『G』の日記   作:アゴン

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炸裂、白河節


その88

 

 

───パラダイムシティ。とある理由でメモリー(記憶)を失い、霧に覆われた不可思議な街。ある人物の経由でこの世界に訪れたZ-BLUEは今、一人の男の手によって追い詰められていた。

 

男の名はガドライト=メオンサム。今世界を騒がせているUGと呼ばれる組織のトップである彼の目的を問いただすべく、その身柄を拘束しようとしたZ-BLUEだが、奴の発する奇妙な力の前に成す術なく屈する事になる。

 

“いがみ合え”ただその一言によりZ-BLUEに属する屈強な戦士達の闘争心は挫かれ、誰一人例外なく地に膝を付くことになってしまった。

 

目の前に家族の仇がいるのに身動き出来ない自分に、ヒビキは怒りと悔しさで胸が張り裂けそうになっていた。酒気に頬を染めるガドライトを見上げ、歯を食いしばる。

 

ガドライトはそんなヒビキを見下ろして愉快そうに口元を歪める。そして、ここで彼を葬ろうと銃口を突きつけた時、その男は現れた。

 

蒼のカリスマ───もとい、仮面を外したシュウジ=シラカワは僅かな怒りを表情に浮かべ、突如としてZ-BLUEの前に現れた。

 

「シュウジ……さん?」

 

嘗ては共に過ごし、互いに己の実力を認め合った自分の兄貴分が、世界に名高いテロリストだった事に大きな衝撃を受けた。戸惑いを隠せないヒビキとは対照的に、シュウジ本人は自身の目の前に立つガドライトを鋭い眼光で睨み付けていた。

 

「……おっかないなぁ、そんな睨まなくたっていいじゃない。俺はただ身の程を弁えないガキに少しばかりお灸を据えようとしただけ。謂わば教育だよ教育、おたくが目くじらを立てるような事は何一つしちゃいないよ」

 

「……………」

 

「分かった。分かったよ、俺はここからいなくなる。アンタの望む情報も幾つか提示しよう。だからその殺気を抑えてくれ、これじゃあ話し合うことも出来やしない」

 

「…………」

 

「それに、いつまでもそんなんだと俺もこの力を引っ込める事なんて出来ねぇぞ。アンタも大事な弟分の心を壊されたくないだろ?」

 

厭らしく微笑みながらそう言葉を口にするガドライトにシュウジの眉が僅かに動く。ガドライトの力───即ちスフィアと言うものが何なのか未だ理解し切れていない今のままでは、無闇な行動は控えるべきだろう。

 

誠に遺憾だが、今は奴の言うことに従った方がいいだろう。と、シュウジが殺気を抑えヒビキの方に振り返ろうとしたその時。

 

ナイフを手にしたガドライトがシュウジの背後に迫り、その刃を背中に突き立てようとしていた。奴とシュウジの間には数十メートルもの間があった筈だ。それなのに一瞬でその距離を詰めるガドライトの身体能力は、正しく常軌を逸していた。

 

「シュウジさん、うし───」

 

自分の持つ特殊能力に匹敵しうるガドライトの身体能力にヒビキは驚愕し、同時にシュウジに危ないと呼びかける。このままでは次の瞬間、彼はガドライトに殺される。

 

もう自分の親しい人間が殺される光景は見たくない。必死な形相となってヒビキが声を上げ───

 

「上段回し蹴り」

 

───瞬間、雷が落ちた様な甲高い音がパラダイムシティの街に響き渡る。その炸裂音に耳を塞ぐ小学生組がなんだなんだと混乱する中、Z-BLUEの面々は驚愕に目を見開いていた。

 

つい先程まで後ろを向いていた筈なのに、いつの間にかガドライトを蹴り飛ばしているシュウジ。その伸ばした足からはプスプスと煙を上げており、蹴り飛ばされたガドライトはシュウジから見て右側の建物に叩き込まれていた。

 

ガラガラと音を立てて崩れる瓦礫、呉服屋と思われる店の店長が自分の変わり果てた店に呆然としていると、瓦礫の中からボロボロのガドライトが店から這い出てきた。

 

「……まさかあの間合いから反応できるなんてなぁ。お前さん本当に人間か?」

 

「そういうお前こそ、妙な能力を使いやがる。それもスフィアの力だってのか?」

 

服装こそボロボロでありながらもガドライト自身には傷一つ付いてはいない。あれだけ派手に吹っ飛んでおきながら無傷を誇っている奴にZ-BLUEの面々は戦慄を覚えた。

 

「いいや、コイツは自前さ。俺達ジェミナイの人間……特に男は皮膚を硬質化させる能力があってな。大抵の衝撃や打撃技には滅法強いのよ」

 

そういって肌を鉛色に染め上げるガドライト。その硬質は高く、彼が近くの街灯に手を置くとまるでゼリーの様に街灯の柱を握り潰した。しかも肌を硬質化させた事により鋭利化されているのか、握り締めた街灯の柱には切り刻まれた痕が刻まれている。

 

成る程、とシュウジは内心で頷く。全身を硬質化する事が出来るのなら、部分的な硬質化も可能な筈。自分の蹴りが当たる瞬間、部分的に皮膚を硬くさせればダメージも軽減されるという訳だ。無傷なガドライトを見てそんな事を考えていると、ガドライトは再びナイフを片手に持ち、全身を硬質化させて突進してきた。

 

「シュウジ=シラカワ、お前は強い。今の一撃を受けて分かった。だから……いや、だからこそお前はここで死んでおくべきなんだ」

 

意味深な言葉を吐きながら突出してくるガドライト。先程の策を弄しての奇襲ではなく真っ向からの攻撃に少しばかり面食らうシュウジだが、それならそれで受けて立つと攻撃型に特化した構え、“天地上下の構え”を取る。どんな攻撃にも対応出来るよう五感全てを研ぎ澄ませた時───。

 

「いがみ合え」

 

「っ!?」

 

ガドライトの放つその一言によりシュウジの闘争心が急速に萎えていく。まるで別の感情に引っ張られる様に戦う意識が無くなっていく。嘗てない感覚に戸惑い、そして感情のバランスが保てなくなったシュウジは構えを解かれ、向かってくる敵に対し無防備な姿を晒してしまう。

 

再び訪れる危機、続けて放たれるガドライトのスフィアの力、その力によって身動きが取れなくなったシュウジにヒビキが駆け付けようとするが……その距離は絶望的だった。

 

“ブースト”己の機体に乗り込んだ際に培われた特殊能力を駆使しても辿り着けないその距離に、ヒビキは再び絶望に沈みかける。しかし、ここで諦めてはならないと、なけなしの勇気を振り絞りシュウジの下へと駆けていく。

 

間に合え。内心でそう声高く叫ぶヒビキが次の瞬間目にしたのは────。

 

「人越拳────霞獄」

 

再び宙を舞うガドライトの姿だった。

 

「なん……だと?」

 

その光景に再びZ-BLUEの面々は驚愕する。ガドライトは確かに“いがみ合え”と口にし、その効果は間違いなくシュウジの身に降りかかった筈だ。現に、その力によってシュウジの動きは一瞬鈍くなったかに見えた。

 

ガドライトの力、相反する二つの感情のバランスを崩す力は、防ぎようのない精神攻撃の筈。それを受けていながら、何故奴を打ち負かせる程の実力が発揮できるのか。理解し難いその光景にZ-BLUEだけでなく、吹き飛ばされて地に倒れ伏したガドライトも訳が分からないといった様子で起きあがっていた。……しかも、鼻血を垂れ流しながら。

 

そんな彼らの反応を見て何かを察したのか、シュウジは自身の理論を語り始めた。

 

「訳が分からない。そういう表情をしているが……なに、そう難しいモノではないさ。お前の使うスフィアの力の性質は相反する二つの感情に揺さぶりをかけてそのバランスを崩す事にある。感情を持つ事でその効果が発揮されるのならば対応できる手段はただ一つ、感情を意図的に無くせばいいだけの事」

 

「…………なに?」

 

「無心、無我の境地、明鏡止水、言い方や表現は多々あるが……まぁ、要するに何も考えず目の前の敵を殴り倒せば良い。と言う事だ」

 

“理解出来たか?”そう最後に付け足したシュウジはガドライトに勝ち誇った笑みを浮かべる。屁理屈過ぎるシュウジの超理論にツッコミたくなったヒビキ、そしてそれはガドライトも同じなのか、プルプルと肩を奮わせて怒りをこみ上げさせ……。

 

「ふざけるなぁ! 何だその超理論は!? そんなモノでスフィアの力から逃れられると思ってんのか! ナメるのも大概にしやがれ!」

 

ガドライトのその反応に思わず頷きそうになった者が何人かいたのは内緒の話である。

 

「ナメるも何も、事実俺はこうしてお前の前に立っている。別に受け入れる必要はないけどな、言ったろ? ただでは済まさないと」

 

「………どこまでも人をコケにしやがって、分かってんのか? 今お前が放った一撃、中々の威力だが俺には通じなかった。そっちこそ理解してんのか? 幾らスフィアの力を屁理屈で防ごうが、お前が俺に勝てないという事実は変わらねぇんだよ!」

 

そう、ガドライトが吼える様に確かにシュウジでは奴にダメージを与える事は難しい。奴の種族の特徴である硬質化をどうにかしない限り、シュウジにとってはじり貧でしか無いはずだ。

 

しかし、シュウジはそんな事もお見通しなのか、クククと笑みを零す。彼の見せるその不敵な笑みに何人かの人間はその笑みの裏に隠された意図を読み取り、それぞれうわぁとドン引きした様子で見つめていた。

 

「成る程、それは此方にとっても好都合だ。この程度で終わらせては此方の気が済まないと言うもの。―――そのご自慢の硬質化の能力がどれ程の間その強度を保っていられるのか、検証を兼ねてもう一度試してみよう」

 

「な、何を言って───」

 

「猛羅────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「総拳突き」

 

 

 

 

 

 

ガドライトが何か言葉を紡ごうとした瞬間、彼は押し寄せる拳の弾幕に呑まれ、再び建物の内部へと吹き飛んでいく。それでも収まらない拳の弾幕、漸く彼の攻撃が収まったのは、並び立つ建物群が見るも無惨な光景に変わる頃だった。

 

「……チッ、逃げたか」

 

手応えの無さからガドライトが途中から逃げた事を悟ったシュウジは、忌々しいと言った様子で拳を止める。ガラガラと音を立てて崩れる建物群、幸い住人は住んでいなかったのか、悲鳴や断末魔の声は聞こえてこなかった。……恐らくはその辺りも事も考慮して、あのような大技を繰り出したのだろう。

 

その様子に誰もが言葉を失う。武闘派の多いZ-BLUEが酷く引いている事に気付かないまま、シュウジはヒビキへと向き直り……。

 

「ヒビキ君」

 

「は、はいっ!」

 

「今教えた通り、精神に揺さぶりを仕掛けてくる搦め手使いの輩にはこう言ったやり方が効果的なのは分かった事だと思う。相手が予想以上に打たれ強かったら、更なる攻撃力で上回ればいい。理解出来たかな?」

 

「あ、はい」

 

ヒビキの感情の無い返事にシュウジは笑みを浮かべて宜しいと頷く。彼の優しい微笑みは初めて会った時とはまるで変わっていなかった。

 

一体どうしてこうなったのか。倒壊仕掛けた建物の数々を見てヒビキは呆然とそんな事を考えていた。

 

……また、この後シュウジは後から現れる警察の人々に追われる事になり、ここパラダイムシティでも指名手配になるのだが、それは割愛させてもらう。

 

 




スフィア対策
ボッチ「感情を揺さぶられるなら、なにも考えなければいいんだよ!」

全身硬くな~る。
ボッチ「どれだけ耐えられるのか、実験してみよう!」(作ってワ○ワク風)

今回は大体こんな話。
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