『G』の日記   作:アゴン

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宇宙「もぅ、ゴールしても……いいよね?」


その106

 

 

────隔絶宇宙。アンチスパイラルの拠点にして、多元世界の宇宙とは異なった空間に存在する人造の宇宙。

 

本来の宇宙空間とは異なり、隔絶宇宙における法則はアンチスパイラルが支配している。彼の者が敵を殲滅せよと念じれば無限の軍が永遠に産み出され、逆に祝福を祈ればその者を決して覚める事のない永劫の夢の檻へと誘う。

 

この宇宙においてアンチスパイラルの力こそが絶対。神の如く強大な力を持つ彼等は、確かに宇宙の守護者と名乗るだけの力を有していると言えるだろう。

 

悠久の時の中で自分に立ち向かってきた者は全て滅ぼしてきた。それこそが宇宙を護る事に繋がると疑わず……。

 

それはこれから先、未来永劫変わらぬ事実。アンチスパイラルにとって決して揺るぐ事のない絶対。

 

しかし、そんな“絶対”に今少しばかりの綻びが生まれた。広大な隔絶宇宙の中で誕生したソレは、天も次元も捩じ伏せ、銀河を足下に置いて顕現する。

 

蒼き魔神“ネオ・グランゾン”日輪を背負い、再世戦争の頃にアンチスパイラルの宇宙の一部を破壊し、唯一自分と敵対して生き残った存在が、多元宇宙迷宮を突破し、更なる進化を果たした。

 

面白い。黒い影────アンチスパイラルは自身の予想を裏切って現れた存在を見上げ、その口元を三日月の形に歪める。

 

恐ろしく、おぞましく、それでいて───無邪気な笑顔。アンチスパイラルの空虚な眼の中に浮かぶ小さく赤い炎、それが魔神を見て僅かに揺れた事に誰も気付く事はなかった。

 

本人すらも、胸の内から涌き出てくる熱に気づかないまま───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日輪を背負い、天も次元も捩じ伏せて、多元宇宙迷宮から相棒であるグランゾンと共に脱出した蒼のカリスマことシュウジ=シラカワは、目の前の光景に言葉を失っていた。

 

広大な宇宙という闇の中で浮かぶ無数の星々と銀河、無という虚構の空間に浮かぶ星の煌めきにシュウジは目を奪われていた。綺麗だ。今はそんな場合ではない事は重々承知している。けれど呆然と星々を見上げているシュウジの口からは自然とそんな言葉が出ていた。

 

『それほど迄に巨大なエネルギーを我が物とするとはな、やはり貴様は最初の時確実に倒しておくべきだったか』

 

背後から聞こえてくる腹の芯にまで響いてくる声を耳にした瞬間、シュウジの意識は瞬時に切り替わる。ゆっくりと機体と共に振り返り、声の主と相対する。

 

銀河の海から這い出る様に現れる巨大な機体、無機質で邪悪。見るもの全てに畏怖を抱かせるその姿は、守護者というよりも悪魔に見えた。

 

しかし、何故だろう。外観や雰囲気は全く違うというのに、シュウジには目の前のソレは、どことなくグレンラガンに似ている様な気がした。

 

だが、同時にシュウジは理解する。目の前の存在は、自分達と同じ外見や手段を用いる事により、相手を深い絶望に叩き込もうとしている。自分達ではどうあっても勝てる事はないのだと、無意味で無価値な存在なのだと。そう思わせる為に、ああして直接戦いに赴いて来ていると。

 

『だが、その憂いも今日ここで終わる。貴様を完全に消滅させた後、序でに螺旋の男とその仲間達を始末する事にしよう』

 

『はっ、まさかそこまで好評価が戴けるとは思わなかったよ。けどな、彼等を甘く見ていると……痛い目見ることになるぜ』

 

『なら早々に決着を付け、貴様が認める奴等の実力を確める事にしよう』

 

それ以上は互いに語る事なく、僅かな時間が流れていく。一秒、十秒、それとも一分か。時間の流れの間隔が曖昧になるほどに集中力が極限に高まった───瞬間。

 

『っ!!』

 

『っ!!』

 

互いに同時に第一歩を踏み出した。それを皮切りにアンチスパイラルの機体“グランゼボーマ”は駆け出し、ネオ・グランゾンもスラスターに火を付けて一気に加速していく。

 

瞬く間に距離を詰めていく中、ネオ・グランゾンは手にワームソードを取りだし、グランゼボーマは左手を刃に変形していく。

 

勢いを乗った両者は互いに速度を緩めず、そのまま銀河の中心部分にまで差し迫り……ぶつかり合った。

 

弩級を超え、人では到底計り知れない規模となった天元突破級のぶつかり合い、その衝撃は足場の銀河を吹き飛ばすだけで飽き足らず、周囲の星雲系までも破壊していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうした。その程度か!?』

 

鍔競り合いの状態で拮抗するグランゾンと奴の機体、単純な力勝負では割といい勝負なのか、俺とネオ・グランゾンは奴の力に負けずに踏ん張っている。

 

当然、奴さんはまだまだ全力ではないのたろうが……まぁ、それは此方としても同じ事なので軽く流しておく。問題は今の俺の状態だ。

 

天元突破という嘗てない状態でいる為か、喜びクソ野郎から受けた呪いは今の所感じられない。この特殊な状態に至った事で吹っ切れたと思われたが……どうやら、俺はまだ奴の呪縛から逃れた訳ではないようだ。気分は快調で頭の方もスッキリしている。医学的観点から見れば今の俺は健康優良児そのものだろう。

 

だが、胸の奥底に眠るヘドロの様な凝り固まった感覚は今も変わらず残っている。恐らくは天元突破を果たした事による一時的な小康状態に陥っているのだろう。奴の呪いは今もなお俺を蝕んで離さない。…………マジでしつこすぎるだろ。

 

ならば、今のやるべき事は一つ。呪いが小康状態となった今の内にアンチスパイラルを片付け、次の段階に進むまでだ。

 

『ほう、我等を相手に考え事とは、随分余裕ではないか』

 

『あっ』

 

眼前に広がる髑髏の顔がグランゾンを通して俺を覗き込んでくる。やっべ、ちょっと意識逸らしすぎた。なんて反省している暇もなく。

 

『っ!?』

 

俺とグランゾンはアンチスパイラルから伸びる四つの手によって四肢を絡め取られ、そのまま勢いを付けて投げ飛ばされてしまう。

 

直ぐ様受け身を取ろうと体勢を整えるが、既に目の前に迫る奴の拳から逃れる術はなく、俺は手にしてあるグランワームソードの腹でこれを受けて直撃を防ぐ。

 

再び開かれる俺と奴との距離、お返しとばかりにワームスマッシャーを叩き込むが、奴の全身から放たれるビームの雨でワームスマッシャーは残さず相殺されてしまう。

 

いや、それどころか奴は全身からビームをブッパしながら側にある銀河を掴み取り───投げ飛ばして来やがった。

 

『そんなのありかっ!?』

 

サイズの規模的に問題は無いのかもしれないが、これまで見たことない攻撃に俺は面食らう。ただ、いつまでも呆けている訳にも行かない為、俺はグランワームソードで二つの銀河手裏剣(今命名した)を切り裂いた。

 

四つに裂かれた銀河はそのまま宛もなく吹き飛び、別の銀河に着弾。瞬間、無数の爆発が隔絶宇宙に広がっていく。その時、俺は奴を一瞬だけ見失ってしまった。爆発に捲き込まれ無いように気を逸らしたほんの僅かな刹那的一瞬、しかしそれが仇となった。

 

『隙だらけだぞ』

 

『っ!?』

 

突然真横から聞こえてきた声に直ぐ様振り返るが、次の瞬間、背後から蹴られたと思わしき衝撃が背中を貫いた。

 

(嘘だろ!? 一瞬で移動しただと!?)

 

自分で自問して気付く。そうだ。ここは奴が生み出した隔絶宇宙、外界から切り離し、それによりこの宇宙を支配したこの世界は文字どおり奴の庭───いや、体内そのものだ。

 

この隔絶宇宙において奴にとって物理法則なんてあって無いようなモノ、奴の思考一つで奴は背後に迫る事も、遥か彼方から狙い撃つ事も可能となっている訳だ。

 

インチキ効果もいい加減にしろ! 声を大にして訴えたい所だが、そんな言葉が通じる相手では無いことは分かっている。それに何より奴の目的は此方を絶望のドン底に叩き落とす事にある。そんなせこい手段に手を出したりはしない。

 

『どうした? 考え事はお終いか?』

 

『……まぁな、お陰で良い気付けになったよ』

 

眼前から歩み寄ってくるアンチスパイラルに精一杯の強がりを吐いてみる。けれど、この程度で終わる訳にはいかない。

 

『あまり失望させるなよ。貴様がその程度で終わらないことは承知している。……さぁ、次の一手を見せてみろ』

 

『言われなくても!』

 

奴の挑発に乗り、俺はネオ・グランゾンを加速させて奴に肉薄する。そして間合いに入った瞬間、力の限りグランワームソードを振り抜いた。

 

『無駄だ』

 

瞬間、横から聞こえてくる声に鳥肌がたつ。顔だけ振り向くと、四つの手をそれぞれ刃に変形させたアンチスパイラルが此方に向けてその手を降り下ろしている。

 

防御なんて間に合う筈がない。それにあれだけの質量だ。歪曲フィールドで防いでもダメージは免れない。そう、防御する事だけを考えれば。

 

『グラビトロンカノン!』

 

『っ!』

 

瞬間、超高重力の雨が周囲の銀河を巻き込みながら奴の動きを封じていく。防御がダメなら攻撃すれば良いんじゃないと割と脳筋的思考から繰り出されたこの一撃は、見事にアンチスパイラルの動きを封じることに成功した。

 

重力はあらゆる事象に干渉する。その謳い文句の通り、グラビトロンカノンに囚われた奴は確率変動による瞬間移動も封じられている。

 

そして、そんな無防備を晒した状態を無視する筈もなく、俺は返す刀でグランワームソードの一撃を叩き込んだ。振り抜いた一閃はアンチスパイラルの胴体を斬り、額にある球体の部分の一部を斬り飛ばし、その勢いを乗せたままで回転しながらの廻し蹴りを放つ。最初の時の意趣返しを込めての蹴り飛ばしは見事奴の腹部を捉え、アンチスパイラルはそのまま吹き飛んでいく。

 

本当ならここで追撃しても良さそうなのだが、何故か嫌な予感がした。本能的とも呼べる直感に従いながら、ゆっくりと起き上がる奴の挙動を凝視する。

 

そして次の瞬間、その判断は正しかったのだと確信する。奴の全身から滲み出す気迫、その正体は……全ての命に対する怒りだった。

 

『そうやってお前達は、何故抗おうとする? 何故反発する? 何故逆らう? 己の行動を顧みず、何故そこまで前に進んでいられる?』

 

その問い掛けはアンチスパイラルが自ら己に問いかけ続けたモノのようだった。恐らく既に答えを持っているであろう奴に対し、俺は敢えて自分の答えを言い放った。

 

『それが、命なんだからじゃねぇの?』

 

それは、俺の本心からの一言だった。時間が永遠に停滞する、なんて事は無いように、命だってそこに在り続ける限り輝き、前に進み続ける。だからこそ自分達は時の牢獄を打ち破り、時の歩みを進める事を選んだはずだ。

 

命の意味は止まる事や何かに強制される事じゃない。自分で選び、自分で進むからこそ尊く、眩しく、だからこそ、そこに意味を見出だせるのではないだろうか?

 

随分らしくなく、恥ずかしい事を語ったけれど、アンチスパイラルの質問に対して言うべきことは言った。さて、次はどうするつもりだとグランワームソードを構え───。

 

『それこそが滅びへの道、螺旋の限界だ! その思い上がり、後悔させてやろぉっ!!』

 

アンチスパイラルの怒号が宇宙に響き渡る。どうやら自分の一言が奴の逆鱗を踏み抜いてしまったらしい。いよいよ最終局面突入かと思われた時、奴は周囲の銀河を軒並み抑え込み、圧縮しはじめた。

 

そこから生み出される膨大なエネルギー量に愕然とする。グランゾンの索敵から確認できる観測数値は全て測定不能を振り切っており、そのエネルギーは今も爆発的に増えている。

 

それは宇宙誕生のエネルギー、ビッグバン。

 

『永劫に続く宇宙創世の劫火に焼かれ、DNAの一片まで完全消滅、するがいいっ!!』

 

向けられる宇宙創世のエネルギー、これに対抗出来るのは一つしかない。

 

『相転移出力───最大限、縮退圧……増大!』

 

ネオ・グランゾンの背中に背負う日輪、バリオン創出ヘイロウの最大稼働を確認、膨大なエネルギーの塊が、ネオ・グランゾンを通して周囲に影響を及ぼす。

 

『重力崩壊臨界点───突破ァッ!』

 

光、時、空間、重力、星々を巻き込み圧縮されていき、やがて一つの事象がグランゾンの前に出現する。

 

それは開闢の光、創世と同じく始まりを意味する超新星爆発の具現化。

 

『インフィニティ、ビッグバン───』

『縮・退・砲────』

 

『ストォォォォムッ!!!!』

『発射ァ───!!』

 

開闢と創世、始まりを意味する二つのエネルギーがぶつかり合った瞬間、無限の黒に支配された宇宙が─────白に変わった。

 




次回、宇宙「私ね、次生まれ変わったら……ケーキ屋さんになりたいの」

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