『G』の日記   作:アゴン

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今回は謂わば一方その頃……な、話。


幕間

地球。ネオ・ジオンのアクシズ落としと時の牢獄の破壊成功の一件から数日が経過した現在、地球は一応の落ち着きを取り戻しつつあった。

 

アンチスパイラルという嘗てない巨大な敵を相手に宇宙の彼方へ飛び立ったZ-BLUE、そんな彼等を見送ったシュナイゼルは、とある場所に向けて足を進めていた。

 

彼が向かっているのは今は亡き友人が遺した旧トレーズ邸。政治的やり取りの末に正式に連邦政府から預かる事になり、現在はシュナイゼルが所有する物件となっている。地下へ続くエレベーターに乗り込み、シュナイゼルは地下格納庫へ足を踏み入れる。

 

「やぁやぁ、お待ちしていましたよ殿下。あ、もう殿下じゃないんだっけ? じゃあシュナちゃんだ」

 

「もうロイドさん! 失礼ですよ! 申し訳ありませんシュナイゼル様」

 

「ははは、構わないよセシルさん。もう今のブリタニアに貴族制度は無いんだ。そう畏まる必要はないよ」

 

地下格納庫に足を踏み入れたシュナイゼルを待っていたのは、これまで以上にフレンドリーに接してくるロイドと、それを咎めるセシルだった。既に見慣れたやり取りをいつも通りの対応で軽く流し、シュナイゼルは二人に話を促す。

 

「それで、例の機体が完成したという報告を受けて来たのだけれど……見せてもらえるかな?」

 

「はいはいただいま~♪」

 

シュナイゼルに言われるがまま、クルクルと回転しながらロイドは手元にあるスイッチを押す。すると壁際に立て掛けられた巨大なカーテンが降り、一体のMSが姿を表した。

 

「────おぉ」

 

そのMSの佇まいを目の当たりにしたシュナイゼルの口から感嘆の声が漏れる。普段の姿勢からは珍しい反応を示す彼の態度に、ロイドはドヤァと笑みを浮かべた。

 

その機体は、嘗てトレーズがホワイトファングでの決戦で当時の地球圏最強の部隊であるZEXISを相手に単機で翻弄した規格外の機体、先の大戦でも蒼のカリスマが駆ってマリーメイア軍を相手に大立ち回りをした等の数々の活躍を果たした機体───“トールギスⅡ”に類似した機体が佇んでいた。

 

類似という表現から察する様に、その機体は傍目から見ても嘗てのトールギスⅡとは少々造形が異なっていた。全体的に丸みを帯びた機体、背中には巨大なバーニア、以前あった両肩に取り付けられたシールドとレールガンは取り外され、代わりに一丁のライフルが腰に添えられる様に備えられている。

 

他にも脚部に取り付けられた展開型のバーニアなど見所となる箇所は多々あったが、一番シュナイゼルが興味を持ったのは背中にある部分、背中の左側から見えるMSの身の丈と同等に長い長刀だった。

 

独特の柄と芸術的角度で仰け反った刀身から、その長刀は日本刀であることが分かった。以前の万能型の機体から近接特化型へ様変わりを果たしたトールギスⅡ、その風体は騎士(ナイト)というより闘士(ファイター)に近いものを感じる。

 

見るからに癖のある機体だ。MSに関してはある程度の知識しかないシュナイゼルでもそれは容易に想像出来た。

 

「どうやら、注文通りの機体が完成したようだね」

 

「もう大変だったんですよ~。ラクシャータにはドヤされるし、日本の三博士からは愚痴られるし、ビーリ君から泣きつかれるし、挙げ句の果てにはお狐博士からこれは貸し一つだぞって脅されたりしたんですから~」

 

「ビーリじゃなくてビリー=カタギリですよ。それに泣きつかれてもいませんし基本的に三博士やラクシャータさんの愚痴を聞いたのは主に私と弓教授ですから! そこら辺忘れないでくれません?」

 

「あれ? そうだったっけ?」

 

「モノを忘れない予防法、教えてあげましょうか?」

 

「いえ、遠慮しておきます」

 

ロイドの茶目っ気ある態度に苛立ちを覚えたセシルは、寒気がするほどの素晴らしい笑顔を浮かべる。それが彼女の怒りの表れなのだと長い付き合いを経て理解しているロイドは、額に冷や汗を浮かべて必死に流す。

 

彼女の怒りを受けても碌な事にはならないと、ロイドは露骨に話を反らし───いや、本来の話題に戻った。

 

「しかし、本当に良かったんですか? 一応注文通りの性能には仕上げましたけど……正直、これを操れる人間は殆どいませんよ」

 

真剣な表情でそう言い切るロイド、それについては同意しているのか、後ろの方でセシルはウンウンと頷いている。

 

「ジェレミア卿が持ち帰ったトールギスⅡの運用データとそのパイロットだった蒼のカリスマ……もとい、シュウジ=シラカワの身体データを基に改修……いや、改造された近接特化型MS、単純な性能なら現行するどのMSよりも圧倒するスペシャルな機体」

 

「けれど、その性能故にパイロットには大きな負担を強いる事になります。碌な対G機能もなく、脱出装置もなく、性能だけを追求した特化機体」

 

「しかもコックピットには従来の物とはかけ離れたシステムが搭載されている訳だしね。並の人間なら最初の加速段階で失神は確実、仮にそれを耐えてもその後のGに耐えきれず内臓はズタボロ、最悪死に繋がる。乗ってるだけで死んじゃうとかどこぞの歩く棺桶以上の代物だよね~」

 

からからと笑っているがロイドの目は笑っていない。自分の上司に対する目付きではないが、それも仕方のない事、ロイドは確かに科学に魂を売り渡し、自ら“壊れている”と自負しているが、別に殺戮者になりたい訳ではない。ただ自分に興味があるものに対して直向きに向き合い、自身の望むままに没頭したいだけなのだ。

 

故にロイドは視線で問う。何故自分達にこんな代物を作らせたのか、名だたるロボット工学の学士達を呼び寄せてこんな代物を造らせたのか、パイロットを極端に選ばせるこの機体を誰の為に造らせたのか。

 

尤も、ロイドには誰の為かなど既に分かっていた。というか、こんな化け物機体を操れる心当たりのある人間など一人しかいない。その事を理解しているからこそ、上記の名学士達もこの機体の改造に協力出来たのだ。

 

そして、肩を竦めて苦笑いを浮かべるシュナイゼルの口からは予想通りの答えが返ってくる。

 

「無論、そんな事にはならないさ。彼は……シュウジ=シラカワは必ずこの機体の性能を限界まで引き出してくれる」

 

その答えにロイドはやれやれと肩を竦め、セシルも苦笑いを浮かべる。

 

「信じているんですね。彼の事」

 

「信じている。というのは少し違うかな、どちらかと言えば当然という確信だろう。何せ彼は自分で言った事は必ずやり遂げる男だからね」

 

「再世戦争の時も、彼ってば宣言通り殴ってきましたものね~」

 

当時の事を思い出したのか、堪えきらなくなったロイドは噴き出す様に笑い出す。対するシュナイゼルはその時の衝撃と痛みを思い出し、やや表情を青褪めさせて頬を擦る。

 

「でも、これからどうします? 機体を完成させたのはいいですけど、肝心なデヴァイサー(シュウジ)がいないのならぶっちゃけ意味ないんじゃない?」

 

ロイドの指摘も尤もで、実際問題なのはこれからだった。この機体は性能そのものは非常に優れているが、乗り手であるシュウジは不在。そもそも彼にはグランゾンという、MSとは比較にならない性能を有した機体を所持している。

 

以上の理由から、三博士を始めとした協力者の皆さんから愚痴を聞かされる羽目になり、弓教授やセシル、序でにビリーは心労でくたびれる事になった。

 

「……なに、この機体は謂わば保険さ。彼の愛機は確かに強力だ。過去の戦績から見てもその事は覆らない事実、しかし───」

 

「物事には絶対は存在しない。ですか?」

 

「その通り、そしてこれから私達が相対する相手はそんな絶対が通用しない存在なのだと私は睨んでいる。……そう、例えるなら」

 

「私達、クロノのような輩……ですか?」

 

「っ!?」

 

シュナイゼルの背後から聞こえてくる第三者の声に、セシルとロイドは驚愕に目を見開かせる。

 

「そんな、警備システムは機能している筈! 警報も鳴らずに侵入してくるなんて……」

 

「こう見えて私、潜入工作は得意分野でしてよ。あの程度の警備網を潜り抜ける位訳ありませんわ」

 

「尤も、蒼のカリスマ程ではありませんけど」と、付け加えながら声の主、赤いウェーブの髪の女性はシュナイゼル達に近付いてくる。

 

そんな彼女に二人は動揺するが、唯一シュナイゼルだけは変わらぬ態度で佇んでいる。何故こうも落ち着いているのか、セシルがシュナイゼルを見遣ると……。

 

「やぁ、随分と早い到着だね。ツィーネ=エスピオさん。いや、クロノのクィーンと呼んだ方が良いかな?」

 

不敵に返すシュナイゼルにロイドやセシルは勿論赤髪の女性───ツィーネも驚愕に目を見開く。何故シュナイゼルがクロノの構成員を知っているのか、相変わらずの情報網にロイド達は脱帽するが、対するツィーネ本人は驚愕の心境からいち早く立ち直っていた。

 

「フフ、流石はブリタニアの宰相閣下。私の事なんてお見通しという訳ですか」

 

「別にお見通しという訳ではないさ。私はただ知っている事を知ってるだけ、現に君がここに来るのを後五分は掛かると思っていたからね。君の実力を見誤っていた結果だ。いやはや、大したものだよ」

 

「……成る程、どうやら腹の探り合いで貴方に勝とうというのは止めておいた方がよさそうだ。───ならば単刀直入に言いましょう。シュナイゼル=エル=ブリタニア、貴方に選択肢を与えます。今すぐあの機体を私に渡すか、それともアナハイム社……いえ、ビスト財団に接収されるか、選びなさい」

 

突き出される選択肢、当然ロイドとセシルは突然の事態にそれぞれ動揺を見せるが、シュナイゼルだけは不敵の笑みを浮かべ……。

 

「違うな。間違っているよ、ツィーネ=エスピオ」

 

そう、鋭く切り込むのだった。

 

 

 

 

 




長くなりそうでしたので今回は幕間的な話を間に挟む事でお茶を濁す形になってしまいました。

次回はアンチスパイラル対ボッチの決戦(序章)をやっていくつもりですので宜しくお願いします。

次回、宇宙「ひぎぃ」

次回もまた見てボッチノシ

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