『G』の日記   作:アゴン

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今回もやや大人しめ。


その93

 

 

 

“アラストル”ゾロアスター教で執行人として知られる復讐を冠するモノ。銀髪の青年が従える二体の人型も何の因果かその名を被り、青年の求めるがままに従っていた。

 

何故青年がこの人型にその名を付けたのかは定かではないが、その二体の人型ASは正しく執行人だった。機械であるが故に臆せず、心や感情の起伏が無い故に従順、青年の命令に従い目の前の敵を屠るだけ。

 

今回も同じ、熱源も生体反応も感知させず自分達の背後に回っていた仮面の男を、その剛腕を以て叩き潰す───ただ、それだけで終わる筈だった。

 

なのに、何故鋼鉄の身である自分が、為す術なく宙に浮かんでいるのだろうか? 何故鋼よりも硬い装甲で覆われている筈の我が身が、ただの人間の手によって貫かれているのだろうか?

 

理解出来ない。状況、結果、今の現状を何度も解析し、分析しているのにも関わらず、人型のモニターに映るのは不明の二文字のみ。

 

訳が分からない。人間でいう極度の混乱状態に陥ったアラストルは最後まで自分の身に起きた出来事を理解出来ず、機能停止。何も言わぬ本物の人形となって雨が降るビルの屋上で事切れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、これは参ったね」

 

二体ある内の一体がスクラップとなっている様を見て、銀髪の青年は引きつった笑みを浮かべる。本来ならミサイルが直撃しても傷を受けないとされる装甲、それをものともせずまるで障子を突き破る様に容易く貫いた目の前の仮面の男に、青年は怪物と出くわした心境になっていた。

 

蒼のカリスマ、この世界で最も凶悪で最凶のテロリスト。人型のASに襲われておきながら全くの無傷、その姿に青年だけでなく、その後ろにいるかなめも唖然とさせていた。

 

「ふむ、結構な手応えを感じましたがまさか機械人形、しかもこの構造は……ASですか。まさかここまでの小型化が進んでいたとは、アマルガムという組織は随分と技術が進んでいるのですね」

 

二人が呆然とする中、蒼のカリスマは貫いていた腕を振り払い、アラストルだったモノを無造作に放り投げる。横にもう一体のアラストルがいるというのに彼の者の歩みは実に平穏なモノだった。

 

事実、蒼のカリスマは彼等を敵として認識してはいなかった。確かに人のサイズにまで小型と化したASは脅威だろう。人並み以上に硬い肌、剛腕な腕、常人ならざる脚力。これらを駆使して打ち出される一撃はマトモな人間なら一撃でミンチとなる。

 

だが、逆に言えば蒼のカリスマにとって脅威となるのはそれだけだった。他にも様々な機能を有しているだろうアラストルを、彼は淡々とした口振りで評価する。

 

「ですが、戦力として扱うならば今一つですね。ASにとって最大の利点と言えるのはその巨大さとそれに見合った制圧力です。人型と言えばアドバンテージが大きく見られがちですが、実はそうでもないのですよ。機械である以上必ずどこかで限界が生じる上、電気系統のトラップには脆い一面がある。喩え対策を講じていても衝撃を受ける以上、物量で押されればどうしようもありません」

 

「そこの銀髪君、恐らく君が彼等を造ったのでしょうから言っておきます。彼等を兵器として扱うのは止めなさい。彼等にはもっと適した場所があると思いますので」

 

「適した場所……だと?」

 

「そうです。例えば───介護施設なんかはどうなのでしょう? 生活が豊かになり、高齢化社会となる世間において介護というのは重要な要素の一つとなっています。お年寄り一人一人に丁寧な対応をするには相当の体力と根気がいる。そこで彼等を導入すれば、介護する側もされる側も負担が軽減されると思うのですよ」

 

青年がその頭脳を以てして生み出した傑作の一つを蒼のカリスマはそう評価する。目の前の人型のASがエプロン姿となってお年寄りを介護する場面を想像した蒼のカリスマは、我ながら良いアイデアだとウンウン頷く。

 

一方銀髪の青年は自身のプライドが相当に傷つけられたのか、端正な顔立ちの表情を憤怒に歪め、忌々しく蒼のカリスマを睨み付けた。

 

「────図に乗るなよ。たかが一機スクラップにした程度で! アラストル!」

 

「……っ!」

 

今までとは違って怒鳴り散らす銀髪の青年に、かなめは肩を震わせて竦み上がる。そして蒼のカリスマも突然激昂し豹変する青年に、僅かに驚きを顕わにした。

 

背後にいたアラストルのフードがはだけ、展開した胸部、並びに腕部から無数の銃口が出現する。それら全てがガトリングガンのものだと蒼のカリスマが察した瞬間、鉛玉の嵐が降り注がれた。

 

吐き出される薬莢、止まらない弾丸。地上にいる人間達が騒ぎ始めるも、それでも止まない弾丸の嵐。やがて弾丸の嵐が収まる頃には、蒼のカリスマがいた場所は爆撃の跡の様に凄惨なモノへと変わっていた。

 

これだけ撃ち尽くせば彼のテロリストも愉快なオブジェクトに早変わり。かなめも両手で口を抑えて悲鳴を堪えて、舞い上がる煙の中に横たわる蒼のカリスマを幻視する。

 

────しかし。

 

「言った筈ですよ。人となったASに最早機動兵器としての価値はない。それはいかな兵器を用いても変わらない事」

 

アラストルの背後から聞こえてくる声に、かなめと青年の目は大きく見開く事になった。バカな、有り得ないと、幾つもの疑問と驚愕が二人の脳裏を駆け巡る中、蒼のカリスマの声は止むことはなく。

 

「序でです。ここでもう一つ、機械に対してもう一つ有効な手段がある事をお教えしましょう」

 

アラストルの背中部分にそっと拳を当て───。

 

「不動────砂塵爆っ!」

 

床を踏み抜いた瞬間、拳を通してアラストルに衝撃と振動が伝わり、アラストルの前部分が吹き飛ぶのだった。

 

衝撃と振動によって内部をズタズタにされたアラストルは、一機目と同様に何も言わぬガラクタ人形となり、地に這い蹲った。

 

その光景を目の当たりにした青年は空いた口が塞がらず、その後ろにいるかなめに至っては目元を引き付かせて笑うしかなかった。静まり返る屋上、少し離れた所で身動きの取れないミスリルの女が寒さでクシャミした時。

 

「と、こんな感じです。全ての造られたモノはどんなに頑強でも振動で揺さぶられてしまえば案外脆いもの────理解できましたか?」

 

依然として傷一つ負っていない仮面のテロリスト。平然と講釈を語る彼に、かなめはどことなく戦争バカの軍曹を連想させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月α日

 

アマルガムの幹部らしい人間と小競り合いをして三日、ここの所の世界情勢が騒がしくなっていた為、今回はグランゾンのコックピットで少し纏めておこうと思う。

 

まず、プラントにアルテア軍が押し寄せてきた。アルテア軍というのは事ある毎に聖天使学園を襲うアブダクターの事で、その時の自分はそこに居合わせていないから詳しいことは分からないが、どうやらそのプラントにアルテア軍の総司令が仕掛けてきたらしいのだ。

 

プラントというのは遺伝子を組み替えられた人種、即ちコーディネーターの人達の住処である。何故連中がそこを狙ったのか、色々と情報が混じっていてハッキリとした事は分かっていないが、ある情報だとラクス=クラインを狙ったのではないかという話がでている。

 

ラクス=クラインというのはプラントの歌姫として知れ渡っている反面、為政者として色々と活躍しているとも聞いている。そんな人物を誘拐すれば確かに此方に大きな打撃を与える事になる。が、果たしてそれだけなのだろうか?

 

以前連中と戦った時は現地の女性を片っ端から攫っていたという事もあったし、なんだか連中には自分では計れない理由を抱えているっぽい。……まぁ、連中の目的がなんであれ、襲ってくる以上相手をするしかないんだけどね。

 

で、そんな奴等もZ-BLUEの皆によって迎撃され、撤退する事になった。敵の総司令が出てきた為流石に無傷とはいかなかったけど、撃退する事が出来た辺りどうやら何とかなった様だ。

 

そしてもう一つ、マーティアル教団についてだが、どうやらZ-BLUEは部隊を複数に分けたらしく、教団を無事叩き潰す事が出来た様だ。

 

奴等とは自分にとって少なからず因縁があった為相手をしたかったのだが、別件があった為動く事が出来なかった。といっても、以前グランゾンでやり合った際にある程度戦力を削いだから、そんなに苦戦する事はなかったと思うけどね。

 

だけど楽観は出来ないだろう。幾らグランゾンで多少の戦力を削った所でマーティアル教団の戦力は未だ残ったままだ。今回は本部が破壊されたという事で少しは大人しくしていそうだが、暫くするとまた動き出しそうな気がする。

 

宗教というのは色んな意味で厄介だからなぁ。根が深いモノほど厄介の度合いも変わっていく。

 

そして最後、これは偶々通りかかった為に詳しく知る事が出来たのだが、どうやらZ-BLUEは遂にあの機械獣軍団との戦いに終止符を打てた様なのだ。

 

場所は遺跡が数多くあるとある孤島。本当なら自分も混ざりたかったが、再世戦争の時思いっきり邪魔しちゃった事もあり、少し心残りだが今回は遠巻きに見守る事にした。今のZ-BLUEは部隊を分けた少数部隊だ。敵もこれまで以上の規模の為少しばかり苦戦していたみたいだけど、最後は兜甲児君とマジンガーZが大いに力を奮って機械獣軍団を圧倒、見事押し切る事に成功した。

 

戦いを終えた後、Z-BLUEは孤島から離脱。自分も彼等を見送った後その場から離脱しようとしたのだが……ここで奇妙なモノを拾う事になる。

 

ブロッケン伯爵。Dr.ヘルの側近である彼が涙目で助けを求めるモノだから、つい手を差し伸べてしまったのだ。聞くところによると、同じDr.ヘルの部下であるあしゅら男爵に見捨てられ、旗艦共々沈む所だったのだとか。

 

個人的にはそのまま沈んでも良かったのだが、最後の戦友に裏切られた事がショックだった様で、ここ数日の彼の落ち込みっぷりはかなり酷かった。

 

何故自分がそんな事を知っているのか。実はこの三日間、自分はブロッケンのメンタルケアに掛かりっきりでマトモに動けなかったのである。先に述べた別件とはまさにこの事である。

 

───まぁ、自分でも何やっているんだろと思う。何が悲しくてデュラハン気取りのおっさんを三日三晩慰めなきゃならんのか、可能なら過去に戻って今すぐ海へ放り投げてしまえと言いたい。

 

一応言い訳としては仕えていた主人を亡くし、唯一の戦友にも見捨てられた彼の境遇を同情した、というのがある。自分も話し相手が欲しかったし、ちょっと魔が差してしまったんだろうなぁ。

 

そんな訳で現在、ブロッケンは自分と行動を共にしている。本人も機械獣軍団という戦う手段と意味を無くした今、無闇に暴れ回るつもりはないみたいだし、監視の意味を込めて少しの間側に置いてみようと思う。

 

今、ブロッケンの奴は外にいる。幾らグランゾンのコックピットは広いとはいえ、ムサいおっさんを入れるつもりはない。というか、入れたらシュウ博士に怒られそうだ。

 

 

あぁ、忘れる所だった。アマルガムの銀髪君をかなめちゃんの保護を優先する為に逃がした後、通りかかった五飛君に預ける事にした。本当なら自分が責任持って彼女を送り届けたかったのだけど、どうやら彼女には行くべき所があるらしく、五飛君もそこに行く用事があったから彼に任せる事にしたのだ。

 

彼は自分にも厳しい人間だし、誠意のある人物だ。対して自分はかなめちゃんからすれば仮面を被った変人、彼女の精神的負担を考えれば当然の判断だろう。

 

別に正体を明かしても良かったのだが、何だか自分を見て酷く動揺していたし、あまり不安に思わせるのもアレなので自重する事にした。それに急いでいたっぽいしね。引き留めが過ぎるのもまずいだろう。

 

しかし、五飛君てばどうしてあの時出てこなかったのだろう? 幾ら人型ASが相手でも彼なら対処出来そうなものなのに……もしかして、自分に見せ場を作ってくれたのかな?

 

ミスリルの工作員の女性さんも気を利かせて気絶したフリなんてしていた上に、後片付けまでさせちゃったしなぁ、こうして見ると何だか自分だけ得したみたいだ。

 

 




Q早くグランゾンの暴れる姿がみたい!

A後少しお待ちください。
具体的には原作45話まで

熱海逃げて超逃げて。

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