『G』の日記   作:アゴン

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ボッチ、またもややらかすの巻


その137

 

Z月*日

 

シュナイゼルとマリーメイアちゃん達と別れてから一週間以上経過した今日、自分はほぼ日課になりつつあるサイデリアルとの小競合いを続けながら情報収集に勤しんでいた。

 

相変わらずサイデリアルの軍勢は規模も力も凄まじく、反皇国軍の勢力はコレといった決定打を打てることもなく日々泥沼の戦いを繰り広げている。そんな中自分がやっている事は精々トールギスの整備品と食糧を戴くために通り過ぎがてら手を貸している程度だ。

 

因みに、レジスタンスの人達から戴くわけではない。サイデリアルという資源を豊富に所有している輩がいるから貰うついでに蹴散らしているだけである。ただでさえ貧困厳しいレジスタンスの方々から物資を巻き上げるわけにもいかないだろう?

 

やってる事は完全に追い剥ぎ、もしくは強盗の類いだが、こっちは血生臭い戦争をしているのだ。四の五の言っている場合でも無駄に余裕ぶっている場合でもないのだ。

 

まぁ、そんな事をしている所為か、最近は皇国軍の連中からナマハゲ扱いされるようになったんだけどね。レジスタンスの人達からも“妖怪物資おいてけ”なんて呼ばれてるし。…………皇国の連絡は兎も角何故レジスタンスの人達にまで恐れられなければならないのか。そもそも奪ってるのにおいてけと呼ばれるのか、色んな意味で悲しくなってくる。

 

そんな事もあって、今の所なんとか生きている自分だが、先日、情報整理の為に日記を読み直した時、ある考えが浮かび上がった。“クロノ”時獄戦役の頃から度々耳にして来た秘密組織、曾て地球至上主義を唱えたサイガス准将の後ろ楯でブルーコスモスとその母体であるロゴスと深い関わりのある組織。

 

その秘密組織にマーセナス家なる政治家の一族が深く関わっている可能性が浮上してきた。マーセナス家は確かリディ少尉の実家で、代々そこの家は政治に精通しており、政府とは深い繋がりがあるのだとか。

 

そして今日、何となくマーセナス家に付いて自分なりに調べてみた結果、なんとマーセナス家は今の世界が出来上がる遥か昔、宇宙世紀の始りに差し掛かった時代に一人の首相を輩出したという事が分かった。それもとんでもなくキナ臭い情報と一緒に…………。

 

その人の名はリカルド=マーセナス。当時、その世界で地球連邦政府の首相で歴史に名を刻んだ一人の男でテロリストにその命を奪われた悲劇の人物。自分がマーセナス家とクロノが関わりがあるのかもと疑いを掛けたのもこの事件が根拠となっている。

 

そもそもクロノはコーディネイターやジオンという宇宙移民に対して敵意にも似た監視を行ってきた。不必要な進化を避けるべく創られた組織、それが先日までの自分のクロノに対する見解だったが、この件でその推測は随分と現実味を帯びてきた。

 

宇宙移民を監視、束縛し、管理してきたクロノ。並行世界を股に掛けて存在するその組織、恐らくリカルド=マーセナスはそんなクロノに敵対し、彼等の存在を宇宙世紀の始まりとされるラプラスと呼ばれる宇宙ステーションで知らしめようとしたのだろう。だから、自分達の存在を暴露しようとしたリカルドを危惧し、彼を宇宙ステーションごと葬り去った。

 

リカルドを葬り、事件を闇に葬った事で安心したクロノだが、この時一つ予想外の出来事が起こった。当時ラプラス爆破のテロリスト、その工作に関わった何者かがリカルド=マーセナスが秘めていた真相、若しくはその一端に触れ、この世界に関わる大事な何かを知ることになった。

 

それが、ラプラスの箱。時獄戦役の時、バナージ君の乗るユニコーンが示す宇宙世紀を根底からひっくり返す秘密の箱。それを巡ってネオ・ジオンのフル=フロンタルと幾度と交戦しているとアムロさんを通して聞いたことがある。

 

確か、ユニコーンはバナージ君の実家でもあるビスト財団が組み上げた機体だったよな。…………そして、宇宙世紀が始まって台頭してきたのもビスト財団だった筈。

 

この繋がりは偶然の訳がない。恐らくビスト財団は箱の秘密が何なのか知っているのだ。だから宇宙世紀に深い関わりのある場所を座標として指し示すユニコーンを鍵として造り上げ、バナージ君に託した。

 

そしてマーセナス家もその秘密を知っている。宇宙移民、進化の芽を宿した人類達に対する過剰なまでの監視と束縛をするクロノとそれに関わるマーセナスの家、そしてこの二つに大きく関わっているのがニュータイプ、アムロさんやカミーユ君を始めとした宇宙に進出した人類の新たな可能性。

 

恐らくラプラスの箱というのはそんなニュータイプに深い関わりのある内容を記したモノなのだろう。そしてクロノの秘密も箱の奥底に隠されていると見た。

 

今の自分にはあまり関係の無い話だが、放っておく訳にもいかない。恐らくクロノはサイデリアルとも関わりのある組織だ。最悪、下手をしたら連中は手段を問わず箱の存在を闇に葬る可能性がある。

 

自分が知っていいのかどうか迷う所はあるが、ここは思い切って探してみようと思う。

 

 

 

V月@日

 

ラプラスの箱、無粋ながらその秘密をこっそり暴くことにした自分は、取り敢えず心当たりの場所がある宇宙へ向かう為に行動しようとしたのだが、マスドライバーのある基地に潜入したらサイデリアルの幹部らしき人間と遭遇、しかもソイツは一度だけ面識のある尸空だった。

 

なんで奴がここにいるのか驚いた自分だったが、向こうも一人で基地に潜入した自分に驚いている様で隙だらけだった。向こうが正気に戻る前に鳩尾に拳を捩じ込み意識を奪う事に成功、更に幸運な事に奴と出会した場所は基地の管制室で、奴以外モニターに釘付けだった為、誰にも気付かれる事なく幹部一人を無力化させる事が出来た。

 

そのまま管制室を制圧、本当ならここで尸空にサイデリアルの目的やらなにやら吐かせてやりたい所だったが、時間的な問題と、以前自分の演技に合わせてくれた事への罪悪感でそれを後回しにした自分は基地内に侵入者に関する嘘の情報を流して混乱に陥れて、サイデリアルの戦艦をマスドライバーに予め発射時間を指定しながら設置し、後は基地近くに置いてあったトールギスに搭乗、そのまま戦艦へ乗り込み、時間通りにマスドライバーを起動させ、色々急ではあったが自分は無事宇宙に飛び出す事に成功した。

 

その後、衛星軌道上に展開されてたサイデリアルの艦隊に簡単な質疑の受け答えをした後、あっさりと通過する事が出来た。この時明らかに幹部らしい金ピカの艦を目撃するのだが、流石に一日に二人も幹部を相手にするのは面倒なのでスルーする事にした。

 

何だかんだあったが、結局は上手く行ったので、後はサイデリアルに察知されないようシステムに細工をしておくとしよう。

 

さて、そんな訳で再び宇宙に上がった自分だが、一応の行き先は決めてある。ビスト財団の屋敷があるインダストリアル7、バナージ君がユニコーンを起動させたという因縁のある場所。

 

ネオ・ジオンとの抗争でスッカリ人気の無くなったその場所、そこに恐らくラプラスの箱にまつわる秘密が眠っている筈。そしてビスト財団の最重要人物も…………。

 

譬え何も無かったのだとしても、最低でもラプラスの箱に連なる情報はある筈。こうなるのだったら時獄戦役の頃、すぐに離れるんじゃなくもう少し調べておけば良かった。まぁ、余計な事をして他勢力に悟られるヘマをしなかったと考えればいいか。

 

…………しかし、意外とはいえまさか敵の幹部二人と遭遇するとは、何だか作為的なモノを感じる。まさかあの二人の背後にはギルター=ベローネが糸を引いてるんじゃないだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インダストリアル7、ビスト財団の屋敷がある最奥の場所、幾つもの仕掛けと罠によって構成された屋敷…………更にその奥で、一人の老人が生命維持装置のベッドの中で天井に映る蒼き星を見つめていた。

 

「…………そうか、彼等は二手に別れたか」

 

「はい。一つは翠の星、もう一つの地球に。もう片方は蒼の地球へ降り立つようです」

 

「今の彼等には奴等と戦えるだけの力が足りない。翠の星へ助力を乞うのは間違いではないな」

 

「地球にはサイデリアルだけでなくネオ・ジオンも降下したとの情報もあります」

 

「今が一番苦しい時だな。この老い耄れには祈る事しか出来んが────」

 

「ほう? この混沌とする世界で未だ神に祈りを捧げますか。それは信仰心から来るものですか? それとも、ただの懇願ですかな?」

 

「っ!?」

 

突然聞こえてきた、いない筈の第三者の声。音もなく、影の向こうから這い出るように現れた仮面の男に、付き人の男性は驚愕しながらも拳銃を突き付けた。

 

「バカな、警備システムは万全の筈、何故警報の一つも鳴らない!」

 

「いや、さすがは音に聞こえたビスト財団。その警備網は大したモノですよ。サイデリアルから奪った情報端末が無ければ、もっと時間が掛かっていましたよ」

 

そういって懐から取り出した端末、所々煙を吹き出し、遂にはボンッと音を立てて自壊する。使い果たした端末にあららと間の抜けた声を漏らした仮面の男────蒼のカリスマは再び二人に向き直る。

 

「…………さて、あまり時間は掛けたくないので手短に済ませましょう。貴方がラプラスの箱を持ったビスト財団の宗主殿で間違いありませんね」

 

「よもやここで、この段階でお前に出会うとはな。蒼の魔人、蒼のカリスマよ。残念だが箱の中身をお前に託す訳にはいかんぞ」

 

「結構です。そもそも、箱の中身を知る資格は私にはありませんしね。…………まぁ、本音を言うと大体の想像はついていますが」

 

「では、何のためにここへ?」

 

「クロノの秘密…………いえ、ここは敢えてこう訊ねましょうか。ラプラスの箱の底に眠るクロノの教義について、その全てを」

 

仮面の奥に秘められた鋭い眼光、その光を直視した老人は僅かに目を見開いた。

 

 

 

 

 




Q.ボッチの中で今一番油断ならない敵は?
A.1位喜びクソ野郎
2位サイデリアル皇帝
3位ギルター=ベローネ

次回も宜しくボッチノシ

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