『G』の日記   作:アゴン

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更新遅れてすみません。


その81 後編

 

 

 

ヒイロ君って、時折サラリとトンでもない事しでかすよね。施設の遙か上空からツインバスターライフルで撃ち抜いたウイングガンダムゼロを見て、自分はどこかそんな呑気な事を考えていた。

 

マリーメイア軍とZ-BULEが戦闘を開始して既に一時間近くが経過し、マリーメイア軍の援軍として駆け付けたネオ・ジオンの連中も引き上げ、戦いは終局へ迎えようとしており、その幕引きとしてヒイロ君のガンダムが空からの攻撃を仕掛けていた。

 

度重なる戦闘により疲弊しきってしまっているZ-BULEの面々、補給する事もままならない中大軍のマリーメイア軍を相手にここまで粘れるのは流石と言っていいだろう。そんな中ヒイロ君が行う一撃はこの戦いを終わらせるだけの威力を秘めていた。

 

コロニーすら破壊してしまうとされるツインバスターの一撃、その衝撃の余波に機体が激しく揺さぶられるが、それでも強固なシェルターを破るまでには至らず、それどころか撃たせまいと地上にいる残りのサーペント達が施設上空にいるウイングゼロに一斉射撃を浴びせた。

 

本来ならあの程度の弾幕を避けられないヒイロ君では無いのだが、彼には何か思う所があるのか迫り来る弾幕を回避せず、ヒイロ君のウイングゼロは弾幕を浴び続けた。

 

その直後に再び放たれるバスターライフルに自分はヒイロ君の狙いが何なのか少しばかり理解した気がした。ヒイロ君の放った二発目の攻撃は最初に放った攻撃を寸分違わず重ねていたのだ。一撃でダメなら重ねて二撃目をぶつける、言うことは簡単だが実戦の中でソレを行うのは途轍もなく難しい筈。それをあっさりとやってのけるヒイロ君には流石としか言いようが無かった。

 

けれど、二発目を放つまでにサーペント達の攻撃を受けすぎた所為か、ウイングゼロはこの時点で既にボロボロで墜ちるのも時間の問題だった。僚機であるカレンちゃんの紅蓮が輻射波動の障壁で庇っているが、物量で攻めてくるマリーメイア軍を前に、既に連中の攻撃を防ぐだけのエネルギーは残っていなかった。

 

もう間もなく障壁が破られ、サーペント達の総攻撃を受けるかと思われた時、ウイングゼロから三発目のバスターライフルが放たれた。度重なる戦闘とサーペント達の猛攻、そしてバスターライフルの衝撃によって遂に耐えきれなくなったウイングゼロは三発目のバスターライフル発射を最後に自壊、ヒイロ君は己の機体と共に地へと墜ちていった。

 

ウイングゼロが地面へと墜ちていく際、カレンちゃんが後を追った事からヒイロ君の事は心配いらないと察した自分は、今まで相手をしていたサーペントの軍勢を振り切り、ウイングゼロの放ったバスターライフルの着弾地点に向けて最後の悪足掻きを始めた。

 

グランゾンの無尽蔵に近いエネルギー総量に対し、トールギスⅡのエネルギー総量は余りにも少ない。限られた時間でサーペント達を相手にしていたがそれももう限界、一か八かの賭けに乗る為、俺はトールギスⅡと共にバスターライフルの着弾地点へと急いだ。

 

恐らくヒイロ君はシェルターの向こう側にいるリリーナちゃんを、マリーメイアちゃんやデキムごと吹き飛ばそうとしたのだろう――ナナリーちゃんがいる事を承知の上で。しかしリリーナちゃんもナナリーちゃんも世界の為、人類の未来の為に身も心も捧げる事を誓った女性だ。彼女達ならこれからの未来を切り開く鍵となるZ-BULEの邪魔になるのなら命を差し出すことも躊躇わない事だろう。それと同じようにヒイロ君もまたそれを知った上でバスターライフルを連射した。

 

リリーナちゃんとヒイロ君、両者の間にある絆の深さは計り知れない。だけど、だからこそこの二人には言葉を必要としない何かがある。無粋かもしれないが、自分は二人の事をそんな風に考えていた。

 

でも、結果としてヒイロ君の行動は未遂に終わった。デキム=バートンを直接倒す事は叶わなかったが、それでも個人的にはこれで良かったと思っている。リリーナちゃんもナナリーちゃんもまだまだこの世界に必要とされる子達だ。今後の為にも彼女達をここで失う訳にはいかない。

 

まぁ、実際はただあの二人を死なせたくないというのが本音だ。うら若き乙女をむさ苦しい野郎共と一緒に死なせるのは個人的にかなり気に入らない。それに何より、親友の娘を見捨てるなんて事は、俺の中の選択肢に端っから含まれていない。

 

『おぉぉぉぉぉっ!!』

 

トールギスⅡのスラスターを噴かせ、最大限に加速しながらバスターライフルの着弾地点へ飛び込む。そこに開かれた大穴を目掛けて突っ込むとすぐさま巨大なシェルターが姿を現した。

 

ヒイロ君のお陰で剥き出しとなったシェルター、目を凝らしてよく見れば、シェルターの一部分に亀裂が入っているのを確認できた。あそこが狙い目、そう確信した俺は残されたエネルギーをフルに使い、トールギスⅡの肩に搭載されたドーバーガンを亀裂目掛けて撃ち放った。

 

ヒイロ君が行った重ね掛けの弾幕、自分の狙い通り亀裂に直撃し、シェルターに更なるダメージを与えるが、それでも突破する迄には至らず、どうにかその形を保っている。

 

……今のでエネルギーは全て使い果たした。ビームサーベルを出せる出力も失ったトールギスⅡは加速の勢いを乗せたままシェルターに向かって落下していく。

 

『まだ、まだぁぁっ!』

 

落下する機体の中で、俺はシェルターに向かってトールギスⅡの最後の一撃を放った。握り締めた右拳をそのまま突き出す、なんの捻りもない単なる悪足掻きの一撃。

 

しかし、その一撃が通った事で亀裂の入ったシェルターが遂に崩壊を始める。あと僅か、あと一撃でシェルターを突破出来ると理解した俺は、その瞬間にトールギスⅡのハッチを開き、コックピットから飛び出した。

 

───狙うのはただ一点。頭の天辺から爪先まで気血を練り込んだ俺は、自らを一個の弾丸として見立て、ひび割れるシェルターの収束点に向かって突っ込んだ。

 

「俺自身が、シメの弾丸だっ!!」

 

“人越拳・捻り貫手” ガモンさんから教わった一点突破型の必殺の一撃。本来なら基地のシェルターや岩壁など無機物に対する掘削する技で、人に向けてはならないとされる一撃。

 

今の自分でもこのシェルターは破れる。そう高を括ったのはいいが、どうやら自分が想像していた以上にシェルターは堅く、最後の一撃と放った貫手が二の腕部分まで突っ込んだ所で止まってしまった。

 

───思考が停止する。極限の状況の中で詰まった今の自分の現状に、俺は半分他人事の様に感じていた。

 

今の自分は謂わば最強の盾に阻まれた一振りの槍、この状況の中どうすればいいのかと再び思考を加速させた時、当時ガモンさんから習ったある教えが脳裏に浮かんだ。

 

『もしこの技が阻まれたらどうするかって? そんなの決まっておるだろう? 自分よりも強い力で阻まれたら、より強い力で押し通ればいい』

 

簡単じゃろ? そう口にする自分の師に苦笑いを浮かべながら、俺はそれもそうですねと心の底から同意する。同時に、俺は自らの膝を振り上げ、シェルターに突き刺さった肘に打ち付けた。

 

捻り貫手を上回る更なる一撃、“脚破・捻り貫手”ガムシャラに打ち込んだ自分の一撃は遂にシェルターの壁を突き破り、そのままデキム=バートン達のいる所へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、バカな、何故……何故貴様がここに」

 

デキム=バートンは砂塵の中から現れる人影を前に、銃を握った手を震わせながら問うた。本来ならばいる筈の無い男、何処からどうやってここへ来たのだと疑問で思考を埋め尽くす彼を前に、仮面の男は平然と答えた。

 

「なに、そんな大層な事はしていません。貴方が見ていた通り上から失礼させてもらっただけですよ。デキム=バートン氏」

 

仮面の男、蒼のカリスマが何気なく語る話に、デキム=バートンだけでなく周囲に配置されていたデキムの部下達も信じられないと言った様子で絶句していた。モニターに映し出される破壊されたシェルターとシェルターに手を突き刺しているトールギスⅡの映像を見たデキムは、ここで漸く目の前の男が何に乗ってきたのか理解する。

 

「そうか、貴様が!」

 

「えぇ、トレーズ閣下には生前大変お世話になりましたからね。その恩を少しでも返す為に今日ここに参上した次第です」

 

憤慨するデキムに対し、サラリとトレーズとの関わりを認める蒼のカリスマ。彼は苦虫を噛み潰した様に唸るデキムから視線を外し、ナナリーとリリーナの方へ顔を向けた。

 

 

「やぁナナリーちゃん。久しぶり、元気してた? って、この状況で言える事じゃないか」

 

「お久しぶりです。カリスマ様、貴方もお元気そうで何よりです」

 

「何だか慌ただしくてゴメンね、そっちのリリーナちゃんも無事? 怪我とかしてない?」

 

「え、えぇ……」

 

「それは良かった。一応そこら辺も考慮していたから大丈夫だとは思ったけど、もし突入してきたのが原因で傷が付いていたなら、ゼクスさんやどっかのシスコンに怒られる所だったからね。だろ?」

 

「………やはり、気付いていたのか」

 

同意を求めるように向こう側の通路に声を掛けると、そこから黒ずくめの仮面の男と、それに付き従う白い少年の姿が現れた。

 

ルルーシュことゼロと彼の剣である枢木スザク、嘗て破界事変と再世戦争でZEXISと共に世界中に名を連ねる歴戦の猛者達の出現にデキムは目を見開き、周囲の部下達も驚愕を露わにしている。

 

ナナリーもリリーナも二人の登場に心底驚いていた。誰もが驚きと戸惑いに苛む中、二人は淡々とした足取りで蒼のカリスマに歩み寄った。

 

「いやね、ここに来る途中君達を見かけたんだよ。落下している最中だったから一瞬しか見えなかったけど、君の姿は特徴的だからね。直ぐに分かったよ。……なんかここに来るまで時間掛かってたみたいだけど、何かあった?」

 

「……誰の所為でこうなったと思っている。お前の無茶な行動の所為で私が想定したルートは全て潰され、1からこの基地の図面を引く事になったんだぞ。ヤシマ作戦の時といい、本当に私の邪魔ばかりしているな貴様は」

 

ヤヴェ、この子めっちゃ怒ってなさる。ワナワナと肩を震わせているゼロに彼等がここに至るまでの苦労を何となく察した蒼のカリスマは、横にいるスザクに助けを求めるが、肩を竦めて苦笑いを浮かべているだけのスザクは、暗にどうしようもないと蒼い仮面の男に返す。どうしたものかと蒼のカリスマは悩むが、今はそれ所ではないと今更ながらデキムの方へ向き直る。

 

「さて、デキム=バートン。今回の騒動を引き起こした貴方に幾つか訊ねたい事があるのですが……宜しいですか?」

 

「な、なに?」

 

「貴方の背後にいる者、それを教えて頂きたいのです。まぁ、大体の予想はついているので正確には確証を得たいという所なのですが……」

 

蒼のカリスマは今回のデキム=バートンがマリーメイアを利用して起こした騒動、その背後にかかわっているのはクロノなのではないかと推測している。地球連邦、つまりはこの世界の代表組織とも呼べる団体の根っこには、自分が予想している以上に混沌としている部分がある。

 

先の新世時空振動により更に複数の世界が入り乱れる様になった今の地球連邦は一見まとまっているように見るけれど、その実根本的な部分は謎に包まれている。

 

恐らくはシャア=アズナブルがネオ・ジオンにいるのも、そこら辺が関わっているのではないかと予想しているが、コレはあくまで憶測が交わった不確定なモノ、確信を得るにはまだまだ情報が必要な部分が多い。

 

その為にデキムの持つ情報が必要になってくる。ここでデキムの話を聞いておけば例のコロニーでの騒動とその原因と思われるスフィアについても分かる事が多いからだ。

 

しかし、そんな蒼のカリスマ────シュウジの目的とは裏腹に……。

 

「ふ、ふははは! バカが! そう簡単に貴様の思い通りに行くと思うなよ!」

 

デキムは狂気の笑みを浮かべると、手にした拳銃をこめかみに当てて引き金を引き、自らその命を絶つのだった。

 

蒼のカリスマ。目の前の魔人の恐ろしさを正確に把握しての行動、トールギスⅡというトレーズの忘れ形見が出て来た為に戦線はほぼ瓦解、目の前にいる魔人がその気になれば魔神を何時でも繰り出せる事から最早逆転の手段も再起する時間もないと察したデキム=バートンは、最後の足掻きとして目の前の魔人からいなくなる方法で彼に一矢報いた。

 

血の海に沈むデキム=バートン、その凄惨な死から多くの者が目を背ける中、シュウジだけは静かにその様を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 




リアルが忙しくて中々更新出来ませんでした。

次回はもう少し早く更新したいと思います。

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