『G』の日記   作:アゴン

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今回、主人公の根っこの部分に触れます。


その119

 

 

 

 

 

 

──────夢を、見ていた。懐かしい夢を。

 

幼い頃、大好きだった祖母を病で亡くしたばかりの俺は、当時家の近くにあった公園のブランコにいた。共働きで滅多に家にいない両親、当時の自分にとっては唯一の遊び場であり、暇潰しの場所だった。

 

帰りが遅くなる度に迎えに来てくれた祖母、しわくちゃの顔をニンマリと笑顔で迎えに来てくれた祖母は、当時の両親に代わり面倒を見てくれており、俺にとって父親の様であり、母親の様な存在だった。

 

その祖母が死んだ。死というモノが何なのか、当時幼稚園も卒園出来ていなかった自分には理解できず、ただ病院のベッドで横たわる祖母を見つめ続けていた。

 

泣くことも出来ず、ただ訳が分からなかった。何故祖母は起きないのか、当時の自分は目を覚まさない祖母を不審に思うだけだった。

 

火葬の日、祖母を燃やそうとする人達に泣き喚きながら食って掛かった事があった。やめてと、お婆ちゃんを燃やすなと、葬式の意味を理解していなかった俺はただ泣き叫び、祖母の名を叫んだ。

 

そして漸く気付いた。祖母はもう目を覚ます事はないと、祖母のあのしわくちゃな笑顔を見ることは…………二度とないのだと。

 

それから俺はあの公園に通い続けた。ここにいれば祖母が迎えに来てくれるのではないのかと。そんな事は絶対にないと、分かっている癖に…………。

 

生まれて初めて死というモノを目の当たりにした俺は、現実を受け止めきれずに毎日あの公園に足を運び、ブランコに乗り続けた。いつか、祖母が迎えに来てくれるのではないのかと、そう信じて…………。

 

強い風の日、降り頻る雨の日、雪が降り積もる冬の日、来る日も来る日も俺は祖母の迎えを待ち続けた。

 

初めて両親から叱られた。初めて母が泣く姿を見た。夜遅くまで帰ってこない自分に母は心配して、そして怒り、次にごめんなさいと泣き崩れた。

 

別に両親に対して不満に思ったりしていない。二人が仕事で忙しいのは分かっていたし、自分の為に頑張ってくれているのだと祖母から教わっていたから、誇らしく思っても不満に思う事はなかった。

 

けれど、いや、だからこそ自分は認めたくなかった。自分を両親に代わって育ててくれた祖母の死を、優しくてけれど時には厳しく叱り付けた祖母が死んだことを…………認めたくなかったんだ。それがたとえ反発という名の甘えなのだとしても、俺は公園に通い続ける事を止めなかった。

 

それから数日後、俺の前に彼女が現れた。

 

『ねぇ、アンタいつもそこにいるけど……一人なの?』

 

『何だよお前、余計なお世話だ。ほっとけよ』

 

自分よりも小さい女の子、後の幼馴染となる少女との初めての出逢い。この時の俺の態度は我ながら酷いものである。

 

五月蠅い、話し掛けるな。彼女の遊びの誘いを何度も無下にし、時には突き放し、更には罵倒を浴びせたりした。酷い八つ当たりだ。祖母を失った寂しさを誰かに当たる事で気を紛らせていたこの時の俺は、最悪の一言に尽きた。

 

だけど、それでも少女は俺に構う事を止めなかった。拒み続ける俺にムキになったのか、それとも別の意図があるのか、何度も一緒に遊ぼうと誘ってくる彼女をそれでも俺は拒み続けた。

 

いや、違うな。ムキになってたのは俺の方だった。諦める事なく、何度も誘ってくる彼女を煩わしく思い俺は半分自棄になって押し返したんだ。本当は嬉しかった癖に、ちっぽけなプライドに縋って駄々をこねて、俺は彼女の好意を踏みにじったんだ。

 

そんな自分に愛想が尽きたのか、その日から彼女が公園に訪れる事はなかった。これで漸く落ち着ける。祖母が迎えに来るのを静かに待ち続ける。そんな強がりな事を口にしながらブランコの鎖を握り締めていたら……数日後、再び彼女はやって来た。

 

この日は雪が降る寒い日だった。寒さで震える体を縮こまる事で何とか耐えてきた自分の前に現れたのは、自信満々の笑みを浮かべて佇んでいた彼女だった。

 

『決めた! アンタをこのニコニーにこちゃんのファン第一号にしてあげる!』

 

『はぁ?』

 

小さな体を大きく動かしながらそう言ってくるにこちゃん。一体何をするつもりだと首を傾げる自分が次に見たのは…………キラキラと輝く歌姫の姿だった。

 

歌も振り付けも未熟、音程も時折外しているその様はまさにアイドルを真似するだけのただの子供、稚拙で幼稚、まさにお遊戯────だけど、自分にはそんなにこちゃんが眩しく見えた。

 

降り頻る雪も、肌寒い風も、全てが彼女を彩らせる為の演出に過ぎなかった。誰よりも楽しみながら歌う彼女の姿はとても魅力的でそして美しかった。

 

“頑張れ”にこちゃんが歌う歌詞の中に含まれる一節、そう、彼女が歌っているのは相手を思いやり、立ち直らせてくれる応援の歌。そこに込められた意味を理解した俺は漸くこの日、ブランコから立ち上がったのだ。

 

(あぁ、そっか…………なんで俺、こんな大事な事を忘れてたんだろ)

 

祖母を亡くしたあの日、俺は挫けてしまった。大切な人を失った事に対して受け入れる事も、抗う事も出来ずに……膝を付いて屈する事しか出来なかった。

 

けれどこの日、俺は知った。いや、教えて貰ったんだ。抗う事の意味を、頑張る事の大切さを、目の前の…………俺よりも小さな女の子から。教わったんだ。

 

『俺、頑張るよ。だから天国で見ててくれよな───フィーネお婆ちゃん』

 

この日、俺は初めて己の意思で立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇい! 次から次へと出て来おってからに!」

 

次々と沸いて出てくる武装集団、倒しても倒してもそれでも尚前に出てくる兵士の数に、ブロッケンは半分うんざりしながら手にしたサーベルを降り下ろす。

 

これで一体何人目だ。百を過ぎてから数えるのを止めたブロッケンは空に浮かぶ艦隊を睨み付ける。ギルター=ベローネと名乗る指揮官が現れてから繰り返されるゲリラ戦、巨大船団を舞台に始まった戦渦はブロッケンの所だけでなく、至る所で繰り広げられていた。

 

聞こえてくる怒声と悲鳴、自分達のせいで巻き込まれ、危機に陥った船団の人達に申し訳なく思いながら、ブロッケンは右腕部に備えられたブースターを点火させ、ロケットパンチを繰り出す。

 

本来なら今すぐにでも駆け付けて船団の人達を救出したい所だが、今連中の戦力が自分の所に集中している今、迂闊にここを離れる訳にはいかない。離れてしまえばここに集まった戦力が一気に船団に雪崩れ込み、待っているのは虐殺───凄惨な殺戮現場の出来上がりだ。

 

他の所にも救援に向かいたい。しかし離れる訳にもいかない。もどかしい状況に苛立ちながら再び空を見上げると、そこには多数の機動兵器を相手に単身で奮闘するガンダムの姿があった。

 

あの少年もこの状況の中で良くやる。追い詰められながら、それでもまだ戦意を失わないガンダムの少年を見て、ブロッケンも気概を昂らせる。

 

しかし、未だ敵の数は多い。増え続ける敵兵、更には昆虫の姿を模したキメラの様な生体兵器までもが敵の中に紛れ込んでいる。

 

いよいよ状況がヤバくなってきた。危機的状況の中、ブロッケンが覚悟を決めて突貫をしようとしたその時…………。

 

「猛羅────総拳突き」

 

拳の弾幕がブロッケンの背後から押し寄せ、ブロッケンを除いた全ての敵兵を蹂躙していった。突然の出来事に目を丸くさせるブロッケン、次いで聞こえてきた声に我に返り、振り返ると───。

 

「し、シュウジ…………」

 

一瞬、包帯まみれの男がブロッケンの視界に映ったと思いきや、直後に男の姿は掻き消え、同時に猛烈な突風が辺り一面を襲った。

 

突然の突風に目を閉ざすブロッケン、やがて風は収まり、辺りが静かになった所で恐る恐る目を開けると。

 

「…………へ?」

 

地面に這いつくばるように倒れ伏すキメラ兵士と武装集団の兵士、骸となった敵のど真ん中に立つ上半身裸の男にブロッケンは戦慄を覚えた。

 

(べ、べらぼうに速ぇぇ…………である)

 

しかし、そんな戦慄も束の間、振り返りその姿を露にした男にブロッケンは目尻から大粒の水滴が溢れだしてくるのを感じた。

 

「し、ジュウジ殿(どの)ぉぉぉぉぉっ!!」

 

死んだと思われていた主の姿、理由や理屈などどうでもいいと、復活したシュウジにブロッケンは感嘆の涙と鼻水を撒き散らしながら抱きつこうと────。

 

「寄るな暑苦しい」

 

────した瞬間、容赦のない目潰し。シュウジの突き出した2本の指がブロッケンの両目にめり込んだ。

 

「イイッタイメガァァァァッ!!?」

 

痛みに悶絶し、転げ回るブロッケン。そんな彼を見下ろして……。

 

「この暑苦しい感じ……思い出した。お前、ブロッケンか」

 

まるで今思い出したかの様なシュウジの態度、普段の落ち着いた彼とは違い素の状態となっているシュウジに違和感を覚えるブロッケン。そして彼の口振りの意味がどういう事なのか検討がついたブロッケンは、まさかと思うも確信を抱きながらシュウジに訊ねた。

 

「シュウジ殿、まさか……記憶が?」

 

「あぁ、長い間寝ていた所をいきなり起こされたせいか記憶が曖昧な部分が多い。…………正直、ちょっと混乱している」

 

「だ、大丈夫なのでありますか?」

 

「うーん、多分大丈夫じゃないか? 一時的みたいな感じもするし、何よりお前の顔を見たら思い出せたんだ。案外強い衝撃を受けたら思い出すんじゃないか?」

 

自分の事なのにやたら落ち着いているシュウジ、記憶喪失という割と笑えない状況なのに、この胆力は流石と言うべきか。

 

「そう言えばシュウジ殿、何やらお召し物がいつもと違うような……そのズボンは連中が履いていたものではありませぬか?」

 

「ん? あぁこれ? 本当はここの船団の人から借りようと思ったんだけど、よくよく考えたら俺ってばここの人達に世話になってた訳じゃん? これ以上迷惑かけるのもアレだし、下だけなら其処らの奴からぶんどればいいと思ってさ」

 

「は、はぁ……」

 

「でも参っちゃったよ。ぶんどるのはいいけど中々サイズの合うやつがなくてさぁ、船に侵入してきた奴ら全員片っ端から叩きのめす事になっちゃって、ここまで来るのに時間取られてさ」

 

何事もない様に語るシュウジだが、聞かされるブロッケンは信じられないといった様子で耳にしていた。彼の言うことが本当なら、既にこの船団に強襲してきたサイデリアルの尖兵達は全員彼一人にやられたという事なのだから。それも、服が欲しかったからという理由で。

 

そう言えば、あれだけ騒がしかった銃声や悲鳴が聞こえてこない。静まり返る船団の様子が、シュウジの語る事が真実だとブロッケンは悟った。

 

「一応言っておくが、ここの人達は無事だぞ。流石に全員無傷とはいかないが、いずれも軽傷者の範疇に留まっている。後はこれ以上被害が出ないよう、彼処でのさばっている連中を叩き潰すだけだ」

 

「は、はい!」

 

空に浮かぶサイデリアルの部隊を睨み付けて敵意を露にするシュウジ、頼もしすぎるその姿に気後れしてしまうブロッケン。しかし次の瞬間、何か思い出したのか、凛としていたシュウジの顔は徐々に焦りのモノへと変化していく。

 

「…………と、言いたい所なんだけど。悪いブロッケン、俺の力が役立てるのはここまでみたいだ」

 

「え? ど、どういう事でありますか?」

 

「実は俺のグランゾン…………今壊れちゃっててさ、とても戦える状態じゃないんだよね」

 

「…………」

 

「今、取り出せるのはこれくらい。だから今の俺……猛烈に役立たずなんだよね。───どうしよう?」

 

ワームホールから取り出した蒼のカリスマの仮面と親友から貰った白のロングコートを手に、シュウジは乾いた笑みを浮かべる。こんなんでどないするんや、と下手な関西弁を口にするシュウジにブロッケンの口元が不敵に歪むと。

 

「っ、この音、あいつらまたやって来やがったのか」

 

通路の先から聞こえてくる足音、それが先程倒した連中の増援だと察したシュウジが迎撃しようと前に出る。

 

しかし、そんなシュウジを遮るようにブロッケンが先に前へ出た。なんのつもりだと眉を顰めるシュウジに渡されたのは……一個の小型端末だった。

 

「ブロッケン、これは?」

 

映し出されているのはこの船の見取り図、下へスクロールしていくと端の方に輸送機らしき機影が映り、そこに何かあるのか、蒼い光が点滅していた。

 

「シュウジ殿のご友人から保険として寄越された代物……お急ぎなされよ、そこにあなた様の新たな剣が納められているであります」

 

早く。急かしてくるブロッケンにシュウジは問うことはせず、端末に記された場所に向けて足を進める。

 

「…………10分持たせてくれ。その間にケリを付けてくる」

 

「承知」

 

それ以上語ることはない。シュウジは座標の場所へ、ブロッケンは再び敵集団に向けて突撃する。全ては拾ってくれたシュウジに報いる為、ブロッケンはその表情に歓喜の笑みを浮かべて、敵のど真ん中へ斬り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロッケンから別れて間もなく、座標の場所、端末に記された地点である輸送機に辿り着いたシュウジは、そこに隠された機体を前に驚きと喜びにうち震えていた。

 

「まさか、改修されていたのか。シュナイゼルの奴、だから俺の身体データなんか欲しがっていやがったのか」

 

その機体───姿を変えたトールギスを前にして、記憶の方も色々と思い出してきたシュウジは不敵な笑みを浮かべながらトールギスの足に触れる。

 

嘗て自身もロールアウトの際に手を加えた機体、一度目はトレーズで二度目は自分、そして…………これで三度目。姿形を変えても尚、自分の為に力を貸してくれるトールギスと友人の思いやりに、シュウジは不覚にも泣きそうになった。

 

泣いてばかりじゃいられない。早いところ機体に乗り込んで出撃せねば、目尻に溜まる水滴を拭い、コックピットに乗り込んだシュウジを待っていたのは……これまでとはまるで違った奇妙な形をしたコックピットだった。

 

端的に言えば…………座る場所がない。あるのは背中を固定させる姿勢制御らしきものと、銃の形をした端末、そして刀身のない柄が置かれていた。

 

従来のモノとは明らかに異なったコックピット、戸惑いながら中に入るとセンサーが反応したのか、様々な光がシュウジに向けて照射される。

 

『バイタリティ、オールグリーン。脳波スキャン…………固定、対象をシュウジ=シラカワである事を断定、パイロット登録…………完了しました』

 

コックピット内部から聞こえてくる音声、どうやら一連の流れはこの機体に自分の生体データを登録させる為の演出らしい。晴れて自分専用となったこの機体に感慨深い気持ちを抱きながら姿勢制御に身を委ねると、眼前のモニター光が灯り、シュナイゼルの姿が映し出されていた。

 

『───やぁ、我が友、シュウジ=シラカワよ。これを君が見ているということはこの機体は無事に君の物となったわけだね。良かったよ。君以外の人間がこの機体に乗れば自爆装置が作動するからね。安心したよ』

 

「おいこら」

 

サラリと笑えないことを口にするシュナイゼルにツッコむも当然返事は返ってこない。当然だ。何せこれはビデオレター、リアルタイムに流れている映像ではないのだ。

 

今はどうなっているか分からない友人からのビデオ、不安に思うが取り敢えずかのビデオの内では元気そうだ。壮健な友人の姿にシュウジは一先ず安心した。

 

『ほらほら、友人との会話も楽しみたいんだろうけど、今はそれどころじゃないんだろ? さっさと代わりな』

 

『えっ? あ、ちょ…………』

 

押し退けられながら画面外へと弾き出されるシュナイゼル。彼に代わってモニターに映るのは次元力を専門に研究している、狐のお面が特徴のトライア博士だった。

 

なんで博士がここに? 素朴な疑問に首を傾げるシュウジだが、そんな事はお構いなしに彼女の話は進んでいく。

 

『やぁ、久しぶりだねMr.蒼のカリスマ。いや、今はシュウジ=シラカワと呼ぶべきか? まぁそれはどうでも良いことだから放っておくとして……時間がない。単刀直入に言わせて貰うよ』

 

「…………」

 

『今、地球は未曾有の危機に瀕している。これまでも何度も危機的状況に晒されてきたが、今回のは今までとは違う。私達よりも何倍もの強力な次元力を有した連中が一斉に押し寄せてきたんだ』

 

トライア博士は語る。“星間連合サイデリアル” 彼等が地球に向けて突然押し寄せてきた侵略者だと、このままでは近い将来地球は連中によって滅ぼされると。

 

『今はZ-BLUEや政府軍が何とか持たせているが、それもいつまで続くか分からない。今はテロリストの手も借りたい位なんだ。だから…………頼む、アンタの力も貸してくれ』

 

画面の向こうでトライア博士が頭を下げる。よく見ると画面の奥では弓教授や、ロボット工学の第一人者として有名な三博士の姿が見えている。

 

他にも元アロウズの技術者、ロイドさんにセシルさんもいる。どうやらこの機体はトライア博士だけでなく、彼等の手も加わっているようだ。

 

やがて場面は代わり、再びモニターに映る人が変わる。今度は先程までなに食わぬ顔をしていたロイドさんが、めんどくさそうな顔をして映り込んでいた。

 

『ねぇ、これ本当に僕も言わなきゃダメ? 僕徹夜明けで眠いんだけど…………わ、分かったよ、分かったから手をポキポキさせないでセシル君、怖い、怖いから! …………ふぅ、何で僕がこんな目に』

 

相変わらず自分の興味の無いことには面倒くさがる人だなぁ。変わっていない知人にシュウジは苦笑いを浮かべた。

 

『えー、とシュウジ君? いやシュウジさん? まぁ何でもいいや。兎に角今君が乗っている機体は今僕達に出来る最大限の改造を施しているスペシャル機体さ、スペックは勿論武装こそ少ないけどその威力は保証付き、並の相手にはまず負けないさ』

 

けどね。そう続けるロイドさんの目が僅かに鋭くなる。

 

『これから君が相手にするのはきっといずれも並の相手ではない。何が理由でグランゾンじゃなくこの機体に乗っているのかは知らないけど、簡単にはいかないだろうね』

 

「…………」

 

『けど、どちらにしても君のやりたい事は変わらないんだろ? だったら僕から言える事は何もない。……おめでとう! 晴れて君はこの棺桶のデヴァイサーに選ばれた訳だ。精々、頑張りなよ』

 

そう言ってロイドさんはセシルさんと思われる人の手に胸ぐらを掴まれながらフェードアウトしていった。恐怖に引き攣りながらもしてやった風なドヤ顔をしていた辺り、どうやら本当に言いたいことを言い切った様だ。

 

消えていくロイドさんに代わって出てくるシュナイゼル。先程のトライア博士の扱いもあって、澄ましているシュナイゼルの顔を見ているとなんだか笑いが込み上げてきた。

 

『と、いうわけで協力者の代表格からそれぞれエールを受け取った訳だが……どうかね? 少しはやる気を出してくれたかな?』

 

「ねーよ」

 

『ふむ、どうやら気に入ってくれた様だね。私も時間を取って映像を編集した甲斐があったものだよ』

 

お前が編集してたんかい! シュナイゼルのドヤ顔に再びツッコミを入れるが、やはり返事は返ってくることはない。

 

『さて、長くなってしまったが私の話を最後に話は終わろうと思う。……シュウジ、君がどのような経緯で、そこにいるかは定かではない。きっと私では想像も出来ない出来事が君の身に起こっているのだろう』

 

「…………」

 

『だが、それでも君に頼みたい。君に願いを聞いてほしい。私達を、地球を…………助けてほしい』

 

それは、血反吐にまみれた願いだった。自分達の無力さを棚に上げて、シュウジに無責任に押し付けるシュナイゼルはこの時、自身の身勝手さに吐き気がしていた。

 

モニター越しでも伝わってくる罪悪感、頭を下げるという今まで見たことがないシュナイゼルの姿を最後に、ビデオレターは終了する。

 

「違う、間違ってるよシュナイゼル」

 

コックピットに光が点る。全天式のモニターを通して外部の様子が映し出され、機体の各部に熱が走っていく。

 

「俺が皆を守るんじゃない。俺達で皆を守るんだ。今はまだ遠いから手が届かないけど……待ってろ。すぐそっちにいく」

 

全システムのオールグリーンが表示され、最後にこの機体の名称が映し出される。

 

───思い浮かぶのは自身が目覚める直前、久しく会っていなかったあの人の寂しそうな声。

 

『───もう、頑張らなくていいよ』

 

その言葉に秘められた想いは今のシュウジには分からない。一つ確かな事はこのままここで燻っている訳にはいかないと言うこと。

 

「…………ごめんシオさん、俺は───行くよ」

 

全身に力を込める。それに呼応するように機体の全体に力が連動していく。

 

「アメイジングトールギス、出る!」

 

その叫びにトールギスの瞳が輝く。スラスターを噴かせ、開かれた輸送機の扉から勢い良く発進した蒼のMSは天高く空に舞った。

 

どこまでも、限界なく飛んでいく蒼い機体。偶々その姿を目にした船団の船長はその光に蒼い鴉を幻視した。

 

 

 




今回の主人公の祖母云々に関するお話は破界事変その⑨を読んで頂ければ分かると思います。

次回、斬り裂け、奴よりも速く。

次回こそは戦闘場面を書きたい!


それでは次回もまた見てボッチノシ

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