『G』の日記   作:アゴン

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長らくお待たせしまい申し訳ありません。

今回は時獄篇終盤のプロローグみたいなものです。




その102

 

 

ネオ・ジオンとの一大決戦から数日、時の牢獄が破られ、世界中の誰もが同じ時を生きられる様になって、人々は自らの生を謳歌した。

 

幾度もの危機を乗り越え、幾度と無く襲いかかる脅威を退け、崖っぷちの状況に追い詰められながらも諦める事はなく人々は抗い続けた。

 

その結果、アクシズという大特異点を用いての時空修復は成功し、時の牢獄は破壊された。世界中の人々が望んだのは永遠に停滞した世界ではなく、痛みを伴おうとも前に進む事。大特異点に集められた祈りは時の牢獄を破壊するだけの力となり、見事それを果たす事となった。

 

しかし、これから先に待ち受けるのは果てしなき闘争。時の牢獄を打ち破った事により、その裏側に潜んでいた者達が動き出すまで、そう時間は掛からない事だろう。

 

故に、人類は反撃に出る選択を選んだ。ただ待ち構えるのではなく、自ら動くことで未来を勝ち取る事を選んだ人類は、現地球圏最強の部隊であるZ-BLUEに全てを託し、国連はなけなしの戦力を再編させ、防衛機構を確立するのだった。

 

そんなZ-BLUEが挑むのは、再世戦争からその存在を露わにしていた超常の存在、反螺旋族(アンチスパイラル)。地球圏に対して宣戦布告をしてきたかの怪物に、地球はZ-BLUEという一発の弾丸に全ての希望を乗せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様の写真、こんなに色褪せちゃった」

 

カテドラル・テラ、超銀河ダイグレンとその名を新たにしたZ-BLUE旗艦の格納庫ブロック。手にした写真を見てガンバスターのパイロットであるノリコは小さく息を吐く。

 

Z-BLUEがアンチスパイラルの拠点に向かう日にちまであと一日、それまでにやるべき事を済ませるように指示があった為、現在この格納庫ブロックにはノリコ一人しか存在していない。

 

アンチスパイラルという嘗てない規模を誇る敵を相手に、地球圏最強の部隊であるZ-BLUEにも絶対に勝てるという保証はない。決死の覚悟で挑まなければ勝てない相手、その覚悟を持つために、各艦の艦長達はZ-BLUE各員に、親族や親しい者達に別れを告げさせる猶予を与える事にした。

 

しかし、単身時空震動でこの世界にやってきたノリコに別れを告げる相手など存在しなかった。別にそれが原因で覚悟は持てないという事はない。前に自分がいた世界では既に何億という宇宙怪獣と戦っていたノリコにとって、その位の気持ちの整理は出来ている。

 

ただ、皆と違って別れを告げる相手がいない事に少しばかり寂しくなり、ナーバスになっているだけの事、明日になれば人類の存亡を懸けた決戦が待っている。早く気持ちを整理しなければとノリコが目を瞑った時、一人の男性が声を掛けてきた。

 

「よぉノリコ、なーに一人で黄昏てやがんだよ」

 

「え? き、キタンさん、それに皆も……どうして? 集合時間はまだ丸一日あるのに」

 

キタンを筆頭に駆け寄ってくるZ-BLUEの面々にノリコは面食らう。まだ出発時間まで間があるというのにどうしてここへ来たのか、そんな疑問符を頭に浮かべるノリコに、キタンを初めとしたZ-BLUEの面々は笑みを浮かべた。

 

「やるべき事は大体終わらせたし、最後の一日位は部隊の皆と過ごそうかと思ってたけど、まさか全員来るとは思ってなかったな」

 

「まぁ、何だかんだで結構付き合い長いからね私達。結構似た思考を持つようになってるんじゃないの?」

 

アルトとカレンのその言葉を皮切りに、部隊の間に談笑の華が咲く。未だ状況が理解してないノリコはどういう事だと首を傾げた。

 

「ま、ここにいる全員がお人好しってこった。お前が独りで寂しがってないか心配してな。ったく、素直じゃねぇ連中だぜ」

 

「なに言ってんのよ。いの一番にここへ来たのってアンタじゃない、ノリコの様子を見てソワソワしてた癖に、私達が来なかったらずっと様子を見てただけなんじゃないの?」

 

「え? そうなんですかキタンさん」

 

「なっ!? よ、余計な事言ってんじゃねーよヨーコ! この俺様がそんな肝っ玉の小せぇ男に見えるのかよ!」

 

「はいはい。図星突かれたからって怒らないの」

 

「ンだとぉっ!?」

 

おちょくるヨーコに吼えるキタン、二人の間から感じられる昔馴染みの雰囲気に、ノリコは嘗て共に戦った仲間達の事を思い出した。そう言えば自分達も似たような遣り取りをしていたっけ、写真は色褪せても記憶に残された思い出は消えていないことに安堵したノリコは、二人の言い合いを見つめ笑みを浮かべる。

 

そんなノリコの様子を見て、言い合っていた二人もやれやれと肩を竦める。これで憂いは無くなった。そう安堵する彼らに一人の男が歩み寄る。

 

「おや? 私が一番乗りだと思っていたのですがまさかのビリとは……皆さん随分と早いのですね」

 

聞き慣れたその声に誰もが一斉に振り返ると、その先には案の定仮面を被った魔人、蒼のカリスマことシュウジ=シラカワが毅然とした佇まいでそこにいた。

 

相変わらず神出鬼没な男だ。ゼロとC.C.が呆れた表情を浮かべていると、部隊のマトメ役であるアムロが笑みを浮かべて歩み寄った。

 

「まさか本当に来てくれるとはな。ようこそ蒼のカリスマ。部隊を代表して礼を言わせて貰う」

 

「地球圏存亡の危機となれば、流石の私でも動きますよ。故に礼は必要ありません」

 

差し出されたアムロからの握手に蒼のカリスマもこれに応える。地球圏に残されたもう一つの最強戦力である魔人の登場に、Z-BLUEの面々の戦意は大きく跳ね上がった。

 

何せ破界事変の頃よりその悪名を世に広め、またその力を示し続けてきた怪物が、再び自分達と共に戦うと馳せ参じたのだ。これ以上ない助っ人の登場に頼もしく感じるのは当然と言えるだろう。

 

一部の人間を除いて歓迎ムードとなるZ-BLUE、そんな中ある違和感を感じたアムロは握手を解いて蒼のカリスマに訊ねた。

 

「所で、ブロッケンはどうした? アイツは一緒じゃないのか?」

 

「えぇ、彼は地球で待機させるよう命じておきました。負けるつもりはさらさらありませんが、彼には有事の際行動に移るよう指示してあります」

 

目の前の魔人の語る有事の際という言葉に、アムロは少しばかり嫌な予感がするも、自分達が負けてしまってはどのみち地球圏に未来はない。故に敢えて聞き流す事にしたのだが……。

 

「といっても、精々私の知り合い達と一緒に地球圏から離れる様言いつけただけなのですけどね。ここ数日彼には国連の各拠点のマスドライバーと航空艦の位置を覚えさせましたので、いよいよとなったら地球圏から脱出するようにと」

 

元々隠す気はなかったのか、あっさりと内容を話す魔人の話にアムロは面食らう。けれどそれが彼なりの冗談だと察したアムロは、笑みを浮かべて蒼のカリスマの肩を叩く。

 

「そんな事を言える余裕があるのなら遠慮はいらないな。アテにさせて貰うぞ」

 

「それは私にですか? それともグランゾンにですか?」

 

「無論、両方だ」

 

その一言に魔人も仮面の奥で笑みを洩らす。言いたいことを言い終えたアムロは、艦長達に伝えてくるとだけいって格納庫ブロックを後にした。

 

アムロが去った事で蒼のカリスマに数人が集まる。そのどれもが部隊の中で若い世代の子達で、特に小学生組からの信頼が厚いのか、ワッ太からは学校から出された宿題で勉強を教えて欲しいと泣きつかれる程だった。

 

他にもヒビキや甲児といった高校生組もチラホラ見受けられる。特に甲児は破界、再世戦争と二つの大きな戦いを経てシュウジの人となりを知っている為、あまり抵抗なく接している。

 

他の面々も口には出さないがシュウジの加入を歓迎していた。相手はあのアンチスパイラル、戦力的にも彼の参戦は申し分はないという事から、誰も余計な口出しせずに静かに彼らの様子を眺めていた。

 

そんな中、アクエリオンのパイロットであるエレメント達、特に新たに加入したカグラは酷く戸惑った様子でシュウジを睨んでいた。

 

「ど、どうしたんだよカグラ、そんなに殺気立って、あの人の参加に何か言いたい事でもあるの?」

 

「…………」

 

アマタの問いかけに応えず、カグラは蒼のカリスマを睨んでいる。その事にムッとしたゼシカは咎める様にカグラに問い詰めた。

 

「ちょっと、一体どうしたのよ。言いたい事があるならハッキリしなさいよ」

 

強めに口にするその問い、しかしそれでもカグラの視線は蒼のカリスマから外れる事はなかった。

 

明らかに様子のおかしいカグラにゼシカとアマタも困惑する。一体彼に何を感じてるのか、ひとまずそっとしておこうと二人はその場を後にする。

 

(分からねぇ。あの男、シュウジって奴の匂いが全く分からねぇ。こんな事今まで無かったのに、どうなってるんだ俺の鼻は!)

 

カグラの感じる嗅覚は常人では捉えられないモノを感知する。それが無臭であれなんであれ、人が発する体臭だけでなく、その魂の在り方まで感じ取る程に鋭く、それはカグラの存在を捉えるほどだ。

 

しかし、今のカグラにはそれが機能していない。別に彼の嗅覚に異常が起こった訳ではなく、現に彼はミコトの今いる場所を正確に把握できている。

 

他にも竜馬やロジャー、キラにカミーユといった格納庫ブロックにいるZ-BLUEの面々の居場所も把握できている。

 

そう、カグラの嗅覚は正常に機能している。いや、寧ろアクエリオンに乗った事によりその能力はより強くなったように感じられる。

 

……なのに、シュウジ=シラカワからは何も感じ取れない。甘いのか酸っぱいのか、臭いのかそうでないのか、無臭である事すら判別出来ないでいる。

 

まるで奴がいる場所だけ世界から切り取られた様に何も感じない。それがどれだけ異常な事なのか、本能で感じ取ったカグラは即座に理解する。

 

この男は……ヤバい。理由もなく直感的にそう感じたカグラは、シュウジにだけは気を許さない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

「あ?」

 

「キタンはいいの? アイツの所に行かなくて? 可愛い子分なんでしょ?  声掛けなくていいの?」

 

カグラがシュウジに対して絶対な敵対心を抱いている一方、ヨーコとキタンはシュウジの下へ駆け寄らず、遠巻きから彼の事を見つめていた。

 

「バーカ、アイツだってガキじゃねぇんだ。イチイチ言葉にしなくたって俺ら位になりゃ目を見りゃ大概の事は分かるんだよ」

 

「ふーん、男同士のシンパシーって奴?」

 

 

腕を組んでドヤ顔を決めるキタンにヨーコは関心なさそうに呟く。いや、実際はある心境を抱いているが、ここで話すことではないと思っているだけ。

 

それを察したのかそうでないのか、やや間を置きながらキタンはヨーコに聞き返した。

 

「お、お前だってアイツに話があるんじゃなかったのか? カレンもアイツの所に行ってるみたいだし、気になるなら行ってきてもいいんだぞ?」

 

言われてみると、確かに彼の側にはいつの間にかカレンが立ち、何やら詰め寄っている。もう部隊内では見慣れた光景の為に誰も突っ込む者はいないが、それでも最強と恐れられる魔人が一人の少女によって狼狽している様が面白く、彼の周囲には笑い声が絶えなかった。

 

そんな彼らを見て、ヨーコは目を細めた。

 

「……私さ、アイツの事が放って置けなかった。一人で突っ走って一人で怪我をして、一人で戦い続けるアイツが気が気でなかった。まるでアイツみたいな生き方をしてるから」

 

「………」

 

ヨーコが語る“アイツ”それが嘗て大グレン団の鬼リーダーである事を察したキタンは、静かに聞き入れてヨーコに話の続きを促した。

 

「だから、重ねちゃったんだと思う。性格とか全然違うのに、相手がどんな奴だろうと一歩も引かない所とか、私はシュウジを通してカミナを見ていた」

 

けど、それがどれだけ酷い事であるのか、漸くその事に気付いたヨーコは自嘲の笑みを浮かべて宙を見上げた。

 

「ホント、私ってば最低だ。アイツは何時だって変わらず私を私として見ていたのに、私はアイツじゃなくアイツを通してカミナを見ていた。未練がましいにも程があるよね」

 

ヨーコの言葉に、何処か涙声が混じっている様な気がした。けれどキタンはその事を指摘する事はせず、ハッキリとした口振りで言葉を紡いだ。

 

「お前がアイツにどう思ってたのかは知らねぇけどよ。それってそんなに悪い事なのかよ」

 

「………え?」

 

「お前だって人間だ。そんでもって俺も人間だ。勝手な事を言う事もあるし、気に入らない事があれば喧嘩する事だってある。間違いを起こすのが人間であるならそれを正すことが出来るのもまた人間だ。お前がぶっちゃけるから俺も言うけどよ。俺も腹の中では時々シュウジにムカつく時があるんだぜ」

 

「……嘘」

 

「嘘なものかよ。あの野郎は顔が良い癖にその上頭も良く、喧嘩も強くて頼りがいがある。子分として嬉しい限りだが、同じ男として悔しいと思う時がある。……分かるだろ? 嫉妬してるんだよ。俺が、このキタン様が、自分の子分に嫉妬してる。情けねぇったらねぇぜ。────けどな、俺はそれを恥と思わねぇ。何故なら、俺はアイツが子分である事が嬉しいと思う事もまた嘘偽りがねぇからだ」

 

堂々とそう口にするキタンにヨーコは納得した。キタンが自分の気持ちに嘘偽りなく受け入れている様に、自分もまた自分のシュウジを想う気持ちに嘘があったという事が無かったからだ。

 

喩え亡き想い人を重ねたとしても、彼を心配に想う気持ちに嘘はない。だから、情けなく思う事はあっても、それ自体に間違いはない。

 

何だか気持ちが軽くなった気がした。意外にもフォローしたキタンに皮肉混じりの礼を言おうと彼の方に振り返ると……。

 

「キタン? どうかしたの?」

 

何故か、そこには先程まで自信満々のキタンはおらず、代わりに酷く戸惑っている様子の彼がいることにヨーコは疑問に思った。

 

何だと思い彼の視線の先を追うと、そこには仮面を取ったシュウジの姿があった。確かに彼が自ら仮面を取ることに物珍しさを感じるが、かといってそれ以上なにか思う所はない。一体キタンはあのシュウジに何を感じ取ったのか、ヨーコが訊ねると。

 

「わ、悪い。らしく無いこと言って少しばかり木っ端恥ずかしくなってきた。少し頭冷やしてくるわ」

 

そう言って格納庫ブロックを後にするキタンにヨーコは不思議に思ったが、特にそれ以上思う事はなく再びシュウジへと向き直る。

 

そこにはヒビキ達と談笑する素顔のシュウジがそこにいた。それ自体は何も変わらないし、ヨーコも特に不審に思う所はなかった。

 

けれど、キタンだけは感じ取った。シュウジが仮面を取る際に見せた無感情の顔を……まるで能面の様なその素顔にキタンは一瞬、アレがシュウジなのが目を疑った。

 

しかし、それ以降は特に変わった様子は見せず、自分の知るシュウジと全く変わった所などなかった……いっそ見間違いだったと思える程に。

 

だが、キタンにはそんなシュウジが酷く歪に見えた。まるで何者かに色を塗りつぶされた様に、まるでその事に抗っているように……。

 

訊ねるべきか、それとも静観すべきなのか、キタンは自ら見たものの正体を突き止めるべく、その後一人で調べたりするのだが。

 

時間は待ってくれず、時刻は出発の時を迎える事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リアルが忙しかったり、風邪引いて寝込んだりと割と辛い日々でした。

皆さんも体調には気をつけて下さい。

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