『G』の日記   作:アゴン

124 / 266
今回、主人公のとあの子の関係が明らかに!?


その104 後編

 

 

 

 

 

 

「一体どうなってんだよ!?」

 

超銀河ダイグレンの格納庫、突然の事態に理解が追い付いていないパトリックの声が響き渡る。だが、誰も彼の言葉に応える者はおらず、嫌な空気が格納庫に充満する。

 

「───状況はどうなっている?」

 

超銀河ダイグレンの艦長であるダヤッカの声がブリッジに響く。覚えているのはアンチスパイラルの軍勢と死闘を繰り広げていた所まで、そこから先は強い何かに引っ張られる様に体が地面に叩き付けられ、その衝撃に意識を失い今まで気を失っていたのだ。

 

気が付いた時、ブリッジから見えるのは真っ暗な空間だった。混乱する意識を覚醒させるダヤッカの耳に届いたのは、大グレン団屈指の頭脳を持つリーロンとロージェノムだった。

 

「恐らく、ここは奴等が生み出した超高重力の海なのだろう。加えて螺旋エネルギーを吸収する性質を持ち合わせている。外に出てしまえば並の機体では一分も保つまい」

 

「要するに、今の私達は手足をもがれて首を甲羅に引っ込めた亀同然って事ね」

 

「そんな呑気な……て、それじゃあシモンは!?」

 

現在、この超銀河ダイグレンのエネルギーの中枢を担っているのはグレンラガンことシモンだ。他の人とは一線を画す螺旋エネルギーの持ち主であるシモンは、アークグレンとの合体を果たし、この超銀河ダイグレンをも文字通り自らの手足とさせた。

 

しかし、その並外れた螺旋エネルギーを持つシモンが、今は己自身の力の為に苦しんでいた。超銀河ダイグレンをも呑み込む重力の海、その強大さは襲い来る重力の負荷に耐えきれず、超銀河グレンラガンはその姿を保てず、戦艦形態へと移行させてしまっている程だ。

 

そこへ更に追い打ちを掛けてくる螺旋エネルギーの吸収、力を出せば出すほどにシモンの力は失われ、アンチスパイラルの思う壷に嵌まっていく。

 

度重なる負荷の連続にシモンの体力も限界に差し掛かっている。Z-BLUEの旗艦且つ主力である超銀河ダイグレンが沈めば、Z-BLUEの戦線は瞬く間に瓦解するだろう。

 

「だが、それでも我々がこうして生きていられるのは、偏にあの男が奮闘しているお蔭だろう」

 

「あの男?」

 

意味深に頭上を見上げるロージェノムに吊られてダヤッカも上を仰ぎ見る。そこにはブリッジの天井ではなく巨大モニターが映し出されており、自分達の真上の状況が映っていた。

 

黒い海、重力の海の中で弾ける無数の閃光。弾けては消え、弾けては消えるを繰り返すその光に、ダヤッカは最初それがなんなのか分からず首を傾げるのだが、その光が何なのか理解した瞬間、その目を大きく見開くかせた。

 

「ま、まさか蒼のカリスマ───シュウジの奴が戦っているのか!? たった一人で!?」

 

「奴の機体は唯一この宙域に適した性能を有している」

 

「皆の機体を回収する際、アンチスパイラルの軍勢が押し寄せて来てね。無防備な私達を守る為にあの子は自ら殿を務めたのよ」

 

自分達の真上で、一人アンチスパイラルの軍勢と戦うシュウジとグランゾン。彼一人を戦わせてなるものかと、ダヤッカはアーテンボローに援護射撃を指示するが、それよりも早くリーロンから待ったを掛けられる。

 

「止めなさいダヤッカ」

 

「何でだ。どうして止めるリーロン!」

 

「先程重力の海に呑まれたと言っただろう。実弾を撃てば放たれた瞬間圧壊し、エネルギー砲を放てば───」

 

「螺旋エネルギーである砲撃も吸収されちゃうって訳」

 

「打つ手はないって言うのか……!」

 

苦虫を噛み砕いた様に顔を歪めたダヤッカは力任せに艦長席のテーブルを叩く。鈍い音がブリッジに響き渡る中、リーロンのコンソールを叩く音が鳴っていた。

 

一体何をしているのか、ダヤッカが訊ねようとした時、またもやリーロンが先に口を開く。

 

「でも、一応活路は見出だしたわ。活路といっても成功率は殆どゼロの博打よりも酷いモノだけど……」

 

活路。この状況を打破する事を示唆するリーロンに、ダヤッカだけでなく、ロージェノムを除いたブリッジにいる全員の表情が明るくなる。

 

しかし、その内容が余程キツイモノなのかリーロンの表情は暗く、あまり口に出そうとはしなかった。ロージェノムもリーロンの示す可能性について思う所があるのか、目を閉じて何も言わない。

 

このままでは時間だけを浪費してしまう。幾らネオ・グランゾンが桁違いの力を有していても、操るシュウジ自身には体力の限界がある。これ以上時間はかけられないとダヤッカが問い詰めようとした時、ブリッジの扉が開かれた。

 

「リーロン、教えろよ。この状況を打破する秘策ってのよ」

 

「キタン!」

 

「キタン、あなた……聞いてたの?」

 

「いいや、聞いちゃいねぇよ。ただ頭の良いお前の事だ。そろそろ打開策の一つ位は思い付いていると思ってよ」

 

で? そう続けるキタンは戸惑うリーロンを見据え。

 

「教えてくれよ。その秘策ってのよ」

 

「……本気、なのね」

 

「弟分があそこで体張って、命張って戦ってるんだ。ここで動けなきゃ────俺は一生胸を張って歩く事が出来ねぇ。なぁ、頼むよリーロン。アイツにこれ以上カッコ悪い所見せたくねぇんだ」

 

譲れない。そう語るキタンの本気の目にリーロンも決意し、遂にその重い口を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さて、今ので何体目かな」

 

爆散していくインベーダーを見下ろして、シュウジはネオグランゾンのコックピットで乾いた笑みを浮かべる。アンチスパイラルが生み出した重力の海の影響により身動きを封じられたZ-BLUEを、アンチスパイラルの軍勢から守る事に徹したシュウジは、これまで無数の敵を相手にし、退けていった。

 

本来ならワームスマッシャーや重力制御を行って敵を一掃する事も出来た筈、それなのに一体ずつ接近戦に持ち込んでいるのは、偏に自身の状態が原因だった。

 

シュウジの体力、精神力は共に底を尽きかけている。自身を蝕んでいた呪いは一向に弱まる気配はなく、随時彼を苛ませ続けている。

 

青ざめを通り越して土気色と化したシュウジの表情、呪いに抗い続けた事による副作用が、遂に己の生命の危機にまで発展しだしているのだ。今のシュウジがネオ・グランゾンを通して出来るのは、手にした大剣で敵を直接的に斬り払う事と、僅かに機能する重力制御で機体の機動を確保する程度。

 

極限状態となったシュウジだが、それでも気を失わず戦い続けていられるのは、皮肉にもアンチスパイラルの軍勢のお蔭でもあった。何体倒しても絶える事なく押し寄せてくるインベーダーや宇宙怪獣、これらの敵の存在がシュウジの気力を絞らせ、絶やさずにいさせたのだ。

 

「そら、これでぇ……終いっだァっ!」

 

横薙ぎに振るったネオグランゾンの大剣が、宇宙怪獣の胴体を切り払う。これで今の一団は片付いたと、そんな状況確認をする間もなく、更なる増援がグランゾンへ押し寄せてきた。

 

重力の海に突入して現れるパダ級の群れ、重力に従って向かってくる様子は突進というよりも落下に近い。並の艦よりも巨大なパダの群の直撃を受けたシュウジは、ネオ・グランゾンと共に重力の海の底へ沈んでいく。

 

『こ、のぉ……水虫がぁ、伝染るンだろうがぁぁっ!!』

 

必死の強がりを口にし、心を折れない様に気を強く持ちながら、シュウジは操縦桿を握る手に力を込める。

 

両断したパダ級を皮切りに、シュウジは残された力を振り絞る勢いで、向かってくる敵を斬り続けた。がむしゃらに、向こう見ずに、ただ目の前の敵を破壊し続ける。爆散していくパダ級の爆風により一瞬だけ重力の海から解放されたシュウジは、その勢いを絶えさせてはならないと、必死にネオ・グランゾンを操り続けた。

 

……気が付く頃には既にパダ級の姿はなく、無惨な残骸だけが辺りを漂っていた。どうやら気を失っていた間に全て倒していたらしい。度重なる敵の襲撃を退けた事にシュウジは安堵をするが────。

 

『は、はは。マジかよ。そりゃ順当に言えば次はこうなるだろうけどさ、もう少し休ませてくれてもいいんじゃない?』

 

シュウジの眼前に映るのは、星をも呑み込みそうな程に巨大なアシュタンガ級の群れだった。

 

解っていた。このまま戦い続ければいずれはコイツらにぶつかるのは、これまでの流れからある程度察していたシュウジは参ったなと笑みを浮かべる。

 

“無駄な事だ”

 

絶望を告げるアンチスパイラルの声が、シュウジの耳元で囁いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超銀河ダイグレン格納庫区画。広々とした格納庫、この区画で修理と整備がされているのは、大グレン団達の乗るガンメンだった。

 

整備班達の作業に尽くす声があちこちから聞こえてくる。そんな喧騒の中をキタンは歩いていた。彼が真っ直ぐ歩く方向、そこにあるのは自身の愛機であるキングキタンだった。

 

機体のあちこちに刻まれた細かな傷痕、それは破界事変、再世戦争といった過去の大戦を潜り抜けた、歴戦の証でもあった。

 

「テメェとも長い付き合いになったな。ここまでよく付き合ってくれたもんだ。なぁ、相棒」

 

懐かしむ様に、慈しむ様に見上げるキタンの瞳には、確固たる決意が宿っていた。心残りはない。そう自身に言い聞かせながらキタンは己の愛機に乗り込もうと────。

 

「どこ行くつもりよ。キタン」

 

「……ヨーコか」

 

直前、背後からのヨーコの声にキタンの足が止まる。振り返って彼女に向き合うと、そこには怒りと悲しみを混ぜた様な顔をしたヨーコがキタンを睨み付けていた。

 

やっぱりか、長年の付き合いから互いの考えを読める間柄を、今は恨めしく思いながらキタンは頭を掻く。こんな時うまく誤魔化しの言葉を言えればいいのだが、そんな都合の良い言葉を思い付く筈などない。故に、キタンは単純明快にヨーコに告げた。

 

「ちょっくら行ってくる」

 

「分かってるの?」

 

自分が今、何をしようとしているのか。暗にそう訊ねるヨーコにキタンは笑って答えた。

 

「今俺達の頭の上で、シュウジの奴が一人で戦っている。あのシュウジがだぜ? ビビりでヘタレなアイツがテメェの命を懸けて戦っているんだ。同じ男として、何よりアイツの兄貴分として……黙って見ている訳にはいかねぇだろ。言うなれば、これは俺の我が儘だ」

 

「……そっか」

 

キタンの想い、その事を耳にしたヨーコに最早止める言葉など見付からなかった。これは自分の我が儘だと、そう言って譲らない以上、自分に止められる事など出来やしない。

 

なら、なんといって彼を送り出せばいいのだろう。決意を固めたこの男にどんな言葉を送ればいいのだろう。何も思い付かない自分を恨めしく思った時、自身の体に何かが抱き付いてきた。

 

「き、キタン?」

 

抱き付いてきたのは目の前にいたキタンだった。力強く、逞しい男の腕に抱かれている事にヨーコは、戸惑うと同時に理解した。

 

「悪い、これも俺の我が儘だ」

 

震えている。大グレン団の中でも屈指の偉丈夫で知られるキタンの体が震えている。当然だ。戦いで傷付き、死ぬこともある戦場の中で、死に恐怖するのは生命としての本能だ。誰だって怖いに決まっている。

 

だが、それでも止まらないのが人間だ。キタンの想いを受け取ったヨーコはキタンの背中に手を回し……。

 

「好きでやっているんでしょ。だったら────謝らないで」

 

それはヨーコの心からのエール、彼女の精一杯の応援を受けとったキタンの震えは────止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あばよダチ公! なんてキザな台詞は言わねぇ。行ってくるぜ野郎共!』

 

超銀河ダイグレンの発進口からスペースキングキタンが出撃する。通信から聞こえてくる仲間の制止を振り切りながら彼が目指すのは、重力の海の底に存在する元凶“デススパイラルマシーン”だった。

 

螺旋エネルギーを吸収し、そのエネルギーで高重力を生み出すその存在に向けて、キングキタンは予め用意された超螺旋弾を射ち放つ。

 

放たれた弾丸は真っ直ぐ突き進み、デススパイラルマシーンを覆っていたバリアフィールドを撃ち破る。ここまでは予定通り、リーロンの計算高さに舌を巻き、キタンは止めのミサイル群をデススパイラルマシーンに叩き込もうとした。

 

────しかし。

 

『くそ、肝心な所で!』

 

デススパイラルマシーン周辺の重力はこれ迄にないほど強力なものとなっていた。超高重力に晒されたスペースキングキタンはなす術なく圧壊されようとした─────その刹那。

 

キタンの表情に笑みがこぼれる。死が間近に迫っているというのに笑みが溢れてしまうのは恐怖を遠ざける逃避なのか……いや、違う。

 

今、キタンの胸にあるのは寂しさと嬉しさ……そして、満足感だった。

 

『シュウジィィィィッ!!』

 

『っ!?』

 

『テメェは、そのまま前に進めぇぇぇっ!!』

 

それは、自分が兄貴分として彼に贈れる最期のエール。自分がヨーコに勇気付けられたように、今度は自分がアイツに何かを遺す番。

 

本当は、もっとアイツの成長する姿を見ていたかった。初めて出会った時のように、間近でシュウジの奮闘振りを見ていたかった。

 

もっと話をしたかった。もっと酒を飲み交わしたかった。今苦しんでいるアイツを傍で支えてやりたかった。

 

けれど、それは俺の役目じゃない。恐らくそれはシュウジ自身が乗り越えるべき事だと思うから。だからキタンは声を張り上げて伝えた。前に進めと。

 

短い言葉を吐き捨て、今度こそやり残しを片付けたキタンは、スペースキングキタンからの脱出レバーを引き上げる。

 

硬い装甲に覆われたスペースキングキタンから飛び出したキングキタンが背負うのは、御守り代わりに拝借したグレンラガンのドリル。

 

それを右腕部に無理矢理取り付けたキタンは、そのまま一直線にデススパイラルマシーンに特攻していく。

 

『コイツはシモンの、大グレン団の、人間の───いや、この俺様の魂だァっ! テメェ如きに食い尽くせるかぁっ!?』

 

『キィィィングキタァァァァンッ!! ギガ、ドリルゥゥゥゥゥ……ブレェェェェェイクゥウゥゥゥ!!!』

 

それは、命の発露だった。最後の瞬間、螺旋の命として扉を開いたキタンは────。

 

『これが螺旋の力かよ。大したもんじゃねぇか。ハ、ハハ……』

 

デススパイラルマシーンを貫き、無間の闇である重力の海に風穴を開け、光となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………嘘だろ?』

 

ネオ・グランゾンのコックピット内。全ての敵を討ち果たしたシュウジは、茫然自失となって呟いた。

 

目の前のモニターに映る大爆発の映像、それが何なのか、何が原因でそうなったのか理解出来ないでいるシュウジは、震える手で頭を抑える。

 

いや、本当は解っていた。あの爆発が何なのか、誰の手によって成されたのか。その事を理解しても心が受け入れていないシュウジは、ふざけるなと叫びながら、コックピット内のコンソールを叩く。

 

『何でアンタが死ぬんだ! どうして死ななきゃ行けない! アンタは大グレン団の一人で、俺の兄貴分なんだろう! なのに……どうして!』

 

重力の海から解放され、再変換された螺旋エネルギーが渦巻く。そんな中でキタンの……兄貴分の死を受け止めきれずにいたシュウジは、嗚咽を漏らしながら涙を溢す。

 

店長、トレーズ、そしてキタン。もっと話をしたかった。助けてくれた人にちゃんと恩返しをしたかった。悔しさと後悔に胸が締め付けられるシュウジ、そんな時───奴が現れた。

 

『哀れだな、蒼き魔人』

 

圧倒的存在感を感じさせ、脳内に直接響かせてくる声。その声の主に覚えのあるシュウジは目の前を見据える。何もない筈の虚空の宇宙、そこに佇むのは黒い人間……いや、人間だったもののなれの果て。

 

“アンチスパイラル”この隔絶宇宙の主にして、宇宙の守護者を自称する存在。神の如き力を有するアンチスパイラルの登場にシュウジは、操縦桿を握り締めて身構える。

 

いつでも戦えるように構えるシュウジ、しかし予想に反しアンチスパイラルの態度は穏やかだった。不気味な程に静かなアンチスパイラルに戸惑うが、油断してはいけないと気を引き締める。

 

『嘗て──再世戦争と呼ばれていた頃のお前は正しく魔人だった。一人でありながら強大で、助けがなくともお前は誰よりも恐ろしい存在だった。この私が認める程に』

 

『…………』

 

『だが、今のお前にはその強さが見えない。挙げ句の果てには奴等に強襲され、自我を失いかける程に弱く、脆くなってしまった。何故だか分かるか?』

 

分からない。分かりたくない。淡々と自身について語るアンチスパイラルにシュウジは聞きたくないと耳を抑えるが、直接脳に響いてくるアンチスパイラルの声を防げる筈もなく。

 

『孤独。それがお前の絶望だ。孤独の中でこそお前の力は最大限に発揮させ、孤独の中でしかお前は生きられない』

 

『そんな……そんな筈は』

 

揺らぐ。シュウジの中で大事な何かが揺れ動き、崩れそうになる。

 

視界が歪み、気を失いそうになる。意識だけはなんとか繋ぎ止めようとシュウジは無意識の抵抗をするが。

 

『だが、安心するといい。私がお前の絶望を取り払ってやろう。永劫に覚める事のない夢の中でな』

 

瞬間、シュウジの視界が暗転する。アンチスパイラルの甘い囁きに意識を保てなくなり、遂に手放してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…………て」

 

「……ん~」

 

「起きて」

 

「……クー……スー……」

 

「ちょっと、起きてってば」

 

「ん~、もう食べられないよ」

 

「こんの、ベタな寝言言ってないで、さっさと起きろ! バカシュウジ!」

 

「ゲブゥゥッ!?」

 

鳩尾から伝わってくる激的過ぎる衝撃により強制的に目覚めさせられる。

 

なんだ敵襲か!? 殺意すら感じられた一撃に戦慄を覚えながら辺りを見渡すと、俺は驚愕に目を見開いた。

 

「俺の……部屋?」

 

 

そこにあるのは忘れる筈のない、慣れ親しんだ俺の部屋だった。慣れ親しんだ……そう、当たり前にある俺の部屋だ。

 

なのに……いや、だからこそ俺は驚いていた。何故ならここは多元世界に来る前の────“元の世界”の俺の部屋だからだ。

 

「なんで……俺、確かアンチスパイラルと戦って────」

 

直前まで覚えている記憶を頼りに状況を思い出そうと試みる。が、それも隣にいる聞き慣れた女性の声によって遮られてしまう。

 

「ちょっと、起きたんなら早く着替えなさい。講義が二時限目だからって寝過ごすなんてさせないんだから」

 

その声の主にドキリとしながら振り返る。だって、そんなバカなと、否定の言葉ばかりが頭に浮かぶ自分の目の横にいたのは───。

 

「なぁに? 私の顔をジッと見て。あ、もしかしてニコニーにこちゃんに見とれてた? うふふ、幼馴染を魅了しちゃうなんて、私ってば罪なオ・ン・ナ☆」

 

昔馴染みの女の子、矢澤にこちゃんが得意気にウンウンと頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

待ったいてくれた皆さん、これからも宜しくお願いします。

次回、ボッチの夢


次回もまた見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。