A ferocious pure love 作:Bacon and Egg
私の執筆ペースの見立てが大誤りでした。
9月10日、夜も更けてからテレンスはエジプトにある館を訪ねた。
テレンス・T・ダービーは現在16歳。本来ならばハイスクールに通っている年齢だが、つい先日同級生数名を
そんな彼に勤め先の話を持ってきたのは、お世辞にも仲が良いとは言えない兄だった。
エジプトの館に住む若い男が仕える執事を探しているという話で、条件は“無駄口を叩かず要領の良い、職務に真面目な男”とだけ言われたそうだ。館の主である男の身の回りの世話が職務内容とのことだった。
テレンスは一通りの家事はできるが、料理は得意とは言えなかった。
『あの方に仕えるのに料理は必要ない。それに老婆も居るようだから、どうしてもという時には彼女に頼めば良い』
料理が必要ないとはどういうことかと尋ねても、兄ははっきり答えず“会えばわかる”を繰り返すばかりだったので、とうとうテレンスも諦めてエジプトに行くことにした。プライドの高いギャンブラーである兄がその男を“あのお方”と呼んで敬愛している。彼をそうまでさせる館の主人を見てみたいと思ったのだ。
そういった経緯を経て、テレンスは兄が書いた紹介状を片手に玄関の扉を叩いたのである。程なくして中から顔を覗かせたのはダニエルが言っていた通りの老婆だった。
「ダニエル・J・ダービーからの紹介で…」
「テレンス殿でお間違いありませんかの?」
「はい」
「どうぞ中へ。DIO様がお待ちですのじゃ」
蝋燭が灯るだけの、薄暗い館の中を老婆に着いて歩いていく。2階の寝室と思しき部屋の前で老婆は歩みを止め、3回扉をノックした。
「通せ」
低く深みのある男の声がする。老婆は黙って扉を開け、テレンスに中へ入るよう促した。
廊下よりも一段濃い闇に足を踏み入れる。やがて目が慣れてくると、こちらに背を向けて立っている人影が見えた。
「君がダービーか」
「はい。テレンス・T・ダービーと申します」
男はテレンスに背を向けたまま蝋燭の灯りを増やし、くるりと振り返った。
艶やかな金髪に濃い琥珀色の瞳を持つ、恐ろしく整った顔立ちの男だった。まだ若く青年と言うに相応しいその容貌にテレンスは僅かに目を伏せた。
「私はDIOだ。これから館の主だったことは君に一任する」
椅子に腰かけたDIOは足を組み、気安い笑みを浮かべてテレンスを見上げた。
「そんなに気負わなくて良い。大体のことはエンヤ婆に聞けば分かるが…本格的な仕事は明日からだな。君の部屋はそこだ」
DIOが2つある扉の右側を示す。テレンスは礼を述べて一礼した。
DIOは笑みを浮かべたまま立ち上がり、テレンスの目の前に立った。眼前に迫るDIOにテレンスは圧倒され、思わず一歩後ろに下がる。テレンスだって同年代に比べれば大分背の高い方だが、それにしたってDIOの方が高い。身長によるものだけではない存在感の所為かもしれなかった。
「この館は3階まである。私の寝室はそちらにあるから把握しておいてくれ」
「…わかりました」
琥珀色の瞳が細められ、DIOの唇が妖しく微笑む。白い指先がテレンスの頬をゆったりとなぞった。
「では、おやすみ。
耳元で囁かれたファーストネーム。テレンスは思わず固まったが、DIOは全く意に介することなく、笑みを浮かべたまま部屋を出て行く。
兄が館の主人を敬愛する理由が、テレンスには分かった気がした。
***
テレンスがDIOと再びまみえたのは翌朝早くだった。
昨晩DIOが退室した後、テレンスを出迎えたエンヤという老婆が自室を訪れ、5時30分には起床するように言ったのである。そんなわけでテレンスはキッチリ5時30分に目を覚まし、6時前には老婆がいつも居るというキッチンコートに降りていった。
「おや、起きたかの」
「はい」
エンヤはテレンスを見た後、「では行くぞ」と言ってテレンスの横をすり抜けて階段を上がっていった。
仕事を言いつけられると思っていたテレンスは暫しぽかんとしていたが、慌ててその後を追った。
「どこへ行くんですか」
2階を過ぎて、エンヤはさらに上へと向かう。行き先が読めず困惑した声を出すテレンスを振り返りもせず、老婆は「DIO様のお部屋に決まっておろう」とぶっきらぼうに言った。
こんな早朝から主人の部屋に行っていいものなのだろうか。
困惑を深めるテレンスをよそにエンヤはDIOの部屋の扉を叩いた。
「入れ」
昨晩聞いた深みのある低い声が扉越しに聞こえる。エンヤは黙って中に入った。
「──…」
おもわず息を吞む。
薄暗い部屋に蝋燭を幾つか灯してベッドの上で優雅に本を読むDIOの、その人間離れした美しさにテレンスは見惚れた。本に注がれていた視線が不意にこちらに向いて細まり、口角が柔らかく持ち上げられる。
息が止まるような光景だった。
当のDIOはその様子を面白そうに見ていたが、ふっと視線をそらし、横に控えていたエンヤに声をかけた。
「マリアを呼んで来い」
「しかしDIO様、まだお休みになっているかと」
「私が呼んでいると言えば起きる。彼奴はそういう娘だ」
DIOの言葉にエンヤが一礼して部屋を出る。テレンスはその言葉から、どうやらこの館にはもう一人の住人、それも女が住んでいるらしいことを察した。
DIOの口振りからして恋人か、はたまた都合のいい女か。これだけ美丈夫なのだから女性が放っておくはずがないだろう、と下世話な思考になったところで、廊下からの足音がテレンスの耳に飛び込んできた。
「DIO!」
「こちらへ来い、マリア」
ぱたぱたと軽い音を響かせてDIOのもとに駆け寄ってきたのは、テレンスの予想を大きく裏切って、幼い少女だった。
マリアと呼ばれた少女はベッドの上で寛ぐDIOの傍らに近寄ると、興味津々の様子で手元に開かれたままの本を覗き込んだ。
「お前、この間執事が来ると話したのを覚えているか?」
「うん」
「それが彼だ」
マリアがくるりとテレンスを振り向いた。テレンスは一礼をした。
「テレンス・T・ダービーと申します。よろしくお願いいたします、マリア様」
「こちらこそ、」
「テレンス。彼女のことは“お嬢様”と呼べ」
有無を言わさぬ口調でDIOが口を挟む。
「承知しました」
DIOは頷き、読んでいた本を閉じてサイドテーブルに置いた。その白い手がマリアの髪を摘まむ。マリアはDIOに向き直ると「もう寝る?」と尋ねた。
「ああ。テレンスとエンヤは下がれ」
主人の命令に、テレンスはエンヤと共に部屋を出た。閉じられた扉を思い出し、あの二人がどのような関係なのかという疑問が胸に浮かんだ。
「あと2時間ほどしたらお嬢様は起きなさるじゃろ」
キッチンコートに入ってからエンヤは言った。
「そうしたらパンを焼いて、ミルクと果物も出せば良い。それがいつもの朝食じゃ。その前にDIO様の食事について説明するぞ」
テレンスは兄の言葉を思い出した。
「兄からは料理は必要ないと言われたのですが…」
「ああ、料理は必要としないのう。まあ
「はあ……」
どこか意味深な言い方にテレンスは首をひねる。エンヤはそれ以上何も言わずに地下へと下りていった。
階段を下りた先にあった地下室には6、7人ほどの女性がいた。
テレンスはその光景を見て眉をひそめる。
「これは何なんですか」
テレンスより二歩ほど先にいたエンヤは暗がりから見上げる。
「彼女達がDIO様の食事じゃ」
「……」
テレンスは驚いた。
DIOが若い女を食っていることにではなく、「あのお方ならおかしくはない」と抵抗なく受け入れた自分に対して、である。
地下室から上がってきた後、エンヤは口を開いた。
「DIO様は若い女の血を摂取して養分を摂っておられるのじゃ。その用意はこのエンヤに一任されておる。そなたの兄が料理は不要と言ったのはそういう訳なのじゃ。用意するのはお嬢様の食事だけでよい」
お嬢様、という言葉にテレンスの胸中に再び疑問が浮かんだ。今聞いてしまおうとテレンスは口を開く。
「お嬢様とDIO様の関係は?」
「わしにもよく分からぬ。実のところお嬢様がこの館に住むようになって2週間も経っておらぬのじゃ」
それでは親子や兄妹でも無いということだ。恋人にしては年齢が幼すぎるし、食糧の女達とは扱いがかけ離れている。
思考を巡らせるテレンスを見て、エンヤは「そういえば」と付け加えた。
「お嬢様は、DIO様と友達になったのだと言っておった」
「友達…」
「DIO様がどう思っているかは分からぬが、まあ憎からず思っておられるじゃろうな。自覚は無いじゃろうが」
「…何故分かるんですか」
「そなたもそのうち気付くと思うがな、」
DIO様はお嬢様の名を他の誰にも呼ばせないのじゃ。
エンヤの囁きがキッチンコートに響いた。
これからはもっと計画的に執筆を進めていきます。
本当にすみません…。
お気に入り12件に驚愕しております…ありがとうございます…!