『G』の日記   作:アゴン

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今回、ボッチの標的に一名追加。


その139

 

 

 

Δ月Γ日

 

エルガン=ローディック。ビスト財団の宗主であるサイアム=ビストとソレスタルビーイングの創始者であるイオリア=シュヘンベルク、この二人と深い関わりを持つとされる人物。

 

ソレスタルビーイング号、その中枢に存在する量子型演算システムであるヴェーダから拝借した情報は、中々興味深い内容だった。

 

全て説明すると長くなるので諸々省略して大雑把に纏めると、どうやらこのエルガン=ローディック氏はADWが時空振動で多元世界になるよりも前に世界がこうなることを予見し、更に無数の並行世界に存在していた可能性が示唆されているのだ。

 

いわゆる並行世界の同一人物。ドッペルゲンガーやそっくりさんではなく、その世界に於ける個人と同一とされる存在。イオリアの爺さんやサイアム翁と接触をしていたとされるエルガンさんは、世界が異なっていながら同じ存在だったのだろう。

 

だとしてもおかしな話である。仮にその話が本当だとして、どうしてサイアムさんは異なる世界であるイオリアさんの存在や、エルガンさんの事を知る事が出来たのだろう。仮にADWのエルガンさんが事情に詳しくても、それをUCWのエルガンさんやサイアムさんに事情を説明するのは、当時の技術力では結構難しい話ではないだろうか。

 

世界が異なるという事はそこで生きてきた歴史、体験、経験、その全てが違うという事。例え同一の存在だとしても、ADWのエルガンさんとUCWのエルガンさんとでは生きてきた経緯、経験が違う。並行世界の同一人物というのはその人を表す単語であると同時に、別人である事も示している。

 

外面は同じでも中身が違う。そんな彼等が、一体どうやって異なる世界でやり取りを行い、事情や情報を共有出来たのだろうか。自分の持つ情報でこれに照らし合わせられるモノは…………次元力位だろうか。

 

次元力。その名の通り次元に干渉する力を持つとされる万能のエネルギー。この力を自在に制する者は正に神の如く、どんな事象も操れる様になるだろう。その最たる例が時獄戦役で一度は自分も到達した“太極”なる極致だ。

 

エルガン=ローディック、彼も次元力に触れている人間の一人ならば、当時の技術力でも並行世界の自分と交信したり意識を共有していたのかもしれない。もしそうだとするならば、時間や時代を超えて天才達を結び付けることも、全く不可能という事でもないのだろう。

 

サイデリアルや“テンシ”に対抗する為に、並行世界に多数存在する天才や財団の宗主に接触したエルガン氏は彼等を同じ志を持つ同志とし、次元力という力で同一人物であるもう一人の自分と交信しながら、各同志との協力関係を築き上げた。その最たる結晶の一つがメガラニカに秘められたラプラスの箱と、ソレスタルビーイング号の中枢、ヴェーダに眠るクロノの教義なのかもしれない。

 

今思えば、彼等の計画にトレーズさんも一枚噛んでいたのかもしれない。これは推測だが今の地球人類ではサイデリアルやテンシに対抗出来ないと判断し、強制的にでも人類の意識────いや、この場合は自覚か────を芽生えさせる為に、ZEXISの戦いの様を世界に見せ付けたのだろう。

 

多分、あの時トレーズさんが口にした“奴等”というのも、テンシを指していたのだと思う。今更だが、どうしてトレーズさんが生き急いでいたのか少し分かった気がする。

 

振り返って見ると、今回の遠征…………遠征? はかなり上手く行った方だと思う。ビスト財団の宗主に話は聞けたし、ソレスタルビーイング号から得られた情報のお陰で、この世界の事について大分深いところまで知る事が出来た。

 

ラプラスの箱の秘密は勿論、クロノの教義に付いても大体の想像は出来た。そして全てを知った上で自分が今後するべき事だが…………ぶっちゃけ、あまり考えていない。

 

いや、考えていないというよりも考える必要が無いと言う方が正しい。蒼の地球に降り立ち、その後はサイデリアルやそれに連なる勢力を叩き、根源的災厄も潰し、サイデリアルとクロノの裏に潜むテンシなる存在を表舞台に引きずり出す。その為には未だ復活仕切れていないグランゾンの修復が急務だ。

 

そろそろ本格的に自分も戦いに加わるべきだろう。リモネシアの皆も心配だし、戦いの早期終結に向けて動いた方が良いのかもしれない。

 

もうじき地球の重力圏に入る。纏めはそろそろこの辺にして、降下準備に入ろうと思う。場所は元暗黒大陸、カミナシティから100㎞離れた郊外だ。

 

…………ヨーコちゃん、いないよネ?

 

 

 

Δ月δ日

 

────久しぶりに、怒りでプッツンしそうな一日だった。

 

自分が降り立った元暗黒大陸、カミナシティから少し離れた場所に着地した自分は早々にカミナシティへと向かい、大統領であるロシウ君に時獄戦役の直後の大グレン団と超銀河ダイグレンの話を聞く為に大統領府へと赴き…………そこで、信じられない…………いや、信じたくない話を耳にした。

 

サイデリアルの強襲、そこから街の一部を丸ごと人質にするという電撃的攻撃。超銀河ダイグレンが出てこない事から大体の事情は察していたが、その手際の早さには不謹慎ながら感心してしまう程だ。

 

サイデリアルが要求してきたのは当然ながら超銀河ダイグレン、人の命には変えられないとニアちゃんの口添えもあって、サイデリアルに奪われる事になった超銀河ダイグレン。ここまでなら単に奪われたら奪い返せばいいと意気込むだけで済む話だが、サイデリアルの連中は人質を解放する直前、トンでもない事を仕出かしてくれた。

 

スフィアによる感情操作。サイデリアルのある幹部が行った精神攻撃は人質となった街の一部を丸々覆い尽くし、人質となった人達は他の街の人に危害が及ばないよう、街の離れで隔離処置を受けている。

 

その話を聞いて急いで大統領府に訪れた自分は捲し立てる様にロシウ君と再会、秘書であるキノンちゃんとも再会した自分は話もそこそこにして、隔離された人達の所へ案内してもらう事になった。

 

忙しい中、それでも時間を作ってくれたロシウ君に感謝しながら隔離施設へと訪れた自分は、そこで見た光景に愕然とした。

 

スフィアという外部から無理矢理引き出された感情、それは人を廃人に追い詰める程強力で、施設の至る所から人の呻き声が聞こえてくる。まるで地獄と思わせる阿鼻叫喚の中…………俺は苦しむ彼女の姿を見た。

 

キヤルちゃん。黒の兄妹の末っ子である彼女がベッドに横たわり、苦しみ悶えていた。望んでいない感情に苛まされ、周囲に当たり散らさなければ正気を保てない程に呑まれていた彼女を見て、俺は久しぶりに内側から溢れ出てくる激情に内心でだが震えが止まらなかった。

 

激情を表に出さないよう必死に堪えながら、自分は優しく彼女に呼び掛けた。久しぶりと、出来るだけ明るく振る舞いながら声を掛けた。キヤルちゃんも最初はロシウ君達と同様に驚きもしたが、次の瞬間には久しぶりと健気に返事を返してくれた。

 

本当なら聞きたい事はいっぱいある癖に、苦しくて仕方がない癖に、それでも懸命に笑って自分を気遣ってくれるキヤルちゃんに、自分は情けなくも嬉しくなってしまった。

 

自分という意外な人物と話せた事で一瞬落ち着いた様に見えたキヤルちゃん、しかし突発的に発生する感情の発作に自身での抑制が効かず、遂にキヤルちゃんは他の患者と同様に暴れてしまう。

 

現在、隔離施設は慢性的に医者が足りていない。鎮静剤も患者を押さえ付ける看護師の人達も足りない状況、不躾だとは思ったが、この時は自分がキヤルちゃんを抑え込む役目を担う事になった。

 

抱き締めて、落ち着けと呼び掛けても暴れ続けるキヤルちゃん。爪を立てて自分に突き刺し、歯で噛み付いてくる彼女にそれでも落ち着くことを願って自分は抑え込んだが、次第に爪が捲れても、歯が折れそうになっても暴れ続けるキヤルちゃんが遂に見ていられなくなり、当て身をして強制的に意識を奪い取った。

 

胸に沸き上がる感情を圧し殺しながら、ロシウ君にキヤルちゃん達をこんな事にした奴の名を聞いた自分は、ソイツの名前を絶対に忘れないよう何度も反芻して脳裏に刻み込み、カミナシティを後にした。

 

現在、大グレン団の人達はそのスフィアリアクターを見つけ、倒すために、アチコチを転々としているらしい。だからヨーコちゃんに会うこともなかったのかと納得する反面、少し安堵した。

 

今の自分の顔はとてもじゃないが人に見せられるモノではない。シモン君達には早い所Z-BLUEに合流して欲しいから、奴の探索は後にしてほしい所だ。

 

…………バルビエル。怨嗟の魔蠍だが何だか知らないが、あまり図に乗るなよ。お前の機体と声は既に知っている。次に面と向かって会う事があるならば、容赦なくその顔面に俺の拳を叩き込んでやる。

 

と、決意を新たにしたところで今日の日記は終わることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンね、シュウジ…………ゴメン…………ね」

 

首筋に手刀を当てられ、眠るように意識を手放したキヤル。爪が捲れ、血が滴り落ちる彼女の手に優しく、丁寧な応急処置を施したシュウジは昂る感情を抑えながら、背後に立つロシウに声を掛けた。

 

「…………誰だ」

 

「え?」

 

「キヤルちゃんを、ここにいる皆をこんな事にした奴、ソイツの名前はなんだ」

 

本人は落ち着いているつもりかもしれない。感情に流されぬよう理性を保っているつもりなのかもしれない。事実、彼は表面上は落ち着き払っていた。

 

しかし、その能面の様な表情から滲み出る怒りの炎に当てられたロシウは息を呑み、心底畏れ、そして確信する。

 

魔人蒼のカリスマ────健在と。

 

 

 

 




ボッチ視点
「バルビエルゆるすまじ」

ロシウ&キノン視点
ボッチ「臭い臭い臭い臭いゴミがゴミがゴミがゴミがゴミがゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

大体こんな温度差

次回もまた見てボッチノシ

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