『G』の日記   作:アゴン

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今回、あのキャラがちょこっとだけ登場します。

……文字の中だけですが。


その116

 

 

 

火星。再世戦争の頃に当時地球に侵略してきたインサラウムが設けた決戦の地、当時のインサラウムの王であるユーサー=インサラウムや彼に従ってきた多くの臣下を犠牲にした事により、彼等は漸く安寧を手に入れた。

 

そんな彼等は現在、唯一のアークセイバーであり火星の入植団団長であるマルグリット=ピステールと共に、テラフォーミングに尽力していた。

 

大変ではあった。破界の王のガイオウと蒼き魔神グランゾンとの決戦において火星の一部分は荒廃し、人の住める環境では無くなっていたのだから。テラフォーミングを開始したばかりの彼等の苦労は、計り知れないものがあった。

 

しかし、それでも戦って大切な人を失うよりはましだと思い、インサラウムの国民は自分達の境遇を受け入れた。時折訪れる地球政府の大使から送られる支援物資によってテラフォーミングも順調に進み、人が住める居住区も日々広がっていった。

 

この分ならば近い将来、インサラウムの国民全てがこの火星の大地を踏みしめる事も夢ではないのかもしれない。これまで激動の時代を生き抜いてきた彼等も漸く安心して過ごせる世界が手に入る。これで亡きユーサーと嘗ての同僚達に報いる事ができるとマルグリットが安堵していた時…………奴等が現れた。

 

“サイデリアル”時の牢獄を破った直後に現れたもう一つの地球と共に姿を現した謎の侵略者、地球圏の支配を目論む連中が遂に自分達の所にまで攻めいってきたのだ。

 

何を目的としてこの火星に攻めいるのか、不確かではあるがマルグリットには心当たりがあった。

 

(恐らく、奴等の目的は殿下の持つスフィアの力。次元力を任意に引き出せるあの力を奪取する為なのだろう)

 

己の愛機に乗りながらマルグリットは確信し、背後にある霊廟へ視線を向ける。再世戦争の後、亡くなったユーサーを埋葬し、彼の愛機である機体を崖を削って造り上げて祀った簡易な霊廟。そこへ雪崩れ込むようにサイデリアルの戦力が集中してきているのだから其処に気付くのは当然と言えた。

 

戦力差は歴然、部下達の士気は高くても、圧倒的な物量の前に戦線が覆るのは時間の問題だった。

 

(だが、奪わせはしない。これ以上我々の大切な者を奪わせてたまるものか!)

 

ガイオウ、アイム=ライアード、二人の悪鬼によって滅んだ嘗ての故郷、二度とあの時の様な事は繰り返さない。そう誓いマルグリットが愛機と共に敵陣に突貫を仕掛けた時────

 

『悪いが、それはさせないよ』

 

一陣の黒い風が戦場に吹き荒れた。黒き烈風に巻き込まれたサイデリアルの機動兵器は瞬く間に切り刻まれ、破壊されていく。

 

やがて全ての敵戦力が破壊された後、黒き烈風は形となってマルグリットの前に姿を現し、その風貌に彼女は驚愕に目を見開いた。

 

忘れもしない。アレは嘗てアイム=ライアードとは別に、ユーサーの持つスフィアを狙った狩人の一人。

 

『何故貴様がここにいる。アサキム=ドーウィン!』

 

死神を思わせるその者の名を、マルグリットは戸惑いを隠すように叫ぶ。

 

マルグリットが戸惑うのも当然だった。何せ目の前にいる男は再世戦争で魔神との戦いに敗れ、当時ユーサーを含めたその場にいるスフィアリアクター達の手によってZONEに封印された筈なのだから。

 

しかし、幾ら頭で否定しても目の前の現実が変わるわけではない。眼前に佇む黒い鴉の動きを一挙一動見逃さないよう警戒を強めた時……奴は動いた。

 

『さて、それじゃあ狩らせて貰おうか』

 

『させん!』

 

同時に飛び出す両機、速さで圧倒的に遅れを取る筈のパールネイル、性能で負ける部分をパイロットの腕でカバー出来るマルグリットの技術は流石と言えた。───しかし。

 

『見事だよ。マルグリット=ピステール、今の君の動きは僕が知る中でも最高だった。だけど…………』

 

一瞬だけ交差する白と黒、互いに最大限の一撃だった。マルグリットの放ったその一撃は、最後のアークセイバーとして相応しい威力の乗った一撃だった。

 

しかし。

 

『それでも、今の僕には届かない』

 

その一撃で以てしても、黒い鴉に届くことはなかった。己の武器であるランドスピナーごと切断された左腕、以前よりも速さも力も桁違いに上がっているアサキムと彼の操るシュロウガの前に、パールネイルは成す術なく地に膝を付ける。

 

『本来ならここで君には退場して貰い、愛しの皇子の下へ送ってやるつもりだったが……僕を封印から解き放った者との約束でね。君達を殺さない事にしているんだ』

 

そう言いながらアサキムはシュロウガと共にマルグリットの横を通り過ぎ、霊廟の下へ歩み寄る。残された他のインサラウムの兵士達も先程の彼女同様、アサキムを行かせはしないと果敢に挑む。

 

その悉くがシュロウガの振るう刃に切り刻まれ、地に伏していく。しかし驚くべき事に、アサキムに挑んだ者達は負傷こそ負っても命に別状はなかった。その事実に、マルグリットは更なる混乱に叩き込まれる事になる。

 

混乱するマルグリットを放ってアサキムはシュロウガと共に霊廟の奥へと踏み込む。崖を削っただけの簡単な墓地、その奥底でインサラウムに代々伝わる機動兵器が鎮座していた。

 

乗り込む主がいなくなり、自身の役割を終えた事に満足したように眠る王の機体、長い間インサラウムの象徴として君臨してきたその存在に向けて……シュロウガは容赦なくその鋭い腕部で王の胸元を貫いた。

 

『申し訳ないけど、このスフィアは狩らせて貰うよ。役目を終えた者にこんな力なんて無用だろう?』

 

そう言いながら引き抜いたシュロウガの手には二つのスフィアが淡く輝きを放ち、それをシュロウガはまるで呑み込む様に吸収していった。

 

『これで僕が持つスフィアは四つ、…………漸く見えてきた。天の獄へ至る為の道程が』

 

己と一体になっていくスフィアを感じながらアサキムは感慨深く呟く。あと少し、あと少しで自分の目的が完遂する。────だが、そんな時アサキムの脳裏にある懸念が生まれる。それは嘗てこの地で起きた戦いの記憶、かの蒼き魔神に敗北した鮮烈な記憶だった。

 

アサキムはこれまで何度も敗北し、消滅し、幾度となく死んできた。そしてその度に蘇り今日まで無様に生き抜いてきた。

 

それ故に彼にとって勝敗などなんの意味もなかった。……いや、全ての物事に対しアサキムは常に冷めていた。

 

なのに、あの時戦った彼との一時はアサキムにとってとても───。

 

『フッ、らしくないな』

 

自嘲の笑みを浮かべるアサキム、その笑みの裏に隠された真意に誰も気付く事はなく、黒い鴉はその翼を羽ばたかせて火星の空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ж月π日

 

サイデリアルの追撃を振りきり、無事に翠の地球に降りて早数日、現在私達はツィーネに渡された座標を頼りに荒野の大地を進んでいる。

 

この星に降りた当初は目的地から離れた所に不時着した為に結構焦ったが、この輸送機が航空機能を備えていた事とブロッケンが修理作業を素早く終わらせた事で、時間のロスは最低限に抑えられているから、割と落ち着く事が出来ている。

 

サイデリアルも今の所は出くわしていないし、道中お世話になった喫茶店に物資を分けて貰った為、目的地に辿り着くまでの燃料も心配いらない。

 

この分だとあと三日程で目的地に辿り着けるだろうとブロッケンは言う。しかしどこにサイデリアルの目があるか分からないので最大限注意しながら進んでいこうと思う。急がば回れ、昔の偉人は上手いこと言ったものである。

 

……それよりもあの喫茶店にいたアンドロイド、ノノと言ったか、あの子アンドロイドと言う割には何だか人間味に溢れていたな。

 

別にその事は悪いことじゃない。ただ、此方が物資不足で困っているからと言っていきなり店の物を勝手に渡そうとするお人好し過ぎるところが少し不安になった。…………しかも、雇い主である店長に断りも無しに。

 

幸い私のポケットマネーで買わせて貰った事で事なきを得たが…………あの店、大丈夫だろうか? まぁ、見ている分には面白いから別にいいのだけれど。

 

それに何より、困っていた私達を真剣に考えてくれたあの子の姿が何だか彼と被ってしまい、なんだか可笑しくなった。人を笑わせるだけでなく元気をくれるなんて、良く出来たアンドロイドだとつくづく思う。

 

さぁ、明日も頑張ろう。そう自分にエールを送りつつ今日はこれで終了しようと思う。

 

 

 




今回は一方その頃、的な話。

次回はいよいよ……!?

また見てボッチノシ

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