『G』の日記   作:アゴン

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今回から連獄篇スタートです。


連獄篇
その115


 

 

 

自由であるとは自由であるように呪われている事である。

 

───J・P・サルトル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新世時空振動。数ある世界が一つになった過去類を見ない時空振動、これによりUCWとADWの二つの地球は統合され、世界は新たな形へと変化する事となった。

 

新たな出会いと別れ、そして襲い来る脅威。押し寄せてくる侵略者達を撃退し、時の牢獄を破った地球は遂に平穏を取り戻した───かに見えた。

 

アンチスパイラル、そしてその裏で行われた知られざる決戦。後に時獄戦役と呼ばれるこの戦いを乗り越えたZ-BLUEが目の当たりにしたのは…………もう一つの地球だった。

 

そこから現れる無数のアンノウン、警告も宣告も無しに襲い掛かる彼等は時獄戦役で疲弊していたZ-BLUE、並びに当時の地球政府を容赦なく蹂躙していき、地球圏の大半を制圧してしまう。

 

“星間軍事連合サイデリアル”そう名乗るアンノウンは地球圏の大半を支配すると同時に、自らを新地球皇国(ガイアエンパイア)を名乗り、早くも地球の支配者である事を告げた。

 

中央シベリア高原東部に建造された帝都を中心に日々支配圏を広げていくサイデリアル。当然これに地球政府やZ-BLUEは対抗するが、その圧倒的な戦力差を前に彼等は幾度となく撤退を余儀なくされてきた。

 

既に地球圏の六割が支配されていた。そんな中、一台の輸送機が地球圏から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ж月♯日

 

時の牢獄、エタニティ・フラットの破壊から数日、現在私はブロッケンとツィーネ・エスピオの三人でもう一つの地球に向かうために輸送機の中にいる。

 

時の牢獄を破った事により現れたもう一つの地球、それに照らし合わせたかのように現れる侵略者達、圧倒的な武力で次々に地球圏を支配しているそいつらを、ツィーネはサイデリアルと呼んだ。

 

明らかに連中について何か知っている風な女、此方の質問を悉く避けて妖艶な笑みで誤魔化すその様は、スパイ映画に出てくる女スパイを思わせる。

 

この手の女は自分から話さない限り決して情報を吐いたりしない。ツィーネから情報を聞き出すには今の私では難しいだろう。そんな暇があるのならこうして日記を書いてその日に起きた出来事を客観的に見て、現状を冷静に見直していた方がまだ有意義な時間の使い方だと言える。ツィーネの事はまだ理解出来ていないし、納得出来ない点は多いけど、彼に会うためにはこの女に従うしかない。だったら少し位の我慢はするべきだ。

 

───彼、シュウジ=シラカワは現在もう一つの地球にいる。彼に会って何をするべきなのか、色々分からない部分はあるけれどその時が来るまで日記を書きながら考えを纏めておこうと思う。

 

 

ж月♪日

 

地球圏から一時脱出して早半日、現在私達はサイデリアルのしつこい追撃を何とか巻きながら現在ツィーネの残した座標に向け、なるべく連中に見つからない様慎重に迂回ルートを移動している最中だ。

 

本来なら彼に会うまで案内をして欲しかった所だけど、いきなり襲い掛かってきたサイデリアルにより事態は急変してしまった。

 

しつこいサイデリアルの追撃、このままでは落とされる危険性まで出てきた時、彼女は自ら囮役を買って出てくれたのだ。彼に渡すべきだとされるあの機体の他に輸送機に載せていた、色物の機動兵器で。

 

ツィーネは己の愛機と共にその場を離脱、追撃してくるサイデリアル等の相手をしながら、私達を連中から引き剥がす時間を稼いでくれた。

 

…………正直、あの女は立ち振舞いからして苦手な部類だったが、この時ばかりは彼女に感謝したいと思う。彼女が戦う意思を見せてくれなかったら、今頃私達は宇宙の藻屑と消えていたのだから。

 

だから感謝しよう。それが喩え彼女自身の目的を果たす序でなのだとしても、自分達は彼女が作ってくれた時間を有効に活用しなければならない。

 

ブロッケンが操縦する輸送機のコンソールには、既に彼の居場所を指し示す座標が記されてある。後はあの翠の地球に降りて彼の所まで進むのみ。

 

そして聞くんだ。彼が……シュウジが一体これまで何をしてきたのかを、そして言うんだ。私の胸中に燻る思いの丈を。

 

だから、私は諦めない。彼に再び出会えるその日まで私は絶対にこの状況の中でも諦めたりは……しない。

 

だからシュウジ……待っててね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ラース・バビロン。新地球皇国の帝都であり皇国軍の心臓部、その最奥にある玉座にて、サイデリアルの首領にして新地球皇国の皇帝が座していた。

 

「陛下、ご報告がございます」

 

「…………話せ」

 

「ハッ、本日未明に件の女が翠の星へ降下したという報せが先程届きました」

 

「そうか」

 

臣下からの報告に皇帝は目を伏したまま端的に応える。その事に戸惑う臣下だが、黙したままでも伝わってくる皇帝の覇気により押し黙り、彼の者の次なる言葉を待つ様にその場で膝をつく。その様は皇帝に忠誠を誓う臣下というより、執行者に命乞いをする罪人の様に見えた。

 

「よい。下がれ」

 

「は、……ハッ!」

 

皇帝の言葉に異議を唱える事なく、臣下はそそくさと玉座の間を後にする。命からがらと言った様子で去っていく臣下を一瞥した皇帝は、己の側に控える彼の存在に向けて声を発した。

 

「ストラウス」

 

「────」

 

皇帝の呼び声に答えたのは機械的な声だった。巨大な甲冑をその身に纏い、フルフェイスの仮面を被ったその者は、甲冑の重厚な音を玉座に響かせながら皇帝に向き直る。

 

「お前に一つ、頼みたい事がある。翠の星に降りたとされるシオニー=レジスを捕らえよ」

 

「─────」

 

「そうだ。決して殺さず、可能な限り傷を付けるな」

 

「────」

 

皇帝の指示に理解し、了承したストラウスと呼ばれた者は再び重厚な音を立てて玉座から去っていく。鎧の者が玉座から完全に姿を消すと同時に別の声が玉座に響いた。

 

「なら、僕はサイデリアルの名を騙る罪人の処刑に向かうとしよう」

 

「……戻ったのか。バルビエル」

 

バルビエルと呼ばれた男、化粧を施し、他者を嘲笑うその姿は道化を模した死神を思わせる。

 

「彼の者は既に滅んだと聞き及んでいる。今更お前が出向く必要があるのか?」

 

「そうなのかい? …………まぁ、いいや。何度も往復するのも面倒だし、今回僕は関与しない事にするよ。あくまで僕は(・・)だけどね」

 

思わせ振りな台詞を残しながらバルビエルは去っていく。再び玉座に一人となった皇帝は再び目を瞑りその時を待つ。

 

「抗ってみせろ地球人。お前達の本当の戦いは……これからだ」

 

 

 

 

 




基本的に連獄篇は短めです。少なくともボッチが目覚めるまでは。

次回、翠の星

次回もまた見てボッチノシ

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