能力を警戒してか先程と違い慎重に彼女の周囲を回り隙を伺った。

 

(見た感じ、エイの能力を持った奴みたいね。となると注意すべきは……右手の鞭ね)

 

 アカエイを始め、多くの種類のエイは尻尾に毒を持つ棘を持っている。棘は鋭く、しかも返しがついているので非常に危険で時には命の危険すらあった。

 本来のエイでもそれなのだから、この怪物と化したエイの毒はどれほどなのか考えたくもない。

 

 となるとここは先手必勝。何かやられる前にこちらから仕掛ける。

 

「はっ!」

 

 テテュスはレイ・ディーパーに飛び掛かり回し蹴りを放つ。放たれた蹴りをレイ・ディーパーは後方に飛ぶことで回避し、お返しに右手の鞭による攻撃を仕掛けてきた。放たれた鞭の一撃を、テテュスは防御ではなく回避する事でやり過ごす。

 その際鞭を注視すれば、それには確かに毒の棘と思しきものが見受けられた。

 

(やっぱり……)

 

 こうなると意地でも鞭による攻撃だけは喰らってはならない。悔しい事にテテュスには武器になるものが無い為、相手の武器による攻撃は基本回避が前提となる。これで何かしら武器、それも飛び道具があれば色々と出来る事はあるのだが、無い物ねだりしても仕方がない。

 

 それに武器が無くても、武器を持つ相手に対抗する手段はある。

 

〈Bet. Good luck〉

「赤の34!」

〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉

 

 テテュスはディープダイビングを発動させ、足元の地面に潜った。レイ・ディーパーはテテュスが地面に潜ったのを見て、困惑しその地点を中心に周囲を見渡す。

 一方地面の下に潜ったテテュスからはレイ・ディーパーの様子が手に取るように分かる。テテュスは地面の中を泳ぎ、レイ・ディーパーが隙を晒した瞬間飛び出しその背中を蹴り飛ばす。

 

「とりゃっ!」

 

 背中を蹴り飛ばされ、地面に倒れるレイ・ディーパー。

 倒れたレイ・ディーパーにテテュスが追撃を仕掛けようとした次の瞬間、今度はテテュスが困惑する事が起こった。

 

 何とレイ・ディーパーの姿が周囲に溶け込むように消えたのだ。

 

「えっ!?」

 

 今正に追撃しようとしていたテテュスはこの事態に攻撃を中断し、先程までレイ・ディーパーの居た場所を注意深く観察する。見た感じ、そこに何かが居るようには見えない。

 

 一瞬レイ・ディーパーもテテュスと同じように地面に潜る事が出来るのかと思ったが、消える直前にレイ・ディーパーが地面に潜った様子は見られなかった。となるとこれは、地面に潜ったと言うよりは姿を消したと言った方が正しいだろう。

 実際エイは海底に擬態し、近くを獲物が通り過ぎたり天敵が消えるのを待つ。レイ・ディーパーもそれと似たような能力を持っているのだ。

 

 となると、今の状況は不味い。レイ・ディーパーが姿を消した瞬間、テテュスは驚き動きを止めてしまった。この隙にレイ・ディーパーはテテュスを攻撃する為の位置に移動しているに違いない。

 

 テテュスは急いでディープダイビングにより近くの物体に潜りレイ・ディーパーの攻撃をやり過ごそうとした。だがそれは手遅れだった。

 

 出し抜けに背中に鋭い痛みが走り、その勢いに押されテテュスはその場に倒れてしまった。

 

「あぁぁっ?!」

 

 テテュスが倒れると、その瞬間レイ・ディーパーが姿を現す。右手の鞭を左手で撫で、その様子はどこか勝ち誇っている。

 

「甘く見ないでよね!」

 

 姿を見せているなら攻撃のしようもある。立ち上がったテテュスが反撃しようとするが、それよりも早くにレイ・ディーパーが再び姿を消しテテュスの攻撃は空しく空を切った。

 

「くっ、また――――!」

 

 再び姿を消された事にテテュスは焦りを感じたが、今度は次の行動を考えている暇はなかった。攻撃を絡部った次の瞬間、今度は脇腹に鞭による一撃が襲い掛かる。

 

「うあぁぁっ?!」

 

 レイ・ディーパーの攻撃はそれだけに留まらず、体勢を立て直す暇も与えないとばかりに何度も鞭が振るわれた。元より装甲の薄いテテュスにはこの攻撃は辛く、更には毒の棘によるダメージもあって見る見るうちに彼女の体力は削られていった。

 

「あうっ?! う、ぐぅっ!? あぁぁぁぁぁっ!?」

 

 人気のない早朝の街中にテテュスの悲鳴が響き渡る。

 

 何度も振り下ろされた鞭のダメージにより、遂にテテュスが膝をつく。装甲は罅割れ、スカートも所々破れたその姿は痛々しい。

 

「うぐ、はぁ……はぁ……」

「グルルルル……」

「ぐぅっ!?」

 

 膝をつき動かなくなったテテュスの首を、レイ・ディーパーが右手の鞭で締め付ける。体力の低下したテテュスにこれを振り払う力はなく、レイ・ディーパーはそのまま彼女を何処かへと引っ張っていこうとした。

 

 その時、追いついたネイトがサーフボードに乗りながらレイ・ディーパーに体当たりをした。

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ネイトがサーフボードとは思えぬ速度で迫っていた事、武器である鞭をテテュスの首を縛る事に使っていた事などがあり、レイ・ディーパーはネイトの突撃に対する反応が遅れてしまう。

 結果、ネイトの巧みな操作により飛び上がったサーフボードのプレスを受けレイ・ディーパーは押し倒され更にはテテュスを離してしまった。

 

「よっと! あれ? セラの悲鳴が聞こえたと思ったんだけど……」

「げほっ!? ごほごほっ!? な、何でネイトここに?」

「え? その声もしかしてセラ!?」

 

 思わず声を上げてしまったばかりに、テテュスはネイトに正体がバレてしまった。その事に一瞬しまったという顔になるが、今はそれどころではないので無視した。

 

「そんな事どうでもいいから。それよりもありがとう、助かったわ。でもここは危ないから早く逃げて」

「逃げろったって――――」

 

 いきなり逃げろと言われて渋るネイト。

 その間にレイ・ディーパーは立ち上がり、邪魔をしたネイトに仕返しのつもりで鞭を振るった。

 

「シャァァッ!」

「ッ! セラ危ない!?」

 

 振るわれた鞭がしなるのを見て、ネイトは咄嗟にテテュスの前に立ちサーフボードを盾代わりにする。鋭い一撃にサーフボードは、破壊されはしなかったがそれでも踏ん張りきる事が出来ずそのまま吹き飛ばされ地面に倒れた。

 

「いってぇ!?」

「ネイト!」

 

 テテュスは倒れたネイトを心配して近付くが、その際彼の懐から1枚のコインが落ちたのに気付いた。

 色や絵柄は違うが、デザインそのものはテテュスのライフコインと同じ物。それを見てテテュスは仮面の奥で目を見開いた。

 

「こ、これって――!?」

――それを使って――

「え、使うって……」

 

 黄色いライフコインを見た瞬間、脳裏にあの声が響いた。訳が分からないながらも、テテュスはそれを拾い立ち上がった。

 

 どうすればいいかは何となく分かる。何も入れていない状態でレバーを下ろすと、スロットから吐き出されるように青いライフコインが飛び出したのでテテュスはそれをキャッチ。するとそれまで腰に巻かれていたスカートが水泡のように弾けた。それを見て、テテュスは今度は黄色いライフコインをスロットに挿入してレバーを下ろす。

 

〈Bet your life〉

 

 眼前に出現したルーレットが回り出す。テテュスは体の痛みを無視して、冷静に見つめボールが入るポケットを予想した。

 

「ネクストゲームよ」

 

 テテュスの言葉の直後、ボールはルーレットの中で一際異彩を放つ緑色の0のポケットに入る。

 

〈Raise up〉

 

 するとルーレットが回転しながらテテュスの左腕を包む。ルーレットは彼女の左手を包みながら水泡のように消え、代わりに左手には黄色い半円の装備が装着される。

 

 それはぱっと見、航海の必需品である六分儀によく似ていた。複雑にパーツが組み合わさったそれが、テテュスの左手首に装着されている。

 

「これ、は…………ッ!」

 

 自らの左手に装着された六分儀に呆然としていると、レイ・ディーパーが再び攻撃してきた。回避は間に合わないと察したテテュスは、咄嗟に左手を振るい六分儀で鞭を弾こうとした。

 

 次の瞬間、鞭は六分儀により切り裂かれた。

 

「えっ!?」

 

 よく見ると六分儀の縁は鋭く磨かれており、刃の様になっている。これがレイ・ディーパーの鞭を切り裂いたのだ。

 

「ギィッ!?」

 

 まさか鞭が切断されるとは思っていなかったレイ・ディーパーは、驚き一瞬動きを止めるが直ぐに姿を消した。唯一の武器である鞭を切断され、状況の不利を察したのだろう。

 

 このまま逃げられるとマズイ。だが追おうにも、姿を消されたのでは追跡のしようがない。

 

 途方に暮れるテテュスに、またしても謎の声が語り掛けてくる。

 

――大丈夫。今のあなたなら――

 

 瞬間、テテュスはこの六分儀の使い方が分かった。

 

 左手を伸ばし、右手を左手に添える。その姿はまるで弓を構えているようだ。

 

 六分儀を構えた瞬間、テテュスは視界が大きく開けるのを感じた。まるで頭の中に上空からの映像が映し出されたような感覚。

 その感覚の中で、明らかに異彩を放つものがあった。レイ・ディーパーだ。姿を消したはずのレイ・ディーパーが、今のテテュスにははっきりと分かる。

 

「見つけた!」

 

 テテュスはレイ・ディーパーが居る方に体を向けると、六分儀の装着された左腕を上空に掲げ右手を引いた。すると六分儀の弧の両端部分が水の弦で結ばれ、テテュスの右手がそれを引くことにより六分儀が大きく”しなる”。

 

 そしてもうそれ以上弦が引けなくなった瞬間、テテュスが右手を離すと六分儀……いや最早これは弓だ。六分儀を模した弓『セクスタントボウ』から、水で出来た様な半透明の矢が発射され遥か上空へと飛んでいく。

 

 放たれた矢は上空へと飛んでいくが、限界高度まで到達すると弧を描いて勢いのままに落下する。

 矢が落下していくその先には、未だ姿を消したままのレイ・ディーパーが居て――――

 

「ギァァッ?!」

 

 音もなく上空から飛来した矢が、落下エネルギーも乗せてレイ・ディーパーの体を貫いた。矢は見事にレイ・ディーパーの急所を貫き、一撃で仕留め爆散させる。

 

 離れた所でレイ・ディーパーが爆発したのを察したテテュスは、緊張の糸が切れたようにその場に座り込みそのまま変身を解除。

 仮面の下にあった瑠璃としての顔を、ネイトの前にさらけ出した。

 

「やっぱり、セラ! あれは一体なんだ? 何で君が?」

「えっと……あはは……」

 

 何と答えるべきか迷った瑠璃は、疲れもあって曖昧な笑みを返すだけに留めた。

 

 だが笑ってばかりもいられない。今回は正直危なかった。ネイトが来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。

 

 だからこそ、彼女は筋だけは通そうと疲れた体に鞭打って頭を働かせ口を開いた。

 

「えっと、ネイト……」

「それから……え、何?」

「……ありがとう」

 

 先程とは違う柔らかな笑み。普段店で客相手に見せるのとは違う種類の笑みを向けられ、その笑顔にネイトは昔であったセラの面影を確かに見た。

 

 だがそれ以上に、澄んだ水面の様な笑顔に心を奪われそれまで頭に浮かんでいた全ての言葉や疑問が吹き飛んでしまった。

 

「お、おぅ……き、気にすんな」

 

 何を言おうとしていたかを忘れ、顔を赤くしながらそれだけを口にしたネイト。まるで思春期の少年の様な反応に、瑠璃は思わず吹き出してしまうのだった。




という訳で第8話でした。

ディーパーはエイリアンよろしく、人間を使って数を増やします。話の裏でも何人か行方不明になっていて、その人達で数を増やしていた感じですね。

ネイサンことネイト。彼は瑠璃の過去を知る人物として現れました。今後は彼も物語に大きく関わってきます。

漸く出せたテテュスの新たな姿。弓を使って遠くの敵を攻撃するのが得意なその名もアローレイズと言う姿です。弓ではありますが、この弓も仮面ライダーに登場する弓なので当然接近戦にも使えます。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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