『G』の日記   作:アゴン

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ボッチ、ちょっぴり怒る。


その127

 

 

 

「一体何を考えてんだあの男はァァァッ!!」

 

蒼の地球、衛星軌道上のサイデリアルの防衛戦線の中枢…………即ち、敵陣のど真ん中で周囲からの大量の集中砲火の中、修理されたヤクト・ドーガのコックピットでギュネイは悲鳴に似た非難の叫びを上げていた。

 

上下左右、縦横無尽に降り注がれる砲火の嵐。コックピット内には危険を知らせる接敵信号(ロックオンアラート)が常時鳴り響いている。

 

背後から迫る敵戦艦の弾幕、それを避け、更には無人機やアンゲロイをライフルやサーベルだけで数体撃破する腕前は流石ネオ・ジオンのエースと言えた。

 

「何が敵陣を突破できる唯一の方法だ! 唯の特攻じゃないか!」

 

蒼のカリスマ───シュウジ=シラカワが提案した蒼の地球に向けての突入方法、事前にシュウジ本人から詳細に説明を受けたのだが、その内容は何て事ないただの突貫。ギュネイが言うように、特攻以外の何物でもない方法だった。

 

当然、ギュネイは反対した。何が悲しくてこんな自殺するような真似をしなくてはならないのか。しかしそんなギュネイの反論をシュウジは真っ向から論破する。

 

圧倒的戦力規模を有するサイデリアルに姑息な手段はかえって悪手に為りかねない。どの様な策を講じても通用しないのなら、いっそのことど真ん中からぶち抜くしかない。

 

相手は地球総軍を圧倒する物量を所有する星間連合、しかし、だからこそこの強襲は成り立つとシュウジは語る。

 

サイデリアルは良くも悪くも強大だ。そしてその強大さがある故に連中は此方を侮る傾向が強い。確かに正面突破は自殺行為だ。けど、だからこそ其処に活路がある。敵が強者且つ敵を侮る傲慢さを持つ事を前提の作戦…………所謂、死中に活を見出す。という論法である。

 

暴論且つ出鱈目な作戦、しかし結果として作戦は成立した。ここまで自分達を運んでくれた艦を犠牲にした上での作戦は、現在進行形で今もシュウジ(出鱈目野郎)の視点では順調に進んでいる。

 

此方を侮った敵の虚を突いた作戦は功を奏し、艦の爆発も敵の撹乱に繋り敵陣の半分にまで突き進んでいる。だが、本番はこれからであり、更に増え続ける弾幕にギュネイは歯を喰い縛りながら堪え忍び、機体の制御に全神経を集中させている。

 

「お、おいギュネイ殿、もう少し緩やかに機体を動かしてくれぬか、目が、目が回るのであ~る」

 

「死にたくないなら少し黙ってろ! 一瞬でも動きを間違えれば蜂の巣なんだからな!」

 

コックピットに備え付けられた台、そこに生首状態で取り付けられたブロッケンから苦悶の声が溢れてくる。そんな事などお構い無しにギュネイは機体操作に集中する。

 

何故自分がこんなむさ苦しいおっさんを抱き抱えねばならないのか、押し付けてきたシュウジに怨み言を呟きながらギュネイは押し寄せる弾幕の嵐を掻い潜る。

 

(クソッ、こっちは死ぬほどヤバイってのに肝心のアイツは何処で何を…………)

 

そう言って一瞬、ギュネイの視線は前方…………いや、この場合下方にいる筈のシュウジのいる場所に向けられ、そして絶句する。

 

サイデリアルの幹部らしき機体と正面から殺り合っているA.トールギス。周囲を包囲されながらその上で幹部と互角以上に戦っているその光景に、ギュネイは唖然とした。

 

蹴り、斬り、撃ち、そして殴る。最小限の武器しかない機体でありながら、物理法則を度外視した軌道で動くA.トールギス。慣性制御の施されていない機体であんな滅茶苦茶な動きをすれば、中の人間は全身に掛かるGに耐えきれず死に至る筈、それでも尚ハチャメチャな軌道を描きながら敵を蹂躙するその姿は、まさに魔人と呼ぶに相応しいものだった。

 

奴の心配をするのは今この時を以て止めよう。自分の理解を超えた光景を前にして、ギュネイは自らの心が落ち着きを取り戻すのを感じた。

 

「う、うっぷ。我輩…………吐きそう」

 

「吐いたらマジで外に投げ飛ばすからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よくも、よくも僕のアン・アーレスを殴り飛ばしたな!』

 

蒼の地球、大気圏に差し掛かり空気との摩擦で機体が急激に熱くなるのを感じながら、シュウジはモニター越しに見える毒々しい機体を前に次の一手について考えていた。

 

現在自分達のいる地点は大気圏と宇宙の間、敵陣の後方部分に位置している。A.トールギスは大気圏突入の事態も想定された機体だ。このまま落ちていけば難なく蒼の地球へ降り立つ事が出来る。

 

しかし、目の前の幹部らしき機体とそのパイロットがそれを許さない。────何かある。アン・アーレスと呼ばれる機体から感じられる不気味な力の衝動にシュウジが警戒した時。

 

『お前は楽に死なせない。アン・アーレスの放つ蠍の毒で悶え苦しみながら死ねぇっ!』

 

パイロットの男が叫ぶと同時にアン・アーレスから煙が放たれる。赤黒く、禍禍しい色彩を放つ煙は周囲の味方諸共巻き込んでいく。

 

目眩ましのつもりだろうか? いや、恐らくこの煙には何らかの仕掛けが施されているのだろう。何をするつもりだと疑問に思った瞬間、シュウジの体に異変が生じる。

 

『ンフ、ンフフフフ。どうだい? 蠍の毒の味は? 僕のアン・アーレスに搭載されたスフィアは“怨嗟の魔蠍”、その力は人の感情の中でも最も色濃い憎悪を増幅させ人の理性を崩壊させるモノ、これでお前は怒りと憎悪に支配された破壊魔になった』

 

オープンチャンネルで聞こえてくる魔蠍の男の声、挑発的で他者を見下したその声色は、聞くもの全てに苛立ちを覚えさせる。

 

しかし、魔蠍のスフィアの力によって精神が乱されたであろうシュウジからは何の反応も返ってこない。恐らくは僅かな理性で抗っているのだろう。しかし、スフィアリアクターの中でもサードのステージに至っている自分の力に抗うことなど出来る筈がない。

 

このまま怒りで発狂し、憎悪に支配されるのを眺めるのも良い。魔人と恐れられていようが所詮は唯の人間、噂の魔神もこの様子では大した事なさそうだ。

 

『このままお前を憎悪に支配され、周囲に破壊を撒き散らす化け物に仕立てるのも悪くない。…………けど、残念ながら僕は忙しい身なんだ。悪いがここで終わらせて貰うよ』

 

最早勝負は付いた。魔蠍の男は自身の力によって憎悪の化身となった部下達を自身の機体であるアンゲロイごと操り、A.トールギスに向かって特攻させていく。自分にやられた事をそのまま返してやると言う意趣返しを含めたその一撃がトールギスに触れよう───。

 

────キン。

 

───とする前に、操られたアンゲロイ達は細切れとなって爆散、宇宙の塵となって消えていく。

 

『─────なんだと?』

 

気が付いたらその手に刃を手にしたトールギスを見て、魔蠍の男は驚愕に満ちた声を漏らす。自分の、アン・アーレスによる蠍の毒は確かに目の前の男を蝕んだ筈。蝕まれた精神が元の正常な精神に戻ることなど有り得ない。

 

ならば、どうして? 疑問と驚愕に打ちのめされた魔蠍の男が混乱すると、トールギスからオープンチャンネルで声が届いてきた。

 

『怨嗟……か、成る程、確かに憎悪は人の内にある感情の中で最も色濃い感情の一つだ。これに掛かってしまえば大抵の人間は自我を失うだろうよ』

 

『なっ、貴様、意識があるのか!?』

 

『だがな、生憎とその手の能力に対処する術を持ち合わせていてね。いがみ合う双子のスフィア、確かアレも人の心のバランスを崩す作用を持った能力があったっけな』

 

相手が人の心を惑わす力で理性を崩しに掛かるのならその基となる心を、感情を消せば良い。より簡単に言えば…………ボーッとしていればいいのだ。0のモノにどれだけ掛けようとも0のモノは揺るがない。

 

尤も、様々な感情が渦巻く戦場でボーッと思考放棄をしろと言われても、そんな事が出来る人間は限られてくるが…………。

 

自身の技の一つが通用しないことに怒りを募らせる魔蠍、その怒りと憎悪に呼応してアン・アーレスから力の流れが激しくなっていく。

 

『図に乗るなよ地球人が! 怨嗟の魔蠍の力はこんなものじゃないぞ!』

 

そう、自分の怒りはこんなものじゃない。嘗て味わった絶望、そこから涌き出てくる怒りと憎しみに比べれば目の前の魔人の感情などたかが知れている。

 

今度はスフィアリアクターの全力で人格を破壊してやる。そう息巻いて────。

 

『─────おい』

 

『っ!』

 

瞬間、魔蠍は全身から血の気が引いていくのを感じた。

 

『さっき、俺を破壊魔にして周囲を捲き込む化け物に仕立てるとか言っていたが…………舐めてンのか? 今更、周りに八つ当たりした程度で収まる様なら、とっくに俺の怒りは収まってンだよ』

 

スフィアの力による心の崩壊。その力は恐ろしく大抵の者は抗えず、されるがままになるだろう。それに抗うには心を空にして受け流す以外ない。

 

他に方法を模索するのなら、それは心を一色に染め上げる事だろう。何物にも惑わされず、揺るがない意思、それこそが正しくスフィアの力に対抗すべき人の力なのだろう。

 

だが、シュウジの場合は少し違っていた。揺るがない意思の力、確かにそう呼べるだろうが、今のシュウジの内に秘められている感情は実質一つしか存在しなかった。

 

“怒り” スフィアに惑わされていたのではなく、そもそもそんなモノが必要ないほどにシュウジの内は怒りに染まりきっていた。それこそ、スフィアの力が干渉出来ない程に。

 

スフィアを凌駕するほどの怒りを内に秘めて、その上で制御しうる強靭な自我、その事実を前に…………。

 

『…………ふざけるなよ、僕よりも強い怒りだと? 僕よりも強い怒りを待っている上に、その上にそれを完全に制御できる自我だと? そんな事、そんな事────あっっっって、たまるかァァァァぁっ!!』

 

魔蠍の男、バルビエルはその毒々しい化粧の表情を憤怒に染め上げる。

 

『許せない、許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない! 僕よりも強い怒りだなんて、そんな事認めるもの────』

 

『なに言ってんだよ、お前』

 

『っ!?』

 

スフィアの力を高め、全力の一撃を放とうとしたバルビエル。しかし、そんな彼よりも速く、魔人はアン・アーレスの懐に潜り込み。

 

『感情ってのは、自分の内にだけにあるもんだ。誰かに認めて貰うとか、そういう話じゃねぇだろ』

 

コツンと、トールギスの拳がアン・アーレスの胴体に触れ───。

 

『っ、お前っ!』

 

『不動────』

 

“砂塵爆”

 

『シュウジ…………シラカワぁぁぁぁぁっ!!』

 

衝撃が、アン・アーレスごとバルビエルを貫いた。吹き飛んだアン・アーレスは怨嗟の叫びを上げながらそのまま地表に落下、その姿は見えなくなっていった。

 

『さて、こっちはこれで終わったな。あとは…………』

 

『シュウジ=シラカワぁぁぁぁぁっ!!』

 

コックピットに響き渡る涙混じりの悲鳴、それがギュネイのモノだと知ったシュウジは頭上を見上げると、そこには大量の残存戦力を連れたヤクト・ドーガがいた。

 

『お前、すぐこれをどうにかしろ! 俺、俺…………もう無理』

 

『頑張るであるよギュネイ! 我輩も頑張…………あっ、やっぱ無理、もう限界…………出る』

 

『やめ、ヤメローッ!? ここで今吐くのは本気で止めろ! ゲロまみれの最期とか嫌すぎるぅぅっ!!』

 

通信から聞こえてくるギュネイ達の声、元気そうな二人に笑みを綻ばせながらシュウジはヤクト・ドーガを掴み、戦場から離脱した。

 

トールギスの常識外れの速さにサイデリアルも追い付けず、遂にはその姿を見失う。

 

蒼いトールギスが空を翔るその姿、それはまるで…………。

 

 

「…………流れ星?」

「ラトロワ大佐、何してるんですかぁ?」

「荒熊さんが待ってますよぉ」

「あぁ、済まない。今行く」

 

暗闇を切り裂く、流星だった。

 

 

 

 




次回、連獄篇最終回になる予定。

次回もまた見てボッチノシ
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