仮面ライダーテテュス   作:黒井福

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第9話:シャーク、無意識の意識

 地上での戦いが一段落した頃、地下での戦いも終結に向かっていた。

 

 元々先日の戦いで大きく数を減らされていたディーパーは、最初こそ奇襲によりS.B.C.T.を翻弄していたがそれもすぐに押し返された。本気で連携を取るS.B.C.T.の前に下級ディーパーは直ぐに数を減らしていく。

 

 その中で唯一別格の隊員が変異したディーパーも、スコープには力及ばなかった。

 

「これで!」

〈Recognition〉

「タァァァァァッ!」

 

 スコープのエンドスマッシュがディーパーに炸裂し、隊員が変異したディーパーを倒す事に成功。そしてそれがこの地下に巣食っていたディーパーの最後の一体であった。

 

 ディーパーを倒し、それでも尚警戒し周囲に気を配るスコープとライトスコープ達。暫く待っていたが、ディーパーの増援がやってくる気配はない。

 

「北村さん、こちらαリーダー。最下層のディーパーは全て倒しました。逃げた奴はいませんか?」

 

 もしかすると状況の不利を察して、この場を捨てて別の場所に巣を作ろうとするやつが出たかもしれない。それを警戒してスコープは茜にセンサーの確認を頼んだ。

 果たしてその結果は直ぐに知らされた。

 

『北村です。確認しましたが、センサーに反応はありませんでした。逃げた奴はいないようです』

「という事は……」

『一先ず、地下研究所内のディーパーは殲滅完了です。お疲れ様でした』

 

 茜からの戦闘終了の言葉に、S.B.C.T.の隊員達はスコープも含めて安堵の溜め息を吐いた。ここまでやって、逃げられて別の場所に巣を作られて数を増やされました、など冗談ではない。

 

「了解。これより帰還します」

 

 スコープの言葉を合図に、S.B.C.T.の隊員達は最下層から引き上げていく。場所的に一番奥に居たスコープは、全員が引き上げていくのについて行く形になる。

 

 最後にその階を立ち去る直前、スコープは最後にもう一度そのフロアを振り返り自分の目で安全を確かめる。

 ざっと見渡した限り、怪しく動くものは見当たらない。ディーパーは完全に殲滅された。

 

 とは言え、これですべて終わりという訳にはいかないだろうとスコープはフロアを見渡しながら考えた。

 

(ディーパー達は外から……海底からこの街に入り込んできた。という事は、海都の周りの海の中にはまだまだディーパーが蔓延っているという事……)

 

 今回は深海の施設という事で地下研究所が奴らに狙われたが、奴らはその気になれば地上を直接襲撃する事もできる。

 

 この街を襲う危機は、まだ去ってはいない。

 

「今回の任務……長丁場になりそうだな」

『それは予想出来ていた事です。この街に、全く新しい仮面ライダーが現れた時から……』

 

 出し抜けに通信機から茜の声が響いてきた事に、スコープが驚き肩をびくりと震わせた。

 

「うぉっ!? き、北村さん聞いてたんですか?」

『通信機つけっ放しにしてたのは小早川さんの方じゃないですか。それなのに聞いてたも何もありませんよ』

「あ……」

 

 スコープはすっかり忘れていた。通信機は一応オンオフできるのだが、スコープに変身する慎司は咄嗟の時に通信が遅れることを恐れて任務中は基本通信機をつけっ放しにしている。この時はそれを自分ですっかり忘れていたのだ。

 

『とにかく! 大変なのはこれからですよ。気合入れてくださいね、小早川隊長?』

「了解です」

 

 これは茜なりの激励なのだろう。ここで気を抜く事無く、S.B.C.T.の隊員として頑張れと言うメッセージなのだ。

 スコープは仮面の奥で苦笑し、内心で彼女に感謝をした。

 

『ほら、早く戻ってきてください。戦闘結果の報告などもやらなきゃならないんですから』

「分かってます。今から戻りますよ」

 

 踵を返し、スコープは最下層を後にするのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 レイ・ディーパーを倒した瑠璃は、体力が完全に回復する前に店へと戻っていた。何しろ朝早くにあれだけ騒がしくしたのだ。人気の少ない時間帯と言えども、寝ていた人々は起きて時間が経てば人は集まる。その時に、瑠璃がその場にいてはいらぬ騒ぎに巻き込まれてしまう。

 

 まぁそれとは別に、ネイトに仮面ライダーの事などを説明する為でもあったが。

 

「――――という訳」

 

 瑠璃はネイトに一通り話した。つい最近海でリールドライバーを見つけた事。リールドライバーに既視感を覚えた事等、何も思い出せてはいないが何かが思い出せそうだという事を包み隠さず話した。

 

 話を聞き終え、ネイトはしばらく黙って考え込んだ。無理もない。いきなりこんな事を話されても、直ぐに受け入れろと言うのは難しい話だ。仮面ライダー自体は、2年前の事もあって世界中でその存在を都市伝説の域を超えたものとして認識されているが、目の前に居る瑠璃が仮面ライダーに変身して戦っていると告げられても頭の処理が追い付かないだろう。

 

 2人が帰った時、鉄平はまだ寝ていたのでこの場に居るのは2人だけ。ネイトは先程から考え込んでいる為、2人の間に何とも重く居心地の悪い空気が漂っていた。

 

「――――そのリールドライバー、俺も見た覚えがある」

「え!?」

「セラの故郷に、それは確かにあった。集落の奥地にある祭壇に祀られてるのを、見たのを今でも覚えてる」

 

 ネイトはそう言いながら、自分も懐からリールドライバーによく似た物を取り出した。ルーレットかスロットマシンかと言う違いこそあるが、その2つは非常によく似ている。

 当然、瑠璃は身を乗り出しネイトが取り出したそれを近くで眺めた。

 

「これ、どうしたの!?」

「昔、俺が師匠とあちこち冒険してた時に俺が見つけた。用途とかを調べる為に持ち歩きながら色々調べてたんだ」

「……ねぇ、これ使ってる時に声が聞こえたりしたことない?」

「声? いや、そんなのが聞こえて事は無いぞ。と言うか、これで仮面ライダーに変身できるかどうかも分からないし」

「そっか……」

 

 謎の声の手掛かりになるかと思ったが、そう簡単な話ではなかったことに瑠璃が落胆し肩を落とす。ネイトは瑠璃からスロットを受け取り懐に仕舞い直す。

 

 その時、彼の中である可能性が浮上した。

 

「もしかして、セラの故郷を襲ったのってさっき言ってた海賊小僧たちじゃねえか?」

「え?」

「その海賊小僧、リールドライバーがお宝への道標だって言ってたんだよな? って事は、お宝目当てでリールドライバーを手に入れる為に集落を襲って、リールドライバーを奪っていったんじゃ……」

 

 それは、確かにありえない話ではなかった。何よりネイトの話を信じるなら、リールドライバーは元々その島の故郷に祀られていたとか。それをバーツ達が持っていたという事は、集落はバーツ達に襲われた可能性が非常に高かった。

 

 瑠璃の記憶はその時に失われたのかもしれない。そう思うとネイトは自身の中に怒りがわき上がってくるのを自覚せずにはいられなかった

 

 

「そいつら……許せねぇ――! 見かけたら絶対一発ぶん殴ってやる」

 

 本気の怒りを見せるネイトの様子に、瑠璃はなんだか嬉しくなり小さく笑みを浮かべる。

 

 なんだか不思議な気持ちだった。記憶には全くないのに、彼は自分に親身になって接してくれる。それが自然に受け入れられて、一緒に居ると何だか安心してしまった。

 やはり彼の言う通り、自分の本名はセラで彼とは昔会った事があるのだろうかと瑠璃は存在しない過去の記憶に思いを馳せる。

 

「……ありがとう、そこまで怒ってくれて。でも、無茶だけはしないでね。戦うのは私の役目だから」

 

 いくら意気込みがあっても、変身したバーツ達に生身で勝てる訳がない。戦うのはテテュスに変身できる瑠璃の役目だ。

 ネイトもそれを分かっているからか、悔しそうに握り締めた拳を下ろす。

 

「くそ、情けねぇ……」

「気にしないで。そんな風に怒ってくれるだけで十分よ。あ、でもね……」

「うん?」

 

 彼と自分は無関係ではないのかもしれない。そう思い始めていた瑠璃ではあったが、それでもまだセラと呼ばれることには違和感が拭えない。

 なので――――

 

「私が本当に記憶を取り戻して、セラだって自信を持って名乗れるようになるまでは、皆と同じように瑠璃って呼んでくれない? 正直、セラって呼ばれることにどうしても違和感あって……」

 

 瑠璃の頼みに、ネイトはちょっぴり難しい顔になった。彼の中では既に瑠璃=セラであり、セラと呼ぶことの方が彼にとっては自然な事なのでそれを曲げる事に僅かながら抵抗があるらしい。

 だが記憶を失っている彼女にセラである事を押し付けるのは別の話だ。無用なストレスを感じさせるのも良くはないだろう。であるならば、彼女の希望通りに暫くは瑠璃と呼んでやるべきだ。

 

「……分かったよ。瑠璃……これでいいんだろ?」

「うん。記憶、何時戻るか分からないけど……待っててね。きっと、思い出して見せるから」

「あんまり気負うなよ。気長に、ゆっくりやっていこう。俺も付き合うからさ」

 

 漸く出会えた、過去の自分を知る人物が傍で支えてくれると言う事に、瑠璃は安堵と同時に温かい何かが胸に拡がるのを感じた。海羽達と過ごす時とは違う、瑠璃にとっては初めての感覚に内心で戸惑いを感じずにはいられなかった。

 

「さ、さぁてと! そろそろマスター達も起きてくるだろうから、その前に身支度整えなくっちゃね!」

「そうだな。俺も今日から手伝う訳だし、初日から情けない姿見せられねえ」

 

 2人は立ち上がると、瑠璃は戦闘の汗を流す為浴室に向かいネイトはキッチンに向かい起きてくる鉄平達の為にコーヒーを淹れに向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その日の夜、BAR・FUJINOは何時もとちょっと違う営業をしていた。

 

 店は開いているが、表の看板には今日のおすすめなどのメニューはなく、端的にこう書かれているだけだった。

 

 曰く、本日貸し切り。

 

 大仕事を一つ終えたS.B.C.T.が、今日ばかりはと飲みに来たのだ。流石に有事の際に誰も対応できないのは問題なので、参加したのはαチームとβチームだけだった。居残りのγチームはまた後日、という事になる。

 

 いつもとは違った賑やかさの店内には、談笑する隊員の笑い声などが響き渡る。瑠璃と海羽、そしてネイトの3人は、その隊員達の間を縫うように動き酒や料理を配膳していく。

 

「はい、こちらビールのお代わりで~す!」

「は~い、こっちこっち!」

 

 既に酔いが回って赤らんだ顔の隊員に、瑠璃はジョッキに入ったビールを持っていく。それが終わったかと思えば別の隊員からは本日のおすすめである、ミネストローネを注文されたのでそれを鉄平に伝えに行く。

 

 普段とは全く違う忙しさの店内に、接客が初めてのネイトや学生の海羽は勿論、瑠璃も少し大変そうだった。

 流石に普段、仕事終わりにゆったり飲みに来る客達とは勝手が違う。一仕事終えた戦う男達が英気を養おうとするパワフルさは想像以上だ。

 

 流石に申し訳なく思ったのか、慎司が瑠璃に頭を下げる。

 

「すみません、大梅さん。こんなに騒がしくしてしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ。確かに何時もよりは忙しいですけど、皆さん良くしてくれてますし」

 

 酔った勢いで悪い絡み方をしてくる客に比べれば、楽しく飲んでくれているだけの彼らはずっと良い客だった。

 

 とは言えやはり申し訳ない事に変わりはないので、慎司は改めて瑠璃に頭を下げた。

 

「本当にすみません。それと、話は変わるのですが……」

「はい?」

 

 今日は最初の目標であったディーパーの地下研究所からの排除を達成した事を祝しての打ち上げと言う形で飲み会を行ったのだが、慎司としてはここには別の目的があってきていた。

 

「明日、庁舎の方まで来ていただけませんか? 今街に来ている海洋生物学の学者である北條博士が、大梅さんにも是非会いたいと」

 

 なんでもその博士と言うのが、海洋生物学の権威であるとか。そんな凄い人物が自分に何の用があるのかと首を傾げつつ、瑠璃は頷き明日の予定に組み込んだ。

 

 

 

 

 そして翌日、瑠璃は指定された時間に合わせて庁舎まで足を運んでいた。

 

 その隣には、瑠璃が出かける事を察してついてきたネイトも居る。

 

「……ねぇ、何でネイトまで来たの? ネイト呼ばれてないじゃん?」

 

 今日呼ばれたのは飽く迄瑠璃1人であり、ネイトは呼ばれていないのだ。だから例えついて来たとしても、部外者という事で門前払いされる可能性も大いにあった。

 

「どうにもな……心がざわつくって言うか、悪い予感がするんだよ」

「悪い予感? 何それ?」

「知らねえ。だが冒険家やっててこの感覚が来た時は必ず何かが起こった。今回も何か起こる気がする。だからついて行くんだ」

「門前払いされても知らないからね」

 

 まぁ恐らく、ネイトは外で待たされることになるだろう。そんな事を考えながら瑠璃は庁舎に入り、指定された部屋に向かう。

 

「あ、お待ちしてました。……って、そちらの方は?」

 

 部屋の前には制服姿の慎司が待っていてくれた。彼は瑠璃の姿に気付くと手を上げて挨拶し、案の定勝手について来たネイトに首を傾げる。

 が、直ぐに昨夜店でウェイターをしていた男であることに気付いた。

 

「あ! お店のウェイターさん? 何故ここに?」

「まぁ、瑠璃の付き添いって事で一つ」

「一つ、と言われましても……あまり部外者を入れる訳には……」

「別に部外者って訳じゃないよ。仮面ライダー絡みなんだろ?」

「ッ! ご存じでしたか?」

「まあな」

 

 何も知らない本当の部外者であれば門前払いも辞さないが、事情を知っているのであれば話は別。嘗ての事もあり、仮面ライダーに係わる人は無下には出来ず慎司はどうすべきか悩んだ。

 

 慎司が腕を組んで次の行動の選択に悩んでいると、部屋の扉が開き芳江が顔を覗かせてきた。

 

「何をしているんです?」

「あ、北條博士」

「あ! この間の!」

「あぁ、あなたでしたか。よく来てくれましたね。まぁ入ってください」

 

 芳江はネイトの事等露とも気にせず全員を部屋に招き入れた。ネイトを入れるべきかどうすべきか迷っていた慎司も、芳江が言うのならばと何も言わず瑠璃とネイトを通す。

 

 部屋の中は簡単な研究室の様になっていた。机の上にはパソコンが置かれ、壁の棚には様々な資料とファイルが収められている。

 そして部屋の片隅には、何かが浮かんでいるバスケットボールより大きい程度のカプセルが鎮座していた。

 

「さ、とりあえず適当なところに座ってください」

 

 言われて瑠璃達は適当な椅子に腰かける。元はちょっとした会議室だったのを臨時の研究室として使用しているらしい。長い机と無数の椅子の存在で、座るところには苦労しなかった。

 

 全員が椅子に座ると、芳江はコーヒーメーカーから人数分のコーヒーを淹れて手渡した。

 

「どうぞ」

「どうも。えっと、前に警察署で会いましたよね? 私、大梅 瑠璃です」

「お話は伺っています。海洋生物学者の、北條 芳江と言います。以後お見知りおきを」

 

 芳江が手を差し出してきたので、瑠璃もそれに応え2人は握手する。

 だがその際、瑠璃は芳江が向けてくる視線と手をつないだ際にざわついた自身の心の異変に内心で首を傾げた。

 

(?……何だろ?)

「あ、俺は――」

「それで、今日あなたをここに呼んだ理由ですけど……」

「って、お~い?」

 

 瑠璃に続いて自己紹介しようとしたネイトだったが、こちらは半ば無視されて別の話題に移る。ネイトが流石に抗議の声を上げるがこれも無視だ。

 

 何だかネイトがちょっぴり憐れになったのか、慎司がポンと彼の肩を叩く。それが何だか逆にみじめな気分になり、ネイトはさらに落ち込んだ。

 

「え、え~っと、それでお話って?」

 

 今は掛ける言葉が見つからなかったので、瑠璃は悪いと思いつつネイトの事は無視して芳江に話の先を促す。

 

「まずは、こうして改めて仮面ライダーというものに会っておきたかったんです。この目で直接見れて、感激ですわ」

「それは、どうも……」

「でここからが本題。先日小早川隊長たちによって地下施設が解放され、本格的にディーパーに関する研究を行っていこうと思っているんですが……」

 

 そこで芳江は言葉を区切ると、机の上にドロップチップを1枚置いた。

 

「先だってこれに関しては、ある程度分かった事があるので報告しておこうと思いまして」

「ドロップチップ? これがどうかしたんですか?」

「まずこれがどのような組成かですが、このチップは物質でありながら反物質的な性質を持っている事が分かりました」

 

 芳江はさも当然のように言うが、いきなり反物質的なんて言われても理解が追い付かない。案の定瑠璃は勿論、ネイトや慎司でさえも頭にはてなマークを浮かべた。

 

「えっと……何? どういう事?」

「物質なのに反物質?」

「あの、博士? 出来れば分かりやすく話していただけないでしょうか?」

「ん~、そうですね……端的に言えば、これは物質でありエネルギーの塊でもあるという事です。エネルギーが氷になったとでも言えば分かりやすくなりますか?」

 

 これで漸く瑠璃達の頭にも入って来た。要は形の残らない電池の様な物なのだろう。エネルギーを使い切れば、後には何も残らないという事だ。

 

「何故そんなものがディーパーの中から?」

「そこまでは私にも……ただ、もしかするとこれこそがディーパーのエネルギー源の様な物なのかもしれません」

「生命活動を止めたから、エネルギーだけが残った……と?」

「その可能性もあります」

 

 気付けば慎司と芳江が話し込み、瑠璃とネイトが蚊帳の外に追いやられていた。テテュスに関して少しは話が聞けるかと最初期待していた瑠璃であったが、この様子ではそれも望み薄かと諦めぼんやりと部屋の中を見渡す。

 

 その時、彼女の目に部屋の片隅に置かれたカプセルが映った。

 

「――――ん?」

 

 最初何気なくカプセルを見た瑠璃は、次第にそのカプセルに興味を引かれ気付けば誘蛾灯に引き寄せられる虫の様にフラフラとカプセルに近付いていた。

 

「瑠璃?」

 

 唐突に様子がおかしくなった瑠璃にネイトが声を掛けるが、聞こえていないのか瑠璃からの返答はない。

 

 そのまま瑠璃はカプセルに近付き、その中を覗き込む。

 

 カプセルの中には、人の頭の様な物が浮かんでいる。ただしその頭には皮膚が鱗で覆われており、一目で人間の生首ではない事が伺えた。

 

「――――」

「…………え?」

 

 その生首を瑠璃が虚ろな目で見つめながら、何かを口走る。ネイトがそれを聞き返すと、瑠璃はハッとした様子でネイトの方に顔を向けた。

 

「ん? 何?」

「何って、そりゃこっちのセリフだ。一体どうした?」

「どうした……って?」

「そのカプセルの中を見てぼんやりしてたぞ?」

 

 ネイトに言われて瑠璃はカプセルの中を改めて覗き込み、そしてその中に浮かぶ生首を見て驚き体を仰け反らせた。

 

「ッ!? な、何これ!?」

「え?」

「大梅さん?」

「何だ?」

 

 瑠璃の反応にカプセルの中が気になり2人が覗き込み、瑠璃と同様中に浮かぶ生首を見て顔を顰める。

 

「何だこりゃ!?」

「北條博士、これは?」

 

 驚く2人に、芳江は難しい顔をするとその生首の事を2人に説明し始めた。

 

「それは昔、私が回収したディーパーの頭部です」

「ディーパーの頭部!? 残ってるんですか!?」

「それだけは特別なんです。どういう訳か頭部だけで存在し、動くことはありませんが消滅もしないんです」

 

 芳江の言葉に、ネイトと慎司はもう一度カプセルの中を見る。芳江曰くこの状態でまだ生きている……と言うか、死んでいないらしい。一体どういうことなのか。

 

 2人が悩んでいると、唐突に芳江が上から布を被せて中が見えないようにした。

 

「あ……」

「すみません、最初から隠しておくべきでしたね。あまり人に見せるべきものではありませんでした」

「いえ……」

「現時点では分からないことが多いのですが、これに関しても並行して研究を進めておきます。恐らくは今回の事態の解決に一役買ってくれるでしょうから」

 

 言外にもうこれ以上これに関しては触れるなと言われ、仕方なく引き下がる事にした。

 

「取り合えず、皆さんとは今後も良い関係でいたいと思っています。ですので、ディーパーに関して何か分からない事があれば、私に聞いてください。出来うる限りはお答えします。特に仮面ライダーである大梅さんには、ね?」

「は、はぁ……」

 

 芳江は人の良さそうな笑みを向けてくるが、瑠璃はディーパーの頭の事もありやや引き攣った顔をしながら適当に返した。

 

 この日はこれで解散という事になり、3人は芳江の臨時研究室を後にした。芳江曰く、地下研究所からディーパーが一掃されたので、今後完全に地下の安全が確認されたら機材などを地下に移し以降はそこが拠点になるらしい。つまり次からは、芳江に用事がある時は地下研究室に向かう必要があるという事だ。

 

 だが瑠璃個人としては、、芳江とは関わり合いになりたくはなかった。何と言うか、上手く言葉にはできないのだが、とにかくあまり芳江に近付きたくないと思っていた。

 

「それでは、私はこれで」

 

 慎司とは庁舎の前で別れ、瑠璃とネイトは店に戻る道を歩いていた。

 その道中、周りに人が居ないのを見て、先程から気になっていた事を瑠璃に訊ねた。

 

「なぁ、瑠璃? さっき研究室であの生首見た時に言ってたあれってどういう意味だ?」

「あれ? あれって何?」

「ほら、あの生首カプセル見た時言ってたじゃないか。確か、えっと……そう。『ラハブ』って……」

「ラハ……ブ――――」

 

 ネイトの言うラハブと言う単語を繰り返す。

 

 それが何なのか?

 

 何を意味しているのか?

 

 何故その単語を口にしたことを覚えていないのか?

 

「何なんだ? その、ラハブって?」

「分からない。分からないけど……とても大事な事の様な気がする」

 

 ぼんやりと呟きながら、瑠璃はリールドライバーを取り出した。

 

 瞬間、羅針盤が勝手に回り始めた。

 

「「ッ!?」」

 

 突然の羅針盤の動きに2人は目を見開く。そうしている間に、羅針盤の動きが止まりある方向を指した。

 羅針盤が動きを止めたのを見て、瑠璃は早速そこに向かって駆け出す。

 

「あ、おい瑠璃!」

「多分、またディーパー! 私行かなきゃ!」

 

 ネイトの制止も聞かず、現場に急ぐ瑠璃。今回はバイクが無いので、急いで走らなければならない。

 

 リールドライバーを見ながら走り続けて数分、瑠璃はディーパーが現れた現場に到着した。

 場所は景観の為に街中に造られた川辺。住民たちの憩いの場の一つである穏やかな流れの川から、下級ディーパーが無数に姿を現す。

 突如姿を現した怪物に、川辺で休んでいた人々が悲鳴を上げて逃げだした。

 

 その人々の流れに逆らう様に瑠璃は川辺へと近づき、現れる下級ディーパー達の前に立ちはだかる。

 

「こいつらか……特別な個体は無し。なら行ける!」

〈Bet your life〉

「変身!」

〈Fever!〉

 

 瑠璃はテテュスに変身し、素早く下級ディーパーに接近し数体を回し蹴りでまとめて蹴り飛ばす。流石に下級ディーパーともなれば倒すのは容易で、今の一撃で数体纏めて蹴り飛ばされる。

 

 テテュスが一気に下級ディーパー数体を倒した直後、ネイトが追い付き現場に到着した。

 

「ととっ! 今回は結構多いな? 瑠璃、大丈夫か!」

「大丈夫! 数は多くても、これで!」

〈Bet your life〉

「ネクストゲーム!」

〈Raise up〉

 

 スカートが消え代わりに装着されたセクスタントボウ。そのリムの部分でまずは近付いてきた下級ディーパーを次々と切り裂いていく。下級ディーパー達も爪や牙で対抗するが、コバルトウェーブなどとの戦闘で経験を積んだ今のテテュスは確実に腕を上げていた。

 振り下ろされる爪などをセクスタントボウで防ぎ、蹴りで押し返すと体勢が崩れた敵にすかさず矢を放つ。体勢が崩れた下級ディーパーは一撃で倒された。

 

「ほっと!」

 

 ここでテテュスは徐に下級ディーパー達から距離を取る。後方に飛び距離を取り、同時にケースからドロップチップを5枚取り出した。テテュスはそのチップをベルトに挿入し、レバーを下ろす。

 

〈Bet. Good luck〉

「黒の10!」

〈BINGO! Skill activation! MULTI ARROW SHOOT.〉

 

 発動したのはマルチアローシュートと言う必殺技。テテュスが弦を引き手を離すと、弓からは無数の矢が放たれ下級ディーパーを次々と貫き一掃する。

 

 あれだけいた下級ディーパーはあっという間に姿を消し、後にはディーパーの残骸とも言えるドロップチップだけが残された。他に動くものは何もない。

 

「……ふぅ」

〈Drop out〉

 

 脅威が居なくなったことで、テテュスは安堵し変身を解除する。

 瑠璃が元の姿に戻ると、安全を確認しネイトもやって来た。

 

「やったな、瑠璃!」

 

 健闘を労うネイトに、瑠璃は素直に笑みを返す。何もできない彼だが、彼自身それは理解しているので今回は下手にでしゃばる様なことはせず見守るだけに留めていた。

 

 瑠璃の笑みに、ネイトは内心で歯痒く思わずにはいられなかった。

 ネイトとしては彼女の事を守りたいが、現状彼に戦う力はない。故に今彼に出来るのは、戦い終えた彼女を迎えることしか出来なかった。

 

 正直に言うと、ネイトは恐れていた。何時か瑠璃のこの笑みが曇ってしまわないかと。その時に何も出来ず、瑠璃が……セラが永遠に失われることが怖かった。

 

(そう言えば……)

 

 不意にネイトは自分が持つ、リールドライバーによく似たドライバーの事を思い出す。形状が違うが、リールドライバーで変身できたのならもしかして…………

 

「ネイト、どうしたの? 早く帰ろうよ」

「ん? あぁ、悪い悪い。今行くよ」

 

 気付けば帰路につこうとしていた瑠璃に声を掛けられ、ネイトもそれに続く。

 

 その際彼の手は、無意識の内に懐に仕舞われたドライバーに伸びていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 瑠璃達が帰った後、芳江はカプセルに被せたカバーを再び外して中を覗き込んだ。

 

「なるほど、ね。彼女も繋がっているみたい。となると……フフフッ!」

 

 怪しく笑う芳江の背後には、いつの間にか8号が居た。その目には恐れと不安の色が浮かんでいる。

 

「……安心しなさい。あなたを簡単に捨てる様な事はしないから」

 

 芳江の言葉に8号は安堵の溜め息を吐く。

 安心した様子の8号に、芳江は静かに近付き頬を優しく撫でた。

 

「それより、そろそろあなたにも働いてもらうわ。分かってるわね?」

 

 8号は芳江の言葉に頷いて答えた。無言の返答に、芳江は満足そうに頷くと8号から手を放し再びカプセルに近付くと、ガラス越しに中に浮かぶ生首に口付けをするのだった。




読んでいただきありがとうございました。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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