『G』の日記   作:アゴン

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お待たせしました。遂に天獄篇、開幕です。


天獄篇
その129


 

 

 

 

───────燃える。曾て、いや、ついこの間まで繁栄し、栄えていた街が燃えている。何の理由もなく、ただ理不尽に蹂躙されていく己の故郷を目の当たりにしていた人々は、失われていくその光景に嘆き、悲しみ、ただ絶望に浸ることしか出来なかった。

 

“サイデリアル” 時獄戦役と呼ばれる戦いの直後からその姿を現した、目的も分からない謎の侵略者達の手により、地球の領土はその七割近くを奴等に蹂躙されていった。

 

逆らう者には死を、そうでないものには強制的な隷属を、曾て無い危機を前に、人々はただ奴等の決定に従うしかなかった。

 

勿論、ただ蹂躙されるだけを由とせず、抗うために立ち上がった者達もいた。幾度となく危機に苛まされ、滅びを前にしても諦めなかった人々の執念が、サイデリアルを相手に真っ向から立ち向かったのだ。

 

地球最強の部隊、Z-BLUE。幾度の戦場を越え、幾つもの危機を乗り越えてきた彼等のように、自分達も立ち向かうべきなのだと、街の人々はレジスタンスとして立ち上り、侵略者の尖兵達に戦いを挑んだ。

 

だがその結果、彼等は全てを失いかけていた。相手はこれまでの相手と同じく、抵抗するだけ事態が好転する、あるいは諦めなければ何とかなると思えるような──────そんな、甘い考えが通用する相手では無かった。

 

連中は地球側の戦力、主に無人機を利用して此方に攻撃をしてきている。何故地球側の戦力であるはずの機体が奴等に与しているかは分からないが、同じ地球側の機体であるならば勝ち目があると判断したレジスタンスは、タイミングを見計らい反旗を翻した。

 

 

これでいけると思った。無人機とはいえ、直接サイデリアルの戦力が投入されていない今なら、まだ自分達の手だけで何とかなる。数を減らしつつある無人機を前に、レジスタンスの人々は自分達の勝利を確信しつつあった。

 

自分達はまだ諦めていない。まだ地球(俺達)は負けていないと、サイデリアル達に自分達の意志を示してやる。そして、それが今も各地で戦っている同じ地球人の励みになる。そう信じて戦い続けていた彼等の前に…………。

 

絶望が、舞い降りた。

 

「嘘…………だろ?」

 

空を覆い尽くすほどの軍勢、これまでの無人機とは違い、奴等の主戦力と思われる人型機動兵器の…………その全てが此方に銃口を向けていた。

 

奴等の放つ最初の攻撃で此方の戦力は全て破壊された。機動兵器に乗って勇ましく戦っていた友人も、皆を逃がそうとしていた愛する女性(ヒト)も、全て奴等の手によって吹き飛ばされてしまった。

 

「なんでだ。なんで、こんな事をするんだよぉっ! 俺達が、何を、したっていうんだぁっ!!」

 

奴等の攻撃から運良く…………いや、運悪く生き残った男は慟哭の声を張り上げる。何故自分達がこんな目に合わなければならないのか、男の怨みが凝縮された叫びをしかし眼前の外敵は答える事なく、銃口にエネルギーを収束させている。

 

機動兵器のモノアイが妖しく光る。それが此方を嘲笑っている様で、男にはそれがとても許せなかった。

 

「チクショウ、チクショウ!!」

 

地面を叩く男の手から血が滲み出る。そして準備が完了したサイデリアルの第二射が放たれようとした時─────。

 

蒼い閃光がサイデリアルの機動兵器の群れに突貫し、瞬く間に切り刻んでみせた。

 

「………………へぇあ?」

 

あまりの光景に男から間の抜けた声が洩れる。あれほどまでに苦戦し、一方的に此方を蹂躙していたサイデリアルの主戦力が、今度は一瞬にして細切れになっていくのだから、そうなるのも無理はない。

 

サイデリアルを相手に蹂躙する蒼い機体、その風体は何処と無くOZの総帥が搭乗したとされるモビルスーツに似ているが、UCW出身である男には分かり得ない事だった。

 

そして、そんな閃光と化している蒼いモビルスーツが撃ち洩らしたと思われるサイデリアルの機体を、ネオ・ジオンのモビルスーツと思われる機体が的確に落としていく。その様子は、ハッチャケる上司のフォローに回る苦労人な部下の様であった。

 

「ふむ、どうやらシュウジ殿達は間に合った様であるな。我輩も先回りしていた甲斐があって何よりである」

 

ふと、横から聞きなれぬ声が男の耳に届いてきた。何だろうと思い振り返ると、全身を機械的な鎧に覆った髭の男が、複数人の人間を背負って佇んでいた。

 

一体、何が起きている? 立て続けに起きた出来事に軽くパニックを起こしている男には、到底理解出来そうになかった。

 

「ほれ、お主もいつまでボーッとしているでない。立てるのなら急いでここから離れるのであーる。シュウジ殿達の邪魔になるからな」

 

「あ、あぁ、済まない」

 

取り敢えず、ここを離れた方が良さそうだ。目の前の鎧の髭男に言われるがままに付いていく男は、その先で死んだと思われていた仲間たちと再会し、再び思考が止まるというのは別の話で────。

 

自分達を助けた蒼い機体の操縦者が、世界中を震撼させたあの蒼のカリスマだという事を知り、吃驚仰天にひっくり返るのも…………やっぱり別の話になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z月δ日

 

ADW……即ち、蒼の地球に降り立って早数日。現在自分達は地球各所の戦場に遭遇してはレジスタンスと協力し、ゲリラ戦を行う毎日を過ごしていた。

 

本当なら、遭遇した戦場で何人か捕まえて、目的とか色々と話を聞くべきなんだけど…………いやぁ、サイデリアルってのは何処にでも現れるし、割と気の抜けない相手だから、つい全部遠慮なく斬り捨てちゃうんだよね。

 

ギュネイ君からその事で何回か注意を受けたことがあるんだけど、こればっかりはどうしようもない。何せ連中は僅か数ヵ月足らずで蒼の地球の支配圏、その七割近くを掌握しているのだ。情報を得るのも大事だが、今暫くは連中の動きに注意しながら、慎重に動いた方がいいと自分は思う。

 

まぁ、遭遇した戦場全てに関与している自分が言っても説得力は無いんだけどね。ギュネイ君もその事については呆れてるけど、もう何も言ってこないし。

 

でも、度重なる戦闘で何も得られなかった訳ではない。何度も連中と戦闘したお陰で、小型だけど奴等の艦を再びゲットできたし、ブロッケンに新しい身体を作ってやる事もできた。艦という移動手段を手に入れた事で機体の整備も出来る様になったし、何よりこのゲリラ戦で、ギュネイ君の操縦技術も格段に上がってきている。

 

本人はその事を話す度に疲れきった表情を浮かべているが…………まぁ、それも無理もない。どんなに歴戦の戦士であろうと、戦いが続けば疲れるというもの。

 

だから明日は久し振りにゆっくりしようと思う。幸い奴等から奪い返したこの街はまだ多くの物資が残されている。復興や街の建て直しはまだまだ先になるだろうが、取り敢えずここの人達が今すぐ飢えに苦しむ事はない。

 

自分達は戦いに参加した見返りとしてその内の一、二割を譲って戴くだけ。元々通り掛かっただけだし、このくらいの割合で丁度いいだろう。二人からはもう少し貰ってもバチは当たらないと言うが、元々人数は此方が少ないのだ。余り多く貰っても腐らせてしまっては物資の無駄遣いというものだろう。

 

それに、これから忙しくなるのは彼等の方だ。今一時の平穏を勝ち取っても、すぐにサイデリアルはレジスタンスの彼等を鎮圧しに、再び大軍で押し寄せてくるだろう。そうなった時、真っ先に逃げるためにも、今のうちに物資の分配は済ませた方がいい。

 

仮に戦うのだとしても物資は多い方がいい。彼等には守るべきものがあるし、それを守る為にも糧となる物は多い方がいいだろう。

 

邪魔になるのならばそれを奴等への土産にして、命だけは助けて貰うようにするのもいいだろう。連中は銀河の中心部付近から来た者、辺境の星である地球の物品には少なからず興味を持つ筈だ。

 

そんな訳で明日一日だけここに留まる事にした自分達、何せ今の地球は殆どがサイデリアルの支配地域となっている。通信関連のインフラも、その多くが奴等の手に握られてしまっている。

 

ここ最近の自分達は派手に動きすぎている。連中の目を欺く意味でも明日一日は大人しく過ごした方がいいだろう。

 

 

 

Z月γ日

 

久し振りにゆっくりした時間を過ごしていたら、ある人物が自分の所に訊ねてきた。

 

ジェレミア=ゴットバルトさん。サイボーグと化した自らの足で自分の居場所に辿り着いた彼は、自分に出会うや否や開口一番でこう言ってきた。

 

“シュナイゼル殿下とマリーメイア様を助けて欲しい” 懇願するようにそう言ってきた彼の話を、自分は詳しく聞くことにした。

 

何でも、現在シュナイゼルとマリーメイアちゃんは貴族連合と名乗る連中に幽閉されており、サイデリアルの基地に隔離されているのだとか。

 

で、その貴族連合というのは曾てのブリタニアの貴族で、今一度貴族制度を再構築する為にサイデリアルに尻尾を振った連中なのだとか。

 

曾て再世戦争の時に自分との戦いに破れ、自ら敗北を認めたシュナイゼルは、地球統一を機に、ブリタニアに古くからある貴族制度を撤廃したという事を、当時のバイト中に聞いた事がある。

 

貴族制度の解体に伴い発言力を失った貴族の連中。しかしサイデリアルが地球に攻め込んできたのを切っ掛けに再び成り上がる事を決意し、一部の元皇族を旗印にして元ブリタニアの宰相だったシュナイゼルと、偶々その場面に出会してしまったマリーメイアちゃんを人質に取った……と。ジェレミアさんから聞いた話では大体こんな所である。

 

なんというか、まぁ、色んな意味で典型的な奴等だよなぁ。というのが貴族連合と名乗る連中に抱いた感想である。というか、シュナイゼルにしてはらしくない失態だ。それは凡ミスにしてもおかしい程に。

 

シュナイゼルは自分は勿論、トレーズさんも認めた切れ者だぞ? そんなアイツが、自分の失態で親友の形見であるマリーメイアちゃんを捲き込むとか、信じられない話である。

 

何かこの話、裏がありそうだ。シュナイゼルがいなくなる事で得する誰かの陰謀が招いたのだとすれば、この事態も幾分か納得出来るのだが……。

 

いや、考えるのは今は後回しにしよう。今回の件の黒幕への報復は後回しにし、自分はこれよりマリーメイアちゃんと、序でにシュナイゼルの救出作戦の準備に取り掛かろうと思う。

 

相手は久し振りに大きな相手になりそうだ。一度死んだ身だけど、今回も死ぬ気で取り掛かろうと思う。

 

折角真化状態の自分を残機扱いにして蘇ったんだ。精々、暴れてやろうではないか。

 

まぁ、またギュネイ君に呆れられると思うけどね。仕方ない、自分についてきたのが悪かったと諦めて貰おう。

 

では、明日も早いので今日はこの辺で終わりにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そう言えば、自分一回死んだんだった。ヤベェ、どうしよう?

 

シュナイゼルの事とかで気にしないようにしてたけど、今日ジェレミアさんに指摘されたからすっかり思い出してしまった。

 

どどど、どうしよう? ホントどうしよう? ドッキリとして誤魔化すか? いや、そんなことをすれば挽き肉にされて蜂の巣にされる。主に二人の紅い修羅から。

 

特にカレンちゃんから。ヤベェよ、折角生き返ったのに殺される。ヒートエンドされちゃうよ。

 

 

…………よし、忘れよう。きっと何とかなるさ、アムロさん辺りがきっと庇ってくれる筈さ。自分との戦いの時、何となく此方の異変に気付いてくれたっぽいし、きっとC.C.さんから事情を聞いてくれている筈だし。

 

うん、きっと大丈夫さ! 希望はある、間違いない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュウジ殿? その板切れはなんであるか? ドッキリと書かれている様であるが……」

 

「……俺の、命綱になるかもしれないモノだ」

 

(それで余計に自分の首を絞めている事に気付かない辺り、コイツも大概だな)

 

 

 

 




天獄篇序盤はオリジナルの話を挟んでいこうと思います。
そんなに掛かる予定ではありませんので、ご容赦下さい。
そして、次はあの人が登場。


次回、吸血鬼

次回もまた見てボッチノシ

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