「なんと、大貫殿が学校を去っただと!?」
「生徒会長の話によれば、休職届けを出された様だ。それと大貫さんがいない間、俺達が用務員として働いてほしいだそうだ」
「それは構わないが…………しかし、一体何故この御時世に? 今この星はサイ何とかの連中に攻められているのだろう?」
「分からん。が、頼まれた以上やり遂げるべきだろう。シュウジさんが退職された後、我々を鍛えてくださった御方の頼みだ。竜馬さんもここの所忙しそうだし、学校の負担を軽くさせる為にもやらない訳にはいかないだろう」
「うむ、そうだな。では早速生徒会長の所に赴き詳しい事情を聞くとしよう」
「…………なんか空手部の人達、随分気合い入ってるね」
陣代高校2年4組。放課後の教室、個性的な学生が多いことで知られるこの学舎においても、一際異質な三人の空手部員。そんな彼等が真剣な表情で教室を後にする光景を
「アイツ等が暑苦しいのは何時もの事だろ? そんな事よりヒビキだよ、アイツ一体どうしたんだよ、ここの所学校休んでばっかりじゃねぇか」
「相良君もそうだけど最近のヒビキ君、様子がおかしいよ。かなちゃん、何か知らない? このままじゃヒビキ君、本当に進級出来なくなっちゃうよ」
「え? わ、私? え、えぇっと…………」
突然恭子から話を振られた事に千鳥かなめは狼狽する。今ここにはいないヒビキ、何故彼がいないのか、その理由を知っているかなめは、その事を口にするのを躊躇った。
普段なら女子高生らしからぬ苦笑いで誤魔化す彼女だが、この時は本気で躊躇った。そんな珍しい反応をするかなめに恭子が疑問を感じた直後、今まで黙っていた相良が口を開く。
「────今、アイツの周りはちょっとゴタゴタしていてな。それが終わったらきっと戻ってくる。…………いや、戻ってこさせる」
「相良?」
「だから、もう少し待っていてくれ。プリント、感謝する」
明らかに説明不足な内容、しかし相良の口から感じ取れる重々しい口調に、恭子とオノDも口を出せずにいた。一気に教室内の空気が重くなる。遠巻きに見ていた甲児やアルトも、ばつが悪そうに俯いている。
言えない。言える筈がない。ヒビキが兄として慕っていた者を自らの手で殺めてしまったなど、どんな顔をして言えばいいのか。息苦しささえ覚えてしまう教室内の空気、そこから逃げるように宗介は教室を後にした。
そんな彼を呼び止めようとするも、恭子の手は虚しく空を切る。呼び止めようとしても事情を説明されていない自分達には、一緒に悩むことすら出来ない。
どこか自分達の日常が壊れていくような、そんな錯覚を覚える。寂しくて教室の空気を変える為に無理して笑う恭子、そんな彼女を見て短くごめん、と言葉を残してかなめも宗介の後を追う。
教室を出て廊下の突き当たり、階段を上った所にいた相良に追い付いたかなめ、本来なら何か言うべきなのだろうが、今の彼女には彼に掛けてやるだけの言葉は見付からなかった。
「…………俺は、間違っていたのだろうか」
「宗介?」
「あの時、俺はヒビキを、奴の下へ行かせるのを止めた。奴の機体の爆発から…………守る為に」
「………………」
時獄戦役、アンチスパイラルとの決戦の裏で行われたグランゾンとの死闘。それは当時のZ-BLUEを壊滅状態にまで追い詰める程で、多くの機体は大破状態にあり、彼に勝てたのは奇跡としか言いようがなかった。
その中でもヒビキの乗るジェニオンは損傷が酷かった。当然だ、天地開闢の一撃を単身で受けながら突き進んだのだ。今でこそスフィアの力で修復され、完全に直ってはいるが、当時はほんの少しの衝撃で崩れそうな程にボロボロに朽ち果てていた。
そんな状態でグランゾンの爆発に巻き込んでしまったら今度こそヒビキは、ジェニオンと彼のパートナーである西条凉音も巻き込んで、蒼のカリスマ諸共死んでいただろう。
あの時の宗介の判断は間違ってなかった。間違っていないが…………その結果、ヒビキを更に追い詰めてしまった。自身の手で兄貴分を殺めた事実、それが彼の根っこの部分で痼として残り、今も彼は苦しんでいる。
そして現在、彼は敵を倒す為の機械になりつつある。感情も不安定で、碌にスフィアの力を引き出せず、自身を痛めつけ続けている。
凉音のフォローで気持ち的に何とか持たせているが…………それも、いつまで続くか分からない。アムロ大尉とカミーユは何か心当たりがあるらしく、ヒビキと接触を図ろうとしているが、強く心を閉ざすヒビキに彼等の言葉が届くことはなかった。
───見ていられなかった。自身が親友と認めた男が苦しみ、日増しに堕ちていく様を見るのが。自分の時は散々助けて貰っておきながら、その礼を返すことが出来ない自分の無力さが…………堪らなく悔しかった。
あの時、ヒビキを止めた事は間違っていないと今も思う。だがそこから先、どうやって彼を奮い起たせればいいのか分からない。嘗て自分もザイードというヒビキにとっての
だが、ヒビキと自分とでは状況が違いすぎる。彼は元々は一般人で自分は傭兵だ。育ってきた環境やそれに対する心構えというモノがまるで違う。
やはり、自分には普通の学生というのは無理なのだろうか。下された命令のまま命を奪ってきた自分と、平穏を生きてきた彼等とでは…………。
堂々巡りの思考、泥沼に嵌まりつつあった思考の海でふと軽い衝撃が走った。馴れた傷みと衝撃により思考が強制的に止まり、現実に帰ってきた宗介は頭を擦りながら振り返ると、ハリセンを手に明るい笑みを浮かべる千鳥かなめがいた。
「こーら、またムッツリな顔をしているぞ」
「千鳥…………」
「アンタが考えた所で、どうせ碌でもない事になるのは目に見えているんだから、いっそ止めときなさい」
「しかし、それでは…………」
「ヒビキ君に貸しがあって、負い目があると感じるなら、まずは自分に出来る事を探す事から始めなくちゃ。戦場でも何でもそれは同じの筈でしょ?」
「それは…………そうだが」
「だったら、ヒビキ君の為にまずはプリントを持って行く! 友達が留年するなんて嫌でしょ?」
「……そうだな。その通りだ」
「卒業するなら、みんな一緒に…………留年二人を持ったクラスの委員長なんて私の印象にも影響してくるんだから、しっかりしなさい」
「最後の台詞が無ければ、素直に賛同できたのに…………」
ガハハと笑うかなめに宗介はゲンナリとした様子で俯くが…………先程まで胸中を占めていた嫌な空気は既に抜けきっていた。
相変わらず、ハチャメチャな人だ。そう思いながら宗介は手にしたプリントを手に階段を下りていく。
(…………ヒビキ、皆はもう将来のことを考えてそれぞれ行動に移しているぞ。お前は何時まで其処で燻っているつもりだ)
この場にはいない親友の事を想う。…………そんな時、宗介の通信機器に緊急事態を報せるアラームが鳴り響く。
見れば端末に書かれているのは出動の二文字、教室に視線を向ければ甲児やアルト、さやか達が真剣な表情で教室から出ていく。その顔は戦士の顔となっていた。
「済まない千鳥、急用が入った」
「うん、気を付けて」
「問題ない。帰ったらプリント答案の答え合わせを頼みたい」
甲児達と共に走り行く宗介の後ろ姿、その光景を忘れないように、かなめは寂しげな表情で見つめ続けていた。
◇
新地球皇国軍、ラース・バビロン。サイデリアルの最重要拠点にしてサイデリアルの皇帝が住まう居城。
その玉座にて皇帝の前に一人の女性が連れ出されていた。全身を甲冑に身を包んだサイデリアルの最高司令官、その後ろに立つ女性に向けて皇帝は口を開く。
「お前が、シオニー=レジスか?」
「………………」
「お前には幾つか聞きたいことがある。なに、話さないからと言ってその命を奪うつもりはない。私は…………ただ知りたいのだ」
「…………何を、です?」
「シュウジ=シラカワ。我が盟友であり同じ次元の将だったヴァイシュラバを討ったという彼の者の事、その全てを…………」
◇
────蒼の地球、某所。
「おら早く立て! 貴様らは我等サイデリアルに選ばれた貴重な人材だ。死にたくなければ大人しく言うことに従え!」
サイデリアルの苛烈な侵略攻撃によりその支配下に墜ちた区域、政府軍の戦力もマトモに通じず、サイデリアルの圧倒的な攻撃に成す術なく侵略された町、そこに住まう人々は毎日サイデリアルの兵士によって奴隷のような扱いを強いられてきた。
大人も子供も老人も例外なく強制労働させられ、倒れても鞭を打たれ、決して休まる事を許さなかった。
ある日、やって来たサイデリアルの輸送機、その中で行われた適性診断が終わると、サイデリアルの兵士は下卑た笑みを浮かべてこう言った。
「喜べ諸君。ここにいる君達は全て皇帝陛下に認められた存在、この艦に乗っていけば晴れて諸君は皇国軍の人間、サイデリアルの臣下として生きられる事を約束されるだろう」
この輸送機に乗る者達は認められた。これで過酷な強制労働から解放される。家畜の様な扱いから抜け出せると知った市民は歓喜の声を上げた。
そんな中、一組の母子が輸送機から抜け出そうとしているのを兵士の一人が発見、銃口を彼女達に突き付け、止まるよう強制する。
「貴様、何のつもりだ? 皇帝陛下のご意志に背くつもりか?」
「わ、私はどうなっても構いません。だからお願いします。息子だけは、息子だけは見逃してください!」
幼い息子を後ろに隠し、必死に懇願する母親。彼女は知っているのだ。皇国軍の都、ラース・バビロンに連れていかれた者は全員生きて帰って来ることはない事を…………。
せめて息子だけは其処から逃がさないと。土下座する勢いで頭を下げ、必死に見逃してくれる様頼み込む女性、しかし。
「皇帝陛下の寵愛も理解できぬ愚か者が!」
サイデリアルの兵士は母親の必死な願いを踏み躙り、女性の顔を蹴り上げた。
「あぐっ!?」
「お母さん! この、ヤローッ!」
最愛の母が踏み躙られ、蹴り飛ばされ、血を吐いて倒れ伏す。その光景に怒りを爆発させた少年はその感情のままに武装した兵士に殴りかかる。
子供である少年では兵士である奴等に敵うはずもなく、少年の渾身を込めた掴み掛かりは兵士の蹴りによって無惨に突き飛ばされる事になる。
「…………反抗が過ぎるな。良いだろう。そんなに我等に歯向かいたいのであれば先ずはお前を殺し、見せしめにするとしよう」
「や、止めて、子供には手を出さないで!」
息子に銃口を向けられた事により母親の顔に恐怖と絶望が貼り付けられる。彼女にとって息子は希望そのもの、それを奪わないで欲しいと、母親は痛む体に鞭を打ちながら息子の下へ這っていく。
対して少年は目尻に涙を浮かべ、恐怖に抗いながらも兵士を睨み付けていた。恐怖に負けない強い意思、それが何なのか兵士が疑問に思った時、少年の口からある者の名前が紡がれる。
「お前達なんか、お前達なんか、今に蒼のカリスマがやって来てブッ飛ばしてやるんだからな!」
蒼のカリスマ。その名を口にした少年の瞳は何処までも透き通っていて、強く輝いていた。彼の者の登場を信じて疑わない少年は、サイデリアルの兵士達を射抜くように睨み付ける。
僅かに訪れる静寂、誰かが蒼のカリスマと反芻した瞬間、輸送機内に兵士達の笑い声が機内に響き渡った。
「コイツは驚いた。まさか死んだ人間を信じる奴がいるなんてな。それもこんな子供が」
サイデリアルの兵士が笑っている。その様子に何も言い返せない少年は目尻に溜めた涙を流しながら、バカにするなと声を出して叫んだ。
確かに、蒼のカリスマはテロリストだ。世界はそれを周知の事実とし、その全容を明らかにすることを頑なに拒んだ。
世界が蒼のカリスマという存在を危険と断じた。数々のテロ行為を行い、世界政府に脅威をもたらした世紀の大悪党として。そして彼はアンチスパイラルとの決戦で死亡したと報じられ、それが真実として受け入れられている。
だけど、少年は知っている。蒼のカリスマという人物は本当は誰よりも強く、優しい人なのだと。───破界事変の頃、当時次元獣によって家を焼かれ、町を壊され、もうダメかと思われた時、彼は魔神と共に駆け付けてくれた。
『お母さんを守ってたのか。…………少年、君は強いな。その気持ち、無くすなよ』
世界に敵視されながら、人々に恐怖の象徴として恐れられながらも誰かの為に戦い続けた。少年にとって蒼のカリスマはZ-BLUEよりも格好いい、ヒーローそのものだった。
だから、少年は信じてる。きっといつかあの人はまた困っている人の為に戦ってくれることを…………。
「まぁいい、子供一人いなくなった程度、どうという事もあるまい。…………やれ」
「だめ、ダク君逃げて!」
だから、自分も戦う。小さくても、弱くても、この恐い人達から逃げないという自分の戦いを。
「僕は、お前達なんかに…………負けない!」
「やめてぇぇぇぇっ!!」
引き絞られる引鉄、母親の絶叫が機内に響き渡り─────。
「よく吼えた。少年、この戦いは君の勝利だ。────何故ならば」
そいつは現れた。
白いコートを靡かせ、蒼い仮面を被り、兵士の銃身を握り締めたその者は、残った片方の拳を兵士の胴体に捩じ込ませる。
衝撃に貫かれ、勢いよく吹き飛ばされた兵士は、後方に控えた他の兵士諸共、機内の壁に叩き付けられる。
その光景を目にしたとき、少年からは滝のような涙がこれでもかと流れ落ちた。
さぁ、侵略者どもよ。超常の力を持つ怪物どもよ。今のうちに策略策謀を張り巡らせるがいい。ここから先、お前達の企みは何一つ思い通りになることはない。
─────何故ならば。
「私が来た」
第三次スーパーロボット大戦Z~連獄篇~
完結。
連獄篇、遂に完結!
次回はちょろっと次回予告を挟む予定。
次回もまた見てボッチノシ